バレンタイン&ホワイトデーSS 2016

紅い教室と青い春

 放課後の教室には、たった一人を除いて誰もいない。
 その一人であるところの円 善司(CL2000727)は夕暮れの校庭を窓から見下ろしつつ、ある人を待っていた。
 二月十四日、異性からの呼び出し――真っ当な男子が意識しないわけがない。
 それでも彼は、努めて平静を装っている。
 ――扉の開く音。
 見れば、『二兎の救い手』明石 ミュエル(CL2000172)が教室の入口に立っていた。
 いつの間にかさらに陽は傾き、教室全体が燃えるような橙に染まっている。
「ごめん、待たせちゃったかな……円くん」
「いや……別に……」
 つい、ぶっきらぼうな言葉が善司の口を突いた。
 ミュエルが窓辺まで歩いてくる時間が、いやに長く感じる。
「あのね、円くん。呼び出した理由は、もう分かってるかもしれないけど……」
 ずっと背中に回していた手を、ミュエルはようやく身体の前に回した。
 その手には――リボンで飾られた、薄い直方体の箱。
「これ、受け取ってください。ほ……本……」
 顔を俯かせ、ミュエルは精一杯に言葉を絞り出す。
「……本命、です」
 紅に染まった教室の中でも、彼女の頬が赤く染まっているのが分かった。
「おう……ありがと、な」
 照れ隠しのためだろうか、無意識のうちに片手を首へ回し、善司はもう一方の手でチョコを受け取る。
 瞬間、ミュエルの顔に満面の笑みが弾けた。
 ――“友達以上恋人未満”。
 前四つ、後ろ二つの余分な文字が外れたかどうかは、二人と夕陽だけが知っている。

●発注キャラクター●
明石 ミュエル(CL2000172)
円 善司(CL2000727)
担当ST:さくらもみじ
イラスト:櫻ゆうか

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