俺様でモテ男の一色・満月と、ほんわか天然少女の赤鈴 いばらは、友達以上恋人未満の関係？
　あと一歩を踏み出すために、映画に行ったり買い物に行ったりしているけれど、それ以上の関係になかなか進まない。今のままがイヤと言うわけじゃないけれど、時々もどかしく感じることがある。
　いつものようにふたりで街に買い物に出てお茶したあと、ぶらりと公園に立ち寄った。木のベンチを見つけ、並んで腰掛ける。
　さて、本日はバレンタインデーである。
　ふたりの関係を次に進めるとすれば、今日ほどきっかけづくりに相応しい日はないだろう。
「バレンタインか、チョコくれ、いばら」
「いいですよ！」
いばらはチョコ菓子を口にくわえたまま、満月のために箱の中から一本取ろうとしてうつむいた。
「こっちの方がいいな」
満月はいばらの顎の下に指をあてると軽く持ち上げた。向けられた大きな瞳をまっすぐ覗きこんだまま、チョコ菓子の先端にかじりつく。
少しずつ、少しずつ近づいていく互いの鼻先。
無自覚のまま、いばらの頬もうっすら桜色に染まっていく。
　ちょこんと鼻先が触れあった瞬間、乾いた音をたててチョコ菓子が折れた。
「なんだかお顔が近いですねっ！　美味しいです！」
「いつもより数段美味いな、よきかなー」

　ま、しばらくは今のままでいいか。