クリスマスSS 2015
もう少し近くで
遠くから聞こえてくる賑やかなクリスマスソングに足取りを合わせ、炫矢と玻璃は買い物を楽しんでいた。
――あ、と。ふと見上げる空には雪がちらつき、それは街中のイルミネーションに溶けるように、静かに儚く吸い込まれていく。
そんな中ちょっと休憩とばかりに、ふたりが座ったのは木製のベンチ。その後ろでは、鮮やかに飾り付けられたクリスマスツリーが、ちかちかと色とりどりの光を投げかけていた。
さて、買い物袋をベンチに置いた炫矢は玻璃の隣に腰掛け、寒そうにしながらも此方の顔色を窺う彼女の――その艶やかな黒髪をそっと撫でた。
「――、――」
少し顔を赤くして、照れくさく笑う炫矢は何を呟いたのだろう。そんな彼を上目遣いに見上げる玻璃は、撫でられると言う行為自体に慣れていないようで――少しだけびくんと身を固くしたけれど。
しかし、相手が心を許せる炫矢で、その手がとても優しかったから――彼女は大人しく、その身を彼に委ねていた。
「――……」
やがて、意を決したように玻璃が唇を開いた。街の喧騒に紛れて、その声は隣に居る彼にしか聞こえなかっただろうが、彼女はきっとこう言った筈だ。
――もう少し、近くで。ふたりを見守るのは、玻璃のコートのポケットから飛び出した、可愛らしい黒猫のぬいぐるみ。
これはそんな彼が見た、或るクリスマスの夜のお話。
――あ、と。ふと見上げる空には雪がちらつき、それは街中のイルミネーションに溶けるように、静かに儚く吸い込まれていく。
そんな中ちょっと休憩とばかりに、ふたりが座ったのは木製のベンチ。その後ろでは、鮮やかに飾り付けられたクリスマスツリーが、ちかちかと色とりどりの光を投げかけていた。
さて、買い物袋をベンチに置いた炫矢は玻璃の隣に腰掛け、寒そうにしながらも此方の顔色を窺う彼女の――その艶やかな黒髪をそっと撫でた。
「――、――」
少し顔を赤くして、照れくさく笑う炫矢は何を呟いたのだろう。そんな彼を上目遣いに見上げる玻璃は、撫でられると言う行為自体に慣れていないようで――少しだけびくんと身を固くしたけれど。
しかし、相手が心を許せる炫矢で、その手がとても優しかったから――彼女は大人しく、その身を彼に委ねていた。
「――……」
やがて、意を決したように玻璃が唇を開いた。街の喧騒に紛れて、その声は隣に居る彼にしか聞こえなかっただろうが、彼女はきっとこう言った筈だ。
――もう少し、近くで。ふたりを見守るのは、玻璃のコートのポケットから飛び出した、可愛らしい黒猫のぬいぐるみ。
これはそんな彼が見た、或るクリスマスの夜のお話。
