薔薇の咲く不思議な庭でバレンタイン・パーティ。
　白いクロスをかけたテーブルの上には、マシュマロをクッキーではさんでチョコレートで包んだムーンパイから、滑らかな舌触りのトリュフまでずらりと並んでいます。
「お飲み物をお注ぎいたしましょう」
「ありがとう」
　赤の女王さまこと迷家・唯音に軽く腰を折って会釈すると、時計ウサギこと工藤・奏空は差し出された陶磁のカップにほんのりバラの香りがする紅茶を注ぎ入れました。
「美味しいチョコレートをいっぱい用意したよ。みんな楽しんでね」
　女王さまの挨拶も無事すんで、さあ、楽しいパーティの始まりです。
　だけど……。
　トランプの陰に、珍しく不機嫌なチャシャネコの姿が。
（「にゃー抜きでパーティ、ゆるせないにゃん」）
　あらあら、うっかりパーティの招待状を出し忘れていた？
　いいえ、それは違います。
　猫にチョコレートは毒。それを知っていたふたりはパーティのことを内緒にしていたのでした。
「――と思ったけど、やっぱり可哀想だしね」
　そういってウサギの耳を揺らした奏空に微笑むと、唯音は優雅にうしろを振り返りました。
「出ておいで。ツナ缶もあるよ。一緒にパーティを楽しもう♪」