F.i.V.E.懇親会



 『こもれび』はF.i.V.E.ラウンジに併設された談話室である。
 今日は二十四時間大開放の懇親会が開かれていた。
 いつもは大学の学食なみの安くて美味い食堂だった場所が一変し、オシャレな立食ビュッフェスタイルに整っていた。
 そんな会場を見回して、朝霧蓮華之宮 水無月姫(CL2000829)はゆるく腕を組んだ。
「賑やかじゃのう。これからいくつもの戦場を共にすることになる者たちと親睦を深める……か。いや、今はただ宴を楽しむとしよう」
「マルさんなにをじっと見てんです? ダメですからね、食べちゃだめですからね?」
 守護使役を掴んで引っ張る兎月 セラフィノ(CL2000018)。
「……それにしても、人が沢山ですね。僕以外にもこんなに集められたんでしょうか」
「それくらい組織に力があるってことよね。それを見せつけようって気概もある、と。どっちにしても私が成り上がるには相応しい組織だわ!」
 那須川・夏実(CL2000197)はふふーんと鼻を鳴らすと、ニヒルにストローをくわえた。途中でくるくるねじれるやつである。ハート型にちゅるちゅる登っていくオレンジジュース。
「さて、ショーライユーボーな覚者に顔つなぎしとかな、い、と、っとと……!」
 傾いたお皿のバランスをとりながらよたよた歩いて行く……と。
「あっ、わっ、ど、どいてください~!?」
 前髪ちゃんもとい神室・祇澄(CL2000017)が両手にお皿乗っけたまま奇跡的なバランスで突っ込んできた。
「わ~!」
「にゃ~!」
 何がどうなったのか知らんがもつれ合ってごろごろ転がっていく二人。
 だというのに祇澄は奇跡的な無傷でむっくりと起き上がった。
「あうぅ、またやってしまいましたあ……」
 とはいえそこは鍛え抜かれた覚者たちの集いである、全員が全員見事に彼女のローリングタックル(無意識)を料理ごと回避していた。
 太刀風 紅刃(CL2000191)もそのひとり。大皿を片手に持ち、自分用に山盛りにした皿をもう一方の手に持って振り返った。
「賑やかな場所だ。いまひとつ落ち着かん、が……たまにはこういう雰囲気も悪くないかもな」
「それより、すごい音したけど大丈夫か?」
「死にはすまい」
「だろうけどよ……」
 同じように料理を避難させていた伊賀崎 雲雀(CL2000646)が、元のテーブルに大皿を置いた。
「それにしてもうんめー!」
 トラブルのことはすぐに忘れてむしゃむしゃ料理を食い始める雲雀の手が、別の誰かの手とふれあった。
 恋の始まり……ではない。
 諏訪 刀嗣(CL2000002)が顔を上げ、獣みたいな目でカッとにらみ合う。
 かと思えばスムーズに同じマンガ肉を手にとって、刀嗣はそれにかじりついた。
「組織運営をするにしても、金があるところにはあるんだな。まだ敵と戦えねえのが不満だったが……ここにも『ご馳走』はいそうだな」
「ええ、本当に豪勢なご馳走ですね」
 噛み合っているのかいないのかわからないことを言って料理を皿に盛りつける神城 アニス(CL2000023)。
「できればお兄様とご一緒したかったのですが……」
「秘密の組織だから、仕方ない」
 料理をもぐもぐする雲雀 明夜(CL2000792)。
「仕方ありませんわね」
 ふうと息をつくアニス。
「ではもう少し楽しんでいきましょうか」
「いや、帰る」
 明夜が何かトラブルに巻き込まれる前にと空になったお皿を持って立ち去ろうとする……が、その途中でテーブルの柱に躓いた。
「!?」
 奇跡的にひっくりかえる明夜。一斉に大皿を避難させるアニスたち。

 『こもれび』の立食会場は広い。どのくらい広いかっていうとそこら中でドジッ子たちが奇跡的な転倒を繰り返しても特に困らないくらいに広い。
 その一角で、藤城・巌(CL2000073)はずらりと並んだアメリカンな料理コーナーをじっと観察していた。それを遠くから笑顔で見つめるファル・ラリス(CL2000151)。
「ふうむ、こうも贅をこらした料理が並ぶとは……さすがはF.i.V.E。大規模組織と言うことか」
「いや、確かに高級な料理は多いけど、それフライドポテトだぜ?」
 そこへ三間坂 雪緒(CL2000412)が近づいてきた。
「高級れすとらんで出される食べ物だな?」
「ファーストフード店で出る食べ物だよ」
「なるほど、いかにも高級そうな名前ですな」
「そうかな……」
 小首を傾げる雪緒をよしにうむむと唸る巌。遠くから笑顔で見つめるファル。
 暫く色々な料理を観察していたが、ふと天之尾 涼羽(CL2000566)の皿の前で立ち止まった。
「これは……!」
 効果線バリバリの顔で目を見開く巌。
 涼羽の皿に顔を近づけ、眉間に深く皺を寄せた。笑顔のファル。
「な、なに?」
「このまか不思議な黄色い食材は一体何であろう……希少食材か……さすがはF.i.V.Eというべきであろうか」
「い、いや、酢豚のパイナップルはそんなに珍しいものじゃないよ? うちの実家近くにもそのくらいあったし」
「ぱい……あっぷる……?」
「しらないの!?」
 そこへ繕居 衣(CL2000048)が両手にこんもり料理を盛りつけてやってきた。見切れるファル。
「いやー人がいっぱい料理がいっぱい! 前途洋々じゃねーですかこれは! あ、そこにおわすは山盛りのフライドポテト! では早速――!」
「その真っ白い餡は一体!?」
 衣の更に乗ったミルクレープに顔を近づける巌。
「ど、どわー!」
 その拍子に頭と頭がごっつんこ。衣はもんどりうって転倒した。笑顔のファル。
 まあそんなもんだから、いかに広い会場と言えども人とはぐれることもある。
「あかりちゃん? あの子ぉはもー、見失ってもた」
 葛葉・かがり(CL2000737)はきょろきょろしながら会場を歩いていた。
「なああかりちゃん知らん? このくらいのコなんやけど」
 かがりはジア・朱汰院(CL2000340)の前で立ち止まると、背丈を手で示しながら問いかけた。
「いや、見てないな」
「そか。まあ誰かが知らせにきてくれるやろ。それまでおうどんでも食べとこ。メニューある?」
「おう」
 ジアが手渡したメニューには、なんかひたっすら卵メニューが書かれていた。
「……なんやこれ」
「間違えた。きっとどっかの卵マニアが作ったんだろ。うどんはこっちな」
「ほいほいじゃあ四つ!」
「多いだろ! せめて二つだろ!」
「そか? たしかになあ……」
 などと言いながらおうどんずるずるしていると、隣で同じようにおうどん啜っていた多々良 宗助(CL2000711)と目が合った。
 傍らに五個ほど空のお椀が積まれている。
「おう、ここの料理美味いよな! F.i.V.Eに来てホントよかったぜ」
「……せやな!」
 かがりはぐっと拳を握って、おうどんを二つ追加した。

 あーんと口を開ける白枝 遥(CL2000500)。
 ビーフシチューを口に含んで、うっとりと目を瞑った。
「んーおいしい。どんなレシピなのかな。ほらユウちゃんも食べて食べて」
「俺のことはいいから食べなよ、ハル」
 勝手にどんどん盛られていくお皿を手に、黒桐 夕樹(CL2000163)は周囲を見回した。
「それにしても、本当に人が多いね。それに、雰囲気もいいみたいだ」
 祇澄や明夜たちがひっくり返ったりおかしな行動に出るコがいたりしても場が保たれているのが、この組織のありようを表わしているように見える。
 夕樹は放っておけばタワーになりかねないお皿を遥から遠ざけ、手で牽制しながら振り返った。
 見ると遥が料理のメモをとっている。
「熱心だなあ。今は食べておきなよ、夜にお腹すくよ」
「ショウガとネギと……え、なあにユウちゃん。もっと唐揚げいる?」
「いらない」
 その一方。スイーツコーナーではまた独特な賑わいが起こっていた。
「ほう、アップルパイか。いいねえ、俺の大好物さ」
 ハル・マッキントッシュ(CL2000504)はナプキンに包んだあつあつのアップルパイを手に取ると、カメラ目線(ないけど)でスマイルした。
「んー、このパイは世界一かって? いや、真の世界一は僕のマム……いやおふくろが焼いたアップルパイさ! ヒューウ!」
 親指で自分の胸をさして2カメ目線(ないけど)でスマイルするハル。そんな彼の肩を、切金・菖蒲(CL2000272)がぽんと叩いた。
 今から何をするつもりなのか、スコップと三味線を抱え持っている。
「余興のステージはあっちだぞ」
「余興じゃないよ!?」
 ってなやりとりを無視し、鼎 飛鳥(CL2000093)や七墜 昨良(CL2000077)たちがスイーツコーナーできゃっきゃしていた。
「えっと~、抹茶パフェと~、抹茶ソフトと~、抹茶アイスと~……うー、どっちから食べるか迷うのよ!」
「折角のタダ飯だからってそんなに贅沢しなくても……ま、いいか。甘いの好きだし、デザートを山盛りで貰おうかな」
 バブル時代のキャバレーみたいなフルーツ盛りを作り出す昨良。
 環 大和(CL2000477)はそれを横目に、ティラミスを穴が空くほど凝視していた。
「どうしたの? 食べないの?」
「……食べたいけど、お肌が……そして体重が……」
「あすかは三つ同時にぱくぱくすることにしたのよ! あーん!」
 パフェやアイスをトレーに乗せて順番にぱくぱくやっていく飛鳥。
 二人はそれを横目にしつつ。
「……じゃあ、二個まで」
 震える手でVサインを出した。
 彼女たちの後ろを通り過ぎる鯨塚 百(CL2000332)。
 スイーツコーナーのケーキやパフェを片っ端からお皿に取っていく。
「全部食べ放題か、すげえな。田舎じゃ見たこと無い料理がいっぱいだべ……それにみんな堂々としてて、村じゃ考えられないべ」
「驚いてる場合じゃないぜ、今から食いだめしとかねーと! ほらこれ!」
 たまたま一緒になった青柳 愁斗(CL2000836)が別の所から料理を持ってきた。
「なんだべこれ。エビかぁ?」
「赤いのついてるな。ケチャップかなんかだろ」
「くってみればわかるべ!」
「それな!」
 二人でせーのであーんぱく。
 飯原 春哉(CL2000123)がそこへ通りかかり。
「おや、それはタイ料理ですね。特別辛いと評判の」
「辛い? 全然そんなことな…………はうあ!?」
 後から来た辛さに悶絶する百。
「み、みず……!」
「落ち着いて。からいものには牛乳ですよ」
 ひからびそうになった百にアイスミルクを差し出す春哉。
 百と愁斗は肩を組んで牛乳に相談した。
 そんな彼らの様子を、梅崎 冥夜(CL2000789)が穏やかに笑って見つめていた。
「賑やかだねェ。せめて事前に言ってもらえれば衣装のひとつでも用意したものを、ああ残念だ残念だ」
 などと言いながらお皿に前衛的な盛り方をしていく冥夜。
 躑躅森 総一郎(CL2000878)がげっそりとした顔で皿を覗いた。
「なんですか、その盛り方は……全ての食材が美味しくなさそうに見える」
「何を言っているんだい。パーティー料理とは贅沢を味わう料理。贅沢に相応しいデザインがある、そうは思わないかねきみ」
「えっ」
 自分の服をつまんだり叩いたりしていた美錠 紅(CL2000176)がはっとして振り返った。
「急にそんなことを言われても……え、なにこれ、あんなに美味しそうだった料理が大変なことに」
「でしょう?」
 味方が出来て安心する総一郎である。
 そこへ、白金 真白(CL2000082)がリズミカルな歩調で通りかかった。
 ごく一部でマイクロさんとか呼ばれている彼女だが、普段着は安心のシャツルックである。
「おやそこの君、このデザインスイーツを見てどう思う?」
「え、やだ……なにこれ……」
「諦めましょう梅崎さん」
「うーん、時代が早すぎたのかな」
 などと、めげずに新しい盛りつけを始める冥夜。
 総一郎は彼のことは一旦置いておいて、自分の食事に集中することにした。
「えっと白金さん? 美味しそうなものがあったら教えてほしいのですが……」
「あー、それならさっきの……」
 と言って二人でスイーツコーナーを振り返ると、椿 雪丸(CL2000404)がやたら高そうなケーキをがつがついっていた。
「……なんだよオイ」
「いや……」
「デザートはいっそのこと先に食っちまったほうがいいぞ。入らなくなるからな。しょっぱいものと甘いものは交互に欲しくなるっていうし。な!」
「あ、ああ……うん……」
 すごく曖昧に頷く甕布津 耀(CL2000458)。耀の手にはフライドポテトが大皿ごとのっていた。
「ほ、本当にこんな取り方をしていいのか? 怒られないのか?」
「前に食べ放題の店でやってる奴を見た」
「それはまた豪快な人ですね」
「大食い大会のテレビ番組だった」
「それはまた……」
 突っ込みを入れても失礼っぽいので、笑顔でスルーしておく総一郎。
 スルーついでに視線を移すと、ディスティン ミルディア(CL2000758)がシェイカーをしゃかしゃかしていた。目が合った。
「あっ、ひとついる? カクテル作らせて貰ってるの。ノンアルコールだけどねー」
「そうですか……では、一杯」
「おっけー」
 踊るようなリズムでしゃかしゃかやるディスティン。
 時間は穏やかに、しかし弾むように過ぎていく。


 『こもれび』の窓から差し込む夕日。
 筍 治子(CL2000135)は横顔を茜色に染めながら、空のグラスを両手で包むように持っていた。
「こここ懇親会なんだから話しかけにいいいいかなきゃでででもわたしなんかが話しかけてううううっとうしいだけなんじゃそうよ私みたいなくずを視界に入れた人が怒ってるに違いないんだわ謝らなきゃ謝らなきゃああああの人がこっちを見てる怒ってるんだ怒ってるんだわどうしようどうし――」
 ガタガタ震える治子を、納屋 タヱ子(CL2000019)が心配そうに見つめていた。
「あの人大丈夫でしょうか。顔色が悪いようですけど……私のように学園の人たちに混ざりにくいんでしょうか。それにあの人も」
 ちらりと泉舟庵 小璃栖(CL2000469)の方を見る。
「あ、あの眼鏡の人がこっちを見た。話しかけてくれ……ない、か。気のせいだったかな。誰か話しかけてくれないかな……もう帰りたい……」
「なんだかじめじめしてきましたね……」
 闇の深そうな子らに挟まれて軽く身震いするタヱ子。
 一縷の望みをかけて別の人に話しかけようと手を翳す……と。
 武蔵ヶ辻 かえで(CL2000005)が壁に寄りかかったまま悲しげに笑った。
「のんきなものね。これが私たちの戦い、その始まりを告げる鐘だというのに……もう、戻れない、戻らない、歯車は回り始めてしまった」
 眼鏡がぎらりと夕日を反射した。
 こっちはこっちでとんでもなくシリアスな空気を出していた。
 タヱ子は遠い空を見て、グラスを小さく傾けた。

 治子たちのように高次元なコミュニケーションを図るコらばかりではない。五麟学園の仲間たちと和気藹々とやってるところもちゃんとあった。
「ほらこっちこっち!」
 守衛野 鈴鳴(CL2000222)は手を振って同年代の仲間たちを呼んだ。
「実はちょっと緊張していたんですけど、いい人ばかりで安心しました」
「分かるわあ。こういう場は一人だと浮いてまうしな」
 制服の裾を伸ばす榊原 時雨(CL2000418)。
「いえ、そういう意味ではないのですけど……まあ、今日はいっぱい食べていっぱいお話しましょう!」
「な! うちもごはんごはん!」
 中華料理のコーナーから手当たり次第に取り分けつつ、時雨は周囲をうかがった。
「他にも中等部のコら来てるんやろか」
「探してみましょうか?」
「折角やしなあ」
 頷き会って歩き出す二人。
 するとすぐに、お互いの制服を見せ合ってきゃっきゃしている二人組を発見した。
 サーシャ S サフィレット(CL2000226)とクー・ルルーヴ(CL2000403)である。
「あら皆さん、今日はメイド服じゃないんですね」
「折角だからね!」
「客側で参加するということなので……」
 さっきはきゃっきゃしてるなどと言ったが、実際きゃっきゃ言ってるのはサーシャ一人である。クーは名前通りなのかなんなのか、クールに料理の盛りつけなぞしている。しかも自分の分では無くサーシャの分をだ。
「ありがとクーちゃん! あのね、ボク、クーちゃんとトモダチになったの。えへへー」
 頬に手を当ててくるくるするサーシャ。
 クーもほんのり頬を赤らめていた。ぱちんと手を合わせる鈴鳴。
「素晴らしいです! お友達! 私も……その、なりたいな?」
「はうっ」
 なんだかほんわかした空気になってきた。時雨が呼吸する先を求めて振り返ると、そこに。
「なんだか楽しそうだね。私も入っていいかな?」
「こういう時って、なにを言えばいいかいまいちわからないのですが……友達って、どうやって作ればいいかわからない、から」
 おずおずと入ってくる柳 燐花(CL2000695)と、ぴょんぴょんした雰囲気の楠瀬 ことこ(CL2000498)がいた。
「作り方なんてないよ」
「でも……」
「じゃあ自己紹介! 楠瀬ことこっていいます。名前はひらがななの」
「えっと、柳 燐花、です」
 てれてれしながら仲良しサインを出し合う二人。
 時雨がふむふむと頷いていると、横にワイングラスを持ったルナ・エンフィールド(CL2000817)が立っていた。ちなみに中身はワインではない。
「老若男女多彩なメンツね。戦争の兵隊になるなら誰でもお構いなしってことかしら。節操のないこと」
「せやろか」
「私はガイジンだから日本の事情なんて知ったことじゃないけど」
「せやな」
「非戦主義のくせに世界一物騒って、妙な国よね」
「せやで」
「なによさっきから」
「いや、相づちくらい必要やと思って」
「だからっていい加減な相づちを打たなくてもいいじゃない……もう、とにかく楽しませてもらうとするわ。美味しそうなのがいっぱい並んでるし」
「せやかて」
「もういいからっ」
 ……とまあ、仲良しグループもちょいちょい出来ているようで、そこかしこで小さなグループができあがっていた。
「懇親会ねえ……知り合い増やすのにいい機会だし美味しいものも食えるし一石二鳥って感――うわ!」
 香月 凜音(CL2000495)の背後に走る衝撃!
 アンブッシュだ! ……ではない。
 凜音は絶妙なバランス感覚で転倒を防ぐと、後ろからぶつかってきた相手を素早く抱え上げた。
 がばっと顔を上げる神楽坂 椿花(CL2000059)。
「パーティー来てたんだ! 椿花が一緒にいてあげるんだぞ!」
「一緒にいてくれの間違いじゃないのか? まあいい……一緒に食うか?」
「ありがとー! 椿花ハンバーグが食べたいんだぞ!」
「いきなりハンバーグってお前……」
 凜音は頭をかきながらも、渋々といった様子で皿を手に歩き出した。
 すると、赤鈴 いばら(CL2000793)と赤鈴 炫矢(CL2000267)の二人組とばったり出会った。
「はいお兄ちゃん、いーっぱいとってきたよ! 美味しそうなのもっとあったから、また取ってくるね!」
「ああ、お帰りいばら。せっかくのパーティーだ、しっかり楽しもうな」
「うん!」
 こくこく頷いた後で、ちらりとこちらを見てくる赤鈴兄妹。兄と凜音は同学年である。まあこういう場所なのでクラスも一緒になりがちだ。
「よう、凜音。そっちも妹連れか」
「否定はしないが違う」
「どっちなんだ?」
 炫矢は小首を傾げてから、すっと背筋を伸ばした。
「まあとにかくこういう場だ。今後共に仕事をする上で、交流を広げていかねば」
「真面目だな、お前は。椿花もそういう所を……ん?」
 ふと見ると椿花がいない。
 慌てて探してみると……。
「お嬢様、久遠寺家の者として恥ずかしくない格好をして頂きませんと」
「いいじゃない、かたっくるしい格好は苦手だもん! ことあるごとにパーティドレスを着せられるのはもううんざり!」
「しかしお嬢様久遠――」
「くおんじけのものとしてはずかしくないようにー。はいはい」
 久遠寺 星羅(CL2000144)とその執事風の老人、烏丸 響悟(CL2000406)がなにやらもめていた。
 響悟に背を向けて肩をすくめる星羅。
 と、そんな星羅の目がぺかーっと光った。
「あー! あれは有名パティスリーのケーキ! さっすがF.i.V.E、いいスイーツ揃えるわね。ホールごといただいちゃいましょ」
「お嬢様それは」
「もー、黙ってて」
 星羅はそう言ってケーキに手を伸ばすが、なぜかケーキがすっと逃げた。
 追いかけて手を伸ばすも更に逃げるケーキ。
 それを幾度も繰り返した所で、ケーキの下から椿花がぬっと顔をだした。
「久遠寺星羅ー、ここであったが百年目なんだぞ! というわけでケーキは椿花がいただいて――」
「泥棒みたいなマネをするな」
 椿花の首根っこを掴む凜音兄さん(仮)。
「うちのもんが失礼を……」
「いえこちらこそ大変な……」
「どうした。早速顔つなぎか、さすがだな」
 尚、ケーキは椿花と星羅といばらの三人で仲良く分けさせた。

 グループが固まり始めたとはいえこの人数である。うっかりすると人混みに流されそうになるものだ。
 緒形 逝(CL2000156)は十河 瑛太(CL2000437)を抱えて壁際のすいているところまでやってきた。
「わーお、なんだか人が多いなおっさん! すげえなここは!」
「懇親会だからなあ。それよりも落ちないようにつかまっておきなさい」
 器用にドリンクを確保しつつ、瑛太を床に下ろす逝。
 と、その隣で。
「見たまえ! ここに我らが同胞たる好漢たちが集結したのだ! この良き日を我らば胸に刻まねばなるまいな!」
「ええ、ええ、ところで話は変わりますがUFOを見たんですよ。円盤形の」
「ほう未確認飛行物体だな。それは希有な体験をしたものだ」
「グレイが乗っていたらどうします? ゲームしたいですね」
 伊弉冉 紅玉(CL2000690)と清衣 冥(CL2000373)が異様なテンションで異様な会話をしていた。
 このへんがすいていた理由がわかった。
「狐狸妖怪のたぐいとも友情をはぐくむべきということだな?」
「絆が深まって仲良くなれそうじゃないですか」
「絆か、ふむ、まさにいま一堂に会した我らに相応しい言葉ではないか! 君にはいつも驚かされる! なあ!?」
 そしていきなり会話をふられた。
 逝ははあとかああとか曖昧なことを言ってみたが、なぜか紅玉は上機嫌にノッてきた。
「よおし、今日はとことんまでに同じ釜の飯を味わおうでは無いか!」
「カレーいかがです? 色々食べなくてはもったいない場であえてカレーライスでお腹いっぱいにするのもおもしろいものですよぎょっさん」
「ふふふ、それも良し。共と語らって食すカレーは格別であるな」
「でしょう」
「だな!」
 どうしよう。逝は迷った。ここで急に離れるのは失礼っぽいし、瑛太はもうカレー食い始めちゃったし。
 そこへ、よろよろした火紫 天音(CL2000422)と月城・K・葵(CL2000423)が連れだってやってきた。
「あ、葵……すまぬ……お腹いっぱいに……」
「よしよし、腹が苦しいだけで泣くな。ちゃんと俺が残った分を食べてやるから」
「すまぬ……すまぬ……」
「オーバーだなおい」
 葵は天音から受け取った皿にスプーンをさしこみ、残ったカレーを綺麗に食べ始めた。
「ううむ、しかし、人混みに流されそうになりながら好きなものを食べて回るというのも、これはこれで楽しいものじゃの!」
「そうだろうとも、この良き日を楽しまねばな!」
「カレーいかがですか?」
「えっ」
 ぎょっさんとめっさんが絡んできた。
 あとカレーが増えた。
 あと逝がすこーしずつ遠のいていった。
「……」
 天音を見る葵。
 対して天音はすこーしずつ遠のきながら、頷いた。
「すまぬ」

 寄せては返す人の波は、グループが固まるにつれて徐々に穏やかになっていった。
 そもそも広い『こもれび』である。軽く百単位の人数が詰まっていたにもかかわらず夕方には人混みも落ち着いていた。
「ここすごいな! すごいな! きみどこから来たんだ!? 学校は!?」
「私は沢渡真奈歌! 高校生やってます! さわっちって呼ばれてました!」
「よしさわっち!」
「はい!」
「お前おもしろい奴だな! 一緒に日本の平和守って行こうな!」
「おう!」
「はい!」
「おう!」
「はい!」
「おう!」
 沢渡 真奈歌(CL2000882)と星見・犬彦(CL2000030)、それに名嘉 峰(CL2000013)がひたすら高いテンションでお互いの肩をたたき合っていた。
「すごい空気ですね。未成年が来ても大丈夫そうなのはいいんですが……」
 連れの手を引きながらまわりをきょろきょろと見る宮川・エミリ(CL2000045)。
 ある程度静かな場所を目指して歩いて行くと、壁際へとたどり着いた。
 先客に金木・犀(CL2000033)と平・夜(CL2000142)、イニス・オブレーデン(CL2000250)が固まって話している。
「ご一緒しても?」
「どうぞどうぞ。僕は大学部のイニスといいます。こちらは……」
「平夜。ただでご飯食べられるって聞いたから来たよー」
「僕は覚者というひとたちを知りたくて……あ、金木犀。よろしくね」
 それぞれ軽く自己紹介すると、犀は穏やかに笑った。
「どうにも賑やかなところは息苦しくてね。みんなは?」
「非覚者に混ざっているならまだしも、覚者だけが何百人も集まっているとすごいですね。ファンタジックです」
「そーかなー。ふつーだとおもうけど」
「それより、なにかおもしろいことやってないかねえ。余興のスペース、あるんだろ?」
 九段 笹雪(CL2000517)が料理にぱくつきながら呟くと……キリエ・E・トロープス(CL2000372)がチラシを配りながら駆け抜けていった。
「あなたは神を信じますか!? わたsくしの神様を共に信じて! 人類皆兄弟です!」
 右から左へ駆け抜けていったキリエを目で追ってから、顔を見合わせる五人。
「神様だって」
「信じてないかなー」
「いてもいなくてもどちらでも」
「日本的だなあ……」

 いっぽう。キリエのチラシを受け取っては畳み、どこかにしまう華神 悠乃(CL2000231)。
「ほんとに色んな人がいるんだなー。どこから集まってくるんだろ」
「皆さんの顔を覚えるだけでも一苦労ですね。まだ顔と名前が一致しきらない人もちらほら」
 苦笑する新月・悛(CL2000132)。
 彼らは色んな人の顔を見たり話を聞いたりしていこうと会場中を回っているうち、自然と同じような場所に固まったメンバーである。いわゆる聞き役のつどいだ。
 黒漆 夜舞(CL2000035)はグラスを手に微笑んだ。
「今日だけで随分色々な話を聞けましたね。UFOを見ただとか、神に会っただとか」
「その語感だけだと怪しい話を聞かされただけのようにも……」
 肩をすくめる氷門・有為(CL2000042)。
「ただ、情報交換ができただけでも良かったですよ。ここはまさに情報の宝庫ですからね」
「なるほど」
 不動 遥(CL2000484)は頷いて、周囲をぐるりと見回した。
「人数が集まってるだけじゃなくて、貴重な人材も沢山いるというわけですね。確かによさそうなおじさまが無数に……」
 そうして目にとまったのが、光邑 研吾(CL2000032)である。おじさまというかおじいさまである。まちがえた。
 一方の研吾は視線に気づくこと無く、光邑 リサ(CL2000053)に手を引かれていた。
「ワオ、ケンゴ! あそこにカクテルラウンジがあるみたいですヨ。ワタシたちも何か頂きまショウ!」
「ワシはカクテルより酒のほうがええんやけど……」
「子供らが沢山おるんだが、目の前で呑んでも叱られへんやろか」
「ダイジョーブ!」
 などと言ってカクテルラウンジにやってくると、そこには未成年の兄弟姉妹がそろっていた。
 よもやF.i.V.Eに未成年の飲酒喫煙が……!? 否、みせいねんのいんしゅきつえんは固く禁じております。ゆえにノンアルコールカクテルである。
 がばっとカウンターから身体を起こす七十里・神無(CL2000028)。
「はっ、寝てた。ここはわたしの寝室?」
「違うわよ」
 隣でグラスを傾ける七十里・夏南(CL2000006)。ひんやり系の姉とあったか系の妹という組み合わせだが、微妙に心の距離がある。
 夏南はクラッカーの入った皿をスライドさせてやった。
 それをつまんでもぐもぐする神無。夏南は一切手をつけない。そういう気性なのだ。
「ずるいわ、お姉ちゃん一人だけで楽しんで」
「別に一人で楽しんでないわ」
「だって、同年代の男の子とカクテル飲んでるじゃない」
 ちらりと見ると、すぐ隣で酒々井・千歳(CL2000407)が同じカクテルを飲んでいた。
「たまたまよ」
「ん、何? 俺がどうかした?」
「気にしないで」
 目も合わせずに言う夏南。
 千歳は小首を傾げた。
 学校の中を歩いていれば見かける顔なので別に全くの他人というわけではないが、顔を合わせたから一緒に食事をする間柄でもない。人はこれを『知ってる他人』という。
 まあいいかとカクテルを味わう作業に戻ると、後ろから酒々井 数多(CL2000149)が飛び込んできた。
 文字通り飛んで、込んで、きた。
「にーさま! お肉とってきたわ! 唐揚げもテリーヌも! でも食べ過ぎたら太っちゃうかも!」
「食べなければいいんだろ。ダイエット中じゃなかったのか?」
「明日から本気だす。お皿に盛ったものは食べきるのがルールだもの。あっ私のぶんもカクテルー! 同じのー!」
 ばたばたする数多に、千歳は小さくため息をついた。夏南の方を見る。
「お互い手のかかる妹がいて大変だな」
「別に、私はそういうんじゃないわ」
 二人はカクテルを飲み干して、グラスを同時にカウンターに置いた。


 草木も眠るウシミツアワー。
 遠くでなくカエルの声を聞きながら、橋爪 涓(CL2000199)は『こもれび』の建物前に立っていた。
「せめて、終わるまでの時間を楽しみたいと思ったのですが……わたし、門前払いなのでしょうか……」
 しょんぼりしながら回れ右すると、竹島・深世界(CL2000831)が真後ろに立っていた。びくっと後じさりする涓。
「どしたん自分、入られへんの?」
「い、いえその」
「ほら入った入った」
 涓の代わりに扉をあけてやると、中からはオレンジ色の光が、そしてエレクトロスィングジャズの音楽と共に人々の静かな語らいの声が漏れ出した。
「わ……」
 昼間は人でごった返していた『こもれび』は深夜を境にアダルトなバーへと様変わりしていた。
 モップ掃除していた町田・文子(CL2000341)が通りかかり、ぱたぱたと手を振った。
 いや、手に持ったカルアミルクのグラスを振った。
「いらっしゃ~い。ここはオトナの空間だよー。楽しんでいっちゃってー」
 そのままモップで蛇行していく文子。
「ず、随分酔っていらっしゃるんですね……」
「期待の新星清掃員じゃなかったんかい」
「いいんじゃねえの? 若い内の特権だよ、はしゃげるってのは」
 などと、御堂 東眞(CL2000816)は酒瓶を手酌しながら涓たちを手招きした。
「あ、お酌なら……」
「あいや結構。出世がいるような歳じゃないぜ。あそこの連中と一緒さ」
 顎で指し示した先では新田・成(CL2000538)がゆっくりとワイングラスを回していた。
「ほう、これは……ありがとう。とても素晴らしいワインです」
 随分と樽をあけているようだが、表情は未だに穏やかなままだった。
 誰の何の話でもないけど、大学に入ったら最初にやるのが自分の飲酒限界を知ることである。それも量ではなく勢いで図るので、度数の高い酒をがんがん飲ませて気絶させたあと速やかに付属病院へ自力移送したあと医師免許をもった先輩が自ら生理食塩水を鼻から突っ込むという儀式が行なわれる。これによって飲酒量を自らコントロールできるようになり社会で通用するという……医大あるあるである。ちなみに新田は違う。酒造者から学者へ流れた専門家だ。
 そんな彼の周りには同じようにがっつりと酒を飲みたがる連中が集まっている。
「飲み足りねえなーって思ってたんだよ。やったぜ」
 水割りにしたウィスキーをぐいぐいと飲む四月一日 四月二日(CL2000588)。
 その隣では離 為火(CL2000873)がブランデーをシリアスかつちびちびとやっている。
「随分、いいお酒を入れているんですね」
「専門家いるしなあ……あ、ここ終わるの何時?」
「電車の始発が出る頃だったと思いますが」
「ふーん、じゃあそれまで飲むか」
「別に構いませんよ。どうせ終電もありませんしね」
 などと静かに飲むアダルト空間を横目に、長門 龍虎(CL2000022)は自分の居場所を探していた。 そもそも賑やかな場所が苦手な龍虎である。
「まあでも、ここで世話になるんだ。ツラくらいはみせねえとな」
 肉を盛りつけた皿と酒。おっさんみたいなメニューで部屋の隅にでも行こうと思ったその矢先、龍虎の足がぴたりと止まった。
「っておい、おめぇら! こんな時間にこんな所でなんてことしてやがる!」
 なぜなら、小さなテーブルを囲んで四人の子供ががっつり酒を飲み交わしていたのだ。
 未成年の飲酒喫煙が行なわれている!? ゆゆしき事態である!
 と思いきや。
「え、子供? ちゃーんと大人ですよーだ、ほら」
 藤堂 真弓(CL2000839)が振り返り、年齢の分かるカードを提示した。
 他のメンバーも同じようにカードを翳す。成人どころか龍虎の年上だらけである。
「なんだよ紛らわしいねぇ……」
 覚者が現われるようになってから、見た目十歳の六十歳など何も珍しくなくなった。おかげでうっかり反射的に注意した相手が老人だったなんてケースもザラである。
 ただこれだけは言っておくが。
 アラタナルは未成年の飲酒喫煙は硬く禁止しています。
「キヒヒ、それにしてもわんさわんさとまあ集まったものですねえ。これだけ覚者が集まってる組織も珍しいんじゃあないですか?」
 グラスをゆすりながら語る御堂 那岐(CL2000692)。
 静海 龍也(CL2000390)が空のグラスを置いて身を乗り出す。
「覚者はともかく、夢見の数が尋常じゃねえな。そりゃ組織の実態を秘密にするわけだ。戦術核でも隠し持ってるようなもんだぜ」
「物騒だねえ。ただ、これだけいれば僕の糧になるような不可思議が見つかるかもしれないね」
 肩をすくめてカクテルを飲み干す饗山 朔(CL2000490)。
 お肉をもりもり食べていた真弓が顔を上げた。
「ん、かて?」
「どっちが物騒なんだか」
「いやいや、仲良くやろうじゃないか。もう一杯いかがかな?」
「今日は酒をやめとくよ。女性を口説くにはシラフじゃねえと」
 かつんとグラスを合わせる朔たち。
 ……そんな光景を、豪力 秀(CL2000652)が仮面越しに眺めていた。
「精力的な覚者がこれほど……。不安が無い……納得できる……かといえば、嘘になる、か」
 仮面越しにも関わらず器用に料理を口に運ぶ秀。
 その隣に紅崎・誡女(CL2000750)が腰掛けた。
「こちらよろしいですか?」
 無言を肯定と受け取って食事を始める誡女。
「これからご縁がある人たちの顔を見に来たんです。お一人のようでしたので」
「あらあら、ならお邪魔になっちゃうかしら」
 おっとりとした様子でエメレンツィア・フォン・フラウベルク(CL2000496)が横に立った。手にはワイングラスがひとつ。それだけである。
「とんでもない。よかったら、どうぞ?」
「ありがとう。人間観察でもと思ったのだけれど、そろそろ終わる時間だものね」
「……好きに、すればいい」
 そうして、三人は静かにグラスを掲げ合った。

 日が昇るかいなかという時間。飲み過ぎてくたばった者や疲れて眠った者、とち狂ってつまみ出された者などは自動的にいなくなり、真のナイトタイムがやってくる。
 紫藤 八雲(CL2000098)は酔いつぶれた仲間の相手をしているうちに随分長居してしまった。
「覚者といっても人間やねえ。酒で酔えるし潰れもする。こうして集まれば騒いだりもする」
「嫌いじゃ無いね、そういうの」
 カクテルグラスを手に壁により掛かって瞑目する葉越 章(CL2000413)。
 彼らもはじめは一人で静かに飲んでいたのだが、流石に人数が少なくなればバラバラに呑むのも寒いものである。あれだけ人の波に流されそうになっていた会場も、今は妙に広く感じる。時間にあわせて照明が薄暗くなっているのだからなおさらだ。
「やっぱり……このくらい静かなほうが、落ち着きますね」
 グラスを両手で包むように持つ瑠璃垣 悠(CL2000866)。
「賑やかなのは苦手?」
「すこし……」
「たまにはええもんよ? すれ違ったことしかない人もいれば、よく顔を見て話す相手もいる。そのみんなが仲間で、一緒に戦う相手になるんやね」
「……ですね」

 やがて東の空を茜色の幕が覆い、すぐにそれは朝日の青白さへと変わっていく。
「やー、随分飲んでしまいましたねー。それで、献金をくださる気にはなりましたかー?」
「うーん……献血っすかあ……? あたしの血はヤバいっすよお……」
 浮世 タナン(CL2000761)と宝達 はくい(CL2000837)が背中をあわせてぐでんぐでんになっていた。
 ひたっすら人に飲ませようとするタナンとひたっすらお酌をして自己アピールしたかったはくいが、結局こんなことになっているのは……。
「おさけおいしい」
 財崎 華子(CL2000608)が酒瓶を抱えてうっとりしていた。
 彼女の後ろには『お風呂にして浸かるのかな?』というくらいの酒瓶が転がっている。
 勿論彼女一人で飲んだものではないにしろ、この量が人体にしみこんだと考えるだけで常軌を逸している。
 彼女の前では谷畑 朱色(CL2000279)が焼酎をぐいぐい飲み干していた。
「それでな、社長が言いやがるんだよ。俺のやり方でうまくいかないのは世の中のせいだって」
「大丈夫、大丈夫ですよう適量で我慢しますから」
「狂ってるよなあ。終わってるよなあの会社」
「大丈夫大丈夫。まだそんなに酔ってないです」
「この前なんて自分で書いた本を買わされたんだぜ? 啓発本だってよ! 洗脳でもするつもりかっつーのな!」
「わたし酔いすぎると記憶がなくなるんですけど今覚えてますから大丈夫です大丈夫」
「分かってくれるかー、そうかー」
「大丈夫大丈夫ー」
「二人ともまるで大丈夫じゃないな……」
 カクテルをちびちびと飲む指崎 まこと(CL2000087)。
 明けた夜空を窓越しに見ながら、これからのことを考える。
「子供たちが戦わなければならない未来、か。今日見た顔のいくつが、二度と見られなくなるだろう」
 外は徐々に明るくなっていく。
 まことはグラスの中身を飲み干して、強かに机へ置いた。
「所属だけにしておくつもりだったけど……ちょっとだけ、やる気を出そう」
 それは誰の身にも察知できないことではあったが、確かに、着実に、すぐそこまで来ていた。
 F.i.V.Eという組織と、そこに集まった仲間たちによってもたらされるものとして。
 覚者たちの夜明けがやってくる。


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