●腰がいてぇんだ!!! 「われ、のぞむ、あたみ、とうじ!!!」←もうすぐ誕生日 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年10月19日(日)22:16 |
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●理由付けて騒ぎたいお年頃 人間の行動には動機というものが付き物だ。 何故そうしなければならないのか、何時そうするべきなのか――エクスキューズは立場によっては必要不可欠とは言えないが、少なくとも世界的に見た時、ワーカーホリックの気の否めない日本人の場合は、『ド平日に全力全開で緩くお休みを決める』場合、理由の一つも見つけた方が収まりがいいのは確かだろう。 微妙にノスタルジーを感じるややくたびれた街ではあるが、それも味の一つと言える。 「熱海。度々名前を聞く有名な観光地ですよね……」 「そだな」と応じる猛の傍らのリセリアが実に外国人らしい反応を見せた。 東京から新幹線を使えば僅か一時間足らずの場所に位置する熱海は景気の良い頃はそれは盛り上がった観光地の一つであった。現在の趣はバブルの当時から比べれば隔世の感こそ否めないが、依然この場所が日本全国的に有名なアクセスのいい温泉地である事は変わらない。 「――つまる所! そういう訳でやって来ました、熱海です。お祝いです!」 「……全く、相変わらず押しが強いと言うか何と言うか……」 相も変わらずおかしな政治力を駆使して時村観光の施設を貸し切った(自称)本日の主役たる桃子に、疲れた顔でこめかみに手を当てた沙織が苦笑を浮かべているのは何時もの事である。何かしなければならない日では無いが、逆を言えばその分リベリスタ達の労いになるという理屈も立つのだから、彼としては言う程困っている訳では無いのだろうが。 「まぁ、兎に角皆さんで盛り上がっておきましょう!」 挨拶と言えないような手短な桃子の一言で乾杯が始まる。 元より緩い空気の場であるから、それで十分なのも確かだった。 「んー、美味しいですねぇ……!」 「去年に飲めるようになって、今年は温泉よりまず酒宴とは…… 桃子さんはだいぶ飲兵衛としての素質が有ったのかしら?」 小首を傾げたエナーシアの眺める桃子は一升瓶を片手に実に嬉々としたものである。 彼女の言う通り、温泉地だと言うのにまずは宴席といった勢いの桃子に与えられたのは広い宴会用の座敷だった。大本の温泉旅行にせよ、宴会にせよ参加は自由であるから、それはやはり『かこつけて騒ぐ』意味合いの強いものだが……めいめいに休日を過ごし始めるリベリスタ達は、この座敷以外のあちこちにも散っている。 (それともようやく飲める様になったことで加減が効かなくなっているのでせうか?) 中にはエナーシアや、 「桃子~! お祝いに来たデスよー♪」 母国語を交え、屈託無く祝辞を述べるシュエシアのように律儀に純粋に桃子を気にしている者もある。 「ささ、ワタシが桃子にお酌しましょう!」 「やや、これはどうもどうも!」 「わおっ、良い飲みっぷりデスね……! もしかして梅子より飲めるデス?」 「今度、姉さんを潰しちゃいましょうかねえ!」 その名の通り白い頬を桜色に染めた桃子の酒の強さの方は良く分かっていない。 それが故に『大して強くないから吞み方を知っている』エナーシアが気に掛けるのも分かる所だ。 「あたみ! 電車で寝ていると気がついたら居るところなのです! だから! わたしはいまここにいるのです!!!」 ガヤガヤと騒がしい座敷の奥のひな壇にイーリスが上っている。 「みなさん! みてください! はい! わたし! ゆーしゃイーリスです! いまから! 宴会芸します! ものまねです!」 何やら盛り上げ役を買って出た彼女の演目の一つ目が『輪ゴムのマネ』だったのは余談。 「宴会カラオケあり! ってことで自前の衣装を着てばっちりかわいくしあげてババーン、だよ! 赤い瞳であなたを呪縛☆ 怪力天使みんなのアイドル羽柴壱也ちゃんだよっ☆ 素早く奪ったココロをもぎっ!」 ……今夜は握ったマイクを離す心算は無い壱也の謎の気迫はさて置いて。 喧騒は喧騒として楽しみながら、仲が良い者同士、杯を酌み交わすような風景はそこかしこで見られていた。 「みんな騒いでて面白いのですっ! えへへ、お料理とおしゃけ美味しいのですっ!」 「日本式のこういう場は、まだ慣れないですけどね」 何時もよりは幾分か声のトーンを上げたシーヴにメリッサが相槌を打っている。 「でも、楽しい。料理も美味しい。天ぷらに和の料理に……生魚は……頑張りますか」 フュリエの少女に外国人の少女の組み合わせであるから、純和風の風景には若干馴染まない所はあるのだが。 「シーヴ、それお酒……酔ってるんですか?」 「ふにゃ? なんかぽかぽかするのですっ メリッサおねーさんは熱くないの?」 「……た、楽しそうだから構いませんか」 「えへへ、メリッサおねーさんがくるくる面白いのですー」 突然抱き着いてきたシーヴの幼気な雰囲気に一瞬ぎょっとしたメリッサは一拍遅れてフュリエの外見が当てにならない事を思い出す。シーヴの呼称は『メリッサおねーさん』だが、実年齢で見れば彼女はメリッサの母親でもおかしくない年齢だ。 「いやあ、折角のこういう機会を頂きまして……」 「……」 宴席の片隅には饒舌な黎子と何とも難しい表情をした火車の姿もあった。 「まったく、キース・ソロモンは強敵でし……つい先日も似たようなこと言いましたね。 突然来るんですものあいつ……と、宮部乃宮さん。どうかしました?」 「いやな……」 グビリとコップの酒をやった火車は朗らかに杯を進める黎子に半ば呆れたような声を出した。 「オレあの件はスルーだったけどな 家でTV観てたし。それはそれとして、なんつーか」 火車に言わせればキースは余り脅威では無かった、という事だ。 実力が云々、フィクサードがどうこう以前に彼はどうもスポーツマン過ぎる。崩界に興味も無さそうだ。 それより何より重要な事。黎子の事を口に出すか出すまいか悩んだ後、火車は内心だけで呟いた。 (……どうすべ。コイツいよいよもって孤独なんじゃ…… 本気で友人探しとか手伝わんとならんのか? いや待て馬鹿な何歳だコイツソレくらい流石に……) 「……?」 唇に指を当て、自身を不思議そうに眺める黎子の様子に火車はごくりと息を吞む。 考えてみればお互いアークに長いのに、彼女が周囲に馴染んだ絵を未だ見ていない気がしたのだ。 「働かないと生き残れませんよ! でも、まーよいでしょう! ささ、飲んでください。今日も沙織さんのおごりです!」 「ま、タダ飯タダ酒サイコーだな! しかも腹の立つ事に どんな所で食う飯より格段に美味いってのが……」 「まったくです」 綺麗に盛り付けられた特製の膳に箸をつけつつしみじみ言った火車に桃子が声をかけてきた。 「資本主義社会の現実! 幕府の飼い犬にも褒章は然るべきです!」 「……何だそれ。つーか、何だお前」 「良いですか、桃子さん……って、そんなに次から次に注いでは駄目なのです><。」 いいペースでグラスを開ける桃子を心配するエナーシアは杞憂の類だったのだろう。 毎度の事ながら引っ張り回され、首をガッチリロックされている彼女には逃げ場が無さそうだ。 「大丈夫ですよ! 私が潰れる前にえなちゃんが吞んでくれますから!」 「う、うぎぎ……謀ったな桃子さんなのです!」 「一気、一気!」 はやし立てる桃子に顔の赤いエナーシアがグラグラしていた。 「……どう思う?」 「駄目な体育会系サークルみたいですね! 私、入った事ありませんけど!」 顔を覆う火車は妙に的確な黎子の指摘に大いに大いに納得した。 ●熱海の休日 熱海は市内の勾配が大きい坂の街である。 アクセスの良い駅から登れば、そこには山の中腹に佇む数多くの宿泊施設が佇んでいるし、逆に長い坂を下っていけば夏場は海水浴客で賑わうサンビーチに辿り着く事になる。 「色気もへったくれもないデートのお誘いだった? つりたて新鮮なのを料理してもらうっていうのも……たまにはいいかなって思ったんだけど」 「落ち着いてのんびりと釣りのも嫌いではないですよ? どういった魚が釣れるんでしょうね、此処」 青い水平線を遠く眺める釣り人二人は――見知った夏栖斗と紫月の二人である。 「この時期はアジとかイワシとか、あとは鯛もだね。 鯛が釣れたら大漁だ! なんつって……いや、ごめん、聞かなかったことにして!」 「鯛ですか、釣れる事が出来れば大物ですね」 くすくすと笑う紫月は「では無事に釣れたら忘れます」と軽く冗句めいていた。 些か珍しい取り合わせではあるが、まぁそういう事もある。 知らない街での大切な楽しみの一つが風景を楽しむ散策である事は確かだろう。 「迷うまでも無かったな」 指と指を絡めるように繋ぎながら歩く快は傍らの雷音に言った。 「そういえば、『距離』を気にせずに歩くのは、これが初めて、かな」 「う、うん。あ、改めて言われてみると……何だか、その」 少し意地悪い快は口の中でごにょごにょと言葉を濁した少女に軽く笑った。 押しの強い桃子に何となく乗りかかった休日だ。特に目的は無いが、海沿いの道を一緒に歩く。その先の熱海銀座を見回せば、そこには昭和のノスタルジーを感じさせるレトロな街並みが広がっていた。 「熱海を散歩するなら、湾を見下ろす景色が見たいよね」 「そ、そうなのだ。う、うん、ロープウェイで山頂までいこう」 海の後は山。照れ隠しに雷音が広げたガイドマップの一箇所に赤で二重丸がついているのを目ざとく見つけた快は実にスマートな助け舟を出していた。『あいじょう岬』は名前から推察するに全く分かり易い場所だった。 休日を親しい誰かと過ごす事は戦士にとって実に得難い贅沢である。 「……あ、雷音ちゃん!」 「よう」 いざ次の予定を決めた二人は偶然に街中で沙織とそあらのペアに出会った。 時期的には少し寒いが、そこはへたこれないそあらは濃い藍色の浴衣を着ている。大きな花のあしらわれた彼女の衣装と雰囲気は、隣に居る人物と相俟って実に華やいで見えた。 「そちらは……デートですか?」 少し罰が悪そうな顔をした快は「それはそっちだろ」と切り返した沙織に苦笑した。 そあらは「恥ずかしいのです」等と言いつつも首肯を繰り返しているのだが、それは毎度の光景か。 「折角の温泉街だからぶらぶらしておこうと思ったです。腹黒ピーチはお呼びではないのです」 「だ、そうだ。お前達はこれから?」 「……こっちは、これから山の方へ」 顔を真っ赤にした雷音が何とも言えない表情をしているのを察して快は沙織に目配せをした。 「はいはい」と肩を竦めた沙織はそあらに言う。 「そこのカフェに寄っていこうぜ。何か『和』っぽくてちょっとお洒落だ」 「!!!」 ……悲喜こもごも交錯しそうな偶然は兎も角として。 休日をそれぞれのペースを持っているのは、その他のリベリスタも同じだ。 「温泉に入って、部屋でゆっくりくつろいで、また温泉に入ってまたくつろぐ……こういうのも良いわね、リンシード」 「そうですね、まぁ……私はおねーさまと一緒なら大体満足なんですけど」 見晴らしの良い宿の一室から街並みを見下ろす糾華は一先ずの湯で火照った体をパタパタと仰ぎながら同室のリンシードとの時間を過ごしていた。 「……何々、へぇ」 「どうかしましたか?」 「マッサージサービスなんてあるのね…… ふぅん……少し前からの疲れがずっと残ってるからちょっと頼んでも良いわ……」 「……見ず知らずの人に姉様の体をべたべたと触らせる訳には…… 私にお願いしないんですか……しましょうよ、してくださいよ……しろよ……」 「え、え、ええ!?」 「大丈夫です、本で勉強しましたから……え、なぜってそれは姉様の体に合法的に触るためげふんげふん! いえ、なんでもありません。さぁ、姉様、どうぞお布団の上に転がってくださいな!」 有無を言わせぬ調子のリンシードに糾華はコクコクと頷くばかりだ。 『ケア』と言えば、忠節なる執事のようにクラリスに付き従う亘は今日も滅私奉公の構えである。 「ふふ、御機嫌ようクラリス様。今宵は貴方の時間を頂きに参りました」 気障な物言いにいちいち白磁の頬を赤く染めるクラリスは最近亘のそういう姿に文句を言わない。 代わりに「ん」と頷いて不器用に何かを促す様は、実に初心な貴族の子女らしい未熟さを感じさせるものだ。 「翼のお手入れは自分達にとって重要かつ大切な事です。誠心誠意、真心と愛をこめてやりますよ」 有翼の戦士の一時の休息は、力強く羽ばたくその羽を休める事だ。 戦いに傷んだ黒い翼を癒すその役割を亘は一生他の誰にも譲る心算は無い。 湯上りの汗を拭いた義衛郎が宿敷地の見事な中庭を愛でていた。 「……おや、珍しい」 「風情があるなぁ、この街は」 「同感ですね。真白室長、お疲れ様です」 連絡通路で足を止めた智親は義衛郎と並んで庭を眺めていた。 男二人同士の珍しい取り合わせだが、義衛郎からすれば智親は丁度父親位の世代だ。 「実は室長はオレの父に歳が近いんですよ。それから、オレと一日違いの誕生日です」 「へぇ。縁なのか何なのか。なんか、そう聞くと俺も歳食ったって気にもなるけどなあ」 「……キャバクラも程々にした方が良いと思いますよ」 だからなのか、義衛郎のあしらいは中々上手いものがある。 二人が見下ろす庭の向こうでは、相変わらず闘争に我が身を燃やす影継がセバスチャンを追い掛け回している。 (キース・ソロモンに『また』負けた……最近は過去世界といいキースといい負け続きだ。 力は、限界を超えた力に対して屈する運命なのか。 否。そうでないという事実を箱舟に集った皆は、そしてその先達たちは示したではないか。 これから激しくなる戦いに備えるためにも今は休養を……!) 心がけは立派なのだが、影継の場合、些か元気の方が有り余っているようだ。 「という訳で戦いの疲れは戦いで癒す! それがバトルマニアってもんだろうが! ヒャッハー!」 「……影継殿、私としてはゆっくり湯治をなさるのが賢明かと思うのですが」 「そこを何とか!」 盛り上がっている影継の一方で強者として的になりがちなセバスチャンは困惑の色を見せている。 「やれやれだ」と溜息を吐いた智親が義衛郎に持ちかける。 「折角だから賭けとくか? 俺はセバスチャンに千円」 「……そういうの、賭けになってないでしょう」 呆れた調子で言った義衛郎の真後ろを白い皿を持った小梢が駆けていく。 「熱海でも只管カレーを食べます。それも、またよし。温泉にカレーもまた乙!」 ……基本的に何時もと変わらない風景がそこにはあった。 ●温泉卓球 何故そうなのかは知れない。 何時からそうだったのかもやはり分からない。 だが――温泉と言えば卓球という風潮は確かに存在する。 ひなびた温泉地でレトロゲームに興じる時間というのは何とも郷愁溢れるいいものではないか。 「みんなで卓球なの。温泉だから、浴衣に着替えてみたけど、思ったより動きやすいね あんまり動くとズレてきちゃうのが大変だけど……」 リリィは余り着慣れない浴衣の裾を掴んで手足をブラブラとさせていた。 「ボクはあんまり分からないけど、やって覚えればいいよね」 「あぁ、卓球のルールなら大丈夫。きちんと本を読んできた」 「ヘンリエッタちゃんはちゃんと調べてきたんだねー……お猿さん?」 「……うん、ヘンリエッタさんも予習はしてあるのですね、参考文献は置いといて」 ヘンリエッタの『猿でも出来る はじめての卓球』なる書籍を目にしたルナが目を丸くし、伝聞程度にルールの方は把握していたシィンが凄いタイトルのハウツー本にもっともな感想を述べた。 「スリッパ使うのは、ある意味温泉卓球だからこそのルールな気もしますねぇ」 「え、スリッパ使わないの? この前スリッパで遊んでるの見た気がしたけど……気のせいかな」 「とりあえずリリィ、スリッパは仕舞おうか」 ルナの言葉にスリッパを取り出したリリィをすかさずヘンリエッタが制した。 「代わりにこのラケットっていうのを使うんだよ」 「ラケット……なるほど。少し持ちづらいですけれど、慣れれば宜しいのですわね。 ああっ、向こうに返すの、難しいですわ……!」 ヘンリエッタに応え、スリッパをラケットに持ち替えたアガーテがその美しい眉根を寄せた。 「風呂桶もあります。打ちやすいですよ、多分」 混ぜっ返すシィンにガヤガヤと盛り上がるフュリエの少女達。 【緑風】の面々は異世界異文化の交流を今日も今日とて楽しんでいる節がある。 一方で。 「よっ」 「ほっ」 カーン。 「何の!」 「まだまだ」 コーン。 実にシュールに卓球台に向かい合い器用なラリーを見せているのは竜一とユーヌのカップルだ。曰くユーヌによる放し飼い……何ともフラフラとあっちへこっちへ飛んでいく竜一だが、今日はそのユーヌと比較的真面目な卓球に興じていた。 (ユーヌたんと卓球! 温泉といえば、浴衣で卓球! 負けたほうが、勝った方のいう事を一つ聞く! Yes! 勝利だね、俺!!!) 適度にヘタレで適度に邪な竜一は体躯の小さなユーヌを左右に振り、持久戦の構えを取った。 しかして、息を弾ませて動き回る彼女のうなじは、ふとももは。 「おや、どうした? 目がボールを追ってないぞ? 何処を見てるんだろうな? ……くく、凝視してもそれ以上見えないぞ?」 「……し、しまった! 副次効果が!」 ……懊悩する竜一のミスを簡単に誘う威力を持っていた。 「前半のやる気と落差が凄かったな。 ふむ、何を要求されたい? では部屋に戻ってからのお楽しみといこうか――生殺しだがな」 何だかんだで仲の良い二人も居れば、見るからにお似合いで見るからに素直に仲良しの二人も居る。 「あひるが勝ったら、お願いごときいてもらうからね! この、あひる謹製の台詞集! 坊主受けのキュン台詞!!!」 「……負けられねぇなァ……」 意気込み素振りを見せるあひるにつるんとした頭を撫でたのは三高平一徳の高いフツである。 「しかしアレだな、あひるはいつもかわいいが、浴衣姿はまたイイな! うなじの良さとか正直よくわからんが、あひるのうなじとか鎖骨とかは最高だと思うわ」 「……ば、ばか! えっち!」 「オレが勝ったら浴衣のあひるに膝枕で耳掃除して貰おうかな」 ……この坊主が諸説程徳が高いかはさて置いて、無駄に爽やかなのは確かである。 二人が展開するのはリベリスタの身体能力を生かした強烈な死闘である。 「華麗に魅せるよ! スカイランナー天井サーブ!」 勝っても負けてもそれなりに楽しい時間には違いないが、賭けられた御褒美に熱が入る。そうでなくても勝負事は真剣にやるから面白いのは言うまでも無い話であろう。 「すまないな、深緋。今日の相棒は、お前じゃなくて、ラケットだ! 朱雀招来(サーブ)!」 「甘いよ、ふっくん!」 「……ならば、大呪封縛鞭(スマッシュ)!」 「まだまだ!」 「太腿!」 「なにそれ!!!」 思わず突っ込みを入れたあひるが空振りをする。 ……生臭坊主(格下げ)の勝利はどーでもいい余談として。 「やー、イーゼリットさーん。こうして直接お会いするのは久々ですねー。 記念に卓球やりましょうよ、卓球。定番なんでしょう?」 「やめてよ。お風呂上がりに身体動かすなんて冗談じゃないけど。 ていうかなにこのラケット……つるつるでゴムが死んでるじゃない!」 偶然顔を合わせた珍粘とイーゼリットだったが…… 「だめだめ。私ね、これじゃなきゃ打てないの。くすくす……それじゃ始めましょ?」 やらないと言いつつ物凄く乗り気なイーゼリットに珍粘は何かを合点して頷いた。 「イーゼリット・イシュター(右シェイク 両面裏ソフト カット主戦型)! マイラケット、素敵でしょ?」 「んー、よく分かりませんけど。貴女が楽しそうだから問題ないですね! じゃ、ルール覚えますから。少々お待ちをー。とにかく球を相手が返せない所に打てば良いんですね? いけるいける」 「卓球をなめない事ね。ラヴ・ゲームを見せてあげる……くすくす……」 ……誰がどんな趣味を持っているか、分からないものであるとはきっとこの事なのだろう。 ●本題! 「シャンプーハット使う?」 「そ、其処まで子供じゃありませんよ? 「同じ金髪は親近感が湧くな。痛かったら遠慮なく言うんだぞ」 「あ、大丈夫です。……その、気持ち良いですから」 少女同士が『洗いあいっこ』に興じる姿は鑑賞したい位素晴らしいものである。 (こうして背中を流してもらうのもリコル以来でしょうか。何というか少し照れ臭いですね……) (……妹がいたらこんな感じなんだろうか。洗ってもらうのも楽しいし) 女湯のワンシーンを切り取った杏樹とミリィによる素晴らしい競演、 「どうも! 温泉紹介アイドル、白石の明奈ちゃんでっす! 今日は貸切、熱海温泉時村館の混浴風呂からリポート、リポート! 方向性がブレてるとかいうな!」 そして、安心安定の出落ち、健康的な水着着用の白石明奈さんのプラカードから始まった温泉パートは、熱海に来たからにはまさしく大クローズアップするべき旅行の醍醐味である。 「リベリスタ達の悲喜こもごもをご堪能くださーい☆」 まぁ、水着な辺りがブレにブレているのだが、混浴温泉たるや実際そんなものであろう。 「温泉って、プールや海とはまた違ったどきどきがありますね、ふしぎです……」 「そ、そうね。とてもいいお湯だわ」 屈託無く微笑む三千の顔にはトレードマークの眼鏡が無い。 彼の顔をじっと見つめたミュゼーヌの顔がほんのり赤くなる。 (一緒に温泉入るのも初めてではないけど……やっぱり照れちゃうわね) 水着着用は当然の話。 水着ならばプールと変わらない筈。でも理屈は理屈、現実はあくまで現実であろう。 「とても良いお湯だわ……お肌、綺麗になるかしら」 「はい、今でもミュゼーヌさんはとってもきれいですけれど、温泉の効能でますます綺麗になっちゃいますよっ」 「もう、三千さんってばお上手なんだから」 その言葉を受け、肩より少し下まで――浸かるミュゼーヌは凛然としている割に少女で乙女だ。 湯気に当てられてか青い瞳が幽かに潤んでいるのは男としては実に、実にぐっと来る所。 (普通ならば温泉はなにも着用しないのが一般的なんだろうが……まぁ、な) そこはそれ。こういう集まりに、年頃の男女多数である。逆にそんな野暮は言うまい。 疲れに疲れた体を湯船に浸し、命の洗濯を洒落込む義弘が「フゥ」と大きく息を吐いた。 熱海温泉は湯温の高い源泉だ。様々な温泉効能が見込めるその謳い文句は美人の湯から健康増進まで幅広い。 徳川時代には将軍献上の御酌の湯とされた名湯は、時代を超えて人々を癒し続けているという訳だ。 「温泉は良いね。特にこの時期は暑くもなく寒くもなく、外気の心地よさもあるからついつい長湯してしまうね。 勿論、春も夏も冬も、季節ごとの良さがあるけれどね。 温泉の楽しみ方を覚えてから、日本に来て良かったと常々思うよ。柚架君もそう思わないかい?」 「温泉はホントに癒しだと思うのですよー。 春は桜の見えるところ、夏はおーきい海のみえるところ! 今は紅葉がキレーなところで冬はもちろん雪見風呂っ! 日本のシキで癒されるのですっ。あ、でもあんまり長湯しすぎたらのぼせちゃいますよー? ホドホドにするのですっ」 妙に日本に馴染んでいる『素敵過ぎる』イシュフェーンに柚架が明るく応えた。 「室長。お背中お流ししましょうか」 「……ん? ああ、随分サービスいいんだな」 両腕を開いて岩に寄りかかるように楽にしていた沙織が髪をアップにし、タオルを巻いた恵梨香に応えた。 「……………サービスとかではなくて」 「ま、何でもいいや。頼もうかな」 恵梨香にとっては広い背中は遠い思い出の中の『誰か』のものだ。 「んー、あ、セッカクですし背中ながしましょーかっ、この前のカキ氷のお礼ですっ」 「そうかい。嬉しいね。サービス満点の良い温泉だ」 丁度良いとそう言った柚架にイシュフェーンもまた微笑む。 仲良き事は美しき哉。 「そういえば、いつも夜鷹さんが後ろで私が前だよね? たまには逆になってみようよ。ほらほら、ちょっとどいてどいて――」 「……これさ、傍から見るとコアラの親子みたいになってるんじゃないか? 背中の羽根でわさわさ。深く沈んでって……ああ、寝風呂みたいになれってことか」 じゃれるレイチェルはまるで黒猫のようだ。 何とも癒される彼女の甘え気に夜鷹は軽く頬を掻く。 (レイの胸と太ももの感触が心地いい) ……口にすれば多少不埒なものも混ざる感想だが、男児たるもの下からのアングルは否定出来まい。 後ろから抱きすくめるように腕を回せば、腕の中の『黒猫』はくすぐったそうに身を捩る―― 「……ま、月並みな感想かも知れんが風呂ってのはいいもんさ」 温泉に入り、景色を楽しみ、会話を弾ませ、また浸かる。 多少のドラマには我関せずと、時間を満喫する義弘の楽しみ方は実にオーソドックスに温泉を分かったものだった。 混浴温泉は千客万来だ。 「んー、ここって熱燗飲みながら入れたりとかするんかな?」 「構わねぇよ」と沙織が応えると虎鐵は「有難てぇ」と破顔した。 折角の貸切だから無礼講。多少の配慮さえあれば後は自由。 (……ふぅ……偶にゆっくりしねぇとな……しかし、まぁ、混浴か……) いい年をした大人の男が若い女子と湯を共にするのは気恥ずかしいものもあるが。実際、貸切でもなければ昨今は肩身の狭い――見事過ぎる『彫り物』を背負った虎鐵にとっては羽を伸ばせるのは有難い話であろう。 「……やはり良いな、温泉は」 「ええ、良いですね……温泉。本当に」 楚々とした悠月はその抜群のスタイルから否が応無く人目を引く。 その戦艦大和を独り占めにする悪党……じゃなかった拓真は肩までをしっかりと湯につけ、全身を賦活するかのような温かみに一時その身を委ねている。 「誰が大和ですかっ」 元々のイメージでは原潜だったんスけどね。 「幾ら運命の加護があろうと、身は磨り減るし、命も縮む。多少なりともマシになった気分になれる」 「唯のお風呂よりも、疲れが溶けて出ていくような……不思議な心地よさがありますね、温泉は」 「今度はアークと関係なしに、二人で旅行でもするか」そう言った拓真に悠月は柔らかく微笑んだ。 「そもそも、アークは人使い粗すぎるのよ。あっちこちで戦ってばっかり」 「ほんと、息つく暇もないって感じだったからね。特にここのところは」 半ば冗句混じり、半ば本音混じりに大仰な溜息を吐いて見せたシュスタイナに悠里が相槌を打った。 「けれど。普段緊張してるからこそ……こういう一日が愛おしいのかもしれないわね」 その手に湯船のお湯を掬った少女に彼は頷いた。 「ま、平和にならないと、彼女とゆっくり生活も出来ないしね? 姉から聞いたわ。戦闘中に『プロポーズするって叫んでた』って」 「え!? プロポーズするっていうかそういうつもりがあるっていうか……!」 続いたシュスタイナの僅かにサドッ気のある猫のような表情に彼は素面で応える事は出来なかったが…… 「やっぱり広い開放感のある温泉ってのは最高だよなあ……」 「ちょっと開放感があり過ぎる気はしますけど……でも」 「勿論、リセリアが居る分さらに眼福だけどな!」 ぐっと親指を立てる猛の場合、素面でも何処までも吶喊出来そうなパワーがある。 「……こ、こんな風にゆっくりするのは、久しぶりかも」 湯を掌で掬い、白い肩にかける。 やや早口めいたリセリアの肌がほんのりと桃色を帯びている。 (……本当に、この人はっ) 「……?」 誰にとっても温泉というものはいいものだった。 桃子の誕生日を適当な口実にして、恐らくは本人もその心算で。 極上の癒しを楽しむリベリスタ達は、確かにこの日、日々の死闘への駄賃を戴いていたに違いない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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