クリスマスSS 2015

中等部のクリスマス会!

 友人達が集まり準備が始まると、たちまち学校の教室は様変わりしてゆく。
 集められた机の上にはふわり赤いクロスを被せて、大きなパーティテーブルに。
 色とりどりのチョークで黒板へと書かれた『Merry X'mas』
 その周りには、可愛いらくがき達。
 天井から四方の壁に渡されたモール、リボンにボール、星で教室中飾りつければ、まるでそれ自体が巨大なクリスマスツリーのよう。
 本物のツリーの上には、雪だるまも乗って。
 楽しいクリスマスパーティが始まった。
「パーティと言や!」
 これだよな! と真っ赤なお鼻のトナカイ――鹿ノ島・遥は、2個のクラッカーを威勢よく鳴らす。
 大きな音と共に高く上がったキラテープと紙片を浴びながら、猫耳フードの向日葵 御菓子は「綺麗!」と喜んだ。
「わたしも」
 2つを同時には無理だったが、両手に持ったクラッカーをパンパーンッ! と勢い良く鳴らしてゆく。
 やったな! と2人笑顔でハイタッチして。
 御菓子の赤い袖が、楽しそうに揺れた。
「見たまえ、フワフワと浮き上がっている。……あのボール、何かあると思わないかね」
 黒板の前では、インパネスコートに鼻眼鏡、頭にはパーティ帽を被った工藤・奏空が何やら迷演技を披露していた。
 フヨヨ~、と。ふきあげパイプのボールを浮き上がらせている。
「何だって。こんなにフワフワと浮くボールを頭にぶつけて死んだんじゃないかって? それじゃあ豆腐の角に頭をぶつけても死ねるじゃないか!」
 衝撃的なシーンであったようで、ガガーンッ! と。奏空がショックを受けたように上体を仰け反らせた。
「それがこの、『クリスマス殺人事件』の真相だとでも言うのか……」
 料理を運びながら、「どんなストーリーなんだろう」と守衛野 鈴鳴が奏空に視線を向ける。
 皆を見れば、テーブルに並べられてゆくご馳走に夢中なようで、彼のコントの観客は残念ながらいなさそうだ。
 ご馳走の中でも絶大な存在感を誇るのは、3段重ねのクリスマスケーキ。
 頭にはパーティ帽、左胸には可愛らしいヒイラギのブローチを付けた賀茂 たまきが、ケーキへと飾り付けの真っ最中。
「もうすぐ出来ますからねー」
 ホイップを搾り出しながらの言葉には、皆が「はーい!」と元気よく返事した。
 だがその内の1人。御影・きせきは、はーい! と上げた手をそのままケーキへと近づけていく。
 どうやら完成を待ちきれない、食いしん坊なトナカイであったようだ。こちらを見ている鈴鳴に気付き、「しー」と唇へと立てた人差し指をあてる。
 その笑顔がはしゃぐ子供そのままで、「もう、しょうがないな」と鈴鳴は苦笑を浮かべた。
 あれ? でも待って。
 このままだと、折角たまきちゃんがきれいにデコレーションしてくれてるケーキが台無しになっちゃうのでは……!
 止めた方がいいかと悩んでいれば、きせきの指先がクリームに付く寸前、たまきが気付いた。
「きーせーきーさーん」
 こら、と言うように軽く睨んでいるが、その口許は笑っている。
「あと少しだから待って下さいねっと」
 きせきの鼻のてっ辺へとクリームが搾り出され、トナカイは白いお鼻を指先で掬ってペロリ。
「あま~!」
 くて美味い! と笑うきせきに、たまきと鈴鳴も顔を見合わせ笑った。
「これで運ぶお料理は最後ですよ」
 ミニスカサンタ姿の菊坂 結鹿が運んできたのは、ダチョウかってくらい大きな鶏の丸焼き。
 テーブルの上へと置けば、どどーん! と。ケーキに負けない程の存在感だ。
「おお~っ!!」
 両手にナイフとフォークを持ち料理が揃うのを待っていた京極 千晶は、一気にテンションが上がる。
「食べきれるかなぁー」
 そう言いながらも、千晶のキラッキラの笑顔はピザもクッキーも、並ぶご馳走は皆で全て食べきる気満々。
 ふふっと笑って。
 はいどーぞ、とばかりに結鹿が両手で鶏の丸焼きを示せば、飛び上がらんばかりに喜んでミニスカのサンタ服を揺らした。
「あ、ジュースを……」
 注ごうと思った鈴鳴の呟きに、「はいはーい! オレがやりまーっす!」と遥が元気に挙手をする。
 遥が注いでいくジュースを、御菓子が配っていった。
「皆、普段は色々辛い事や大変な時もあるけど、今日は楽しもうね」
 鼻眼鏡を取ってコップを持った奏空に、全員が笑顔で頷く。
「それで明日からもみんなまた、頑張ってくんだよね」
 肩を竦めるように笑って、きせきもコップを手に取った。
「美味しいお菓子にお料理、甘いケーキもありますから」
「沢山食べて、英気を養いましょう!」
 たまきと鈴鳴の言葉に千晶も「おー!」と拳を上げ、隣の結鹿がクスクス笑う。
「では皆さん、コップを掲げてね」
 授業の時と同じ通る声で言った御菓子の隣で、遥が「乾杯しようぜ!」と絆創膏の貼られた顔で笑った。

「メリー・クリスマス!!」

 全員の元気な声が重なって。再びクラッカーの音が響いた。
「今度こそ、どうぞ召し上がれ」
 結鹿の声に、「待ってました」と千晶がフォークとナイフを鶏に刺す。
 ――すごく幸せ!
 それは、今この場にいる8人全員の言葉であろう。


 欠伸混じりに聞く授業。苦手な試験。休み時間の笑い声。
 普段見慣れた教室は、

 今日ばかりは特別な空間となった。


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