● 物が増えた部屋。 現像した写真の整理を終えた彼女は呟いた。 「……くばんなきゃ、ねえ……」 ● 「市役所で、また写真展やるから」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、無料整理券を配りだした。 「ぼちぼち手伝いも始めたけど、七緒が撮った写真、またまた結構たまったんだって」 『スキン・コレクター』曽田 七緒(nBNE000201)は、元フィクサードである。 無料奉仕だった市の広報の下請けが、仕事に変わっている。 そろそろ三冊目の写真集が出版予定。 スタッフ雇い続けられる程度に売れているらしい。 そういや、相変わらずあちこちうろついてるなぁ。と、リベリスタ達は首肯する。 「市政だよりとかで使わなかった分も結構あって、今回はそれの貼り出し」 なるほど、なるほど。 「すっかり助けを呼ぶことを覚えたらしい。先日死にそうな声で電話かけてきて見に行ったら、大量の写真の真ん中で力尽きてる七緒が……。取った写真を個別に配ろうとしてたらしいんだけど、能力が追いつかなかった」 あ~。そこは学習しろよ。そろそろ二年くらいになるだろ。 「段取りできなくて、途方にくれてたらしい」 これだから、ナンニモデキネーゼは。 「今、キース対策でスタッフそっちにまわせない」 そういえば、目ぇ血走らせたスタッフがファイル抱えて走り回ってるもんなぁ。 なんか、目に浮かぶようだ。 「で。みんなも忙しいと思うけど、気分転換に七緒の写真の展示の手伝い行ってくれると嬉しい」 それに、と、イヴはぼそりと言う。 「握りつぶすなら、展示される前がいいと思う」 びくっと反射的に反応を示したリベリスタ、数名。 「七緒、ここのところ栄養状態いいから、結構あちこちうろうろしてる。みんなの目に付かないところで、ろくでもない瞬間撮ってる可能性もある」 ああ、それなりにご飯食べてるんだ。と胸をなでおろすリベリスタ、数名。 「もしくは、自分の写真引き伸ばして展示するよう工作するなら今のうち。ついでに、人前で焼き増し頼めないあの子の写真ゲットできる可能性がない訳ではない」 なるほど。さらされる前に自分で色々すればいいのか。 「花見とかこないだの福利厚生とかで撮って歩いたのとか、三高平のあちこちの日常のスナップとかあるよ。みんな意外と写ってるから」 さっきデータを一足先に見てきたというイヴはちょっと目をそらして、ぷぷぷと発声し、無表情のまま口元を手で隠した。 「現在七緒のやる気は、写真撮るのだけに注がれている。たまたま見かけて面白がって撮ったのもあるみたい。……自分で確認した方がいいかもね」 イヴは無表情。ちょっと口元がむずむずさんだったけど。 「ね、七緒」 ブリーフィングルームの隅。 ここしばらくの徹夜で生ける屍と化した七緒がにやぁっと笑って、片手だけ挙げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年10月08日(火)22:31 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 18人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 「待望の……と言っていいだろう。曽田七緒四度目の「三高平市」である。曽田の撮るフェティッシュな側面とは待ったくの別ベクトルがこれだ。大量の日常の人の営みを撮る。2013年の春から夏にかけて、曽田独特のCG加工によって、ごく普通のヒトが非日常に身を投じている。何もかもが地続きなのだと饒舌の写真は語っている。今回もたくさんの市民ボランティアが会場の運営を支えたとのことだ……」 ● 程よい広さの市民ホールの研修室。 墨にパイプ椅子を三つ並べてその上に横たわる曽田七緒。 「恒例の……というわけだな。そういえば生活向上なんてのもあったね」 セッツァーのいい声がホールに響く。皆一瞬耳を澄ました。 「では今回も手伝うとしよう。まずは整理からだな、風景、人物、食べ物、ジャンル別にまとめていくことにしよう」 いい男は会場の潤い。 「ほぅ……こんな美しい風景が……、おや……これはなんともいい笑顔だな」 写真を整理しながらその時の様子を想像するセッツァーの背中を眺めながら、七緒はニヤニヤしている。 「その瞬間の輝きを永遠に残す……写真というものは奥が深いものなのだな……」 「お~。耳に心地いいねえ。最もほめてえ。我々の業界ではごほうびですぅ?」 (私、日雇い労働にかまけてアークさんのこと何も知らないんですよね) 春は、とりあえず山になっている写真に手をつけた。 三高平に来たから全ての革醒者がアークのリベリスタとして活動する訳ではない。 覚悟が決まったものから、地下行きのエレベーターに乗るのだ。 (写真の仕分けなら、著名人の顔くらいは覚えられそうなんで。あと街中徘徊してるので、モブ的にたくさん写ってると思って) 七緒の写真の撮影スタイルの中、誰かにズームを合わせないパノラマ写真のコーナーがある。 (カップルの後ろでワンカップ煽ったり、交差点で一人コマネチしたり) 歌の歌詞にあるような、というか、そんなとこにいたら心霊写真だからああこれは現世に未練のある人の霊ですねもう性別もはっきりしませんが……。 (目指せ見切れ職人(無職) もちろんバストアッ… 写真がないので、私は写ってても黒い影とかです) お分かりいただけただろうか。 やっぱりそういう方向なのか。 さあ、みんなとお近づきになるといい。 君の名は春。無限のメモリー。 「あ、路上パフォーマンスの人」 七緒は交差点コマネチを覚えていた。 しのぎは七緒とだれている。 「写真」 「ん~」 「いっぱい撮ったんだねえ」 「ん~」 「すごいねえ」 「でしょぉ?」 だれているいい女は絵になる。アングルを見たまえ。 「うわ、そのへん全然なんにも処理されてないじゃん! ああ、もう、しのちゃん、写真踏んでる」 夏栖斗、真面目に写真整理。 「あれ、かずぴーだ。やっほー、ごきぶんうるわっしゅ?」 踏んでた? ごめんごめん。と差し出された写真。 写された人を食ったような微笑を見て、夏栖斗は心臓を跳ね上げる。 『ほんとにおバカなワンコね、御厨君』 彼女だ。 「あったんだ、写真、七緒ちゃん、さすが!」 夏栖斗が幼稚園児みたいな口調になっている。 「写さずにはいられない絶壁だったから」 にひっと笑いあう二人に、しのぎの合点がいった。 「あー、その反応はまたあれでしょー、こじたんのでしょー」 見ればわかるよ、ねー、なおちん。 ねーと顔を見交わせて小首を傾げる二十代女子は十代男子の手には負えない。 「うん、あいつの写真ってそういえば見てなかった? しのちゃん」 いつの間にかあいつ呼ばわりだ。そうできるほどになっていた。 「可愛いだろ? あ、しのちゃんも可愛いからね」 もう、永久に夏栖斗だけのものだ。夏栖斗だけがこじりを自慢の女といえる。 「そんなお世辞とかいいから! ほらほら、なおちんの横座ってよ」 「ごめん、僕、正直だからさ」 どう方向に正直なんだとつっかまない程度の常識は七緒も持ち合わせている。 レンズ付きフィルムという今時レアアイテムで撮られた三人の写真は、しのぎの現像待ちになった。 「あたしの肖像権は高いぞぉ」 写真の方もレアだ。七緒の肖像権は事務所にある。 「七緒ちゃん、これもらっていい?」 「もちろん」 彼女の写真を一葉だけ大事に胸のポケットにしまう夏栖斗。 七緒は他にもあるとは言わなかった。 ミーノは、写真の整理ではなく、写真のデコにまい進していた。 (おいしそーにたべてるしゃしんがあったら、いっぱいデコるの~きらきらなかんじにっ♪ ぬりつぶすじゃなくてかざりつけ~?) デコペン、ビーズ、キラキラシール。 「お~~~これはおつきみのときっ! これはキャンプっ!」 新しいのを見つけるたびに上がる歓声。 「お~これはだんちのみんなといっしょ! にゃっほい!」 (いろいろおもいだして、たのしかったな~) 視覚情報に喚起されて、沸きあがってくる味覚情報。 (おいしかったな~) 触発された素直なおなかが「くぅぅ~」 と、かわいい音を立てる。 「ミーノおなかすいたっ!」 たからかに宣言して「おやつたいむにとつにゅうっ!」 するミーノのほっぺたには、デコレーションに使っていたビーズが写真の中のご飯粒みたいにくっついてキラキラしていた。 そあらは、にっこり笑って辺りを見回す。 (もう恒例行事になってるですねぇ) あふれる写真、あちこち秋がある壁面、それぞれ勝手な基準で写真を分類するお手伝い。 そして、ごろごろしながら、まだカメラをいじくっている七緒。 「しょうがないのです。手伝ってあげるのです。きっと焼増しお願いしたい写真も出てくるに違いないのです」 そあらさん、だから好きー。 「これはブリタニカでひどい事になったかずとくんの……」 アンブレイカブルの頭にたんこぶ作れる素敵な百科事典は五キロある。 「痛かったよっ!?」 真面目に働く高校三年生、律儀に報告。 「宿題しないでつまらないことばっかりするからしょうがないのです」 そんなのは脇に避けておくのです。 (さおりんとの写真は……) 出てくる出てくる。裏を返せば、いかに七緒がそあらの恋路を気にしているかということだが。 七緒は、気に入った女子には優しい。 (さすが七緒さんなのです。イタリアのヴァチカンも富士登山で一緒にお弁当を食べたのも一緒に花火を見上げているのも七夕での事も全部揃ってるです! 全部焼増しのお願いしないといけないのです) 広報スタッフに混ざって、酸素吸っていたのは意外と知られていない事実である。 「はぅ! これは!!」 いきなり上げた素っ頓狂な声に、周りからの視線が集まる。 (この間の夏の思い出の! あれ、見られてたですか!恥ずかしいのです) ぎゅっと写真を負抱きしめても、胸のどきどきは止まらない。 「でも会話は聞いてないですよね? ですよね?」 「え~?」 にたあぁっと笑う七緒。 「七緒さんー」 赤面そあらの鼻声が辺りに響いた。もちろん撮られたのはいうまでもない。 「またずいぶんと溜め込まれたのですね……誰で分けるか場所で分けるか。ちょっと悩みますけど」 どさあっと山になっている写真のの乱雑さに、桐は首をかしげる。 「撮られた方も何処に行ったかは覚えてるでしょうし、場所ごとで時間系列に分けた方がよさそうですね」 朝、昼、晩と、箱を置きポイポイ放り込んでいく。何だ、この女子力の高さ。 「あられもない姿撮られた方は纏めて固められてても嫌でしょうし」 いや、そこは、固めて、野郎は禁制ゾーンにしてあげた方がいいんじゃないかな。 桐さん、聞いてる? 桐さん!? スカートはいてても、やっぱり中身は男子だ! しかもデリカシーのない、ハーレム系朴念仁だ! 「七緒さん、手伝っているんですから、ちゃんとあっちで食事もとってきてくださいね?」 おかんなのに。おかんぽいのに。 「スカート男子なんだよねぇー。女子に囲まれてるのにねぇ」 湊は、何を話すか頭の中で繰り返していた。 「スポーツドリンク持って来ておいたよ、どうぞ」 (俺っちが七雄さんに堂々と会える機会を逃すだろうか、いやない) 「あ、いろんな写真撮って持ってきてみたんだ。七緒さんが写真家だって聞いてからカメラに手を出してみたんだけど割とはまっちゃって」 うんうんと聞く七緒。 「今のところは風景と動物の写真ばっかりなんだけどね。この間かわいい系アザーバイトの写真、ポストに入れたんだけど見てもらえた……かな?」 ――って俺っちの写真のことばっかりになってるね。 なんとなく逸らした視線の先に、整理が終わった写真がかけられ始めている。 (あ、七緒さんの写真、なんか俺っちのと違う) 「なんだろ……見てて飽きない感じ。えへへ、うまくいえないけどなんかすごいのは感じるよ」 ここで勇気を出さなくてはならない。 「えっと、七緒さんの――」 「しかし本当何年たっても貴女は……もっと早く頼りなさいってば……」 空気を呼んだんだか読むのを放棄したんだか、七緒を無造作に持ち上げたうさぎ。 外見年齢13歳勝つ性別不詳の薄い体のうさぎが、27歳色々充実、体重差結構あるよなの七緒さんを抱き上げられるのだ。リベリスタ、すごいな。 「よいさー」 ぼっすぅぅぅ。 すでに設置済みの柔らかなビーズクッションの中にうずもれていく七緒に添い寝をするごとくよりそう、うさぎ。 タイミングを逃す男子中学生。 「それはそうと今日はリラックスグッズ以外にも色々持って来ましたよ」 中学三年生が、指さえ触れぬ初恋手順を踏もうとしてるのに何やってるかな、この無表情。 「先ずICレコーダー。許可をくれた人の感想を録音しながら聞けば後でまた聞き返せます」 「ふんふん」 「それと、感想の記入用紙です。時間内に感想を全部聞くのは無理ですし、本人を目の前に言いたくないシャイな人もいるでしょう。それにこれもまた後で読み返せる」 机の上には、紙と筆記用具がすでにスタンバイである。段取りいいな、さすが葬儀屋(動物限定) 「門外漢ながら、感想や反応が得難いモチベーションや着想元になるんだろうって事くらいはわかります だから、より十全にできればなと……」 「ソードのページみたいだねぇ」 「なんですか、それ」 クッションに埋もれたままニヤニヤ笑う七緒はインドのお小姓を侍らすタイタニアのようだが、ロバの首に惚れるようなへまはしない。 「それで勿論、私の感想も言わせて貰いますよ。先ずはねえ……」 内緒話は耳元でするものだ。 「ちょい待ちぃ」 「なんですか」 「中学生が見てる」 教育に悪い。 「題して『七緒のどきどきコレクション~真夏の一夜編~』」 そう言いつつ、竜一は男が写っているのは全部脇に追いやる。 「福利厚生とかの写真あるなら水着とか満載でしょ! ね! ね!」 露出が多い写真をかき集める。 「え……」 ぴたりと止まる手。 さすがの竜一もこれは貼り出しちゃいけない気がするきわどい肌色。 (……ないと信じていたのに!) 裏切ったな、僕の信頼を裏切ったな。 七緒はかの冥時牛乳のばぁーん! も貼り出す人ですよ? 届けがあったのはもちろんはがしたが。 竜一は真摯且つ紳士なので、そう言うのは丁寧に見えないように避けておく。 「ま、ともかく、素敵な女性たちの真夏のどきどきショットとかをピックアップして展示するんだよ!」 そして、いそいそとパーテーションを持ち出して別コーナーを作り始める。 (入口には七緒たんの水着ショット写真をでかでかと張ってコンセプトを明確に打ち出そう。市役所らしいのでTPOはわきまえて隅っこで細々と) 「ふふふ……」 ばかんっ! 七緒から賞金首にたたきつけられる投擲。 十字型のゴム弾が、竜一の側頭部に着弾した。レンズカバー。 「だから、あたしの水着写真の展示は事務所を通せっての」 「あ。写真のコピーはよろしくね!」 ニカッっと笑う竜一、不死身。 「ユーヌがいいって言ったらねぇ」 それまで受付で黙々とチラシを折っていた恵梨香がつかつかと近寄ってくる。 受付や雑用とは仮の姿。 千里眼・ESPを併用しての現地の警備を行っていたのだ。 「勝手にコーナー作らないで。チラシの場内案内が変わってしまうわ。石が待ってます」 やっぱり石抱き正座がいないと締まらないからな、この写真展。 「――っと、石抱きの石、重たいだろうから俺が運ぶよ」 どこからとも泣く現れる、行き届いた男、新田快。 アークの手練は、3DT仲間のひざの上に容赦なくドスンと落とした。 (七緒さんが元気な分、去年よりも枚数増えてるよな……場面ごと、時系列ごとに地味に仕分け仕分け) 新田快、黒の袖カバーが似合う男。公務員試験は受けないのかい? (もう今年で大学生活も終わりだし、大学での写真があったら嬉しいな。高校までと違って、学校行事にカメラマン同行とかは大学には無いしね) 忙しい戦闘の合間を縫うようにして敢行された学園祭、屋上から撮られている実行委員会のはっぴをきた男がマイクスタンド担いで中庭を全力疾走の写真だ。 (あ、これ学園祭の写真だ。実行委員長だったんだよな。大学最終学年、一番の思い出はコイツになりそうだ) 「新田。これ」 「あれ、もしかしてエントリーシート用にお願いした俺の証明写真?」 アークは皆さんの就職活動も応援しています。 (こんなのも対象なのか……別に貼りだされても困らないけど) 「あ、就活は時村物産が最終面接まで行きそうです。お陰様で」 時村のカネで世界中の酒を売り買いするんですね、わかります。 ● 永が眺めているのは、三高平民族歴史博物館で刀剣を観賞中の写真だ。 ここには革醒した武器が収められている。 (一度は焼け野原と化し新生した街、三高平。あと百年もすれば、私たちが生きた証もここに並んでいるのでしょうか? その時、私は変わらぬ姿で生きているのでしょうか?) 革醒した者は、ヒトとは違う生き物となり、寿命というものがあるのかどうなのかもわからない。 「曽田さま、写真はよいものですね」 「うん。とてもいいもの」 「家に一枚の写真がございます」 六十年余前に撮った、セピア色の写真。 写っているのは、紋付袴姿の男と白無垢姿の女。 褪せた色が過ぎたときを知らせる。 いつか目の前の写真もあの色になって、あの写真と差がなくなるときがくるのだろうか。 (いやぁ今年の夏は最高に楽しかった。福利厚生、夏、サイコー、だった) 火車は、船底の宿題地獄ウォッチングまで楽しんだ。いい夏だったね。 (しかしこのオレ迂闊かな楽しい夏の大事な思い出写真撮ってねぇじゃうわーココにその素敵な写真が呆れる程あるじゃねぇかぁー!) 楽しんでる最中って、カメラの存在忘れるよね。さあ、夏の思い出を満喫しておくれ。 「スゲェな七緒! ズボラな事と飯食う事だけじゃねぇんだな!」 「ほめられたと思っとくわぁ」 「コレはスイカ割り! 海底洞窟! 浜遊び! BBQ! 夜のアザーバイド! 伝説の包丁師! 灯篭流し! 花火!………べ……べんきょうかい」 君の知ってるキーワード、いくつあった? 全部分かったら、火車君と握手! 「揃いも揃って撮ってるじゃねぇの……スゲェが……」 どこにいたんだ、一体。 「思い出をこうして写真に取っとくってのは結構大事だと思ってる。見て思い出す内容は案外多いし、話のタネにも持ってこい。だから一つ気になんだが」 火車は、素朴な疑問を口にした。 「七緒。自分も写ってるの、ねぇの?」 「ない~」 だけどね。 「全部に、あたしがいるよ。撮ったのはあたしだから」 「意外といっぱい撮られてんだなー何十枚とあるよー。って、なんか面白い趣向ー」 岬の写真は大きなパネル一枚だった。 そのパネルに無数の岬がいた。 (日が違う、時間が違う、撮影場所が違う) 陽光の下、夕闇の中、時には星降る夜もあった。 (服装が違う。髪型が違う。負傷してたりしてなかったりするー) 血のにじんだ包帯が風に巻き上げられて、目隠しになっている写真まである。 (でも全部同じ) 構図、距離、ポーズ。 (切り抜いて重ねたら寸分違わず重なるような写真ー) それを続けた岬もさることながら、それを追っかけた七緒も七緒だ。 「小崎ー、どうよぉ」 七緒はニヤニヤしている。 「ボクがアンタレスを素振りしてるトコロだねー」 「面白いなーと思ってさぁ」 「そこが同じだけで全部同じに見えるんだよー。他のことは些細なことというごとくー」 「これ、すごく気に入ってんだ」 「でも、もう増えないよー」 岬は、笑う。 「今まではちょっと急ぎすぎてたからなー。アンタレスは応えるとは判ったんだ。継続できる形に変えていかないとー」 これからはお付き合いの仕方が変わるのだ。一方通行ではなく、相思相愛の蜜月の開始なのだ。 「写真貰って行って良いのかなー。見えるモノがいっぱいあるよー」 「持ってけー」 語尾伸ばし気味の求道者二人が顔を見合わせて笑った。 冥真は土下座中だった。 「お納め下さい。ホントすいません」 高々と組まれた七緒の足が、クリミナルスタアの面目躍如である。 「いやホントに何度命を無駄にしかかってるかアッハイそうですゆんの命預かってる手前で割と無茶しました。何かあってからでは遅いんですけどなんて言うかその」 無言。メタルフレーム越しの胡乱なまなざしが、更に冥真の言葉を引き出す。 「ええ、ええ。大事ですとも。自分の有り様を示すための大事な人ですし、生き方の指標になってくれた人、ですし」 典型的待つ女のゆんから、なにを学んだというのか。 「だからこそ、です。相手の生命を預かっている以上無駄にはしませんが、相手が革醒者であればその生き方を背負わなければならないと思うので。彼女の分まで、革醒者としての生き方を全うする為に、やはり生き急いでしまうと思いません」 赤い糸にだって、長さや耐久性に限度があるのだ。 「だから、すみません。その時は、宜しく」 「……分かった。ゆんには言っておく」 何をどう言うのか。七緒はそれ以上は語らなかった。が、菓子には『事務所行き』 の付箋が貼られた。 ● 入れ替わり立ち代り、七緒の話しかけるリベリスタは、みんな顔なじみで、下手すると七緒と戦ったこともあるという。 湊は、再度勇気を振り絞った。 「あの、それで、七緒さん――」 「こんにちは七緒さん。いつもありがとう」 緊張のあまり裏返った声は、いきなり礼を言う悠里の声にかき消された。 「良かったら今度写真の撮り方とか教えてくれないかな? カメラも自分の用意するし」 湊の言いたかったことをするっと言いやがったよ。 「それでちゃんと撮れるようになったら七緒さんの事も撮らせて欲しいな」 湊のすごく言いたかったことをサラッと言いやがったよ? なんか目の裏がじんわりと熱くなるぞ、男子中学生。 泣かぬが。泣きはせぬが。 「前に何かで会った時はカメラマンだから、だっけ? ちょっと詳しい理由は忘れたけど断られたじゃない? でも、ここにあるたくさんの写真の中にさ、同じアークの仲間の七緒さんの写真だけないって、なんだかすごく寂しいから」 「おお、それそれ」 火車が、さっきの質問の中身はそれだ。と、声を上げる。 「頑張って七緒さんが満足できる写真を撮れるように頑張るから、七緒さんの写真も一緒に飾りたいなって思うんだけど……、駄目かな?」 んあ~。と、七緒は変な声を上げた。 「まだ、弟子取るほどえらくないんだけどなぁ」 「俺もっ! ホントは俺が先に言いたかったのにっ! 俺に七緒さんの写真を取らせて! 一番最初の人物写真は、七緒さんを撮りたいんだ!」 ヒトの恋路を邪魔するやつは、――滅べ! と言っても滅びないだろうが。 「――仕方ないなぁ。ただし、今は隈出てるからやぁだ。そこを撮るというなら、縁を切る」 切る必要があるだけの縁はあるのだと。 柔らかなクッションにうずもれて、七緒は、にやあっと笑った。 ● 「今年もまた楽しそうな写真が多かったようだな」 握り飯と日本酒を肴に七緒の話を聞きながら一夜過ごすのが、このロシアーネの七緒とのすごし方だ。 おじいちゃんと孫だ。 「体調が万全なら今宵は話を聞こうではないか」 「ん~。今年もいい写真展だったよ?」 七緒は、杯を傾けた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|