ひらり、はらりと夜空に雪が舞う。
「こっちにも雪は降るんだべなぁ……」
　故郷を離れ、もう三年目の冬だ。雪はたまにちらつく程度で滅多に積もることもないが、白い羽のように舞い降りてきて、地面で消える雪は故郷を思い出させる。
　クリスマスの街の中を、様々な人々が歩いて行く。大学生ぐらいのカップル、仕事帰りのサラリーマン、そして小さな子どもを連れた親子……宣伝のためのプラカードを掲げながらもそれを目で追えば、自然と自分のかつての姿と重なった。
　故郷を離れてこちらに来てから、結局家族とは会えていない。クリスマスの、こんな特別な日だって自分は一人だった。
「きゃっ！」
「うわっ、と。大丈夫？」
　突然、恵太の腰ほどの身長しかない女の子がぶつかってきた。
「う、うん、だいじょうぶ！　サンタのおにいちゃん！」
　きちんと頭を下げてから去っていく、行儀の良い子だった。
　その後ろ姿を見送っていると、なぜだか故郷を離れる前に自分が取り上げた子牛、エミリーの姿が思い出された。結局、あの子の姿もあれから見れてはいない。
「身も心もしばれるでや。……でも、ふんばるぞ！」
　しっかりと勉強をし、故郷に帰ってその知識を役立てるためにも、今の生活をがんばろう。恵太はそう思ってプラカードを握る手に力をこめた。