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真夏のスターマイン

●三高平市花火大会のお知らせ
「来る八月に、三高平では花火大会が行われます!」
『清廉漆黒』桃子・エインズワース (nBNE000014)が、満面の笑顔でリベリスタに誘いを掛けたのは暫く前の出来事であった。常日頃の鬼面も嘘のようにご機嫌といった様子の彼女は、何でも大会の運営委員を任されているらしい。
「……でかい大会やるのか?」
「はい、盛大にやります!」
「スポンサーは時村家か」
「言わずもがな。金は天下のまわりもの!」
 桃子が関わると常軌からは逸する傾向が多いが――興味半分、恐れ半分のリベリスタは「ふむ」と思案顔をした。日本全国、この時節は花火が風物詩になる。暗い夜空に一瞬大輪の花を咲かせ、消え行く『刹那の美』は日本人の精神性に良くそぐう。人気なのも当然で……
(まぁ、桃子はハーフだけど)
 ……一抹の不安は消えないが、魅力的なイベントである事は間違いない。
「何処でやるんだ?」
「三高平湖と、川沿いでやりますよ。近くに観覧スペースも用意してますし」
「へぇ、本格的だな」
「本格的ですよ、何せ打ち上げるのは二万発からです」
「……隅田川並か」
「金は天下の!」
「それはいいから」
 リベリスタはパタパタと手を振る。
「見るだけじゃなくて、楽しめるように準備しました。
 沢山の屋台も出ますし、花火をやる事も出来ますよ。
 あ、打ち上げとか屋台とか警備とか、各種お手伝いも募集中でーす」
「成る程、成る程」
 桃子の思惑は兎も角、彼女の『我侭』を形にしたアーク――沙織辺りの采配だろうか――は、恐らくリベリスタや職員達の慰労を強く考えているのだろう。
 夏と言えば福利厚生が近付いているが、幻想的な夜空を眺めるのも又いいものだ。
「ま、気が向いたら参加して下さいね。私、結構好きなんです、花火」
 リベリスタは曖昧に頷いて笑った。
 珍しく――桃子に同感だった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:VERY EASY ■ イベントシナリオ
■参加人数制限: なし ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年08月19日(火)22:25
 YAMIDEITEIっす。
 静岡だと安倍川とかでやりますね。
 プレイングのルールが設定されていますので確認して下さいね。

●任務達成条件
・適当に緩くお楽しみ下さい。

●花火大会
 川沿い、湖の近辺でやります。
 屋台も出ていますし、小さな花火で遊べるスペースもあります。
 盛大に二万発打ち上げますが、三高平市住民の為のプレゼントです。

●シナリオの詳細
 一人でも誰かと一緒でも。花火大会の夜を過ごそうというシナリオです。
 時刻は午後七時から九時までの開催となり、周囲には沢山の屋台が出ています。
 名誉実行委員長は時村貴樹、実行委員長は時村沙織、委員は桃子・エインズワースです。
 大会アナウンスは主に桃子が担当します。

●プレイングの書式について
【花火観覧】:河原に用意された特等席で花火を見ます。
【屋台めぐり】:お祭り気分を満喫します。
【花火遊び】:近くのスペースで花火で遊びます。
【お手伝い】:屋台を出したり、花火大会のスタッフをしたりします。
【砂】:周囲全部を無視して強制的に二人の世界を展開します。
【その他】:自由は認めますが、趣旨は大事に。

 上記の六点からプレイング内容に近しいもの(【】部分)を選択し、プレイングの一行目にコピー&ペーストするようにして下さい。
 プレイングは下記の書式に従って記述をお願いします。
【】も含めて必須でお願いします(執筆上の都合です)

(書式)
一行目:ロケーション選択
二行目:絡みたいキャラクターの指定、グループタグ(プレイング内に【】でくくってグループを作成した場合、同様のタグのついたキャラクター同士は個別の記述を行わなくてOKです)の指定等
三行目以降:自由記入

(記入例)
【お手伝い】
Aさん(BNEXXXXXX)※NPCの場合はIDは不要です。
屋台のみかじめ料の回収を頑張ります。

●イベントシナリオのルール
・参加料金は50LPです。
・予約期間と参加者制限数はありません。参加ボタンを押した時点で参加が確定します。
・イベントシナリオでは全員のキャラクター描写が行なわれない可能性があります。←重要!
・獲得リソースは難易度Very Easy相当(Normalの獲得ベース経験値・GPの25%)です。
・内容は絞った方が描写が良くなると思います。

●参加NPC
・時村沙織(貴賓席)
・時村貴樹(貴賓席)
・桃子・エインズワース(大会本部)
・真白智親(見物)
・真白イヴ(見物)
・将門伸暁(作詞中)
・天原和泉(大会本部)
・クラリス・ラ・ファイエット(見物)
・セバスチャン・アトキンス(見物)
・アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(屋台めぐり)
・エウリス・ファーレ(花火遊び)
・セアド・ローエンヴァイス(バカンス中)←特別ゲスト
・シトリィン・フォン・ローエンヴァイス(貴賓席)←特別ゲスト
・千堂遼一(お忍び)←特別ゲスト?


 どっぱーん。
 以上、宜しければご参加下さいませませ。
参加NPC
桃子・エインズワース (nBNE000014)
 
参加NPC
時村 沙織 (nBNE000500)
参加NPC
セアド・ローエンヴァイス (nBNE000027)
参加NPC
シトリィン・フォン・ローエンヴァイス (nBNE000281)


■メイン参加者 40人■
アークエンジェインヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ハーフムーンホーリーメイガス
悠木 そあら(BNE000020)
アウトサイドデュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ハイジーニアスマグメイガス
高原 恵梨香(BNE000234)
ハーフムーンデュランダル
梶・リュクターン・五月(BNE000267)
ハイジーニアスナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
ハイジーニアスクリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
ハイジーニアスソードミラージュ
須賀 義衛郎(BNE000465)
ノワールオルールマグメイガス
アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ハイジーニアスクロスイージス
白石 明奈(BNE000717)
ジーニアスソードミラージュ
戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)
ギガントフレームダークナイト
富永・喜平(BNE000939)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
アークエンジェソードミラージュ
天風・亘(BNE001105)
ハイジーニアスデュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
ハイジーニアスマグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
アークエンジェホーリーメイガス
翡翠 あひる(BNE002166)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
ハイジーニアス覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ハイジーニアスソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
ハイジーニアスソードミラージュ
リンシード・フラックス(BNE002684)
フライエンジェクリミナルスタア
タオ・シュエシア(BNE002791)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 龍治(BNE002797)
ビーストハーフインヤンマスター
桜田 京子(BNE003066)
ハイジーニアスクリミナルスタア
阿倍・零児(BNE003332)
ハイジーニアスプロアデプト
プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)
ハイジーニアスダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
ヴァンパイアマグメイガス
チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)
ハイジーニアスクリミナルスタア
城山 銀次(BNE004850)
ヴァンパイアソードミラージュ
東海道・葵(BNE004950)
アウトサイドアークリベリオン
水守 せおり(BNE004984)
ジーニアスアークリベリオン
剣城 豊洋(BNE004985)
ジーニアスマグメイガス
柴崎 遥平(BNE005033)
ジーニアスフォーチュナ
佐田 健一(nBNE000270)

●花火の夜I
 暗い夜空に刹那の時間明滅する光彩の煌きは、恐らくは儚いからこそ美しい。
 暗闇に慣れた目に残像を残す光の軌跡は、まるで空から零れ落ちる『地上の星』であるかのようだ。
 古今東西、老若男女、人種を選ばず多くの人に愛好されたきたであろう夏の日本の風物詩は、今夜も行く人々の耳目を楽しませんとその準備を万端に整えていた。
「あー、えー、えー、あー、あめんぼあかいなあいうえお!」
 運営本部の仮説テントの中で、マイクチェックに余念が無い桃子の声が響いている。
「えなちゃん、大丈夫ですか? 私の声可愛いですか? 新人リベリスタさんが釣れそうな位ですか!」
「桃子さん、何のチェックをしているのですか」
「労働力は前払い、報酬受け取りはその後で」と澄ました顔のエナーシアは、咳払いをして声を整える桃子に少しだけ困った顔をした。先程から彼女が行っているのは二万発からなる大花火大会の準備設営のである。自身の言う通り、始まってしまえば残るのは準備委員会の肩書きと特等席。
「主が居らぬ間にこっそりと夏の風物詩の感想をわたくしが わざとらしく お伝えすべく……
 通常の観覧席は気恥ずかしいので実行委員のお手伝いに参ったという訳です」
「お前もいい性格してるね、東海道さん」
 折り目正しく関係各所に挨拶を済ませた葵の四十五度のお辞儀に浴衣の前を開けた『いい加減』な沙織が団扇をパタパタとやっている。
「良く言われます。あと、私の事はあ お い と非常に気安くお呼び下さいませ」
 葵の言が額面通りの本物かどうかは、些か気性の難しい彼女の鉄面皮から推し量るのは難しいのだが――少なくとも今の「あ お い と」にはたっぷりの感情が篭っている。
 うん、どうせ居ない人間を悔しがらせるならば、見え方は素晴らしい方が熱が篭るというものだ。
 この場所で見上げる本番は格別だろう。しかし……
「えなちゃん暑い! 暑いのです!」
「後で一緒に冷たいものでも食べませう」
「うわーん! いまあつい!」
(……思った以上に大変なのだわ……)
『何が』大変かはさて置いて、何もしなくても汗ばむ陽気に、エナーシアはふぅと息を吐く。
 何せ唯でさえ暑いのに多くの人間が集まるのだから、それはもう大変であろう。
「時村のじーさま、まだくたばってなかったんですね?」
「相変わらず口が悪いのう、お前は」
「性分でして、あいすいません」
 嘯いて互いに笑みを交し合う――貴樹と遥平は旧知の仲である。
「県警捜査一課、柴崎遥平。恥ずかしながら、戻ってまいりました」
 そこからは、少し気取って――というより、官憲に立ち戻り敬礼をしてみせた彼が久々にこの街でする仕事の一歩は、これから非常な混雑が予測されるこの大会で怪我人やトラブルを出さない事になる。
 ……捜査一課の仕事かどうかはさて置いて、警察官の仕事というものは実は市民により添うものなのだ。
 三高平市郊外の湖と、そこから伸びる川沿いが主立った花火の打ち上げ会場になる。
 特設の観覧席がしつらえられた河川敷には、身と心の涼を求めて既に少なくない人影が集まっていた。
 三高平市でこの程開催される事になった大花火大会は、市内に住む住民の多くを会場付近に集めるという盛況ぶりを見せる事となった。リベリスタ達は言うに及ばず、アークが造った三高平市には時村の職員、市街での生活を支える多くの関係者によって支えられているのだから、これは彼等に対しての褒章といった所なのかも知れない。
 尤も中には……
「バランスのいい柄の浴衣、左右の磨り減りも全く均一のサンダル!
 これが史上最強のバランスマンの奥義、極致! 花火もいいけど、これは要チェックやで!
 ……あ、僕は決して関西出身とかじゃありませんけどね!」
「何て言うか、君のその執念って何処から来るんだろうね……?」
 ……三高平市の住民と呼ぶには異物感が多すぎる千堂遼一や、彼に並々ならぬ情熱を燃やしており、その動向のチェックには余念が無い零児のような珍しいパターンもない訳ではないのだが。
 概ねの所において、今夜の花火大会は三高平市の住民の為のものである。
 本大会の開始は午後七時からを予定されていたが、真夏の空はまだ少しだけ明るさを残している。世界が本格的な暗闇に包まれるのは八時前頃になるだろうか。
 とは言え、大掛かりな花火大会の場合――お楽しみは花火だけでは無い。
「茶房跳兎、出店しました!」
 景気の良い声で周囲にその存在感を知らしめるのは、『茶房跳兎』with佐田健一その人である。
 これぞかき入れ時、ここぞ本領発揮の時――とばかりに腕まくりをして腕をぶす彼は、やはり日本のレトロな夏には何とも思い出深いラムネを片手に客の呼び込みを頑張っている。
「さあ、日本の夏をゆるりとご満喫下さい!」
「いらっしゃいませ~なのだ♪ ご注文は、なのだ?」
「そうだなぁ……」
 健一の手伝いを買って出たチコーリアは可愛い売り子さんである。
 借りた和菓子屋のエプロンと帽子が良く似合っていて微笑ましい。
(後で、御褒美を貰うのだ♪)
 健気な十一歳の明るい声の調子に微笑ましさを感じて少しだけ相好を崩した豊洋が笑う。
「取り敢えずはビールかな。後、つまみになるもの……何かないかな?」
 花火は二時間の長丁場だ。空に打ち上げる芸術品を『ダラダラと』眺めたいなら、冷えたビールが格別だ。花火を肴に夏を満喫する時間は、彼にとっても楽しみなものである。
 三高平市内の住民の多くを動員する花火大会会場には健一のものも含めて多種多様な屋台が出店されていた。
 基本的にはまっとうなものが多いが、中にはおかしなもの――と言うか、イカレた展開もある。
「おうおうおう? おどりゃ、だれに断って、商売してけつかんねん?」
「普通に沙織さんって言うか本部に聞いて店を出しましたけど?」
「ここは、わしら関東べるじゃもん一家のシマじゃけえのお!
 ピーチの姐さんの顔潰すようじゃったら、ワレ、シゴウしたるぞ、コラ!」
「みかじめ料ですか? 暴対法で払わなくてもいいって法律で決まってるんですー、帰ってくださいー」
 言わずと知れた芸人コントは、【仁義なき熱海】を標榜する舞姫と京子のものである。
 但し、断定的にお断りしておくが、至極まっとうに「関わりたくない!」とかき氷屋の氷と一体になる事で気配を消そうと頑張っていた京子の方はこの場合、大体被害者で間違いない。舞姫マジ芸人。
「おいおい、調子こいとってええのんか?
 メイの姉御が本気出したら、ラブリーポエムで辺り一帯が焼け野原やぞ、ワレ!」
「ラ、ラブリーポエムだぞコラッ!
 エンジェル舞姫たん今日もキュルルンくんかくんかはすはすちゅっちゅ!
 毒電波じゃコラァッ! 何を言ってるか分からんが、八つ当たりだ! いてこましたるぞワレッ!」
「メイさん羞恥プレイ強要されてるよ、同情するわ……次はちゃんと断りなさいよ?」
 年上らしく優しい瞳で肩を叩く京子にダークスーツの装いのメイが複雑な顔をした。
 最終的には「みかじめ料はたっぷりのシロップで!」に落ち着いた二人にやれやれという顔を見せた京子が、『けちらすドバーっと』お見舞いする事で問題(?)は解決したようであったが……
「イヴたん! 一緒に花火みよう、花火!
 花火を観覧するには浴衣は必須だよ! イヴたんはどんな浴衣姿かな! 何着てもイヴたんはかわいいよ!」
 幼女に声を掛ける事案(りゅういち)の方はまた別の問題なのだろう。
「イヴたんのために特等席の中でも、更に特等席を用意したよ!
 さあおいで! お膝ポンポンだよ! 今日の超特等席だよ! 限定一人だよ! レアだよ!
 寄りかかっても大丈夫!しっかり抱きとめてフィットむぎゅむぎゅするよ!
 暑いって? だいじょうぶ! 汗は全部ぺろぺろして……は、怒られそうなので、うちわであおぐよ!
 いつも頑張ってくれてるイヴたんを労わないとね!
 ……いつもありがとうね。無理しないでね。
 辛くなったらいつでも言ってね。俺はイヴたんの味方だから!」
「……竜一、落ち着いて。本当にそうやってすぐ子供扱いするんだから……」
 ……そう溜息を吐くイヴが満更でも無く、彼の隣に少しの距離を置いてちょこんと座ったのも、又別の問題なのだろう。

●花火の夜II
「おー、凄いな、これは……」
 感嘆の声を漏らした豊洋の視界の中に幻想の夜が広がっていた。
 夜空に光の花が弾ける。
 腹の底を揺さぶるような爆音の臨場感ばかりは――画面越しでは決して再現する事は出来ない。
 その時、その場に居なければ味わう事が出来ない刹那の時間は、思い出に姿を変えて長くを生きる。

 ――さー、いきますよ! 三高平市商工会提供、特大すたぁああああああああまぃいいいいいん!!!

 入念なチェックを済ませた鈴鳴るような美少女の声がコブシを効かせて絶叫する。
 短い間隔で連続して打ち上がる打ち上げ花火の乱れ撃ちに拍手と歓声が湧き上がっていた。
 何せ連発はとんでもなく景気がいい。単発で見るよりも圧倒的に強い印象を残してくれる。
 爆花の光に照らされる本部テントから空を見上げ、葵がふと呟いた。
「スターマインとは速火線でつなぎ合わせ高速で次々に打ち上げるものらしいですね。
 ……解説は、坊ちゃまに披露して差し上げる予定だったのですが」
 一人だけで「素敵ですね」と呟いて茫と空を見上げる葵の横顔はこんな時だけ何処か少女らしい。思わず口の端を零れて落ちた『戯言』を誰にも聞かれなかった事に安堵した彼女は――それから苦笑を浮かべていた。
 盛り上がり始めた空の競演を楽しんでいるのは誰も同じであった。


「一杯いかがですか?」
 蜂蜜酒のボトルとグラスを片手に貴賓席を訪れたのはアーデルハイトだった。
「あら、気が利く人ね」
「ありがとう」と目で笑ったシトリィンは余った席に腰掛けた彼女とグラスを軽く合わせた。
「祝勝と鎮魂を祈って。これが我々の選んだ道です。生者の血を啜り命を奪う。果てにカーミラとなるかミナ・ハーカーとなるかは、後世の歴史家にでもお任せする事としましょう」
 シトリィン、そしてセアドと順番にグラスを合わせたアーデルハイトは冗句めいて言った。
 彼女は元々同郷ドイツの出身。気心は何となしに知れている。
「ところで、お世継ぎはおられるので? だめですよ、男と幸せはしっかり抱き締めておかないと」
「アウィーネという娘が居るわ。それにうちはとっても夫婦円満、家庭生活は満足しているの」と応じたシトリィンにセアドは少し罰が悪そうにしている。
「――セアド様!」
 その彼の救い主は呼び声と共に現れた。
 一同が視線をやった先には頬を紅潮させたリセリアと、相方の猛が居る。
「今更ではありますが……先の決戦。勝利おめでとうございます。
 私はリセリア――……リセリア・フォルン・エーレンベルクと申します。
 養父の名はアルフレートといいます。私の姉リスティア共々、オルクス・パラスト所属のリベリスタです」
「ああ」
 シトリィンはその言葉に合点がいったという顔をして、セアドは「うむ、ありがとう」と鷹揚に応じた。
「どうも、初めまして。葛木猛っていいます、宜しく!
 こういう機会でも無いと聞けないと思ってたんで、聞いちゃうんですけど!
 二人の馴れ初めとか聞いても良いです?」
 一方で物怖じしない猛はありありと緊張が見えるリセリアを置き去りにする程、普段の彼のままであったが……「気になる?」と応じたシトリィンは勝利と花火、それから酒も手伝っていたって上機嫌なようだった。
「後、オルクス・パラストって俺みたいなのでも入れますかね。いや、ほらリセリアが地元がそこで」
 そう付け足した彼にリセリアの顔がまた赤くなったのは……言うまでも無い。


「花火を見るとついつい故郷の新年のお祝いを思い出しちゃいますね~」
「そう言えば、中国ではそういう風習もあった気がするな」
「デスデス! 日本では夏場が本場みたいデスね!」
 ちゃっかりと貴賓席で花火を見学するシュエシアの頭に貴樹の手がポン、と置かれている。普段は年寄りの冷や水(?)を咎める息子の方はと言えば、彼は彼でやはり甲斐甲斐しくやって来た浴衣姿のそあらと連続して打ち上がる花火の方を眺めていた。
「ワタシがもっとしっかり飛べれば、貴樹を連れてお空から花火を眺められるんデスけど……」
 シュエシアの言は翼を持つ彼女が故である。
「夜空いっぱいに光が広がって幻想的で……いつか連れて行ってあげたいデス。楽しみにしててくださいね!」
「健康診断次第だなぁ。心臓の調子が良ければいいのだが」
 相変わらず頭をポンポンとやる貴樹とシュエシアは祖父と孫のようにも見えなくはない。
「あたしの達の為だけの特別席で夜空に輝くスターマイン……ロマンチックなのです!」
 苺飴を片手にうっとりと空を見つめるそあらは、大体その場に居る大量の他人を全く気に留めていない。
 良くその場に関係ない他人を称して他人は野菜のようなものと思えと言うが、彼女の固有結界はキラキラフィルターを生じる沙織以外の他人を全く無視しているのだからそれ以上とも言えるだろうか。


「……あ、ハートのが出たです!」
「だな」
「最近の花火はアートチックなのも多いのですよ?
 ハートすっごくかわいいです。キャラクターを模したものも一杯。最近の技術ってすごいですねぇ」
 花火も一昔前とは随分様変わりしている。隔世の感はあると言うか……
(そのうち夜空一杯に輝くさおりんの顔もできちゃうかも。
 空からあたしを見つめるさおりん……やだ恥ずかしい……)
 一人やんやんと首を振るそあらに構わず花火が次々と打ち上がる。
「……!」
 桃子が「時村沙織提供でーす」と読み上げた花火が炸裂すると、夜空には大きな苺が開いて散った。
 それから桃だの、氷の結晶だの、アークのマークだの、ダブピだの……
 たまに開きに失敗して崩れているのは御愛嬌。
「さおりん!」
「折角だから遊んでみたの」
 涼しい顔で言う沙織は尻尾を振る彼女に向き直らず、着崩した浴衣を相変わらずパタパタとやっている。


 特別な時間は何気ない一言から始まる事もある。

 ――雷音……そのなんだ……花火を見にいかねぇか?

 強面の義父の口にする不器用な誘いの言葉が娘にとっては何とも心地良いものだった。
「たまやー……ほら、お前もかぎやーって返さないと恥ずかしいだろう!」
「……かぎやー……これでいいのか?」
 暗闇の中、花火に照らされて浮かぶ自身の顔色は周囲には分からない。
 虎鐵としては柄にも無く赤面が免れない今夜、それを少し感謝している。
「……こんな場所よく見つけてきたな」
 父と見る花火はとても綺麗で。雷音は胸がいっぱいになりそうな気分を抑え切れない。
 特等席でありながら、人が少し少ないその辺りは二人には丁度いい空間だった。
「そういやぁ誕生日だったな……ほら……プレゼントだ」
 雷音が受け取った小箱を開いたならば、そこには小さな指輪が佇んでいる。
 この父は、どんな顔をして指輪を選んだのだろう?
 慣れない場所で、店員にどんな下手な説明をしたのだろう?
 そう考えるだけで雷音の表情は極自然に綻んでいる。
「ありがとう、ボクは君と過ごすこの時間に感謝している」
 白く細い指は、そっと虎鐵の方に差し出された。
「つけてくれ」と目配せる小さな合図に、虎鐵はもう一度顔色を変える羽目になっている。


「野郎同士で花火とか、お互い彼女もいねぇのかよ!」
「……偶には相棒同士ってのもアリだろ」
 浴衣を着た夏栖斗と快の二人は、ロマンチックな夜をよりによってこの二人で共有するという何ともしまらない状況を不可避の形で迎えていたようだ。
「就職を機に疎遠になって自然消滅……よくある話さ」
 恋愛は難しい。爆発炎上に劇的なドラマを伴う事もあれば、そうでない事もままある。
 生活環境が変われば、同じ付き合いが出来なくなる事も止むを得ない事もあろう。
「花火を見るとさ、思い出すよ……もう一年経つんだな」
「ああ……」
『何が』という主語は他ならぬ二人の間では必要無い。
 空を眺める男二人の脳裏に過ぎるのは一つの出来事でしかないからだ。
「一年、あっと言う間だったな。
 あれだよ、僕の気持ちはあの時から全然かわってなくって……成長しねぇな」
「なあ、夏栖斗。俺は……あの子を傷つけてるかな」
 世界は人間を傷付ける茨の城のようである。
 傷付く事が怖ければ一歩も動く事は出来ないが、進まずに生きられる人間は居ない。それは澱だ。
 少女の瞳に込められた感情の意味を、全く知らなかったと言えば嘘になる。
『兄貴分』という耳障りのいい言葉に隠されたその裏側を――覗きたく無かっただけだ。
「別に、あいつも解ってると思うんだ。
 だから、正直僕にはなにも言えない。壊れることだってわかってて。
 そんで、前に進めない、あいつらしいっちゃ、らしいかな」
「モラトリアムは残酷な時間の引き延ばしだ。これが、最後の夏かもしれないのに。
 ――殴って止めてもいいんだぜ、相棒」
 独白めいた快に夏栖斗は応えない。
 空に瞬く爆花が、眼窩の二人を見下ろしている。


「最近のかき氷屋さんは気合が入ってるわね」
「……美味しいです」
 京子のブイサインを脳裏に思い浮かべた糾華がしみじみと言う。
 フレッシュマンゴーのカキ氷をさくさくと崩しながら糾華は傍らのリンシードに苦笑した。
「……どうして私をじっと見ているの」
「花火よりお姉様が……」
「こういう時は空を見るものなのよ、リンシード」
「……はぁい」
 やれやれといった顔を見せた糾華にリンシードは少しだけ罰が悪い顔をして頷いた。
 浴衣姿の少女達は見目に麗しい。河川敷の特等席にちょこんと座る二人はそれなりにこの時間を過ごしている。
「たーまやー、と言ったら……かーぎやー……でしたっけ……?」
「リンシードには馴染みが無いかも知れないけど。
 この後、又スターマインですって、何発上がるのかしらね。楽しみね」
 微笑む糾華に色白なリンシードの頬が紅潮した。
 空を明るくする程のスターマインも彼女にとっては『お姉様』を引き立てる材料にしかならない。
 二人で座って時々花火を見て、時々カキ氷を食べさせ合って――大体、お姉様を見て。
(あぁ……私色(ブルーハワイ)が、ねーさまのお口の中に溶けていく……ふふ)
 幸せとはこういう事を言うのだろうが、リンシードさんは大分発想の方がヤバイ。


 夜空に咲く花火と、傍らのその笑顔の煌きに触れられる時間を亘は疑う事無く最良のものと確信している。
「……何だか、幸せ過ぎて怖い位ですね」
 爆音と爆音の間にぽつりと零れたその呟きに、クラリスは小首を傾げていた。
「幸せ過ぎると、『怖い』?」
「ええ。こうして――この日を迎えられた事が、まるで夢みたいに思えて」
 人間の一生は胡蝶の夢の如くとも言うが、リベリスタならばひとしおだ。
「夢じゃありませんわよ」
「ええ」
「夢じゃないのですわ。貴方がここに居るのも、私がデートのお誘いを受けたのも」
 亘の方は見ないで、空を見つめたクラリスは言う。
「自分は貴方を守り、その想いが揺れたら支えます。
 その逆があったらその時はその――お願いします。
 自分は、今もこれからもずっと貴方と同じ時間を」
 クラリスの青い目が不意に亘をじっと見つめた。
 ドーン、ドーンと重い爆音が間断無く続いている。
 薄い唇が奏でた小さな音はそれにかき消されてしまったけれど、亘の視界は狭くなる――

●花火の夜III
「そういや、二人だけってのは初めてか。いつもは他に友達呼んでるもんな」
「考えてみたら……二人だけでこうやって見て回るの、初めてだよな!」
 花火大会の夜、普段活発な格好を好む明奈は珍しく落ち着いた淡色の浴衣に身を包んでいた。
 笑顔の彼女に風斗が軽く気圧されたのは何時もと少し違う雰囲気にどぎまぎしてのものであろうか。
「いつも皆一緒でさ、それも楽しいけれど。二人で歩くのも乙なもんだろ?」
「まぁな」
 有無を言わせぬ調子ではあるが、明奈はまったく普通の女の子であった。
 風斗からすれば悪態を吐き合う気の置けない男友達のような女の子。
 並ぶ屋台を冷やかして回るのは、中々自分達らしく楽しい時間である。
 しかし、こうして見れば彼女は何とも……
「なぁ」
「ん、どうした? 急に立ち止まって。何かあった……」
 不意に足を止めた明奈を風斗は少し訝しむ。
 そこからの彼女はそれはもう疾風怒濤、電撃のようであった。
「なあ、風斗。……ようやく、伝えたんだろ。自分の気持ちをさ」
 振り返った彼女はまるで泣き笑いのような曖昧な表情。
 彼女は彼の言葉の先を待つ事もせず、紅潮した頬にぎこちない笑みを浮かべて言った。
「ワタシもさ、好きだったんだぜ? お前のこと」
「――――」
「伝えたかったのはそれだけだよ! 幸せになれ! バーカバーカ!」
 一方的な言葉と共に疾風のように彼女は走り出す。
 風斗はそんな彼女を反射的に止めかけて――追いかけようとして、立ち止まる……


「むぐむぐ……私、春くらいから急激に強くなっちゃったんですけど。
 こういう現象ってよくあることなのかな? もぐもぐもきゅもきゅ……」
「けっこーんぐ、才能がモノ言う世界ですしねぇ……むが、元々私も普通の村娘でしたし……もぐ。
 まぁ、細かい所は良く分かりませんけど、そういう事もあるんじゃないですかねぇ」
 屋台を全力で食べ歩くアシュレイの横を「ふぅん」と相槌を打ったせおりが行く。
 女子力が低いと言う勿れ。肉の串焼きだの、唐揚げだの、チキンステーキだの、ホルモンだの、モダン焼きだの……やたら食いでがありそうなメニューばかりをセレクトした二人は、旅は道連れとばかりに花火をそっちのけに全力で飲み食いを敢行している風情である。
「こんばんは、アシュレイちゃん。馴染んでるね」
「ああ、こんばんわ。お役人さん。お仕事は大丈夫なんですか?」
「まだ、今の所はね」
 彼女を気にかける事が多い義衛郎がそんな現場に顔を覗かせた。三高平市役所に勤務する彼は、今夜は半分は仕事である。大会が終了した後には特に借り出される予定なのだが――今は嵐の前の静けさといった所であった。
「先日、お誕生日を迎えた魔女さんにお役人が何か奢って差し上げようじゃないか。
 なんでも良いよ。かき氷でも、りんご飴でも、たこ焼きでも。
 欧米人と思しきアシュレイちゃんが、蛸を食べられるのかは分からないけども」
「あはは、デビルフィッシュですか。私、魔女ですしねー」
「せおりさんもそれでいいですか?」と尋ねたアシュレイにせおりも頷いた。
 たこ焼きを頬張る欧米人も昨今は余り珍しくはないのかも知れないが。
「へいらっしゃい!
 ウチはタコもでけェし美味ェぞ、金は貰うが食っていって損はさせねェよ。
 カッカッカ、買うのが美人ならオマケもつけてやるぜ?」
 好都合に景気の良い声を上げたのはねじり鉢巻を巻いた銀次である。
 こういう屋台の運営は商売柄お得意なのか、部下だけでなく自身も鉄板を前に見事な手前を披露している。
 踊るようにたこ焼きを宙に舞わせるパフォーマンスは、周囲から快哉を浴びている。
(何を考えてこんな芸身につけたんだろォな、若かったぜ俺も……)
 今や貫禄の親分たる銀次からすれば何とも思う所が無い訳では無いのだが……
「こんな所に居たのね」
 今日のアシュレイの周りには様々な人が訪れている。
 たこ焼きを口に咥え「んぐ?」と視線を向けた彼女に苦笑した恵梨香は念を押す。
「警戒しないでも『今日の所は』襲ったりしないわよ」
 今日の所は……というアスタリスクが何とも不穏当ではあるのだが。
「こうやってアークは来たもの同士が心を開いて友情を結べるイベントを
 沢山催してくれているわ。貴方はアークに友情を感じてくれたかしら?」
「お蔭様で、色んな機会に」
「お互いに利用しされる関係ではなく『友人』として助け合う関係になれないかしら?
 モリアーティ・プランの計算より、友情を信じてみたくはない?」
 確率99%よりもアナクロを信じてみたくなる――恵梨香の言は或る意味で付き合いの長い魔女に向いた情なのだろう。
「結構同感だね」
 ラムネを片手に持った悠里がニコニコしたままのアシュレイの背後から現れた。
「ねぇ、覚えてるかな? アシュレイさんが来たときに言ったよね。あの時と今も気持ちは変わらないよ」
 悠里は穏やかな微笑を浮かべたまま、言う。
「僕は今もアシュレイさんと友達になりたいって思ってる。
 アシュレイさんは何時か僕等の敵になるかも知れないけど――僕は貴方を優しい人だと思ってるから」
「だからさ、アシュレイって呼んでもいいかな?僕のことも悠里って呼んで欲しいな」。そう付け加えた悠里にアシュレイは笑って答えた。
「そうですねぇ、綿菓子も奢ってくれたら……それから!」

 ――私達、とっくに『オトモダチ』じゃないですか!

●花火の夜IV
「依頼でさんざん神秘の炎を呼び出してるが、花火の火ってのは、それとはまた違うんだよな。
 人を楽しませたり、落ち着かせたり……そういう為の火だ」
 高台の神社の境内で恋人のあひると一緒に穏やかな時間を過ごす。
 フツにとってこの一時は何にも代え難い時間であった。
「大きな花火も迫力があって良いけど、たまには、手持ち花火で遊ぶのもいいね……!」
 打ち上げ花火も時折見えるが、はしゃぐあひるの専らの興味は手持ち花火の方にあるようだった。
「フツ、みてみてっ! 二刀流ー! いま、ハートにみえるように、うごかしてるのー!」
「ウヒヒ、愛を伝えられちまったぜ」
「恥ずかしいなあ!」
 他愛も無い会話が代え難い。特等席も良いが、二人きりというのはそれだけのスパイスなのだ。
「アレだな、なんか、こう、あひる、いつの間にか大人っぽくなったなァ……オレはまだまだ子供のままの気がするのにサ」
 ふと呟いたフツにあひるが言う。
「フツは大人だよ……! 一緒にいて、落ち着くもん。
 それに、そうだね……フツがそう言うなら、多分、そうだと思う……
 女の子は、好きな人と一緒にいると、どんどん綺麗になるからねっ!
 だから……これからも、あひるを大人っぽくさせてね……? な、なんて……!」
 そう言う――はにかんだあひるは少し大人びて見える。
 フツは「夏のせいかも」と小さく呟く。


「へへー、これこれ! 花火セットって懐かしいなぁ」
(数日前に何やら買い出しに行っていたと思ったら……
 消火用のバケツもしっかりと準備されているとは、どれだけ楽しみにしていたのやら)
 奔放な木蓮が感情を表に出す事は何時もの事だ。花火ともなれば彼女がはしゃぐのは当然の事。何だかんだで彼女に甘い龍治は龍治で、付き合う事が決して嫌だという訳ではないのだが。
「もう成人となったのにこういう所は変わらんな……」
「なぁ、龍治はどれが好き? 好き?」
 様々な花火を片手に満面の笑みで迫ってくる木蓮に龍治は溜息を吐く。
 決して場のノリに任せて「お前が一番だ」等とは言わない、クールな男なのである。
(……これは、どんなものなのだ……)
 寡黙なる傭兵は花火のエトセトラを良く知らない。
「こういう楽しい事、綺麗なものを龍治と楽しめるのってさ、凄く幸せな事だよな」
「ああ。儚くも美しい花火というものは……嫌いでは無い。……次の夏も、またこうして楽しめると、良い」
「お前と一緒に居ると色んな事が数倍楽しくなるんだ。俺様の隣に居てくれてサンキュな、龍治!」
「う、うむ……」
 気恥ずかしいやり取りに何とも言えない居心地の悪さを感じた龍治は誤魔化すように手にした花火に火をつけた。それは――ネズミ花火であった。
「――ッ!?!?」
 木蓮が独り占めにした――その時の彼の顔は記録に残してはいけない類のものである。


「手持ち花火って初めてなんだ。
 ススキ花火は火花がススキに似てるからそんな名前なんだな?」
「同時三本着火が通な愉しみ方なんだよ」
「色変わるの、楽しい……スパークも、明るくて綺麗」
 手にした花火が火花を吐き出す様をプレインフェザーはじっと見つめている。
 答える喜平の顔にも穏やかな微笑が浮かんでいた。
 大掛かりな花火大会の夜だが、ゆっくりとした時間が良いのは彼女と彼女を見守る喜平も同じであった。
 喧騒は楽しいが、静けさにも又味がある。花火は子供だけの玩具ではないのだ。
「……これ、何だかいいよな」
 線香花火を揺らさないように垂らすプレインフェザーに喜平は「そうだな」と頷いた。
 落とさないように細心の注意を払う彼女に彼は身を寄せる。
「……ん……?」
 その顔を紅潮させたプレインフェザーは何となく『それ』を察して、でも嫌がる風は無かった。
 静かに線香の火に照らされる彼女を眺める。そうして雫が落ちれば、僅かな余韻も無く気持ちの侭に唇を奪う――些か強引な、我侭な行為には違いなかったが――
「……続きは、帰ってからだ」
 囁くように言った年上の男に悔しそうな少女が答える。
「……ずるい。普段飄々としてるのに、こういう時はちゃんと、カッコイイのな……」


「二人で花火だー。でも俺様ちゃんやり方わかんないんだよねー」
「はーい。花火のやり方わかりません!
 ぶっちゃけ火を点けるとどうなるの? 全部燃やすんですね、それって面白そうですね!」
 同じ花火をやる男女の組み合わせでも、異色なのは葬識と魅零の二人である。
 浮世離れした二人は花火を逆さにしたり覗き込んだり、何だか危険な動作を取っている。
 大雑把な結論で火をつけたなら、持ち方の悪さも相俟って。
「うぎゃぁぁあん!?」
 驚いた魅零はコロンと転がる。
「仕方ないなぁ」
 川の方に飛び込んだ魅零に笑った葬識が項垂れる彼女に手を差し伸べた。
「ほら、手につかまって?」
「先輩、駄目! 先輩の手を汚しちゃうから触れないです! 切実にほっといて下さい!」
 拗ねたような、困ったような調子で言う魅零に葬識は笑う。
「ん? 汚い? うーん、なんでだろうね。黄桜後輩ちゃんだからかな、そんな風には思えないのは」
「え、私だから……それってどういう……」
 乙女のスイッチの切り替わりは忙しいものだ。だから。
「水に濡れてきらきらして。うん、花火よりは俺様ちゃんはこっちのが好みかな」
「変態!!!」
 もう一度じゃぶんと水にその身を浸した魅零の表情がコロコロと変わるのは当然なのだ。


「しかし、流石に二万発だ。凄い花火の連続だな」
「……まぁ、時村がスポンサーだそうですし。加えて仕切っているのが室長と桃子さんですから……」
 拓真に答えた悠月は「派手好きのお二人らしい」と小さく笑っていた。
 花火大会がどうであろうと、世情がどうであろうと、このおしどり夫婦には余り関係がないらしい。
 今夜も静かに二人で過ごす事を選んだ拓真と悠月は次々と現れる光の花の競演にその目を細めていた。
「まあ……お祭りですからね。派手に、盛大に行ってこそというものです」
「労いの意味合いが大きいんだろうが……まあ、あの時村だからな」
 ドーン、ドーンと腹を揺るがす爆音が次々と空気を揺らしている。
 風に乗り微かに香るのは屋台の食べ物の匂い、或いは火薬の香りである。
 日本の夏の原風景を思わせる、素晴らしい時間に二人は十分にその身を浸している。
 幾多にも咲き誇る花達は打ち上がる黒いキャンバスを彩っている。
「凄いな……これを打ち上げるのも大変だろうに」
「ええ……」
「何だか、嬉しくなるな」
「実は、私も」
 肩を寄せ合い、互いの体重とぬくもりを感じながら。
 たかが二時間、されど二時間。時間が過ぎた傍からかけがえのない思い出に変わっていく。
「……花火が綺麗ですね、桃子さん」
「何だか、凄く『良かった』気分なのですよ」
 何となく手を繋いだエナーシアと桃子も。
 挙動不審な亘も、クスクスと笑うクラリスも――彼も彼女も、それ以外の誰も。
 確かに、この夜――アークのリベリスタ達は今という時間を花火のように生きている。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

 実はこの間、久々に花火見ました。
 その記念シナリオという風味でした。
 全員描写した筈ですが、抜けがあったらお知らせ下さい。

 シナリオ、お疲れ様でした。