● 「だから、その日一日中、室内で待機しておくこと」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、冷徹な宣告を下す。 「ちょっと、そんなの無体なのだわ、いっそトリック禁止なのだわ!!」 そう言って騒ぐ声がしたのは、ある意味予想通りだったというべきか。 声の主はエインズワースの黒い方、『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)である。 何故だか涙目で、両の拳を握って上下に振り回して主張する彼女。それをなだめる役回りは、アークの誇る言語破天荒なイケメン『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)に押し付けられていた。 「そう言われても、困る。 その日、想定される被害はかなりの大規模なものになる――最悪の場合は、カレイドシステムにまで悪影響を及ぼしかねない。そうなったら、アークの運営にも事欠く可能性がある」 抗議は意味を成さないと知り、梅子はがっくりと肩を落としてイヴと伸暁を交互に見た。 その日、とは、三高平大学の講堂でハロウィンパーティーが開かれる日。 楽しいことにはとりあえず混ざりたがる彼女がその日に限って外出禁止を命じられるのは、確かに若干不憫だ。唸るような声を出して考えんでいた伸暁だったが、その目が何かに気付いたように細められる。 「ウェイト。プラム、ワンミニッツ、頼むからクワイエット」 「……わけがわからないのだわ……」 ジャスト一分の後、伸暁は口の端を上げて軽い笑顔を作り、梅子に請け負った。 「よし、任せておけ」 ● 数日の後、アークの掲示板にて、2枚のポスターが貼られていた。 1枚は、『仮装パーティーのお知らせ』。 もう1枚は、『仮装パーティーの護衛依頼』。 「これってどういうこと?」 護衛依頼のチラシを持って伸暁を尋ねたリベリスタに、ブラックキャットはウインク一つ。 「ハロウィンではトリックがトリートする。それはわかるな?」 「……トリック・オア・トリート? お菓子をくれなきゃいたずらするぞ、ってやつだよね」 「さて、ここにプラムがいるとする」 言いたいことが伝わったことに満足気に頷き、伸暁は右手の人差指を立てた。 ぴこぴこと動かした後、左手の人差し指を立て、右手に近づけた。 「で、だ。プラムがはしゃいでる以上、そのあたりにはだいたいピーチがいる」 「ぴーち? ……いや、普通に桃子って呼ぼうよ」 どうやら、左手人差し指が示すのは『清廉漆黒』桃子・エインズワース(nBNE000014)らしい。 「さてここで問題だ。 桃子がたとえプラムからお菓子をもらったとしても――トリックをストップする可能性は?」 ない。 むしろお菓子を奪った上でいたずらする。 まさに彼女のトリックが梅子をトリートする。 「はっきりと言ってしまえば、だ。 そういった事が起きるのはエインズワースの姉妹だけに限らない。 その結果、ちょっとした暴動が起きることになる。この予知は俺とイヴの共通見解だ」 「最初からそれが結論でいいじゃん。で、梅子を取り押さえるのが仕事なの?」 「いいや、桃子たちを抑えて欲しい」 「……は?」 きょとんとした顔を見せたリベリスタに、伸暁はもう一度ウインクしてみせた。 「言ったろ、護衛が任務だ。 イヴやプラムたちがパーティーを楽しんでる間、俺たちは防衛線を張るのさ」 ● 「私から姉さんを隔離するなんて」 別のブリーフィングルーム。入り口には「作戦会議室」と書かれたコピー用紙が貼りつけてある。 その室内で大仰に嘆いてみせる桃子の横で、アークを中心とした三高平の地図を広げるのは『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)である。 「……この位置は、このビルから丸見えですね。 狙撃班が待機するべきは、こっちのビルで……あ、ここだとこのポイントから……」 和泉はペンをキュキュッと音を立てて走らせながら、何か不穏なことをつぶやいている。 「ハロウィンから悪戯を取ったら、お菓子しか残らないじゃないですか。 そんなのつまらないですよ、絶対」 そう言って笑みを浮かべる桃子の手には、仮想パーティーのチラシ。 そこにはこう記載されていた。 『会場内でのすべての悪戯を禁止します。 また、会場内で悪戯を行った、行うと予知された方は会場外に追い出されます』 予知を待たずして、そして当日を待たずして、桃子は理解していた。 桃子・エインズワースが、姉、梅子・エインズワースに悪戯をしないなど、ありえないのだ。 もっとも彼女は、姉に悪戯をしていいのも自分だけだという、妙な愛情も持っているのだが―― そのあたり、知らぬは姉ばかりなり。 「天原さんどうですか? 作戦の方は」 「順調です。たまにはこういう、リベリスタ対リベリスタの集団模擬戦も、楽しいものですね」 和泉は例の予知に関与していない。 いや――あるいはわかっていて、それでも趣味を優先しているのかも知れなかった。 彼女の趣味は、サバイバルゲーム。いわゆるサバゲーである。 リベリスタ対リベリスタであれば、その際に運用される戦略は変わってくるはず。 ――もしかしたらコレは趣味でさえなく、必要な実戦データの収集なのかも知れない。 しかし、桃子にはそんなことは関係なかった。 呟く言葉が、ブリーフィングルームの床に静かに反響する。 「見せてあげますよ、本当のパーティーというものを」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年11月14日(月)22:02 |
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■メイン参加者 0人■ |
● 「いえーい。とりっくあんどとりーとー。 せっかくの祭りなんだしさあ、遊ぼうぜ!! 桃まんじゅー持参だぜ。桃子なだけに。ぷふっ。 え? こっちにはいねぇの?」 頭につけた緊箍児も妙に似合った、斉天大聖の方の孫悟空の仮装をした関 狄龍。 狄龍が桃まん引っさげてふらりやってきた頃には、パーティーも始まっていたりする。 「剣姫イセリアの名に賭けて、ハロウィンパーティの邪魔などさせん! 唱えよ! 勝ち取れ! 剣を抜け! いざ!セイヴ・ザ・アーク!」 朗々とそう叫ぶはイシュター三姉妹の色々一番大きい人、イセリア・イシュター。 「……剣? 抜くまでもない! なぜならば、私はパーティに参加するからだ」 ドヤァ。 さすがですお姉さん。いろんな意味で。仮装と言いつつ水着にうさみみとか。 「寒い! クッ! それは酒がたりんのだ! スイーツと酒はアリだ。甘口のアイスワインは良いものだぞ。諸君! 飲みがたりんぞ!」 「あっち行くとお菓子食べられないし。 というわけでトリートオアトリートなパーティと洒落込みましょうか」 彩歌・D・ヴェイルはドクロスーツにマント。 骸骨マスクかなにかでも被ろうか悩んだらしいが、誰かわからなくなると考えて、これだけ。 手作りのチョコレートフィナンシェを携えて会場を回る。 「人は、なぜ争うのか。悲しい。 彼らには愛が足りないのか。 そう、俺のように満ち溢れた愛が。 というわけで! 俺は、イヴたんにただひたすらに絡みにいくぜ! 愛ゆえに! うっひょー! お菓子が食べたい? クッキーがいい? マフィンがいい? それとも、お・れ? うっひょうーーーーー! イヴたんは今日も可愛いよおおおお! ケーキ? ケーキ食べる? はい、あーん! ケーキには紅茶がいいよ! 熱いから気をつけてね! ふーふーしとくよ!」 ぺいっ。 イヴに向かって今にもぺろぺろ始めそうだった結城 竜一が、さっきから青白い顔(メイク)で給餌していた死人メイドことエナーシア・ガトリングによって会場外にポイされる。裾を摘んで一礼してする彼女に、どこからともなく沸き起こるちょっとした拍手。 「まったく、祭りの後の片づけは大変な仕事へとなりそうで御座います」 「なんでー! なんでー!」 竜一くん、窓をがりがりしちゃだめです。あとぺろぺろするのは彼女限定にしましょう。 「はいこれぇ。割と上手にできたうさぎさんだよぉ」 遠野 御龍の手作りうさぎちゃんのクッキーはイヴにはものすごく嬉しかったらしい。 「ありがとう……」 ちょっとはにかんで、なんとなくドヤ顔うさぎのポーチと見比べて、ふふっと笑ったりしている。 「折角仮装したし、パーリィーって奴を楽しんでみる! ……と思ったんだがあれ? こういう状況ではしゃいでる奴等は? 何処行った?」 「あんた、それこそこういう時に外で大はしゃぎしてそうな人、筆頭だと思ってたのだわ」 会場内できょろきょろしてた宮部乃宮 火車だが、今回彼が居るのはなぜだかパーティー会場の方。 梅子でなくてもそりゃ不思議に思う。 「おお、梅子。高級な洋菓子だぞ」 ああっそれはさっきイセリアお姉さんが食べてたウイスキーボンボン。 「なになに? 高級さで釣られると思ったら大間違いなのだわ!」 「おっと、そいつは大人の味だな。お前にゃまだ早いよ」 偉そうなことを言いつつ包装をめくる梅子だったが、沙織に没収されるのであった、まる。 「Des friandises ou un mauvais tour? ――悪戯禁止でも決まり文句は外せないでしょう?」 その沙織に背後からかけられるフランス語。 声の主、宵咲 氷璃はドヤ顔にゃんこのデザインをあしらったゴスロリドレス姿。 振り返った沙織に、かけた言葉とは逆に苺のミルフイユを差し出す。 「――好きでしょう? ミルフィーユ」 意地悪にふふっ♪ と笑う氷璃の言葉とお菓子には裏がある。 このお菓子の正しい発音は『ミルフイユ』。 それを『ミルフィーユ』と発音すると『千人の娘』と言う意味になる。 フランス生まれの氷璃は勿論からかう為にわざとそう言っており、プレイボーイは苦笑した。 「残念だけど、俺は千人も一度には相手に出来ないな。 恋は決闘。もし右を見たり左を見たりしていたら敗北……だろ?」 苦笑は直ぐに微笑に転じ、沙織は氷璃のおとがいに優しく手を伸ばす。 「だから今の俺が見ているのは氷璃、『一人だけ』だよ」 氷璃の唇に優しく押し当てられる感触――沙織が悪戯の免除を願って進呈したのはさっきのボンボン。 それから悪戯なウィンク。 「あー! あー! あたしのっ、あたしのチョコレートぉお!」 「折角のパーティーだから、楽しまなきゃ損たぜ? おっと、梅子。どうした、その面は」 唸る梅子に、ディートリッヒ・ファーレンハイトがお皿に載せたお菓子を見せる。 「折角のパーティーなのに。満腹になれば、大抵の不満なんて気にならなくなるぞ。 ほら、この皿のやつ、食ってみろ。美味いぞ。」 「何よ? あ、これは好きなのだわ!」 あっれ、前にもこういうことなかったっけ。とか思ってる間にも梅子は機嫌を直していく。 ……餌付けされてる? ところで、会場の隅で約一名、超懊悩してるのがいた。 「くそっ……俺はどっちに付けばいいんだ。どうする……! どうするよオレ!!」 梅桃のプロマイドを交互に見比べるセリオ・ヴァイスハイト。 がんばれ青年。カードの切り方で人生も変わる、かもしれない。 ……まあ、最終的にこのパーティー会場に来てSPっぽく振舞っているのだが、これも梅子を桃子に差し出せば姉妹水入らずの空間が完成するに違いないと考えているからのようで。 目指せ両手に梅と桃。 でもどっちも花というには何かが違う気がするのはどうしてだ。 そんなわいわいやってるパーティー会場の、建物の上。 天船 ルカが会場から拝借した飲み物とお菓子を広げ、双眼鏡を片手に周囲を見回す。 あちらこちらで盛り上がっているのは、戦いの始まりを告げる鬨の声。 「ほら、『対岸の火事』って最高に楽しいじゃないですか?」 そう言って齧るお菓子の多くは、いわゆるポテチ系。かなーりジャンク。 ぱりぽりぱり。 ● 「団地のみんなでいたづらっことふぁいと~なの~。 めざせぼうえい~ぇぃぇぃぉ~~」 そんな感じでこぶしをぐっ。今日のテテロ ミ-ノは気合が違う(多分)。 「まこちゃんと一緒に会場周辺をぱとろ~る~。 すみずみまでたんさく~ちぇっくちぇっくなの~」 「海賊は正義じゃないけど、自分の宝物は命をかけて守るもんだ! きっちり守るぞ、お菓子ー!」 ミーノの横で一緒にえいえいおー! してるのは五十嵐 真独楽。 セクシーな女海賊の衣装がとってもスタイリッシュ。男の子だけど。 「まこみのぱとろーる隊! しゅつどー!」 「友達だからって、手は抜かないからなっ?」 あ、真独楽とミーノでまこみのなのか。 その横で、特撮ヒーロー風モルぐるみを着た祭雅・疾風が変身ポーズを取っている。 「ハロウィンの平和は護る!」 可変式モーニングスターを構え、語勢と姿勢は猛々しい。何でこうなった? それを見ていた付喪 モノマの小型通信機が、呼び出し音を鳴らし始めた。 プルルルルル。 「はい、もしもし……え、あれ、今から行かなきゃいけねぇの? いや、今から喧嘩しにだな。 ……え、マジでそれじゃ、そっちいかねぇとな」 モノマ、電話を切って一つ深呼吸。 「急用ができたからちょっと行ってくるわー!」 「いってらっしゃいなの~」 「気をつけてねー」 「ああ、悪戯をストップするんならお菓子を上げますよ?」 お見送りをするまこみのぱとろーる隊(+もる)なのであった。 講堂への道は、複数ある。 しかし、立場の違いはあれど多くの者達が、その中で一番大きな道を戦場として選んでいた。 それは迎撃班の人数が悪戯班の人数を上回った為でもあり、戦いたがりが少なくなかったということでもある。 数で負ける以上、有効なのはゲリラ戦か、一点突破。 これが殲滅戦ならゲリラ戦術はかなりの威力を挙げただろうが――悪戯班にとっては残念ながら、迎撃班は籠城戦の構えである。 「TRICK無くしてTREAT無し! 我々から権利を取り上げた者達に最早選択の余地無しッ! TRICK or TRICK! 合言葉はTRICK or TRICKだ! これは実戦ではない! 聖戦であるッ! クロス……ジッハァァーーードッ!!」 ツァイン・ウォーレスが高らかにそう宣言し、闇夜にいくつもの十字の輝きが浮かぶ。 ――それが実質、開戦の合図となった。 「ぬおおー! とりっく・おあ・だい! 悪戯か、さもなくば死を! われらにいたずらのじゆうをー! TEAM R-TYPE筆頭躯体、石川ブリリアントがおしてまいるぞー! ……あっ」 わー、っと勢いで突撃してきた彼女、前のめりにコケた。 「うっ、うう……な、泣かない! アークの戦士は泣かないのだ!」 がんばれ24さい。 そしてその先、講堂の正面入口前。 そこに、二人の南瓜の騎士がいた。 「正直な所、和やかなパーティーでも悪戯三昧の騒動でも私は構わないの。 だけど、こんな大規模な模擬戦、そうそうある機会じゃないわ。 腕の振るい甲斐があるし、イヴさん達に平穏に過ごして欲しい気持ちもある。だから……」 「戦いでも遊びでも、皆でワイワイってすっげ楽しいよな! 走り回って戦局を霍乱しちゃうぜ。ここの守りは破らせねー! 最後に立ってた者の勝ちだぁ!」 ひとつはレイピア。ひとつは幅広の長剣。ただし、どちらも仮装用の玩具。 二人の本来の獲物は、一人はマスケットに似たリボルバー、もう一人は巨大な鉄の槌。 「南瓜の騎士、ミュゼーヌ・三条寺。秩序を守る為、推して参るわ」 「南瓜の騎士、桜小路・静! 全員まとめて相手になってやらぁ、さぁっかかってきやがれッ!」 「双方、本格的にやりあうつもりか。ハハ、祭りだねぇ。好きだよこういう空気」 女木島 アキツヅは入り口をがっちり固めた騎士二人を見て、笑みを浮かべる。 「はは、この守りたがり屋達め」 口にするのは軽い悪態。されど結局ここにいる彼も相当な守りたがりのようである。 「相棒がお気に入りの和泉といちゃつけるようにひと肌脱ぎますか。 ……って、なあ、一肌脱ぐつもりで上着脱いだら寒いんだけど」 御厨・夏栖斗がちょっと薄着で袖をさする。 いいじゃないか君は。後で恋人に温めてもらいなさい。 そんな相手の居ない彼の相棒、新田・快が、塗り壁の着ぐるみを脱いで夏栖斗に託した。 「えっ僕これ着ていいの?」 「なんでだよ!」 軽い調子でツッコミを入れる快に、夏栖斗もちぇーつまんねーの、と笑って返した。 「そいじゃ、いっちょ行ってみますか!」 二人が、ざり、と土を踏みしめ立ち上がる。 「イタズラしないのにハロウィンとか平和ボケした馬鹿どもが……。 私が少しだけキサマラと遊んでやろう。トリックオアトリート!! あとリア充爆発しろ!!」 まったく同意したくなる言葉を並べ、津布理 瞑がカボチャを投げまくっている。うむ、リア充爆発しろ。 「リア充な人たちを許せないのはよく分かります。 わたしがリア充なら会場の中で優雅に何方かと親睦を深めておりましょう。 でも、現実は残酷。わたしは研究費を稼ぐために、ここの警備陣でバイトをするのです」 がんばれ門真 螢衣。カボチャ攻撃にパイ投げで反撃。 この場にはきっと結構な数、同じ理由の人がいるに違いない。 ● 「一方的な悪戯では流石に無粋。少々お灸を据えさせていただきましょうか。 ――我が歩むは阿修羅道。供を望む者から参られよ!!」 おおおおおっ!!! 高らかに放たれた一条・永の言葉に、迎撃班の士気が上がる。 「よろしい、ならば戦争だ!」 月杜・とらがテンションも高くそのあたりを飛びまわりだす。 名付けて低空飛行で敵を引きつけて、神気閃光をズバババン☆作戦! 「迎撃班が講堂を背にして防衛戦を行うと誰が決めた?」 宵咲 美散はそう告げると、ナイトランスをしっかと構え、姿勢を低くする。 後方撹乱の為の、強行突撃。その対応に戦力を割かせる事は、講堂を守る事に等しい。そう考えて。 「――『戦闘狂』宵咲美散、推して参る!!」 設楽 悠里は一騎打ちを望む。 「拓真! 僕と一騎打ちで勝負がして欲しい!」 「……神秘探究同盟、第八位、正義の座……新城拓真。その勝負、受けよう」 友の真剣な眼差しを受け、拓真もそれに相対する。 眼前の相手が気を抜いて勝てる相手では無いことは、互いが良く知っている。 全力の攻撃、それ以外は不要。 「来い、悠里!お前の全てを、俺にぶつけて来い──!」 「拓真ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」 今はただ全力で目の前の相手と戦っていたい! それだけでいい! それ以外は何もいらない! ――誰かお腐れ様呼んでこい。 「寄って来い、向かって来い! 我は此処に居るぞ!」 降魔 刃紅郎は飾り立てた馬に乗り堂々と名乗りを上げて見せる。 王様は馬車でもって、執事たちにお菓子を配らせたかったらしいのだが、いくら寛容な三高平学園キャンパスとはいえそれにはちょっぴり無理があった。 主に学校内への車両の乗り入れと執事たちの身の安全確保的な意味で。 その前に立ちはだかる、魔女の仮装。 「悪いが、ここではイタズラ禁止だ。お菓子で我慢してもらおうか」 「……クリス・ハーシェル、お前が立ちはだかるか? よかろう……一つ手合わせといくか」 それもまた、ひとつの戦い。クリスが素早い動作で投げつけたものを、馬上の刃紅郎は回避しきれず――いっその事、と白刃取りならぬ白歯取りを試みる。 かぷっ。 「……む……これは……」 「スティックキャンディだ」 ドヤァ……。 「きっとなんか真っ先にやられるよ!?」 もしかしてそれは、死亡フラグではない分だけ生存確率を上げる作戦なのか。 「世界の興亡この一戦に在り! いざ出陣であります!」 ラインハルト・フォン・クリストフが味方を鼓舞するべく声を上げる。 ――彼女の大盾は、アークの手によって廃墟から発見された逸品。 それは少々目立ったが故に。 「オラオラ、どきな! 邪魔するならぶっ倒す!」 惹きつけられたかのようにそこに現れたのは、ランディ・益母である。 ――しかし、その強烈な一撃を、ラインハルトの前に立って引き受けた者がいた。 「境界最終防衛機構所属、レン・カークランド。ラインの敗北はボーダーラインの敗北、落とさせはしない!」 さらに、二刀の短剣を手に舞い踊る花、交錯する戦場を駆け抜ける疾風。 「境界最終防衛機構、ルア・ホワイト。花風連閃、最速で舞います!」 誰よりも速く皆へと繋がる道を切り開くことが、己の戦場での役目と信じ。 「俺は花護る竜、ジース・ホワイト!この身を賭して仲間を護る者だ!!! この誇りのハルバードにかけて、ここから先、一歩たりとも通させはしない!!!」 姉の側で半歩下がり、地面を踏みしめ全身全霊を賭けて構えたハルバード。 その上、ランディに向かって振り下ろされるバスタードソード。 「悪戯しに来たって事は、それなりの覚悟があるよなぁ!」 武蔵・吾郎がにやりと笑う。 その表情に、ランディもまたにやりと笑ってみせる。 「……それじゃあ楽しませて貰うかね」 彼が数の不利を知り、距離を取ろうと一歩下がりかけた所で、近くでちりり、と音がした。 瞬時に、その音は爆炎へと変わる。 誰が放ったものか、ラインハルトたち境界最終防衛機構の面々(+ジース)のみならず、ランディや吾郎までも巻き込んで燃え上がる。 「プラムちゃん……オレの代わりに、ハロウィン、たのしん、で、ね……?」 ぱたり。ついでのように終も巻き込まれた。それはよもやの無差別攻撃。 シルフィア・イアリティッケ・カレードの放ったものである。 かなり高めの位置に、カルナ・ラレンティーナ、ユーヌ・プロメースと共に飛行している。 3人は特に仮装はしていなかったようだが、まあ、銀色の紙吹雪を撒いているカルナは普段から―― 「何方ですか、普段の格好を仮装レベルとか言ったのは。ふふ、道を開けなければ悪戯しますよ?」 いえ、言ってませんごめんなさい。 一方ユーヌはと言うと、符術を準備しながら口の端を歪める。 「とりっくおあとりーと、悪戯なプレゼントだ。遠慮せずに受け取れ……良い声で鳴いてくれよ?」 そういう言葉は恋人にとっておいてあげて下さい。 ともかく、ユーヌは道力を纏わせた剣を周囲に浮遊させる。 少々離れた位置でも、その高度の彼女らは、紙吹雪もあって結構目を引いている。 それを見て悲鳴を挙げたのは、マリス・S・キュアローブだ。 「敵戦力増大中……、まさか神秘探求同盟……? 強敵ばかりじゃないですかー! やだぁ!!」 悲鳴を聞いてか、ウェスティア・ウォルカニスが上空の三人に、シルフィアが使ったのと同じ魔炎を放つ。 どかーん、どかーん。 「……実はこんなにぶっ放しまくれるの初めてかも……? やだ、ちょっと楽しい」 たーまやー。 敵味方なく攻撃したシルフィアの巻き起こした混乱に乗じ、思考の奔流で敵陣をこじ開け、オーウェン・ロザイクが走る。しばらく走った所で漆黒のロングコートを脱ぎ捨て、気配遮断をしようとするも。 「逃さないのですよ! ……"悪"戯。悪を討ち滅ぼすのが勇者の役目ッ……!!」 そりゃ、ついさっきまであれだけ注目を集めてたのを見失うこともないわけで。 「境界最終防衛機構所属……真雁光!! 悪しき者どもよ!! ココより先には行かせないですよ……!!」 ああ、しりあすまじめに。かんちがい。 そんな時にはこう唱えるんだ。シリアス、シリアス、シリアスと。 「悪に堕ちたその罪は重い……我が正義の一撃その身に刻め……!! S・フィニッシャー!!」 おお、格好いい! 文字で表現できないくらいだ! ● 「いたずら一つに大騒ぎ。何て馬鹿馬鹿しくて素敵なんでしょう」 山田・珍粘……じゃなかった、那由他・エカテリーナが拡声器を使って派手に声を出している。 「いたずら禁止はんた~い! 自由なハロウィンをかえせ~!」 時々拡声器にノイズが入るのは様式美。ぴぴがが。 「お化けはわしの敵、それを利用して悪戯してくるやつらなんぞメッタメタにしてやるぜよ! 悪戯をするお化け共に告ぐぜよ……Critical or Fumble? 最初から全力ぜよ、死にさらせぇ!」 それに対抗するかのように声を荒げ、めったらやたらに四方八方を撃ちまくる坂東・仁太。 「守護者の剣はただ護るだけの存在じゃねぇッスよ! 攻勢防衛こそがアタシのやり方ッス! お命頂戴!」 物騒なことを言いつつも、イーシェ・ルーは楽しそうだ。 「TRICKorTREATッス! いたずらするならしかえすぞ!」 そう叫ぶと悪戯班に向けて斬り込み、飛び込んでいく。 「悪戯班の好きにさせないためにも……平穏なハロウィンの夜を護るためにも! ……まあ、一種の模擬戦ではありますし。 普段は体験できない大規模な戦場での戦い、普段は味方である人達との戦い。 存分に、楽しませていただきましょうか」 リセリア・フォルンも、愛用の青みがかった細身の剣を手にし、構える。 なぜだか妙に怯えた斜堂・影継が、本陣周辺に『桃子カカシ』を立てようとしている。 そこらの布で急ごしらえされた桃子人形は、なんというか、ええと。 「……それ、私じゃ、ないですよね?」 こうして桃子本人が隣に立ってみるとよく分かるのだが、超悪目立ち。 ついでにカカシの顔が嫌に凶悪。 「凶悪なのは敵を威嚇するためで他意は無いんだ、本当だ」 「本当ですかねー?」 「しかし桃子を狙う敵なんて実在するのか? まさかとは思いますが、この「敵」とは、あなたの想像じょっ……ウボワァー!」 固定が甘かったのか、倒れてきた桃子人形が本物に変わって影継を成敗したのであった。 いやそれにしてもこの凶悪な顔、そっくりだと思うんですけどね。 「なにか言いましたか?」 いえっ、何も!! 「とりっく おあ ふれあば~すと~♪ 桃子さんがハロウィンを堪能できるようにがんばりますのですよ♪」 悪戯オア攻撃。そう言って楽しげな来栖 奏音だが、使っているのは魔力の矢が多い。 どうしてなのかと聞いてみたところ。 「フレアバーストも使うけど、トリ~トと同じで最後の音が「と」だからこれにしてみたのです。 奏音は力の限り暴れるだけなのですよ」 という返事。 このように、騒ぎに便乗して戦わせろ! というのがメインの血気盛んな者も少なからずいた。 闘志漲らせ戦闘に参加しようとする、焔 優希。 「悪戯……は、どう考えても思いつかなかった。周りの様子を見ながら、感心したり学んだりすることにしよう」 いやいやいやいや、悪戯って勉強するものじゃないからね!? その優希の後ろで、隠れるようにして時々全方位射撃なんてしてるのは、白雪 陽菜。 「悪戯の自由を確保する為に参戦~!」 「この場は人々がパーティを楽しみ仲間や家族と過ごす空間、ここは祝福に彩られています。 悪戯はこの場に必要ない! 場をわきまえ即刻立ち去りなさい!」 魔法少女ピュアパーフェクト、じゃなかった立花・英美が大見得を切る。 英美を見つけた陽菜が、彼女を精密射撃で狙い撃った。 危うし、ピュアパーフェクト! と、彼女を抱き寄せて庇う男が一人。頭の上でひよこがぴよと鳴くアウラール・オーバルだ。 「稀には本気で遊びに興じるのもいいだろう。相手にとって不足はない。 世界を護る目的で結成された境界最終防衛機構の意地と誇りにかけて戦おう……来い!!」 「アタシが勝ったら、エイミー先輩の右頬に『留年』の文字を油性ペンで書いてあげよう♪」 「アウラールさんに格好悪いところなんて見せられない……私が勝ったら、完璧と書いてあげるんだから!」 おんなのいじのぶつかりあい。 「父の弓にかけて親子の時間の邪魔はさせません!」 英美さん多分そこ結構本音だよね。 「なるほど……マジックで顔に落書きが、悪戯の定番だろうか?」 ゆ、優希さん? 「さてはてハッピーハロウィン。さあさあトリック&デス。等といった風情でこんにちは。 今宵はハロウィン、ならば多少の不幸が起きることもやむを得ないデスヨネ?」 正面から堂々と、ゆらりゆらりと近づいて行く歪崎 行方。 その妙に軽快な口調はなんとなくDJモードな気がしなくもない。 「ある意味、もうひとつのパーティってトコですね」 「――さあ、潰されたい奴から前に出ろ!」 「ふむ……皆さんは頑丈デスシ、問題ないデショウ。全力でぶん殴って潰していくのデス」 レイチェル・ガーネットと雑賀 龍治が呼吸を合わせ、行方ひとりに攻撃を重ねて狙い撃つ。 対する行方も、後衛に注意がいかないよう目を逸らさせるのが本来の目的。にへら、と笑って挑発を重ねる。 「ほっぺにやおでこにカボチャ(▼W▼)なラクガキ、させてもらいます!!」 「やり過ぎない様にな。まあ……良い思い出になるだろうさ、それもな」 小崎・岬の言葉が、何故かすごく説明調に聞こえたとして、それは気のせいである。 「さて、後衛らしく前衛を狙い――」 「取り敢えず目の前のはー、攻めてるから悪戯班かなー? どっちだっていっかー」 後方から前衛を狙う。それは確かに、射手の定石である。 だが、射手の更に後ろから敵前衛が来たらどうなるのか――桐月院・七海は今、それを身をもって知った。 「後は頼みました…自分この戦いが終っ」 言葉が途切れる。な、なんだ、なんだったんだ、気になるぞ!? ● 「私が、私達が本気の悪戯班だ。奥へ行きたいかね? であれば……私を、倒して行き給え!」 ヴァルテッラ・ドニ・ヴォルテールが、主力の居るだろう後衛へとなだれ込む一段を留めている。 火力の集中する後衛を守るのは、前衛職が少ない神秘探求同盟にとっては大切な仕事である。 「粗相を働く方達に敗北の二文字を刻んであげるのですっ」 そこに墨と墨汁を用意した源 カイが、背面から突入してきた。気糸で縛り上げ、隙あらば必殺仕○人風味に吊し上げようとしてみるも、更に背後から同じギャロッププレイが飛んできた。 「貰ったお仕事、頑張 ます」 そこにいたのは大吟醸 鬼崩。彼女はいつもどおりの気配遮断で待ち構え、小声で気合を入れていた。 一生懸命やれば、きっと何人かは止められると信じて。 でも超重装甲なヴァルテッラさんのインパクト強くて、やっぱり存在感が薄いんだ。がんばれ鬼崩。 「くすくす、悪戯だって全力で。だって、そのほうが楽しそうじゃない?」 魔力の増幅を行いながら禁書の表紙を撫で、イーゼリット・イシュターが微笑む。 「神秘探求同盟第十七位・星の座。ゼルマ・フォン・ハルトマン。戯れようぞ。」 ゼルマもまた、魔力を循環させながら魔術紋様を描いたネイルアートを見つめて、唇の端を歪める。 何しろ『敵』は万華鏡、挟撃や孤立には気をつけませんとね」 最後衛にて、イスカリオテ・ディ・カリオストロはほくそ笑む。 万華鏡の未来予知、陽動を用いる場合これは実に脅威だ――が、それは逆にこうとも言える。 『相手は脅威が確定したなら、否が応にも戦力を振らざるを得ない』、と。 そして彼は、幻想纏いを通じて、前衛の同胞達に指示を入れる。 「防備が薄かったら占領してしまって下さい。万華鏡」 その言葉と同時に、何かがカチャリ、とイスカリオテの背につきつけられた。 「手を上げて下さい」 どこか事務的でさえある、その声。 イスカリオテの側で待機していた風宮 悠月は、振り向いて何が起きているのかを見た。 「神秘探求同盟が第二位『女教皇』の座。今宵一夜のお祭りを楽しませていただくべく……悪戯班として、参陣致しておりましたが」 天原・和泉の手元に握られた、武器。その中身も、その意味も、千里眼を持つ悠月には理解できた。 「いくらカレイド・システムがココにないとは言え、それはちょっと聞き捨てなりませんね?」 和泉は確かに、今はこの悪戯班の陣頭指揮を取っている。 だが、それ以前に彼女はアークのオペレーターにして、フォーチュナなのだ。 カレイドへの危害をほのめかされてしまっては、その対処が優先になるのは、間違いない。 何のために、アーク本部のあるセンタービルから駅を挟んだ三高平大学が舞台だったのか、ということ。 当然――予想された被害を、最低限に減らすために他ならない。 「……ここは、こちらから引くべきですね」 「――悪戯はほどほどで、お願いしますね」 イスカリオテの背に突きつけていた水鉄砲を離して、和泉の声と表情は柔らかいものになったのだった。 ● 「うっす! 神秘探求同盟のものども! ゴキゲン麗しゅう!」 夏栖斗が派手に暴れて、敵陣のど真ん中を突破してみせる。 彼が心配していた神秘探求同盟の面々は、なぜだか不思議と大人しい。 だが。 「おい見ろ、あいつは――」 「間違いない、ミクリヤだ!」 「カズトが来たぞ!!」 「ちょっ、何この警戒態勢!?」 さすがにアーク内で彼を知らぬ者はおらず、一斉に取り囲まれる。 「カズト・ミクリヤを倒せば、オレだって、イヴちゃんと――!」 「いや俺が倒すんだ、ここで会ったが、一発逆転のチャンスじゃねえか!」 妙な方向で盛り上がってしまっている多くのリベリスタたちを前に、夏栖斗は冷静に考える。 相手にする数・多数。 自分の準備してきた技・全部対単体。 「やっべ! 普通にこええよ! 攻略法みつかんねえよ!!」 (まあ、僕の役目は囮だから――) 「……いいさ、かかってこいよ!」 もしも立ち向かう数が100なら、1対1を100回やるまで。 目的は何も狂わない。 敵陣の中心に向けて頭上高く親指を立てたまま、殺到する悪戯班の中に夏栖斗の姿が消えて行く。 「あばよ、相棒――」 あすたらびすた べいびー! 夏栖斗の囮作戦が功を奏したか、快は順調に本陣に滑りこむことに成功した。 南瓜の騎士たちのいる、最終防衛ライン。そこに塗り壁をおいてきたのも効果があったのだろう。 「シュゴシンのやろー、アイボウが囲まれてるのに動きもしねえ」 とか、誰かが言っていたのがさっき聞こえてきたから。 夏栖斗のことも心配だが、きっと上手くやるだろう――策が成功したことを良しとしよう、今は。 和泉は地図を見て、何かを考え込んでいる。 周囲に誰も見当たらないのが気になったが――背後にそっと近づく。 「ハッピーハロウィン、和泉さん」 ナイフタッチ代わりに缶コーヒーを頬に当て、快はようやくほっとして息を吐いた。 「新田さん!? 驚かさないで下さいよ」 「仕方ないだろ、せっかくのハロウィンなのに、和泉さんと話すには此処に来るしか無かったんだから。 これで本陣は陥落、後は休憩にしよう?」 「そうはさせません」 今度は快の頬に、ひたりと杖の先が当てられた。後ろに、さらにもう一人の影。 「――しまった、この人がいたか」 「ハッピーハロウィンですね、新田さん。 いくら三高平の守護神と言えど、私と姉さんの間を引き裂くことは、許しませんよ?」 絶対零度。 絶体絶命。 がんばれシュゴシン。 ● 富永・喜平はほろ酔いである。 アルコールの勢いで、講堂の窓に張り付き直接侵入しようとしていた。 「……チェックメイト。俺のキャッツ・アイズは誤魔化せないぜ?」 その窓を伸暁に、びしって感じで指摘されるまでは。 喜平はケーキ食ったりいちゃついてる連中に接近したかった。 「トリィックゥオアァトリィィックゥゥゥ!!」 と叫び、ショートケーキの苺だけ分捕り、カップルには『お幸せに!!』『ハイハイ甘い甘い』等とレンズに書かれた鼻眼鏡を強制着用させたりと、神をも恐れぬ悪行を尽くしたかった。 全てはおじゃんである。 「わたしっふだんはゆーしゃなのです! しかしときはハロウィン! このいくさおとめイーリス、いたずらはすきですがパーティをじゃまするものは、ゆるさないのですっ!」 イシュター3姉妹の一番末、イーリス・イシュターがなぜだか伸暁に指名されて喜平を引きずり下ろしたのだが。 「このいーりすいっせいいちだいのおおしょうぶ! おでこに肉なんてかかせないのですっ! ばばーん!」 そのかわり、喜平今際の際(?)の渾身の一撃にて、鼻眼鏡を掛けられてしまった。 「なんということをっ!」 「イーリスなら大丈夫かなと思ったんだが」 そう言って笑うNOBUがイーリスの頭を撫でる。 確か、まっさきに智親と伸暁の警護をすると申し出た鬼ヶ島 正道がいたはずなのだが、どこに行ったのか。 「まあ、結局みんなある意味楽しそうだし、いいような気もするけど、うふん」 と、倶利伽羅 おろちが周囲を見回してみれば、パーティー会場で適当に飲食物を調達してきたらしい正道がちょうど戻ってきたところだった。 「彼らの目的はあくまでパーティ会場への乱入……。 わざわざ此方に来ることもないかもしれませんが、万が一ということもありますからな。 ええ、決してサボってるわけではありませんぞ」 「アタシも殴り愛なう、はめんどくちゃいから忍びこもうとしてるコを中心にお帰り願おうかしら? 残念無念まったライネーン……ガチ特攻してくるコは他の人に任せるわん」 確かにおろちの幻想殺しとリーディングで、かなりの警戒は出来るのだが。 「俺、大丈夫なんかなあ……」 智親がちょっとだけ遠くをみて、呟いた。 往々にしてその佇まいが年不相応と言われ続ける少年が、三高平に一人いる。 焦燥院 フツ、その人である。 しかし今回ばかりは歳相応に、彼は悪戯を行うべく執念を燃やしているのであった。 そのあたりにごろごろしているジャックランタンをひとつ頂戴し、式神にして使役。 和泉の考えたのとはまるで違った経路から侵入しようとするという、これはこれでなかなかの奇策である。 そしてもう一人。やっぱり奇策を考える女性がいた。 烏頭森・ハガル・エーデルワイスである。 廊下の真ん中に、唐突にどかんと設置されたスワンボート。水もないのにスワンボート。 (さぁ笑え襲撃者。敵が現れたら……フフフ、今宵は特別、重火器持ってきちゃいましたw バカバカ撃ちまくりですよー♪ アハハハハハハッハハhhサhsww)←トリガーハッピー ――あわれジャックランタンは穴だらけ。 「……捕まったか。だがそれは想定の範囲内。 百鬼夜行とはいかねえが、オレを捕まえない限り、式神は止まらんぜ」 式神の破壊を悟り、フツがにやりと笑みを浮かべる。 そして幻想纏いから新たなぬいぐるみを出そうとして――ない。 「あれ?」 持ってくるのを忘れたものは、どうしようもない。 そのあたりのジャックランタンをもう一つ頂戴しようとした時。 「焦燥院さん、確保です」 式神使役の為に集中していたフツの背中をぽん、と叩いたのは三輪 大和。 ファミリアー持ちを警戒して、彼女もまた熱感知で警戒しながらキャンパス周辺をウロウロしていたのだ。 「こちらの動きを把握され続けるのも癪ですしね。 ――私、この防衛戦に生き残ったら、お腹一杯甘いものを食べるんです」 にっこり笑って、でも大和さんそれ死亡フラグだから! ● 襲撃に気が付かない振りを続け、迎撃布陣を整えておくつもりだった。 しかし、スキルを使用した本気の襲撃が相次ぐ中では――エアガンが当たれば「死んだ」ことにしてもらうような、ある意味『ぬるい』模擬戦とは行かなくなってしまっているのは、間違いなかった。 高原 恵梨香は、沙織を始めとする非戦闘員の退避を検討する。 「室長、ここはアタシが命に代えても食いとめます。どうぞご無事で」 「そうもいかんだろ」 表情を崩さない沙織の声がどこか暢気にさえ聞こえ、恵梨香は眉を寄せる。 「お前らばかりに戦わせるしかないってのも、それはそれで寂しいもんだからな」 「ですが」 「それに何より」 そう言って沙織が恵梨香に背を向ける。そこには。 「これはさおりんを抑える事でアーク側が天才なる頭脳で悪戯班阻止の作戦を伝達させないようにする為の立派な役割なのです(きりっ」 沙織の腕に絡み付いて離れそうにない悠木 そあらがいた。 「さおりん確保~確保~。今日のあたしはサキュバスなのです。さおりんの血を吸ってメロメロにしてやるのです」 仮装はサキュバスなのだが、それはヴァンパイアではなかろうか。しかもそあらさんビーストハーフだし。 「どうです?メロメロになったです?」 上目遣いで可愛く質問するサキュバス()。本当にカプッとすると大変なので、真似をするだけではあるのだが。 「うん、メロメロだね。いいこいいこしてあげよう」 「このままハロウィンデートするですよ」 きゃっきゃと沙織にじゃれつくそあらに、恵梨香がひとつ咳払いした。 「これはあくまで確保の為なのです(←半分忘れてた)」 「……室長、ハメは外されませんように。 それと、負けた方が会場の片付けと掃除よ。いいわよね?」 「え、なにそれ」 ● 講堂の外では、徐々に決着がつきはじめていた。 小手鞠 深弥やアルジェント・スパーダをはじめとして、結構な数のリベリスタがそこかしこで倒れている。 多くの場合は体力や気力が尽きて倒れているのであって、大怪我を負っている者はいないのが救いだろうか。 もっとも、まだ動きまわっているものも結構いる。 「なんだか戦争みたくなってるみたいですね」 倒れた人の額や頬に『カレーなう』とマジックできゅっきゅと書いてまわるのは宮部・香夏子。 「香夏子本気なので水性など使いません。本気モードの油性です(キリッ)」 鬼や、鬼がおる。 そんなマジックでビーストハーフやフライエンジェの、羽や毛の部分に書いた日には、破壊力も倍増に違いない。 天使の歌で悪戯班の体力を回復させて回っていたニニギア・ドオレも、段々動き回る人の少なくなった戦場で、倒れたビスハのしっぽとしっぽを結んだりしていた。地味に効果大きいんじゃないだろうかその悪戯。 あと、時々倒れた人を治療しては飴をもらったりもしている。 ミニスカ風の白小袖、雪女風の衣装で雪兎を主張する天月・光、沖縄でよく見るシーサーの格好をした雪白 桐。 この寒暖コンビの悪戯などは、地味に凶悪だった。 「花咲か、花咲か」 と、高所から糊を眩した花びらを撒きまくったり、釣り竿から吊るしたこんにゃくを人の首筋に当ててみたり。 最凶だったのは、トイレ入り口に使用禁止の札を張りつけたことだろうか。 本人はそのつもりがないだけに恐ろしさを発揮していたのは、深町・由利子の配った発光するキャンディである。 「何故かこれをやってくれっていわれたのよね……」 納得の行かない表情の由利子さん。着ているのは何故かメイド服。二回言いましょう、メイド服。 悪戯班の迎撃のはずが、一体どうしてこうなった。 戦場で倒れてる人を積極的に助けてまわるのは羽柴 壱也。 「大丈夫? はい、とりっくおあとりーと! 飴ちゃんあげよう~」 「ありがとう……ん?」 起こしてあげた相手配っている飴の袋の中には、コーポ『BLE』のポストカードが入っているのであった。 「こうやってコーポに餌……人を集めていくんだよ、今後のために!」 ちのうはん()。 劉・星龍はヴィンセント・T・ウィンチェスターにタバコを一本分けてもらっていた。 「こちらを狙撃してくるであろうスナイパーを逆狙撃する……つもりだったのですが」 そういう手段を取った者がいなかったわけではない。少なかったというだけで。 近場のビルの屋上。そんなわざわざ寒いところに陣取って、風邪ひかないよう気をつけて戦う地味なお仕事。 煙草の煙がなぜだか染みる。 「屋外の斥候役を買って出て、半分は高みの見物を決め込んでいたのですが。壮観ですね」 建物に被害は殆ど出ていないが、眼下はまさに死屍累々。 二人、黙って紫煙をたなびかせる。 梅子が講堂から出てきて、外の惨状に驚きの声を上げている。 それを見つけた桃子が、何か悪戯をしに行ったのが見える。 手に持っていたのは接着剤だったようにも思えたが、まあ、ここで暴れた所で致命的なことにはなるまい。 なんだかんだでパーティーは無事に終わったようであり――三高平の平和も今日の所は守られたようである。 たぶん。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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