下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






【はじおつ】エフィカさんと17歳の誕生日

●イヴさんからのおつかい
「えっと、ブリーフィングルームってここですよね」
 コンコン、とノックをするのは『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)
 役所の受付嬢として日々アークの雑務に追われていた彼女も、
 この度漸くアークの平常業務に復帰するだけの余裕が出来たらしい。
 これも仁蝮組との同盟を経てアークの構成員の総数が増えたからこそである。
「エフィカ・新藤です。入っても宜しいでしょうかっ」
 中に誰が居るか分からない時はまず敬語。これでもオンオフはきっちりなエフィカさん。
 しかし、返事が無い。あれ、と時計を確認するも確かに呼び出された時間である。
「あの、エフィカです。どなたかいらっしゃいませんかー」
 扉を薄く開けて声をかけるも、中は真っ暗、あれあれ、と首を傾げるのも束の間。
 その影は真後ろまで忍び寄っていたのである。
「……あ。居た」
「ひゃあああ!?」
 突然掛けられた声に悲鳴を上げるエフィカの後ろにひっそり立っていたのは、
 アークの誇るもう一人のマスコット、『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)
 普段変わらぬ無表情のまま抱いた資料が妙に重そうである。
「あのっ、今日、お仕事が……」
「うん、あるよ。はいこれ」

 差し出されたのは先の重そうな資料。ずっしりと質感にエフィカが瞳を瞬かせる。
「え、何ですかこれ?」
「仕事。エフィカさんの」
「あー……そう言う感じのですか」
「うん、今回はカレイドシステム無関係」
 どうも事務仕事らしい、と気付くや軽く肩を落すエフィカを、ぽんぽんと撫でて慰めるイヴ。
「な、何で撫でるんですかーっ」
「何となく」
「わ、私の方がイヴちゃんよりお姉さんなんですからねっ」
 こく、と頷くイヴに照れ隠しか、ぱたぱたと走り去るエフィカ。
 その後姿を見つめ、イヴがそっと溜息を吐く。
 さて、本題はここからである。

●おつかい裏話その2
 件の1件より15分後。アーク本部、会議室内。
「9月4日は、エフィカさんのお誕生日なんです」
 声を上げたのは『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)
 今回はフォーチュナフル稼働でお届けである。え? 黒猫はどこへ行ったって?
 誕生会の飾り付け何てのは女子供の軟弱だ。ロックじゃないねbyNOBU
「いつもお世話になってますし、慎ましやかでも皆でお祝い出来たらな、と思いまして。
 お誕生会など計画させて頂きました」
 会議室には様々な調理器具や食器の類。そしてクラッカーを筆頭にパーティグッズが並ぶ。
 色取り取りの折り紙や鈴、ビーズと言ったカラフルな飾り付け用品も完備。
 しかし飲み物や紙コップの類はともかく、食材が無い。
 幾ら設備があってもこれではパーティは始められない。

「はい、皆さんがどんな物を作られるか分からないので、食材の類は用意してありません。
 なので皆さんで手分けして買出し、調理、飾り付け、
 そしてお祝いに分散して頂こうと思います。連携が大事です。私達らしいお仕事ですね」
 何もこんな所でまで連携を求めなくとも。と思わなくも無い物の、
 それが今回の誕生会の趣旨とあれば是非も無い。
 おそらくは、どれが欠けていてもパーティとしては未完成で終わってしまうだろう。
 それはそれでエフィカさんは喜んでくれるだろうと思われる物の、
 完璧を喫するに越した事は無い。重要なのは全体のバランス。
 そして皆で一つの物を完成させると言う団結力である。
「準備時間はエフィカさんがおつかいから戻られる1時間後まで
 料理等は会が始まってからも続けられますから、+1時間を見込めます。
 ただ余り凝った物は時間制限に引っ掛かる可能性が有りますので、御注意下さい」
 誰かの笑顔を守る事がリベリスタ達の戦いであるとするなら、これもまた一つの戦いの形。

 さあ、パーティのはじまりである。






■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年09月20日(火)02:01
 33度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 エフィカさんの誕生日を祝って下さる方急募!以下詳細となります。

●成功条件
 誕生会を成功させる。

●行動分岐
 原則として以下の4箇所のどこかで行動して下さい。
 プレイング中に以下のタグが無い場合はプレイングを見て割り振ります。

【買出】…買出しパートです。何を買うかを明確に。お一人様3種類まで。
 ここで購入されていない物は【調理】パートで用いることは出来ません。

【調理】…調理パートです。何を作るかと、材料を明確に。お一人様1品目まで。
 調理の正否、完成度は【買出】パートとプレイングにより左右されます。

【お祝い】…事前準備、飾り付けや盛り上げ役等、パーティを運営する側です。
 フォーチュナの3人やエフィカさんと直接交流する事が出来ます。

【その他】…その他、上記3種と全く関係の無い行動です。
 難易度高め。行殺・没有りです。

・また、グループ行動はタグを続けて記載して下さい。
 例:【調理】【ケーキ調達隊】 等

●イベントシナリオのルール
 参加料金は50LPです。
 予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
 イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。
 獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。

●全員描写宣言
 【その他】タグを選んだ方以外は全員描写致します。
 但し描写量の多寡が生まれ得るという点については予め御了承下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 0人■
■サポート参加者 55人■
インヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ナイトクリーク
ウーニャ・タランテラ(BNE000010)

テテロ ミーノ(BNE000011)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
デュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
マグメイガス
桐生 千歳(BNE000090)
マグメイガス
アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)
クロスイージス
ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
ナイトクリーク
犬束・うさぎ(BNE000189)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
インヤンマスター
アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
スターサジタリー
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
クロスイージス
新田・快(BNE000439)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ソードミラージュ
天月・光(BNE000490)
デュランダル
源兵島 こじり(BNE000630)
ナイトクリーク
夜城 将清(BNE000900)
デュランダル
桜小路・静(BNE000915)
ソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ソードミラージュ
仁科 孝平(BNE000933)
覇界闘士
宮藤・玲(BNE001008)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
ソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
クロスイージス
アウラール・オーバル(BNE001406)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
覇界闘士
祭雅・疾風(BNE001656)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)

丸田 富子(BNE001946)
デュランダル
降魔 刃紅郎(BNE002093)
ソードミラージュ
桜田 国子(BNE002102)
ナイトクリーク
レン・カークランド(BNE002194)

セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)
プロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)

エリス・トワイニング(BNE002382)
デュランダル
ジース・ホワイト(BNE002417)
ソードミラージュ
新堂 愁平(BNE002430)

劉・星龍(BNE002481)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
マグメイガス
来栖 奏音(BNE002598)

ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)
デュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)

小鳥遊・茉莉(BNE002647)

村上 真琴(BNE002654)

浅倉 貴志(BNE002656)
クロスイージス
ヴァージニア・ガウェイン(BNE002682)
ソードミラージュ
イセリア・イシュター(BNE002683)
スターサジタリー
堂前 弓弦(BNE002725)
クリミナルスタア
関 狄龍(BNE002760)
クロスイージス
ミミ・レリエン(BNE002800)

ジョン・ドー(BNE002836)
   

●誕生会前大会議
 さて、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の発案により集められたリベリスタ。
 その数実に五十余名。口火を切ったのは『天翔る幼き蒼狼』宮藤・玲(BNE001008)である。
「ケーキケーキケーキ! でっかいケーキを作りたいの!」
「お、良いなケーキ。オレもケーキ作りの手伝いをするぜ!」
 追従する『駆け出し冒険者』桜小路・静(BNE000915)。確かに、誕生日と言えばケーキ。
 ある種のパーティの花形である。しかし残り時間を鑑みると、余程効率的に動かなくては間に合わない。
「あ。オレも調理担当で、デザート系がいいんだけどっ!
 できればケーキがいいから混じらせてもらっていいかなぁ~!?」
「勿論だ。ケーキ一緒に作ろうぜ、喜んで!」
 しかし此処に『パティシエ修行中』新堂 愁平(BNE002430)が混ざれば話は別。
 実家がケーキ屋と言う彼の洋菓子慣れは趣味の域を超えている。
 3人寄れば文殊の知恵ならぬ、3人に依る誕生日ケーキ。役者は揃った。
「ふむ。差し出がましいとは思ったのだが、ご提案を」
 そこに律儀に挙手して発言するのは『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)。
 何処か優等生気質な彼女の発言が、奇しくもこの誕生会の流れを決定付ける。
「調理に使える物は買い出し次第なので、買い出しに行かれる皆さんは
 調理の内容に合わせた物を買い揃えては如何だろう」
「確かに調理で何を使うか先にわかっている方がお買い物も動きやすいですねぇ
 うんうんと頷く『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)。勿論彼女が買う物と言えば苺に他ならない。
 そあらと言えば苺。苺と言えばそあらだと言う位にアーク職員の間では常識である。
「エフィカさん、メロン色してるから、余裕があればメロンもあると嬉しいな」
「なるほど、メロンか。桜小路はいいところに目をつけるなァ。んじゃ、オレがメロンを買ってくるとするか」
 からっとした笑いを共にさり気無く相手を立てるのは正に人徳の現われか。
 『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)が同意を返せばいよいよもって調理班が動き出す。

「なら私は皆大好きカレーを作ろう♪
 バカンスでも人気メニューだったし、料理に慣れてない人もこれなら簡単よ」
 ぐっと拳を握る『存在しない月』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)好物はカレー。
 趣味と実益を兼ねたナイスチョイスである。流石本場(インド)人。
「だったら私がウーニャさんのカレー作りを手伝うとしましょう。
 調理は一通り出来るけど、私は何を食べても美味しいという人間なので味付けの方は任せるわ」
 普段は対物ライフルを振り回し敵を蜂の巣にする事に命を燃やしている彼女も、
 今日は調理のお手伝い。『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が
 その精神性を現す様な懐の深い発言と共にウーニャのサポートに周る。
「えっと、カレーの材料、僕が買ってきますっ」
 これに更に七布施・三千(BNE000346)が応じるも、しかしふと考える。
 カレー、と一口に言ってもその種類は多種多様。一般流通している物でさえ、チキン、ポーク、
 ビーフにシーフード。甘口、中辛、辛口と4×3で12種類も有る。どれを買って来れば良い物か。
「俺は買出しを手伝おうかと考えているんだが、カレー作成班はどの様なカレーを作るのだろうか?」
 『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)がその辺にざっくりと切り込むと、
 それは勿論、全部有った方が良いだろう。と首を傾げるウーニャ。
「エフィカちゃん甘口が好きかなあ。いやでも以外と激辛好きかも……
 みんなで食べるから辛さ別に3種類ぐらい作った方がいいかな?」
 その返答に優希が頷く。
「そうだな、では甘口、普通、激辛の3種類で如何だろう。
 因みに俺は激辛カレーが頼めるのであれば種別は問わない。そう、激辛が……」
 激辛が……と視線を何処か遠くへ飛ばしている優希の事はとりあえずさて置くとして、
 これによりウーニャが甘口、エナーシアが激辛へと調理をシフトする。
 しかし足りない。普通のカレーを作る人間が居ない。
「それでは差し支えなければ、僕が中辛の調理を承りますよ」
 此処に珈琲館「あかつき」経営、源 カイ(BNE000446)が滑り込む。
 いずれも調理慣れしたした者同士。頷き合えばあれやこれやと手早く細部を詰めていき。
(ミーノにも何かお手伝いできることあるかな~? あるかな~?)
 物陰に隠れひっそりと相談の様子を見守っていた、
 『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)に気付いたウーニャが彼女を笑って手招く。

「アタシはじゃぁどら焼きでも作ろうかねぇ。材料があると嬉しいんだけど誰か頼めるかい?」
 そして勿論、料理と言えばこの人が声を上げない訳も無い。
 丸富食堂を一手に切り盛りする『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)の提案に、
 腕を組み様子を見守っていた男、『生還者』酒呑 雷慈慟(BNE002371)が大きく頷く。
「丸田御婦人のどら焼き用食材引き受けよう。手に入る限りの上質な物を用意してくる」
「よっしゃあ! 料理には、自信がないからな! 足りない物は私にまかせろ!」
 『剣姫』イセリア・イシュター(BNE002683)が大雑把に請け負えば、であればと。
 それを聞いていた『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイトが更に追加注文。
「私はチーちゃんと一緒に「サラダ」を作るわ! 
 ハムとかサーモンでお花の形にしたり、スミレとかを添えるの」
「ルアと一緒にサラダ作るよ~っ! 色とりどりのお野菜とお花でかわいいサラダを作っちゃう!」
 ねっ、と顔を見合わせ女の子らしい品目を加えるルアと、
 チーちゃんこと『中身はアレな』羽柴 壱也(BNE002639)けれどふと気にする様に首を傾げ。
「あとチキンとか食べたいけど、誰か作らないのかな?」
 視線を巡らせると、作る料理に悩んでいた童話の登場人物の様な少女と視線が合う。
 暫し逡巡、けれど小さく頷くとその彼女が手を挙げる。
「それでは、ローストチキンは私が作りますね♪」
「名案ですわお嬢様! それでは材料調達はわたくしが。お使いならば、メイドの本領発揮ですわ♪」
 『童話のヴァンパイアプリンセス』アリス・ショコラ・ヴィクトリカ(BNE000128)がやる気を見せたなら、
 彼女の従者がそれを助けない理由がある筈も無い。
 『ヴォーパル・バニーメイド』ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)が、
 きらきらとした眼差しを向け、お嬢様の晴れ姿を今日も眼に、脳裏に、心のお嬢様写真集に焼き付ける。
「じゃあボクは紅茶とか珈琲とかフレッシュジュースなんかを作ろう!」
 『素兎』天月・光(BNE000490)が飲み物を抑えると、流石に料理案も出尽くしたか。
 和泉から必要経費を受け取り皆それぞれの目的の為に分散して行く。
 いよいよ、祭の準備の始まりである。

「しかし常に、不意のトラブルはつきものだ。
 パーティに無粋な邪魔が入らぬように、憂いは我が断ち切っておくとするか……」
 一方、そんな会議に威風堂々と背を向けるは『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)他数名。
 何でこうなったのかはさっぱり不明な物の、彼らの長い長い半日もまた、此処から始まる。

●買い出し部隊出動
「いつもお世話になっているエフィカさんの誕生日ですし、めいっぱい盛り上がると良いですね」
 『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)が買い揃えたのは「珈琲」「牛乳」そして「バナナ」
 大手スーパー1軒で揃ってしまった為に若干手持ち無沙汰ながら、
 元より平穏を愛する彼である。荷物を背負いぶらぶらと歩くのも悪くは無い。
 現在市内全域に出動している買い物部隊では数少ないノートラブルでの任務達成者である彼は、
 そんな幸運を知りもせず、周囲を風景と偶にの気楽な仕事を満喫する。
 その視界の中を、ウサ耳メイドが過ぎる。……何度瞬きしようとも変わらない。ウサ耳メイドである。
「わたくし達の行動如何で、アリスお嬢様方調理班の料理の出来が決まるのです。責任重大ですわ!」
 誰ならん。勿論そんな奇妙な格好をしているリベリスタがミルフィ以外に居る筈も無い。
 彼女は正しく孝平の真逆。現在トラブル真っ最中である。
 買い揃えたい物は「ハーブ」「塩胡椒」これらは勿論揃っている。しかし――
「大人数を網羅出来る丸鶏となるとなかなか見つからない物ですわー」
 そう。丸鶏。鶏一羽である。集まる人数は最低でも30人を割る事は無い。
 これらに行き届くだけの鶏を確保するのは近代都市である三高平では、
 なかなかに困難だと言わざるを得ない。アリスの時計兎の如く、焦るミルフィは忙しない。
「ケーキ用の食材等の買い出し……何を買うかは聞いてきましたが、種類が多いですね……」
 別所では、『手足が一緒に前に出る』ミミ・レリエン(BNE002800)が眉を寄せていた。
 泣き虫の上内向的で弱気。若干対人恐怖症の気すらある彼女が、
 買い出しに立候補したと言う時点でなかなか快挙である。
 しかし、その任務は下手な戦闘依頼より彼女に重く厳しく冷たく伸し掛かる。
 山暮らしの長いミミにとって三高平は広過ぎる。そして買うべき物も「無塩バター」「チョコレート」
 ――「蝋燭」ここで引っ掛かる。近所のコンビ二に蝋燭は売っていなかったのである。
「どうしましょうか……あ……あの人、確かアークの……」
「これは戦いだ! いざッ! ジース・ホワイト殿、レン・カークランド殿! 行くぞ!!」
 そんな最中丁度ミミと擦れ違うイセリア。しかし、これは余りに相性が悪い。
 ずんずん突き進む彼女の後ろには、名前を呼ばれた2人が付き従っている。

「おう、言われなくても……ってだからイセリア、重い物は俺が持つって」
「ちょ、皆歩くの早いんだぞ。あ、そういえば家の洗剤がきれていたな……」
 イセリアに『青眼の花守』ジース・ホワイト(BNE002417)、
 『まめつぶヴァンプ』レン・カークランド(BNE002194)らが連れ立って歩く光景は、
 如何にも親しい友人達特有の気兼ねない空気に満ちていて、一歩踏み出しかけた足が止まる。
(ど、どうしましょう……あの人達に聞いた方がよろしいのでしょうか……
 で……でも、あの人も多分、忙しいですし……声を掛けるのも迷惑なんじゃ……)
 悶々と、内部葛藤の止まらないミミ。そうしている間にも彼我の距離は徐々に離れて行き――
「あ、あのっ」
「ん? オイッス、どうしたんだ?」
 思い切って声をかけた瞬間に、振り返ったのは偶々後ろを通過しようとしていたフツ。
 その個性的な髪型は勿論ミミの記憶にも残っている。
 けれどまさか人違いと言う訳にいかず、あわあわ慌てる姿を見つめては首を傾げ。
 ふと思い出した懸念を逆に投げ掛けるフツ。
「そういやケーキに合う砂糖とか小麦粉ってよくわかんねえんだよなァ。
 あんたそういうの分かんねえか?」
「えっ……えっ!?」
「ああ。何か聞きたい事が有ったんだろ?
 バターにチョコレートって事は多分同じケーキの材料だ。一緒に行くかい?」
「……よ……」
 宜しく……お願いします、とぽそぽそと呟くミミに、爽やかな笑顔でオウと軽く応じるフツ。
 袖刷り合うも何とやら。これも何かの縁である。
 救いたがりの坊主見習いと、引っ込み思案のキョンシーが、協力し合って買出しを再開する。
「いちごなのですっ」
「いや、そあら。いちごはいまたべちゃ……あー……」
 他方買い物を終えた雷音とそあらは帰路の真っ最中。
 たっぷり、過剰なほど購入したいちごの大凡1割は既にそあらに食されている。

 そう、これは既に可愛いつまみ食いではない。純然たる暴食である。

「だって……いちご大好きなんだもん……」
 (´・ω・`)
 そんな顔をしてもいちごは戻って来ない訳であるが、雷音にはこうかはばつぐんである。
「これは内緒だな」
 うん、仕方ない。と頷くとその口元にちょんと載せられる新たな苺。
「沢山あるから大丈夫なのです、らいよんちゃんもおひとつどうぞです」
 にこ、と微笑むそあらに釣られて、口に含んだ内緒のいちごはとても甘く、仕方無さそうに笑い合う。
 そうしてふと。向いた目線は互いの手元。雷音が買った「紅茶」「生クリーム」「オリーブオイル」
 そあらが買った「ブルーベリー」と「卵」。そして開封された「苺」
 お互いそれなりに重い荷物を運んでいる訳で、一瞬思い浮かんだ提案を、
 切り出そうか切り出すまいか。逡巡する雷音の手をそあらが握る。
「手を繋いで楽しく帰るです。遠足みたいで楽しいのです」
 向日葵の様に笑うそあらに、やっぱり釣られた雷音が笑い返す。
「そあらの手は温かいな。何かうれしくなる、ありがとう」
「らいよんちゃんの手もあったかいのです」
 くすくすと笑い合う。仲良しの2人が連れ立って歩く、さて、その随分と後ろ。
 同様にアーク本部へと向かう2人連れは彼女達ばかりではなく。
「カレーを短時間でコクのあるものとして作る場合は玉葱ペーストがオススメです。
 これを入れるだけでとってもまろやかになるんですよ」
「ほう、玉葱ペーストは思いつかなかった。堂前は料理はよく作るのか?」
 魚沼産コシヒカリ30kgを背負い、持参のカートを引く優希を先導するのは、
 『桃花月の弓師』堂前 弓弦(BNE002725)。
「実家を離れているので自炊はしていますね。なので毎日作っていますよ」
 普段から自活している弓弦にとって、買い物は日常の一貫である。
 頷きながらもふと思いついた様に続ける言葉には、彼女にしては珍しく自負の色が垣間見える。
「今度、私の料理でよければ食べにきて下さい」
「そうだな、機会があれば」
 笑いかけられた優希はと言えば、瞳を細め何かを考える様に語尾を濁す。
 現在の平穏、安らげる一時を噛み締める度に、心の奥に隠した傷跡が疼く様で。
 兄と妹に振り回されていたかつての記憶が、過ぎては消える。
「……思えば人を祝う機会は久しいものだ。喜んで貰えればよいのだが」
 思わず漏れた独白に、弓弦が頷く。想う所も見えている物も違う二人だけれど。
 けれど、きっと。
「大丈夫です、こんなに皆頑張ってるんですから、喜んでくれますよ」
 共に歩む道程は、紡ぐ穏やかな時間は、きっと無駄なんかではないのだから。
 
●その頃の受付
「受付である新藤さんには散々お世話になっております。が、親しいかと言われれば……」
 一方的な思い入れならあるものの、彼女の側からすれば自分は大勢の中の一人。
 そう想えばこそ、やるべき事をやりに来た。『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)である。
「なので、パーティの間の受付をさせて頂きたい!
 で、本来の受付の人はパーティ行って下さい。同僚って事は私達よりずっと新藤さんに近しい。
 あなた方が祝いの席にいる方が彼女は嬉しい筈です! 多分!」
 珍しく熱く饒舌に語るうさぎは、けれど相変わらずの無表情。
 目線は何所に向いているか不明である。が、ともあれその熱意に打たれたか、或いは――
「という事だ。ここは我に任せてお前達は祝いに出向くと良い」
 その背後に控え、強烈な威圧感を漂わせる刃紅郎に気圧されてか。
「あ、はい。それじゃお願い……しても、大丈夫ですか?」
 何だか迸る様な不安を抱えつつも、受付のお姉さん方はその場を後にする。
 別れ際にうさぎが持参した花束を、渡して置いて下さい。と差し出すも。
 それは自分で、と笑いながら返される。
 漣の様に走った内心の動揺はさて置き、それでもうさぎ、見た目は無表情である。
「さて、それでは受付を始めるとしよう」
 頷く刃紅郎。その後ろに控えるは愉快な仲間達。
「そうですね、じゃあ受け付け頑張りましょう。力を合わせて! 笑顔で!」
 気を取り直し、紡いだ言葉。中央ビルだけあって来客は決して少なくない。
 今も丁度、出入りの業者らしき男性がカウンターへ向けてやって来る真っ最中であり――

「……笑顔?」
 勿論うさぎ、見た目は無表情である。

●皆で出来るもん
「只今戻りました!」
 大量の「カレールー」、それに「たまねぎ」と「じゃがいも」。
 とても単独で持ち帰る事が難しいと道中で悟ったか、
 タクシーを用いた三千が真っ先に会議室へ帰還すると、徐々に徐々に買い物班が戻り始める。
 ここからは調理班にバトンタッチ。時間との勝負である。
 約60人分の材料を前に、とりあえずウーニャが眩暈を覚えた様に一歩退く。
「……そうか、人数分作ろうと思ったらこうなるわよね」
 流石に日常的に生活していて60人分玉葱を刻む事など早々無い。
 例え料理の腕に一定覚えがあっても、大量生産となると下拵えの手間は単純倍加するのである。
「よしっ、やるわよミーノちゃん!」
「うん、あとはまかせておくの~!」
 まな板へ包丁を叩き付ける音。片やリズミカル、片や……当人の名誉の為に言及は敢えて避けよう。
「じゃっがじゃっがいっもいっもおいもっさん~♪」
 自作の歌を口ずさみながらぱたぱたと駆け回るミーノは実に楽しげであり、
 料理を作るに当たっては当人が幸せである事がまずは一番重要な事なのだから。
「厨房の下働きならした事あるから、大丈夫よ」
 他方手際良く刻まれた玉葱を炒めるエナーシア。この辺り流石は何でも屋と言うべきか。
 至って卒無く作業は続く。とは言え用意されたガラムマサラが1ケース転がっている所を見ると、
 自重する気は全く無いらしい。優希も安心、辛さフルスロットルである。
「んー……下味付けはこんな物ですかね」
 小皿にお玉で掬ったカレーをぺろっと舐め、首を傾げるのは中辛担当のカイ。
 カレー作成班は誰もが皆一定の経験者と言う事もあり、その作業には妥協が無い。
 それを見ればカイとて喫茶店経営者の意地がある。味付けの調整は中辛、と言うのが一番難しい。
 こまめに味見をしながら、徐々に満足の行く出来にまで近付けていくその姿は真剣である。

「チーちゃん、気をつけてね? 指切っちゃだめだよ?」
「あはは、大丈夫大丈夫。私だって料理位出来るんだから」
 心配げな声を上げながらトマトを切り分けるルアに、レタスを千切りながら答える壱也。
 和気藹々と作業を進めるこちらはサラダ作成班。
「にんにんにんじん~にんじんでござる~♪」
「何だろうねあの歌」
 言った先からルアが、カレーの香りと一緒に流れてくる不思議な歌声に気を取られる。
 手元を掠める包丁の刃。
「ルア! 包丁持ってるから! 手、気をつけて!」
「ぴゃーっ!? 危なかったの!」
 天然と言うべきか何なのか、慌てて集中し直すルアの胸中には彼女の想い人が過ぎり。
(よかったの。スケキヨさんが居なくて。こんなのスケキヨさんに見せられないよ!)
 再び指先ギリギリへと振り下ろされる包丁。
「ルア――!?」
「わっ、きゃーっ!?」
 ※……包丁を使っている最中に余所事を考えるのは程々にしようね。イヴおねーさんとの約束だよ。
「おー、意外と綺麗に出来てるじゃん!」
「うん、うまそうだ。誕生会楽しみだな」
 サラダを並べ始めた2人の横を、買出しを終えたジースとレンが荷物を運びながら通りがかる。
 今届いたばかりの卵である。調理にこれを用いる班は極めて多い。
 その割に随分と時間が掛かった背景には、そう。担当者である雷慈慟の事情があった。
「待ってなよ。極上の食材、届けるから」
 何処かで聞いた様な台詞を言って旅立って行った彼は、
 何と言葉通り極上の食材を手に入れる為、スーパーではなく養鶏所に仕入れに向かったのである。
 勿論突然の発注の上、60人分と言う数字に交渉は難航した。
 しかしそれをも何とか口説き落とし、漸く凱旋した訳である。

 それはまあ、多少遅れても仕方が無い。そしてこれを最大限に歓迎するのは当然――
「さて、時間がないぞ。気合入れてかからなくちゃな」
「うん、普通にスポンジ焼くと時間掛かるから、天板で薄い生地を沢山焼いて積み重ねよう」
「おっけー♪ じゃ、オレは生地混ぜるから、静は泡だてな~」
 そう、作業の止まっていた今回の最大激戦区。ケーキ作成班である。
 彼らにとって時間は幾ら有っても足りない物。
 効率的に動かなければ、パーティの終わりにも間に合うかどうか。
 あたかも訓練された兵士の様に作業場を分散し、膨大な量の材料へと取り掛かる。
「お肉はおおきめごろんごろん~♪」
「お待たせ致しましたお嬢様ーっ!」
 カレーの方から響く歌声を割り、駆け込んできたミルフィの背には大きな大きな風呂敷。
 鶏を丸ごと。と言う注文を果たす為に東奔西走した結果、
 とある精肉店で発見した加工前の鶏肉をまとめて包んで貰ったのである。
 流石のお嬢様らぶ☆メイドの全力を持ってしても、これを運搬するのは容易くはなかった。
「ありがとうミルフィ、御疲れ様」
 息を大きく切らせながら戻ったミルフィを、アリスが労い汗を拭う。
 とは言えこれから焼くのはローストチキン。時間的にパーティ開始までにギリギリのペースである。
「それでは、こちらも始めましょう」
 アリスが気合を入れて丸鶏へと向かう。

「るーはあまくち(ほわわわ~ん)」
「お菓子がケーキだけと言うのも少し寂しいですよね」
 奇しくも最初にオーブンを使い始めた雪白 桐(BNE000185)が、
 余りの材料で作ったクッキーが焼き上がる。一つを齧って一度だけ首肯。
 クッキングシートを剥がして冷やしながら改めて周囲を見回せば、
 誰もが必死に作業しているのが見て取れる。本当は料理が出来るまでの間、
 つまんだりも出来ればと思ったのだけれど、これは少しそんな余裕は無いかもしれない。
 首を傾げながら次の調理に取り掛かる。何せ60人近い人間が集まるのだ。
 多少焼いた位では追いつかない。と、其処へ伸びる手。ぱりぽりと言う音。
 卵をかき混ぜる手を止めて視線を上げると、旧知の人物と目線が合う。
「……光さん」
「え、ぼく何モシテナイヨ?」
 ごしごしと口を擦りながらそっぽを向く光。
 分かり易過ぎる摘み食いに漏れるのは大きな溜息。いやまあ、確かにその為に作ったのだけれど。
「ええ、口にはついていませんが指先についていますからね?」
 大幅に説明を端折って呟くも、まあ何と言うか短くは無い付き合い、今更である。
 彼女は彼女でミックスジュースを作り終えてしまい暇だったのだろう。
 基本氷と果物を混ぜて味を整えるだけなので、完成は一番早かったのだ。
「摘み食いは良いですから、暇ならこっち手伝って下さい」
「えー、でも桐ぽんがしてるの何か難しそうじゃないかなっ?」
「教えますから、ほらそこ通行の邪魔です」
 引っ張り寄せては押し付けるボール。正に相棒同士だからこその遠慮の無さである。
「ねー桐ぽん。これ出来たら摘まんでも良い?」
「駄目って言っても摘まむじゃないですか……」
 はあ、と漏れる溜息。何所に居ても2人の関係は変わらない。
「なーに、料理は愛情だよ。愛情込めて作ればどんなもんでも美味しいもんさ」
 そんな2人を見てからからと笑った富子が作ったどらやきがテーブルに並ぶと、
 さて、調理もいよいよ大詰めである。

●その頃の受付
「ベテランエフィカの穴を埋めるなんて出来る筈が無いに違いない。オレ達も手伝うぜ!」
「ああ、今日は俺等に任せな!! 王様や火車もいるし、なんとかなるさ!」
「お兄に着いてきてみたら事務作業……なんでこうなるの……うひぃっ!」
 以上、『不退転火薬庫』宮部乃宮 火車(BNE001845)、
 『すけしゅん』霧島 俊介(BNE000082)、『ヴァルプルギスの魔女』桐生 千歳(BNE000090)
 の物語冒頭時点でのテンションである。如何にもやる気に満ちた2名に、
 着いてきたら地雷だった約1名。台詞の端々からもそれが見て取れる。
 しかし、これららも匠の手にかかればあっと言う間にビフォーアフター。
 ↓
「は? 道? 施設? この辺の事とか聞かれてもしらねーよ! 看板でも見ていけ!
 人に頼るな! 自立精神を持てよ!」
「あー……文字とペンって駄目なんだよな俺……駄目だ、眠い……眠くなって……」
「んふっ。誕生会出席の方ですね。こちらの名簿に速やかに、迅速に、記入をお願いしますー
 って、ちょ! こらぁー! お兄! 仕事任せて寝るんじゃないですっ!?」
 ガンガンとグリモアの角で頭を叩かれる俊介。
「ああ、羽音……時が――見えるよ――」
「何見てるですかー!? こ、こらっ! 寝るなぁ!! お兄――!」
 何この駄目ビフォーアフター

「……王様」
「……何だ」
 出入り業者を追い返し玄関に仁王立ちする刃紅郎の後ろから、
 何所を見てるか分からなくて怖いと子供に泣かれたうさぎが呟きかける。
「もしかして、私達受付に向いてないとか無いですかね」
「……無いな」
「無いですか」
「無い」
 この日を境に暫くの間。三高平中央ビルの受付カウンターから、
 客足が極端に遠のく事になるのだが、それはまた別の話。
 そうしてとうとう日も暮れて――

「よっ ひたむきに仕事してきたみてーだな? お疲れさん!」
 戻ってきた“彼ら”に火車が笑いかける。
「事後報告と反省会の会場は会議室になるぞー」
 2人に連れられた天使の少女が、受付を、通り抜ける。

●レッツパーティ
「この紐……ね?」
「そうでござる、入ってきたらこのクラッカーを思いっきり引っ張るのでござるよ」
「……うん、大丈夫。上手くやる」
 誕生日の祝い方を指南する、『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)の言葉に、
 遅れてやってきた『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)がこくりと頷く。
「さ、和泉さんもそんなトコに居ないで、一緒にお祝いに行こう!」
「あっ。もう……意外と強引なんですね。誰か纏める人が居なくて困っても知りませんよ?」
「その時はその時だ。和泉さんに祝って貰えた方がエフィカさんだって喜ぶよ」
 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)に手を引っ張られ、
 開場入りしたのは『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)
「準備出来ました」
「ホラ、ちゃんとマイクも準備したし。大観衆が登場を待ちわびている。
 駆けるくろぬこ()のいいとこ見せて来い!」
 そうして、くろぬこ、の後ろ辺りに付いた()に気付く事は無く、肩を竦めるのは
 『駆ける黒猫』将門 伸暁(nBNE000006)。まさかの生ライヴである。
「OKOK、それじゃ派手にロック&ビートで響かせてやろうじゃないの。本物のソウルって奴をさ」
「そうこなくっちゃ。頼むぜ本当」
 肩を叩く『むしろぴよこが本体?』アウラール・オーバル(BNE001406)に、
 設置したカメラを調整する来栖 奏音(BNE002598)が後ろを支える。
「それでは、これからエフィカ・新藤さんの誕生会を始めたいと思います。エフィカさん御入場です!」
 2本用意されたマイクの内の片方を取った、
 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)が声を上げるや、
 そこに割り込むもう一つのマイク。アウラールが準備しておいたインディーズロックバンド
 『ブラックキャット』の音源が鳴り響き。
「俺の、歌声を、聞け――――ッッッ!!」
 天才、NOBUの酷く伸びのある低めの歌声が開場全てを包み込む。
 その曲に混ざって静かに開かれる扉。
 『高校生イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)の開いたそれを、
 『ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)に手を引かれた、
 『敏腕マスコット』エフィカ・新藤(nBNE000005)がゆっくりと潜り抜ける。
 その衣装は普段と違い、ワンピースタイプの青いパーティドレスへと変えられており。
 踏み出した一歩、瞬く瞳が永遠とも言える程の長い時間を刻む。
 BGMが間奏へ入り、伸暁の声が収束した瞬間。割れる様な拍手。そして――

「「「「「「「「「「「「誕 生 日 お め で と う !」」」」」」」」」」」」

 爆ぜるクラッカーの音。誕生日おめでとう!と書かれた垂れ幕が広がり、
 『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)が作った黄金のくす玉から紙吹雪が舞う。
 多くの人々が、大勢の人間がこの瞬間の為に集まっていた。
 テーブルを彩るのは色とりどりの飾りと急ぎで仕上げた料理の数々。
 けれど、一番大切なのはむしろ、その為に協力し合ったと言う行動その物。
 一人を祝う為に彼らは、彼女らは、皆が行動した。想いを実行に移し、結果を此処に映し出した。
 万華鏡でも見えない未来。それは一人一人が紡ぎ出し、それぞれに絡み合って織り上げられる奇蹟。
 どんなをも悲劇を予知する事が出来るカレイドシステムにも、
 こんなハッピーエンドは、見えなかった。
「……あ……」
 詰まった様に、吐息が漏れる。声にならない感謝を、上手に伝える手段を彼女は知らない。
 ムービースターの様に洒落た言葉も浮かばない。胸いっぱいに満たされた気持ちを表す方法を、
 エフィカは一つしか、知らなかった。一つしか、思い浮かばなかった。だからその一つを。
 何でも無い誰にでも出来る、けれど待ち望まれていた一つを。皆へと返した。
「ありがとうございますっ、嬉しいですっ!」
 満面笑顔で、上げた声は伸暁に勝るとも劣らない。
 大きく頭を下げた背には翼が広がり、上げた瞳の端には涙が滲んでいた。
「誕生日、おめでとう」
 エフィカの前に『不具合の為、表示できません。』結城 竜一(BNE000210)が進み出る。
 執事服、白手袋に伊達の丸メガネ。きちんと着飾った竜一は、
 普段変態御三家等と呼ばれている姿から想像もつかない立派な執事である。
 慎ましやかに微笑みながら、そっと間近の椅子を引く。
 まるで童話のお姫様の様に扱われ、一瞬慌てたエフィカが照れた様に席へと着く。

「お疲れ様」
 声を掛けたのは彼女をエスコートして来た2人の内の1人。夏栖斗である。
 つい先ほど某下着フェチの変態と死闘を繰り広げて来た彼は流石に着のみ着のまま。
 とは言え彼に庇われた事で無傷だったエフィカにしてみれば、
 感謝の言葉も伝えずここまで引っ張って来られてしまった訳で。
 慌てて立ち上がっては大きく頭を下げる。
「あのっ、さっきは本当に、庇ってくれてありがとうございましたっ。
 お怪我は、大丈夫でしたか?」
「ああ、全然大丈夫。僕頑丈だしさ。それに女の子を護るのは男の役割だろ?」
 からっと笑う夏栖斗に、けれどその足元を力の込められた踵が正確に狙う。
「うわっ、ちょ、危な!?」
 ぐりゅり、と言う感じに捻られたそれには明らかに殺気が込められていた気がする物の、
 跳びはねた夏栖斗の後ろから顔を覗かせたのは『毒絶彼女』源兵島 こじり(BNE000630)
 緊張しているのか他意があるのか、何だか良い感じに無表情である。
「うわ。待って待ってこじりさん。僕何もしてないからね? 普通にお喋してただけだからね?」
 何故かいきなり弁明を始める夏栖斗。
 しかし何だろう。その方がむしろ怪しい気がするのは気の所為か。
 ともあれ件のこじりさんはそちらの方面は完全無視である。一瞥すらしない。
 真っ直ぐにエフィカを見つめると、少し目を閉じていたか。
「誕生日……取り敢えず良かったわね。……いえ、おめでとう御座いました? お祝い申し上げ……?」
 ぶつぶつと口の中で言葉を転がすと、吹っ切れた様に瞳を開く。
「もう良いわ、歳食ったわね」
 それは断じてお祝いの言葉ではない。
「あ、あはは。いえ、ありがとうございます」
 お祝い下手、と言うより恐らく人を祝った事その物が無いのだろう。
 悩んだ結果明後日の方向に大暴投をしたこじりへと、エフィカがストレートな答えを返す。
「では今日が誕生日の新藤さんにプレゼントを……」
「あ、いえ、そんなお気使いを」
「貰います。ほら早く出しなさい」
「ええー!?」
 
 既にお祝い下手、とかそういう次元では無い。ただの暴挙である。
「え? 何? 用意していない? 折角私がお祝いに来てあげたのに気が効かないわね」
 待ってこじりさん恐い。
「なんてね、冗談」
 くす、と笑う彼女に、エフィカがほっと息を吐く。けれどそう、プレゼントなら、有ったのだ。
 エフィカは彼女がそんな風に、柔らかに微笑む姿を始めて見たのだから。
「あ、エフィカカレーとか好き?あっちで配ってるから持って」
「うるさい」
 ばちーんと高い音が響く。微笑み返そうとしたエフィカさん硬直。
「ホラ、他の人もお祝いしたいのだから。もう行きましょう」
「え、ちがう! 誤解だ! 僕はデレデレとかしてな」
「はいはい、そーですねー」
 強制連行されるこじりの背に、けれど少しだけ笑い混じりにエフィカの声が降る。
「仲良いんですね」
「仲良くなんて無い。ただ睦言を言い合う程度に睦まじいだけ、よ」
 颯爽と去り行く後姿には、けれど何だか幸せそうな空気が見え隠れ。
「おかえりなさいませー! ご主人様っ!」
「ご奉仕するみゅう♪」
 さて、その後ろ。走り込んだのは何やら不可解なキャラ付けで直走る。
 熱海ニャンニャンこと、『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
 &『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)ダブルで猫耳メイド服と言う修羅の道である。
「冷たい飲み物でもどうぞー」
「お料理持ってきますねっ、何が良いですか?」
「お仕事御疲れ様でした。肩もみましょうか」
「はい、ご主人様。食べさせてあげるね。あーんして」
「あわっ、わわっ、いえあの、私自分でも、え、あ、あーん」
 猫耳メイド2名の怒涛の攻勢にエフィカもたじたじである。
 何だか流されてあーんとかしているのを竜一がしっかりビデオに収めている。あれ、執事は?

「和泉さん、プチブーケのプレゼンターも頼んでいいかな?」
「はい。折角のお祝いですし、最後までサポートさせて貰います」
 くすくすと笑いながらプチブーケを受け取り、連れ立ってやって来たのは快と和泉。
 用意した贈り物。手回しオルゴールを包んだプレゼントボックスを差し出すと、
 両手で受け取ったエフィカも幸せそうに微笑みを返す。
「エフィカさん、誕生日おめでとう! いつもお仕事お疲れ様。
 俺、アルバイトでアークの事務方にも出入りしてるから、
 何か手伝えることがあったらいつでも呼んでよ」
「新田さんこそ、いつも御疲れ様です!
 えっと……では何か本当に困った事が有ったら、頼りにさせて下さいねっ」
「エフィカさん、お誕生日おめでとう。このブーケも、新田さんから」
「わっ、和泉さんもわざわざありがとうございますっ! 嬉しいです」
 抱えたプレゼント。けれどそれ以上に幾つも贈られたお祝いの気持ち。
 それを噛み締める様に、小さな天使の少女はぎゅっとブーケを抱く。
「ごめんっ、待ち合せ時刻間違えて間に合わなかった!」
「うん……ちゃんと成功させた、から、大丈夫」
 壁際からそれを眺め、ほんのりと微笑みを浮かべていた天乃に、
 アンデッタが手を合わせて謝罪する。けれど恐らくは誰もが彼女を責める事はしないだろう。
 一人の笑顔を守る為に戦った彼らは、見事それを守りきったのだから。
 外で詰んできた野花を手に、どこかそわそわと。エフィカの周りが空くのを待つ天乃の表情は、
 常ならず和んだ物で。……こうやって、守った誰かの笑顔をちゃんと、見るのも悪くない、何て。
 柄にもなく、けれどほんの少しだけ。そんな事を考えたり、した。

●その頃の受付
「いつもの受付嬢は……だと? ほう、我では不服だとでも言うのか?」
 失礼しましたーっ!等と言いながら半泣きで立ち去る営業らしきサラリーマン。
 不服と言うか……ねぇ?誰在らん。勿論本日限定、受付の刃紅郎である。
「ふん、何だ。用も無いのに冷やかしか。 受付と言うのは意外と大変な仕事だな。
 我であればこれほど度々冷やかされたなら、流石に放ってはおけぬ」
 それらは全て何らかの用があってやって来た物の、
 刃紅郎や火車に追い返された人々な訳なのだが、その辺の事情はさて置いて。
「……今頃は宴を楽しんでおるだろうか
 そう言えば我がこの街に来て以来、いつもこうして彼奴は出迎えてくれておったな……」
 日も暮れて、人通りが少なくなった三高平の街を眺め、何所と無くしんみりと瞳を細める。
 普段何気なく接しているだけの人間を、強く意識する。
 それもまた、誕生日と言う一区切りの持つ意味ではあるのだろう。
 ほんの少しの寂しさを滲ませて、孤高の王はエフィカが見つめ続けた街並みを見守る。
「で、それ何時渡すんだよ?」
「……いつ、でしょうね」
 俊介に問われたうさぎが花束を手に呆然と佇み、
「だぁーから、遊んでる暇があるんなら手を動かすっ! 犬束様もっ! お兄もっ!
 誕生日なのに仕事増やしちゃってどうするですかーっ!」
「はっはっは、お前ら大変だなあ」
「何で丸きり他人事なんだよ!?」
 一人必死に事務仕事を済ませる千歳が切れる。火車が視線を逸らす。俊介が突っ込む。

 例え日が落ちようと、戦いはまだまだ終わらない。
 今日も受付は大忙し、である。

●エフィカさんと17歳のお誕生日
 暫し入れ替わり立ち代わりエフィカの周りを祝い客が通っては過ぎる。
 その間2人の猫耳メイドと、影の様に付き従う執事が、エフィカの世話を焼いていた物の、
 そんな喧騒も漸くに、そろそろ収束の気配を見せつつあるそんな頃合。
 最後に残された一つの料理班が長い戦いに今、終止符を打たんとしていた。
「お、凄いな。超可愛いぜ」
「へへ、でしょー、ふにゃっ」
 完成した人形細工に感動し、頬へ口付ける静に、くすぐったそうに笑いながらそれを受ける玲。
「うぉ、さすがケーキ屋の息子だな! すげぇな!」
「なーうまそ~!! って、俺が食べちゃだめだめ!」
 ジースのストレートな賛辞に、甘い物大好きな愁平が思わず釣られそうになり、
 何とか正気を取り戻す。クリームに包まれた白いケーキに、
 丸くくりぬいたメロンのアクセント。ハート型に固め直したチョコレートの表面には、
 静がブルーベリーを絞って作ったフルーツソースによる「Happy Birthday Effica !」の文字。
 急ぎで作ったにしては十分過ぎる完成度に、静、玲、愁平の視線が交わり。
「「「できた~!」」」
 お互いに両手でハイタッチ。いよいよもってパーティも佳境である。
 ケーキに蝋燭を挿し、火を着けようとした愁平の後ろ。会場の方で、
「やっべちょっと待って待ってタンマタン――」
 等と言う声とちゅどーんとか言う爆発音が聞こえた辺り、何か隠し芸でもしているのだろうか。
 『男たちのバンカーバスター』関 狄龍(BNE002760)がパーティの隅で、
 何故かアフロになって倒れている理由など、料理に専念していた3人には知る由も、無い。
 ともあれ――
「さあ、このケーキでパーティーのトリを飾ろう!」
 玲の上げた気勢に、残り2人の振り上げた拳が、重なった。

「お、そろそろか」
 他方、ケーキ作成班から合図を貰ったのは裏方を務めるアウラールと奏音。
「よし、それじゃせーので電気消すぞ。準備は良いか?」
「エフィカちゃんとケーキを撮影するのですよ~♪」
「いや、そっちの準備じゃない」
 意思疎通に若干の齟齬はありつつも、せーののタイミングに合わせて照明が落ちる。
 突然薄暗くなる室内。何かの気配を感じ集まったリベリスタ達の誰もが言葉を止める。
 からからと、運ばれてくる滑車。上に乗ったケーキに灯された蝋燭は大1本に小7本。
 それらがエフィカの前に止まると、自然とそこへ視線が集まる。
 固唾を呑んで見守られる中、疾風が近付きエフィカへとマイクを、手渡した。
「――」
 息を整える呼吸の音。元々人前で話をする様な職種でもなければ性格でも無い。
 けれど、これだけの事をして貰って、何も返せないのでは気が済まない。
「――皆さん。今日は、私の誕生日の為に集まって下さって、本当に、ありがとうございますっ」
 澄んだ声は静かに響く。決して目立つ物ではない。けれど素直な声音。
「こんな、盛大に祝って頂けるなんて思ってもみなくて、吃驚しました。
 始めは実感が無くて、今もまだ、本当は、夢でも見てるんじゃないかって」
 照れ屋な彼女なりに一生懸命。どうかどうか、届けば良いと。
「でも、嬉しくて、胸がいっぱいで、いっぱい過ぎて、苦しい位で……」
 けれど、とてもとても嬉しそうに。微笑む。 
「……私、幸せ者ですっ! 本当に、ありがとうございました!」
 蝋燭の火が、吹かれて消える。口々に上がる祝いの言葉。
 それに混ざってウェイター、夜城 将清(BNE000900)がグラスを持って近付いていく。
「ナイススピーチ。お嬢さん、一杯如何かな?」
「あ、ありがとうございますっ」
 軽くウインクすると受け取ったグラスと自身のグラスを打ち合わせ、
 乾杯してはまた別の人へと飲み物を配って行く颯爽とした黒い姿。

 それと入れ違いに通りがかったのはツァイン・ウォーレス(BNE001520)
 手には中辛カレーにローストチキンを載せた皿を持ち、口は何やらもごもごしている。
 別に照れるとか口ごもっている訳ではなく、単にお食事中なだけである。
 彼は彼なりにパーティを楽しんでいる模様。
 けれど視線がエフィカの方へつい向いてしまったのは、何は無くともその服装だろう。
 彼女の纏う青いドレスは彼が贈った物である。距離があった為に声こそ届かない物の、
 視線が合った事に気付いたエフィカははにかむように笑いながらドレスの裾を摘まんで一礼する。
 笑って手を振り返しながら、ツァインの胸に実感として落ちるのは、
 その笑顔を守り抜いたと言う自負心もあればこそだろうか。
 思わず浮かんだ笑みを噛み殺し、彼もまたのんびりと次のメニューへ向かう。
「皆が用意した料理もあるでござる! じっくり食べるでござるよ」
「……辛いのは苦手」
「む、こっちは甘口でござる」
 向かった先ではイヴに世話を焼く虎鐵である。
 カレーを注ぎ分けながら、自分も皿に装っては舌鼓を打つ。
「ああ……雷音が買った食材が美味すぎて拙者幸せすぎるでござる……!」
 養女への愛情が溢れまくる虎鐵の発言が諸に聞こえたか、
 彼を目の当たりにして駆け寄ろうとした雷音の足がぴたりと止まるや、
 隣を歩いていたそあらの陰に身を隠す。御年頃の娘に豪快に養女を賛美する養父は流石に鬼門か。
「言い訳せずにロックに飾りつけすれば良かったのに」
 一曲終えて壁際に佇む伸暁には、やはり役割をほぼ完遂した疾風が笑いかける。
 けれど駆ける黒猫は伊達ではない。片目を閉じれば当たり前の様に答えるのである。
「フ、俺がロックに徹したら誰が主役だか分からなくなるだろ?
 押すのは三流、引くのは二流、緩急つけてこその一流なのさ」
 何所までも自分の道を貫き通す。彼のロックは、揺るがない。
 
 かくて祭は大いに盛り上がり、数多の人々が騒ぎ、歌い、喜び、微笑んだ。 
 平凡で貴重で幸福な時間は瞬く間に過ぎ行き――静かに鳴り響く0時の、鐘。

●夢の終わりに……
「こじりさん、ちょっとヤキモチやいてくれたの?」
 帰り際、ふと尋ねてみたのは夏栖斗の悪戯心であり、
「何を勘違いしているの、馬鹿なの? 死ぬの?」
 それをばっさり切り捨てるのは彼と彼女とにとっては半ば定例行事である。
 繋いだ手は離さないまま、先導するこじりは振り返りもせず言い捨てる。
「ちょっとだ何て、余り甘く見て貰っては困るのよ」
 言われた事に瞬き、反芻し、表情が緩む。追いかける足は駆け足に。二人並んで帰路を辿る。
「……あの」
「えっ?」
 パーティ会場から漸く出てきたエフィカを待っていたのは受付班の面々である。
 内刃紅郎と火車に背を押され、前に出されたうさぎが残された花束を差し出す。
 エフィカの持ち物はプレゼントだらけ。内の何割かは竜一が代わりに持っている物の、
 それにしても大荷物である。この上こんな物を渡しても、と思わなくも無い。
 けれど、退路は既に絶たれている。何ですかこの羞恥プレイは。さっさと渡して撤収しましょう。
 そんな事を思った――矢先。
「ありがとうございます、犬束さん。嬉しいです」
 嬉しそうに笑って受け取る、エフィカにとって彼女は確かにリベリスタ達の1人である。
 何度も受付で見守り、無事を祈った大勢の1人。その顔も名前も声も、忘れる筈が無い。
 祝われて嬉しくない筈が、無い。
「……良かったな」
 踵を返してすれ違う瞬間刃紅郎がかけた声。無言のうさぎもやはり、無表情。

「さーて、楽しい時間が終わった後はお片付け! 会場を綺麗に元に戻すまでがパーティです!」
 にゃんとかみゅうとか言う鳴き声から開放された舞姫が、気合を入れてモップを振り回す。
 騒ぐだけ騒いで帰る人々はともかくとして、
 片付けを請け負った者達にとってはここからがむしろ本番である。
「ふふん、NOBUさん逃がしませんよ?」
「おや、仔猫ちゃん。この俺に掃除なんかさせちゃって本当に良いのかい?」
 正にさっさと帰ろうとした伸暁をも巻き込むと、そのテンションはトップギアである。
「オーケー、仕方ない。俺が本物のビートってものをその眼に刻んでやるよ!」
「おーいえー、ロックなお掃除の始まりです! デストローイ!!」
「ちょっと姫ちん、デストローイって、片付けするんだよ!? 壊してどうすんのー!?」
 国子の叫びなどおかしな方向へ振り切れた2人には届かない。
 パーティ後の常識等、風前の灯にも等しいのである。合掌。
「あ、僕も手伝うよ。力仕事くらいしか取り柄がないから!」
「ああ、悪いな。ならこのテーブルを隣に運んで貰えるか」
 『小さき太陽の騎士』ヴァージニア・ガウェイン(BNE002682)の申し出に、
 指示を出すのはやはり片付けを行っていた将清。けれど途中で手が止まる。
 そう、料理の残りである。
「……ついでに残った料理もつまんじゃっていいよね? 
 捨てるよりはいいもんね。勿体ないもんね!」
 一応乙女の嗜みとして食べる事に専念するのは気が引けたのか。
 人が居なくなった今ならば、と心のどこかのリミッターを振り切るヴァージニア。
 育ち盛りだしな。等と視線を逸らした向こうでは、未だ何かを食べている人影2つ。

「残り物の片付けは任せてくれ! 残すと勿体無いし!」
「あ~! こっちのはまだ食べてなかったの~」
 未だ食べていたツァインと食いしん坊最前線を直走るミーノ。
 これにヴァージニアを加えた3人が、流石というべきか何というべきか
 瞬く間に残り物を消化して行く。
 そうして残るは何か赤いカレーの鍋。
 それをミーノがすくって口に入れるのを、何故誰も止められなかったのか。 
「ひぁぁぁぁぁぁ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?!?!?」
 上がる悲鳴は高らかに、高らかに。
「は~い、視線こっちでおねがいします~♪」 
 マイペースにカメラを向けるの奏音の我関せずさも極まれり。
 あたかも泡沫の夢の様な一時は、泡が割れる様に幕を閉じ――けれど。
「どうだい、楽しめたかい?」
 隣室。調理用具の片付けを終えた富子の問いに、それを手伝っていたエフィカは、
 とてもとても、世界で一番に幸福でもある様に笑うのだ。
「とっても、楽しかったですっ」
 それは全てを見守り続けた天使の、17歳のハッピーバースデイ。

 夢は醒めても、気持ちは、消えない。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様はお疲れ様でした。STの弓月蒼です。
イベントシナリオ『【はじおつ】エフィカさんと17歳の誕生日』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

先ずはお待たせ致しまして申し訳ありません。
文章量の目算を大幅に間違えました。
皆様の御期待通りの期限に届けられなかった事、この場を以って謝罪させて頂きます。
その上で改めまして。エフィカさんを大勢の方が祝って下さったことへの
心よりの感謝の気持ちを込めて、この結果を届けさせて頂きたく思います。
恐らく次回以降のイベントシナリオははもっとコンパクトな物になるかと思いますので
その点予め御了承下さい。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。