●純粋とは善悪に介在するモノ 朝焼けがカーテンの隙間から零れ出てくる。 最近になって春を迎えた季節。その暖かい日差しがゆっくりと気温を温めていく。 しかし、この部屋の中には一つの温かみも感じられなかった。 ベッドの上で眠る一人の少年――いや、まだ男の子と呼んだ方がいいだろうか。 小学生にも上がっていないまだ年の頃五つほどのあどけないその寝顔は両親にとってきっと最高の宝なのだろう。 ただ男の子を取り巻く機械達と、その小さな体に繋がれたいくつかのコードとチューブがなければ、なお良かっただろう。 ここは病院の一室。部屋の主である男の子は交通事故に巻き込まれ、そして今までずっと眠り続けていた。 入口には『平田 正樹』のネームプレート。今から数ヶ月前から今日までその表記が変わることはなかった。 沈黙に守られた病室に低く軽い金属が擦れる音が紛れ込む。音と共に病室の扉が開き壮年の男性が現れた。 「正樹、おはよう」 男の子――正樹の父親であった。彼は朝の挨拶をしながらベッドの隣にある椅子に腰掛ける。 もしかしたらと希望を抱くことがあった。 挨拶をすればいつものように元気よく返してくれるのではないかと。 いや、正樹ならば自分より先に笑顔で挨拶をしてくるはずだと。 しかしその淡い希望は叶うこともなく。微動だにしない息子の寝顔をただ眺める。 そして次に襲ってくるのは胸を抉る絶望感。 二度と目を醒まさない。二度とその笑顔を見ることはできないという言葉の刃。 突き刺さった茨の棘は返しが付いているかの如く抜き難く、引き抜こうとすれば更なる痛みを伴わせる。 暫く苦悶の表情で瞳を閉じていた父親は、大きく深呼吸をしてから気持ちを落ち着ける。 そして胸元からナニカを取り出すと、込み上げてくるその衝動に身を委ねる。 「もう大丈夫だ」 父親から息子に対する愛情。それはとても純粋なもので――。 正樹の体を這っているコードを乱暴に引き剥がし、音を立て倒れる機械達を無視して父親は息子を抱き上げる。 「もうすぐお父さんが助けてやるからな」 ――狂気に満ちていた。 ●ブリーフィング 予知に引っかかった森林部の調査。それが今回の任務のはずだったのだが……。 「予定変更。これを見て」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)が大型スクリーンを指す。 スクリーンに映し出されたのはどこかの森だろうか。それを空から撮影したように木々が欝蒼と立ち並んでいる。 暫く木々を映す映像が流れると、突如として森を抜けた。そしてそこには剥き出しになった山肌と枯れ果て朽ちた木々の成れの果て。 時折転がっている白い物も見える。目の良いリベリスタなら気づけただろう、それが動物の白骨だということくらいは。 少し視点が引いたした処で漸くどういう状況なのかが確認できた。まるで森の一部が虫食いのように直線と曲線を交えながら削り取られているのだ。 そしてその線の先。この事態を引き起こしている原因が映し出される。 「なんだ、こりゃ?」 リベリスタがそう呟いてしまうのも無理はない。画面の先では動いていたのだ、森が。 数十本、大小さまざまな木々の群れが土煙を立てながら蠢き、その先にある木々を襲っているのだ。 木が木を食らう。共食い、と言おうにも木が何かを食らうという行為自体がおかしいのだ。 「あれはただのエリューションじゃない。破界器(アーティファクト)」 その言葉に数名が眉を顰める。これだけ自立活動して暴れているのであれば破界器としてはおかしいのではないかと。 イヴはその視線に答える為にスクリーンに別の映像を表示する。映し出されたのは黒っぽくて皺のある楕円形の何か。 そう、それはまるで……。 「種?」 「そう。この種があの木々の正体」 対象に埋め込むことによって発動するそれは、特定の条件をこなすことによってある恩恵を与える。 そして今回はそれを使用した人物も判明していた。 父親と息子、こうなるに到った工程と予想される顛末まで。その資料を読むリベリスタ達は多様に感じた表情をそれぞれ浮かべる。 「放っておけば何れ人里に出る。その前に止めてあげて」 如何なる理由があろうとも、それによって害がなされるとなれば止めなければならない。 それが例え力ずくになったとしても。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:たくと | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月08日(日)22:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●赦されざるモノ 人の叡智によっても実現しないことは数え切れないほどある。それが不老不死であり、若返りであり、そして死者の蘇生。 届かぬと分かっているからこそ、それを心より望んでしまうのだ。その身も心も壊れようとも。 「その気持ち、解らないでもありませんが……」 輸送ヘリの窓から大地を見下ろす『星の銀輪』風宮 悠月(ID:BNE001450)が言葉を溢す。先ほどまで見えていた緑豊かな山並は消え、そこに広がるのは蹂躙され草木枯れ果てた山肌だけ。 この惨状を引き起こしているのが自分の解した気持ちなのかと思えば、また別の思いが強く訴えかけてくる。 「とめねばいかん。正樹クンの為にもな」 悠月の心を代弁するかのように牛頭人身の男、『星守』神音・武雷(ID:BNE002221)は言葉を口にする。 眼下を見れば、枯れ果てた山肌に一つ蠢く存在。いや、それは遠目だから一つに見えるだけでその実は生ける木々による群体なのだ。 「これは……まるで生態系が逆転したかのようですね」 ヘリが生ける森の上空へと差し掛かるとその所業がはっきりとその目に映る。『祈跡の福音』鳳条 クローディア(ID:BNE002301)はその姿に改めて破界器『慈しみの大樹』の危険性を再認識する。 と、そんな時に突然にヘリの中に強い風が吹き込んでくる。その風の方向を向けばヘリ側面の扉を開いた『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(ID:BNE000001)が一度笑みをリベリスタ達に向けるとその身をヘリ外へと躍らせたのだ。 だがその行動に驚く者はいない。何故ならば彼女はフライエンジェ、その翼で大空を飛ぶことを許された人間なのだから。 「そんなにお腹がすいてるなら、これはどうかな?」 急降下から翼をはためかせてその場で停止し、ぐるぐは超重量の銃器を真下で蠢く生ける森に向けてトリガーを引く。響く重低音と共に激しい反動がぐるぐを襲う。放たれる弾丸は狙いより広範囲にばら撒かれるが、それでもその全ては確かに生ける森に着弾した。 弾丸の一発一発は木々の穿ち、枝を吹き飛ばして確かに有効なダメージを与えているようだった。が、倒された木々の倍を超える枝がぐるぐへと迫る。 「ひゃあっ、あ、危ないですね」 一撃離脱を心がけ上昇中だった為、寸でのところで伸びる枝の射程より離脱できたぐるぐは胸に手を置き一息つく。 地上からの距離にすれば四十メートルになるだろうか。木々の元の高さを考えてもそれはかなりの距離に思えた。 ぐるぐがそうして一人戦力分析をしている間に、輸送ヘリからラペリングにて地上へと降りた他のリベリスタ達は生ける森に向けて駆けていた。 「このまま日本中の自然が根絶やしでは商売あがったりです」 『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(ID:BNE001150)は朽ちた木々を一瞥してそう心境と吐露する。彼女の立場からすればこの惨状は一言に表せば「もったいない」なのだろう。 「敵がいるなら……全て倒す。救いも幸せな結末も……私は求めない」 目の前に広がり始めた蠢く森を見て、『消えない火』鳳 朱子(ID:BNE000136)はそっと眼鏡を外し幻想纏い(アクセス・ファンタズム)から異空間へと収容する。そして逆にその異空間からその身を守る装甲を顕現させた。 リベリスタ達の取った作戦は至って単純。戦力を一丸に集めての一点突破。それぞれに召喚した破界器を手に慈しみの大樹の成す生ける森の中へと突撃した。 ●大樹の躍動 後衛型の悠月やクローディア達を中央に置き、前衛型の武雷や朱子達がそれを囲って進撃する。 「うお、デケェ……べ、別に怖かねぇよ!」 『煮え切らない男』山凪 不動(ID:BNE002227)は気持ち悪いほどにうねっている木々を見て思わずビビる。 一本二本と迫る枝を殴って殴ってまた殴って。枝の耐久力は大したことなく一撃でへし折れて退散していくが如何せん限りが無い。 不動とは逆サイドを守っている『人間失格』紅涙・りりす(ID:BNE001018)は何本かの枝を手にした剣で叩き斬って、森の奥へむけて僅かに鼻をひくつかせる。この場において人間圏にしか無いような匂いがすればと思ったが、蠢く森に掘り返された木々や土の匂いが強くて少なくとも今は何も感知できそうにない。 「おっと、油断は大敵だね」 さらにそちらにあまり気を回していられる状況でもない。りりすが地面を這う様にして伸びてきた根を軽い跳躍で避けると、次は頭上から迫る枝の群れ。浮いている体では避けることはできないと判断し盾でいなす為に構えようとしたところで、突然に目の前を光弾が横切り枝を悉く吹き飛ばす。 りりすが地面に足をつけ走りながら後衛組に視線を向ければ、指先に小さな魔方陣を浮かべた悠月が小さく笑みを返した。 「くぅっ、序盤からこれはキツイなっ」 殿を務めている武雷が背後を見やれば自分達の走ってきた道は既に閉ざされ、無数の樹木が枝と根を伸ばして追いすがってくる。あまりにも馬鹿げた数に辟易しながらも剣を振るうが、ついに突破された一本に腕を絡めとられる。 襲ってくる虚脱感。生命エネルギーを吸われていく感覚に身震いを覚え、武雷は渾身の力を持って腕を振るい引き千切る。 「このままでは少々拙いかもしれませんね」 魔力矢を持って近づく枝を撃ち抜いたクローディアがポツリと漏らす。このままの速度では時期に捕まってしまうのが目に見えている。 それならばどうするべきか。答えは一つ、突破力を上げるしかない。 「武雷様。前方に向かい朱子様と共に木々の伐採をお願いします」 腕に装着したキャノン砲で木々を一本丸ごと吹き飛ばし、モニカは武雷に前へ出ることを薦める。 「だがそうすると後ろが……」 僅かに渋る武雷にモニカは後方に向けて破壊を齎す右腕を向ける。その機械化した瞳に目標を捉えると、これまで実弾を撃ち出していたキャノンの砲口が今までとは違う光を点す。 モニカが躊躇い無くトリガーを引くと砲口から無数の光弾が放たれる。迫る枝も根も、その後方にある木々も纏めて抉り一瞬の内に射程圏内の木々を根こそぎ撃ち砕いた。 「ご安心を。後方は私にお任せ下さいです」 これだけの制圧力を見せられたからには渋る理由もなく、武雷は前方にて道を切り開く側へと回る。 朱子は隣に現れた巨体を意識に入れたところで、これまで以上に進攻速度を上げるべく手にした剣に力を流し込むと剣は白熱するように輝き赤いオーラを纏う。 「……前だけを見て剣を振るう。私の役目はそれだけでいい」 破壊のエネルギーを溜め込んだ剣を叩きつけられた大木が一際大きな音を立てて爆ぜた。 一方でその頃ぐるぐは上空で敵情を観察していてあることに気がついた。仲間達が森の中を進攻しだしてから段々と森の動きが止まり、ゆっくりと中央へと集まりだしたのだ。 そして今はその視線の先に森の中から一本だけ抜き出た大樹がある。直観ではあるがアレが正しく『慈しみの大樹』の本体がある場所なのであろう。 「うっ、けどどうやって伝えよう」 眼下には仲間達が戦っているであろう戦闘音が響いており、時に木々が倒れて行くのが見える。 『テレパス』は視認した相手にしか送れず森に隠れている仲間へは送れない、拡声器も試したが絶え間ない戦闘音と伸びる枝を避けての上空五十メートル付近からの距離では上手く届かないのだ。 「どうしよう……」 ぐるぐが悩んでいる間にリベリスタ達は少しずつ森の深部へと向かって突き進んでいた。 地上を駆けるリベリスタ達は誰もが少なからず傷を負っていた。 深部を目指せば目指すほどに木々の密度が増し、さらにその硬度も増しているのか枝や根はともかくその木の本体は一撃では斬り倒せないものも出始めている。 「うおおっ、やべぇやべぇ来んな来んなってー! って、痛えぇ!?」 不動が燃える拳を振り回して寄ってくる枝を払っていたが、こちらの腕は二本に対してあちらは二倍どころか十倍近い数で襲ってくるのだ。今も捌ききれない根が不動の足を鞭のように打つ。 「Ganz freudenreich erschallen」 その時にクローディアが異国の言葉を紡ぐ。その祝詞に応えるように僅かな風が吹き傷ついたものの傷を癒し、失われた体力を取り戻させる。 しかし、そのクローディアの顔色も良いとは言えない。絶え間ない戦闘に彼女の神秘を扱う力も大分消耗してしまっているのだ。 ジリ貧という言葉が頭に浮かぶ。退くことは可能であろうが、その場合に広がっていく被害は計り知れない。 「……やっと見つけたよ。あっちね」 その時りりすが何かを感じ取り進んでいた方向よりやや右前方を指す。すかさずそちらに意識を向ければ、超直観を持った武雷が逸早くその存在に気が付いた。 「確かにそっちみたいだな。もう目と鼻の先だぞっ」 走る方向を修正した武雷は何本も重なり視界を塞ぐ木々をその豪腕をもって薙ぎ倒す。 駆けるリベリスタ達はこの事件を終わらせる最終局面へと足を進めた。 ●歪な大樹 リベリスタ達は唐突に開けた空間へと辿り着いた。その中央にこれまでに見ない大きさの樹木。 「これが慈しみの大樹なのですか」 悠月はあらゆる場所に視線を走らせ観察しながらそう呟く。外観はそのままただの大樹にしか見えない。 僅かな静寂が訪れたがそれもすぐに終わりを告げる。突然に頭上が騒がしくなったかと思えば、空を遮る枝を突き破って翼の生えた少女が降って来た。それを武雷は慌てて受け止める。 「皆ごめん。話してみたんだけど駄目だったよ」 服が破れ血が流れる腕を押さえるぐるぐ。よく見れば体のあちこちに大小の傷が目立つ。ぐるぐは森を進むリベリスタ達の到着まで大樹に向けてもしかしたらとテレパスを送っていたが、終ぞそれが届くことはなかった。 だが、別の成果はあった。ぐるぐは大樹の一点、幹から枝が分かれ始める分岐を指差す。 「あそこ。あの場所に正樹君はいるよ」 その場所に視線を向けるが人の姿は全く見えない。つまり言葉のままの意味というわけでなく、そこに正樹であった何かが在るのだろう。 ぐるぐは悠月とクローディアにより治癒が施され、そして残りのリベリスタ達は大樹へとそれぞれの武器を構える。 「……全て倒す」 朱子は呟くと共に大樹へと疾走する。だが、それまで静かだった大樹はそれを迎撃せんと地面から無数の根を地上に向けて伸ばす。足元から地面を突き破って襲い、そして鞭のようにしならせ外敵の接近を邪魔する。 朱子が攻めあぐねたところにその背中から空気を破る音が響く。煙を上げる砲口を振るい箱型弾倉を入れ替えたモニカは大樹の根元へと向けて引き金を引く。すると根元を守ろうかとするように太い根が大地を突き破って現れその身を犠牲にして穴だらけとなり砕ける。 「やはりそこですか。植物の弱点は根元と相場が決まっていますからね」 モニカが執拗に根元を狙うことによって大樹の根はそちらを守る動きを見せ始める。 それを好機とりりすが姿勢を低く、うねる根を地を泳ぐように軽やかに避けて大樹の幹へと接近した。ぐるぐの指した場所は頭上の十数メートルは上だ。だが、その程度の距離は問題になるほどでもない。 迫る根を蹴り、幹に足をめり込ませりりすは大樹を垂直に登る。だが、それだけではまだ短慮であった。大樹はそれではと言わんばかりに生い茂る枝を数十と天から地へと降り注がせた。りりすは手にした盾でそれをいなすが四方を囲う枝の槍に対処しきれずついに右腕を貫かれる。 空を覆う程に伸びる枝はさらに他のリベリスタ達にも襲い掛かる。後方に待機していた後衛のクローディアと悠月にもそれが迫る。突然の上方からの攻撃に二人とも詠唱は間に合わない。だがその瞬間に二人の視界から枝が消える。 「おれがここにいる限りは、仲間には指一本ふれさせん」 無数に浅く、数本深く突き刺さり傷つける枝を受けた武雷はそれでも不敵な笑みを浮かべる。そこに一迅の風が吹き抜け武雷に刺さる枝をバラバラに解体した。 「ちくしょうっ! 何でこんな目に会わなきゃいけねぇんだよぉ」 そう叫びながら不動は燃えあがる両腕を携え膝を突く武雷の傍に立つ。振るえる腕はこちらは二本、あちらは百本を超えるかもしれない枝と根が。そんな絶望的な手数の差でありながらも迫る攻撃に不動は拳を振るい続けた。 「我が敵を穿て、光の魔弾!」 「komm du schoene Freuden-Crone」 庇われているだけでは終わらない。悠月は魔力を使い切らんとばかりに魔弾を撃ち迫る枝を吹き飛ばし、クローディアが聖句を告げると周囲に鐘の音が響き渡る。福音により力を取り戻した武雷は大地を踏みしめ不動と共に枝と根を刈り取る。 と、その時空気を切り裂く音が走り突然に大樹の幹の一部が爆ぜる。 「……ばーん、なんてね」 満身創痍のぐるぐが地に伏せながら放った弾丸が大樹を大きく揺さぶり、動きを一瞬だけ止めさせる。 そこに朱子が大樹へと駆ける。降り注ぐ枝、突き出す根も先ほどに比べれば遅くそのままに大樹の根元へと辿り着く。足元から突き出る根に剣を叩きつけ、その反動で舞い上がり幹に剣を突きたて頭上を見つめる。さらに追い縋る根を盾で殴り返し、幹に引っ掛けた足に力を込めて大樹の枝分かれの地点を目指して跳躍した。 しかし、そこは余程大事なのかこれまで手当たり次第に攻撃していた大樹は一斉に朱子に向かって殺到する。 「ぐぅっ!?」 朱子の腕を、足を、体を無数の枝が貫く。同時にこれまでにない勢いで吸い上げられる生命力。朱子の意識が急速に遠のいていく。視界が白と黒に埋め尽くされていく中で彼女は一言だけ呟いた。 「……ごめん」 世界はまだ彼女を愛していた。瞬時に戻った力。色を取り戻した視界は腕に刺さる枝を見つけそれを強引に引き千切る。 剣は握られている。その体に流れるフェイトを感じられる。彼女の刃に破壊の力が迸る。 「……ごめん」 もう一度呟かれる言葉は目の前にある大樹へと向けられた。 ●全て枯れ果てて 最後の一撃により大樹は割れそれと同時に『慈しみの大樹』は破壊された。周りにあった森は一斉に枯れ始め数分後にはそこには荒れ果てた大地のみが残る。 リベリスタ達は満身創痍。動く気力もなく地面に座り込む。その中で一人、大樹のあった場所に足を向けたりりすは一枚のボロ布を見つけた。それは良く見れば人の衣類。かすかだが薬品のような匂いもする。それを適当に振ると、ポロリと薄い手帳が零れ出た。 それを拾い上げて読んでみると。それは日記、今回の事件を起こした平田 源内の日記だった。そこには息子・正樹の事ばかりが書かれており途中まで読んで捨てようとした。が、その時ある一文が目に入る。 「……種を売りつけて来た男ね。『心』なんてものがあるから騙されるんだよ」 りりすはその手帳を振りながら近づいてくるヘリを見上げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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