●一節 むこうには一つの死体がある。 あっちには三つの死体があるわ。 生きてる貴方って、とっても個性的だと思うのよ? ――――『ノスフェラトゥ』シトリィン・フォン・ローエンヴァイス ●スポイラーズ 「どいつもこいつも皆一緒の世界なんて、少なくとも俺は御免だね」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の表情は心底からの嫌気に満ちていた。 彼が『良く分からない調子』で物事を話し始める時は大抵が『仕事』に関わる時である。いや、訂正しよう。彼が良く分からない事を言うのは日常茶飯事だが聞かされたのがブリーフィングルームならば大抵間違いなく仕事である。 「輝きをスポイルする事だけ熱心なクソな世の中にジャンヌ・ダルク」 「俺もお前と一緒の世界は御免蒙る」 「上手い事言うね、どうも」 伸暁は絶妙に切り返したリベリスタの顔を眺めて軽く笑った。 「それでどんな話なんだ?」 「今回の仕事はとあるフィクサード集団を蹴散らしてアーティファクトを回収する事。 ああ、そう悪辣な連中でもないから必ず殺さなくちゃいけないってレベルの連中でも無い」 「簡単な仕事ならそれに越した事は無いけどな」 「当然、簡単にならない理由はあるぞ。それはこれからだ」 伸暁の言葉にリベリスタは肩を竦めた。 伸暁の『余計な一言』から始まる話は大抵何らかの『面倒臭い理由』を持っている。そして人の悪い彼の笑みを見るにそれは今日も例外ではないらしかった。 「フィクサード達はハートエイクな『挫折者』の集団だ。 人より外見が良く生まれなかった。人より能力が足りなかった。人より不幸せだ…… 全てが連中の責任かどうかは知らないし興味も無い。だが、少なくとも連中が酷くネガティブなコンプレックスを抱えまくってるのは事実だな。 寄り集まって傷を舐め合い、光ある世界を穴倉から見上げて妬み、嫉む。全く不健康極まりないけどそれだけならまぁ――そんなに害があった訳じゃない。 問題は連中の教祖様――轟山(ごうやま)がそれは有効なアーティファクトを手に入れちまったって事だ」 「どんな品だよ」 「名前は『悪平等主義(アンフェア・バランサー)』。 効果もその名の通り。一定範囲に存在する対象の能力を全て『自分に合わせる』優れものだぜ。そもそも『波長』が合う人間――轟山にしか使えないみたいだけどね」 「……おい」 「何?」 「という事は何だ。それが発動したら俺達もその僻みっぽいのと同じ能力に……」 「オフコース。物分りが良い奴はお兄さん大好きだぜ?」 聞くからにしょうもない連中に実に後ろ向きな奇跡が与えられたものである。自身の力を高める類のアーティファクトは珍しくは無いが相手を自分に合わせるというのは珍しい。 「フィクサード連中は基本的に皆、轟山より弱くて数が多い。 お前達は基本的に皆、轟山より強くて数が少ない。能力が同じになれば不利は不利だ。 しかしまぁ、やりようはあるだろうな」 「……やりよう?」 「『悪平等主義』のフェーズは低いから。最終的には全てを同じにしてしまう魔力を発揮するのかも知れないが――現時点では基本的な能力値に効果が限られる。 つまり、お前達が受ける影響は基礎能力値のダウンに留まるって事だ。お前達が持つ多彩なスキルも、根性も、戦略眼も頭の回転も武器の性能も取り敢えずは無事のままって事。 グッドだろ? パッシヴ能力で勝負するタイプだけは――少し苦労すると思うけどね」 「……ま、何とかしてみるか」 酷く疲れそうな依頼に溜息を一つ。席を立つリベリスタに伸暁がもう一言。 「これも勿論だけど、やり方次第じゃ利用だって出来るかもよ? 例えば重装装備の速度とか。轟山より遅ければ、却ってプラスに働くんだから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年10月07日(金)23:57 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●平等って公平? 「皆一緒にスタートして、皆一緒にはい、ゴール。……楽しいモンッスかね?」 心の底からしみじみと――漏れた言葉は『守護者の剣』イーシェ・ルー(BNE002142)のもの。 「苦手も得意もなく、皆同じっつーのは歪だと思うんすよね。 スポーツができる、勉強ができる、どっちも出来なくても何かが出来る―― 個性的なのは大事ッスよね。皆一緒は簡単ッスけど、アタシは御免被るッス」 世の中には個性の数だけ違いがある。 個は互いに違うからこそ個であり、同一でないからこそ世界は常に進歩を続ける。 しかして、世界というものが、運命というものが時に不平等と矛盾を孕むのは誰にも知れている通りである。 唯の生まれによって十年も生きられない少年も居れば、安穏と富裕に包まれて何一つ努力も不自由も無く人生を謳歌出来る者も居る。神の前に人は皆平等である――等というおためごかしを心から信じ抜けるのは余程の阿呆か、余程の聖人ばかりに違いない。 同一でない事は進化であり、進歩であり、価値である。 しかし、同一でない事は不実であり、不平等であり、無価値でさえあるのだ。 人の世の中が理想のお題目を謳う理想主義を駆逐しようとしていても、その美しい言葉が唯の虚言に過ぎなくとも。 満たされぬ人は心の奥底、何処か奥底で『平等』という言葉に夢を見るものである。それがどれだけ馬鹿げた冗句に過ぎないとしても。 「なんともまぁ情け無い連中だね。 その鬱陶しい連中と同じにされるなんて考えただけでも気分が悪いよ」 夜の埠頭、一時より随分と冷たくなった空気を『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)の言葉と同じような温い風が揺すっていた。 涼やかに漂う潮の香りは不快で無い程に鼻腔をくすぐり、十月の風情を醸していたが相手が潮風程に爽やかでは無いのは明白である。 「フィクサードであるだけでノーフェイスよりは確実にマシだと思うのだけど。贅沢な人達よね」 「(悪)平等……と言いつつ……結局……格差が……あるの」 感情の読めない淡々とした調子で『善意の敷石』エナーシア・ガトリング(BNE000422)。 その言葉にエリス・トワイニング(BNE002382)が何処か茫洋と相槌を打った。 月の無い夜の埠頭に彼女等十四人のリベリスタ達が姿を見せたのは当然ながら与えられた任務が為にである。 可憐なる少女達の唇に一律の否定を唱えさせるのはフィクサード・轟山率いる結社――通称『轟山教団』の存在だった。此の世に蔓延る総ゆる格差を認めず、許さない……という彼等は妬みと嫉みの集合体である。 「それにしても厄介なアーティファクトですね。 皆が皆、等しく同じ。但し、全てが下方向きという。 その厄介なアーティファクトを現在の持ち主である轟山から奪い取らない限り、その状態が何処まで広がってしまう事か……」 『鋼鉄の戦巫女』村上 真琴(BNE002654)の懸念は戦慄の未来の提示。 教祖たる轟山が『強制的に周囲を自分に合わせてしまう』という恐ろしい指輪――『悪平等主義(アンフェア・バランサー)』を手に入れた以上は小物の些細な集まりと見逃しておけなくなったのも当然である。 とは言え、悪平等主義がプラスに働く事もある。 「アーティファクトはもっと凶悪なものばかりと思っていたけれど、こんなものもあったんだね。驚きだ…… しかし私はまだまだ新米で脆弱だし、却って十分な戦力になれるのかも知れないね」 破界器は大多数の参加リベリスタを引き下げると同時に、実戦経験の殆ど無い『鷹蜘蛛』座敷・よもぎ(BNE003020)の能力を引き上げる事にも貢献する。『基本的に』彼等はリベリスタ達より弱いがそこはそれ相対的な部分もあるという事だ。 「何にせよ、頑張ろう」 よもぎは彼方に見える埠頭の倉庫に視線を投げながら一人ごちた。 刻一刻と作戦の予定時刻が近付いてくる。 パーティの立てた作戦はまずは外の見張りを引きつけて離し撃破後。 中の戦力を囮で誘き出して速やかに轟山を制圧するというものである。 「ったく、男がンな事でどうするってんだよ……アイツラ……」 「ああ。総ゆる可能性を殺す。誰かにとって都合の良い『悪平等』か。そんな世界、俺は嫌だね。『男としても、人間としても』」 『ザ・レフトハンド』ウィリアム・ヘンリー・ボニー(BNE000556)が舌を打ち、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が頷く通り、 「自分を人と比べる必要が無くなるというのは、まあある意味平等なのかもしれんが…… どうせなら、能力水準の高い奴に合わせて欲しいもんだ。低い奴に合わられると、万事物事が回らなくなる。いい迷惑だ」 或る意味で一番辛辣に状況を否定する『燻る灰』御津代 鉅(BNE001657)の言葉の通り。 己が進歩と努力を怠り、澱んだ水場で腐り行く――彼等のメンタルを肯定する事は少なくとも彼等リベリスタ達には不可能だった。 自らの運命を燃やし、見果てぬ誰かの為に剣を取る彼等ならば当然の事。 「ボクは特化した部分のない器用貧乏ってやつかも知れないですが…… それに不満もないですしそれでイイと思ってるです。 勇気や根気や努力だけなら他人に負けない自信もありますし!」 『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)が気を吐く。 「轟山教団、人も多そうだし……日頃のストレス発散に使えそう!」 人の悪い笑みを浮かべる『悪戯大好き』白雪 陽菜(BNE002652)の動機の方は兎も角として、やる気の方は十分である。 「人払いは済んでるわ。ライトは配ったわね。じゃあ、そろそろね。時間になるわ」 「いっちょやってやるのです」 何時もと同じようにクールな調子のまま『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)が言えば、『何時ものゆるい可憐さを今夜は少し引き締めて』――『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が頷いた。 「あたし、ネガティブな人って苦手なのです。 特に男の人はちょっと傲慢でワガママな位が良いのです。 でも女の子にだらしない所はいつもむぅっとするですけど……」 ――良く見たら、何にも変わっていなかった。 ●グダグダするよ 「準備はしといて損は無ェし、できる事を怠った瞬間から敗北の流れってのは始まると思ってるんでな」 成る程、ウィリアムは今夜の作戦にも言う程の準備を整えていた。 埠頭周辺の地図を頭に入れ、的確に戦力を配置する。 念には念を入れ、作戦を実行するリベリスタ達は優秀である。 少なくとも上を見上げる事ばかりに終始し、努力を放棄している連中より確実に優秀である。 何がという話では無く、何事においてでも、である。 轟山の『悪平等主義』を警戒したパーティは倉庫の外で埠頭の警戒に当たる四人のフィクサードを実に二百メートルは引き離し、誘き出して無力化する事に成功していた。 ――お兄さんたち何してるの~? 暇ならアタシ達と遊ばない? 向こうに友達もいるし―― 少しでもまともに見張りという任務に努めようとする心があったならば、夜の埠頭でかような声をかけてくる美少女――陽菜を相手に警戒を働かせない筈が無い。少なくとも彼等は自身がフィクサードである事を自覚し、夜な夜な怪しげな集いを行なう事が何某かの『敵』に歓迎されない事を知っているのだから。しかし「あいつ等ばっかり楽してずるい。どうして俺達がこんな面白くも無い見張りをしなければならないのか」という実に分かり易い彼等のメンタルはその場に現れたハッキリ言って物凄く胡散臭い美少女の誘いすら正当と受け止めて釣り出されたという訳だ。 能力値の落ちていないリベリスタ達にとって見張り達は余りに容易い相手である。 「お前等、一応は見張りだろうが」 呆れ切ったかのような鉅の言葉に拘束された見張り達はぶつぶつと口の中で何事か文句を言っている。 その内容がこの期に及んで「なんで俺ばっかり」とか「何でお前等ばっかり強いんだよ」とかしょうもない恨み節に終始している辺り流石であった。 「あー、イライラする。 どいつもこいつも自分が世界一不幸ですって顔しやがって。 多かれ少なかれこの業界のやつらはしんどい思いをしてるんだ。 それを自分だけがみたいな顔して鬱陶しいんだよ!」 眉をぴくぴくと動かす瀬恋はどうも感情的になっていた。 確かにシンプル過ぎる程にシンプルな――どうしようもない連中は蓮っ葉な彼女には受け付けない人種である。 彼女の場合、我慢という許容量が人よりも少なめである事は確かだが――今夜ばかりは問題がどちらにあるかは明白であった。 「……で、どんな人なの? 轟山さんって」 エナーシアが問いかける一方で、 「口に瞬間接着剤を塗ってあげよっと。ガムテじゃダメなのか?それじゃ面白くないじゃん!」 彼等をこの場に釣り出した張本人の陽菜は不穏なる言葉を吐き出している。 「接着剤、接着剤……」 「ちょ――っ!?」 ●グダグダするって パーティの作戦は二段構えである。 戦国大名はかの有名なる島津義久が考案・実践したと言われるその戦術は少数の部隊を先んじて突出させた上で被害に留意し後退し、逆に釣り出し突出させた敵戦力を伏せた兵力で撃滅するという実に理に叶った戦術である。 「アークの者だ! 轟山、お前を逮捕する!」 アークの皆も似たような光景を見た事があるだろう。 例えば、あの雪の降るクリスマス――三高平の同じ埠頭で叫び声を上げていた連中の顔を。 例えば、あのバレンタイン。此の世の秩序を守る立場でありながら一夜の悪夢に身を委ねた仲間達の顔を。 キラキラと充実した、気力と活力に満ちたリベリスタ達の訪れは――暗く湿った倉庫で無為なる時間を過ごし続ける彼等にとってはそれ自体が不快なる異物であった。 「ぬあああああ――!」 果たしてパーティの作戦はそれ自体が奏功していた。 扉を蹴り破るように開けたリベリスタ面々は何れも凡庸なるフィクサード達を存在からして上回る。能力以前の問題で。 「こんな教団があったのか……重苦しいね」 よもぎの感想は恐らくはほぼ誰にも同じだったろうか。 「面からして気に入らねぇんだよ!」 「主人公でございみたいな顔しやがって!」 「俺だってイケメンに生まれてりゃ人生イージーモードだっつーの!」 「何ですか、この人達は……」 猛烈な勢いでがぶり寄る教団員達に顔を引き攣らせた七布施・三千(BNE000346)がドン引いた。 予めパーティの面々に翼の加護を授けた彼は付与効果が『悪平等主義』に無効化されない事を確認し、安堵する。 「危険な技をぶちこむのです。味方の人は巻込まれないように離れて下さいです!」 念を入れるようにジャスティスキャノンを放ち半身を翻す快に続き、そあらが明後日の方向にいちごばくだんを投げ放つ。 轟山の無責任な命中力にいちご奥義の粗悪さが加われば当然の事である。可憐な美貌を悲しみに染めるそあらさんはさて置いて、 「しかし哀れなものだな、轟山につく限り、お前達はいくら強くなっても轟山と同じにしかなれない訳だ」 クールに紫煙を吐き出した鉅が殺到する教団員目掛けて、踊るようにその刃を繰り出した。 「……ちっ、信じられん位に技が切れん」 戦果こそ些か違えど、効果が思うように発揮出来ないのは鉅も同じである。 「うーん、何だか変な感覚だね……」 大型のミサイルランチャーを肩に担ぐようにした陽菜が不思議そうな顔をして呟いた。 練達の技をそれ相応に練り上げたリベリスタ達にとっては『轟山のテクニック』というのはどうにも何とも慣れない感覚であった。染み付いた感覚と現実の乖離は酷いやり難さを彼等に押し付けている。 「なかなか強いじゃないか、すぐ防御してしまうよ」 スピードに乗って身を翻すよもぎの言葉は本気かおだてか。 「……持っているアーティファクトの有無を見ると、平等にはしきれていないなと感じてしまうね」 「良く考えたら……」 「そもそも教祖とか順位ついてるのおかしくね?」 (……駄目だ、この人達……) 一言に教団の面々はざわざわと浮き足立つ。 経験の浅いよもぎにさえ確信出来る事実である。 「これは……中々……!」 一方で戦いは激しさを増していた。 メタルフレームの膂力も、クロスイージスの自慢の防御も今は減衰著しい真琴が小さく声を上げる。 彼女は倉庫の入り口を背にしながら壁のように敵の威圧を受け止めていたが、受けたダメージは決して小さくは無かった。 作戦も連携も無い烏合の衆の物量頼みさえ、今のリベリスタ達には脅威である。 しかして先述した通り序盤の劣勢はパーティの計算通りだった。 (このまま上手く退ければ……) 見事なアイコンタクトを通した快に鉅が、仲間達が頷いた。 そあら、快、鉅、陽菜、真琴、よもぎ、三千…… 「……な!?」 果たして。 彼等の努力と奮闘は事態を次のフェースへと動かした。 『悪平等主義』の力の所為では無いのだろうが――普段より残念っぷりの平均化された快が見事に決める。 「勝敗を分けるのは能力じゃない。IdeaとSense。StrategyとTacticsだ!」 「させません――!」 そあらを狙った刃を真琴のブロードソードが跳ね上げた。 「如何に力を落とそうとも、そう容易くは――」 それは守り手としての意地。裂帛の気を吐いた真琴はホーリーメイガスたるそあらへの道を潰し切る。 応えるのは今日は攻め手の一人としても力を発揮せんとするそあらであった。 「何か今日のあたしカッコイイのです。今日の頑張りはさおりんに報告しないとなのです!」 虚を突き、漸く決まったいちごばくだんの爆裂が大きな混乱をもたらした。魅了効果によって走ったチームワークの亀裂は「前からテメーは気に入らなかったんだよ!」「偉そうにしやがって!」「お前の方が年上とかゆるせねー!」等としょうもなく敵陣を割っていた。 これは確かな勝機である。 「そんじゃ、いっちょ行きますか」 瀬恋は口の端を意地悪く歪めて首を鳴らした。 ぶん殴ってやりたい連中を前に随分我慢させられたものである。 囮に掛かったフィクサード達をすり抜けるように本隊――ウィリアム、イーシェ、光、瀬恋、恵梨香、エナーシア、エリスが倉庫の中へ雪崩れ込む。 「な、何だ、お前等! 来るなよ! 卑怯だろ!」 「ただ僻みっぽいだけで何もしてこなかった奴らに負けてられねぇッスよ!」 イーシェが気を吐いた。 「アンタ程度と一緒にされたら迷惑なんス!」 目の前の敵を倒した一撃は『そうである筈が無いのに』心なしか他より鋭くも感じられる。 「戦士や武闘家ほどのパワーが無くても。魔法使いや僧侶ほど魔力が無くても。 他の職のように特殊なことが出来なくても、パーティの足りない部分を補強すること位は出来るのです――」 光の視線の先には輝く誰かを妬む事しかしない哀れなフィクサード達が居る。 「……不公平はエゴでしかないのだよ!」 聞いたような口を叩く、その親玉が居る。 「他人の特色を潰す能力なんていうのは納得いかないですよ。 自分が出来ることを模索もせず、努力もしないヤツにはお仕置きが必要です。 少しくらいの制限で臆するボクじゃないです! なんたってボクは勇者ですから!」 前掛かりになった光の勢いに教団員はたじろいだ。 元より敵が同じ事に安心を覚えて――安心を覚えたから戦えた連中である。 錯覚であろうとその場の勢いであろうとも、イーシェに光。二人が『違う』所を見せれば士気が挫かれるのも必然であった。 「後ろ向きな……人たちは……自分から……不平等を……受け入れているの」 やけくそめいた混戦に傷付いた仲間をエリスの天使の歌が賦活した。 「お掃除、お掃除と」 「世界に不満があるなら自分を変えなさい。それが出来ないなら来世に期待するのね」 エナーシアの弾幕が、恵梨香の火炎の帯が轟山の周囲で右往左往する邪魔な壁を打ち払う。 「仕留める――」 この時を待っていた。 ウィリアムが狙いすました先――轟山の指先への射線を阻むモノは最早無い。 「――お前さん、頼る相手を間違えたな――」 金属の破片の華は甲高い音を立てて散る。 薄暗い倉庫の中にぶちまけられた狂った幻想は面白くも無い教団の最後を告げていた。 ●グダグダする余地も無く。 「それにしても弱すぎ」 身も蓋もないのは瀬恋。 「それにしてもむなしい戦いだったのです」 心なしか今夜は難しい言葉を使うそあらさんが夜に呟く。 鎮圧は簡単な仕事になった。 余りに圧倒的なリベリスタ達は数を倍する教団を瞬く間に制圧したのである。 哀れ轟山教団はあっさりと壊滅。 「だって、痛みで悶えてるの見るのって楽しいし~♪」 全員がお縄となり、陽菜に無遠慮に消毒液だけぶっかけられ、アークへ輸送される事となったのである。 「ま、当然って言えば当然だけどな」 いざ能力が戻れば当然とばかりにウィリアム。 「考えさせられる部分はあったな。連中の無様さには」 「能力高い人があれ着けると実はすげえ事になったんじゃねぇッスかね?」 「……波長が『合わない』だろう。それなりの人物には」 「あ、そうッスね」 鉅の言葉にイーシェは納得して頷いた。 「こういう教団は似たものが各地にあるような……」 笑えないよもぎの言葉に仲間達は苦笑いをした。 夜空を見上げて快はしみじみと一言を吐き出す。 「努力も才能も決して報われることなく皆平等…… そんな世界、却ってバランスが悪いと思うんだよね」 何処かのフィクサードのような台詞を吐いた彼は笑った。気取って、軽く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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