クリスマスSS 2015

純喫茶()

 世間はすっかりクリスマスカラー一色。そうとなれば、いかに純喫茶といえど、その世間の潮流に抗い続けるのはいかがなものか。そんな提案が為され、マスターもそれを許可した結果、『九曜紋』は俄にクリスマス気分となった。
 ……と、そこまではよかった。実際、飾り付けも程よいものであって、元からあった落ち着いた空気を完全に壊してしまうものではない。しかし。
「当方に聖夜の用意あり! であります!」
 店員、アキラは笑顔だった。それはもう、満面の笑みで、大いにはしゃいでいた。具体的に言えば、その豊満な肢体をミニスカサンタ衣装に包んでいたのだ。最早、純喫茶の空気が崩れるなどという騒ぎではない。普通の飲食店としても、明らかにやり過ぎだった。
「て、店長…! なな何で止めなかったんですか…!?」
 一方、申し訳程度にサンタの帽子を被っただけの治子はアキラの姿を見て、思わずマスターに駆け寄った。
 純喫茶。そう、ここは純喫茶のはずだ。それなのに、これでは何やらいかがしいお店に見える。確実に、見えてしまう……!
「着替え室の女性を覗けと?」
 マスター、之光はあくまで冷静に答える。ちなみに彼の頭にはトナカイの角つきカチューシャがあるのだが、彼自身はそれを話題にしようともしない。ただただ、頭の上でトナカイの角が可愛らしく揺れている。
「ですけど、ですけども!」
「さあ、営業を始めますよ。筍さんも早く持ち場に戻ってください。後、念の為に犬童さんの動向には気をつけてくださいね。――これだけのことをしたのです、相応の売上を出さなければ」
 之光は諦めの表情でカップを磨き、治子は言いつけを守ってアキラを遠目に監視し、当のアキラは。
「メリークリスマース!! クリスマス限定メニューもあるであります! オススメでありますよ!」
 最初にやってきたお客に対し、はしゃぐ子犬のように駆け寄り、笑顔を爆発させていた。


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