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血狂いのククリ

●罪を犯してでも
 もし何かを犠牲にすれば大切な人が助かるとすればどうする?
 けして安くは無い代償だが確実に助かるのだとすればどうする?
 助ける為にはそれ以外に手立てがないと知った時はどうするだろうか。
「恨みはない。ただ、己の不運と私を憎んでくれ」
 男はそう言って目の前の人物の胸に刃を突きたてた。その刃は容易に人の肉を突き破り、骨をも切断し、背中から血塗れとなって姿を見せる。
 刃を突きたてられた人物は体を震わせ、何かを掴むように手を前に伸ばすが空を切り、そして声も出せずに徐々に力を失っていく。
 そして異様な光景が始まる。ビクンと大きく体を揺らすとガクガクと痙攣してその身を跳ねさせる。そしてその人物はだんだんと乾いて行き、終いには皮と骨だけを残すミイラのような姿になってしまった。
 男はそのミイラの肩に手を当てて押さえ突き立てていた刃を引き抜く。乾ききったミイラは支えを失い崩れるようにして床に落ちた。
 床で音を立てて壊れるミイラ。男はその様を一瞥すると踵を返して歩きだす。
「まだ足りないか」
 刃をコートの袖へと仕舞いこんだ男は目の前にある扉を開く。暗がりの室内から日の光ある明るい外へと出た男はその眩しさに目を細める。男はホンブルグハットを深く被り、人の行き交う大通りに目を向ける。
 そして暫くするとゆっくりとした足取りで歩み始め、人の雑踏の中へと姿を消した。

●罪を裁く者達
 アーク本部のブリーフィングルームで大型モニターの明かりが灯る。
「連続殺人事件が起きてる。犠牲者は分かってるだけで七名」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がコンソールを叩くとこれまで犠牲になった人物の写真とプロフィールが表示される。その犠牲者に目を通しているとある共通点があった。
「全員犯罪者だな」
 殺人、強盗、誘拐、恐喝等々。犠牲になったのは何れも軽くない罪を背負っている人物ばかりである。
 世直しでも気取っている犯人なのかと言えばそれはないであろう。犠牲者の死因を見れば分かる。
 何れも精気を吸い取られての衰弱死。それも干乾びるまで残らず吸い尽くされている。
「犯人は分かってる。その動機もね」
 イヴの過去視とアークの情報収集能力によって短い時間でそれは集まった。
 大型モニターに表示されたのは壮年の男性。柔和な顔立ちでスーツ姿に帽子を被るどこにでもいる会社勤めの男にしか見えない。
 だが詳細な情報を見れば外見で判断するのは間違いであると分かる。
「彼は元傭兵。エリューションの力が無くても戦いのプロなの」
 その道で二十年以上のベテラン。経験だけで言えばここにいるリベリスタ達以上であろう。
 そしてモニターの画像が移り変わる。そこには一本の刃物だった。
「これが彼の所持している破界器よ」
、全長50cmには届くであろう大型のナイフ。『く』の字型をした特徴を持つククリと呼ばれる短刀だ。
 これを使ったからこそアークがこの事件に目を付けたとも言える。
「しかし何でまた……」
 リベリスタがそう呟く。男の情報の最後には今は足を洗って妻子のいる身であると載っている。それが何故このようなことをしているのかと疑問に思う。
「これが動機。見て」
 イヴが示したのはどこかの病院の一枚のカルテだった。そこには一人の少女の症状が細かく記されていた。少女は半年程前から体調を崩して入院し日に日に弱っていく様が見て取れる。
 ただ、その病状については要領を得ず最終的な答えは『原因不明』の一言だった。
「原因が分からなくて当然」
「どういうことだ?」
「この子の精気を生み出す力が著しく低下しているの。消費に供給が間に合わないくらいに」
 このまま供給が間に合わず消費し尽くせばあとは衰弱死しかない。
 これで合点が行った。つまり動機は娘の為に他の人間から精気を奪っているのだ。
 そこで犯罪者ばかり狙うのはこの男の残された良心であり、己の罪への言い訳であるのかもしれない。
 しかし、如何なる理由があろうともその行為は止めなくてはならない。リベリスタ達は未来視による男の出現情報を確認する。
 そして如何なる方法でこの男に対処するかと作戦会議が始まった。
「少し気になることがある」
 そこでイヴが一言口を挟む。リベリスタ達が目を向けるとイヴは男の娘の写真をモニターに表示させこう呟いた。
「この子からエリューションの力の残滓を感じた」
 その事実が何を意味しているのか。ただ、それは悪い予感しか感じさせなかった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:たくと  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年07月26日(火)21:24
【依頼内容】
・事件の解決

【敵情報】
・真壁 一鉄(まかべ いってつ)
 年齢は40代ほどの壮年の男。黒のスーツに帽子を被り外見はただの一般人にしか見えない。
 元傭兵であり一般人としての実力は折り紙つき。特にナイフを使った近接戦闘に長けていた。
 妻子がおり、その娘が原因不明の病に倒れ入院。妻はその看病に付きっ切りとなっている。
 今は犯罪者を殺しその精気を奪うという犯行を繰り返している。
 犯罪者を見つける術や破界器を手に入れた経緯は不明。

【破界器情報】
・血狂いのククリ
 特性は強化と吸精。鞘とククリで一つの破界器となる。
 鞘から抜くことによって使用者の身体能力を上げる力があり、一般人でもリベリスタと同等の力を得ることが出来る。
 吸精能力は刃で相手を傷つけることにより発動。使用者を回復させたり、そのままストックさせることも可能。
 鞘から一度抜くと誰かの精を吸うまで再び鞘に収めることが出来ず、一定以上距離を置くと使用者の手元へ戻ってくる。

【戦域情報】
 町外れの廃ビル。深夜で天候は晴れ。
 10階建てのビルで屋内には調度品の類は一切残っていない。
 しかし柱や区画分けされた壁により隠れる場所は多い。



 段々と火力を上げる太陽が憎らしい。たくとです。
 誰かを助ける為には代償がいる。今日も世界は不条理です。
 愛する者の為ならば罪を犯す事も辞さない。その判断をどう思うでしょうか。
 悲劇に踊らされる男を舞台から降ろしてやって下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
★MVP
クロスイージス
アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)
インヤンマスター
アンデッタ・ヴェールダンス(BNE000309)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
デュランダル
一条・永(BNE000821)
ホーリーメイガス
アゼル ランカード(BNE001806)
インヤンマスター
桜場・モレノ(BNE001915)
プロアデプト
柚木 キリエ(BNE002649)
ソードミラージュ
ブルー・マックス(BNE002685)

●廃ビルを見上げて
「娘さんのために人殺し、ね。苦手な話だぜ」
 物陰に隠れながら廃ビルを見やる『ドアキッカー』ブルー・マックス(ID:BNE002685)はそう声を漏らす。
 ブルーは日中の間に一鉄の娘へと面会に行っていた。それはその娘や妻が何か異変がないかという調査であった。
 そして確かに娘の方の生気が著しく低下していることは確認できたが、それ以外に不審な点は何もない。
 本当にそれ以外は普通の母と娘であり。病室をでる時には辛いであろう体を起こし手を振って見送ってくれた。
「けどエリューションの力の気配って、どういう事なんでしょうか」
 何も分からないことが分かった。そうなると結局その疑問が残り『飛刀三幻色』桜場・モレノ(ID:BNE001915)は首を傾げる。
「やはり彼に直接聞くしかないようだね」
 『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(ID:BNE002649)はそう言って懐から取り出した眼鏡を掛ける。
 キリエもブルーと共に病院へと訪れていたのだがその際に見つけられたものは無かった。
 その隣で沈黙を守る『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(ID:BNE000680)もまた病院を訪れた一人だ。
 紳士的に見舞い、そして心と懐にナイフを隠したままその面会は終わった。
「任務を開始する」
 ウラジミールそれだけ告げて銃痕の開いたドックタグの幻想纏いより愛用の銃を顕現させた。
 その頃ウラジミール達のいる反対側では――。
「ふう、設置完了っと」
 ビルの一つの出口側で『墓守』アンデッタ・ヴェールダンス(ID:BNE000309)は一仕事したと汗を拭う仕草をする。
 そこに設置されたのは簡素ながらマントと鉄パイプを持たせた等身大のドール、つまりは案山子役だ。
「ビルの見取り図は頭に入れました。しかし廃ビルでは思わぬ『穴』もありそうです」
 何名かが病院へと訪ねている間に廃ビル周辺の情報を集めていた『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(ID:BNE000024)は廃ビルに視線を移す。
 廃ビルからはまるで物音が聞こえず本当に誰もいないのではと思わせる。
「あちらも準備ができたようです」
 反対側の仲間に連絡をしていた『永御前』一条・永(ID:BNE000821)は手にした携帯電話をパタンと閉じた。
 それではそろそろこちらもと各員が幻想纏いより己の破界器を顕現させる。
「よしっ、それじゃあたいの出番だねー」
 間延びした声でアゼル ランカード(ID:BNE001806)は手にした古びた本の表紙を撫でる。
 すると本の表紙を綴る文字が明かりと共に浮かび上がったと思ったら独りでに本は開きページを捲って行く。
「大空を舞う為の仮初の翼を――」
 アゼルが祝詞を捧げると本から放たれた光が各々の背中へと向かいそこにデフォルメされたような小さな翼を作り出す。
「それではアンデッタ様、あとはお願いします」
「きしし、はーい。絶対に逃がさないよ」
 翼の加護を受けた永達は小さな翼をはためかせビルの屋上へと目掛けて飛ぶ。
 アンデッタはそれを見送り、ビルの反対側へと飛んだ。

●暗闇の戦場へ
 ブルー達は廃ビルの一階へと足を踏み入れる。
「止まれ」
 と、その前にキリエが声を掛け仲間を止める。
 キリエはそのまま何も言わず慎重に歩を進めて正面入り口の足元の部分に目を凝らす。
 そこには黒く塗られたワイヤー、それが感覚を置いて二本伸びているのが見える。
 そのワイヤーを辿れば最終的に頭上に吊るされているネットを見つけることが出来た。
「まさか入り口から仕掛けてるなんてな。もしかしてオレ達が来るって気づかれてるか?」
 ブルーはワイヤーを切らないように大股で跨いで入り口を越える。
「コレは一般人向けの物だ」
 ブルーの言葉を否定するようにウラジミールが応える。
 ネットが落ちてくるだけなら殺傷性は皆無。恐らく誤って人が入らぬようにする為の罠だ。
「それはつまり。この奥に行けば俺達用の罠も待ち構えてる訳ですね」
 モレノは入り口から廃ビルの奥へと目を凝らす。月明かりがあるとは言え屋内ではそれも届かず闇に落ちている場所だらけである。
 リベリスタ達は灯りを使わずにそのまま廃ビルの中を捜索する。一階は広いロビーと受付などで特に探す範囲は多くは無い。
「トラップは各所にあるけど、一階には危険なものはないようだね」
 通路の曲がり角に数個だけ転がっているかんしゃく玉を拾い上げキリエはそう判断する。
 一同は1階の捜索を終えて2階へと向かう。階段にもまた罠があったが難なくそれを超えて辿りつく。
 2階もまた捜索するが今度はトラップらしいトラップは存在しなかった。まるで拍子抜け、と言った具合に一つたりともである。
 そして二階の捜索も早々に切り上げ3階に向かおうと階段の前に来たところで……
「伏せろ!」
 ウラジミールが声を上げる。暗視の効いたその目には上の階からであろう。手すりの隙間から落ちてくる球体が見えた。
 一拍を置き、甲高い炸裂音と閃光が溢れ出す。
「閃光手榴弾、かよ」
 軽く音にやられて頭を振って気をしっかりさせるブルー。キリエも軽く眉間を押さえて頭を振る。
 体勢を立て直すリベリスタ達に更なる追い討ちはこない。今のは警告なのかそれとも小手調べだったのか。
 何れにしてもこちらの存在は知られてしまっており。そして誰かが、戦闘のプロがここに居るということは分かった。
「すぐ上にいるみたいですね。急ぎましょう」
 モレノの言葉にリベリスタ達は慎重に階段を上っていく。
 そして案の定仕掛けられているワイヤートラップ、その先にはピンが抜かれレバーの固定された炸裂手榴弾。
 ここからはお遊びではなく本気で殺しに掛かってきているという証。
「いよいよ本番だな。気を引き締めて行こうぜ」
 ニヤリと笑みを浮かべ担いでいた大剣を構えなおしたブルーは三階のフロアに足を踏み入れた。

 その頃屋上より階下を目指していたもう一組みのリベリスタ達は9階の時点であるものを見つけていた。
 それは武器庫と言えばいいのだろうか。一つの部屋に少ないながらも幾つかの箱が並べられており。その中には銃や手榴弾など物騒なものが詰まっている。
 置いてあるクローゼットを開くとその中には男物のスーツやラフな普段着など着替えが吊るされている。
「どうやらここが真壁様の拠点であったようですね」
 永は手にしていたランプを一つの木箱の上に置きそう呟いた。
 恐らくではあるがこれはエリューション事件が起こる前から準備してあったのだろう。
 喩え足を洗おうともその業からは逃げられなかったのか……ただ、品揃えは悪くどれも整備が行き届いてるとは言い難い。
 心の平穏の為だけに用意して放置されていたのであろう。それがこうして使われる事になったのは何とも皮肉なものだ。
「永さん、下の皆が襲撃にあったみたいだよ。今は三階を捜索してるんだってー」
 携帯電話をポケットにしまいながらアゼルはそう報告する。
 三階となれば随分と下だ。このまま降りて行き加勢に行くべきかと思案する。
 と、永が意見を聞こうとアゼルへと振り向いた時。そのアゼルの背中で蠢く影を見た。
「アゼル様、伏せて下さい!」
 永は横薙ぎに薙刀を大きく振るう。アゼルも背後で膨れ上がる気配に気づき慌てて倒れこむようにして姿勢を低くする。
 ギィンと金属同士がぶつかる音が響く。同時に散った火花が闇を払い襲撃者の姿を照らし出す。
 くの字に曲がった特殊な刃を持つ得物――ククリを逆手に構えたスーツ姿の男がそこには立っていた。
 アゼルがその場を脱したところで永は薙刀を捻り刃を合わせていたククリを弾く。スーツの男もそれに抵抗せず後ろへと下がった。
「特務機関アーク所属、一条永でございます。真壁一鉄様でございますね?」
 薙刀の刃を下ろし、永は光と闇の間で朧のように浮かぶ男にそう誰何する。
「……真壁一鉄は確かに私だが。お嬢さんと面識はあったかな? それに、アークとは?」
 僅かの間はあったものの一鉄はその問いに応じた。だが警戒は解いていない。情報を得ることを是としただけだと永も納得し言葉を続ける。
 一鉄はそれを否定せずに受け入れた。少し前なら笑って一蹴しただろうが、今その手にあるククリが彼の考え方を変えさせている。
「御息女の病状は病などではありません。アレもそのナイフと同じような超常が引き起こしたモノでございます」
 永の言葉を一鉄は無言で聞き続ける。表情一つ動かさないその様子に言葉が伝わっているのかという疑心に駆られつつも説明を終える。
「だっておかしいでしょ。娘さんが原因不明で倒れた時期に、それ貰ったなんて都合が良すぎないですかー?」
 アゼルもまたその疑問を呈する。エリューションの存在を知っていればそれはあからさま過ぎて疑わないほうが可笑しい。
 一鉄もまたその疑心は僅かながらに持っていたがコレまでの説明で確信へと至ったはずである。
 少しの間を置いて一鉄はククリの構えを僅かに解く。
「ですからアークにて保護を受けては如何でございましょう?」
 それを見た永も薙刀から片手を離し一鉄に向けてそう誘いの言葉を掛けた。
 だが、一鉄はその差し伸べられた手を取りはしなかった。
「すまないね。私は臆病者なんだ」
 軽い自嘲とも取れるその言葉と共に、一鉄の上着の内側から幾つかの球体が落ちて部屋の中へと転がる。そして一鉄はその部屋の扉を閉じた。
 そして二人が扉を破るより前に部屋の中に転がった球体がその役目を果たし閃光と音撃が連続して狭い部屋に満ちる。
 至近距離で数発の閃光手榴弾を浴びた永は繋ぎとめた意識で一言だけそう呟いたが、そこで解れた糸が切れるように意識を手放した。

 階下から上を目指しているリベリスタ達は結局一鉄とは遭遇することなく5階まで辿り着いていた。
「明らかに罠多すぎだろ?」
「やっぱり、この襲撃はバレていたのかもですね」
 ブルーもモレノも大きな傷はないが集中状態の維持に大分疲労を隠せなくなってきている。
 と、その時。上の階にて何かの炸裂音がした。そしてソレのみでそれ以降に戦闘音などは聞こえてこない。
「どうやら意図せずして足止めを食らったみたいだね」
 キリエは携帯電話を使い先ほど連絡したアゼルに連絡するが……でない。
 リベリスタ達は互いに視線で合図をするとそのまま階段へと向かい上の階へと目指す。
 そして8階のフロアへ足を踏み入れた途端、柱の影から黒い影が躍り出た。
 暗視を会得していたウラジミールとキリエは素早く展開してそれを避ける。
 そしてその黒い影は反応の遅れた二人の中でモレノに狙いを定めて黒光りするナイフを突き出した。
 モレノは咄嗟にダガーを構えそれを防ごうとするが肉厚の刃の重さにダガーは打ち落とされ肩に熱さと共に痛みが溢れ出す。
「ちっ、奇襲かよ!」
 ブルーは振り上げた大剣をモレノに突き立てるナイフ――ククリを手にしている腕に向けて振り下ろす。
 黒い影は素早く手を引いてククリを引き抜くとその斬撃を避け、そのまま素早い動きで柱の影から曲がり角の闇へと走り抜けて行く。
「大丈夫かな?」
「な、なんとか……ただ、やっぱり吸われたみたいです」
 モレノは自分の肩の傷口に符を当てて治療する。すぐに出血は止まり傷口も閉じたがその怪我以上に体にだるさが襲い掛かっていた。
 キリエは掛けていた眼鏡を外して黒い影が走り抜けていった通路を見やる。窓もなく月明かりもない完全な闇。
「彼はここを戦場に選んだようだ」
 言葉を交わすことはどうやら叶わないらしい。リベリスタ達はそのまま8階のフロアを進み始める。
 そして一つ目の角に差し掛かった瞬間、曲がり角の向こう側から腹部の高さに走る刃の軌跡。
「っ! 何度も奇襲を受けるかよ!」
 ブルーは大剣の腹でソレを受け止める。
 その一撃は酷く重くこれを腹に受けていれば背中まで突き抜けていただろう。
 ブルーがククリを受け止めている間に角から飛び出したウラジミールは銃を構える。
 一鉄はブルの剣の腹を蹴り飛ばし体勢を崩すと反動で上体を逸らしウラジミールの銃弾を避けてみせた。
「ならば、これならどうです!」
 道力により操る刀剣で一鉄を包囲するとモレノの姿が霞む様にして消える。
 地面、床、天井。そして刀剣が音を鳴らす毎に飛刃が一鉄の体に襲い掛かった。
「温いっ!」
「なっ――くはっ!?」
 全身を切り刻まれていたにも関わらず一鉄は背後よりきたモノレの腕を掴み、腕力にモノを言わせそのまま正面の床に叩きつけた。
 一鉄がすっと顔を上げると、その顔に走っていた一線の傷が逆再生するようにして塞がっていた。
「破界器を使った再生だね。やっぱり厄介だ」
 キリエは力を宿らせたダガーを一鉄の持つククリに向けて投げつける。
 一鉄はそのダガーをククリで弾き落とすとその狙いをキリエに変え、獣のように低い姿勢で接近。
「だからさせねーよ!」
 だがそこにブルーが割って入る。幾重にもブレたその姿から振るう大剣に一鉄は受けるタイミングを逸して大きくたたらを踏んだ。
 そこにさらなる追撃。一鉄の側面から荘厳な気配を漂わせる鉄槌が振りぬかれる。
 ククリで辛うじて受けた一鉄だが勢いを殺せずそのまま壁にしこたま叩きつけられ、その壁も崩れて奥の部屋まで転がっていく。
 リベリスタ達は素早くその部屋に入り一鉄を囲う。
「ごほっ……化け物か」
 痛みに耐えて起き上がった一鉄は始めて口にしたのはそんな言葉だった。
 リベリスタ達は武器を構えたまま一鉄に問いかける。
「そのナイフ、あんたの持ち物じゃないだろう? 誰から貰ったんだ?」
「……」
 一鉄は応えない。だがブルーの力は言葉にせずともよい。
『病室を訪れた男が――』
 そこまで読めた瞬間、頭の中を覗かれているのに気づいた一鉄はブルーに向けてククリを投げつける。
「ぐっ!」
 思考を読むことに気を移していたブルーの腕をククリが浅くだが傷つける。
 そして武器を手放した一鉄をウラジミールが背後より腕を捻り地面に抑え付けた。
 キリエは床に転がったククリを拾って一鉄より少し離れた位置へと立つ。
「お前達は私を、私達をどうしようというんだっ」
 一鉄は吼え、そして睨みつける。
「暴れるな。逃走すれば次は娘が貴様がしたことと同様の目にあうぞ」
 その言葉に一鉄は僅かに力を弱める。これで話が出来る、そう思った時だった。
 突然、ウラジミールの腹に激しい痛みが走る。そして襲いくる虚脱感に全身の力が抜ける。
「お前達が娘の病室に訪れたのは知っている。やはり信用ならんな」
 一鉄はウラジミールを跳ね除けるとその腹に刺さるククリを引き抜いた。それがキリエが持っていた筈であるのにいつの間にかそれは一鉄の手中にあった。
「待てっ、俺達は――」
「もはや語る弁はない」
 狭い部屋の中で剣戟の音が響いた。

●罪人は罪人のまま
 廃ビルの屋上では空になり穴の開いた貯水タンクの上でアラストールが月を見上げていた。
 満ち切らぬ月に朧雲がかかったところで後ろ髪が引かれる感覚を覚えてそちらを見やる。その背中には誰もいない。
 アラストールはタンクから降りてその方向の屋上の端まで歩く。そして、そのまま廃ビルの端から飛び降りた。
 足元から吹き付ける風が髪を上へと巻き上げ、見る見るうちに地面が迫る。
 ビルの半ばを過ぎた地点で軽く腕を振るうと窓に設置された冊子にワイヤーを絡める。そこから壁を蹴ると振り子のようにビル壁のすれすれを大きく横に移動する。
 そしてワイヤーが最下点に達したところで手を離すと、丁度地面まで1メートルの高さ。大地に足を着け、数メートル靴で地面を削ったところその体は止まった。
「これはまた、派手な登場だね」
 目の前には一鉄が立っていた。アラストールは語らずに一鉄の姿を見やる。
 その姿は満身創痍。立派であっただろうスーツは切り裂かれ血で赤黒くなっている。
「そこを通してくれないかな」
 それはお願いではなく意志。一鉄はだらんと下げた腕にククリを握る。
「――悪いがそれはできない」
 瞬間、アラストールの構えた盾に衝撃が走る。
 重い。それはその体で放つには重過ぎる一撃。
 それが一合、二合、三合……明らかな大振りの一撃をアラストールは受け止めてみせる。
「私は、私は娘の。妻の下に、帰らなければならないんだ!」
 一鉄は吼えると共に渾身の一撃を放つ為に振りかぶる。
 だが、突然に腕に走る痛み。零れ落ちたククリが宙を舞っていく。
「駄目だよ。それ以上死者を取り込んじゃ」
 幼さの残る少女の声。それが一鉄の耳に聞こえた時に正面に居たアラストールは己の剣を振り下ろしていた。

 静かになった廃ビルの前でアンデッタは倒れている一鉄から鞘を押収し、落ちているククリを拾う。そして僅かにその刃で自分の指を傷つけて鞘の中へと仕舞った。
「ねえ、この破界器どうしよっか」
 独白のような言葉を吐くアンデッタ。
 一鉄をワイヤーで縛り上げるアラストールは応えない。
「子を守りたいと願う親の情。それはまだ叶えられるだろうか」
 すっと月を見上げてそう呟いたアラストール。
 鞘に収めたククリを撫でるアンデッタは応えない。
 まだ明けぬ夜の闇の中で。一つの舞台は沈黙を保ったまま幕を下ろした。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様です。今回の結果は成功となります。
但し依頼内容をこなしたという意味での成功であり、一鉄はそのまま捕縛という形で幕を閉じました。
彼を説得するには穴を埋める為の欠片が足りず、そしてその穴を大きくしてしまう行動もありました。
彼は今後取調べなどを受けアークとして処断が下されるでしょう。
ただ得られた情報もありました。それが今後何かに関わってくるかもしれません。

さて、今回はアラストール殿にMVPとして称えます。
理由としては事件を解決する為の英断や一鉄を逃がさぬ為の一手などに尽力した点です。

では今宵はこれにて失礼します。皆様とまた別の舞台で出会えることを願います。