● 「……解らない、解らないんだ。私は唯、正しいことをし続けたつもりだったんだよ」 暗中、聞こえるのは男の声。 変声期を疾うに過ぎた、いや寧ろ高齢の年輪さえ感じさせる疲れたような声は、誰も応えぬ空間に虚しく拡がる。 「望みもせぬまま世界の最果てへと飛ばされた。ならば此処で生きていこうと思えば、それをこの世界の異能者達は『異物』と言うだけで私を許さなかった。 逃げた。逃げた。私は唯逃げた。しかしそれだけでは、彼らにとって私は永遠に『異物』のままでしかない。 だから、見せたんだ。この身の力で様々な人を守り、救ってきた。この世界に順応し、彼らの一員になりたいと行動を以て表しても、しかし異能者達は、私の存在を認められぬと言う」 苦悩、悲嘆、そして絶望。 負の要因によって摩耗しきり、最早元の精彩は僅かにも感じられぬ彼の心は、訥々とした呟きから、喧々とした叫びへと移っていく。 「何が悪いんだ! 人を守り、救い、あまつさえこの世界の者として生きようという覚悟まで持ち、これ以上、彼らは何を望むんだ!?」 激情は朗々とした声となり、闇の空間をびりびりと震わせる。 そして――静寂。 十秒か二十秒か。たっぷりと間を取って吐かれた再度の言葉は、最初の時同様、疲れ果て、沈み込んだ声色だった。 「……仕方ないじゃないか」 それを言った途端、突然声の主である男性が、直上から下りてきたスポット・ライトに照らされる。 白髪交じりの頭髪、真っ黒のスーツに、手にした革製の鞄。その姿を見れば彼の姿は、嗚呼確かにこの世界にそぐっている。 そう、それはあくまで、彼個人の姿を見るならば。 「逃げたんだ。だが追われたんだ。彼らはその誰もが私を殺そうとして、だから私も逃げ場を無くしたとき、それに抗するしか方法はなかったんだ。 その果てに、彼らが変わり果てた姿となっても、私がそれらの責任まで負い続けることなど……」 照明の範囲が拡がっていく。 つい先ほどまでは彼の全身をどうにか照らす程度だった光は、最早その周囲までを煌々と映し出している。 初老の男性は、今それに気づいた様子で、周囲を見回した。 異形、異形、何処までも何処までも続く異形の、死体の群れ。 その形はどれもが違う。唯解っていることは、彼らが元は人間であったという四肢の名残と、彼らが元は戦士であったという武器、防具の残骸。 それを――その死体達をただ見続けていた男性は、泣きそうな顔で呟いた。 「もう、これ以上……私を追わないでくれないか?」 ● 「……辛い依頼」 「言われなくても解ってるさ」 『リンク・カレイド』真白イヴ(BNE000001)が見せた未来映像。それは正しく、『被害者』の悲痛な叫びであった。 『加害者』――リベリスタ達は、様々な感情を胸中に秘めながらも、それを瞑目の中に閉じこめ、ややあってフォーチュナの少女に問うた。 「敵の詳細は?」 「言うまでもなく、アザーバイド。スペックに於いては先の映像を見ても解るとおり、例え散発的にでも、追ってきたリベリスタを全員倒す程度の能力は持っている」 強い、単純に過ぎる言葉だが、この敵を形容するにはそれがピッタリだと少女は言った。 だからこそ、その対処は慎重を要する。 力がある。尚かつ、最低でもこの世界の人間に及ぶ程度の知識もある。それを相手にするのだ。生半な連携では、それを打ち破られる可能性がある。 「そして、能力。……彼が使う能力は、唯一つ、視線の通る通らないを無視して、戦場に居る任意の複数対象に対し、特殊な付与を与える能力」 「……!」 「具体的な効果だけど、付与された者は全ての能力の強化が施されると共に魅了状態となる。付与効果である以上回避することも出来ないし……重ね掛けによって解除することは有効だけど、敵にも知能がある以上、安易なやり方だとそれも上手くやり過ごされる可能性があるよ」 「……厳しい相手だな」 反応に困り、苦笑いしたリベリスタに対し、イヴはこくりと頷いた。 「彼は唯、生きたかっただけ。唯一つにして、生物の根源的な望みを断とうとする私たちに対して立ち向かうことが必要となれば――其処に手心を加える甘さなんて持っていない」 少女の言は何処までも容赦がない。しかしそれは、誰もが否定できぬ真理でもあるのだ。 「成功を、祈ってる」 何時も通りの、フォーチュナの言葉。 リベリスタ達はそれに頷いた後、緩慢な足取りで、ブリーフィングルームを出て行った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月24日(日)21:23 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 冷たい夜に羽音が響く。 『鷹の眼光』ウルザ・イース(BNE002218)が、『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)を担いながら、件のアザーバイドが居る倉庫の上空を飛ぶ音だった。人気がない故にその音は妙にハッキリと聞こえ、分厚い倉庫越しにでも相手に聞こえているのではないかという不安を抱かせる。 「中は見えた?」 「いや……駄目だな。灯りはどうやら付けていないみたいだ」 暗視があるのか、それとも襲撃を予測していないが為の余裕の現れか。いずれにしても快の偵察は無為に終わる。 彼の偵察では見抜けなかった点を埋めるために、快同様透視と、更に暗視を持ち合わせた『グリーンハート』マリー・ゴールド(BNE002518)が動いていたのは正解だったなと、彼は小さく苦笑する。 倉庫内部の敵の配置と、出入り口の数。置いてあるコンテナの場所などを詳細に観察し、戦闘を有利に行うことが出来る。 ――戦いたくもない敵に対して。 (……この人は、俺だ) 自身を運ぶウルザの前だからこそ、その感情を吐露することだけは避ける快だったが、頭の中で発される思考は途切れることがない。 世界と仲間を守れる存在で在りたいと願う、彼の理想の体現者。それがもしフェイトを喪失したときの、一つの可能性。 それを、叩き潰す。それは自己の喪失にも似た苦い行為。 止められない自らを悔やんでも、原初の決意の前には儚い意思だ。 片手で少しばかり顔を覆った快の胸中を図ったのか、ウルザも少しばかり、同情的な――しかし本心を、ぽつりと口にする。 「……彼はいい人だね」 「ああ、そうだね」 「でも世界を救おうと思ったら、必要なら外道にもならなきゃいけない」 「……」 少年だからか。純な思いは行為によって左右されることはない。 人を殺そうと、物を壊そうと、歪んでは成らないものを歪ませぬままに在る彼を見て、快は眩しそうな顔をする。 「『きょうのオレは外道だぜ』。……まったく、碌でもないよ。リベリスタなんて」 「……全くだよ」 ――泣きそうなくらいに。 「……何を恨めば良いのだろうな」 時間は少しだけ進み、現在、マリーや、上空偵察のために彼女を運んでいた『ネフィリムの祝福を』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)を始めとした『待ち伏せ班』の四名は、倉庫の一番の出入り口である搬入口ではなく、もう一つの出入り口……従業員用の出入り口の前で待機していた。 敵であるアザーバイドが来るまでの僅かな時間。零した言葉は、誰の耳にも等しく、彼女の気鬱を教えてくれる。 「私は、あまり、余計な感傷は……持ちません……。 放っておけば、世界を救う、人を救うどころの話では、ありませんから……」 それに、『幻惑剣華人形』リンシード・フラックス(BNE002684)が言葉を返す。リベリスタとして正当性の有る答えに対し、マリーは何も意見を挟むことが出来ない。 ヴィンセントも、先ほどまで快を抱えていたウルザも、同様だ。境遇に同情し、その思いを信じることは出来ても、それが存在肯定の理由になるかと言えば、否。 討伐は決定事項。覆らぬそれを眼前にまで至らせ、これ以上何を抱き、その度に得物をさび付かせれば良いというのだ。 それを、口には出さない。十代半ばにも至らぬ少女に、男達の――年齢の差異は有れど、だ――意見は、酷に過ぎると言うもの。 果てなど無い求道を口腔に収めたマリーは、唯、時間が過ぎるのを待つ。 時間はおよそ数分後。彼らの携帯に、音も振動もない着信が届き、その後に無声音が発される。 「……動くよ」 ● 「港の倉庫たぁ、随分ドラマっぽいな」 『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)が言葉を告げると共に、幻想纏いから自身の得物を解き放つ。 突入は寸前。先ず彼らが倉庫の正面――搬入口より彼を追い込み、それに気づいて逃亡しようとしたアザーバイドが従業員入り口に向かったら、そこに待ち伏せしているもう一班が彼の挟撃を行い、不意打ちを以てその戦力を大幅に削ぐ。 敵が逃走を優先すると言う思考を逆手に取った作戦。合理的で効果も高いが、それは全員の連携が上手く合わさってこその話。 「……そう言えば、りりすは何処に行ったんだ?」 突入班は待ち伏せ班と同じく、本来は四人の筈だ。だが今居るのは、俊介を含めて三人。残る一人である『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)の姿が足りない。 それに対し、 「先に庫内に入っている、と連絡が有った。死角には隠れているらしいから、心配はないとのことだが」 「……」 返された『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)の言葉を聞いて、俊介がかくりと頭を下げる。 連携が重要。そう言っている端からこれでは、彼らが懸念するのも仕方のない話と言える。 「兎も角、行こうか。待ち伏せ班の方にも、既に連絡はした」 苦笑混じりの快の言葉に、残る二人も頷いて――遂に、彼らはその搬入口を開ける。 理不尽な世界の悲嘆によって、摺り切れたアザーバイドとの相対。 それを、果たすより早く。 「……ああ、漸く準備が整ったのか」 「!?」 庫内の闇が覗くと同時、飛んだのは朱色の光。待機していたりりすを含め、快、俊介がそれらをまともに喰らい――瞬間、その瞳から理性が喪失する。 「……従業員も居ない故に扉を閉じていた庫内に人が来た時点で、追っ手の可能性は予期していたよ。 即座に逃走しようかとも思ったが、止めた。今までの君たちは常に集団行動を行ってきた。ともすれば彼……彼女かな? が一人でやって来たのは囮で、既に周囲はその仲間によって包囲されている可能性がある」 「……!」 「どうするかと悩んだが、其処な子供は私から逃げるようにコンテナの影に隠れた。理由は解らなかったが、少なくともあの子は私に気づかれていないと思っていたのだと推測した。そう思わせる作戦かも知れなかったから、正直賭だったがね。 ともあれ、それ故に私はその考えを利用させて貰った。……あの子以外に侵入してきた人達のカウンターでこの力を叩き込み、戦線が混乱している間に、其処を正面突破させて貰おうと」 突然、最悪の状況が訪れた。 りりすが仮に『単独で』先んじて侵入していなかったら起こらなかった偶然。そして気配を遮断せず、音や動きを気づかれぬ明確な対策、方針を決めていなかったが故の結果。 更には逃走を第一にしても、それによって混乱はせず、あくまで冷静に状況を推測する思考力。 ぎり、と歯を食いしばったユーヌが、即座に守護結界を仲間達に付与しようとするが―― 「……通らせて貰うよ。せめて君たちは、殺さずに」 それを行うより、彼らの行動の方が早い。 アザーバイドが彼らへ向けて走ると共に、拳を構える。 扉を開いたばかりで、突入もしていなかった快と、俊介の瞳が仲間に揺らぐ。 そして、倉庫に潜んでいたりりすも、また。 銀閃が、 詠唱が、 轟撃が、 徒手が、 少女の周囲に、炸裂した。 ● 異常を感じた待ち伏せ班の面々が、自ら庫内へと突入する頃には、彼らの戦闘は既に終盤を迎えていた。 状態異常回復と付与上掛け、更に拘束、超直感を利用してまで巧緻を極めた攻撃、そして全体、個人の切り替え可能な回復能力。数こそ少ないものの個々の役割がしっかりと割り振られているパーティを相手に、アザーバイドは自身の予想を裏切られ、その体力を大きくすり減らしている。 ――だが、味方の消耗はその遙か上を行く。 仲間とアザーバイドによる攻撃を立て続けに受け、フェイトの加護も使いながら、それでも尚敵の進路妨害と、守護結界による付与打ち消しに徹するユーヌ。 また、行動の遅いユーヌに至るまでの間に魅了をかけられた者の同士討ちによる被害も少なくはない。快に至っては、更に回復役を狙うアザーバイドの攻撃からユーヌを守らなければならぬ為、そのダメージは半端なものではない。少なくとも二回は戦闘不能から立ち上がっている。 ユーヌがアザーバイドから距離を取れば、未だ安定した布陣を取る事も出来たのだろうが……彼女にはそれも出来ぬ理由がある。 理由は簡単で、それを言葉に出したのは、戦況を最初に確認し終えたリンシードだった。 「暗くて、良く……見えません」 「ッ、光源を忘れたのか!?」 彼女を除いて、暗視持ちが揃った待ち伏せ班はこれに気づくのに一秒に満たぬ程度の時間を要したが――その通り。リベリスタ達はその最も重要なファクターを用意し忘れていた。 入り口近くとはいえ、場所は僅かな換気、斜光用に設置された窓がある程度の庫内。月や星の光も満足に届かぬ其処では、目が闇になれても僅か数メートルの距離さえ取れない。 全体を効果範囲とする能力は、基本的に対象の存在を正確に認識してこそ発動できる能力だ。多少の遮蔽物などは兎も角――視界を埋め尽くすほどの闇に覆われたこの現状でそれは、些か無理がある。 その、結果が――これだった。 「く、そ……っ!」 待ち伏せ班が一気に距離を詰めるが――僅か十秒の内で、彼らの助力に入ることは出来なかった。 それまでの間に、敵が――動く。 「――――――!」 掌を、ユーヌを庇う快に当てる。 叩き込むのではなく、触れると言うほどの柔らかな接触。 たかが、それだけで――彼は身体中の血液を飛沫かせ、その膝を折り、横たわった。 「……、やっぱり良く解らないけど。君はこの世界の事が嫌いなんじゃないのかな?」 視覚に代わり、猟犬の嗅覚を以て、戦闘はある程度支障なくこなせていたりりすではあるが、それにも限界というものはある。 他の者ほどではないにしろ、それなりに消耗した矮躯が放つ鉄槌は、異世界人の腕にぶち当たると同時、ばきりと異音を立ててその左腕を砕くものの、彼はその表情を変えはしない。 「……好きではないさ。だから、好きになろうと思った」 残る片腕で鉄槌ごとりりすを振り払った男は、それと同時、ユーヌに接近して頭部に蹴りを叩き込む。 がふ、と言う音と共に、彼女もまた膝をつく。これで――彼の付与能力に対して、全体を即座に回復させる手段は失われた。 くそ、と悔し声を漏らす俊介もまた、ユーヌ同様距離を取れぬ身故、仲間の近距離に在って回復を飛ばしながらも、必死の声を、必死の意思を男にぶつける。 「生存本能に忠実。おまえは間違ってねえよ。だが……殺すのは、殺される覚悟がある奴だけだ! おまえはもう、多くを殺した! こっちの世界の人になりたいんだったら何故殺した! 殺せる力があるなら、殺さずの道がオマエにはあったはずだぜ?!」 「『今の君たち』を相手にして、私が生き残る道が他になかったからだ!」 叫声に叫声で答えるアザーバイドは、拳を握りしめながら俊介に声を返す。 「君たちは何時も確実を以て私を殺そうとする。まるで私の行動を読むかのように! それを、ただ力しかない身がどう防げた!? 説得して慈悲を乞うてこの世界を救うと何度も何度も誓って、それでも君たちは私を許さない! ならば抗するしかなく、その果てに誤って人が死んだらそれは私の責任なのか!? 殺されたくないなら殺されろ。君が言っているのはつまり、そう言うことだ!」 激昂と共に放たれた拳は、しかし――それが至るより、ギリギリで射程範囲に入ったヴィンセントの銃弾によって、攻撃から防御へと回された。 新たな邪魔者。憤怒を露わにして振り返るアザーバイドは、しかし……視線の先にいた、マリーの涙によって、その意志を鎮められる。 「……畜生」 理不尽な運命。唯生を望むだけの男に向けられた過酷な世界を救うことが出来ない無力を、マリーは悔やんでいた。 「貴方が生きるのに必死なように、私達も、生きるのに、必死なんですよ……」 「……? 君は、何を」 「貴方のためだけに世界を滅ぼすわけにはいきません……」 「!?」 同様に、追いついたリンシードが告げる言葉は、恐らくこのアザーバイドにとって予想だにせぬ事実であろうと、その表情から予想できる。 彼は本当に、元の世界に於いて只の一般人であるのだろう。だからこそ崩界の事も、自身がその要因となろう事も、知ってはいなかった。 ――それを、今知っては、しまったけれど。 沈黙は僅か数秒。次に吐き出された言葉は、アザーバイドである男のものに相違はなく。 「……ああ、それじゃあ、私はさしずめ、恐怖の大王とでも言うところだったのか」 異能者自身からの告白は、異能を知らぬこの世界の無知なる者達と過ごしてきた彼には、一際重い事実に聞こえる。 ……。だけど、 「それでも、私は、生きていたいんだ……!」 言うと共に、彼は魅了能力を展開。倉庫搬入口を塞ぐ残り二人――りりすと俊介の理性を霞ませ、同時に彼らの脇を抜けて逃走を再開する。 「待っ……!」 走る。 だが、足りない。 距離は今漸く、後衛の射程距離に至った程度。その距離も彼が移動したことで更に開き、その上彼の元に着くには、その眼前――魅了に囚われたりりすと俊介を切り抜けなければならない。 「私は、叶うことなら――!」 「……よしてくれ」 最後の最後。聞こえるとも思っていなかった微かな声を、しかしアザーバイドは律儀に返答する。 「私が敵であることに、間違いはないんだろう。世界の味方」 「……」 「なら、同じ事だ」 それが、最後に交わした言葉。 破れ、血に汚れきったスーツすらも、闇は等しく包み込み――彼らの前から、姿を消した。 ● 「最後まで、よく解らなかったね。あの人」 余力の残る俊介の回復による応急処置を受けながら、りりすが小さく呟いた。 芝居を演じる役者のような、現実にない浮遊感。測定するために立ち向かったそれは測定前に失敗し、彼の胸中を最後まで読み取ることは出来なかった。 「さて……。所業は許せませんが、彼のことが憎いわけではないので気の毒に思います」 個人の主観には見解を述べず、ヴィンセントは唯淡々と言葉を返すのみ。 彼に代わって、この世界の理不尽を憎もうとした彼ではあったが、その必要は無くなってしまった事に、幾ばくの空虚さを覚える。 ――どの道、この世界を愛する彼には、それは無理なことだったけれど。 「……生きたいのも、馴染む努力も正しい」 皆の会話が停滞した頃。 立ち上がったユーヌは、上空の月を見上げて言葉を零す。 「世界に愛されてないこと以外は、胸を張って誇っていい、自分は正しいと」 遠近感によって縮小したそれを、伸ばした手の平で包み込むようにしながら、ユーヌは言葉を続ける。 決意の言葉を。 ――そして、不平も不満も怨嗟も私達に向けて、正しいまま在り続けろ。 ――私達が次こそお前を果たす、その時まで。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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