●蘇るはかつての剣士 深夜の神社に現れる、七つの人影。しかし、その人影は皆、異様な雰囲気を身に纏い、殺意と深い恨みを隠してはいなかった。 現れたのはエリューション・アンデッドである。その恨みは、生者への恨み。生きる者すべてに対する激しい怒り。亡者らしいといえば亡者らしい、生者にとってははた迷惑な恨みであった。 そうした恨みを増幅する形のエリューション化によってアンデッドとなったその者たちは生前、日本刀を振るって人を斬ることを得意とした、かつてのサムライたちなのである。この神社はそんな彼等の骸を収め、鎮魂する為に作られた場所であったのだ。 腐っているために生前と同じとは言えぬが、彼らはエリューション化により確かな肉体を手に入れた。それは肉体による実行力を得たということで、彼らはまず、神社を襲ったのだ。 神社の中には御神刀として収められている刀が数本あり、サムライのアンデッドたちは刀に対する嗅覚(のようなもの。エリューション化によって手に入れた能力と思われる)でそれを察知し、強奪するために襲ったのである。 無論、ただの人間しかいなかったこの神社にそれを止める術はなく、神主は殺され、御神刀は彼らの人数と同じだけ奪われた。 そうして刀を手に入れたサムライのアンデッドたちは、心の底から湧き上がる無制限の恨みによって人を襲い始めた。 その恨みは、神社を要していた小さな村を全滅させ、死の村へと変えても尚、止まらない。 ●泥のある戦場 のんびりと暮らしている野生動物と手入れのされていない田んぼが特徴的な田園風景を見ながら、リベリスタたちはその風景が戦場になることを予感していた。 「この村を護るためには、ここを戦場にしなければいけないみたい」 食い入るように見ていたリベリスタたちに、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が補足をした。これから先に起こるのは、村の全滅。既に起きてしまっているのは、サムライによる刀強奪。 「この場所は……悪く言えば田舎だから、昼間でも人の姿はないよ。だから、結界を使えば人目は問題ない」 目を閉じて、少しだけ言いにくそうに、真白イヴは情報を伝える。 かつては刀鍛冶で有名な場所だったが、時代に取り残されて今は過疎の村であると、資料には書かれていた。こちらの方が歯に衣着せていない。 名は平正村。かつては平正というブランドの銘刀を幾つも創りだした場所であるから、現在でも刀鍛冶は途絶えていない。だから、神社に残されていた御神刀も銘刀である。切れ味も鋭い。 「銘刀を手に入れたサムライのエリューション・アンデッドたちは、高い技術を持っている。だけど、腐った体だから、うまく動けていないみたい」 アンデッドの宿命というべきか、生前の動きを再現するには体が付いてこれないらしい。それでも、生前に身につけた技術と、銘刀がリベリスタたちの前に立ち塞がるだろう。 「それに、この村は泥が多いから注意してね」 なんでも使われていない田んぼが泥沼のようになっており、足場が不安定らしい。しかし、それは相手も同じ事だ。うまく使えば、こちらの有利に持っていけるかもしれない、と真白イヴは言う。 「……単純な戦いの依頼だけど、相手は油断ならない。だから気をつけてね」 イヴの言葉にリベリスタたちは頷き、それぞれ自分たちの扱う武器を見た。 行われるのは、きっとチャンバラ。だから、自分の武器を信頼しなければ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:nozoki | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月29日(月)22:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●サムライとは何なのか 辛うじて道と分かるような山道を抜けて、リベリスタたちは現場にたどり着いた。旅の疲れはあるが、それでもリベリスタたちの目には強い意志が宿っている。 「鎮魂を受けてたのに墓から這い出るなんて……墓守として見逃せないよ!」 その先頭に立つのは、『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)だ。墓守の末裔である彼女は、エリューション化という手段を持って安らかな眠りから目覚め、あまつさえ鎮魂の為に作られた刀を奪ったエリューション・アンデッドに対して強い憤慨を持っていた。 「その命、僕が返してあげる!」」 体に巻き付けている包帯を引っ張って、張り切り具合を表現するアンデッタ。どことなく無邪気な様子は、歳若い少女にも見える。 「平正……昔から技術を受け継ぎ、鍛えられてきた銘刀。良い刀だそうですね。御神刀は、神事の為に鍛えられた刀だとか」 それとは対照的に、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)は胸に手を置いて、村に伝えられたという技術について考える。凛としたその立ち姿には、生真面目さが体にも表れているようでもある。 「即ち、その刃は人を斬る為には在らず。……荒ぶる怨念を討ち祓い、穢された刃に今一度清浄な輝きを」 自らの武器をそっと撫でてから、リセリアはポニーテールをひとつまみ。いつか、追いつきつたい背中がある。その為には、ここで負けてはいられない。 「おサムラーイの怨霊かー」 こちらの『黄道大火の幼き伴星』小崎・岬(BNE002119)も、武器である槍斧の柄をそっと撫でていた。自身がリベリスタとして存在できるのはこの槍斧のおかげであると信じている彼女は、その武器に大きな信頼とアイデンティティを置いている。 「なんか強そうだけど剣で槍と戦うには3倍の力量がいるとか言うし、アンタレスは斧槍だから更にボーナスが付いて3.141592……。……およそ3倍だから大丈夫かなー」 だから、勝つ算段はある。……きっとあると、信じている。 自身の身長に対して大きすぎる槍斧を肩にかけながら、岬は田舎道をすたすたと歩く。リセリアの結界の力は既に利いている為、人目に関しては問題ないはずだ。 「ゾンビ退治とはこの時期らしい依頼ですね。ズバッとバシッとやっつけちゃいましょー」 懐中電灯を腰にぶら下げながら、大きな胸をぶら下げているのは『鉄壁の艶乙女』大石・きなこ(BNE001812)である。先ほどまでの山道では時々転んだりしていたが、その目を引く胸がクッションになっていたためそれほど大きな被害は出ていなかった。 「それにしても、夏ですねぇ……」 蝉が鳴き、辺り一面に緑が生い茂り、湿った空気が肌に触れる……夏。 汗を拭きながら、きなこは依頼の場所であることを確認する。 田んぼが広がる田園光景に一息を付きながら、リベリスタたちは戦いの夜を待った。 ●田んぼと刃 固定式のライトと結界を使って、足場の悪い田んぼの中で戦えるよう、リベリスタたちは準備をしていく。 その中で『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は猟犬の力で敵のエリューション・アンデッドの位置を嗅ぎとり、待ち伏せを行っていた。 「“残り滓”に興味無いんだよね。生きてた頃なら、遊び相手程度にはなったかもしれないけど」 感じ取れる腐臭から、そんな感想をりりすは漏らす。敵としては不十分。とはいえ、放っておくには値しない相手だと考えているのだろう。 「ま、何時も通り適当にイこうか」 銜えていたタバコを噛み砕くようにして、りりすはきししと笑う。虚ろな目と眼帯はそんなりりすの様子を不気味だと印象づける。人工の光しかない夜だから尚更だ。 「チャンバラねー。1対1の真剣勝負ってカッコイイわよね。私もカッコよく立ち回ってみたいけど……面倒だわ」 あつねむだるーっ、と幼く見える顔を緩ませながら『ぐーたら教師』ソラ・ヴァイスハイト(BNE000329)は、目をこする。到着から夜になるまで寝ていたので、少し眠そうだ。 「後方でバンバン撃ってる方が楽よね」 背を伸ばして、んーっと声を出す。これで、彼女の準備はおしまい。やることは本人の言った通り、後方から撃つだけだ。 そこで、不気味な物音。ぬちゃり、ぬちゃり……という泥を這うような足音であった。 その足音の主は、倒すべき敵。エリューション・アンデッドの群れだ。近くにまで来ていることは、明白である。 「さて……村の為に頑張りましょうか」 よいしょ、と両肩を叩いてから、だるそうな目を少しだけ鋭くする。戦いは、もうすぐ始まる。 「侍……ね。本物を相手にすんのは、師匠の爺さん以来だ。ま、一度も勝てなかったけどよ。今ならもう少し届くかもな」 昔を懐かしみながら、『復讐者』雪白 凍夜(BNE000889)は自らの武器鞘から抜いて、その刀身を眺める。そこに映るのは、自身の鋭い眼光。何者も射抜こうとする、強い意志。追いかける者の顔だ。 さて、そんなリベリスタの一団から少し離れ、囮の準備をしているのは『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)だ。彼女はりりすと共に、戦いの先陣を切り、沼のような田んぼまでエリューション・アンデッドを引き寄せるという役目を持っていた。 「……立ち塞がる者あれば、これを斬れ」 眼帯を付け直し、赤い紐を口に咥える。その紐でポニーテールを結って、準備は万全。 「行きますッ!」 舞姫のよく通る声と共に、戦いは始まった。 ●ぬかるんだ地で 結界を張りつつ、足場の悪い田園地帯でハイバランサーを使いながら、舞姫は背中から太刀を振り上げた。そして、迫り来るエリューション・アンデッドの群れに対して名乗りをあげる。 「我が名は戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫! 武士の誇りを失いし外道の者どもを征伐に参った!」 この大声は挑発だ。その証拠に、いつでも仲間の居る後方へと行けるようにハイスピードを使っている。 「キミたちは僕に惹かれるかい?」 同じく、囮となっているりりすもハイスピードを使いながら挑発している。りりすは事前にきなこから翼の加護の力を受け取っており、浮くことで足場の不利を無視していた。 生者を憎むエリューション・アンデッドたちはこの挑発に乗って、泥だらけになりながらもまっすぐにふたりを目指して動いた。その動きは遅かったが、跳びかかってからの刀の一閃はふたりに届いてしまった。これは、生前は高い技量を持っていたサムライだったからだろう。 「外道といえども、その太刀筋は見事……! ですが!」 「ふぅん……」 切っ先によるダメージを蓄積させながらも、ふたりはAFを通じて通信を行いながら、後退することをやめない。 「甘いっ!」 刀の腹を狙って太刀で叩き、飛び込んできた刃を切り払う舞姫。そうしてエリューション・アンデッドの攻撃を凌いだ後、顔だけを後ろに向けて叫んだ。 「今ですっ!」 「正道の侍に邪道の俺が何所まで追い縋れたか……試させて貰うぜ」 その声に呼応して、闇から飛び出してくるのは小太刀を構えた凍夜だ。ソードエリアルの体勢をとっており、不意打ちを仕掛けようとしているのである。 「何ッ!?」 しかし、それに亡者のサムライはそれに反応し、刀を振り上げて凍夜を切り裂こうとした。 「俺は……俺の邪道は、こんなことで止まらないッ!」 それを凍夜は防御用の短刀を使って防ぎつつ、勢いをそのままにソードエリアルを放った。 「遅い、まだだ。もっと疾く、速く――」 そして加速。一度腰を深く落とし、深呼吸をしてから……、 「見切れるもんなら――見切ってみろ!」 ソードエリアルの連続攻撃。連続して放たれた小太刀による結界は、エリューション・アンデッドの腐った体をバラバラに引き裂いた。 こうして、一体は倒された。だが、そうして飛び込んできた凍夜に向けてエリューション・アンデッドの軍団は刀を構えて襲いかかろうとする。 「えーと……。地を這いずる亡者たちに裁きの雷を。とかなんとか」 そこに、ソラのチェインライトニングが飛んで行き、エリューション・アンデッドの体を痺れさせていく。痺れた亡者たちは、そのソラが自分たちを上空から見下ろしていたことに気付いた。 「不真面目なようでちゃんと考えてるのよ?」 ゆっくりとウインクを凍夜に向けながら、ソラは次のチェインライトニングの準備をする。ひたすらにチェインライトニング、というのが自分の役割だと考えているようだ。 「さて、私たちも行きましょう。発射しますね」 同じく後方で浮遊していたきなこがマジックアローを放って、エリューション・アンデッドの内一体に傷を与える。 「撃てぇ! ……ってね」 きししし、と笑いながらアンデッタはそのマジックアローに合わせて式符・鴉を同じ対象に放ち、ダメージと怒りを与えた。これによって、このエリューション・アンデッドは前衛を抜けてアンデッタへと向かってくるようになったのだが、これにアンデッタは再びきしししと笑った。 「ありがとう、僕を狙ってくれて。これで仲間が態勢を立て直せる」 「しかし、その位置は危険ですね。……斬らせて頂きます!」 突出したエリューション・アンデッドに舞姫のソニックエッジが飛び、その腐った体が剣閃によって切り裂かれていく。舞姫が太刀を振るえば、その分だけ斬れていくのだ。 「これで、終わりです」 舞姫が太刀を仕舞うように肩にかけると、腐った体は完全に崩れ落ちた。これで二体目。 「そこです! あっ、敵は前衛のみんなに集まっています!」 負傷した仲間たちに天使の息を使いながら、きなこは積極的に味方へと声をかけていく。乱戦気味になっているこの戦場では、こうした声が大きく作用する。 「アンデッドてはじめて見たけどグロイねー、腐ってやがる遅すぎたんだ―」 岬が言ったこれは、復活が遅すぎたという意味である。 そんな岬は前衛に立ってエリューション・アンデッドの一体と斬り合っている。とはいえ、刀が振り下ろされれば槍斧のアンタレスを横倒しにして払いのけ、突きが繰り出されれば逆に突き返す……といった感じで、リーチの差もあり一方的に攻撃を回避していた。 「アンタレスは鋭利さばかりを追い求めた刀で受け止められるほど軽くはないんだよー」 しかし、そんなアンタレスへの対抗策を分かっているのか、エリューション・アンデッドたちは示し合わせたように岬を囲んだ。 「ととと、これは……」 翼の加護の力で一旦飛び上がり、立体的に近寄らせないようにするが……。エリューション・アンデッドは連続して跳躍。そのまま岬を斬りつけていった。 「しつこいなぁ、馬鹿兄ィみたいだ」 「大丈夫。きっとね!」 アンデッタの守護結界もあり、その連続攻撃は耐え切ったものの、岬はかなりの手傷を負ってしまう。 なので、疾風居合切りを放ちながら距離を取っていく。 「人が斬りたいならばお相手致しましょう。これ以上、誰も斬らせはしません」 そこでリセリアがソードエリアルを放ちながら飛び出て行って、エリューション・アンデッドの一体を斬り倒しつつ、ハイスピードを使ってステップを踏んでいく。 ダンスを踊るようなステップを何度か踏みながら、近寄ってきたエリューション・アンデッドの刀を武器を使って弾いていった。 「セインディールは、その刀にも負けません!」 「さて、どう壊されたい? ああ、君たちに聞いているわけじゃない。僕が自分に聞いているんだ」 そして、その隙を突くようにして残影剣を放つりりす。それによって、多くのエリューション・アンデッドがダメージを蓄積していく。 「足掻け! 足掻くがいいわ!! はーはっはっはっは。とかやってみたかったのよね」 更に、ソラのチェインライトニングが再びエリューション・アンデッドの群れを襲い、その体力と泥まみれの体を削ぎ落していった。これにより、かなりのダメージを与えたことになる。 「ソードミラージュだけど、これを使うまでもなかったわね」 ソラは待ち構えるように持っていた鎌を空に向けて一振りしてから、再びチェインライトニングの準備に入った。 こうして、既に様々なダメージを受けているエリューション・アンデッドの体力は既に風前の灯火である。故に……、 「良い太刀筋だ……倒し甲斐がある! が、ここまでだ!」 「これが、私たちの武士道です!」 凍夜と舞姫のソニックエッジによって四体目を撃破。 「恨んでくれても良いけどね。虚しいだけだと思うよ? 僕の心にあるのは“敵”だけだし」 「その怨念――この剣で祓います!」 りりすとリセリアの幻影剣によって五体目がなぎ倒される。 「そろそろ毒が回ってきたかな?」 アンデッタの式符・鴉によって六体目が毒に沈む。 「ボクにはこいつしかないんだ、だからこいつが一番いいんだ。……アンタレス!」 そして、岬がアンタレスを大上段から振り下ろし、七体目を撃破。これによってチャンバラバトルは幕を閉じたのである。 ●鎮魂を刀に捧げる 戦闘後、幾つかの刀は折れていた。銘品といえども、異能の力には耐え切れなかったのだろう。 それでも、残った刀を集めれば、その輝きは色あせていなかった。 「墓標は最期まで握ってた刀が本望なのかなー」 その内の一体を墓標代わりとして突き立て、残りはアークに持ち帰り、危険がなければ綺麗に掃除してから別の神社に奉納することになった。 「刀狩り、何てな柄じゃねえが、護神刀が刃毀れしちまったら死んだ神主が浮かばれねえ」 「安らかな眠りを」 神主に黙祷を捧げてから、リベリスタたちはその村を去っていった。 泥だらけの体を引きずっての帰り道だったが、不思議と気持ちは晴れ晴れとしていた。 きっと、救えた命があったからだろう。 これにて、サムライたちとの戦いは終幕した。しかし、現代を生きるサムライたちの……リベリスタたちの戦いはこれからも続いていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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