●凪聖四郎について 探偵・浅海柚子が知っているのは凪聖四郎という男が『逆凪』の分家筋であるということだ。 いや、ルーツを辿れば、彼も逆凪本家の三男であり、養子に出されたのであったか……。 神秘というものをこよなく愛し、探求する魔術師タイプであるらしく、その活動は幅広い。 いやはや、この浅海としても、凪聖四郎という男は不思議極まりない。 まず、凪聖四郎には恋人がいるらしい。『六道の兇姫』こと六道紫杏は凪聖四郎が倫敦へと訪れた際に出会った遠距離恋愛の相手だということだ。 そして、凪聖四郎は『ハーオスの魔術師』というロシアの魔術集団たちを子飼いにおいていたという。彼らの目的は『混沌の使者』と呼ばれるアザーバイドの召喚だ。 惜しくも、これは『アーク』という組織に阻まれてしまうのだが―― 「こそこそ嗅ぎまわるだなんて、悪いお方ですネ」 わざとらしい笑みを浮かべた女が浅海柚子の後ろには立っていた。 探偵ごっこをしたリベリスタ。彼女の真後ろに立っていたリクルートスーツの女は、厚化粧で作り上げた『美貌』を歪めて笑っている。 「で、浅海サン、何をお調べになられたんですカ? 続きドウゾー」 ――彼女は逆凪の……いや、『直刃』の誰花トオコだろう。 『直刃(すぐは)』とは凪聖四郎が新たに立ち上げたフィクサードの組織。小さな集団だ。 寄せ集めの集団は逆凪とは言えず、統制がとれているのかも不明な状態だ。 プリンス――皮肉ってそう呼ばれる凪が何を企んでいるのかを私、浅海柚子は突き止めようと……。 ● 「――……とのことらしいんだけど」 どこか困ったように告げる『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)にリベリスタたちも困惑を浮かべている。世恋が流していたビデオを切り、モニターに静寂を取り戻した所で、ようやく平和が戻ったようだった。 「彼女、浅海柚子、探偵で、リベリスタね。そんでもって、一緒に居たのは逆凪の――いいえ、凪聖四郎の『直刃』に所属する誰花トオコという名前のフィクサードね」 資料を捲りながら淡々と告げる世恋は「お願いしたいことがあるの」とリベリスタを見まわした。 「あのおバカさん、何やら凪のアーティファクトを一つ盗み出してきたとかどうとか。 アーティファクトの名前は『君が為の紫羅欄花』。形状は、ペアリング」 「ええと?」 「六道紫杏とのペアリングね。彼女が作った物で、相互的な作用があるらしいわ」 どうしてそんな物を盗み出したのかと聞きたくもなるが。 浅海という女は探偵と名乗るものの『名探偵』というよりも『迷探偵』といった性質であるらしい。 彼女が盗み出したアーティファクトへの対応お願いしたいと世恋は申し訳なさそうに頭を下げる。 「お願いしたいのは『浅海柚子』の生存保証よ。あのおバカ探偵はどうやら凪聖四郎について調べてるみたい。 彼が今後何を企んでいるかを掴んだ様子、というのも聞いてるわ。 ただ、偏屈な乙女で職業探偵なので情報を離させるにしても色々と小細工が必要かもしれないけれど」 此方から取引を掛けなければならないかもしれないと苦笑を一つ。 リベリスタはリベリスタでもアークに所属して居ない彼女にとってアークは大口の取引相手にしか過ぎないのだろう。 「で、まあ、柚子は今、『直刃』の面々と鬼ごっこ中。 逃げ回ってる場所は林の中。この林の中を全力で抜けきって欲しいのです。 彼女とフィクサードの距離は10m程度しかないわ。急行することで彼女との間に割りこめると思う」 全力で逃げて来てね、と世恋は一生懸命にリベリスタを励ました。 視線をうろつかせて、モニターに映し出した男の顔を見詰めては「……厄介な男ね」と溜め息を吐き出しながら。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月20日(日)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 『彼女』――継澤イナミがこの場に居るのも盗まれたものが凪聖四郎にとって『大切なもの』であったからに過ぎない。 木々の擦れる音がする。荒い息が聞こえ靴底が砂を蹴る。震える足に力を込めて女は一人、林の中を駆けていく。 「盗まれるとか『プリンス』は腑抜けてたんですかネェ」 「さあ? 何か考えてそうではありますが」 フィクサードの声は『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)の耳にハッキリと聞こえて居た。木の葉を踏みしめる音、日の差しこみ難い大地は何処かぬかるんでいるようで土を抉るような音も聞こえる。 (……聖四郎さんの事、わたしもあんまりしらないんだよねぇ) ぽそりと零した旭が仲間を誘導し、真っ直ぐに前を見据えた。リベリスタの中で誰よりも動くのが速かった『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)が虚ろな瞳に何処か楽しみを浮かべ、唇から牙を覗かせる。会いたかった――そう『直刃』の面々にまでも伝言を頼んだ相手が其処には居る。相対した時に零した彼女の言葉は未だに頭の中を廻っているようだ。 「いなみん、前に言ってた言葉は変わらない? 小生が好きになると大概死ぬんだ。君は死なない?」 「この身が尽き果てる時は今では無い。私はそう知って居ます。あなたも物好きだ」 くつくつと喉を鳴らし、唇を歪ませるイナミにいりすはにぃと唇を歪めた。真っ向から仕掛ける様に滑り込むいりすの背後では目を見開き足を止め掛ける女が存在している。 「君が浅海君か。指輪、持っているのだろう?」 洒落たモノクルで暗闇を見通す『閃刃斬魔』蜂須賀 朔(BNE004313)が電鞘抜刀を手に滑り込む。彼女の声を受けた浅海柚子が怯えた瞳で頷けば、朔は何処か呆れた様な、ソレで居て大事な任務を受けてきたといった神妙な面立ちのままイナミや誰花トオコといったフィクサードを見据えている。 「聞いているのだろう、凪君。君に伝言を預かってきた。『指輪大事にしろよ! 馬鹿!』だそうだ」 「『やれやれ、彼は俺の指輪がよほど大事なんだね』等と挑発的な事を言ってますが」 厭世の櫻と名付けた日本刀を手にイナミは呆れたように通信機越しの『プリンス』の言葉を伝えている。どうやら通信機器は接続状態が常時続いているようだ。 「伝言だけ伝えにきたとしてはやけに騒々しいですガ! いなみん、如何思います?」 「そう思わずともイナミさん……いえ、依浪さん、誰花さん、そして直刃の方々。此処から先――」 セインディールを構えた『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の瞳は常と変らぬ色を湛えている。蒼銀の靡く髪を揺らしたリセリアを見詰めてイナミの表情がゆっくりと歪んでいく。 「――唯で通れるとは思わない事です」 その言葉に自身とフィクサードの間に『壁』となった面々が凪聖四郎との知己であるだけでは無く、自身を助けに来たのだと柚子はハッキリと理解する。 「浅海柚子さん、だよね。たすけにきたよ」 ゆっくりと微笑んだ旭にほっと胸を撫で下ろす柚子。だが、背を向ける旭は柚子を護る心算は無いらしい。魔力鉄甲に包まれた指先は真っ直ぐにフィクサードを捉えんとしている。 「探偵君。理由は分からないが、一旦は協力させて貰おう。ここは抑えさせて頂く。だから指示に従ってはくれないか」 双鉄扇を握りふわりと浮き上がった『Innocent Judge』十凪 律(BNE004602)はその名の通り『律する』為にこの場所に訪れたのだろう。十を凪ぐ者である律は『逆凪ぐ』者を許せない、その信念が彼女の胸にあったのだろう。 「一人を多数で……とは。暴漢の様に見える。その行いは律するに値するね」 「ははぁーん、美人さん揃いで驚きですヨ?」 「可愛いだけじゃないのです。けど面倒くさい奴ほど良く働くというのは全く……」 その『面倒くさい奴』へと銃の照準を合わせた『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は未だぐずぐずとしている柚子の尻を叩く様にエナーシアが発したのはその愛らしいかんばせからは想像つかぬ言葉を吐き出した。 「あらあら御同輩、お元気でせう? アークの方から参った者よ。 この場はケツ持つから一旦撒くのだわ。此処を凌いだ後も別部隊を避ける為の案内をしたいのでこの場所で待ち合わせ出来るかしら?」 「……べ、別働隊」 「良いからソレ読んでさっさと行くのだわ」 後衛位置に存在するエナーシアの言葉に取り逃がすかと前線へと飛びかからんとするフィクサードを『炎髪灼眼』片霧 焔(BNE004174)は受け止めてにっこりと微笑んで見せた。 「早速で悪いけれど、私達と遊んでもらいましょう」 ● 『銀騎士』ノエル・ファイニング(BNE003301)がConvictioを構えて浅い息を吐き出した。 何ともまあ、緊張感に欠けるロケーションだ。狙われているのは一人のリベリスタ、しかも職業は『探偵』だという。それを追っているのは『直刃』の幹部たちというのだからどうにも『漫才』の様にも思える。 「……討つべきは討ち、拾うべきは拾いましょう」 ゆっくりと告げたノエルの声と同時、真っ直ぐと後方――旭の指し示すエナーシアのメモの通りに逃げ出す柚子。味方から一歩下がった場所で自身にて破壊の神の如き戦気を纏ったノエルがじ、と相手の出方を伺っている。 「アッ、逃げましたヨー! 追って下さい! 早く!」 「いやいや、小生達を抜けて貰わなくては。どうかしらん? 遊ぶのはお嫌い?」 無銘の太刀がひゅん、と振るわれ光の飛沫が煌めいた。受け止めた直刃のフィクサードが仰け反れば、一気に攻め立てる様に朔が唇に笑みを浮かべて前進していく。いりすが「いなみん」と親しみを込めて呼ぶ彼女を目的とした朔の動きにイナミも気付いたのか真っ正面から剣を撃ち合わす。 電流が流れるが如き、肉体をもっと早くと動かす朔の切っ先はイナミへと真っ直ぐに叩き付けられる。受け止めた、イナミの掌にびりびりと痺れが走る。 「先程の伝言で義理は果たした。後は私の好きにやらせて貰おう。 私がここに何しに来たかわかるだろう? 継澤君。『閃刃斬魔』、推して参る」 「ええ、これほどまでに『恋焦がれ』てくれる相手など早々居ませんからね」 茶化す様に微笑んだイナミの表情は『女』のソレだ。性別を感じさせなかった『彼女』はあくまで性を隠していたのだろう。だが、ソレすらも必要ない。自身と真っ向から闘ってくる相手が居るならば当人とて全力でぶつかると決めて居たのだろう。 「『蒼銀』、『閃刃斬魔』、それに『龍』になったあなた。私はとても満たされていますよ」 楽しげに微笑む女の細腕が朔の切っ先を受け止める傍ら、前線へと飛び出すリセリアがノエルが標的と目指す相手を狙いセインディールを振るった。ちらり、とノーマーク状態であったトオコへと視線を向ければ、華奢な身体を滑り込ませ幼さを滲ませる表情に全力の楽しみを見出す様に笑みを浮かべた焔が顔を出す。 「私の炎で燃やし尽くしてあげる」 乙女の拳に乗せたのは炎だ。その腕が振り翳され周囲を薙ぎ払う様に炎は広まっていく。少女の体が逸らされ、トオコの拳が焔の頬を掠めた。やけに赤いルージュが目に付いて、焔がにぃ、と微笑んでいる。 「実力者が相手であるほど燃えるでしょ?」 「それは同意しまぁス。勿論、燃えあがる事間違いなしですからネェ」 くつくつと笑うトオコにイナミ。進むべきを塞がんとするリベリスタ達の中で出し抜こうと動くフィクサードを後衛位置から見据えるエナーシアが的確に撃ちとっていく。身体を反転させるように、位置を変え、女性だらけといった布陣の中でも目立つ金髪を揺らして居る。 「直刃――日本刀の波紋かな。真っ直ぐの刃が向けられる先を律するとしようか」 双鉄扇が振るわれる。飛び上がった律はその背の翼だけでは無く持ち前のバランス感覚を発揮して、林の中という状況でも自由に行動できるのが律の強みであろう。前線へと突出し、抜けだそうとするフィクサードを抑えた上で彼女が放つ雷撃の武舞。可憐な動きに巻き込まれ、フィクサードが一歩後退した所へとノエルが踏み込み槍でその身を貫いた。 「此度は一気呵成――そう決めておりますので」 「攻めていきましょう。我々も前のめりでしかありませんから」 リセリアとノエルの攻撃が直刃のフィクサードへと大打撃であった事は分かり易い。ダメージディーラーであるノエルを抑えるべく攻撃を振るう人間はこの場には存在して居ないのだ。 「私ね、一撃一撃に全てを注ぐって決めてるの。話しを聞くとかそういうのって柄じゃないし誰かに任せるわ。 私は全てをぶつけられる今――そう、貴女を楽しみたい。それだけッ!」 「フフッ、面白い子ですネ」 好きですよと囁くトオコに焔が小さく笑う。継続していく戦闘の中、楽しいという様にいりすが唇を歪めて、前線へと特攻していく。地面を蹴り、木々を足場に攻撃を行ういりすの多角的な攻撃を受けとめながらフィクサードの回復手が懸命に戦線を継続させるの一手を乱していく。 「凪ぷりは茫洋としてそうだが、相手に破界器を盗まれるようなタイプにゃ見えんし。意味があるのか無いのか。『3兄弟』だかの中で一番面白そうだ」 「――」 「上の二人の『底』は、確かに深そうだが。何となく見える。が、この凪ぷりは深いのか浅いのか。よう解らん」 ぶつぶつと呟くいりすの言葉に一人のフィクサードが瞬きを続ける。『彼』が持つ凪聖四郎との通信機器。もしもソレが手に入れられるなら、話す事も出来るだろう。 「デートの御約束を取りつけんとな」 お伝えしましょうと言わんばかりに笑うフィクサードを見据えつつエナーシアが一気に『彼』へと攻撃を行っていく。凪聖四郎への連絡経路。確保を行うのは重要な行いだ。 「おっとー、君、ソレぶっ壊してくださいなー! アークに取られたとかになったら五月蠅いでショ?」 エナーシアが小さく舌打ちを零し、攻め立てる様に前線の崩壊を狙っていたノエルとリセリアがフィクサードへと視線を送る。 継続する戦闘の中、何処か別の空間で闘う様に攻撃を続けて居た金色の瞳は恍惚の色に濡れて居た。 「君と戦うのも久しぶりだな。あの時よりは強くなったぞ」 君に逢いたかった、君と語りたかった。語りたい言葉全ては『君』が目の前に居ると忘れてしまう。 手にした刃で全てを語り合えばそれで良い。否――それが良い。 「そろそろ見せてはくれないか。それとも相手が私では不服か?」 見たかったのは誇りだった。全力の攻撃をその身で受け止めたい。 「君の『円環の花』を」 「ええ、お見せしましょう」 揺らめく妖気にぶつけられるのは花を散らさんばかりの突風。五分五分であった彼女等の間にできた一手。真っ直ぐに剣を振るうイナミの切っ先から生み出されたソレが真空の刃となって突き刺さっていく。 「私はあなたを相手ととって、満足している。実に、けれど今は時間が惜しい」 じゃり、と踏みしめた砂が音を立てた。 「誰花君、凪の彼の先に何を求めて居るんだい? その真っ直ぐな刃の如き信念の核を」 教えてはくれないか。焔の攻撃を真っ正面から受け止め、お気に入りのスーツの裾が破れた事に些か不機嫌そうにしていた女がにぃ、と唇を歪める。彼女に興味を持っていた律だが、食えない相手は矢張り食えない。 「私も『凪』の名を冠する者だ。その刃を律してみせるよ。だからこそ、興味がある」 「そういうのは楽しみで有れば良い。一種の賭けですヨ。株取引みたいなもの。夢を見たくなったんデス」 『ターゲット』はもう林の外であろうか、リベリスタ達が身を挺して止めた甲斐もあってかフィクサード達との猛攻は収まりつつある。 無論、正面からの攻撃となってはどちらも消耗が激しかったのだが、朔とイナミの方へと視線を送ったトオコはさも司令官は自分であるといった風に両手を撃ち鳴らし「お開きとしましょうか」と笑って見せた。 「お楽しみの中悪いですけど、いなみんも一度は膝を折る事になりましたからこの辺りでしょう。残念ながら、ワタシ達はここいらで終いとしましょうネ」 帰りましょうとイナミへと視線を送るトオコに朔が浴びせる一太刀を受け止め、頬にべったりと付いた血を拭ったイナミが剣を納める。 「……あの指輪を盗まれるとは、迂闊に過ぎる話しです。わざと、なら戯れにすぎますけど……」 「わざと、かもしれませんけれどね。何にせよ、プリンスは『遊び』が大好きですから」 呆れ半分に告げるイナみに「依浪さんも大変ですね」とリセリアは肩を竦める。去る背中を見詰めながら朔は剣を仕舞い『次』に剣を合わせる機会を楽しみにしていると牙を覗かせ笑った。 ● 「嘘付いて御免ね。別働隊とか、そういうのは無いんだけど……依頼人さんは聖四郎さんの何を知りたいの?」 分かる事なら話すから、と旭が問いかければ柚子は未だ浅い息を漏らしたまま「シークレットです」とそっぽを向く。助けてもらったのにいけしゃあしゃあと。そんな気持ちが無い訳ではないが咳払い一つして律が「探偵か……ね」と興味深そうにつぶやいた。 律からすれば探偵は『自らの命を賭し情報を持ち帰る稼業』であり、己の身を挺してでもクライアントへと情報を差し出す事は十分に良い物であると理解できる。確かに助かる『駒』ではあるのだが―― 「相手が悪すぎる気がするね。……浅海君、クライアントは君に子の指輪をとる様に指示したのかい?」 「いいえ、私のクライアントは凪聖四郎についての調査をせよ、と。指輪は置いてあったので」 とりましたと悪びれずに言う女にリセリアは「わざとでしょうか」と小さく呟いた。 「何にせよ、此方の方がPrinceとの付き合いは長いからね。紫杏との顛末、判明してる直刃の陣容、所持アーティファクトなど出せる情報は色々あるのだわ」 「……何が、目当てです?」 じ、と見詰める柚子にエナーシアが肩を竦める。やけに疑い深い探偵は助けて貰った恩すらないのかと思わせる程には警戒しているようだ。 「こっちの勝手もあったとは言え、貴女を助けたのは事実よね? ソレに釣り合うだけの情報、私達に話して貰えると嬉しいんだけど」 「クライアントはとあるリベリスタ。理由は寄せ集め集団の『直刃』の統制が如何ほどかって事。 わざとらしいわよね、むかつくわ。この指輪も情報も見える場所に置いてあったの」 頬を膨らませる柚子ではあるが、話しを促す様に焔が進めればやけに渋る。仕方なしと朔が深いため息をついて手を差し出した。 「探偵の君に依頼しよう。依頼内容は凪聖四郎及び直刃の情報、又、奴等は何をしようとしてるかだ」 「お代を頂きたいと言う所だけど、生憎赤い子が言った通り助けられたのは私だもの。 ……彼、今後の目的は『直刃』の存在を知らしめて、ある場所でパフォーマンスを行うことよ。 予定は狂ってしまうかもしれない。世界ってのは中々面白くできて居てね。凪聖四郎って男も其れなりに利口なのよ」 自分の目的を違えないからこそ『情報を柚子に見せた』とでも言うのか。食えない男だとノエルが肩を竦め、リセリアも溜め息をつく。 「まだまだ先は長いのだわ。Win-Winと参りませう、御同輩。 パフォーマンスって言うのはどういう物を指し示すのです?」 「フィクサードだもの。大方、悪事だと思うけれど。……そうじゃないとおびき出せないじゃない」 『アーク』を、と囁く言葉にエナーシアが首を傾げる。 凪聖四郎という男がアーティファクトを目的とし、神秘界隈に精通している事は良く分かっていた。男自体の目的が『七派を統一』せんとすることも分かっている。その手段として『直刃』という組織を作り上げ、後には兄に反旗を翻し、勝利を収めんとしている事は十分に理解して居る。 「……詰まる所、Princeは『直刃』を大きくして、此方にその力を見せつけたいとでも言うのです?」 「勿論。ああ、やっぱり恋人さんが絡むんじゃない? 彼女の欲しかった三ッ池公園をプレゼントとする――とか」 まあ、分からないけれどと肩を竦める柚子に有難うと小さく礼を良い、考え込むようなそぶりでエナーシアは俯いた。 もう良いでしょうとその場から去ろうとする柚子は居心地が悪そうに身体を揺すっている。救われたと言っても探偵稼業の女は口が軽くなる自分に気付いたのだろう。慌てて口を抑え「帰るわよ」とリベリスタへと背を向けた。 「あ、あのね、その指輪、恋人同士で対でつけると効力があるペアリングの片割れなの。 恋人さんが危険になるほど回復力が増すの、それは絆だからかな……壊す事が出来ない」 アーティファクトの効果だよと告げる旭にぽかんと口を開ける柚子。そっと手を差し出しては旭は「かえして」とハッキリと告げた。 「恋人さんからの大切な贈り物なの。恋する女の子が、大好きな男のひとに贈ったものなの。 好きって、大事な気持ちだよね? だから、お願い。探偵じゃなくて、女の子の柚子さんにお願いしたい」 どうかしらと告げる旭に戸惑った様に視線を揺れ動かす柚子。助け船を出す様にいりすが肩を竦めて「何にせよ」と笑った。 「想い出は大切だ。それがどんな奴でも。だから返してやれ」 「……じゃあ、任せるわ。わ、私はこの辺りで……!」 良いかしらと旭の掌に転がす指輪。『君が為の紫羅欄花』は旭の掌で小さくきらめきを放っていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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