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<Reconquista>Kampfgruppe Totenkopf

●夢の跡先
「馬鹿……な……」
 ごとんと、手にした自動小銃を取り落とす。
 太田重工埼玉工場。それを漸く見下ろせる山道の中腹。
 眼前に展開された過程と結末に、それを瞳を見開く様に凝視していた巨漢が思わずと呟いた。
「……有り得ん……これは、どういう」
 どういう事だと、問い駆ける。その先。
 普段であれば即座に返るだろう応えは無く、無個性を煮詰めた様な男が軍帽を深く下ろしていた。
「――――ッ!!!」
 それを視界に入れ、灼熱した脳内が一つの答を導く前に拳を振るう。
 渾身の勢いで殴られた男が吹き飛ばされて路上に転がると、巨漢は荒ぶる感情のままに猛る。
 咆哮する様に、暴風雨の如き問いを所構わず投げ付ける。
「どういうことだッ! 何故ッ! 何故猟犬が敗れている! 何故拠点が壊滅している!
 少佐と中尉は何をしているのだ! あの球体は何だ! 答えろカアアアァァァ――ル!!」
 そんな物分かる筈も無い。一体誰が予想しただろう。
 彼らの上官であるリヒャルトとクリスティナがアークに敗れ去る等と。
 『鉄十字猟犬』と称されていた物の主体が意志を持つ破界器であった等と。
 そして、その破界器すらも失われる等と言う――猟犬らにとっては最悪と言える結末を。
「……アイゼンベルク准尉」
 いや。強いて言うならば、この場にはその内2つまでを予期していた男が居た。
 クリスティナの動向が“おかしい”事に。
 そしてアークと言う組織の錬度が彼らの想像を上回って優れている事に。
 場合によっては、猟犬の檻をすら食い破り得る事に、気付いていた男が居た。
 即ち、殴られた男。『狂犬番』カール・ブロックマイアーが静かに視線を上向ける。
 その瞳に、眼差しに、沈殿した澱の様に燻る火を幻視し、巨漢。
 『鉄錆雷光』ヴェンツェル・アイゼンベルクがそれを睨み返す。
 こんな表情をする男だったろうか。胸中に抱いた怪訝はけれど、荒れ狂う感情に押し流され。

「何故だッ! どうしてこうなった! どうしてこんな事になったのだッ!
 我々優秀なるアーリア人が極東の猿共に!? 有り得ん! 我らに敗北など有り得ん筈だろう!」
 異名の如く鳴り響く雷の様な轟声に、編成して来た“アイゼンベルク小隊”の面々が呼気を吐く。
「准尉、今直ぐ工場防衛に配備されていた各隊の生存者を確認し、部隊を編成し直すべきです」
 けれど、そこは『狂犬番』も慣れた物だ。淡々と、極力感情を廃しその場での最適解を陳情する。
 “暴君”であるヴェンツェルに道理を説いても仕方が無い。
 そして幸いと言うべきか、彼らには十分過ぎるほどの余力が有った。
 三ツ池公園防衛戦、敗北を予期したカールはその敗残兵を回収し部隊として再編している。
 それはアイゼンベルク小隊以外に更に2小隊を編成出来る規模だ。
 公園防衛の責任者であった筈のアルトマイヤー少尉は無線で生存が確認出来ている。
 ならば、芽は有る。
「何を……いや、そうか。つまり逆撃仕掛けるのだな!
 そうだ! アーリア人に敗北は無い! 例えここで一敗地に塗れ様と最後には必ず――」
 ヴェンツェルの言を余所に、カールは考える。再起が計れるかと問われたなら不可能だ。
 求心力であったリヒャルトとクリスティナのMIA(生死不明)はそれ程に致命的と言える。
 戦略的敗北は明らかだ。けれどならば、一矢報いる事は出来ないか。
 カール・ブロックマイアーは忠犬である。
 その命をリヒャルトに救われたその日から、ただ彼の野望の為だけに生きて来た。
 惜しむ命など当に無い。何時如何なる時であろうと命を捨てられる。
 けれど、その忠誠の先は喪われた。どうしようも無い程決定的に。
 彼は、間に合わなかった。
 この期に及んで生存を期待するほど、カールは理想主義でも楽観主義でも無い。
 であるなら、どうするか。答えは1つしか浮かばない。
(せめて――あの方が求めたアーリア人の勝利を)

 彼の主より与えられた唯一の武器。胸元に隠した破界器を握り締める。
 bis bald(何れ、また)の砂時計。ならば願わくば華々しき戦果と共に。

●亡霊へ手向ける刃
「皆さんお集まり頂きありがとうございます。『猟犬』の残党が動き始めました」
 はっきりと焦りを滲ませる声音は『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)には珍しい。
 けれどモニターに映し出されたそれは、声音以上に状況の厳しさを表していた。
「いえ、これはもう『猟犬』とは呼べないのかもしれません」
 そこに映されているのは夜間の街道を真っ直ぐに行軍してくる軍隊だ。
 これまでに無く数が多い、そしてその一糸乱れぬ動きには何所か非人間的な気配を感じる。
 万華鏡の演算がその気配に説明を付ける。それらは全て、須らく“ノーフェイス”であると。
「決戦以後、残存する親衛隊の一派と共に身を潜めていたアルトマイヤー少尉、
 及び親衛隊の一部が動き出しました。目的は不明ながら――この部隊に関してははっきりしています」
 モニターが切り替わる。映し出される2人の人物の顔。
 それはアークと三度矛先を交え、尚生還を果たした古強者の軍人達である。
「『鉄錆雷光』ヴェンツェル・アイゼンベルク、及び『狂犬番』カール・ブロックマイアー
 その傘下、アイゼンベルク小隊に三ツ池公園を脱出した敗残兵を含む総勢12名。
 彼らの作戦目標は、太田重工埼玉工場跡の奪還です」
 言葉と共に、三度モニターが切り替わる。
 それは戦場の光景だった。渇望の書が散々暴れた後だ、既にまともな工場設備は崩壊している。
 しかし、続け様の魔神王の襲来だ。障害物の撤去までは済んでいない。
 そして何より其処には残骸とは言え“革醒新兵器”の残滓が今も残されている。
「アークからも、4名が現地に派遣されていました。ただ……」
 あくまで、警備目的。一般人が迷い込まない様に、程度の備えでしかない。
 その上で更に重ねて、対峙する物が“悪過ぎた”と言えるだろう。
「『猟犬』達は未知の破界器の効果により、大幅な戦力増強を果たしている模様です。
 恐らく――保有している運命の祝福を全て代償として捧げる類の」

 一瞬ぽかりと静寂が空いた。それが人間を辞める事であると。
 そしてそれが和泉の焦りの根幹であると。誰が気付かない物か。
 事象よりも雄弁に、真実よりも事実として身に沁みて理解出来ている。それが革醒者ならば。
 あくまで原則論ではあるが、破界器の効力は代償の大きさと比例する。
 大凡致命的な代償を負う破界器には相応の爆発力を持つ物が多い。
 悪名高いW.Pシリーズを例に挙げるでも無く、絶望は深い方が毀れる闇は色濃い物。
 祝福全てを費やして局地的な力を引き出そうとするなら、それは命を燃やし力を引き出すに等しい。
 対峙して、ただで済む筈が無い。
「放置しておけばフェイズ進行の危険性が有る以上、破界器の効果が切れるまで待つ。
 と言う訳にもいきません……ここで、討ちます」
 提示された資料に描かれた識別名。そこにはドイツを代表する神話の英雄の銘が踊っている。
 画面内の戦況は悪いの一言だ。そもノーフェイス12体等同数のリベリスタでも手に余るだろう。
 しかしこれは、幸か不幸か“このままなら訪れる未来”に過ぎない。
 既に破界器を用いている以上万華鏡はこれを見逃さない。
 初動に限れば、アークの方がなお早い。このアドバンテージ、生かさない手は無い。
「時代遅れの亡霊達に、終戦を刻みましょう」
 力強い和泉の言葉がリベリスタ達の背を押し出す。
 敵は強大、敗戦処理と侮る無かれ手負いの、それも死に物狂いをもう一歩逸脱した魔犬の群だ。
 僅かな油断、気の緩みが。或いは覚悟の不足が死を招く事は疑いも無い。
 それは死せる戦士たちの凱歌か、それとも亡霊へ捧ぐ鎮魂歌か。
 アークと猟犬四度目の。そして恐らく――――最後の戦いが、始まる。

●死せる戦場の戦士たち
「祝福を、糧に……か」
 アルトマイヤーがそれの使用を解禁した時、アイゼンベルクは確かに一歩退いた。
 命が惜しい訳ではない。そんな物が惜しくて軍人などしていられない。
 しかし、自ら命を捨てるのは違う。それは敗北主義者のする事だ。
 大日本帝国に曰く、カミカゼ。馬鹿馬鹿しい、唾棄すべき惰弱だ。
 そんな事だからこの国は堕落した。死すべき戦いなど無い。有るのは生きる為の戦いのみ。
 だが。
「アイゼンベルク准尉、御指示通り退役を求める兵達に解散を命じました。
 しかし、良かったのですか?」
 だが、場に残った10名。その誰一人としてそれの使用を厭わなかった。
 これは敗戦を覆す為の戦いだ。アーリア人の優越を証明する為の戦いだ。
 かつて失われた、至上最悪の独裁政権と冒涜された鉄十字の誇りを取り戻す為の、戦いだ。
 それを敗北で済ませて良いのか。それを運命等と片付けて良いのか。
 否。断じて否だ。使える物は何であれ全て使わなくてはならない。
 そして部下達が固めている覚悟を、上官である己が棄却など出来る物か。
 愚にも付かぬ意地だろう。切って捨てるは容易い決断だろう。
 しかしヴェンツェル・アイゼンベルクは“暴君”である。一度決めたなら退く事は無い。
「ふん、あの痴れ者共ならば何処かでいじましくも命を繋ぐだろう。
 我らこそは一兵で千の車両にも勝る不死の軍勢よ! 端から弱卒など不要ッ!」
 上官からの命令は『総員、好きにやりたまえ』のただ一つ。
 アイゼンベルク小隊の、そして敗残兵の処分は全て彼に委ねられた。
 覚悟無き兵など盾にもならない。強行軍になる。いっそ切り捨てた方が士気が保つ。
 そしてこの戦いは、生き延びた者こそが胸に燻る誇りと共にきっと語り継ぐだろう。
 なら、それでいい。

「先ずは奪われた拠点を取り戻す。兵器の確保と補修が完了次第、アーク本部に牙を立てる!
 行くぞカァァァァァル! 世の糞蟲共に我等こそが大戦最強の軍である事を証明するッ!!」  
 それは狂犬達の最期の意地。
 退路を持たず髑髏を背負う、命脈全てをかなぐり捨てたKampfgruppe Totenkopf
「Jowohl! Herr Stabsfeldwebel! Sieg Heil Viktoria!」
「「「「「「   Jowohl! Sieg Heil Viktoria!!!!!!   」」」」」」
 鉄錆と硝煙の香りを纏わせて、鉄の猟犬達が動き出す。
 ――唯一度の勝利を、彼らの信じる『鉄十字猟犬』の墓標とする為に。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年10月18日(金)23:39
 92度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 ゆる募:地獄を味わいたい方。命知らずの戦場へようこそ。

●作戦成功条件
 敵の全滅

●エインヘリャル・ミリテーア
 過去『猟犬』系のシナリオで登場した、
 最適化システム、絶対復讐システム等のシステム系アーティファクトの原典。
 対象に大きな力を与える事が可能だが代償にフェイトを全損する。 形状不明。

 このアーティファクトの対象者は全員がノーフェイスになると同時に
 以下の付与効果を受ける(ブレイク不可)。
1.対象は全ステータスが恒常的に上昇する。
2.対象はHPが30%以下になる事で命中と回避が大きく上昇する。

●『鉄錆雷光』ヴェンツェル・アイゼンベルク
 初出シナリオ:<鉄十字猟犬>Minen falle
 階級は准尉。WW2からの残留組。短金髪の巨漢。
 優良人種たるアーリア人が世界を管理運営する事が世界平和の為。 
 と、真っ向切って信じこんでいる典型的第三帝国軍人。口が悪く脳筋。
 ノーフェイス化によりスキルを失うもそれに類似した神秘を用いる。

 攻撃手段はハニーコムガトリングタイプ
 アルティメットキャノンタイプ、EX鉄錆雷光の3種類。常時[BS無効]。

・EX鉄錆雷光
 神遠複、高命中、中ダメージ、状態異常[ショック][雷陣]

●『狂犬番』カール・ブロックマイアー
 初出シナリオ:<鉄十字猟犬>Minen falle
 階級は上級曹長。WW2からの残留組。凡庸な顔の黒髪の男。
 リヒャルトに拾われた恩を返す為に従軍していたレイザータクト。
 『猟犬』には余り多く無い戦略視点で物を考える理系軍人。
 『鉄十字猟犬』に勝利を捧げる為死に物狂いで悪足掻きする忠犬。
 ノーフェイス化によりスキルを失うもそれに類似した神秘を用いる。
 
 攻撃手段はシャイニングウィザードタイプ
 ファントムレイザータイプ、アサシンズインサイトタイプの3種類。
 常時EXPビスバルトの砂塵結界を使用している。

・EXPビスバルトの砂塵結界
 『狂犬番』の所有する砂時計を基点としたEXP
 半径200m圏内で回復スキル、状態異常回復スキルが使用された場合、
 該当スキルと同量のEPを消費する事でスキルの効果の発揮を遅延させることが出来る。
 遅延するターンは1~3ターンの間でランダムで選ばれる。
 この効果はビスバルトの砂塵結界の所有者が戦闘可能である限り永続する。

・死者の軍勢×10
 『親衛隊』の正規メンバー。ノーフェイス。
 デュランダルタイプ×2、クロスイージスタイプ×2
 マグメイガスタイプ×2、ホーリーメイガスタイプ×2
 スターサジタリータイプ×1、プロアデプトタイプ×1
 ランク2までのスキルとLv30スキルに相当する攻撃手段を
 各人それぞれが計2種類まで有しており、錬度は高い。但し付与スキルは無い。
 全員がエインヘリャル・ミリテーアの効果を受けている。

●リベリスタ警備隊
 拠点警備に回されていた主力メンバー以外の4名のリベリスタ達。
 デュランダル1名、覇界闘士1名、ダークナイト2名。
 参加者との関係性は、深過ぎない範囲で自由。最低限顔と名前は一致する程度。
 各人Lv15制限までの中級スキルは網羅しており、指示があればその様に動く。

●戦闘予定地
 大田重工埼玉工場・製造工場跡地、正門前。
 工場跡地内には仮設テントとリベリスタ警備隊が滞在中。
 正門を突破された場合、工場内に障害物は無数。

 正門を突破される前か後、いずれで到着するか選択可。
 突破前に到着する場合、事前付与不可。工場外の荒地で交戦する事になる。
 突破後に到着する場合、事前付与可。更に交戦前の1ターン自由に行動可能。
 時間帯は夜。工場外に光源は無く、工場内各所にはライトが灯っている。
 足場の良さは場所によりまちまち。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 また、敵の作戦成功条件は“拠点内のリベリスタの全滅”です。
 予め御了承下さい。


参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
インヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
スターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)
ソードミラージュ
鷲峰 クロト(BNE004319)

●Deutschland uber alles
 憶えているか。あの声を。餓えと困窮の中確かに齎された奥歯を噛み締めるほどの感動を。
 祖国を讃える誇らしげな人々の歓声を。誰もが顔を赤くして拳を振り上げ快哉を上げた。
 勝利を。勝利を。勝利を。貧困に誇りすら穢された皆が、空を仰ぎ強く強く求めたのだ。
 生まれ育った土地だ。嫌いたかった訳が無い。愛していたに決まっている。
 それが唯一度の敗戦で壊された。喪われた。踏みつけにされた。
 お前達の信じて来た物は最悪だと叩き付けられたのだ。取り戻す為にはもう勝利しか無かった。
 何故戦うのか。愛すればこそだ。国を、家族を、仲間達を。彼らに誇りを与えたかった。
 胸の中に燦然と輝く灯火を、我々こそが気高きアーリア人であると。ただ、その為にのみ戦った。
 戦った。戦った。戦い続けた。戦い抜いた。勝利を。勝利を。勝利を――
 ――そして、今もまた。
 秋の夜風が吹き抜ける。深くは知らぬ極東の大地であれ戦の前の高揚に何の違いが有る物か。
「後悔など、有る筈も無い。さあカール、蹂躙するぞ!」
「Jowohl Herr Stabsfeldwebel!」
 Flore in salutis luce Tu, Germana patria.
 誇れ、その名を。世界に冠する我等が祖国を。その御旗に全てを賭けた、我等が半生を。
 誰恥じる所無く謀る事無く、力無き同胞達の為、同胞たる兄弟達と共に直向きに戦場を駆けた事を。
 我等は猟犬。鉄十字の下侵略する祝福燃やす燎原の火。この命脈の焼き切れるまで止まりはしない。

 願わくば、響け祖国に。命を捧ぐに相応しい愛しき人々に。
 『鉄錆雷光』は生涯唯の一度として、他の何者にも前線を預けなどしなかった。

●Brettspiel eines Torhund
「聞きたくない単語だ、親衛隊なんて」
 『友の血に濡れて』霧島 俊介(BNE000082)が小さく。けれどはっきりとそう呟いた。
 光源の乏しい工場付近は田舎の夜よりは多少明るいと言う程度。
 暗視を持つ俊介からすればその闇は視界を遮る物ではないが、その夜風に混じった鉄錆の香り。
 それまでも消せる物ではない。『猟犬』との戦いで、誰が逝ったか。どれだけ死んだか。
 俊介の掌から毀れていった命を、憶えている。忘れる事なんてきっともう、出来ない。
「全く……随分らしくない感じで来たじゃないか」
 苛立ちを憶えた様に。けれどその言葉程には感情を乱される事無く、
 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が思わずと言った風に溢す。
 彼とて、俊介と同じ。いや、それを言うならこの場に居る実に過半数が“そう”だ。
 手を伸ばし、守り抜こうとして、失敗した。かつての猟犬を――『鉄錆雷光』を知る者だ。
 であればこそ、胸に抱く感情は複雑極まる。例えその行為を認めようと単純に肯定など出来ない。
 けれど肯定出来ずとも、胸の奥に何かを感じずにはいられない。それに名前を付けるのは難しい。
 強いて言うならばそれは熱だ。燻るように燃える篝火だ。伊達や酔狂で、人の心に火は灯らない。
「なかなか、面白い匂いがするな」
 すん、と鼻を鳴らした『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)
 其処に浮かぶ表情は、酷く単純だ。単純で有るからこそ、それは一つの答を示していた。
 薄く貼り付く興味の色。かつて家畜以下と罵った“犬”の悪足掻きに一定の評価を下す。
 それは如何にも傲慢と言えようか、いや。むしろそれこそがいりすの根幹だ。
 その身は何時でも獲物を求め餓えている。喰い殺すに足る獣は神秘界隈にも多いとは言い難い。

 相応の覚悟を、決意を、或いは矜持を、全身全霊で以って示す様な極上の獲物は尚少ない。
 その上で、背に髑髏を掲げた『猟犬達』を指し、及第点だといりすは嘯く。
 それは漸く“狩る価値が有る”と認めたと言う事。そして同時に――
「……俺より大馬鹿だと言ってやりてーが、覚悟は認めてやるよ」
 鷲峰 クロト(BNE004319)が強く強く拳を握る。そう、彼らは認めさせたのだ。
 猟犬の長、『鉄十字猟犬』をすら討ったアークのリベリスタ達に、その意地と覚悟を行動で以って。
 悔しくも僅かな賞賛を彼が送れるのは、その性格の真っ直ぐさ故か。
 いや、それだけではあるまい。脳裏にほんの僅か過ぎる――名も知らぬ“誰か”。
 失れた記憶の変わりに宿した何かが騒ぐのだ。ここで全力を出さねば何所で出すのかと。
「彼等は元より敗北を受け入れられずに亡霊となった敗残兵。
 在るべきものが在るべき姿に……“第三帝国の亡霊”に戻っただけ」
 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が漏らした声は、その内容に反し何所か静謐を帯びて響く。
 彼女の存在の原点こそが、その戦いに在る。狂気の中で氷璃は目覚め、その運命に抗うと決めた。
 それは愛する姉妹達の為に。そしてその中で生き残った己の為にだ。
 であればこそ、『猟犬』達の在り様は他人事では決してない。
 視界の先、鉄十字の刻まれた軍服を纏った人影が見える。
 隊伍を組み武器を構え、月明かりに浮かび上がるその姿はなるほど“亡霊”と言う名に相応しい。
「方舟の守り手、ツァイン・ウォーレスと御厨・夏栖斗だ! 残党狩りに来たぜ、敗残兵ども!」
 やり様によっては奇襲を仕掛ける事も出来たろう。
 けれど『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)は敢えて声を掛ける。

「ふん、やはり来たか『アーク』……いや、来ぬ筈が無い。貴様らが我々を、妨げぬ筈が無いか」
 勝手に人の名前を拝借している辺りが竜一らしいと言えばらしくはあろう。
 けれどもしも彼自身の名前を告げたとて、『猟犬』らの反応は変わるまい。
 相手が誰かを知った事で濃密さを増すのは殺意のみ。名声の高さに怖気付く者など居はしない。
 それは彼も、そして対する巨漢も分かっている。何せ勝とうが、敗けようが、これが最後だ。
 そしてこの瞬間――対峙の一瞬を除けば言葉を交わす余裕などいずれも無くなるだろう事を。
「遺言は残して来た様だな」
 軍人の本懐に従うなら、敵と語を交わす等愚の骨頂。その時間分一刻も早く殺し合うべきだ。
 故に、ヴェンツェル・アイゼンベルクがそれに応じたのは奇跡的な気紛れだと言えた。
 例え当人に誰が問い掛け様と、それを敬意だ等と認めはしないだろうから――
「髑髏の戦闘団か。てめぇらこそ死ぬ気満々じゃねぇか。人間辞めて生きるための戦いだ?」
 『覇界闘士<アンブレイカブル>』 御厨・夏栖斗(BNE000004)が揶揄する様に口元を緩ませる。
 その視線は苛烈と言う程に厳しい。睨み付けるも同然に、受ける『鉄錆雷光』も、また。
「ふざけんな、てめーらは敗残兵だ。この戦いで得るものなんてない」
 普段の彼ならば、こんな言葉は例え想っても口にしなかったろう。
 だが『猟犬』に対してだけは、閉ざしておけない理由が有った。言わねばならない由縁が有った。
 それを因縁だ等と称したくは無い。けれど。けれど――その一点だけは譲れない。
「……ふ、ハハハ、ハ――ッハハハハハハッ! 何だその屠殺場の豚の様な面構えはッ!
 それが勝者の優越か? 無様! 無様ッ! 無様ッッ! 何だ、この戦争で想い人でも亡くしたか!」
 しかし“人殺しのプロフェッショナル”はその感傷を嘲笑う。
 理解など出来まい、方舟と猟犬、両者の間に横たわる断絶は其処までに絶対的だ。
 重ねた時間、殺した人間の数、そして生まれ育った環境。どれもこれも余りに違い過ぎる。

「てめぇ……」
 不敵に笑むヴェンツェルを睨む夏栖斗の眼差しは火が点きそうな程の熱を宿す。
 そう、対話でどうにかなるなら世話は無い。相手は軍人であり、過去の人間であり、何よりも。
「満足させろとは言わんが、失望だけはさせるなよ」
「吼えるだけの獣風情が嗤わせるッ! 貴様らこそ、せめて骨位は残して見せろ――ッ!!」
 彼らは既に“死兵”なのだ。今を生きる彼らに心から解せる事は何一つ無い。
 いりすの声に応じる咆哮と共に構えられた銃口は10。2つが後背に向けらている。
 例え拠点攻略が目的で有ったとて、挟撃を許すほど『猟犬』は馬鹿ではないか。
 しかしそれは同時にリベリスタ達が選びとったアドバンテージだ。
 “拠点側”に兵力が在る事が明らかである以上。そしてその総戦力が未知数である以上――
 『猟犬』達はその全力を応対したリベリスタだけに割く事は出来ない。
 それを見て、眺め、満足そうに。花が咲く様に。闘争狂いの戦姫が綻ぶ様に笑みを描いた。
「久しぶり……だね」
『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』 星川・天乃(BNE000016)にとって、待ち望んだ戦争だ。
 止まる必要は無い。辞める必要も無い。行き着く所まで行き着いた戦争狂達との命のやり取り。
 確かに引かれた死線が見える。その途上に立つ如何にも無個性な黒い影が見える。
 その影――カール口元が薄く笑んだのが、確かに見える。
「“勇気と蛮勇の違いをご存知ですか、お嬢さん”」
 いつか投げられたその言葉を、憶えている。だからこそ天乃も、まるで約束の様にこう応える。
「さぁ……続きを、踊ってくれる?」
「撃てェ――――――ッ!!」
 火蓋は切って、落とされた。

●Der letzte Kampfgruppe
“良いか、今は待機だ。敵の増援があるかもしれない、まずは拠点防備を続けてくれ! 頼む!”
 『てるてる坊主』 焦燥院“Buddha”フツ(BNE001054)の声は良く響く。
 伊達に仲間内で作った新進気鋭バンドBoZのボーカルを務めている訳ではないと言う事か。
 任務の合間に地道に積み上げたボイストレーニングの結果として、
 幻想纏いより響いた言葉を聞き間違えた者は誰一人居なかった。警備隊の4人が顔を見合わせる。
「って言ってるけど……どうするよ」
「どうするよって、いや、どうするよ」
“出番は私達、が潰し合って、から…また、力を貸して。きっとそれが、鍵になる”
 続いた天乃の声に、怯えた様な声が被さる。
「こないだの見たでしょ。行っても何も出来ず殺されるのがオチだって!」
「死にたく、ないな……」
 唇を噛み締め、絞る様に漏れた声。それが結局の所本音だ。
 『アーク』に所属する以上、何時でも死ぬ覚悟は出来ている……何て。
 それが建前である事を彼ら、彼女らは以前駆け抜けた銃弾の森で思い知る以上に思い知った。
 多少の経験など無意味だった。まるで次元の違う戦いが其処には在った。
 かつてアークが“ロンドンの都市伝説”と初めて対した時以上の絶望が、其処には横たわっていた。
「様子を見よう。それでもし、もし危なそうだったら――」
 危なそうだったら、どうするのか。続く声は無い。
「……大丈夫だって、御厨さんに、結城兄に、フツさんだろ? これだけ居て敗けたら誰も……」
 誰も勝てない。この場に居る4人では手も足も出ない。そうだろう。そうに違いないだろう。
 だから、例えば逃げてしまったって、誰も、文句など、言えないだろう。
 自虐的に、自分達は脇役だ。モブリスタだ。等と笑っていたって、死ぬのは、恐い。
 それなのに――
「――――でも、さ」
 それなのに。

「ちょいと前菜を食わにゃならんか、面倒ではあるが……まあいい」
「行くぜ――あんたらが命を賭けるってなら、こっちだって全力だっ!」
 進み出た4体。大剣を携えたデュランダルタイプと、盾と小銃で武装したクロスイージスタイプ。
 その内から前者を選んでいりすとクロトが殺到する。
 ソードミラージュにしては破格といって良い命中精度を誇る両者だ。
 光亡の斬撃と氷結の双刃。鋼鉄と冷気が交差して1体の『猟犬』が動きを止める。
「無能な上官を持つと部下は苦労するものね」
 “好きにやり給え”そんな物は命令とは呼べない。脳裏を過ぎった狙撃手の残像に嘆息する。
 暗視ゴーグル(ノクトビジョン)のスイッチを入れ、展開された若干薄暗い世界。
 翼をはためかせた氷璃の視線が前衛として立ち塞がる4体を順繰り辿る。
 その奥に巨漢、視線さえ通れば組み立てた術式は全てを黒で塗り潰すべく旋律を奏でる。
「さぁ、在りし日の戦争に終止符を打ちましょう」
 濁流の如く、放たれた血を媒体とした鎖が前衛陣に絡み付く。それは彼女なりの手向けか。
 終わりを奏でる葬操曲の第一楽章。
「……悪い、けど先に、楽しませて……もらう、よ」
 その最中を天乃が軽やかに駆ける。動きが止まったクロスイージスを擦り抜け敵前衛陣の中央へと。
 両手で編みんだ気糸が切り刻まれて凍り付いたデュランダルの全方位を囲い込む。
「楽しい楽しい、闘争の宴、を始めよう」
 声と共に引き絞られた気糸の結界の狭間から、赤い命の水が爆ぜるように噴き出して行く。
「ハッハァ――残念、こっちは通行止めだっ!」
 一方で、余りに偏り過ぎた前衛の攻撃は自然と隊列の崩壊を促す。
 其処を突いて動こうとしたダメージの無い側のデュランダルを、此方は竜一ががっちりと抑え込む。
 邪魔な彼を排除せんとばかりに放たれた一撃は、恐らくデッドオアアライブがベースか。
 力任せの一撃を宝剣と膂力で無理矢理に弾く。肩が脱臼しそうな衝撃を――痛みを食い縛り、凌ぎ切る。
「一人も、逃す気は、ねえ」
 ぎらりと睨むその眼差しに、普段のゆるい空気は欠片も感じられはしない。

「この戦い、神に捧げるには勿体無ぇ! 始めようぜ猪ヴェンツェル! 俺達だけの戦争を!」
「偶像に祈る等とうに止めたわッ! 来い方舟の騎士! 貴様らの我ら猟犬の餌にしてやろうッ!!」
 振り被ったツァインの片手剣を無骨な自動小銃が弾き、直ぐ様にその照準を合わせる。
 その動きには呆れる程に無駄が無い。一体どれだけを戦いに費やしどれだけ人を殺せばこうなるか。
 いや、強いて言えばノーフェイスであるにも関わらず武器を用いるのが無駄と言えば無駄では有ったか。
 爆ぜる様な轟音と共に 初手から放たれる血色の雷撃。
 盾で受けるツァインが、それでも尚一歩後ろに下がらせられる。
「ああ、そうだ! どーせやるならアンタみたいな奴がいい!!」
 雷と言う表現では到底足りない圧倒的暴威。密集するエネルギーがその余力を否応無く削る。
 力と守りの真っ向勝負。けれど、ツァインは笑む。余計な事を考える余地も、必要も無い。
 相手は今自分に対して全身全霊をぶつけている。ならば、それで、十分過ぎる。
「前はボロ負けだったよな、あれから僕も強くなった。もう一回胸を貸してくれや!」 
 同様に雷に体躯を貫かれながら夏栖斗が踏み込む。一撃が重い。それは既に射撃と言う規模ですらない。
 革醒者が操る神秘の一歩先を行く逸脱者の業。継戦能力に長ける彼で有っても決して無視は出来ない。
「ふん、一端の兵の目付きになったではないかッ! そうだ! 戦え!
 護りたいならば戦えッ! 生きたいならば戦えッ! 喪いたく無いのならば――戦えェェェ――ッ!」
 だが、かつての一対一で敗北した相手に無様を見せられるか。出来ない。これは男の意地と言う奴だ。
 踵を振り上げ放った襲撃が、ヴェンツェル共々後背のプロアデプトを撃ち抜く。
「こっちだって伊達や酔狂で命張ってきた訳じゃないんだ。そっちがその気なら」
 漂う焦げた鉄錆の香り。明滅し続ける赤雷。それが、欠片の油断も余力も残さぬ“全開”だと分かる。
 でなければ。ここまでの威力は出せまい。迸った雷光の威力は七海の矢を一回り以上上回る。
 悔しく無いわけが無い。射撃手として、弓射る者として。負けを認めるなど出来ない。
 だが同時に思わず笑いが毀れる。ここまでされたら否が応にも認めざるを得ない。
 死しても勝利を掴みたいか。其処までして勝ちたいか。弓を引き絞る。弦が切れるギリギリまで――

「なあメリケン。こちらも相応……いやそれ以上で歓迎しようじゃないか!」
 放たれた雷神は昨今最上級の会心の一矢。轟いた雷鳴が七海の瞳を逆光で照らす。
 そうだ、勝ちたい。この暴君に――自分は勝ちたいのだと。
「全魔術兵砲撃準備」
 その後方。後衛である所の『狂犬番』は淡々と盤面を辿る。
 前衛と、そしてヴェンツェル。案の定、彼らはこの5名に完全に引きつけられている。
 それは『猟犬』が精兵であると言う証左であり、同時にアークの戦術眼が優れていた事を意味する。
 これ以上を求めていたら戦線が瓦解するだろうギリギリの一線を彼らは守っている。強敵だ。
 カールの目からしても文句無しに、そして異存無しに、全力を尽くすに足る、“仇”だ。
「よぉ、カール!! 今日こそ我慢比べの決戦しようじゃねーか!」
 そしてそれは、彼に対して声をかける赤い髪の吸血鬼にも言える。
「懲りませんね、君も」
「うっせえ! 先に音を上げたほうが負けなんだかんな!
 そっちも強化してきたみたいだが、俺も前の俺だと思うなよっ!!」
 砂塵が逆巻く。俊介が力を借りようとしている高位存在。その密度が以前とは段違いに“濃い”
 だが、彼らは運命の祝福全てを捧げてこの場に立っているのだ。
 神に捧げた祈りなどで。そんな、何の役にも立たなかった代物で戦線を揺るがす訳にはいかない。
「良いでしょう……魔術兵、砲撃開始!」
 神の奇跡を砂時計の呪いが強制的に抑え込む。砂塵結界の内部から聖なる祈りは余りに遠い。
 マグメイガス、ホーリーメイガスタイプの両猟犬が、黒い旋律と白い審判を天から地から奏で合う。
「――来い、朱雀!!」
 そこに割り込むのは深緋の雀。呼びかけた男の携える魔槍が主の願いに煌々と光を放つ。
 彼が費やし重ねた時間。槍に宿った少女にも分かるのだろう。ここは死地である事が。
 であればこそ、彼女と彼の絆は深い。やっと出逢えた担い手を、奪わせなどしないと――

「これぞ焦燥院が最秘奥――飛翔(はば)たけ!」 
 翼をはためかせた灼熱の鳥が黒と白で彩られた戦場を駆け抜ける。
 焼き払われた猟犬達と蝕まれたリベリスタ達。互いに痛み分けながら、けれど何れも譲らない。

●Soldaten werfen Eisen Blitzen
 それは消耗戦だった。 
 泥沼の、と言う冠詞が必要が無い程に、加速度的に被害が増加していく言葉違わぬ真っ向勝負。
 其処には策も、罠も、仕込みも、入り込む余地は無い。
 何故なら猟犬、方舟、そのどちらもがそんな物を、一切望みなどしなかったのだから。
「くそっ、タフ過ぎるな」
「ハッ、上等だ。俺はまだまだいけるっ!」
 全身に焦げ跡と鎖の跡を付け、血を流しながらフツが魔槍を竜一が宝剣を揮い合う。
 火力を集中して一気に数を減らしていく。常套手段とも言えるその戦術は凡そ正しかった。
 しかし問題は、クロスイージスを逐一剥がそうとした事だ。
 近接距離に在るならば、例えブロックが成立していてもかばう事は出来る。
 これを阻害する心算であるならば、ノックバックで引き離すか状態異常で抑え込むかしかない。
 フツと竜一、2人は極めて高い精度の攻撃でこれを達成し続けた。戦術的には予定通りだ。
 が――これによって必然的に前衛全体にダメージが広く分散する。
「さすがに、強い……ね」
 手応えが弱い。掠めただけか。天乃が思わず瞳を細める。
 初手よりいりす、クロト、天乃らが叩き続けたデュランダル。
 そして夏栖斗が蹴り続け七海がトドメを刺したプロアデプトの2体を倒した段階で、
 クロスイージス2体が揃って体力30%を切った。氷璃が漸くエネミースキャンで確認した頃には、既に。
 其処からだ。前に進まなくなったのは。
「ハ――ハハハハッ! 分かるか! これが戦争だッ! これが闘争の地獄だッッ!!」
 回避の跳ね上がったクロスイージスの堅さは想像を絶していた。
 氷璃が堕天落しを試みようにも、それを放てば前衛をまともに巻き込む。連携が不完全だ。
 其処に来て毎ターン降り注ぐ赤い雷がリベリスタ達の回避精度を大きく削って行く。
 上乗せされる葬送曲と裁きの光が全体の体力を確実に殺ぐ。既に余力の半分を超える者など――

「……地獄? 生憎と、小生は其処から帰ってきたんでな」
「こんなもんで、折れてやれるかよっ! まだ! まだ! まだだっ!!」
 いりす、クロト、僅かに2名のみ。
 ホーリーメイガスに張り付いたクロスイージスにはノックバックも稀にしか通じない。
 止む無く余力を削り、削る。血色のナイフと無銘の太刀。翼を冠す双短剣を揮って削って抉り抜く。
「はっ……はっ……くそ、底無しかっ!」
「……いや、大した物だと、思いますよ。正直」
 カールと俊介、その静かな我慢比べも半ばを超えている。
 お互い疲労の色が濃い物の、総精神力と言う点で勝っているのは恐らく『狂犬番』。
 流石に1対1で相対するには分が悪過ぎる、か。
「お前さんも半端じゃないぜ、でもな――」
 だが、しかしだ。それは対しているのが1人であればの話。
「見えたぜ、底が」
 ツァインの放つ神々の黄昏の銘を持つ聖なる加護、ラグナロク。
 状態異常を掻き消す性質を持つ以上、その効力は砂時計の呪いに見事に引っかかる。
 機械仕掛けの神と黄昏の加護、2つを遅延させ続けるのはさしもの『狂犬番』でも手に余る。
「なるほど……では、攻め手を変えましょう」
 そんな声がぽつりと落ちたか。高速詠唱と共に日傘を動かした氷璃が腕を切り裂かれ気付く。
 戦場に転移させられた不可視の刃。仲間である筈のクロスイージスごと巻き込むファントムレイザー。
 勝ちを得る為なら仲間を巻き込む事も厭わない。味方の被害より敵の被害の方が多いと割り切る。
 感情に左右されない『狂犬番』の論理。アークには中々無い物だ。
「貴方の様なのが一番厄介なのよ」
「それはお互い様では」
 返答は再度奏でられる葬送曲と、漆黒の鎖と共に。

 けれど、総合として言うならばこの時点で分は『猟犬』達に在った。
 リベリスタ達は押していた。間違いも無く攻める側に在った。
 両者の戦力が拮抗していたなら、彼らは卒無く。そして程無く勝利を得ていただろう。
 或いは多少なりと敵の方が優位で有った所で、彼らはそれを覆して見せただろう。
 しかし地力に於いて祝福を“消化”した猟犬達ははっきりと『アーク』を上回る。内でも――
「ふざけんな、何が地獄だ! フェーズが進めばその意思もなくなる。
 精神と意志がなくなった時が「人間」の死だ。運命捨てて得るものなんて自己満足じゃねえか!」
「それがどうしたッ! 自己が命に満足せずに生きて何が生かッ!
 我等は取り戻す、祖国の誇りを! 仲間達の誇りを! それ取り戻す事こそが我らの全てだッ!!」
 幾度目か。銃口が赤く輝く。鉄錆の香りと共に全てを焼き尽くす赤い雷。
 『鉄錆雷光』の存在は余りに大きい。戦場の勝敗を唯一人で強引に引き寄せる存在感。
 これが“暴君”の全力かと思えば、それを抑えるツァインと夏栖斗は毎瞬間命懸けだ。
「そうでなくっちゃな! 来いよヴェンツェル!」
 爆ぜる、貫かれる、余力が更に削られる。圧倒的火力こそ前線に有り続け生還し続けた事実の証明。
 漸く届く様になったデウス・エクス・マキナを相殺する“爆雷”に、血反吐すらも蒸発する。
「――っ」
「駄目。まだ、踊り……たりない」
 その一撃で氷璃と天乃が揃って膝を付く。運命を削って地を掻き、立ち上がる。
 前衛であるヴェンツェルはその射程にほぼ全員を納めている。
 内でも回避に劣る天乃、七海、氷璃、俊介の4人が被る害は甚大だ。
 状態異常では止まらない。そして極端な高火力であると言う2点に於いて、
 彼ほどの後衛キラーは居ない。味方の攻撃が届く以上は『鉄錆雷光』の攻撃も届くのだから。
 それはリベリスタらの盲点である。本来、これ以上ノックバックさせるべき敵も居なかったろう。 
 
「お前らってさ、俺達に勝って……その先って考えてないんだろ」
 雷に体躯を焼かれ、俊介とて余力は殆ど無い。
 恐らく、次に葬送曲が奏でられれば運命の恩寵に頼らざるを得まい。
 そうなれば崖っぷちだ。だからこそ、その問いを投げられるのはこの瞬間しか無かった。
「ええ、そうです」
 当たり前である様に『狂犬番』が首肯する。カールにとって、それは終わりと同義だ。
 そこが、終点で良い。それ以上先を何も求めていない。報復――復讐、か。
 御門違い、筋違い、或いは八つ当たりに等しいそれで有ったとしても、理解出来ない訳ではない。
 そして一方通行の、ゴールを定めた全力の短距離走。それを押さえ込もうと言うのだ。
 生半可で、成る訳が無い。強い筈だ。立ち塞がる筈だ。その覚悟を一体誰が侮れるだろう。
「そっか、分かった」
 だから、覚悟を決めた。
「らしくないなあ……全く」
 嘆息と共に、遺志を括った。
「ああ。あいつらが命懸けなら――俺も命賭けねえとな」
 そう、例えば生きてこの戦場を出られなくとも。
「生憎と。此方も惜しむモノなど何もない」
 この亡霊は、この戦争は。
「貴方達が“運命に抗い続けた”事――その矜持だけは決して忘れはしないわ」
 ここで終わらせ無くてはならないのだと。
「半端じゃ駄目だ……コイツの最期には、でっけー敗北をくれてやる」
 退路など無い。撤退条件すら、無い。
「ここが勝負どころだな」
「ああ。行くぜ、相棒」
 視線を交え愛用の武器を其々に構える。

「勝つために足掻くことを忘れた時こそが本当の敗北だ」
 だから、足掻こう。限界まで。
「我闘う、故に我は在り」
「来い、方舟の戦士共――ッ!!」
 剣戟と剣戟が交差し、旋律と旋律が響き合い、銃声と風切り音、轟雷が全てを呑み込んでいく。

●Der Welt fur Sie
 ――連絡が、来た。
 掠れた、痛みに耐える様に罅割れたそれに、警備隊の4人は凍り付いた様に動きを止める。
“敵は……相当消耗してる”
 先と同じ人間の声とは思えない。数分で一気に年老いた様だ。声と声の間に混ざる呼気は荒い。
“まず第一に死ぬな。第二に時間を稼げ。”
 幻想纏いの向こう側から、別の声が響く。疲労か、苦痛か、声が濁っている。
 戦況がどうなっているのか、テントの周囲で待機していた彼らには分からない。
 けれど、間違いなく言える事が有る。苦戦している。有名な、彼らの大先輩であるリベリスタ達が。
「お、おい……」
 声が震える。何が起きているのかは分からない。けれど、恐い。
 戦いだ。それも、先の銃弾の森に勝るとも先ず劣る事は無い規模の。
 共にアークに入った同期とも言える仲間が、まるで木っ端の如くあっさりと死んだ。
 仲が良かった者、悪かった者を問わず、関係無く。生き残ったのは、偶々だ。
“頼む……出てきて一緒に戦ってくれ”
 その言葉に、愕然とする。
 全て、終わると思っていた。信じていた。何事も無く、何をするでも無く。
 幾つもの難事のこなした、尊敬すべき英雄達だ。今回も、きっと。そんな事を――
「ど、どうすんだよ!」
「一緒にって、言ってるよ!?」
 けれど、そうではなかった。そうでは、無かったのだ。
“でも、忘れるなよ。生き残る事がお前たちの勝利条件だ”
 彼らは生きろと言う。彼らは一緒に戦ってくれと言う。けれど、生き残れる気などまるでしない。

 戦えば、死ぬだろう。あっさりと、どうしようも無く。誰の記憶に残るでも無く。
 ああ、そうだ。あいつも、あの子も、彼女だってそうだった。
 銃弾の雨に降られ蜂の巣の様になって死んだのだ。葬儀の棺には何も入っていなかった。
 嫌だ。恐い。死ぬのは嫌だ。生き延びたい。生き残りたい。
 それなのに――
「……逃げちゃ、駄目かな」
 ぽつりと、隣で声が毀れた。其方へ視線を動かし、両目を瞑る。
 駄目だろうか。生きる為に逃げては駄目なのだろうか。リベリスタは其処までしなくちゃ駄目なのか。
 答など出ない。幾ら問いかけても、幾度問い質しても、自分の中から答など出てこない。
「畜生……逃げたいよ、死にたく、無いよ」
「馬鹿、言うなよそう言う事……!」
 英雄ではない。ただの革醒者は容易く死ぬ。けれど、その想いは変わらない。
 弱いならば、弱いなりに。儚いならば、儚いなりに。彼らは精一杯生きている。
“重いもん、背負ってんだよ……負けられるか!”
 幻想纏いから、声が漏れる。切るのを忘れたか、一体誰の声だろう。
“俺は気に入ってるこの居場所(セカイ)を守って見せる!”
 そうだ。最初はそうだった。きっと、一番最初はそんな気持ちだった。
 得た力で、何かが出来ると思ったのだ。誰かが守れると思ったのだ。世界が救えると、思ったのだ。
 壁に当たって、躓いて。人を羨んで、落ち込んで、失敗して。何時しか忘れていた。
 誰かがやってくれる。だから良いや。そう思って、一体どれだけの物を捨てて来たろう。
 一体何度、自分に嘘を吐いて来たろう。諦めて、切り捨てて来たろう。

「――でも、さ。それで、本当に良いのか?」
 それが、自分達の戦いなんだって、胸を張って言えるのか。
 我が闘争(ジンセイ)に悔い無しと、死ぬ瞬間誰かに向かって誇れるのか。
“皆一緒に帰ってまた騒ごうぜ”
 その言葉は、一体誰の物だったか。忘れていない。忘れる事など出来ない、何時かの夕暮れ。
「……お前らさ、本当馬鹿だよ」
 憶えているか。一番最初のその想いを。一歩目を踏み出したその瞬間を。
 世界はもっと優しいのだと、信じていられたあの頃を。それを守る為に――戦えるか。

●Hor ich das Liedchen Klingen
「くそっ、くそっ! アーティファクトごときに負けてたまるかぁぁぁっ!」
 咆哮と共に、俊介の持つ西洋剣より放たれる大いなる力の顕現。癒しの光を砂塵は妨げない。
 余力がもう然程無いのだろう。長期戦になるにつれその頻度は落ちて来ている。
 しかし、時折発生する遅延が戦況を致命的に悪化させる。
 氷璃、天乃が倒れ、七海とフツ、竜一、俊介までもが運命の恩寵を削りギリギリ戦線を支えている。
 残る3人も余力は殆ど無い。じりじりと削る雷光と審判の光、不可視の刃と黒い旋律。
 降り注ぐ領域、複数、全体攻撃の嵐は確実にリベリスタ達を追い詰める。
 当然彼らとてやられてばかりではない。ホーリーメイガス、マグメイガスを各1体。
 それに望まずしてクロスイージスを2体。先の2体を加えて6体を撃破し、
 相手の数はヴェンツェル、カールを含め既に6体にまで減少している。半分。そう、まだ半分だ。
「やらせない……戦争はもう終わりだ!」
「終わらん、終わりなどせん! 貴様らを打破し、アークを打破し! 鉄十字を掲げるまではッ!!」
 しかし、『猟犬』側には癒し手が足りていない。
 数の上での優位は猟犬にあれど、互いの余力はほぼ均一だ。どちらに転んでもおかしく無い。
「こっちだって負ける訳にはいかない……勝利以上に、護りたい物が沢山有るんだ!」
 七海の精神力も切れる寸前だ。余力を振り絞り放つ最後の雷神の矢。
 轟音と共に、遂に最後のマグメイガスが倒れ伏す。あと、5体。
「狂犬番。鉄錆雷光。面白いな、面白い。人の身を捨て、その匂いは人のモノだ……」
 漸く。そう、漸く辿り着いた。いりすの餓えももう限界だ。
 対する黒い男がステッキの様な物を取り出す。なるほど、この瞬間まで“武器すら使わなかった”か。
「おぞましいほどに、狂おしいほどに。あぁ喰うぜ! 喰うよ! 喰い殺すっ!!」
「まるで餓狼ですね、ですが此方も……ただ喰われては、『鉄十字猟犬』に申し訳が立たない!」

 冷徹を通り越し温度すら持つ殺意の視線。それを紙一重交わして放つ光を纏った血色の刃。
 甲高い音を立てて交差する棒と剣閃。いりすの口元が笑いを刻む。
 「本質」とは。追い込まれてこそ、その姿を見せる物。なるほど、大した“人間”だ。
「ここで、一気に叩き潰す!」
「奇跡になんか頼らねえ、届けえぇぇぇ――!!」
 だが、『狂犬番』とてリベリスタらの全体攻撃に晒され続けていたのだ。
 異常なタフさを誇る『鉄錆雷光』とは訳が違う。余力など無い。突き刺さるクロトの刃が2つ。
 そして全力を超えて振り抜かれた宝剣がステッキごと、肩から胸元まで袈裟斬りに断つ。
 誰が見ても、どう見ても、それは致命傷だ。吹き出した鮮血、返り血を竜一が諸に被る。
「……准尉」
 その声に、ヴェンツェルは振り返りすらしなかった。
 それが、恐らくは末期の言葉だというのに。その瞬間を逃せば次は無いと言うのに。
 小銃と剣を重ねるツァインも、その巨体を抑え込む夏栖斗ですらその声に一瞬意識を取られたと言うのに。
「後は、お任せして大丈夫ですね」
 けれどその様を見て、黒い男は満足そうに両目を閉ざす。
『Sieg Heil Viktoria』
 終わりの声が、唱和する。目線を向ければ、ヴェンツェルはその既に銃口を向けていた。
 狙いは――七海。
「――ああ、そうかい」
 手向けにされるなど、冗談ではない。けれど、七海に余力などもう何一つ無かった。
 五体こそ満足であれ、戦力としてはこれでも限界一杯だ。願った運命の奇跡からは袖にされたらしい。
 ここまでと、覚悟を決める――その瞬間だった。
「「「「お待たせ、しましたあああ―――っ!!」」」」
 まるで、ヒーローの様に。まるで、奇跡の様に。
 彼らが救おうと、彼らが護ろうと、彼らが信じようと――否、彼らが信じ続けたが故に。
 その声が、夜の闇を切り裂いて、戦場全てに響いたのは。
 
「援軍、だと――!?」
 割り込んだ影、4つ。それらが何を指示するでも無く後衛の2人、俊介と七海を庇う。
 だが、それで躊躇う『鉄錆雷光』ではない。放たれた“極威の魔弾”
 アルティメットキャノンが七海を庇った暗黒騎士の少年を吹き飛ばす。唯の一撃、それでも生きている。
 運命の加護を削って、余命を飲み下して立ち上がる。
「馬鹿っ! お前ら――」
「っ、霧島や桐月院ががヤバそうな時は守ってくれると助かる! でもヤバイ時は下がってな!」
 クロトが、フツが声を掛ける。余りにも脆い。この戦場で生き残る事が困難である事を誰もが知っている。
 けれど、その脆く弱い、何の助けにもならなそうな4人が加わった事で、道が拓けた。
 今――『鉄錆雷光』ヴェンツェル・アイゼンベルクに、漸くその全ての矛先が、届く。
「来いよ雷神(Donnergott)! 決着を付けようぜ!」
「この、雑魚共の分際で――ッ!!」
 そう、雑魚だ。自他共に認めるモブであり、戦力としては何も期待出来ない。
 ならばその雑魚共を奮起させた。役立たず達を、役として立ち上がらせたのが何なのか。
 それを、ヴェンツェルはもう少しだけ考えるべきだったろう。人はそれを、誇りと呼ぶのだと。
「なあ、ヴェンツェル」
 見上げる形で、夏栖斗が声を上げる。見下ろす形で、視線が合う。
「人間は、強いんだよ」
 だからこそ人間で在り続けられなかった。運命を捨ててしまった彼らは、人間に敗れるのだ。
 仇花咲かす蹴撃が、その巨体の腹部にめり込んだか。体躯がくの字を描く前にツァインが剣を両手で構える。
「俺達は勝って先に行く! お前らの、負けだ――!」
 振り下ろす神威の聖剣。リーガルブレードが男の右腕を自動小銃ごと叩き斬る。
 それでも――倒れない片腕を失い大打撃を被りながら血飛沫を上げて声を上げる。
「まだだ、まだだッ! まだだ――ッ! 負ける訳にはいかんッ! 敗北は許されないッ!
 全てのアーリア人の為に! 愛する我が祖国の為に! あの大戦で命を散らした全ての友の為に我々は――ッ」
 その、額に向けられた照準。揺るがない。揺るがせない。この一矢は外せない。
「そっちが命賭けるなら自分はこの一発に全部をかけてやる」
 指が、弦を離れた。とん、っと軽過ぎる程の音と共に、七海の矢が巨漢の頭部に突き刺さる。

「――――馬、――鹿――――――な」
 ぐらりと、体躯が揺れる。
 あれ程の。戦線全てを支えるほどの威容を持った巨体が、倒れ行く。
 その足が、地を、踏む。生きているのか、死んでいるのかすら分からない。けれど――
「命を惜しむな。刃が曇る」
 “敵”としては物足りない、けれど、獲物としては上出来だと。
 右手に太刀、左手に血刃、刹那を駆け抜けた餓竜がその首を両の刃で断ち切った。
 重みのままに重力に引かれ、倒れる巨躯。それを目の当たりにした『猟犬』達に、動揺が走る。
「さて、確か先に言っといたよな」
 竜一が、剣をぶら下げ残る猟犬達を睥睨する。これで終わりではない。任務は、殲滅なのだから。
「一人も、逃す気はねえってな」
 掃討戦は程無く終わり、この間。警備隊に犠牲が出る事は遂に無かった。

●Mein Kampf
 遺体を積み上げる。それだけの事が、どれほど大変かをリベリスタ達は知らなかった。
 計14名。誰一人死なずに済んだのは単に、相手の目標が拠点制圧であったこと。
 そんな偶然に助けられたに過ぎない。彼らが拠点に万が一足を踏み入れていたならば。
 そして『猟犬』らがそれを殺す事を優先したならば、複数死者が出てもおかしくはなかった。
 そんな所まで彼らは軍人だった。愚直なまでに、軍人だった。――国家の為に、身命を捧げた人間だった。
 その最期を、愚かと言う事は容易い。その生き様を、無様と罵るのは本当に簡単だ。
 けれど。
「憶えておくわ。貴方達の最期の意地を――」
 餞の様に氷璃が告げ、ツァインがその亡骸に火を灯す。祝福を喪ってまで足掻いた、10名の人間達を。
「じゃあな雷神……アンタ達は、強かったよ」
 夜空に上がる黒い煙。瞳を細めて見上げれば、空には未だ星が瞬いていた。
 きっと、空から見たならばちっぽけな、けれども人にとってはなによりも大切な。
 歴史の一つが、この日漸く終わった。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
参加者の皆様、お待たせ致しました。
ハードEXシナリオ『<Reconquista>Kampfgruppe Totenkopf』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

殺気満点のオープニングでしたが、誰も死なずに任務達成。
心底大した物です。各人の尽力が負ったリスクを覆した結果です。
因みに待機させた場合、つまり戦闘に巻き込まなかった場合、
警備隊が臆病風に吹かれて逃げ出す可能性は、十分に有りました。
彼らとて人間です。それを忘れずアプローチをきちんと仕掛けた皆様の勝利です。

この度は御参加ありがとうございます、またの機会にお逢い致しましょう。