● ざっざっざっざっざ! この世界の生き物で一番近いのは、羊だろう。 もしゃもしゃ、もしゃもしゃ。 ぐるぐると巻いた角。横向きの三日月の目。突き出した鼻面。もこもこと体を覆う嵩のある毛皮。 ざっざっざっざっざ! 毛皮の中から、三対六本の二股のひづめを持つ足。 もしゃこしゃ、もしゃこしゃ。 ふかふかした毛皮が包むスレンダーな胴部。 大事な大事な女王の為に。 女王蟻の上半身の4倍もある新しい子供達がたっぷり詰まった腹を恭しく捧げ持ち、羊の上半身に蟻のような肥大した腹部を持った無数の兵隊蟻は、見渡す限り全ての物を食べつくそうとしていた。 次の女王の産卵場所にふさわしいところを見つけるために。 ● 「当該神秘、性質を確認。至急の対処を要請します」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が緊張した面持ちで説明を始めた。 「現時刻9:03。8:48に識別名ヒツジアリと同じ種類の生物の当次元への現出を確認」 いきなり呼びつけられ、軽口の一つも言ってやろうとしていたリベリスタ達の表情が変わる。 「アザーバイド。体長一メートル。羊に類似した部分が0.5メートル。後は蟻の腹部。雑食で非常に攻撃的。資料をお渡しします。時間が惜しいので、今は簡単に説明を。詳細は移動中に目を通して下さい」 和泉は、せわしげに資料を配って回る。指先が緊張で震えていた。 大きく息を吸い込み、資料一枚目をご覧下さいと声を平常に保つ。 「過日討伐された女王アリヒツジと同じ形態のものが出産しながら出てきました。出産を阻止するのは時間的に不可能と判断し、該当区域での殲滅作戦に移行します。大量の軍隊アリヒツジが移動を始めるのは残念ながら確定事項です。至急皆さんには現場に急行していただきます」 資料二枚目をご覧下さい。と和泉。 「軍隊アリの規模は500匹前後と判断されました。通常チームでの対応は無理と考え、複数チームによる共同作戦となります」 この次元のグンタイアリの二千分の一の規模だが、それでも信じられない規模だ。 資料の地図をご覧下さい。と、和泉。 「軍隊アリはこの谷底を伝ってきます。谷のこの部分の上部の崖二箇所。皆さんにはここを拠点にアリヒツジの迎撃をお願いします。この地点から少し下流の谷底で拠点防護班がアリヒツジの進行を食い止めています。それによりアリヒツジはかなりの密集状態になるでしょうから、全周囲攻撃が有効手段となります」 和泉は、資料から目を離し、リベリスタ達を見た。 「正直に申し上げますと、拠点防護班は囮任務を兼任することになります」 平静を保とうとする和泉の口元が歪む。 「ヒツジアリの兵隊蟻は女王より攻撃的と判断されました。敵対する動性対象を重点的に攻撃する習性があります。防護班が集中攻撃されている限り、周囲の環境と皆さん攻撃班は守られます」 こういう作戦しか用意できなくて、申し訳ないです。と、小さく呟く。 「彼らの生存確率を上げるには、軍隊ヒツジアリの数を減らすしかありません。皆さんにはその大任を担っていただきます」 和泉がなんとか平静を保とうとしているのが見て取れた。 「皆さんが攻撃続行不可能になったら、防護班は遅かれ早かれアリに蹂躙されることになります」 和泉は、もう一度大きく深呼吸した。 「ですから、EPの無駄遣いは避けて、攻撃に集中してください。攻撃可能地点は二箇所です。谷の両側面の道路から。道路は木で斜線が阻まれている箇所が多いので、攻撃可能ポイント一箇所につき、最大六人。両側面からの攻撃で谷底とその側面全部フォロー可能です。それから……」 和泉は、数瞬言うのをためらった。 「もう一度いいます。攻撃に集中してください。皆さんの攻撃ポイントから防護班待機ポイントまで20メートル以上あって、回復スキルが届きません」 つまり、どんなに防護班が危機に瀕していても、回復に手を裂かず攻撃し続けろということだ。 「皆さんが攻撃することで防護班の負担を減らすことが出来ます。ごめんなさい。でも、どうか……。アリを殲滅できなければ、防護班はもとより皆さんも危険です」 和泉は、眼鏡をはずして、ぐしぐしっと乱暴に目元をこすると、すぐに顔を上げた。 「お気をつけて。9:10、ブリーフィング終了。現地への移動をお願いします」 和泉はそう言って、リベリスタに深々とお辞儀をした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月21日(木)22:05 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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● 蟻が谷を蹂躙しているのが見える。 緑の谷におびただしい白いヒツジと黒いアリの混合生物の河。 流れた後は、茶色の土くれしか残らない、死の河だ。 「んわー……まさにアリの大群っていうか羊? ……あれ?」 『断罪の神翼』東雲 聖(BNE000826)が首をかしげる。 上半身は草を食む羊だが、俯瞰してみるとその動きは蟻そのものだ。 うねり、ぶつかり合いながら、肩から生える三対六本の前足が立ち止まる同胞を押しのけ、乗り越え、前進し、また草を食む。 それを押しのけ、乗り越え、前進し。 暴食と征服と蹂躙の行軍が、眼下を通り過ぎようとしている。 枯渇した川の急に狭くなっている地点。 その河を食い止める防波堤となるべく立ちふさがる防護班の姿が見て取れる。 あの堤防が崩れる前に、この死の行軍を一匹残らず打ち払う。 崖の両側にそれぞれ陣地を築きながら、それでも心は繋がっている。 「ごめんね。せっかく生まれてきたのに…」 『朧人形』ベヒモス・エルディン(BNE002614)。 巨大名怪物の名を持つ少女態。 五十年を超える永きを病床で過ごした彼女は車椅子に腰掛けながら眼下に進む大群を見詰める。 (回避も防御もままならない私でも、こういう場でなら誰の足もひっぱらずに行動が出来るはず…… 私にはこれしかないから……!) 革醒によって、取り戻した人生だ。 ベヒモスは、その白い頬に血を上らせ、わずかに咳き込んだ。 ● 右岸、チームアルファ。 左岸のチームブラボーにいる『ザ・レフトハンド』ウィリアム・ヘンリー・ボニー(BNE000556)とAFを介して最終打ち合わせを済ませた『Steam dynamo Ⅸ』シルキィ・スチーマー(BNE001706)は、 「ショウタイム!」 と、一声叫んだ。 展開する重火器。中央に配置されたポール状の部品に唇を寄せると、扇情的に身をくねらせる。 幻の掲示板が空中に現れ、オフェンスの名前と魔力残量が掲示される。 硬いアークの制服を脱ぎ捨て、蒸気機構で覆われた胸部を開放し、Are You Ready? と、攻撃班を鼓舞する。 「オペレーション、オープン!」 『炎獄の魔女』エリザ・レヴィナス(BNE002305)の業火の爆煙が戦を知らせる狼煙となった。 業火がヒツジアリの中心に叩き込まれ、数匹が衝撃で吹き飛び、何体かはその場に転がり動かなくなる。 「遠慮無くブチ込めよGUNNER共! 一匹残らず天国へご案内だ!」 シルキィが発破をかける。 「落ち着いて集中……そうよ、私はデキる女……できる、出来る、気持ちの問題」 『茨の魔術師』リアナ・アズライト(BNE002687)は、緊張した面持ちで定められた手順どおりに自分の内なる魔力を増幅させる。 (初仕事でまさかこれだけの数を相手にするとは思わなかったわね……まあいいわ、初体験はいつだって刺激的でなきゃ。私達の為に命を張ってくれる人達がいるんだもの……絶対に勝利しないとね) 防護班は、すでに防護陣形を展開し、それにヒツジアリが群がっている。 癒しを意味する魔法陣がいくつも現れて、防護班を包み込むのが見えた。 次にリアナが作る魔法陣は、その優しげな色合いとは異なる命を奪う鮮烈な色だ。 体のそこから湧き上がる魔力の高鳴りに、小さく吐息を漏らした。 「撃てば当たるってぇのは景気が良いねぇ……向こうだってオレ達を信じてるだろう、ならオレらもソイツに応えなきゃなァ?」 崖のあちらとこちらで展開される魔力増幅魔法陣を確認し、ウィリアムは、最後に中折れ式の拳銃を手に取った。 100口径。弾の直径が、2.5センチ強ある化け物銃だ。 重火器に相当するほとんどハンドキャノンを、ウィリアムはあえて「銃」と呼んだ。 撃ち出される弾丸は、白昼の流星と化し、灰色の濁流を割り裂いた。 ● 「地上にいる人たちのために、私たちが少しでも早く殲滅しないと」 黒スーツ黒眼鏡、黒い帽子に黒いサングラス。 絵に描いたような殺し屋スタイルの『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481) は、普段使っている ショットガンより強力なものを使用している。 放たれた散弾は、次々とヒツジアリを貫いていく。 (安全圏での行動というのは、防護班の人たちの奮闘に対し敬意を表しつつも、心痛むことです) 次の発砲の準備をしながら、星龍は谷底に目を走らせる。 (ですので、少しでも彼らがアザーバイドの猛攻に耐える時間が少なくなるように私たちが出来る限り早く敵を殲滅するだけです) 芽生えた勘の限りを尽くし、もっとも効率的な場所への射撃。 先ほど倒したヒツジアリの死骸に阻まれて、ヒツジアリの流れが停滞する箇所が出来た。 次に撃ち込むべきはあそこだった。 ハートの女王は仰せになった。その者の首をおはね! そして、王女様も仰せになる。 「アリさん、つぶれなさぁい~!」 『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)は、魔力切れなど何するものぞと気の糸を谷底めがけて打ち込んでいる。 王子様を夢見て潤んだ瞳の奥で凄まじい戦闘計算をしているとは、なかなかに信じがたい。 撃ち漏らしてわなないているヒツジアリを目ざとく見つけて引導を渡す。 死骸に取り付いてヒツジアリたちが口を動かしているのが見えた。 凄惨さに眉をひそめながらも、一匹の死骸で数頭の足止めが出来る。 生きているのは食わないようだから、確実に。 (わたしは、わたしのできることに全力を尽くさせて頂きますぅ!!) ダイナミックな攻撃をしてくれる仲間に、魔力が切れたら補充してくれる仲間に、ディフェンス側の皆さまに、絶大な信頼をっ!! 白雪姫は、仲間のためにアリを潰し続ける覚悟だった。 魔力を制御し、威力を底上げした魔法使い達の猛威はヒツジアリの一部を灰燼と化した。 小鳥遊・茉莉(BNE002647)と来栖 奏音(BNE002598)がそれぞれ爆炎を谷底に投下し、 二つの火球がヒツジアリを消し炭に変える。 「砂に続いて蟻のお掃除。清掃業はホントに不況知らずよねぇ」 そう呟きながら、無造作に取り回される銃器から、凄まじい数の銃弾がほとばしる。 蟻の河を端の巣にする『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)に容赦はない。 「仲間を信じて一人ひとりが役目をはたすのっ!!」 辛くも逃げ切ったヒツジアリもその生の継続を喜ぶ暇もなく絶命する。 『食欲&お昼寝魔人』テテロ ミ-ノ(BNE000011)が放ったかまいたちにずたずたに引き裂かれて。 谷底は地獄の釜のようだ。 獄卒達は懸命に釜を煮えたぎらせ続ける。 蓋が消し飛んでしまわぬよう、釜を五百の死で満たすために。 ● アリの群れが槍の穂先のように右翼に突っ込んでいくのに、ウィリアムはかぶっていたテンガロンハットを跳ね上げた。 「右翼固まってるな。あのへん狙え」 ウィリアムの指示に、聖は二丁拳銃を構えたまま、必殺必中の瞬間を探っている。 「耐えるのも仕事……耐えるのも仕事……!」 シルキィから隔てられること20メートル超。 自前の魔力でスキルを支えることになる。 無駄打ちする気にはなれなかった。 「っしゃー! 撃つ! ひたすら撃つー!」 本当に今の雄叫びは、その唇から発せられたのか? 黙って立っていれば文句なく綺麗なお姉さんが、崖の下にのめりこみそうな勢いで体を前にのめらせながら、フルオートモードでどかどかと引き金を引き続ける。 複数の銃弾が尾を引いて、灰色の雲を切り裂く光となった。 ベヒモスも、密集している右翼部分に狙いを定めた。 連鎖する雷の呪文を詠唱。魔法陣の展開もよし。収束された魔力はいつでも発動して、谷底を雷が蹂躙する。 全ての敵を視界に捕らえ、少し息を吸い込み、最後に意識を発動に持っていくだけ。 「けほっ」 咳き込んだ拍子に、魔法陣からほとばしる雷。 ぶっとぶヒツジアリの群れ。 見事な大戦果。 「ぁ…」 仲間達から、おーっと歓声が上がり、肩を叩かれたり、サムズアップとかされたりするのに、ちょっと手を上げて応えたりしながら。 (かっこつけたかったなぁ……くすん) ベヒモスは、この次は、かっこつけようと気合を入れ、再び呪文の詠唱を始めた。 ● 「まったく、アリさんは、大人しくお砂糖でも運んでいるがいいのですぅ」 ピンポイントを打ち込むにしてもずっとしゃべりっぱなしのロッテに、相槌を打てるのは詠唱していないシルキィしかいない。 「ああ、そうだね」 もっとも、その相槌はかなりにべもないのだが、ロッテはそんなことは気にならない。 「……ところで、アリさんの中に女王様は居らっしゃいますけど、王子様は居らっしゃらないのですか? 」 右から左へ聞き流そうとした内容に、はたとシルキィが動きを止める。 「なんだって?」 「王子様はいらっしゃらないのですか?」 「その前!」 「女王様がいらっしゃいますけど」 「どこに!?」 「あそこに」 ちょんとロッテが指差す先。 ヒツジアリが山になっている。だが、その山は動く山だ。 「中にちらちらとちょっぴり大きいのが見えるのですよ。あれが次の女王様だと思いますぅ。今は王女様でしょうか」 王子様もやっぱりいますか? と、ロッテはあどけない問いをする。 「あの王女様、撃ちな。徹底的に撃ちな。王子様はそれからだ」 「そうですね。わたしがいるんですから、王女様はいりませんね。はぁい」 ロッテは素直に頷き、女王アリの周辺のアリを潰しにかかる。 「エリザ! 向こうに知らせるんだ! あの山の中に女王がいるよ! あの中の女王を撃ち殺せってなぁ!」 シルキィの叫びに、エリザは一つ頷き、翼をはためかせた。 報告書によれば、異常に生命力が強く、次のヒツジアリを産む女王ヒツジアリ。 あれを潰さなければ元の木阿弥だった。 ● 目の前にまで迫った黒山に弾けて飛び散る焔を射込まれる。 穴だらけになれとありえない数の弾丸が打ち込まれる。 そのたびにぼろぼろとヒツジアリが生死の別なく崩れて地面に叩きつけられる。 山から崩れて、下流に殺到する波には、雷と流星の洗礼が待っていた。 「さあ、じゃんじゃん撃ちな。力が足りないなら、くれてやるよ!」 シルキィのチャージを最大限生かしながら、魔法使いは殺戮の限りを尽くす。 (かっこよく……せっかくだもの、かっこよく……) ベヒモスは、何度もかっこいい呪文発動を目指しているが、どうにも決め台詞が浮かばない。 「え、えいっ」 なんとも可愛らしい気合から打ち出される雷撃は、気合の頼りなさと反比例してヒツジアリを黒焦げにした。 「わらわらわらわら…嫌になるわね。これがせめて500人の美少年だったら……はぁ……」 美少年だったら、きっと緊張しまくって自爆するに違いない。 アラフォー、リアナ・アズライト。不埒な欲望を抱いていても、これで結構モラリストである。 だから、やるときはきちんとやる。 「それじゃまとめて! ビリビリいきなさい!」 放たれた雷撃は、仲間を踏み台にして崖上に到達しようとしていたヒツジの塔を薙ぎ倒した。 「女王だか、王女だかしらねぇが、親玉はあれか?」 ぼろぼろと落ちたい北城壁の中でうごめくひときわ巨大なヒツジアリ。 他のアリに比べると、あきらかに立派な巻いた角。 毛皮もひときわ質がよさそうだ。 何より、他のヒツジアリ達がその巨大なアリを覆い隠そうと奮闘している。 鷹の目でそれを補足したウィリアムは、その頭に狙いを定める。 「撃ち殺せって話だ。期待には応えねえとな」 カウボーイハットを手で押さえ、十分ひきつけてから、引き金を引く。 盾になったヒツジアリを次々と粉砕しながら、流星の銃弾は女王ヒツジアリの頭部を赤黒いジャムに変えた。 ● 殺到していく。 谷底で、ヒツジアリが、防護班に殺到して行く。 侵食するためではない。 背後から迫る圧倒的殺戮から逃れるために、ヒツジアリは活路を求めて、防護班が立ち塞がる下流目掛けて殺到していく。 崖に取り付き上に上ろうとしたヒツジアリは、垂直に近い勾配に阻まれて、仲間の上に落下し混乱をさらに増長することになった。 しかし、それ以上の大群が、防護班を踏み潰していこうとしていた。 自分たちが攻撃するから、ヒツジアリは防護班に向かって殺到する。 だが、攻撃しなければ、防護班はあっという間にヒツジアリの群れに飲み込まれてしまうのだ。 攻撃班は、生きようとのた打ち回るヒツジアリを一匹残らず刈り取る無慈悲の執行者たりえなくてはならない。 自らの命を投げ出し、死に物狂いの抵抗を体で止めている仲間の信頼にこたえるために。 「追い撃ちかけるよー!」 空中を滑空しながら、どかどかと二丁拳銃から聖は弾丸をばら撒く。 「あそこ攻撃するね!」 防護班に近い個体を優先し、崖上の仲間に自分の攻撃ポイントを知らせて攻撃に無駄がないように。 とにかく防護班の負担を軽減するよう努めた。 (とりあえず何が何でもアイツ等まとめてぶっ飛ばすでオッケイ! 無傷は無理でも、オフェンスとディフェンス皆と誰も欠けずに生きて帰るー!) 明確な、とても明確な決意を胸に、白い翼は死を撒き散らしながら飛び続けた。 「ディフェンスに行っている方々のためにも、一匹たりとも! 絶対に! 残さないのです!! 奴らを一匹残らず……殲滅するのですぅ……!!」 あどけない唇から、容赦ない言葉。 それに偽りのないことを証明するように、精密に打ち込まれるロッテの気の糸。 ざかざかと全速力で走っていたヒツジアリがぴたりと止まり、その目がぐるりと反転して白目になり。 後から来た大群に食われることもなく踏み潰された。 更に一匹、更に一匹。 地道な作業が続いた。 「まあ、射手としての腕の見せ所というところでしょうが」 魔術師達の大攻撃から逃れ、防護班の間合いに入る直前のヒツジアリを補足し、後頭部に狙いを定め、片端から撃ち殺す。 赤黒いしみを白い土に撒き散らしながら、ぼてっと倒れて動かなくなる。 防護班に届かなければ、それはいなかったのと一緒なのだ。 星龍は、防護班を助けに行きたい気持ちを抑えながら、引き金を引き続けた。 ● 雷撃が収まり、炎が収まり、銃声が谷底に飲み込まれ。 魔術師も、銃使いも、拳法使いも、はたとその動きを止める。 すでに自前の魔力はとうに使い切っている。 ずっと爆音を聞いていたせいで、耳はワンワンするし、目は閃光の見過ぎでチカチカする。 それでも。 がさがさと動き回る、ヒツジアリの地面を打つ六本のひづめの音がやんでいた。 「念のため見てくるねー」 聖は谷の両側にそう叫ぶと、討ち漏らしがないか一応飛行して空から谷周辺チェックした。 はじめは丹念に行ったり来たりしていたが、しまいには無駄にアクロバティックに飛び回り、頭の上に腕で大きな丸を作ったまま、左岸に戻っていった。 とたんに、がっくりと膝を突く。 よもや崖下に沈降した強烈な酸性ガスにでもやられたかと恐る恐る顔をのぞきこむ仲間に、聖は青い顔をして静かに呟いた。 「……酔った」 そのあと、急に口元を押さえて、 「オエップ」 と、えづいた。 ティッシュだ、ビニール袋だ、新聞紙だ、帽子よこせ?冗談じゃねえと明るく騒ぐ左岸の様子に、右岸も作戦終了と、ガンナーは獲物をしまいだす。 星龍は、下流に眼をやり、降りていけそうな地点を見つけると、そちらに向かって駆け出した。 「どこへ?」 「防御班たちを早く助けに行きたいと思います。敵を全滅させたとしても、防御班の人たちは満身創痍で体を動かすことも十分では無いと思いますから」 そう言って、ガードレールを乗り越えると、木を頼りに、谷底に向かって斜面を滑り落ち始めた。 星龍の姿を見て、防護班の誰かが手を振るのが見える。 祈るような気持ちで数を数える。12人。 生きている。 みんな、ちゃんと生きていてくれていた。 信じていた。信じられていた。 その期待にこたえられたのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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