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【七罪+】暴欲

●虚数欲求パラドキシア
 欲しい。
 欲しい。嗚呼、欲しい。
 あれも欲しい。これも欲しい。もっと、もっともっと、もっともっともっとだ。
 欲望が欲望し欲望として欲望する感染概念。無限連鎖する螺旋幻想。
 願望、希望、待望、志望、望むことこそが欲の原点であり、渇望は渇望は渇望は渇望は渇望は―――
 空白。停滞。鎮静。逆転。
 欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。あれが欲しい。どれが欲しい。それが欲しい。
 欲しいという期待も憂いも努力も堕落も欲しいと言う思想理念根源始原それそのものが欲しい。

 理由理論理解理屈を問われ群がるタールの蟻塚で尚も上を見上げ雲間すら突き抜けた
 成層の遥か上空より大海を背に星々の瞬きすら掴むべく手を伸ばし有象無象を蹴り落とし
 嘲笑う精神性も忘れ欠乏した感情も欠落した過去も集落に討たれけたたましく罵倒する
 猛禽の谷底すら啓蒙に平伏し屈辱の汚物に塗れた世界すらが欲しい。
 理念に穴開き耄碌した概念は憂鬱に草臥れた点滴の一寸にも満たぬ流用の歌姫に傅く白楼の
 押しこみ強盗すら怨嗟に漏らして舌を噛み潔癖の流浪に負われてた証明の空蝉にも烏滸がましい
 滑舌の山河が惨禍が讃歌が散花が欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい。
 渇望は渇望は渇望は渇望は足りない足りない望みが足りない欲が足りない満たされない
 満ちない埋らない形にならない声にならない纏まらない欲しい。
 
 悪罪は堕落を重ね、欲求の深淵はヒトのそれをすら虚数にする。
 最早一片の論理性も失われた飢餓の極地は、遊楽の一歩として血染めの大地に降り立った。
 渇望者。悪天候の刑罰に塗れた罪は侵食を加速し、不都合の開戦が号砲と共に掻き鳴らされる。
 ――では、幕を開けよう。災厄の残滓の幕を上げよう。最悪の残響の幕は裂けよう。

 地の底から這い出したそれは、黒く黒い昏いだけの溶け出した影。
 絶望と絶望と絶望の果てに辿り着いた人間の原点。罪。罰。ヒトの原罪。
 過去より脈々と続く――現在。

●断絶運命カタストロフ
「緊急事態」
 突然車に拉致されたリベリスタ達へ向けて、予知の少女はかく語る。
 告げた声音は余りに切迫している。普段から余裕は無くとも感情を余り見せる事の無い、
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、はっきりと繰り返す。猶予は無い、と。
「先の一件を受けて、E・ゴーレム『妬心』の出現地点に送った調査隊が、
 こんなのを映して来た。大至急討伐しないといけない」
 輸送車の小型モニターに映し出されたのは、体中に口と瞳の生えた黒い人型。
 周囲の瓦礫の大きさを改めて確認し、その巨大さに気付いた全員が一斉に総毛立つ。
「大型E・フォース、フェーズ3。将軍級。識別名――『暴欲』」
 それが何か。問うまでも無い。暴食を喰らった強欲。正しくそれそのままの姿形。
 全長は――大凡5m、と言った所だろうか。巨大である。余りにも。

「その大怪獣みたいなの。脅威度も戦闘力もフェーズ2の比じゃない。
 危険過ぎる。でも、各地の殺人鬼の対応で今はこっちも手一杯」
 エリューションはフェーズ3まで到ると界位障壁なる物を手に入れる。
 これは現代兵器のほぼ一切を無効化する。BC兵器は元よりミサイルも空爆も一切合切である。
 核による攻撃は流石に前例が無い物の、これも恐らくは殆ど効果が無いだろう。
 正しく異物であり、異端。リベリスタ以外には如何様にもしようがない――欲の権化。
「導入出来る人員は10名。これが今のアークの手一杯」
 イヴが言うからには間違いないだろう。通りの四叉路を曲がると、徐々に道が切れ切れになって行く。
 三高平市郊外。かつて悪夢と称される惨劇の有った、その外れも外れ。
 血の色に染まった夕暮れの廃墟。彼方に灯る光が見える。
 それは勿論、人々の生活の灯りではない。眼光である。影のシルエットが、見える。

「――送れるのはここまで。ここからの距離は大体200m程度。戦って、勝って
 ……皆で、帰って来て」
 依頼の内容は至極簡単。望まれている事はたった2つ。敵性エリューションの打破、無事の生還。
 それだけ。しかし、ただそれだけが此処まで遠い事も、そうは無い。

 ここは地獄の三丁目。過ぎた悪夢のその最果て。
 ――――――戦いが、始まる。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年10月12日(水)22:43
 37度目まして。シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 vs大怪獣。ガチ純戦です。以下詳細となります。

●依頼成功条件
 E・フォース『暴欲』を討伐する。

●E・フォース『暴欲』
 フェーズ3。体中に口と牙と瞳を持つ影の巨人。
 現代兵器の無効を始めとして『暴食』と『強欲』を合わせた様な能力を持つ。
 総合的な能力が高く、凶暴で攻撃的。巨体の割に素早い。
 また、防御力はそれ程高くないものの、非常識に高い生命力を持つ。
・保有一般スキル:暗視、イーグルアイ、闇の世界

・保有戦闘スキル:
 バーサークビート:物遠貫。小命中、20m直線移動+直線範囲中ダメージ。
          【状態異常】[出血][流血]【追加効果】[物防無視][H/E小回復]
 オーバークラッシュ:物近範。中命中、大ダメージ【追加効果】[ブレイク][ノックバック]
 呪縛の魔眼:神近全。高命中、小ダメージ【状態異常】[呪縛][ショック]

 EX七罪・暴欲:物近単。特大ダメージ【追加効果】[物防無視][連撃][H/E大回復]

・性質:
 攻撃はより多くに多くのダメージを与えられる物、を優先します。
 H/E回復が行われる度、基礎ステータスが徐々にアップします。
 ベースとなるステータスは最終的な『強欲』準拠となっております。
 理不尽な程度に高いHPを持ちます。

●戦闘予定地点
 三高平市郊外の廃墟。時刻は夕方。人目は無く、光源も無し。視界は一定通ります。
 足場は若干不安定ながらぺナルティが発生するほどではありません。
 障害物は老朽化して割れ落ちたコンクリート壁等、多数。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
ホーリーメイガス
ニニギア・ドオレ(BNE001291)
★MVP
デュランダル
ランディ・益母(BNE001403)
デュランダル
降魔 刃紅郎(BNE002093)
プロアデプト
七星 卯月(BNE002313)
スターサジタリー
望月 嵐子(BNE002377)

●煉獄―Out Side Prologue―
 それは、掬い上げられなかった祈りである。
 それは、救われなかった切なる願いである。
 ただ平穏なままに、ただ大切な人と、ただ生きていきたいと。

 ――そんな些細な希望すら、否定された人々が居た。

●対峙―Get Ready―
「――怖い」
 『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は誰より真摯に真っ直ぐそれを見つめていた。
 人の欲に果ては無い。人は星すら喰い尽す生き物である。
 であればそれと向き合う事が如何なる恐怖か。余りにも巨大なその影、それは影絵の巨獣。
 170m。動悸がする。手が、足が震える。今にも踵を返し逃げ出したくなる。
「塔の魔女の次は原罪の大怪獣。この世界ほんと化け物ばっかだよね」
 『ガンスリンガー』望月 嵐子(BNE002377)が嘆息する。
 幼少から戦火に身を置き続けた彼女ですら、ここまでの脅威と相対する事は多くない。
 先に対した歪夜の魔女を思い浮かべて苦く笑む。だがそれはきっと、幸運だっただけなのだろうと。
「ああ、強大だからこそ、ここで何としてでも倒さねばならない」
 140m。『アンサング・ヒーロー』七星 卯月(BNE002313)は人見知りの臆病者である――と、
 常に自身をそう称す。だが、その自称は如何だろう。卯月はそれでも此処まで来た。
 人見知りであろうと、臆病だろうと、此処まで来たのだ。何処かの誰かを救う為に。
 それを果たして誰が、臆病と謗れるだろうか。
「まあ、此方を遥かに凌駕して強大というのは何時もの事だわ。臆せずに参りましょう?」
 『善意の敷石』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は対物ライフルを構えて嫣然と笑む。
 彼女にとっては敵が大きい事は福音でありそれ以外ではない。的が大きければ、狙い易い。
「……今回は修行じゃないので、本気出す」

 110m。そしてそれは『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)とて同様だ。
 死地を好み戦いを愛する彼女は、けれど先の敗戦の経験者の一人である。
 『暴欲』の瞳、そしてその俊敏性は彼女を写し取り、更に飛躍させたそれ。
 ――これを放っておく訳には、いかない。それ故の、本気。
「私の眼と、技、奪った代金は……命で贖ってもらうと、しよう」
 呟き、迫り来る影を仰ぐ。手には爪。向ける瞳は猛禽の如く細められ。
「……今度こそ絶対に退くわけにはいきません」
 80m。普段はおっとりとした『大食淑女』ニニギア・ドオレ(BNE001291)もまた、
 今度こそはと胸に沸いた恐怖を抑えつける。逃げない。逃げる訳には――いかない。絶対に。
 その硬くなった心身を、大きな手が解す。ぽんぽんと頭に載せられた手は、
 雷音とニニギア、最も欲の恐怖を知る2人を緩く撫で。
「大丈夫、俺は、俺達は必ず勝つ。だろ」
 『悪夢の残滓』ランディ・益母(BNE001403)は言い切って猛く笑う。
 手にしたグレイヴディガーは、この場の誰よりもの雪辱に滾る。今度こそ、勝つのだ。
「……単なる雪辱じゃない」
 50m。タイミングを見計らっていた『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が、
 鉄壁の防御を携えて構える。敗戦の苦味を誰より知る彼がナイフと盾を手に見つめる。
 既に自身の身を染め光を遮る巨大な影。その強大さに、彼はただの人だからこそ立ちはだかる。
 世界を守る事に英雄である必要など無い。絶対の強者である必要すらも、無い。
「罪を生むのが人なら、律するのも人だって事を」
 互いに踏み出し、彼我の距離――30m。
 ズ……ン。と、地響きが聞こえた気が……――した。

 それは闇である。無数の目に包まれた瞳。そして顎。人間を塗り固めて造られた醜悪なオブジェ。
 迫る、迫る、轟音と共に影で作られた牙が迫り来る。周囲の大気も空間を喰らいながら。 
「――示してみせる! 俺の総てを賭けて!!」
 圧倒的なまでの防御力。十字架のイージスが暴欲を受け止める。
 吹き出す血飛沫、鮮血に彩られる世界。暴れ狂う牙が体躯の全てに突き刺さる。
 蹂躙されない場所など無い。暴虐の曝され破界器の盾が軋む。
「良くやったぞ新田――いいだろう、ならば貴様等を勝たせてやる!!」
 黒馬にから飛び上がった『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)が、
 両手で構えるは獅子王『砕』。正しく百獣の王たる銘を携え金の比翼がはためき揺れる。
 大上段からの振り下ろし一閃。続けて二閃。気迫を込めた一撃が影を抉る。
「前菜の弾丸の盛合せで御座います……何てな!」
 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)のソニックエッジが、
 穿たれた影へ追撃を加え、痺れた体躯の動きが止まる――絶好機。
「光ってる上に巨大なんで随分と狙い易いことね」
「でっかいんだし普通より沢山食らってくれてもいいよ?」
 エナーシアの対物ライフルが射線を正確に通り影の頭部へ打ち込まれ、
 それと交差する様に嵐子のTempestが蜂の巣を突いた様な散弾を吐き出す。一斉射、更に二射。
「俺は誰にも――負けられないんだよォ――ッ!!」
 叫んだランディの戦斧が放つ疾風が、暴欲の瞳の一つを、穿つ。 
 
●死闘―Dead Or Alive―
 罅割れた様な音が聞こえた。あたかも落雷が落ちた様な暴力的な異音が響く。
 喜平、快、刃紅郎、天乃。四人の体躯が宙を舞い、大地へと激しく叩き付けられる。
「悪い、一旦下がる!」
「全力で、治すから――皆で、皆で絶対に!」
 快の声に応える様にニニギアの歌声が響く。瞬く間に癒える傷。しかし、足りない。
 相手の一撃に比して、回復速度が圧倒的に足りない。
「――生きて帰る、全員でだ!」
 圧倒的な暴力に指先が震える。自分は弱い。余りに脆い。けれどだからこそ――
「ここで戦線を補助するのが、ボクの役目だ!」
 雷音が恐怖を噛み殺して吼える。癒しの符が傷だらけの天乃を温かな光で包み込む。
「楽しい……楽しい、もっと、やろう」
 血を吐き出して天乃が微笑む。凄絶に、壮絶に。その後ろからはランディが駆ける。
 彼の眼には何が見える。彼の眼には己が見える。力を求め暴れる影絵の巨獣。
 あれは自分だ。力に溺れ、目的を見失った自分だ。自分の根幹その物だ。
 だが、彼は問う。力は何が為に在る? 答えが在る。彼の中には、まだ答えがある。
「だから、今度こそ……テメェに勝つ!!」
 力は責任。力は覚悟。力は――弱い者を、大切な者達を生かす為に。
 薙ぎ払われえるグレイブディガー。その次の瞬間。周囲が突然闇に染まる。

「っ……やはり使ってきたか、だが!」
 それは闇の世界。神秘に生み出された圧倒的な無光空間。
 半径10mを闇で包むそれに対策を持つ卯月は、境界ギリギリから太陽の如く闇を切り崩す。
 だが、元々が5mと言う巨体である。彼女の位置は闇全てを打ち消すには少々遠過ぎた。
「ふーん、多芸だね」
 精密射撃を撃ち込もうとした、嵐子の手が止まる。瞳を凝らしても其処には何も見えず。
「でも、中央には間違いなく居るでしょう」
 エナーシアの対物ライフルが火を噴き、闇の中央へと打ち込まれる。
 が、音が無い。手応えも無い。反応も無い。前衛に走りこんでいたランディも天乃も、
 そして今接敵せんとしていた刃紅郎もが敵を見失う。
 まるで闇に溶けてでもした様に、忽然と消えた巨体を――
「―――!」
 偶々下がっていた快が気付く。何故なら彼は既に一度見ていたのだ。
 そう、素体は『貪欲』、影絵の魔物。であるなら、その「闇」は果たして何の為に。
 以前戦った“奴”は 影に潜る力を 持っていなかったか。
「全力防御だ! 急げ――!」
 轟く音。ブロックを強引に外したそれが動く。その異音に身構える。
 立ち位置を変えた『暴欲』が全身の牙を向き出しに迫る。暴食にして暴欲。
 荒ぶり迸る狂乱の鼓動。彼らは既に最初に対している。故に分かる、その傍若無人が。
 バーサークビート。影より飛び出したそれが跳ねる。喰らう。

「こっの―――」
 その巨大な顎に真っ向向かい打ち込む弾丸。回復する事も出来ず守るにも向かない。
 嵐子には相手を傷付け殺す以外の業が無い。無い、けれど。でも、それでも――
「それでも、こんな世界をちっちゃな頃から護ってきたんだよ!」
 矜持がある。誇りがある。譲れない物がある。飲み込まれる一瞬まで打ち込まれる弾丸の、嵐。
「くくく……これはいい、まるで神話だな。だが」
 刃紅郎もまた、退かない。狙われたのではなく、狙われてやったのだと言わんばかりに。
 獅子王を構える。タイミングは一瞬。迫る牙の速度は圧倒的なまでに速い。
 それを返す刀で打ち据える。凡百の有象無象に、退く道を“皇帝”は持たない。
「凡愚の欲望如きで、王が喰らえるか――っ!」
 体躯へ潜りこむ牙と牙と牙。鮮血を吹き上げるも王は倒れず。振り抜く一撃がその一本を確実に折る。
「ははっ……まーったく」
 それらを見て、暴虐の終点。最後に牙を向けられた喜平が力無く笑う。
 無茶苦茶である。誰も彼もが力の全てを賭している。逃げれば良い物の立ち向かう。
 セイギノミカタと言うのは本当にしんどい。きつい。割に合わない。なのに。
「欲望が罪とは御冗談を、そいつが無ければ誰も何にも成せない」
 そんな物を見て胸に灯る物がある。無様に飲み込まれ血達磨にされる仲間達に滾る想いがある。
 それに殉じるのを自己満足だと――欲望だと、言うのならば。
「……だから俺は俺の欲望を以って、御前を倒すよ」
 残弾は十分、距離も最良、天気晴朗なれど波高し。
「それまで、倒れたりは、しない」
 ショットガンから吐き出される無数の弾丸に運命の祝福を込めて。撃つ。撃つ――撃つ。

●命を賭して―Say don't Give up―
「ランディさん、そっちはどうだい」
「嗚呼――いいね、ご機嫌だ」
 誰も彼もが運命を噛み潰し前へ立つ。時に入れ替わり時に立ち代わり。
 『暴欲』と対して傷付かぬ者など居ない。けれど生きる。生きて、居る。
「――こほっこほっ」
「だ、大丈夫かニニギア、歌い過ぎなのだ!」
「大丈夫……大丈夫よ、私だって、守られてばかりじゃないんだからっ!」
 声が枯れる程に、心が焼き切れる程に歌っても、傷付き、砕かれ、痛んで行く。
 されど尚立ち上がる、幾度倒れ、幾度吹き飛ばされても。
「精神力を補給する。私の前で、誰一人として死なせはしない」
「当たり前よ、化物を倒すのはいつだって諦めない人間だわ」
 銃弾の雨が降る。幾度も幾度も雨が降る。影絵の巨獣は動き続ける。
 果たして幾つの瞳を潰したか。20か、30か、はたまた50か。
 倒れた快が口にナイフを咥える。地を掻き毟って意識を繋ぎ止める。  
「本当、楽はさせて貰えないねえ」
「喋ってる暇があるなら撃つ! アタシ達は攻撃で貢献しなきゃ!」
 天乃が噛み千切られた肩を抑える。血が止まらない。祝福が削り取られて行く。
 お返しに放った死の爆弾が爆ぜ、千切れて飛び散った影が虚空へと消える。
 罪禍の大地を濡らす色は、余りにも赤く、余りにも黒く、
「まだ、私は倒れてないよ……ほら、続けよう!」
「我の前に立つな凡愚、今すぐ疾く平伏すがいい――!」
 影絵の巨獣が宙へと浮く。吹き飛ばされ、落ちる。変化する立ち位置。
 その総量は随分と削れ、かつての『貪欲』の2倍程度。その体躯の顎、瞳の全てが、開く。
 何がそれを引き寄せたのか、或いは、確かにそれは運命だったのだろう。
 均等距離に快とランディ。彼我の距離は大凡10m。

 すぐさま前に進み出る快をランディが押し退ける。それをしなければ、進めない。
「決着を、着けようぜ」
 戦斧を構えるランディに『暴欲』の体躯が膨れ上がる。2倍、4倍、6倍、飽和。そして――
「応えろ相棒……今こそ力を貸せ!」
 飲み込む。圧倒的質量を以って暴欲が降り注ぐ。否、圧し潰す。否、喰らい尽す。
 世界は一瞬で黒に染まり、直後激痛と眼球に流れ込んだ鮮血で白く赤く明滅した。
 男は墓掘りと名付けた斧を振るう。狂乱に狂乱で応え、暴力に暴力を返す。
「消えろ、消えろ、消えろ消えろ消えろ消えろ!」
 獣と獣が喰い合う。互いの命を賭して。やっと此処まで来たのだ。やっと此処まで……
「『俺』よ! 消えろ――――!」
 叩き込んだ一撃が地表へ届く。刻む、進む、穿つ、手を掛ける、断ち切る、足掻く。
 そして抜け出す。地力で暴欲のその内側から。運命の加護が削れていくのが分かる。
 何所が折れている。壊れている。そんな実感すら分からない。全身が発熱した様な痛みを訴え。
 けれど、男は嗤った。込み上げる笑い。手には墓堀り。
 立っている。まだ立てている。先は地に伏せさせられた一撃。意識を抉り取られたそれ。
 屈辱を呑み下す。噛み締められ過ぎた奥歯が割れる。だが――乗り切った。
「『俺』の、勝ちって事で、良いよなぁ――!!」
 両手で構え振り下ろす一撃。ガツンと、地に付き立てられる斧。
 だが、終わらない。それで終わりではない。終われる筈が無い。『暴欲』とは渇望である。
 存在が渇望である以上は不足は補わなくてはならない。補い得る。補い得るに決まっている。
 これだけの力があるのだ。あるのだから、その全てを呑み込めば、今度こそ満たされるかもしれない。
 そうだ、恐れない為に力が必要なのだ。逃げない為に力が必要なのだ。生き残る為に力が必要なのだ。
 だから足りない、全然足りない、足りない足りない足りない――全く足りない。
 でないと、でないとでないと、でないと奴が

 それを貫いたのは、一条の光。精神力など既に尽き果てている。故にそれは唯の一撃。
『Bless You』
 祝福を貴方に。射抜いた狙撃手が瞳を細める。化物を倒すのは、何時だって。
「次に生れてくる時はせいぜい幸せになりなさい」
 唯の人間の、精一杯の悪足掻きなのだから。

 影が揺れる。影絵が揺れる。未だこの地に未練を残す様に。
 徐々に千切れて消えていく。溶けて毀れて失われて行く。
 誰の目にも分かる。それは既に終わっている物だ。もう何を奪う事は出来ない。
 もう何を掴む事も出来ない。掠れて消えるだけの渇望の残滓。
「何でこんな物が生まれたんだろうね」
 地に降り立った卯月が瞳を細める。それに雷音が一歩進み出て、触れた。
 サイレントメモリーを持つ彼女が、触れてしまった。
 戦いの幕は降りる。影絵の巨獣はその命脈を絶たれ、血塗れの大地には静寂が戻る。
 だからこれはきっと――次へと続く、もう一つのプロローグ。
「ひ――――――き―――――――――――――――ぃ――――」
 全身を駆け巡ったのは人間の根源的恐怖。
 それは『暴欲』の比ですらない。神経を直接握り締められ引き千切られる様な濃い狂気。
 狂ってる、狂ってしまう、死んでしまう、死ぬ、死ぬ、死ぬのは恐い、恐い、恐い恐い恐こわいこわいこ
 疲弊した精神が焼き切れる。それは心の安全装置。
 自分が何を見たのかも分からぬまま、雷音はゆっくりと――意識を手放した。

●奈落―In Side Prologue―
 日常は突然壊された。
 日常何て物は無かった。なかった。ナカッタ。natakatta
 全ては薄氷の上の虚像だった。迷い子を惑わす蜃気楼だった。
 砂上の楼閣に騙されていた人々は逃げ惑った。
 惑った、迷った、彷徨った。そして破綻した。
 誰かが誰かを殴った。誰かが誰かから奪った。泣き喚いた。叩き付けた。静かになった。
 狂乱した。狂喜して凶器して共起して狭軌した。希望と絶望が入り混じり崩落し、
 殺し合った殺し合って転び合って壊し合って笑い合って泣き合って亡き合って混ざり合って。

 悪夢から生じた簡単な破綻は小さな希望を生み、希望が絶望を産み落とし
 その子供が澱みと交配して煉獄と奈落が生まれた。煉獄と奈落は互いに競い合い人を生み出す。
 人という名の罪の子を。罪という名の人の子を。誰も気付かなかった。何も気付かなかった。
 それは悪夢の一欠片。濃く濃く濁った悪夢の一欠片。余りにも濁り過ぎて取り残された一欠片。

 ――嗚呼、それはナイトメアダウンの遺子。ミラーミスの堕し子。
 血染めの地の底で、死と欲と絶望孕んだ奈落が――出産の時を、待っている。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
ハードシナリオ『【七罪+】暴欲』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

確りと練り込まれた良い戦闘プレイングでした。
攻撃に偏重気味であった為に相応の被害が出ておりますが、
その位やらなくては打破出来ない相手でもあり、見事成功です。
MVPはプレイングに込められた熱量を酌み、ランディ・益母さんに贈らせて頂きます。

この度は御参加ありがとうございます。
シリーズ【七罪】もターニングポイントを過ぎました、またの機会にお逢い致しましょう。