●最大激戦地帯 ヒステリックじみた悲鳴を耳を劈くような爆音が掻き消した。 まさに騒然とした空気は現代の大都市のそれに相応しくは無い。いよいよ――『記憶』の奥底にある懐かしい戦場を連想させるものに違いなかった。 「首尾は上々のようだね、大佐」 如何な手段を用いても傍聴等出来ようが無い――天才・ジェームズ・モリアーティ教授の用意した特殊携帯通信機を耳に装着したセバスチャン・モラン大佐は幾らか機嫌の良さそうなモリアーティの声に我に返り、その邪悪な口角を持ち上げた。 「現場指揮官として報告するならば、現状六割、七割の戦況でしょうか。 ここまでは概ね我々の想定通りですな。『ヤード』側の戦力も、『キマイラ』の仕事振りも――『モリアーティ・プラン』は鉄板だ」 『スコットランド・ヤード』は腐ってもこの大倫敦を二分する神秘勢力の片割れである。『倫敦の蜘蛛の巣』側が現時点で受けている打撃も小さいものとは言えないが――『六、七割の戦況』は続行すれば『六、七割』ではいられなくなる事をモラン大佐は知っていた。如何な鋼鉄の精神を持つリベリスタとて極めて厳しい戦況に十全な戦意を保ち続けるのは難しいからである。 「しかし、油断は禁物だよ、大佐。彼等にはまだ『切り札』がある」 「無論、心得ておりますとも」 モラン大佐の猛禽のような視線が今まさに出現した『未だ意気軒昂なる』新手のリベリスタの姿を射抜いていた。ロンドン警視庁を間近にしたストリートは先述の通り、戦場と化している。そこかしこで警察車両が燃え上がり、一面の血の海に動かなくなった人間のパーツが横たわっている様はまるでこの世の地獄さえ思わせた。 それでも彼等――宿敵『ヤード』が苛烈な消耗戦を厭わない理由こそ、今モリアーティが口にした『切り札』の存在を決定付けるものになる。歪夜の三柱を切り取った『箱舟』の援軍はもうロンドンの各所に届いた頃だろう。つまる所、『ヤード』は倫敦派最大戦力であるモラン大佐と彼の部隊を地上で食い止めれば、残る敵を跳ね返せるという公算を弾き出しているという事である。 「勝機の伴わない籠城戦程、不合理なものは無いと思うがね。 『モリアーティ・プラン』をしても今回、我々が『ヤード』を制圧出来る目は50%そこそこ程度と出ている位だ。あながち彼等の戦いも間違っているものではない。尤も私は『知っていて君をそこに配置した』訳だがね」 「『全体のプラン』は?」 「そちらは88%といった所か」 『ヤード』のリベリスタ達がモラン隊に猛烈な攻撃を加えてきた。 隊の『中核』への攻撃だが――的は指揮官の大佐では無い。 おおおおおおおおおお……! 戦場の空気を震撼させる戦慄の絶叫を上げたのは倫敦派の『切り札』であるエリューション・キマイラであった。全長は数メートル以上にも及ぶ腐肉の塊はヘドロめいたその巨体の全身に『怒り』の色を貼り付けていた。 伸びる触手がバリケード代わりの警察車両に触れた。その瞬間、強烈な大爆発が炸裂し――『ヤード』のリベリスタは後退を余儀なくされる。 そう、モリアーティは『最高戦力』モラン大佐の部隊を元から『ヤード』制圧の本隊・本命とは看做していない。だが、モラン大佐の本部侵入を食い止める事が『ヤード』の絶対条件である以上、彼等は同じく『最高戦力』をこの場に消耗するのは自明の理である。 手は抜けず――しかし全てをそこには注げない『スコットランド・ヤード』(きけんなげいむ)。 「しかし、教授にしては『派手』ですな」 「我々は何も関与していないよ。人はそれを信じないだろうが、歴史は勝者が作るものだ。少なくとも旗色の悪くなった『ヤード』より我々に取り入ろうとするものも多いだろう。事実は事実である事よりも重要な場合がある。それに――」 「――それに?」 「何でも話に聞く所によれば『キマイラ』とは極東のフィクサードが造り出した兵器だという話ではないか。ならば『倫敦派』より先に『日本人』が疑われて然るべきでは無いかね?」 「成る程。『そういう話』ですか。まったく『楽』をさせてくれます」 ミス・六道も信じる相手を選択するべきだ――と傍らのポーロックが肩を竦めた。 何処かせせら笑うような調子のモラン大佐は皮肉めいて言う。 「ミス・六道の玩具は成る程、中々便利なものだ」 モラン大佐の操るエリューション・キマイラのフェーズは4を数える。自由自在に伸縮する触手を武器にするこの『兵器』は触れた対象を悉く『爆破』する脅威の破壊力を持っている。フェーズ4のエリューションを『創った』のは倫敦派だ。『玩具』をより実戦的な『兵器』に昇華させたのも倫敦派の仕事である。しかして…… 「『テレジア・システム』はそれだけ面白いアプローチという事だよ。 制御の方面から考えた時、これは中々効果的で意義がある。 しかし、大佐。君には言うまでも無い事と思うが、『気をつけたまえ』よ」 「アークですか?」 「それもあるがね。『キマイラ』の方だ」 「承知しておりますよ。道具は『使っていられる内』が華ですからな」 やがて『ヤード』側は彼等の『切り札』であるアークと共に反撃に出るだろう。歪夜の使徒を屠る彼等が相手ならば流石のモランも気は引き締まる。いや、モランだからこそ警戒は強い。過信は油断を生み、油断は即ち敗北へ続くレールを用意するものだから。 「そう言えば、ミス・六道を前に出したそうで――」 自身の指揮で猛烈な攻撃に出た倫敦派を眺めながらふとモランが呟いた。 モリアーティは一拍の溜めを作った後、暗い水底を思わせる笑みを湛えてこう言った。 「彼女は私の優秀な教え子だからね。きっと上手くやる。 元々はテレジア・マザーを生み出したのは彼女なのだ。尤も、『今のキマイラはかつてのキマイラでは無いし、実験兵器に事故がつきもの』なのは良くある話とは思うがね――」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:VERY HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月21日(土)23:16 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●正面衝突 ロンドン市内は今現在――まさに進行形で混乱と騒乱に満ちていた。 平和な大都会に突如として出現した『怪物』達はまるで悪趣味な冗談か何かのように街の平穏な空気を破壊し尽くしていた。フィクションよりは冗長に――しかして、フィクションよりも残酷に。逃げ惑う人々は少なくない数が犠牲となり、それに抗おうとする『正義の味方(けいさつかん)』は無力にも思えた。 しかしそれはあくまで『表側』の話である。 現代社会のその影に悪(フィクサード)が潜むと言うのならば。 闇深き世界に光が差さぬ訳は無い。善(リベリスタ)が彼等を食い止めようとするのは必然であった。 「アーク、参上だ。『待たせた』な」 ロンドン警視庁を間近に控える大通り(ストリート)。まさに大乱の中心地帯となったその場所に遅れてやってきた千両役者は『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)以下、十人のアークリベリスタ達だった。 「こんな時はアレだ、第七騎兵隊参上! とでも言えば良いかね?」 咥えた煙草から紫煙を揺らし、僅かに冗句めいた『足らずの』晦 烏(BNE002858)を、 「異国の友人に素直に感謝します。私はジェラルド・ベイトソン。 『スコットランド・ヤード』では『警視』の立場を任されています」 大通りを駆け抜け、現地に急行した彼等を迎えたのは銀縁の眼鏡をかけた居住まいの正しい一人の英国紳士だった。彼を中心に戦闘を繰り広げる面々からは当然ながら現れた増援に歓喜の声が上がっている。 「見た所、現場の指揮官って所か」 「はい。状況の説明が必要ですか?」 「――ま、大体は分かってるがな」 友情を温めたいシーンではあるが、同時に悠長に話している暇は無い。 烏に応えたジェラルドに頷いた虎鐵が強く睨み付け、 「フェーズ4のキマイラか。灯璃の興味は『二番目』なのに邪魔臭いなぁ……」 可憐な唇を尖らせた『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)が不満気に見つめた先――燃え上がる多数の車両の向こうには炎の熱気に炙られて一際嫌な臭いを発している『怪物』が居る。正確な所は分からないが――全長にすれば数メートル以上は確実であろう腐肉の塊はおぞましくヘドロめいている。それがフェーズ4を数えるという――人造エリューション『キマイラ』である事は先刻承知のアークである。ロンドン最大のリベリスタ組織『スコットランド・ヤード』と、バロックナイツが一、ジェームズ・モリアーティ教授率いる『倫敦の蜘蛛の巣』の全面対決を救援するのが今日の役目である事は今更言うまでも無い事だ。 「現在残ってる戦力の構成と役割分担を聞きたい。特に支援役の数と状況だ」 「では手短に」 『OME(おじさんマジ天使)』アーサー・レオンハート(BNE004077)の要求は非常に理に叶ったものだった。鋭く英語で仲間に指示を飛ばしたジェラルドは自身も拳銃を素早く構え、フィクサード側に牽制を加えながらアークのリベリスタ達に状況を告げる。 「御存知とは思いますが、この戦場の敵はセバスチャン・モラン大佐率いる倫敦派最高戦力です。 当初こちらのリベリスタは三十人居ましたが、負傷と死亡で十二人が脱落しています。支援役は四人。疲労は否めませんが、後方に配置した事もあり被害はなし。戦闘継続中のリベリスタは未だ戦う為の余力を残していますが、万全という訳ではありません。一方の『蜘蛛』側ですが、少なくとも六名のフィクサードは戦闘不能になっています。又、エリューション・キマイラについても『大物』以外は鎮圧完了しています。しかし、問題の根幹――フェーズ4とモラン大佐については食い止め切れていない状況と言えるでしょう」 「流石に倫敦で二番目……ですか」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)の鋭い視線が敵方の指揮官の姿を捉えていた。その進軍を必死で食い止める『ヤード』側のリベリスタを嘲笑うかのようにその存在感を見せ付けるモランは別格の雰囲気を隠しもしていない状況だ。 「しかし、危険であれ、為すべきことが目の前にあるのなら――恐れている訳にもいかないでしょう。 申し訳ありませんが、この現場は一先ず私達に預けて頂けませんか? 彼等に対抗するには指揮系統、作戦連携の一本化が不可欠です」 「勿論。此方は――私も可能な限りで皆さんをバックアップします」 「ご協力感謝します」 『警視』であるジェラルドの指揮能力、『最高戦力』とやり合う『ヤード部隊』の戦闘力は恐らくアークのリベリスタと比しても十分な一級であると言えるだろう。しかして彼はミリィの言葉に一切の異論を唱える事無くこの場の指揮を彼女に任せた。キマイラを矛に進撃を続ける倫敦派もアークの合流には既に勘付いている。やや慎重さを増した彼等の動きの隙を突き、ミリィは戦況の立て直しを試みる。 「――さぁ、戦場を奏でましょう。勝利を掴むのは私達です!」 凛と響いた彼女の号令を受けてリベリスタ連合軍は俄然士気を増していた。 元々は名門クェーサー家が編み出したとされる教条(ドクトリン)も戦奏者にかかればそれ以上である。今はミリィ・トムソンのそれと化した教条(ドクトリン)が仲間達に勇気と力を与えている。「十分だ」と頷いたアーサーは周囲の仲間達とその意識を同調し、増幅した自身の力を彼等に分け与える事でその異能を補給する。 「ヤード諸君。守るべき者の為に戦う事を決めた諸君。喜べ、今日がその日だ。 この都に巣食う蜘蛛に見せてやれ。ホームズなくとも、この地にスコットランドヤードのあることを!」 饒舌に高らかに声を張った『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)が「もう待ち切れない」とばかりに焦げたアスファルトの上を駆け出した。 (意志なき戦士に価値は無い。君らの意地を見せてみろ――) (ああ、そうだ。俺に出来るのは――見せてやる事だけだ。ヤードの連中が燃えるような、戦いを!) 口に出さない朔と虎鐵の心の内は奇しくもほぼ等しい意味を示していた。 爛々と目を輝かせる朔の両目には腐肉の塊と燃えるような赤毛の大男だけが映っている。 妹をあしらったポーロックも気にならない訳では無いのだが、彼等はどうしてもそれ以上である。 「猟犬から銃(おめあて)を奪い損ねたのだが…… 丁度いい処に良さげな銃を持ったおっさんがいるじゃないか」 「――――!」 スピードを生かして一番手で前線に躍り出んとした朔を追い抜こうとするかのように『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)が並びかけた。 二者の欲求は何処か似ている。片や『死地で舞踏の相手を求める獣』、片や『欲しても止まぬ力の渇望を抑え切れない獣』。 「では、競争と行こう」 「恨みっこ無しで」 二人が『リベリスタらしい』かはさて置いてソードミラージュの競演は互いに負けぬという雰囲気を実に苛烈に生み出している。 「派手にやってくれたなぁ蜘蛛の巣の連中は。好き勝手やられんのは、気に食わねぇぜ!」 「久しぶりだ。わたしの顔なんて、おぼえてなくていいけど。 わたしは忘れていない。その、気にくわない銃と、イヤな顔を――」 ソードミラージュ二人の一方でクリミナルスタアの二人――『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)と『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)も激しく、そして静かに気を吐いている。 何処までも分かり易く、唯『凄絶』を予感させる戦いはまさに今その幕を上げようとしていた。 「さてさて、犯罪のナポレオンの懐刀殿は独国少尉殿と比べてどうとやら――」 彼の言葉は狙撃手(シューター)だからこそ。 惚けた烏のその銃口は斜めにピタリと的と指し、寒空を引き裂く鉄の咆哮を吐き出した―― ●精鋭vs精鋭 「大佐。予想通りアークです」 「思ったよりは早かったかな。まぁ、連中ならば不思議は無いが」 副官ポーロックの言を受け、赤毛の男――セバスチャン・モラン大佐は邪悪な笑みを浮かべていた。 彼に言わせればこの状況は想定の内。もう少し言えばモランの想定の内と言うよりは、あの偉大なる数学教授の弾き出した『完璧なる演算』の想定の内である。今まさに行く手を遮らんとする十人の新手――と『スコットランド・ヤード』――は決して簡単な相手にはなるまいが、問題は生じていない。数の上では十七のフィクサードとキマイラに対するのは二十八のリベリスタ達である。状況上、数的優位は無いが『個の力』においては倫敦派に分があるだろう。 「以前に見たアークが何人か混ざっていますね。此方の手の内もある程度は知れているかと思われます」 「もう一つ言うなら連中も以前より強くなっているだろうよ」 モランはそう呟いて向かってくるリベリスタ達を強く見据えた。 『二番目の男』である自身を脅かし得る存在はそう多くは無い。しかして、彼等があの伝説を、巨匠を、亡霊を破り――魔王を形はどうあれ退けたのは紛れも無い事実に違いないのだ。 「さあ、諸君。油断はするな。ここからの敵は宿敵(ヤード)以上だと考えろ。 戦い方は知っての通り。相手にやりたいようにはやらせるな。 完膚無きまでに破壊し、倫敦派の強靭さを彼等の土産話にしてやるといい。 但し帰り着くその先が――現世日本なのか天国地獄なのかは保証はしなくて結構だ!」 モランの号令にフィクサード達がそれぞれ応じた。 キマイラは怨嗟の咆哮を響かせ、その鈍重な身体を敵の方へと蠢かせる―― 結論から言えば『誰よりも速く』敵側へと仕掛けたのは朔でもいりすでも無かった。 アーク側の先鞭として前方の激戦に参戦したのは彼女を置いて誰にもならぬ――『黒耀瞬神光九尾』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)だった。 『速いだけが一体何の武器になる』 嘲笑混ざりのその台詞はリュミエールにとって撤回させなければならぬ第一だ。事実スピードに魅せられた戦士達はより実戦的にビルドアップされた敵の技量の前に苦杯を舐めさせられた事もある。しかし。 (私は彼奴二じゃれられてるダケノアツカイダッタ! 速いダケトコバカニサレ、速サソノモノを馬鹿にサレ―― 巫山戯ルナヨ……総テヲ速度ノタメニ速度ヲ求メル私の世界ヲナメルナ…… モットハヤクハヤクハヤクハヤク私ハ確カニ――ココニイル!) 『アクセルジャケット』の推力がリュミエールの全身を前に突き動かす。 極限まで姿勢を下げて空気抵抗を減らした少女の小さな体は驚異的な加速を見せていた。 当然のように他人に倍する反応を見せた彼女は即座にその全身に電光を纏い、更なるスピードを獲得して遂には間近に迫ったキマイラ――『ザ・ボマー』に挑みかかる。 ――時ヨ世界ヨ総テヨ加速シロ私ハ誰ヨリモ速イノダカラ―― 「コレが、私の世界、私の速度ノ雪辱――その一歩目ダ!」 利き手の刃(ミラージュ・エッジ)より繰り出された超速度の刺突がボマーの巨体に吸い込まれるかのように見えた。 この動きを邪魔するように受けたのは倫敦派のフィクサードの一人である。 リュミエールのスピードが強力な敵の装甲に次々と散らされる。効かなかった訳では無いが、有効打となった訳でも無い。一瞬の攻防でリベリスタ側が理解したのはこの戦いが簡単に済むものには成り得ないという改めての『確信』であった。 「そりゃあ、そうだ」 いりすの口角が奇妙に持ち上がる。 リュミエールにより放たれた鏑矢はフィクサード側に明確な『戦術』が存在する事を証明したに過ぎない。ボマーが然したるスピードを持たない以上はその結論は当然の事。フィクサード側はこの戦場を突破し、『ヤード本部』を破壊する為の虎の子である『兵器』に簡単に攻撃を加えさせる心算は無いのだろう。 「そうでなくちゃ――そもそも燃えない。 さぁ、目の前の障害は。蹂躙して破壊して暴食しよう――」 灰色の瞳が映す灰色の世界は――命のやり取りのその場においてはかくも鮮やかに彩を取り戻すものか。 我ながらの現金さにむしろそのテンションを上げて、虚無を抱えたいりすが仕掛ける。 ボマーに伸びた刃はリュミエールと同様にそのブロッカーが受ける事となるが、リュミエールのスピードにやや姿勢を崩された敵は続け様の猛攻を先程のように綺麗に捌く事は出来なかったのである。 「『閃刃斬魔』、遅ればせながら――推して参る」 皮肉屋の唇の――愉悦の色が隠せない。 恐らくそれは轡を並べる味方に対しての『好評』も含めての事だろう。 連なり繰り出されたアル・シャンパーニュは仲間を信じた全力全開の攻め手である。三人でまさに五人分動いたスピードファイターの三重奏に受けた蜘蛛のダメージも大きくなる。 「倫敦で二番目の男。『知って』はいるが、味わうのは初めてだ――楽しませてくれよ、モラン君」 「んん? 何処かで会ったかな?」 「いいや、正真正銘『初めて』だ」 華やかに笑う朔は触れなば痺れん電撃混じりのいい女といった風。 軽口を展開する朔とモランの一方でリベリスタ側も蜘蛛側もそれぞれの動きを見せていた。 「引き剥がす――!」 短く気を吐いたのは三人に遅れて前線に飛び込んだ涼子であった。 パーティの最終的な目標はモランを戦場から撤収させる事である。その為の最低条件を彼等は切り札であるキマイラの破壊。そして腹心であるポーロックの危急と読んでいた。果たしてその読みが正解かどうかは現時点では分からなかったが―― (わたしのする事は、きまっている) 挑発めいた涼子に敵陣が軽く浮き足立つ。彼女の狙いはあくまで敵側を困らせる事である。彼等がキマイラを戦術の軸に置くと言うならばあくまで妨害するまで。自分を泳がせるなら攻撃に出るまでだ。 「うねうねうねうね気持ちわりぃんだよ――」 猛烈な気合で噛み付くように、怒鳴るように声を上げたのは妖狢(あやかしむじな)を備えた隆明だった。名状し難きその短銃を連射し、『悪童』の名に恥じぬ破壊力を見せ付ける。 「――てめぇら、纏めてぶち抜いてやんぜ!」 守りは得意とは言えないがこと攻めにかかればかなりのもの。 (セバスチャン・モラン……出来れば突っ込んでぶん殴りたいところだが、今はそういうわけにもいかねぇか) アーク側のリベリスタの勢いを象徴するような隆明の猛撃に敵側の動向と攻撃力の増加を見た蜘蛛は更にキマイラへの防御を強める。激しく仕掛け始めた前衛リベリスタ達を牽制し、ブロックに入る。『ヤード』の部隊は守勢を見せた蜘蛛の動きを見逃さず、アークのリベリスタが攪拌した戦況に追撃の手を加え始めた。インドラの炎が敵陣を焦がし、精密なピンポイント射撃がモランを牽制する。 負けじと蜘蛛側も反撃に出て後衛を含めたリベリスタ達にダメージを与えんとするが、守りに優れない――特にアークの火力役については比較的頑健な守備力を持つ『ヤード』のリベリスタがフォローをして見せた。 「案外やるねぇ」 「そいつはどうも。今度はお宅のお得意の大技を見せて欲しいね!」 口元をにやりと歪めた『警部』の男に烏は小さく口笛を吹いた。 守りに優れない自分達の援護は彼自身が要請したものである。 同じように庇われたアーサーが力の限りに賦活を紡ぐ。 「しっかりしろよ。勝負はまだまだこれからだ――!」 聖神の奇跡を紡いだアーサーは一人の力でこの場を支えに掛かっている訳では無い。『ヤード』側の支援役と精緻に連携した彼は戦場全体の状況に対して確実な処方箋を与えている。 (流石についてくるな。これなら……) 極力危険な局面を避ける為には回復を弾幕に変えるアーサーの存在は要であり、楔である。 『ヤード』側の動きについて守備は烏が、回復はアーサーが、そして攻撃は―― 「遠く狙える人はキマイラを攻撃! 特に致命傷とか強力な人はキマイラを攻撃! 敵が庇ってようとどうしようと守備力限界はある筈だからね。手数を生かして突破だよ!」 ――声を張った灯璃が司っている。 全体を通じて調和と安定を図るミリィとそれをサポートするジェラルドの存在も含め、リベリスタ達の即席連合軍はここまで殊の外いい動きを見せていた。 距離を取って戦う事は守備側の常套手段である。 元より遠距離攻撃を多彩に備えた『ヤード』達は士気の高まりもそのままにダメージを束ねてお見舞いする。蜘蛛側も状況に支援を与えこれを持ち直そうとするが、攻め手は苛烈だ。キマイラを庇っていた蜘蛛の一人がよろめき倒れかけ、辛うじて運命の消費で撃破ばかりは回避した。 しかし、それも長くは持ちはしない。 「『蜘蛛』が本物かどうかなんて如何でも良いよ。本物でも偽者でも殺しちゃえば――フィクションさ」 灯璃の冷たい声に応え、彼我の間合いを行く鎖が蛇のようにのたうった。 先端に繋がれた赤い刀身のべリアル、黒い刀身のネビロス。まるで意思でも持っているかのようにも見えるその『魔弾』は状況を立て直さんとしたその蜘蛛の頭を石榴のように叩き割る。 「おい、どけや」 「な……!?」 「テメェの汚いタマなんかどうだっていいんだ」 更にキマイラを守りに掛かった一人のフィクサードを横合いから虎鐵の剛剣が弾き飛ばした。 「用があるのはテメェみてぇな三下じゃねぇんだよ」 彼が首を挙げてみせんとするのは、あの――余裕面をした敵ばかり。 斬魔・獅子護兼久――漆黒の銘刀はしかしかつての鬼の面影を残さない。 大業物は人を斬る為の得物でありながら、大切な『何か』を守護する守り刀めいてもいる。 「ちょっと黙ってて貰おうか――」 「――同感ですね」 更に敵陣を牽制したのは閃光の塊を敵陣に向けて投擲した烏であり、ミリィであった。 煩い回復役、防御役を見繕って動いた烏はフラッシュバンが時間稼ぎにしかならない事を知っていた。 敵陣の中心を狙って広範囲閃光弾(シャイニング・ウィザード)を炸裂させたミリィもそれは同じである。 (だが、勝負はどれだけ早くキマイラを突破出来るか、だ) (何度も使えるものではありませんが――一時的に『バランス』を崩す事が出来れば) それでも二人は敵の『プラン』を崩す事がこの戦場の絶対論理である事を半ば確信していたと言える。 正直を言えばフェーズ4との交戦経験は無い。しかし、『無いからこそ』それは恐れて足りるものではない。何よりその先に――敬意を向けるべき狙撃者殿が待っていると思えば結論は明らかだ。 果たして二人の牽制に蜘蛛側の動きが若干の乱れを見せていた。 「大佐! こりゃ厳しい。どうしますか」 「フン。どうするも何も――これが『アーク』で『ヤード』だろう?」 敵陣のやり取りを確認するまでも無い。 アーク加勢後の戦いは急速に激しさを増し、戦闘力の天秤さえ傾けているかのように『見えた』。 少なくとも――この次の瞬間までは。 ――凄まじい音がした。 耳を劈く爆音は間近で聞いた人間の意識を一瞬遠くするかのような強烈なインパクト。 フィクサード達に厳重に守られたボマーから複数の触手が伸びている。触手は宙で半ば彷徨うようにうねうねと蠢いている。アークの増援を受け、攻勢に出た『ヤード』リベリスタの三人が今の一撃で五体を『残骸』に変えられたのは――アークにとっても他人事では有り得ない。 「抑えながら、でも散れるだけ散って――!」 灯璃の警告の声が響く。彼女の読みは概ね正鵠を射抜いていた。 ボマーは確かに『敵だけ選んで』全体に攻撃をしてくるような器用な相手では無い。しかしそれの持つ爆発威力は無差別ながら敵を纏めて破壊する能力を持っている。一瞬前、実に三本もの触手を伸ばしたそれの攻撃をまともに喰らえば御覧の通りだ。『ヤード』も運命を燃やしてこのざまなのだから、アークであっても結論に大した差が生じるとは思えない。 「そろそろ反撃って事ですかね」 「そういう事だ。敵が強ければその分、我々がここに出向いた意味もあると言うものだろう?」 二挺の改造銃を構えたモランがリベリスタ達を見回した。 猛烈な勢いで放たれる弾丸の雨は吸い込まれるように『敵陣』の中に降り注ぐ―― ●大規模消耗戦 「やれやれ、しんどいねぇ……!」 「お互い様です。ですが、ここは退きませんよ――」 ポーロックとミリィの指揮。 「状況を立て直して。勝負はこれからです!」 「おっとそう来るかお嬢ちゃん、いいねぇ。こっちまでゾクゾクするぜ!」 互いの意図を展開する知略戦もいよいよ熱を帯びている。 (やはり、強い……!) ミリィの広い視野が看破する水際の戦いは酷く苛烈なものとなっていた。 アークの救援を受け勢いを強めたリベリスタ連合軍は蜘蛛の戦力に打撃を与え続けている。しかして蜘蛛側も極めて強力な必殺性を持つボマーとモランの攻撃力を軸に徐々に彼等を押し込みつつあった。 リベリスタ側、蜘蛛側共に戦闘が続く程に痛んでいる。 『ヤード』の死傷者三人は言うまでも無く、それはアークのリベリスタ達も同じだった。 「チッ、メンドクセーナ、テメーラ!」 悪態を吐くリュミエールが肩で息をしている。 「やっぱりいい銃だ。その空気銃、小生にくれよ」 相も変わらず余裕めいて嘯くいりすの頬は煤で汚れていた。 「そうでなくては嘘だ。そうでなくてはこの場に来る意味さえ無かったのだから」 朔は一瞬毎に命を脅かすこの時間に何処か陶然とした表情を浮かべ、 「こんなヤツ、放って置くワケにはいかねぇだろ!?」 額から赤い血を流す隆明が無傷ではないのは明らかだった。 特に危険な相手に望んで相対しようと思えば必然的に運命は過酷なものへと姿を変える。全体的に距離を取っての戦闘を得手にしている『ヤード』勢に比べ目前にフェーズ4、そしてモランを置くアーク側の前衛は特にそれを思い知っている状況だ。尤も逆説的に言うならば『ヤード』は元は三十人。近接戦闘を得意とする前衛連中は『既にやられた』と見る方が正しいのかも知れないが。 (凌げるか? いや、凌ぐ) 現状リベリスタ達が辛うじて戦線を維持出来ているのは偏にアーサーをはじめとする支援役の尽力の為に他なるまい。特にアーサーについてはパーティの生命線である。極めて強力な異常耐性を武器にする彼は、自身の行動を阻まれる可能性が極めて低い。彼の操る聖神の息吹とプロジェクトシグマは体力面、神秘面両方からリベリスタ側の全力の戦いを支えている。後者については敵方のポーロックと同じようにである。 猛烈な削り合いが展開される。 モランの放った『静かなる死』が烏を幾度と無く庇っていた警部の男をアスファルトに叩きつけた。 「その技、見れたのは重畳だ。実際、大した使い手だ。驚いた」 「良いね、それ。灯璃も欲しい」 だが、恐れない。烏は、灯璃は敵の一挙手一投足をその目で見極め、今可能な限りの反撃を試みる。 「……流石にそっちに比べればささやかなモンだとは思うがね!」 「そーでもないよ? やっつければ一緒じゃん!」 二人の後衛火力は苛烈。モランに負けじと敵陣に弾幕を展開した。 「……っ、くっ……!」 一方でボマーから生え伸びた肉の触手が空気を切り裂き涼子の喉元を狙っていた。 咄嗟の動きで身を捻り、直撃を回避せんとする彼女だが――これが及ばない。 「クソ――ッ!」 同時に伸ばされた触手は逃れかけたリュミエールの足首に絡み付いていた。 これまでは特に電撃戦のスピードで敵側を良く凌いでいた彼女も又然りである。 幾度目か鼓膜を破るような強烈な爆発が迸る。もうもうと煙を上げ――それが晴れた時には今度こそ動けなくなったリュミエールと片膝をつく涼子の姿が残されていた。 「運命、ばかりじゃない……!」 声は低い。 「……運命、ばかりじゃないの」 不屈とも言える闘志は彼女にもう一度立ち上がらせる『ドラマ』を与えていた。 絶望に抗うヒロインのように青い目の中に炎を揺らした少女は掠れた声で呟いた。 「……くたばれ、糞野郎」 強烈に踏み込んだ彼女の足が衝撃に割れ、熱に溶けたアスファルトを踏み抜いた。彼女の武技が黒い瘴気を噴き出した。神代の怪物を思わせる八又の鎌首がボマーを中心に――フィクサード達を薙ぎ払う。 「どの道、長い時間は無さそうだぜ」 眼光鋭くモランの動きを目で牽制した虎鐵が今一度――ボマーに張り付くフィクサードを吹き飛ばした。 積み重ねられたダメージはリベリスタ側だけが負っているものでは無い。蜘蛛側の余力も減じつつあり、特にボマーを守る戦力は最初に比べれば随分と抜け落ちているのが現状だった。 「やれやれ、だぜ」 破壊神の如き鬼気を纏う虎鐵はまさに何者にも阻ませぬ――そう言わんばかりの存在感に満ちている。 戦闘は続く。 「いい加減邪魔だ。鬱陶しい」 言葉は冷酷に――いりすは渾身の殺意で刃を振るった。 命もいらぬ。欲しい。欲しい。死んでも欲しい。 命を惜しんで手に入るモノなら元よりいらぬ。『力』とはそういうものだ。 『駄々っ子』のようにソレを欲するいりすは目前の邪魔者にそんな価値を感じていない。 「悪くは無いがね。せめてロンドンくんだりまで来たならば、蜘蛛足の一本位は頂戴仕る」 蜂須賀示現流を汲む――我流の切っ先がいりすとの連携で守備フィクサードを斬り捨てる。 嬉々と表情を歪めた彼女は我流故に――『二の太刀要らず』のその技におかわりの一閃を加えていた。 おおおおおおおお……! 「浅い……ッ!」 ボマーの腐肉を裂いた我が斬撃に朔は不満気な声を上げた。 軽く後方にステップを踏み、僅かに距離を取る。正面に見据えた化物は痛みに怒り狂っている。 畳み掛けるなら今しかない――このチャンスにリベリスタ側は一斉攻撃を加え出した。 無論それは蜘蛛側も看過する事ではない。同様に激しい反撃と支援を展開し、実力はまさに鍔迫り合う。 苛烈な攻防の中、大きな動きを作り出したのは―― 「舐めてんじゃねぇぞクソダボがぁあああ――!」 ――伸ばされた触手目掛けて神速の銃撃を展開した隆明である。 鋭く突き刺さった銃弾が連続で腐肉の身体に潜り込む。 リボルバーならば回転する弾倉のイメージ、それはまさに尽きるまで。 ダメージを受けたボマーが残る触手を彼に伸ばした。回避に優れないながらもあくまで勇猛にフロントで戦闘を展開していた彼は身体に巻き付くそれを避ける術を持たなかった。 至近距離で炸裂した爆発に身体が軋む。口からは冗談のような血が噴き出して――『喧嘩慣れした』隆明はそれで内臓が滅茶苦茶にやられた事を確信した。 (……チッ……) 舌を打つその動作さえ口内を埋め尽くす鉄分の味に上手くはいかない。 一度の爆破で仕留め切れなかったボマーは残酷に『再度』の爆破の動きを見せていた。 「うるぉおああああああッ!!!」 絶叫と爆音は殆ど同時。 近距離に持ち上げられた隆明の拳が腐肉を抉り貫いたのとその彼の『腕以外』が消滅したのはほぼ同時の出来事だった。 誰かの声が響き、戦場のノイズが交錯した。 しかし――決死、お返しの一撃にボマーの動きがおかしくなっている。 威力は高いものながら到底この敵を一撃で仕留めるようなものでは無かったのだが―― 「……大佐……ッ!」 (今ので『テレジア』のコントロールが乱れたか……?) 終始余裕めいていたポーロックの声に確かな焦り。 「焦るな。ボマーから距離を取れ! 『ヤード』共を駆逐しろ! 忘れるな。此方には――『倫敦で二番目に危険な男』セバスチャン・モランが残っているのだ!」 しかし、厳しいその顔を引き締めたモランの方はこの状況にも然して動じてはいない。滅茶苦茶に暴れ始めたボマーはリベリスタとフィクサードの争いに構う事無く、周辺を破壊し始めている。 戦闘は激しく応酬されるが、モランは猛威を振るっている。 (……落とせるか……!?) 虎鐵は内心で臍を噛む。 リベリスタ側の思惑はポーロックを撃破する事だが、ポーロック自身が敵側の要であると同時に、かなりの使い手であるのが厄介だ。確かにその戦闘力はモラン程では無い。攻撃を束ねる事が出来れば何れ倒す事は出来るだろうが、状況上これを犠牲を増やさずに為すのが極めて厳しい。容易に踏み込めば死が近く、アーク側のリベリスタもこれが最後の戦いではないからだ。 「……ちっ……!」 虎鐵の強烈な斬撃を蜘蛛の一人が受け止めた。 威力の余波は敵を苛むが、ポーロックでなくても倫敦派が手強いのは分かり切っている。 「限界ですね」 ジェラルドの言葉を受けたミリィが唇を噛み締めた。 ボマーの正常機能を破壊したのは確かに戦果ではあるが、リベリスタ側の消耗が危険水域に達している。モラン側の戦力を相当数削ぎ落としたここまでが――この戦いの限界値である事は知れていた。『ヤード』、そしてアーク側の双方に被害が大きくなっている以上、これ以上は『失う命を増やす博打』に過ぎない。 「この状況……せめてモラン大佐の進軍を遅らせなければ」 「ご心配なく。そちらの仕事は我々『ヤード』にお任せ下さい」 ミリィの言葉にジェラルドはそう応じた。 元より粘り強くやり合うは得意と述べた彼はこの状況にも怯んでいない。ロンドン市内での戦いが互いの思惑の応酬であるとするならば、この戦場も一定の価値を挙げたのは確かである。 「助かったぜ、アーク。終わったらビールを奢ってやるぜ」 「じゃあ、俺はフィッシュ&チップスだ」 「言いたくねぇけど、外国人向け少ねぇからなぁ――」 疲労を笑い飛ばすように『ヤード』の面々が言葉を並べた。 彼等は心底この場に赴いたアークのリベリスタ達に感謝している。しかし、ここはロンドンだ。故郷を守るのに海外の『余所者』にばかりいい所を見せられたのでは矜持が廃るといった所か。 気楽な調子を本当に気楽な調子と受け止めるのは愚かが過ぎる。 「本部側で戦力を立て直す必要もある。そちらはお願いしました」 ジェラルドの言葉に志を受け取ったミリィは頷いた。 戦いはこの局面だけで終わりはしない。 例えモランの撃退に到らずとも――重要なのは最終的な勝者が『どちら』かだ。 この戦いにおいて死亡したフィクサードは十三名、リベリスタは二十二名に及んだ。 セバスチャン・モラン大佐率いる『最高戦力』は結局『ヤード本部』地上付近まで侵攻。しかし度重なる遭遇戦で時間、戦力を大きく損耗減衰させたモラン隊は最終的に他倫敦派の苦戦、撤退を経た後、『ザ・ボマー』のコントロール不良も鑑みて撤退判断を下す。 戦いは多くの痛みと混乱を抱えるものになった。 しかして、希望は潰えず。隆明の一撃は状況に計算に確実なヒビを入れた。『ヤード』は大きな打撃を受けながらも辛うじて『蜘蛛』を退け、アークはその救援の仕事を見事に為したのだ。 かくて、ロンドンを舞台にした『事件』は聖夜を前に一先ずの終息を迎えたのである―― |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|