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<九極に到る>嵐を呼ぶ男

●季節外れの『台風』
 列島を吹き荒れた台風も晩秋にもなればその姿を霞ませるものだ。
 台風は例年二十号と少しを過ぎた辺りで『打ち止め』が見えるものであるし、天の配剤はどうにも一筋縄ではいかず、自然には勝てないとはいうものの、一定の法則が期待出来るのは事実である。
「おやおや、皆さん集まっちゃって――!」
 さりとて『天災』ならぬ『人災』は同じ理不尽でも、もう少し意志をもって生じるものである。
 遅刻も何もお構い無し。来年まで待てと言っても止まるまい。
「ご機嫌だね、実際!」
 気楽な調子で声を発した『軽妙な男』は年の頃は二十代後半程に見える――酷く軽薄で、しかし人好きのする笑みを浮かべてリベリスタ達を迎えていた。
 短い髪の毛はワックスで逆立てられている。革のジャケットとダメージ・ジーンズのいでたちは肩から提げたベースと相俟って彼がどういう人物なのだかを概ねリベリスタに理解させている。
「岩原青嵐――アークの用事は分かっているな?」
「勿論。エリューションは見敵必殺。リベリスタ稼業も苦労するねェ」
 岩原青嵐はアークのデータベースの中に登録されている『フィクサードの名前』である。底抜けに陽気で明るく楽しい『逸脱者』。その『逸脱』の形は自身の気に入らぬものに対しての――『非寛容』。
 しかして、『逸脱者』とは常人の理解に及ばぬからこそ『逸脱者』なのである。『非寛容』のステータスを持ちながらも青嵐はあくまで生来の大らかな性格の持ち主であった。当然のように危険人物とマークされながらもこれまでは致命的な大事件を起こしては居なかったのだが……
「その調子じゃ、ヤル気は十分か」
「生憎と『人生』まだ楽しみ足りないんでね!」
『逸脱者』がフィクサードである内は様子見でも事足りる。されどフェイトを失い、ノーフェイスと化したならば話は別であった。
「お前程のフィクサードが『そうなる』とは思えなかったが……」
「『こうなる』のも悪くないと思っただけだろ。
 実際、『枷』があった時より力だって漲るさ。全部、ブッ飛ばせそうな位!」
『逸脱者』は『明るく楽しく』新たな力を身につけた自身を肯定している。つまる所、リベリスタの考える秩序が彼の行く手を阻む以上は対決は最早不可避の局面であった。
 師走を間近に控えた晩秋の夜に風がごうごうと唸りを上げた。
 不自然な程に強まる『風の力』、周囲を局地的に包む黒雲は雷鳴さえも轟かせた。
「――な、ノーフェイスの方が『ずっと強い』」
 岩原青嵐の異名は『嵐を呼ぶ男』――否、むしろ今は『嵐』そのものである!


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年12月14日(土)22:50
 YAMIDEITEIっす。
 今月ボス。九極。
 以下詳細。

●任務達成条件
・『嵐を呼ぶ男』岩原青嵐の撃破

●路地裏
 補足場所は岩原青嵐が足繁く通っていたライブハウス付近の路地裏。
 深夜の補足になる為、柄の悪いこの場所には殆ど人気はありません。
 戦闘場所は青嵐の『趣味』もあり、開けた場所となります。
 相応の配慮は必要ですが、基本的に戦いやすい状況です。

●『嵐を呼ぶ男』岩原青嵐
 二十代後半程の派手な外見をしたロッカー。得手はベースとドラム。
 陽気で人好きのする明朗快活な『逸脱者』。その癖『逸脱』は『非寛容』。気に入らないものは明るく楽しく全部吹き飛ばし、ブチ壊そうとします。(但し性格が大らかな為、『スイッチ』が入りにくいタイプでした)
 望んでそうなったのかどうかは不明ですが、現在はノーフェイス化。元の能力値ならば優秀なリベリスタ多数が仕掛ければ優位を取れる実力でしたが、現在は相当に強化されています。
 スピード系能力には特に秀でています。
 以下、攻撃能力等詳細。

・岩原青嵐はブロック出来ない。
・岩原青嵐は麻痺・呪縛・氷結・氷像・石化・魅了に耐性を持つ(150%ヒットが必要となる)
・岩原青嵐は戦場に常時命中回避速度のダウン補正を与える。この効果は彼に接近する程強くなる。
・岩原青嵐はBS以外でのダメージを受ける度、旋風のE・エレメントを自動召還する。
・岩原青嵐及び旋風は自身等同陣営の攻撃でダメージを受けず、能力の影響を受けない。
・風爆弾(物遠域・ノックバック・麻痺)
・ベースのSEIRAN(神遠域・魅了・高CT)
・ドラムのSEIRAN(神遠全・感電・ショック・雷陣)
・EX アイム・ハリケーン! ~ぶっ壊せ(ラヴァー・フォー・トルネイド)~

●旋風
 岩原青嵐の分身とも言える擬似E・エレメンタルで風の塊です。
 旋風はブロック出来ません。
 近距離の相手に微弱な命中回避速度のマイナス補正を与えます。
 又、全ての攻撃が『範囲』属性です。
 それそのものの戦闘力は然程高くありませんが無害ではありません。
 初期時点で十体程の旋風が戦場には存在します。


 月ボスなのでそれ相応です。
 以上、宜しければ御参加下さいませませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
サイバーアダムクロスイージス
新田・快(BNE000439)
メタルイヴクロスイージス
大御堂 彩花(BNE000609)
サイバーアダムプロアデプト
酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)
ハイジーニアス覇界闘士
葛木 猛(BNE002455)
ハイジーニアスホーリーメイガス
エルヴィン・ガーネット(BNE002792)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ハイジーニアスクリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
メタルイヴダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
アウトサイドソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)
アークエンジェスターサジタリー
宵咲 灯璃(BNE004317)

●台風の夜I
 吹き荒れる風がノイジーな夜だった。
 自身が体現する嵐をバックに従えて――否が応無く強まるその存在感は彼自身が望んだステージを誰かに特別と感じさせるには十分過ぎる程の意味を持っていた。
「おやおや、皆さん集まっちゃって――!」
 軽薄で気楽なその掛け声すら何処か白々しい。肌にぶつかる空気の流れはあくまで冷たく――『敵』を凝視した十人のリベリスタ達に己の仕事の意味を忘れさせる事は無い。
「非寛容、ね。音楽性の違いってヤツかい、ロッカー?」
「ご機嫌だね、実際! まぁ、アンタ達には迷惑かけるかもしれないけど、よ!」
『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は噛み合うようで噛み合わない――まるで『アッパーな何か』をキメたかのように異常なテンションに身を任せる彼を見据え、極々軽くその結論を口にした。
「気にするな、非寛容なのはお互い様だ」
 暗い路地裏に瞬く光源がまるでスポット・ライトのように主役の影を伸ばしていた。
『嵐を呼ぶ男』岩原青嵐――アークのデータベースに存在するフィクサードは『逸脱者』としてのステータスを持っていた。それは人間の身でありながら何か大事な回路を損傷するものに到ったものの総称である。今夜の彼がそのデータベースを『更新する事になった』のは彼が人間と呼べる存在を辞めたからである。
 アークのリベリスタ十人が今夜この場所へ急行した理由は言わずと知れたものである。
「崩界を食い止める事が第一。我々は基本、そういった理念で活動している」
『生還者』酒呑 ”L” 雷慈慟(BNE002371)の頬を風が叩いた。
 煩わしいそれに僅かに目を細めた彼は――しかし厳然と敵に結論を述べるのだ。
「成程フィクサード。成程ノーフェイス。公的概念は不要の様だ。
 一リベリスタとして、一音楽活動家として、一脅威を排除……撃滅する」
 危険な『逸脱者』とは言えこれまでは積極的に事件を起こさなかった岩原青嵐をアークは重点監視目標とする事で一定の距離を取っていたのだが……前述の通りこの程彼は自身の運命を手放す結果となった。フィクサードというステータスをノーフェイスのそれに変えた以上、総ゆる崩界性神秘を看過しないアークが戦力を差し向けたのは当然である。
「逸脱者のノーフェイスか……
 逸脱者っても、ピンからキリまであんだろうが……どうにも厄介なのは間違いねぇな」
 視線の先に佇む青嵐を中心に風の力が強まっているのは分かっていた。大気の流れを常時捻じ曲げるような強大な神秘は『唯のフィクサード』には中々難しい芸当である。されど、まるで喧嘩屋じみた所もある『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)は敵が強大さを感じさせるからこそ俄然ヤル気を増していた。
「相手にとって不足はねえ……今日は嵐との大喧嘩と行こうじゃねえか!」
「そうそう! 敵は強ければ強いほど良いよ。乗り越えたい壁は高い方が胸踊る!
 ねぇ、逸脱したらもっとフィクサード殺せるのかな?
 沢山傷つけてよ――痛い方がきもちいいの! ね、青嵐! 名前覚えたから――
 今夜は沢山聞かせてね! 奏でてくれない? その風で。黄桜――踊るの辞めないから!」
 大笑。
 迸るような猛の気合と、可愛らしい声で物騒な声援を送った『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の声を受け、青嵐の瞳が爛々と輝きを増していた。ステージを作り上げるのはアーティストだけでは無い。『伝説のライヴ』にはそれなりの客が必要なのは言うまでも無い事である。
「その調子じゃ、ヤル気は十分か。だが、生憎と『人生』まだ楽しみ足りないんでね!」
「『逸脱者』とやらとやりあうのはこれで……三人目か」
 吹き消えた煙草の火に溜息を吐いた『足らずの』晦 烏(BNE002858)が呆れ混ざりに呟いた。
「どいつも色んな意味で――化け物揃いで困らせられる」
 煙草の先を揉み消す彼の飄々とした視線は油断無く敵に注がれていた。
「ま、わたしもベースは好きだよ。フロントマンだけがバンドじゃないのも確かだ」
「そりゃ、ありがとうよ!」
(……そう、わたしはわたしにできることを……)
 渦巻く殺気とは対照的に『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)の言葉に人好きのする笑顔を浮かべた青嵐は実に静かに狂っている。
 殺し合いに向かう時間の中で歪にも思える程に――和やかな雰囲気は逆にこの夜の異常さを際立てている。
 嵐の前の静けさは青嵐自身のMCだ。いざ、曲が始まればステージは狂乱のそれに変わるのだろう――
(……どっちにしても、どうにも、だ。実際――骨が折れる相手には違いないさね)
 確信めいた予感は昼行灯を気取る晦烏という男が踏んで来た修羅場の数を物語る端的事実に違いない。
「『逸脱者』。『逸脱者』。気に入らんね。我を通せば、力が手に入る。それをするだけの『力』が黙って君『には』ついてくる。所詮、世の中は、どう取り繕った処で。持つ者と持たざる者からなるモノだとしても――」

 ――小生は、どうしてもそれが気に入らない。

「喰うぜ。喰うよ。喰い殺す」
「上等だぜ――ああ、シンプルで最高だ!」
 望んでも届かぬ『逸脱(たかみ)』を前に『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)の胸を焦がすのは確実な『嫉妬』である。されど、敵が『無条件に気に入らない』相手ならばいりすの闘争本能は何時にも増して研ぎ澄まされていくかのようだった。暴竜は目前の『ソレ』を赦していない。
 青嵐が気に入らぬものを吹き飛ばすのだとしたらば、いりすは愛した者も憎んだ者も貪り食らう悪食だ。
『同属嫌悪』、或いは『同類めいた敵との邂逅』に運命が騒ぐ。
 果たして――戦いの前の持ち時間、最後の猶予は刻一刻とその残りを減じていた。
 張り詰めたピアノ線に限界以上の力が加わるイメージ。或いは引火する直前の火薬庫。青嵐のイメージに忠実に喩えるならば『台風の目を一歩出ればそこは荒ぶる風雨の地獄であろう』。
「私はこれでも立場が立場なものですから。
 貴方のように『気に入らないものは全部吹っ飛ばす』ではお仕事になりませんね」
「しがらみも中々大変だ」
「生き方の否定まではしませんよ。直情径行の馬鹿は半端者の卑劣よりは評価に値しますから」
「はは、美人に褒められた」
 褒めてはいないが――ついでにブチ殺すのだけは変わらない。
『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は風位で揺らぐような人間ではない。ノブレス・オブリージュと言えばそれまでだがそれ以上のものが彼女にはあるからだ。
「そりゃ『人間』の限界を取っ払った今の方が強いだろうよ。だが、所詮それだけだ」
「ふぅん?」
「人の限界を極めた、ある意味尊敬すらできる逸脱者って超人から。
 お前はただの、強いだけの化物に成り下がったわけだ。
 化物相手にかける言葉なんてねぇよ。化物らしく、ただ討伐するだけだ」
『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)のその言葉を青嵐は気にした風も無い。
「枷を一つ外したくらいでご機嫌なんだ? 雁字搦めの檻の中でおめでたい『人』だね」
「意外とそこに拘るな、アンタ達。成る程、良くある『人間様は特別上等』ってそんなクチか?
 っつーか、言っちまえば俺もアンタ達も十分化け物だろ?
 何時までも女々しく――『自分達はまだ人間様です』気取ってんじゃねぇよ、小せぇな」
 怒りも苛立ちも含まない無味乾燥とした『平行線』。相手は元より『逸脱者』。
『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)はその答えを半ば予期していたのか、そんな皮肉の応酬に薄く笑む。
「ああ、でも“名は体を表すモノ”だっけ?
 なら仕方がないか――キミには『青嵐』って名前がピッタリだもん!」
 風が、弾ける。
 今時珍しいリード・ベースに引っ張られ――嵐のライヴが幕を開けた。

●台風の夜II
 一般的に『限定的なエリューション』であるリベリスタやフィクサードはその能力にエルヴィンの言った『枷』を持つ事が殆どだ。それはアークトップクラスの戦闘力を誇るリベリスタ達も、『逸脱者』として鳴らした岩原青嵐も変わらない。極々稀な例外は例えばバロックナイツや七派首領、ローエンヴァイス伯シトリィン等といった特定少数には存在し得るものの、一般に考慮する意味がある話では無い。
 元来フェイトを得た革醒者の単純なるスペックはフェーズ2のエリューションにすら劣る。無論、鍛錬や技量でこれを上回る事は可能だが――フェイトを得る事が可能なエリューションは人獣問わずフェーズ2を下回るとされており、フェイトを得る事がその最大スペックの低下を招く事は知られている事実なのだ。
 しかし――もし。
 もし、鍛錬を積み十分な技量を持つ存在が『ノーフェイスへと戻ったら』。純粋なスペックによらず磨き上げたその力でフェーズ2を圧倒するに到ったそれが再びフェーズを獲得したなら。
 鬼の王・温羅はその巨体をそんな奇跡に抉られた。
 黄泉ヶ辻京介は振るわれた刃にその片腕を落されかけた。
 ――今夜のリベリスタ達の敵はIFの脅威を存分に知らしめる相手となったのである。



(流石に速い――)
 思わず内心で一人ごちた快は動き始めた青嵐に内心で僅かに臍を噛んでいた。
 リベリスタ側で先陣を切らんとしたいりすとは互いをある程度良く知る関係である。
 アークでも一、二番手の使い手と見られる向きも多いいりすはスピード、攻防、威力その殆どに欠陥を持たないトータルファイターである。ソードミラージュとしてはスピードに特化したリベリスタに若干の遅れを取るいりすだが、それでも速さが足りない訳では無い。いりすが完全に先手を取られるという光景は中々お目にかかれるものでは無かった。
(――だが、予定通りだ!)
 とは言え、戦い慣れたリベリスタ側は最初から青嵐のスピードを想定の内に含めていた。
 青嵐を中心に広がる風はリベリスタ側の動きを縛る敵のフィールドである。彼本人は言うに及ばず、その周囲に展開された擬似エリューション『旋風』達も似た能力を持っているのが厄介なのだ。
 快の視線にいりすが軽く頷いたように見えた。
 リベリスタ側は青嵐の先手を取る事を意識していない。むしろ『先手を取らせて』可能な限り旋風を破壊した後に攻勢に移るという『後の先』に活路を見出していたのである。
「さあ、行くぜ――ッ!」
 通る美声が風を切り裂く。
 人型のフォルムの一部が乱れ、風のように周囲に溶け込む。
 ブロックを許さない彼は当然のように――前方に展開したリベリスタ達をすり抜け、パーティの中心側に踏み込んだかと思うと自身を中心に圧縮させた烈風を爆弾のように炸裂させた。
「――――!」
 猛烈に荒れ狂う衝撃の塊がリベリスタ側の声を飲み込んだ。
 その威力が後衛を更に後方に、前衛を敵陣側――旋風達の方向に跳ね飛ばし分断する。
「慌てるな。態勢はまだ残っている――!」
 しかし強烈で派手な先制パンチにも冷静さを失わぬが故の『生還者』である。
 雷慈慟の最大の能力は戦場に最高の規律をもたらす鬼謀神算の戦闘指揮。状況に最高手を探し、柔軟かつ大胆に仲間を動かす彼の存在は一流の戦闘力を持つリベリスタ達の能力を更に大きく引き出している。
 果たして青嵐の風爆弾はかなりの脅威であり、快、猛、烏、涼子等の配置はずらされはしたが――この炸裂にも辛うじて防御の体制を取ってダメージを抑え、その場に踏み止まった者も過半数である。少なくとも雷慈慟無くば同じ展開にはならなかっただろう。
「速けりゃ速いなりに、対処の仕方はあるんだよ!
「右に同じく。こっちは任された!」
 攻撃タイミングをずらした二番手のいりすに代わりエルヴィンと快がそれぞれに力を発揮した。
 片や白き曙光に守られ聖痕を宿した絶対者。片や敢然なる不沈艦の絶対者。二人はこと己の役目を果たすという意味では極めて強靭で、極めて粘り強い遂行者達である。第二次世界大戦の亡霊に「一番嫌い」と吐き捨てられたエルヴィンは破邪の力で風に痺れた仲間を救援し、守護神と『他称』される快はその呼び名に相応しくラグナロクの加護を戦場に降り注がせていた。
「攻めは頼んだぜ――!」
 風を切り裂く声を張るエルヴィンに仲間達が動き出した。
 快の計算では流石の自陣も青嵐に十全なクリーン・ヒットを重ねるのは難しいという読みがあった。
 殲滅の加護は長期戦を望む為の手段であると共に反射ダメージを彼に蓄積する為の罠でもある。
(とは言え――これは状況次第だけど――)
 しかし問題が無い訳では無い。風の塊である青嵐はダメージを受ける度に旋風の数を増やす。
 青嵐が自身の範囲攻撃でまとめて反射ダメージを受ければ、旋風が一気に増えるのは諸刃であった。
「実は、これも好都合、ってね」
 一方で旋風側に弾き飛ばされた涼子も肝心の動きさえ取り戻せば作戦の通りである。
「フロント万だけがバンドじゃない」と言った彼女は成る程、今回の戦いにおいて青嵐ではなく厄介な旋風を処理する役目を負っていた。素晴らしい反応で何者にも侵し難い絶対性を鬼気の如く纏った彼女は即座に『周囲の旋風目掛けて』アッパーユアハートによる引き付けを試みる。周囲を旋風達に包囲された彼女の技は本来の精度をやや欠いたがそれでも三体の風をその影響下に収める事に成功した。
 風が唸る。
 此方も風という属性柄か相応の速さを持つ旋風達がリベリスタ達に襲い掛かった。
「引き裂かれたって舞台上から降りるつもりはない――つまり、こんなんじゃまだまだってこと!」
 漆黒の武具を具現化させた魅零がその身のこなしで風達をおちょくるように翻弄した。
「生憎と演奏を聞きに来た訳でもねぇんでな……さっさと終わりにさせて貰うぜ!」
 その類稀なバランス感覚を発揮した猛が両足を踏ん張り、向かって来た風の塊を迎撃する。
「チッ、真面に攻撃出来やしねえ! 厄介な能力を持ってやがる」
 風圧に『流された』猛が舌を打つ。しかし猛火は風に煽られれば更に延焼を強めるものである。
 リベリスタ側の連携は初動を遅らせている分、状況は堅実に構築されつつあった。
「参ります」
 彩花がコンクリートを蹴り上げた。
 風の中、姿勢を低く。聖骸闘衣を纏う彼女は、雷牙を備えるしなやかな獣。
 強風に黒絹の髪を靡かせて――風の中心を食い止めんとするかのように挑みかかる。
(この風も無限ではない。これが消耗戦になる以上は――)
「大体何でギターじゃなくてドラムなのさ!」
「さぁて、どうしてだかね!」
 青嵐の人を食ったような調子に構わず、灯璃の赤伯爵、黒男爵が無数の弾幕を嵐の中に放り込む。
 吹き荒れる風に今夜ばかりは自慢を翼は畳んでいる。
 珍しく地面に足をつけて戦う少女は強烈な一撃が旋風を強かに叩いたのを確認する。
「流石に一発じゃ足りないか――おじさん!」
「はいよ、こんな時こそ『おじさん』の出番さな」
 際限なく発生する敵を露払いするには圧倒的な面制圧火力が必要だ。お代わりとばかりに放たれたハニーコムガトリングは二五式・真改の奏でる、まさに悪夢そのものである。灯璃のそれを更に圧倒的に上回る精密射撃は『乱戦に取り敢えず放り込む弾幕』にも関わらず、一級の敵を捉え得る鋭さを秘めていた。
 上下左右、見事に撃ち分けた二者の連携に当の青嵐から感嘆の声が上げられた。
 ゆらりと影が揺らめいた。
(さあ――これが始まりだ)
 ある意味で誰よりも『逸脱』を羨望し、誰よりも『逸脱』を唾棄する者――
 いりすは無銘とリッパーズエッジの二刀を構え、嵐の中心に肉薄していく。
 情熱という幻想がこの夜に何を望むのかをいりす自身、正確に理解しているとは言えなかったが。
 瞬く刃は風より『速い』。青嵐のピックが絡む刃を弾き返した。
「流石に強いね、アンタ――いや、アンタ達。だが、セッションはこれからだ――」
 気付けばライヴはセッションにその名と意味を変えていた。

●台風の夜III
 戦いは強烈な乱戦、消耗戦になっていた。
 岩原青嵐と旋風の能力はリベリスタ側の攻勢、守勢両方の力を削ぐものである。
 青嵐がダメージを受ける度に出現する旋風の存在は厄介。しかし、戦線を支え青嵐に確実なダメージを与えるという意味では快のラグナロクも痛し痒しといった所である。
「全く……しぶとい……!」
 肩で呼吸を整えて『お互い様』の台詞を吐き出したのは後方に跳躍しダメージを殺した彩花である。
「まだまだ、これからだぜ」
「無論だ。へこたれるには早過ぎるな」
 彩花のクロスジハード、エルヴィンの聖神の奇跡、快も含めた破邪の力、そして雷慈慟による攻撃余力の回復は粘り強い戦いをパーティに約束する為のピースであった。風という武器を纏い、元より完全に威力と戦闘力に勝る青嵐を前にすればリベリスタ側が危険なシーンも数多くあったがそこでもやはり絶対者という楔が効いてくる。青嵐のベースにいりす等前衛がコントロールを奪われるシーンもあったが、
「その二刀は鈍らか! 俺を斬ってみろ!」
 それさえ敢えて挑発めいた快がその身を挺する事で食い止めた。
 但し戦闘が長期化するにつれ、自ずとリベリスタ陣営の損耗が大きくならざるを得ないのは事実である。
 どれ程の連携を見せた所で敵側を引き付ける度に集中攻撃を浴びる抑え役の涼子はダメージを隠せないし、『瞬間最大風速がとんでもない』青嵐を前にすれば運命に頼る局面があるのも当然だからだ。
 戦いは激しさを増して続いていく。
「――らあああああッ!」
 纏わり付く旋風は味方後衛が破壊した。
 邪魔者、重石を無くした猛が猛然と突っかけていく。
 身のこなしの自由を阻害する猛烈な風は彼に近付く程に強くなる。鍛え上げた技が、鬼の踏み込みが今一つ鋭さを発揮し切れないのは敵の能力と無関係では無い。でも、それでも。
(台風っつーからには、台風の目……奴の隙に当たる様なもんがあるかも知れねえ。
 どっちにしろ、有ろうが無かろうが俺の拳を当てんなら近づくしかねえんだ!
 だったら、その有無くらいは確かめてやろうじゃねえか!
 引くな、守るな、前に出ろ、攻めに行け……!)
 身体を前方に投げ出すような『不恰好』でそれでも決して足は止める事無く。
 集中力を研ぎ澄ませた猛は自身に出来る目一杯で青嵐へと肉薄した。
 羅刹鬼(らせつき)、速疾鬼(そくしつき)、可畏(かい)――この場体現するのは葛木猛!
「邪魔があンなら、ブチ抜くだけだっ、行くぜェ!」
 裂帛の気合と迸る闘気が武技に乗って嵐を叩く。
「先程の続きではありませんが――どうしても『寛容できないモノ』があったなら、私は壊すよりも変えることを選びますね」
 漸く生まれた『風穴』に畳み掛けたのはいりすの戦いから敵に届く『ライン』を察した彩花である。
 隙の無い硬い守りから粘り強く好機を伺い、確実に仕留めるのは彼女一流の戦闘論理である。純粋な防御のみに拠らず高い総合力で万事への対応を見せる彼女は実に『お嬢様らしく』その牙で十字の瑕を描き出す。
「その方がずっと困難ですし、何より――人間らしくはありませんか?」

 おおおおおおおおお……!

 怪物の咆哮めいた騒音を立てる暴風がその強さを増していた。
 地道にリベリスタ側が突き立てたダメージ、積み重ねた反射は徐々に青嵐から体力を削り落としていた。
 しかし、敵もさるもの。
 激しく奏でられる『曲』のビートは速さを増して――荒れ狂う雷撃がリベリスタ側の余力を同じく奪う。
 嵐の夜に幾度と無く運命が瞬く。刹那毎に繰り広げられる攻防の全ては間近に死の気配を匂わせている。
「癒し手なら簡単に落とせると思ったか? 残念ながらそうはいかねぇんだよ……!」
 震える膝は風の所為。傷の痛み、体力の消耗をハッキリと自覚しながらもエルヴィンはあくまで不敵に嘯いた。
「こんな風、そよ風程度にも感じねぇよ。お前が台風――嵐だって言うならよ」
 見得を切る。負けるかとばかりに嵐に怒鳴り、噛み付くように言い切った。
「――この十倍、いいや百倍は持って来い!」
 互いのダメージから終局を望み始めた戦いはギリギリの所でその行く末を決めかねていた。
「自慢の風もそろそろ『打ち止め』かな?」
 挑発めいた灯璃のお喋りにニヤリと笑った青嵐は「いいや」と応じた。
「風は自由で何者にも囚われない。何時までも『人』の姿じゃいられないんだよ。
 君は枷。むしろ枷。青嵐を形作っていた風はもう自由なのさ――」
「いいな、それ。ぐっと来る。これが終わったら曲にしてもいいよな?」
 互いの軽口にも当初よりもぐっと来る――熱が篭っている。
 リベリスタ側が堪え切れる時間は最早少なく、青嵐が倒れれば敵方はおしまいである。
 何れにせよ決着は近く――更にリベリスタ側には『懸念』するべき事実があった。
(『スイッチ』が入れば、アレが来る筈――)
 灯璃が想定するのは青嵐における恐らくは最大の攻撃手段の存在である。『逸脱者』岩原青嵐の持つ『逸脱』は『非寛容』である。彼は本当に気に入らないものを前にしたその時に――その最大の能力を発揮するのだ。彼はリベリスタ達との『セッション』を楽しんでさえいるように見える。しかし、もし彼が『全てを吹き飛ばす気になったとしたら』戦線のバランスを保ち続けるのは不可能なのだ。
 来る前に倒す、それが最良。
 しかし、例え『二度目の嵐』が訪れたとしても。
(――誰かが残れば勝機が残る。それが盾の戦い方だ!)
 快は覚悟を決めている。自身は盾。堅牢なるイージスの盾。仲間、宝剣の一振りを残す為にこの場は砕かれたとしても――剣はきっと敵の喉元に届くだろうと信じ抜いている。
「感じさせてエクスタシー☆ 楽しくヤろうよ、最後まで。勿論全力投球で、ネ!」
 君が演奏を止めるその時まで立ち上がる事を諦めない。
 魅零の大業物から伸びた暗黒の霧が青嵐を狙う。
 猛烈に風が吹き、稲妻が轟いた。
「特等席で聞きたいじゃん。ファン第一号になってもいいかい?」
「いいや、それは無理な相談だな。俺にはちゃんとファンがついてるんだからよ!」
 対峙した青年と少女はまるで冗談を言い合うように命のやり取りに華を添えている。
「ベース、ドラムは律動隊だ。配分の乱れは一座の乱れに繋がる」
 いざ勝負を賭けんとするリベリスタ達をリードするのは言わずと知れた雷慈慟。
「君に向く楽器は恐らくギターだったろうと思案するが……助言の代金は、その断末魔で手を打とう」
 彼の指揮に応え、満身創痍のリベリスタ達が死力を尽くして躍動した。
「例え激しい嵐であろうとも、おじさんの銃弾を遮るには能わじだ。
 ……だが、流石にそろそろ打ち止めにして貰いたいもんだがねぇ」
 飄々と肩を竦める烏の活躍も大きく数を減じた旋風を押し切ってリベリスタ側は総攻撃を開始した。
 集中を重ねた攻撃が嵐の男に喰らい付く。
 猛然とした反撃は更にリベリスタ達を痛めつけたが――ここはまさに正念場。
 エルヴィンが、彩花が、快が持てる力の全てを振るって攻勢の時間を引き伸ばす。
「確かに時間を犠牲に枷を取った青嵐、君は強い。
 だからこそかな『枷』と共に強さを磨いてほしかった。
 いくら強くてもノーフェイスに先はない。でも、それでも良いならもう何も言わないさ
 願わくば貴方は貴方のままで骸となれ!」
 魅零の一閃が視界を漆黒に飲み込んだ。
「べつに、どっかのミラーミスのが、『ずっと強い』だろうさ。
 どこにもかぎりはあって――でも、その中で勝たなきゃいけないって……それだけでしょう?」
 可変双銃が硝煙を噴き上げる。涼子の青い双眸の見つめた先に――撃たれた青嵐の姿がある。半ば風と一体化した彼は確かに人間を超越している。しかし、能力(ちから)の差がどうあれ、リベリスタは勝たねばならないのだから――それが何の畏れになるものか。
 仰け反る青嵐が視線を前方に戻した。
 彼の視界に迫り来るのは――獰猛で、温和な笑みを浮かべたいりすの姿。

 ――ただ『なった』だけの相手に。負けたくない。負けられない。突き詰めれば、そんな物は、唯の嫉妬だろうが。ならば。なれば。なればこそ。踏みにじらねばならぬ。己が己であるために。
 そう、勝つ。何を対価にしようとも。強く。強く。ただ強く。そのための力をよこせ――

「元より、この身に惜しむモノなど何もない」
 風を置き去る無数の刺突は二刀より放たれる『異常』の世界。
 突き抜けたいりすは後ろを振り向かない。
 一方でその身を――風をバラバラに分かたれた青嵐が「あーあ」と溜息を吐く。

 ――負けちまった。何だよ、何だよ。これから盛り上がる所だったのに。
 ああ、もう畜生! 『もう少し』アンタ達が気に食わねぇ相手ならなぁ――

『非寛容』を司りながら『寛容』だった『逸脱者』はあの奇妙に人好きのする笑みで小さく零すのだ。

 ――俺ぁ、アンタ達嫌いじゃなかったね。いや、まぁ――俺に、……ても……か……

 最後の台詞はその場の誰にも聞き取れなかった。
 台風一過。
 無傷の者は無く、早鐘を打つ鼓動は勝利の余韻を噛み締めるには不似合いだ。
 しかし、魔性の神秘を失した戦場はあちこちに爪痕を残しながらも嘘のような平静を取り戻している。
 一陣、風が吹き抜ける。
 先程までの暴風では無い。唯の十二月の冷たい風が。
 髪を片手で抑えた彩花は誰に言うともなしに呟いた。
「嵐とは突如に生まれ、激しく荒れ狂い、人を騒がせ、そして最期には妙に静かに消えてゆく。
 成る程、貴方は確かに誰よりも『嵐』そのものだったのでしょうね――」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

 うーん、強い。
 所謂純戦というジャンルはデータが良ければいいというものでもなく、プレイングが良ければ全てが許されるというものでもないので、いいバランスだったと言えるでしょう。
 うーん、強い……

 シナリオ、お疲れ様でした。