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嘔吐リベンジ

●殺人鬼の作法
 理由があるべきではない。
 どこで読んだか、何時に聞いたのか。覚えてはいないけれど救われたことを覚えている。救われてしまったことを覚えている。
 小さい頃から私はなんでもないことで生き物を殺していた。虫、動物、それが人間に至るまでそう長い時間はかからなかった。
 なんでもないこと。そう、本当になんでもないのだ。わけもなく殺し、わけもなく殺していた。それがずっと悩みの種で、その行為にいつも意味や価値を見出そうとしていたけれど見つかることはなく、自分で自分の心の一切が分からなかった。
 それを救ってくれたのだ。恨めしい、楽しい、悲しい、そんな些細な理由などどうでもよかったのだ。理由もなく殺し、理由もなく殺す。それでいいのではないか。私こそが正しいのだ。歓喜に胸が打ち震え、私はその日からいっそう殺人に(刺突音)少女は殺人鬼であるべきだ。
 首に刺さったナイフ。塗り替えられる意志。首を掴まれる。血液は容易く引火性のそれに書き換えられ、火花を持って豪炎が内腑を駆け巡った。
 口、目、鼻、下腹部。体中の毛穴から炎が吹き荒れる。骨は炭化し、蔵物は炭化し、皮膚は炭化し、炭は塵となって脆く崩れた。
 その少女だったもの。殺人鬼だったもの。Dダッシュと呼ばれる予定であったものは物語が始まる前に絶命し、順列のナンバリングから永久に消し去られた。
「ごめんねぇ。予定が前倒しなのよ」
 殺人鬼を殺した殺人者が笑う。
「順番通りなら貴女の番なのだけど、譲ってもらえないかしら。ほら、私って忙しいから……ねえ聴いてる? ああもう、死んだならそう言ってよ。たかが燃え尽きた程度でだらしない」
 理不尽を言う。塵は風に乗って消え去り、もう彼女であったものはどこにもない。
「聴いてるかしら預言者。聴いていたならばこの先を書き換えて今すぐ彼らがここに来るのかしら」
 どこかに向けてそれは言う。
「どうしよう。貴方達のせいで私は女子高生じゃなくなってしまったの。ねえ、どうしたら良いと思う?」
 笑っている。笑っている。楽しく無さそうに、悲しく無さそうに笑っている。
「だからもう一度やってみましょう。なにがどうしてか分からないけれど、どうしてかそうすればいいような気がするのよ」
 理由にならない理由を持って、届いているかもわからない挑戦状を叩きつける。年齢と性別だけを根本に殺人する殺人鬼。
 彼女は今間違いなく、少女だから殺人を犯している。

●預言者の技法
「プランBの出現場所がわかったの」
 揃ったリベリスタ達を前に予知の少女は言う。
 プランB。かつてアークで捜索し、討伐隊を差し向けた殺人鬼の名前である。血液に引火性を付与する特異能力を持ち、独自の哲学を持って殺人を繰り返していた。
 待ち伏せたリベリスタを発火した少女。死体隠蔽に長け、以降続いていたであろう彼女の殺人は、しかし発覚しないために一切が認知されず野放しになっていた。
「わざと私達に見つかるように動いている、そんな感じだった……気をつけて。彼女は私達を知っている。そういうものがあることを知っているのだから、前よりも脅威として見るべきなの」
 それでもやることは変わらない。打倒。打倒だ。これ以上あの危険な予備計画を野放しにしてはならない。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月28日(木)21:55
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。
『嘔吐システム』で登場した殺人鬼、プランBの再来です。
彼女は既にリベリスタというものがいることを知っており、それでもなお殺し合うべく行動を起こしました。
次に取り逃せばどれだけの生命が人知れず失われるかわかりません。
彼女を打倒し、この先に起こりうる悲劇を食い止めてください。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
神楽坂・斬乃(BNE000072)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
ソードミラージュ
紅涙・りりす(BNE001018)
デュランダル
蘭・羽音(BNE001477)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
クロスイージス
レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)

●延長戦
 殺していて楽しいか。NO。殺していて感じるか。NO。殺しに意味を見出すか。NO。殺しに哲学はあるか。NO。殺した先を想定しているのか。NO。人間が憎いか。NO。人間は矮小か。NO。神はあるか。NO。なんの為に殺すのか。なんの為にも殺さない。どうして殺すのか。少女だから―――

「過日の失態を覆せるとは思ってませんが、これはケジメです……謹んで挑戦を受けるとしましょう」
 源 カイ(BNE000446)が拳を握りしめる。以前に一度、件の殺人鬼と相見えた彼。仲間が焼かれ、無様に敗走した記憶は今も苦くしこりのように胸中へのしかかっている。
「前回の落とし前はしっかりつけないとね……」
『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)も、再戦を前に決意を固めていく。犠牲者の数をもう増やすわけにはいかないのだ。それにしても、少女だから殺人。少女だから殺人ときた。相変わらず、何の理由にもなっていない。
 殺人鬼への辛い記憶で言えば『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)のそれが最も大きい。二度の深傷。全身発火。毛穴から吹き出る炎の悪意は、思い出すだけで嫌な汗が吹き出してくる。次こそ……次こそ。意地と覚悟と、僅かな狂気を込めて。
「いやー清々しい位に殺人鬼ですなー」
 もう何も言うことはないと『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は感嘆する。恨みでもなく、信仰でもなく、炎をあげて殺している。殺して殺して殺してやがる。人に向けられる特異能力。炎症烈火の殺人志向。ベータサンプルに紛うフィクサード。話し合いの予知はない、ならば力で捻じ伏せよう。実に簡単な構図だ。正義の味方としては大変やり易い。
「少女だから、殺人を犯す……?」
 意味が分からない、分かりたくもないと『スターチスの鉤爪』蘭・羽音(BNE001477)は思う。異常人種、異常人格。相打ちでも構わない。絶対にここで倒すのだと決意を込めて。
「少女は殺人鬼であるべき、か……」
 理解が叶わないのはツァイン・ウォーレス(BNE001520)もかわらない。神秘的なものを感じなくもないが、それだけだ。殺人も狂気も延焼も、ここで終りにしよう。
 哲学は暴力の前に無力で。理屈はどれだけ捏ね回しても屁理屈にすぎず。人の本質は極限状態において現れる。理解、共感、同情、協調、誇大作為意志決意感情哀悼憤怒楽観悲哀理性冷静孤独雄大余裕憎悪悪意真摯劣悪狂気悠然にしても同じこと。ならば殺人という技法は相互作用の手段として有効となり、故に少女で殺人鬼なのだと『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)は奮う。
「何が言いたいかっていうとさ。僕は君の事が好きかもしれない」
 それではひとつ、殺し愛。恋愛コミュニケーション。
「さあ、殺人鬼退治だっ」
『神斬りゼノサイド』神楽坂・斬乃(BNE000072)が電鋸を天に翳す。夢にまで現れて、せっかくの招待状。受けないわけにもいくまい。
 恐怖か、覚悟か。殺人のそれを殺人のそれとして。二度目の予備計画が夜闇に沈む。

●延長線
 馬鹿げている、とは思う。自分を捕まえて質問攻めだなんて、それを了承した自分も自分だが。何をしたいのか理解ができない。殺人に目的なんて存在しないのは当たり前じゃないか。目的と手段が入れ替わる前に、目的が行為にすり替っている。少女が殺人鬼である以上、殺人は起こるべくして起こるのだから。

 預言者を知っているというのは、どういうことだろう。
 それは先を見られることを予測するということだ。未来の一部を確定とするということだ。確定のそれをそれとして諦念ではなく経過へと作り替えるということだ。同じくして一寸先の塗り替えを行い合うということだ。
 時間のインベイジョン。今より向こう側を組み上げられることの覚悟は精神を常戦のそれに置換する。
 よって彼らがそこに辿り着いた時。彼女は今まさに宣戦布告を終わらせた直後であり、予知により確定は彼女の望んだ結果であった。この場合、侵略は誰が勝利したのか。
「ああうん、やっぱり来たわね。ビデオメールは届いたかしら」
 それでもここから先は夢にも推奨にも未明である。よって殺し合う。その為に彼女はここにいて、その為に彼らはここにいるのだから。
 炭化した誰かの首が転がる。殺人鬼と呼ばれるべく未来を無計画に侵食された少女。なんでもない脱落者を踏み砕いた軽音が銅鑼の代わりであったのだろう。

●延長千
 そりゃあ財布くらいは頂いているけれど。ほら、もう女子高生じゃなくなったし? 手配書は出てるからそうそうバイトもできないのよ。食べないで生きて行けるわけじゃないんだからさ。ねえ、聴いてるの? 嗚呼もう、どいつもこいつもだらしのない。

 ちきちきちき。
 音。刃が飛び出す音。歯車が組み変わる音。回転音。駆動音。初手、りりすは精神と肉体のギアを上げ、殺人鬼の懐に飛び込んだ。
 突き込んでくるナイフに盾を滑らせてやり過ごす。素直に受けていればそのまま断ち切られてしまいそうだ。
 仲間の攻撃を隙間に、己の剣を潜らせていく。死角に回っているはずなのに、尽くが捌かれ、こちらが引いたタイミングに合わせてナイフを突き出してくるあたりは驚嘆を禁じえない。思い切り上体を後へ。ぎりぎりまで反らせたの功をなした、眼球にコンマ単位で触れた刃先の感触に冷や汗が流れる。仲間へと再び視線を戻す彼女に問いかけてみた。
「プランBって僕の好みじゃないからさ。本名、教えてよ」
 殺人鬼の名前は美しくあるべきだと思うわけで、それが少女ならば尚更に。答えてくれないとは思わなかった。どうしてか、自分の呼びかけには何かが帰ってくる予感がしたのだ。
「×××××―――よ」
 斬撃と殴打の応酬。その最中で会話する程度の声。きっと誰にも聞き取れはしなかったろう、自分だけを除いて。嗚呼、やっぱり綺麗な名前だ。感激を押し殺せず、自然笑顔が溢れる。剣と盾の惨劇の中で。今も殺している。殺し合っている。愛を深めるみたいに。愛を深めるみたいに。

「もう言葉は必要無いってやつかな? 言いたいことがあるなら聞いておくけど」
 斬乃は大振りに、力任せに電鋸を叩きつけた。走る駆動音。唸る稼動音。軌道を逸らされても攻撃をやめない。振る。振り回す。
「えっとじゃあ、ひとつだけ……水着にチェーンソーは、ちょっとセンセーショナル過ぎるわよ」
 殺人のそれを問うたはずが、まるで関係の無い台詞。人殺しなどどうとも思っていないということだろう。
 横に薙がれたナイフに前髪を一束切り裂かれる。気にせずまた大上段からの必殺を狙う。避けられても気にしない。小回りの効いたフォローは味方がしてくれると信じている。ひとりで戦っているのではないのだから、自分の役割はこれでいい。
「どんなに腕が立とうとも、一人でいつまでも戦えると思うなっ」
 思い切りよく、がむしゃらに。ただぶった切る。
「謝りはしない、加減もしない……ここで終りにしてやる!」

 斬乃の屠撃に合わせ、羽音の大剣が空を裂く。左右同時に襲う剛斬を、殺人鬼は刃の隙間に飛ぶことでやり過ごす。横跳びに回転するまま繰り出される小刃。羽音は地に突き立てた巨刀を盾にした。二度の重撃。ナイフから間髪置かず浴びせられた蹴りを動力とし、反転させた大剣を殺人鬼へと振り下ろす。
 斬った。確信を持てるタイミング。しかしプランBの反応速度は羽音の予想を上回り、頬の皮一枚を裂いたに過ぎない。
「何が何でも、やられるわけにはいかない……」
「怖いわねぇ……でも、こっちも負けてはあげられないな―――全員殺す」
 頬から拭われた血液が炎蝶に消える。背を走る悪寒。殺人鬼がその色濃さを増した。沼の底。周囲を取り巻く空気がより粘質のそれへと変貌する。
 殺す、殺す、全員殺す。ともすれば虚勢のような陳腐さ。それでも本物の殺人鬼が口にしたのだから、戦場は屠殺場へ。線上の奥底へ沈んでいくと感じてとれる。
 深呼吸。惑わされるなと自分に言い聞かせた。目の前の少女は今にも先にも変わっちゃいない。
「無意味に振り回される刃なんて、怖くない」
 喉が渇く。

 仲間が刺された矢先、ナイフを持たない左手を伸ばす殺人鬼へと散弾が横薙いだ。飛び散ったそれのうち幾つかは彼女の肌を撫でる。致命には至らぬが、それでいい。傷ついた味方は白兵の距離を離れ、意識を反らせた内に別の仲間が彼女に斬りかかっている。作戦は上手くいった。一撃必殺の全身発火。しかし来ることが分かっていればその初動を潰せばいい。暴走車も数キロ先からであれば怖くないのだ。
「殺し合いだからね、タイミングが有れば当然撃つさ」
 幾許の鍔迫り合い。肩口を切り裂かれた仲間を見やり、今一度と喜平は散弾を放つ。殺人鬼が動いた。
 襲来し、散らばる弾丸から己に当たるものだけを逸らし、打ち落とし、自分の血で気化させている。走りだす殺人鬼。不味いと思う頃には胸へ蹴りが入っていた。
 後へ転がる。息が詰まる。咳き込む。咳き込む。咳き込む。息苦しさを抑えながら見上げれば、彼女がナイフを振り上げている。嗚呼、これはいけない。

 地に双つ盾が突き立つ。
 喜平を襲わんとする刃は、しかしレナーテのそれに弾かれた。防ぐ。塞ぐ。護り続けている。
 構えられた双璧は殺人の殺人たるそれを通さない。後ろに殺意を叶えることを許しはしない。
 斬り捨てられた仲間を思い出す。血液を燃料に、全身を業火に焼かれた仲間を思い出す。生きていたなど奇跡だ。名前も知られずに打ち消された冒頭の少女と同じく、塵は塵に返されてもおかしくはなかった。
 もうあのような事態に陥らせたりするものか。轟炎も雷火も否定してやる。
「今度は絶対誰も倒させやしない」
 盾の隙間を縫い、ナイフが腕に突き刺さる。痛い、痛い。奥歯を噛んで悲鳴は堪え、すぐさま止血を行い奈落の炎を食い止めた。
 
「なぁ、なんで俺達を呼んだんだ? 力を見せ付けたいってタイプにゃ見えないぜアンタ……」
 傷ついた仲間に代わり、ツァインは前に出る。気を抜けば直ぐ様自分を血達磨に変えるであろう応酬。そのどれもが殺意であり、殺意でしかなかった。
「聴いてないの? 何かがどうにかなりそうだったからよ」
 答えになっていない。否、彼女はそう思ってはいないのだろう。何かがどうにかなりそうで、何かをどうにかするためならば狩人をテリトリーに呼んでも構わない。8人全員括り殺しても構いやしない。彼女はそういうものだ。生粋の異邦人だ。太陽の眩しさで殺人し、肉親の命日に逢引するように。少女だから殺人し、少女だから殺人している。モラルがないのではない、倫理が違うだけだ。ロジカルに思考できないのではない。論理が違うだけだ。1+1は殺人で、9×9も殺人だと教科書にあっただけなのだ。
 一切の人間性を放棄しない上で合切の人間味が存在していないだけなのだ。
 ならば理解など叶うものか。彼女が理解できたならば、それは彼女になってしまうではないか。嘔吐の教えを盲信し、嘔吐の悟りを享受してしまうではないか。
 剣を握る。出血した傷を癒す。彼女は異物だ。分かっていたはずなのに、分かることすらできないのだと。狂っている。そう表すことすら一概念の自覚に過ぎない。

 絶死の導火線。殺人鬼の斬撃を、カイは右腕で受け止めた。皮膚が裂かれ、赤いものが飛び散っていく。掴まれる腕。発火……しない。発動しない異能。その遅れた一手に、カイは懇親の一撃を見舞う。オーラの爆発。逃れられないタイミングでの近距離発破。
「お忘れですか、あなたが相手をしているのは只の人間ではない事に?」
 人工皮膚が裂かれようと、その下に肉はない。機械の腕が露呈する。流れでた血液は偽物だ。赤血球、白血球、血小板。どれを変質させているかは知らないが、血液として定義されなければ彼女の能力は働かない。
 咳き込む音、殺人鬼の口から漏れる血。初めて彼女のそれを見たような気がする。同じ色、自分達と同じ色。
 もう一撃、身を奮わすカイは一点に気づいた。殺人鬼は自分の腕から手を離していない。引き剥がすこともできない。
「つーかまーえた」
 にっこりと、笑う。笑っている。その笑顔に、動くことができないでいる。
「肉とは感触が違ったから、変だとは思ったのよ。こんなのもあるのね。全部機械なの? ま、確かめればいいことよね」
 腹に激痛。胸に激痛。左脚は痛みを感じない。肩に激痛。右肢は痛みを感じない。腰に激痛。腹に激痛。
 五月蝿い、五月蝿い。何かが聴こえている。五月蝿い、五月蝿い。意味のない声。意味のない音。五月蝿い、五月蝿い。それが自分の絶叫なのだと、分かっているけど五月蝿くてかなわない。
 何度目か、肉からナイフが抜き取れる音。辛うじて立っていられるのは、悲しくも失った両足のおかげだろうか。
 まだ心は折れない。まだ心は折れていられない。この先を消費したとしても、今心は折れていられない。再度燃やしにかかる彼女の腕に気線が飛来した。刹那に止まる彼女の胸に気の爆裂を押し付ける。二度目の発破。ようやっと彼女の手が自分から離れていった。
 肩で息。荒い。喉が焼けついている。全身が熱い。睨みつける。殺人鬼を強い眼差しで睨みつける。
「……今回は、逃げませんから」

 上手くいった。上手くいった。レイチェルは己の成果に笑みを浮かべる。歪つな笑み、笑顔と恐怖と緊張でぐちゃぐちゃになった歪つな笑み。
 血を炎に変えるタイミング。血液を引火し、人体発火へと移る瞬間。カイが掴まれる寸前、能力を込める寸前、その弾指を見極めることができたのは、経験によるそれであろう。自分は知っているのだから、彼女が人を蒼く燃やす悪意をその身に受けたのだから。
 まだ集中を解いたりはしない。これで彼女が不能になったとは思えない。視線は彼女へ。仇敵のように、片想いのように外すことがない。外すことがなかったのに。
 目の前に顔があった。否、顔であるとすぐさま認識出来るほども放れていない。眼と鼻の先。口づけも食事も可能な距離。
「……お久しぶりです、プランB」
 声が自然と震える。身体も脳もあの時の痛みと恐怖を覚えている。
「うん、久しぶり。火傷、痕とか残ってない?」
 まるで旧知の友人のように語りかけながら、笑いながら殺人鬼は自分を殺しにくるのだ。
 突き出される刃に己の掌を重ねて見せる。貫通する。貫通した。痛い、痛みが脳に訴えかけている。吹出す血流。この殺人鬼の前では鎧を脱ぐにも等しい出血効果。でも大丈夫、自分は知っている。いつ自分が豪炎に包まれるのかを知っている。
 発火にあわせ、未来を消耗する。この先を前借りすることで今を揺さぶり起こす。埋め合わせがいつかくることになろうとも、それを覚悟として現刻を自分で浸食する。
 インベイジョン。時間の奪い合い。もうレイチェルの血は流れておらず、ならば殺意のそれは己を燃やしきれず、故に殺人鬼の物語はここで幕を下ろす。
 神気閃光。懇親のショックパルス。刹那のミスを悠久の虚無に塗り替える。最早彼女に先はない。ナイフを引きぬいて、後に下がる。殺人鬼が己を取り戻すよりも早く、誰も彼もの刃が彼女に突き刺さった。

●ロスタイム
 少女だから殺人を犯している。何故。少女は殺人鬼であるべきだから。何故。何故。何故。それ以降を考えたことはない。そんなものだ。疑問を抱くほうがおかしい。1の次は2であるのだと誰が疑う。コンマを構えて気取ろうとそれは詭弁に過ぎない。並べられた林檎は欠けていようが食われていようが1としか数えられない。だから自分は殺人鬼なのだ。殺人鬼であったのだ。少女が殺人鬼である以上、自分はそうであることに一切の疑問はなく。だから私は殺して殺した。殺して殺して殺して殺したのだ。

 殺人鬼は動かない。多方から突き立った刃の群れは彼女にこれ以上の殺人を許さない。血を吐く。血を流し続けている。
「……本当に、少女は優しく可憐であってほしいものです」
「優しく可憐、もいいけど。それ以上に殺人鬼でなくちゃ」
 彼女は笑っている。この期に及んでまだここが日常みたいに笑っている。
「さようならプランB、この答えで満足でしたか?」
「ごめんね、言ってる意味がわからないの」
 本当に申し訳なさそうに、殺人鬼は答えを返す。質量が重力を生むことの理由を問われたみたいに。根本にあるシステムを誰もが解明できるわけではないのだというように。
 また血を吐いた。もう数分で彼女は倒れ、拘束され、アークに引き取られるのだろう。誰が見ても戦闘不能。だからこそ彼女は行動した。
 指先が濡れている、血に塗れている。血は彼女を包み、内腑に至るまで流れ続けている。彼女は引火付与者であり、殺人鬼。正しく最後まで殺人で終わる殺人鬼。これまでのどれよりも殺意が濃度を増し、火花が散った。
 発火。発火。燃えている、彼女が燃えている。
「ばいばい」
 友達みたいに手を振って、寂しく見える笑顔でもって、殺人鬼は炭に塵に消えていく。燃え尽きて、燃え尽きて。

 彼女であったものがなくなって。からんと、アスファルトにそれが落ちた。花束よりも、殺人鬼には似合うだろう。
 了。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
延長線、終了。