● 可愛い子。 可愛い子。 世界を壊して。 あなたがそう呼んだから、私はここに現れたの。 ● 「先日の案件、儀式を完全に防ぐことは出来なかった。現在同時に発生した複数の召喚存在が観測されている。既にD・ホールは閉じた。至急、殲滅してきてほしい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は「『置換の杯』回収及びフィクサード『東城・ユウ』撃破案件」の概要をまとめた映像をモニターから消した。 「みんなに担当してもらうのは、この区域。不完全な召喚だったため、複数個体に分割されている。形も不定形。能力も個体差がかなりある」 モニターに映し出されるのは、見たことのある風景だ。 「幸い市内。田園地区。田んぼの真ん中にいるんだけど……」 モニターに映し出される風景。 田んぼの真ん中に、薄ピンクの粘体が何体か浮いている。 しゅうしゅうと白い蒸気とも湯気ともつかぬ気体を出す田んぼの水面。 水面? 激しい違和感。 そういえば、この季節頭を垂れ始めていなくてはならない稲穂の姿がない。 「溶かされて、おそらく吸収された。発見観測時点から、既に数倍に膨れ上がっている」 粘体がずずずっと動いた。 やおら人間の上半身が生える。 田んぼのあぜ道に止まっていた車を抱きしめるようにすると、車はしゅうしゅうと溶かされた。 車だったものは粘体に飲み込まれ、粘体は更に成長する。 「どうやら、溶解・同化することに特化しているみたい。他の個体と合体されたら厄介。この気体が蒸発しているあたりは粘体の領域。酸のプールになってる。毒性が高い気体も発生してる。既に避難指示済み」 操作される複数のモニター。 他にも何体か出ている。 作戦地域が近いチームもあるようだ。 「合体させてはだめ。今度こそ悪夢を終わらせて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年09月21日(水)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 私達は召喚者の思うまま。 あなたの命と引き換えだから、私達、私達が終わるまで、あなたのお願いを叶えてあげる。 かくて。 壊れてしまえと酸の乙女は、より強い『私』になるため、互いに向かって手を伸ばす。 ● これ以上は車のタイヤがもたないと、下ろされたのは現場を見下ろす丘の上だった。 眼下には、とっくに水を抜かれ、本来なら今頃稲穂が揺れているはず。 しかし今。 田んぼのあぜも沈むほどの酸が大地を満たす。 得体の知れない蒸気が、ゆらゆらとゆれている。 島のように半透明な塊が大小入り乱れて浮かんでいる。 (母子の事を死んだ父親が知れば嘆いたでしょうね。そして、こいつらを倒せばその母子も嘆くのかしら) もはや身よりもない『薄明』東雲 未明(BNE000340)は、そんなことを考えた。 (……考えても気分が悪くなるだけね。死人に口なし、あたし達はいつも通りの仕事をするまでだわ) 気を取り直すと、作戦の最終確認の輪に加わる。 (これが、僕の初仕事か腕が鳴るな~) そんな事を考えながらも、来年喜寿を迎える少年態、『R.I.P』バーン・ウィンクル(BNE003001)の 口をついて出るあくび。 なんだか酸素が薄い気がする。気のせいかもしれないが。 (世界を壊す世界の敵、これだけわかりやすい悪者ていうのもそうそういてくれないよね、昔は人間同士が最大の敵だったんだから) 彼が言う「昔」、第二次世界大戦から冷戦を経る半世紀を越える時間。 昏睡したまま放置されていた彼が目覚めたとき、世界はすっかり様相を変えていたのだ。 「みんな、現場に入る前にこれ飲んで下さいねー」 アゼル ランカード(BNE001806)は現場に入る前にみんなに牛乳を配った。 酸性ガスから粘膜守れる分は守りましょー。 他階層から来た未知のガスにどのくらい効くか疑問だが、気構えと同じ牛乳飲んだ仲の連帯感は深まった気がする。牛乳に含まれる成分で緊張もちょっとばかりは緩和したかもしれない。 「それと……」 アゼルは、呪文の詠唱を始めた。 ひよ。 小鳥の羽がフライエンジェ以外の全員の腰椎部に生える。 フライエンジェの翼より小さなものだが、これで酸に足をつけないで戦うことが出来る。 足元の不安感と酸によるダメージをまともに受けなくてすむだけでも、大きなアドバンテージだ。 「うわっ! 飛べるってこんな感じか」 よたたっと、『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)が空中を掻く。 (妹が飛んでるから意識してなかったけど、浮かぶのははじめて。ちょっとおもしろい) 皆すぐに姿勢制御の仕方は覚えた。 大小の羽を広げて、リベリスタは戦場へ降下を始めた。 ●大1、中二、小五 「ほんとに美人さんだな」 中型の進路妨害するため、至近に寄る。 小型よりもより精緻なディテールを見て、夏栖斗はぼそりと呟いた。 源 カイ(BNE000446)には、ちょっと懸念があった。 「巨乳な美人さんの体を成した所で、僕らは惑わされはしませんよ……」 夏栖斗をチラ見。 だって。あんなこと言っているし。女の子大好きってことでも有名だし。 「……惑わされはしませんよ?」 もう一度夏栖斗さんチラ見。 大丈夫だよね。最近リア充ってことでも有名だし。 「とろけるような美人さんでも、今回のはかんべんだ」 視線が合った夏栖斗、これは好みじゃありませんと明言。 「ていうか……無駄にエロいね。思春期にも程がある」 『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は、マスクとゴーグルで完全武装。 半球から立ち上がるように変形する骨なし美人に宙を駆けるようにして踊りかかる。 「どうでもいいけど……僕的には、ぱんつはあった方がエロいと思うがね」 内部で消化しかけている物体が透けて見えるような美人は、御免こうむりたい代物だ。 (事件の報告書を拝読しました……やるせない気持ちです) 毒気対策のマスクの下で『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)は顔を曇らせる。 (お手伝いに行ってる孤児院の子供達、【明日が来る事】 を楽しみにしています……世界が壊れてしまうのは困るのです) 明日が来るという事は、当たり前のことではない。 それは風にさらされる複雑なモビールのよう。 わずかにバランスを崩しただけで、すべては瓦解していく。 だが、それは知られていなくていいことだ。 世界のヴェールの向こうを見る事を運命付けられたリベリスタが、『明日』のために戦っているのだから。 結界が周囲にはりながら、子供達の顔を一人一人思い浮かべる。 (故に……麗しき…けれど相容れぬ異世界の御客人……魂魄となりて故郷へお帰り下さいまし) 「りりす様が攻撃した小に攻撃を集中させて下さいまし!」 前を行く前衛に、次の攻撃対象を的確に指示した。 「敵性アザーバイド確認、発射! ……ていう時代でもないんだよね」 バーンは、大きな個体から十分な距離をとって、指定された小さな個体に魔力の弾頭を撃ち出す。 ぐにゃりと美人がゆがみ、いびつな穴が開いた箇所からしゅうしゅうと蒸気が漏れ、干乾びた断片がささくれ立つ。 あと一息と見えたとき、その個体を別の個体がつかんだ。 『さあ、こちらへいらっしゃい』 表面に浮かんだ女の面影。 毛髪を思わせる凹凸が、長く長く伸びていく。 細く伸ばされた大量の触手にからめとられた傷ついた個体は、触手の主の抱擁を受けた。 「……食った……?」 「合体……」 むごむごと微妙に色合いが異なっていた二個体が一つになろうとしている様は、情況を度外視すれば柔らかな光を放つ美しいものだった。 それぞれ別の中型の足止め役の夏栖斗と未明は、眉をひそめる。 これで、中は三体。 大になる条件はそろってしまった。 「このっ」 目の前の中型からのから浮かび上がる女の抱擁を振り払う。 力勝負で負ける気はしないが、酸で濡れた表面が神秘への耐性を欠く夏栖斗にとってはいやなものだ。 後方から飛んでくるシエルの指示に従って、目の前の中型を威嚇するモーションから、空を蹴り裂く。 風の刃は、離れた所にいた小型を大きく割り裂いた。 「悪いけど、どいつとも一緒になれず一人ぼっちのまま逝ってもらうわよ」 未明は目の前でぶるぶると身を震わせ、新たな仲間と一つとなるべく移動を始めた中型を全身の力を切っ先に込めて、他の個体がいない方向に向かって吹き飛ばす。 水面を切り裂きしぶきを上げて着水する中型を追い、背中の小さな羽根をはためかせて、未明は更に間合いを詰めた。 ●大1、中3、小3 新たな中型を作るわけには行かない。 となれば、急いで少なくとも二体の小型を片付けなくてはならなかった。 「私は私の射程に入った物を逃さない。田畑には悪いけれど、遠慮なく焦土になって貰いましょう」 『殲滅砲台』クリスティーナ・カルヴァリン(BNE002878)の緋色の魔法陣からあふれる業火が、合体するため互いに触手を絡めあおうとする二体を飲み込む。 足元の酸と反応し、瞬間上がる火柱。 (貴方達が何所より来て何所へ行こうと興味は無い。私のやるべき事は変わらない。私は武器で良い。兵器で良い。対する者を焼き尽くすただ一基の砲台で良い。だから) 「ならば破壊を」 兵器が選んだ主が、世界のために「破壊の権化」を破壊せよというのだから。 黒々と焼け爛れた二体はそれでも合体をあきらめていない。 その一体にカイが突っ込んでいく。 触れた所が大きく爆ぜて、細かい粒が酸の池に沈んだ。 あまりに小さな個体とは合体できないらしい。 おぶおぶと触手をわななかせる小型にりりすはにっと笑いかけた。 幼い容貌に、細胞がそそけ立たせる何かが潜んでいる。 「可能な限り即殺していきたいね」 振り下ろされる絶望虐殺ロンリネス。 まさしくその名にふさわしく。 小型に浮かぶおぼろげな女性は同胞と身を沿わせる事なく異界の地で事切れた。 ●大一、中三、小0 小型を殲滅してからが本番だと、リベリスタ達は認識していた。 「ここから先は一手一手の攻防を丁寧に……」 りりすがソニックエッジに当てられる魔力は残り少なかった。 ここからは物理攻撃を主として戦う必要があった。 「んじゃ、そっちは頼む」 入れ違うように夏栖斗が後衛にいる辺りまで下がる。 この先は前線を大に向けてあげなければならない。 後衛のシエルとアゼルも大の手の届く範囲に入る。 そのときの壁になるためだ。 バールのようなものを握る手も顔も、露出している部分はすべからく酸で焼かれ、そのあと癒されるのを繰り返している。 シエル、アゼルともに夏栖斗の怪我には注意を払い、常に治療の効果範囲におくよう努力していただが、夏栖斗は物理への耐性ではアーク屈指だが、神秘への対応力は駆け出しレベルだ。 有り余る体力を盾に活動していたが、並みのリベリスタなら耐え切れず、癒される前に酸のプールに沈んでいるところだ。 「漸く本領発揮できるわ」 未明も、ぼろぼろだ。 戦闘の流れがこちらに来たのと同時に、体から闘気を外にあふれさせる。 急場をしのぐため、酸の乙女に噛み付いて体液をすすったが、舌がしびれるようで体力気力は回復したが口には合わない。 「そろそろ攻守交代といきましょうか」 八卦の指輪のはまった指が無骨な刃を握り締めた。 「派手に動くとしますか」 水面に落ちた影が起き上がるようにして、わずかに宙に浮くカイに寄り添う。 「……ここからが本番……錬気と魔力の円環……我が身の全ての力もて……幾度でも癒します」 シエルの描く魔法陣に、魔力循環の図式が加わった。 『さあ、こちらへいらっしゃい』 おぞましいくらい柔らかな気配。 中型の触手が未明に伸ばされる。 絡み付く触手に身震いしながら、今まで攻撃を加えていた個体から引き離される。 その隙に、二体の中型がお互いに向かって近寄り始めた。 もう少しで互いの触手を絡めあい、一体となることが出来る。 「そうはいかないよ!」 バーンがすばやく四種の災いを編み上げ、未明が傷つけていた方の固体に向けて音なき魔曲を放った。 術の係りが浅かったが、特化された威力は伊達ではない。 他の個体に比べれば弱っているのは明らかだ。 「皆様、あの個体を! 合体する前に!」 シエルからの指示の元、ここが戦の分水嶺とカイが駆け込む。 その顔に一切の躊躇はない。 敵に対したときの冷徹な部分。 彼はナイトクリークである。その適性は奇襲・必殺なのだ。 「とどめです」 宣告される死。 自らの痛みと引き換えにより確実に氏を呼び込む不可視の爆弾。 一つになるといいと、深々と柔らかな内側にめり込ませる。 どうしてこんな事をするのかと問いかけるような酸の乙女。 宙に浮かぶカイの足を握り締める。 ぶすぶすと腐食する音。 千切れる布地、がちんと音を立ててパージされる脚部の表層部品。 ぽちゃんと落ちて、酸の水面を揺らす。 同時に、爆散。 「世界を滅ぼす、ですか……させませんよ、そんな事」 機械になってしまった足と違って、取替えしがつかないのだから。 ●大一、中二、小0 「まとめていくよ!退避して」 「破壊と破壊と破壊をあげる。ね、貴方達が欲しがってた物でしょう?」 バーンとクリスティーナの業火が二連撃で酸の乙女三体を巻き込み、空まで焦がす。 その爆炎を突き抜けて、半透明の無数の手がバーンを抱きすくめようと伸ばされる。 『さあ、こちらへいらっしゃい』 「後衛にはこれ以上触れさせねぇよ!」 バーンをかばうため、夏栖斗が間一髪転がり込む。 夏栖斗をつかみあげた触手は頭越し中型と組み合うりりすや未明を飛び越える。 触手の根元、一番大きな酸の乙女が待っていた。 小型や中型の比ではない精緻なつくり。 畳一帖以上ある巨大な顔。 慈悲深い笑みを浮かべ、夏栖斗にささやく。 『さあ、一つになりましょう』 あふれる酸。 焼け焦げる皮膚、肉、骨。 小型や中型の比ではない強酸。 シエルとアゼルの召喚した風が夏栖斗を癒す。 それでも癒しきれない。 ならば、急がなくては。 「んじゃな、美人さん、遊びはここまでだ」 べろべろに皮の裂けた拳がふるわれ、髪の様な触手を凍てつかせる。 「ちなみに。僕は、黒のろーれぐが好きだ。もっとも、僕は下着を履かない主義だがね」 りりすが中型の一体に止めを刺し、返す刀で大型の触手を切り飛ばす。 未明が引き寄せてくれたお返しとばかりに、最後の一体に小さな翼を駆使した機動攻撃で引導を渡す。 間髪いれずに後衛の元まで退き、守り役を担った。 クリスティーナは、本人の望みどおり、一基の砲台であり続けた。 撃ち出される魔力の奔流が、見上げんばかりの美人の顔面半分を判別不能のものに変える。 何度も吸血をして魔力を吸い上げてやったというのに、未明の魔力も大技の連続によって尽きかけていた。 「攻守交替って言ったでしょ。こっちが攻める番よ!」 高々と跳躍する。 ソードミラージュの機動技にデュランダルの破壊力を持って駆使するとどうなるか。 どこからとんできたのかわからない斬撃に、残った美しい半面に混乱の表情が浮かび、そして、唐突に崩壊した。 伸びきったゴムがぷつんと切れるように。 まるで自分の細胞を食い合うかのように、乙女の形がなくなっていく。 今まで増える一方だった酸の池が。 その侵食を止めた。 夏栖斗を捕らえていた触手が消え、あわや酸の池にダイビング。 かろうじて、鼻先一センチ。 腰の辺りではためく小さな翼のおかげで、着水は免れる。 「夏栖斗さん、頑張ってね。今、かけなおすー!」 アゼルが声を張り上げているが、ガスマスク越しなのでいまひとつくぐもって聞こえない。 「なにー!?」 「翼、そろそろ効力切れる時間だよねー! もっと早く再付与しようと思ったんだけど、回復やめたら危なかったからー!」 なくなったら、下にぼっちゃん。 「「「わー!!」」」 羽を持たない前衛四人は、あたふたと地面のあるところまで文字通り飛んで戻ってきた。 後衛は後に語る。 あんなに速い簡易飛行は初めて見た。と。 前衛は後に語る。 途中で高度がスーッと下がったときのことは忘れられない。と。 ● (農地にはお百姓様の汗と想いが込められております。処理班の後片付け……お手伝いしたいなぁ) 人のために働く事が自己証明のシエルは、別働班があちこちに散っていくのを見守った。 (ともあれ【明日】を守れて良かった……) シエルの魔力をもってしても、気づけば魔力の底が見えそうだ。 ぼろぼろになった前衛に更なる癒しを施しつつ、それでも笑顔を浮かべる。 明日が来る事を共に望む仲間が、明日も健やかでありますように。 ● 可愛い子。 可愛い子。 あなたの願いを叶えてあげる事はできなかったの。 ごめんなさいね、ごめんなさいね。 だからあなたが望むなら、ずっと一緒にいてあげる。 さあ、一つになりましょう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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