● それは盆前のことだった。 「今年もまた登ることになるのね……この果てしなく長い清掃活動をさ……」 とあるお掃除屋さんの言葉に、アークの人は、にっこり笑った。 「まあ、予行練習と思って。よろしくね!」 そう。俺たちの戦いはこれからだ! アークは、積極的に皆さんの宿題完遂のお手伝いをします! 三高平の青少年は、戦闘しか能がない。なんて、いわせない! ● 「アークって教育熱心なんだね。宿題とかないとか思ってた」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、俺は宿題終わったと言い切りやがった。 ああ、夏休みも残り一週間をきってしまった。 ああ、楽しかった夏休み。 最後は、南の島で締めるのさ、アハハウフフ。 「みんながんばった門ね。ゆっくり羽を伸ばして休むの大事だよね」 固唾を呑むリベリスタ(宿題持ち) 「でも、やることすませないと、全力で楽しめないよね!」 やだなぁ、シモン・四門。 そんな台詞、都市伝説、二次元だけの話だよ? 「でも、俺は終わってるし。宿題残って気もそぞろな人、あそぼーって誘うの気が引けるし」 細かいこと気にすんな! 「みんな、宿題、終わってないんでしょ?」 聞こえません。 というか、あんなものは九月上旬あたりまでにうやむやのうちにしてしまえばいい代物ですよ? リベリスタのかたくなな態度に、四門はわずかの時間目を伏せる。 「いろいろみんなに働いてもらって時間を使わせてしまったアークとしても、みんなにきちんと学校の課題を済ませてもらいたい。ぜひフォローをさせてほしい――って、イヴちゃんが」 ええい、イヴちゃんの威を借る四門め。 「でも、みんなの勉強がはかどらなかったのも分かるんだ。やっぱり後回しになっちゃってるのとか、あるよね」 畜生、ごり押しじゃないから反発しにくい。 「移動の船の二等船室を開放してくれるんだって。みんなの宿題消化、手伝わせてくれないかな。ダメ?」 モニターには、やっすいカーペットに置かれた折り畳みの座卓と座布団。 学年および主要科目ごとまとめられた参考書。 壁に貼られた星の運行やら、歴史年表やらが、宿題やらせるぞ~という意欲を感じさせる。 うわぁお。 「工作、図画の材料、素材も準備してあるんだって。絵日記用のお天気記録も確実更新。ゲリラ豪雨もばっちりフォロー。去年もそうだったんだって?」 うわぁ。やらせる気満々だよ。 ここに入れられたら最後、持ち込んだ宿題終るまで出してもらえないんだ。そうなんだ。 空気が、簡単な仕事とおんなじだもん。 「みんなでやれば、楽しくできる。目指せ、リベリスタと社会性の両立。うん、俺もそう思う」 社会性、大事だよ~? と、引きこもりからの更正者に言われるとなんか色々怖い。 「ちなみに、素材とかの提供は、三高平市商工会議所。だって」 いつも、お世話になってます。 「それから、それぞれの所属校に連絡を取って、出された宿題の全貌は把握済み? うわ、こわ」 それも、例年通りだよ。四門。 「大丈夫。俺は、みんなを見捨てたりしない。みんなあってのアークだよ。一蓮托生。行きの船で済ませてしまえば、楽しい南の島が待ってる。俺も中高生の勉強なら見てあげられるし」 でも、終わらなかったら、帰りの船でもやらせる気なんだよね。わかります。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月03日(火)23:11 |
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● 「なんと! 南の島なのです! 遊ぶのです! バーベキュー! スイカ割り! ビーチバレーとかそういうの! 福利厚生! さいこうなのです!」 さあ、二等船室に行こうね、どんどん行こうね。 「学校なんてないのです! 勉強! 知らないのです!――そんなふうに考えていた時期が、私にもありましたです……」 イーリスも高校二年生。宿題の分量はピークである。 把握しきれない量出るから、ちかたないね。 「どうもアークのお兄ちゃん・サボリとセクハラの天才・結城竜一です。お盆に宿題終わらせたしね」 二の轍を踏まない竜一は何気に偉い。 天才は天才に惹かれあう。 「二人の天才に俺という二倍の回転を加えて200万天才パワーだ!」 「りくと竜一と合わせると、200万か、妥当な計算なのだ」 「僕らの超天才力の前には夏休みの宿題は児戯にも等しい!」 「今年もあーくたわーにごうを作るのだ!」 一号は地元ケーブルテレビのニュースになりました。 「去年より5せんち高い塔にするのだ!今年は竜一も天才組に参加だ!」 クレヨンで書かれた設計図は綿密に書かれている。 なぜクレヨンでそこまで書けるのか。まさに、天賦の才能! 「なるほど、5センチ。五行であり、五臓であり、五感である。5という数字には、自然や命の本質が込められている。なるほど、実に天才的な判断だ」 「そうだぞ、さすが竜一だな! アリアの義兄なのだ。5センチというのは譲れないポイントなのだ」 しきりに感心してみせる竜一とアリアに、陸駆も鼻高々だ。天才は賞賛を浴びて大きく成長する。 「去年よりかっこいいタワーを作るぞ! よし、アリア、竜一、きょねんとは一味ちがう角度から考察だ。ウイングの角度は去年より30度上にするぞ! このタワーはアークビルによく映えるだろう! アーク職員にもさいしんの注意でもって飾りにいってもらわないとだな!」 「そのウィングの角度はジャストだ!さすがりく。相変わらず冴え渡る天才なのだ。厚みはあと3ミリ太い方がバランスがいいのだ」 アリアの考察も冴え渡る。 「なるほど、3ミリ。すなわち、3次元的な発想! 三宝、三種の神器、三位一体と3は神秘的な意味合いがある。5という物理的な本質に、3という神秘を加えるとは……アリア……侮れぬ娘に育ったものよ……!」 解説役の称号を授けようかと思ったが、まだまだ3DTには磨り減るまで働いてもらわねばならないので、やらぬ。 「よし!二人とも俺が肩車をしてやろう! さあ、タワーの高みを極めるんだ!」 人間脚立を手に入れた二人のタワーは、今年もアーク職員さんのやる気に火をつけることになるがそれは別の話だ。 「技術・図画工作担当、司馬だ」 司馬先生はすごいぞ。本当のおうちも作れちゃうんだぞ。 「やる気のある子は歓迎だ。俺のチェーンソーを貸してやろう」 「作るのは「長屋」の貯金箱よ!」 ロビン高らかに宣言。チェーンソーのスイッチ、ぱっちん。割り箸切るのに、チェーンソー要らない。 「……何だロビン、NAGAYA? ああ、貯金箱か。俺も作ったな。小さなタイルとか買ってきて、本気でやったもんだ」 意外と細かいこともしてるんだな、コモドドラゴン。 「本当はmondoのハッチョーボリみたいなのが良いけど、ロビンはまだサムライじゃないから、いいの」 「mondoの八丁堀ってお前……面白いよな」 ここで、士農工商制度について語らないあたり、司馬はいい人だ。子供の夢を安易に破壊してはいけない。ニホンのサムライ、神秘デース。そう簡単にはナレナイノデース。 「そうだな、折る時は軽くカッターで両面に切れ目を入れるといいぞ」 「割りばし等を折ったり、色ぬりはロビンがするわ。組み立ては……メガネのお兄さまに……」 ちらっちらっ。 「組み立て?……ふっ、何回か挑戦したらしいな。ああ、そのためのボランティアだ」 今日の鷲祐は無駄にイケメンである。詳しくはBUへ。 その間にロビンは住人を紙粘土でこしらえた。 「ロビンと、メガネのお兄さまよ!」 どう見ても雪だるまとワニです。 「……ろびん、これが、俺か……?」 コモドドラゴンにしては、口吻がちと長い。 「そうよ!これを貯金箱にそえれば完成! いつか立派なオヤシキに住んでみせるからその時はほめてちょうだいね」 「うん、その時は思いっきり褒めてやる。さ、まずはこの宿題を完成させるぞ!」 「まおは読書感想文が終らないのです。もらった原稿用紙からはみ出してしまうのです。書きたいことがうまくまとまらなくて、まおはとっても困ってしまいました」 黒と紫色のハードカバーを前に、まおは途方にくれていた。 春のレクイエム。ドラマ化したら木曜深夜枠な非行少女が家族の裏切りや友情と恋の修羅場で揺れ動く様を描いたどろどろベストセラー鬱小説。 小学生の夏休みの宿題に似つかわしい題材ではない。 「色々と忙しいお話だったとまおは思いました」 小学生には精一杯の読後感。 「……人の心は難しいってまおは思いました。と、まとめてもいいでしょうか」 「……書きたいように書き殴れ! 夏休みの天敵だが、やりたいようにやれ。面白ければ面白いほど相対的な評価は上がる。やりたいようにやれば好き勝手出来るんだよ。遍く下らない常識を蹂躙しちまえ!」 (ああ、ズッゲェ愉しい) 詩人は、濁点付きの感嘆符を呑み込みながら熱く説く。 まおは、ほえー。と、詩人の演説を聞いていたが、やおらえんぴつを取ると原稿用紙を埋め出した。 後に花丸をもらうことになるが、それはまた別の話である。 キンバレイは自由研究が残っていた。 「学校近辺の石食べ比べって自由課題やったんですけど、おとーさんに『それは神秘の秘匿に触れるから他のにしなさい』 って言われまして……」 国語のティーチボランティアするつもりだった義衛郎がお手伝い。 キンバレイが提示する案は、ことごとく良識ある市役所のお兄さんが却下しました。 「仕方がないので、卵を箱に入れて落としても割れないような箱を作る……にしました! 目標1mで!」 身の程をわきまえたささやかな目標。事前に調べた大学あたりの研究を元にしてクッションを自作してくる辺り、抜け目がない。 後は実験。かなり真面目モード。 (役所の仕事で必要な事は都度勉強してはいるけど、こういう如何にも学校の勉強ってのは久しぶりだなあ。十年ぶりくらい?) 割れた卵は、後ほど、みんなで卵焼きにしていただきます。 嬉しそうに「終わったー!」と歓声を上げるキンバレイはやっぱり小学生なのだ。 「よくがんばったね!」 小学生は、ほめて伸ばすのが義衛郎の流儀だ。 (それで問題を解くのが楽しくなれば、来年は自発的に宿題やってくれたら良いなあ、と) 小学生ゾーンは、かくも和やかであった。 ● 中学生ゾーンは、いろいろ現実がカウントダウンなので、逼迫感が増してくる。 「うああ今年も来たよコレが……」 モヨタのうめきも恒例である。 「算数からグレードアップして余計わかんなくなりやがって、数学のプリントめ……方程式とか覚えきれねーよ!」 右のアンテナから左のアンテナへ流れていく数字と記号とアルファベットの群れを追いかけていく気力はない。 「ナユタ……助けてくれ……」 「オレはにーちゃんと違ってドリルとかは七月中に済ませちゃったからね。あとは絵日記だけだよ。オレそこまだ習ってないからムリだってば」 ナユタの手元、書きかけの絵日記。 『今日からアークのみんなで南の島へ遊びに行くことになりました。でもその前に宿題をすませないといけません。ぼくは今日の分の絵日記を、兄ちゃんは数学のプリントをしました。でも兄ちゃんはバカなのでまったくわからず泣きそうになっていました』 「げ、余計なこと書くんじゃねーよ!恥ずかしいじゃねーか!」 「先生が『印象に残ったことをかきなさい』 って言ってたんだもん、ちゃんとそれに従っただけだよ。よーし宿題も終わったし、船の中で遊んでこようっと!」 荷物をバッグにしまう弟の腰にすがり付いてむせび泣く兄(中学生) 「先に遊びにいくなよ……オイラが終わるまで待っててくれるって約束したじゃんか……うぅ」 そこにビール缶ぶら下げたあばたが来た。 「担当科目は数学。大学までなら大体大丈夫。多分。きっと」 いえ、そこまでは求めておりません。 あばたは、がりがりと白い紙に図をかく。 「図にかくと、こういうこと。ということは?」 「こっちから、こっちをひく……?」 「やってみなさい。「何を導くためにどうすればいいか」を理解すれば、高校以下の理系の問題なんて単純作業です」 モヨタは味方を手に入れた。ちょっと酒臭いけど! 「助けて設楽2013summer warsなのだ……」 五月の消えそうな語尾。 悠里の顔に縦線が入っている。 (僕は今、アークに来て以来最大の難問に直面している) 「五月ちゃんは、割り算、できない……のかー」 自分に言い聞かせるように呟く悠里に、五月はこくりと頷いた。ちなみに割り算は小学校3年生の一学期で習う。 「申し訳ないながらオレは学校にあまり馴染みが無い。だから勉強わからないのだ。とっても判らないのだ……どうしよう。そもそも、何故割り算をするのだ?」 平等にエビチリを分配するためです。クッキーは割れますが、エビは割れません。 「因数分解ってなんだ? 方程式? む、難しい言葉は分からないのだが。オレは解の公式っていうカッコイイ言葉を覚えたぞ! 中身は知らん」 とつとつと直視しなくてはならない現実を悠里に開示する五月。 「助けて、くれ」 五月の表情がこわばっている。このままではまずいことは肌で分かった。だって、自分より小さい子達がすらすら割り算といてるし、何より悠里の顔色が紙みたいな色になってるんだもん。 (無理ゲーってレベルじゃないよ!?) 五月にわかりやすく言うならば、ギガクラの前のメガクラも覚えずに、デッドラやろうって領域だ。 設楽悠里、宿題提出期限の境界線を守れるか!? 戦いは、始まった! そして、高校生ゾーンは、涙なくしては語れない。 太亮、まっさらな英語ドリルと辞書を前に沈黙。 右に首をひねり。左に首をひねり。もげて落ちる。このままだと。 (二学期から学校に行くんで、その準備って事で渡された課題の一つだが、何だこれ。……暗号? 知ってる単語もちらほら有るんだが、文章になるとさっぱりわかんねぇ) 辺りを見回せば、ぶつぶつ言いながらみんな解答欄に書き込んでいるのだ。 (え、これ皆できんの? すげえなりべりすた) いや、出来ないのもいる。 『サルでもわかるえいご』を手に、 「あいすぴーくいんぐりっちゅ…しゅ! えっと響希さ…響希センセー、ワ、ワカラナイ……」 蒐が息も絶え絶えになっている。 「あ、俺、数学できるよ、因数分解とかなら……」 「あれ、あんた今幾つだっけ? 中学生? 違うわよね? 数学は偉いけど終わってるんでしょ? 現実逃避しない」 サル達に英語を教えようとしているのは、響希だ。矢継ぎ早の付加疑問文の前に白旗をあげるしかない。 「なぁなぁ、タワーオブバベル取得すればこれ必要なくね?」 太亮、テキストを指差す。蒐、それだという顔をして、サムズアップ。スキルポイント2なんか惜しくない。 「現実逃避しない! 読めて、話せて、スペル分かるまではいいけど、あんた達ちゃんとアルファベット書けるの、そもそも!?」 ミミズが這い回ります。 「「あ、いや、ハイ……やります」」 しゅんとなった、うさぎと伊達眼鏡に響希の矛先も鈍る。 「ええと、あー……うん。気を付けてね、私はペンです、とか書くんじゃないわよ」 二人は、はたと手を止め、消しゴムをかけだした。前途多難。 「皆もう出来てるー!? 終わってないの僕だけ!? なんで!?」 美月の叫びに、 「オレは、大学生なので宿題などは無い」 と、スポーツ科の風斗は答え、 「今回はどうした! 範囲を間違えたとか! 宿題なくしたとかそんな感じか!」 アンナは比較的好意的なとらえ方をし、 「やっぱ宿題終わってないのかよ! だと思ったよ!? 去年も確かひどい目にあってたよね!?」 と、止めを刺した。 「さあ部長、福利厚生の期間が終わるまでに、あらかた終わらせてしまいますよ!」 ゲー研の人々は堅実だった。どうせ、行きだけでは終わらないのだ。 「ええい、DIMITI分野は私に任せなさい! ちゃんと帰るまでに終わらせるわよ」 そう、帰りも缶詰は決定事項なのだ。 「同級生なのでぶっちゃけ見せちゃえばすぐ終わるんだが、そんな事したら部長の為にならない。しっかり教えてやる! アンナ・楠神・ワタシのトライアングルアタックを喰らえ! 泣いたり喚いたり出来なくなるまでやるぞ!」 持つべきものは友達。 「……あの、ここ、どう計算したら……計算が間違ってるって!? そ、そんなあ……え、字が汚な過ぎて読めないって!?……ほんとだ自分でも読めない……」 半泣きで消しゴムかけてたら、ページが破れた。無言で差し出されるセロテープ。 「頑張れ部長、今は苦しいかもしれないが、これを乗り切れば南の島でのバカンスが待っているんです! ゾンビや軍人と戦うよりはずっと楽でしょ?」 (うう、何だろうこの三人がかり。有難いんだけど、物凄く情けないよね僕……) 『あ、自覚はあったんですか』 式神ミニはそんなことを言った。スーパーエゴは容赦ない。 「……あら、終わっていたのね……?」 「めんどくさい事は先にやっちゃうタイプなの!」 「それなら……わからないところ、教えてもらうの」 壱也、大学生だから、高校生の那雪に教えるの普通のことよ。ことよ? 「現文のこれ……物語の人物の心情なんて、難しいの。あ……数Ⅲ……この公式でいいのかしら……?」 壱也を信頼に満ち溢れたまなざしで見上げる那雪。 ぱらぱら教科書をめくりながら、筑波山麓のガマのように手の平にじっとりと汗を握る壱也。 「う……こ、これはだね……えっとぉ……どうすんだったっけ……」 (全然覚えてないぞ! ヤバイ) 「一緒にやることが大切だよね! うん!」 そして、二人は公式の整合性を確かめる長い旅に出た。 「それ、何?」 「いやあ、男同士の友情って、すばらしいと思ってさぁ」 「ああいうのとか?」 あれをごらんと指差すほうに。 「例によって例の如くこんなトコ着てまでまたやってらぁ!」 なぜかいる火車。 (オレぁもう課題とかねぇからどうでも良いんだが、現場に暇そうな奴居ると実は締まるって言うし) ミツバチの巣に二割いる、なぜかひましてる集団。もしくは宿題のない幸せな未来のサンプルケース。 「……おっ。フツに新城、暇そうだな」 「夏休みの課題なんだけど、禅問答しようぜ!」 徳が高い課題だな、フツ。 「禅問答!? 高潔すぎて解んねぇよ!」 「じゃあもう一つの課題の俳句で勝負な! テーマは「宿題」「夏」「船」……このあたりで!」 切り替え早いな、坊主。 「俳句……悪くねぇなぁ。そんなんも」 「俳句は……昔、祖父が良く詠んでいたな。良し、何事も挑戦だと言うし。俺も混ざって、何かを考えてみよう」 三高平無頼系男子、意外と風流。 「夏の雲一つない空を眺めて、一句。『箱舟や 戦士を乗せて 夏の海』……うん、割とそのままだな」 拓真はしたり顔だが、船底の二等船室からは空とか見えない。 「『蝉鳴かず 音寂しいかな 夏終わり』 最近はもう、蝉もすっかり鳴かなくなってしまったな。まだ夏は続くが、もう季節の変わり目だと言う事だろうか」 うむうむ、夏休みも終わりだねぇ。 「うーむ学の無いオレには中々……ココの連中見て思った事ならある。『夏休み 最初天国 後地獄……』」 火車の一句に、辺りに響いていた蝉の声ならぬ筆記用具の音が止まった。 このいたたまれない沈黙をどうしてくれる。 「『宿題も 花火も消化で 後始末』 消化と消火をかけて……ダメだなこりゃ。『蜃気楼 揺れる思いを 船に乗せ』 なんかきれいなこと言おうとして中身がない感じだな……」 徳が高いから、いい俳句が読める訳でもないらしい。 「……『恋花火 消さず昇りて 花開く』 出来た。遊ぼう!」 畜生、リア充坊主め、爆発しろ! かんざし買うの目撃してやる! 火車がぽんと手を打った。 「まぁ結果として、全体的に今こうだな! 『箱舟が 課題済まして 夏望み』」 親衛隊の大勢を倒して、やっと休みらしい休みだし! 「折角ココまで漕ぎ着けたんだ。宿題くらいサッサと済まして、外に遊び行こうぜ!」 がらりと開けられる、二等船室のドア。 潮風と陽光があふれている! ひゃっはー。まずはともかく南の島だ。 とりあえず、やりきれなかった連中は胸に重石を秘めたまま、青い波と白い砂浜を楽しんでくれなさい。 ● 月日のたつのは早いもの。帰りの船が出るよ。 「何故<覚悟完了>している人が未だこんなにいるのだわ……」 床用スクレイパーを握ったエナーシアさんが、呆然と呟く。 嶺は、それに無言の微笑を浮かべつつ、アロマディフューザーでローズマリーの香りを室内に漂わせ始めた。 これで、汗と涙とアドレナリンと何かとは言えないすっぱい臭いが緩和されればいいのだが。 「ローズマリーの主成分であるカルノシン酸には、神経細胞の維持に重要な役割を果たす神経成長因子の生成を高める効果があります。これが記憶力の強化をしてくれるそうで、古代ギリシャの受験生はローズマリーのリースを頭に乗せて勉強していたんですよ」 この場での記憶はなくなった方が、後の精神衛生にはいいんじゃないかな。 今年から、船に乗り込む際にあなたの宿題終わってますかプリントを配ることにしたら、みるみる顔色が変わる子が続出したんだよ、スティーブ。うっかり屋さんが多かったんだね、マイク。 メイは、顔色が変わった一人だ。 「ひーん!算数のドリルが鞄の底から見つかったんだよ……」 日めくりカレンダーみたいなドリルって、まぎれやすいよね。 (うん、凄くゆれるから、計算する時に桁を何度もずれるんだよ。なんか気持ち悪くなってきた。頭が痛いのは酔いなのかな? 宿題が終わらないからなのかな? うっぷ……ちょっとおトイレに) もつれる足元、傾く三半規管。回る天井。 (乗り物酔い止めのおクスリ、飲むと眠くなるんだよね。寝ちゃうと宿題が……でも飲まないと気持ち悪いし頭痛いと勉強どころじゃ無いよね) 口に放り込んで飲み下す錠剤。もうこれで苦しくない。 『その甲斐あって見事全部おわったよ~♪ ボク頑張ったよ!』 机に突っ伏して、微笑を浮かべるメイを起こす者はいなかった。 「ここは、どこですか。これは、なんですか。波の音、遠く聞こえるのです。この船、どこに向かっているのか分からないのです」 ここは船の二等船室で、宿題消化会場で、船は三高平に――夏休みの終わりに向かっているんだよ。いい感じにお肌つやつやになって、福利厚生を満喫したイーリスさん。 ちゃんとやらないと――。 「わからない、何が分からないのかすら分からない……コレどうやって計算するの!?」 陽菜の絶叫。宿題はまったく手付かずでお船に乗っちゃいました。勇者の称号を授けましょう。 「今年は気合を入れてやらないと進学はおろか卒業できるかどうか……しけの海になんか負けたりしない! まだ学生でいたいけど留年は恥ずかしくて嫌だから、なんとしても三高平大学に進学しなくちゃ!」 陽菜みたいになっちゃうよ? 「一応、盆前に終らせてたって思ってたんだよね! そしたらさ、まったく触ってない教科の宿題が丸ごとのこってたんだよね! なんかたりないな~っておもってたら、足りないのは自分の頭だったっていうね!」 それで、帰りのお船でやらなくちゃならなくなったっていうね! 宿題会場に向かう夏栖斗を、火車が指差しぷーゲラゲラで送ってくれました。 「まあ、船の中でゆっくり? 勉強するのも、悪くない……わけもなく……」 ぱきぱきと折れていくシャーペンの芯。 「うわー、宿題めんどくさいよー! ティーチボランティアのお姉さんは美人でおっぱい大きい人にしてください。僕のやる気が上がります――っていうか、水着のおねぇさんがおしえてくれたらなぁー」 ガツンと、百科事典の角が夏栖斗の後頭部に直撃した。ブリタニカは五キロある。 「うるさいのです。静かに宿題をするのです。そあらさん、こう見えて数学とか得意なのですよ。わからない所があったら遠慮なくきくといいのです」 美人でおっぱいおっきい人だよ。よかったね、夏栖斗君。水着じゃないけど。 「――うさぎー」 あまりのいたたまれなさに、そあらさんのお耳をぴらっとめくってみた夏栖斗の顔面に百科事典がめり込む。 ブリタニカは5キロある。 「いや、気分転換気分転換!」 「まずは、鼻血(物理)を拭くのです」 お耳の中なんて、大事な人にだって見せたくないとこですよ! アリステアは船室の真ん中で叫んでいた。 「どういう事?わたしちゃんと前回頑張ったよ!? 宿題だって、この数学のドリルしか残ってないんだよ? なのに何でここに閉じ込められるのっ!」 いや、その数学のドリルが難問だろ。まったく手付かずなんだから。君もかばんの底か。 (今回は真面目に頑張ろう…って。周りが悲鳴上げてて集中するどころじゃないよー!) 「えっと、皆大丈夫? この揺れじゃ無理だよっ」 読書感想文用のほんを読むつもりだったシュスタイナが黙り込んでずいぶんたつ。 「私は意外と平気なんだけど、シュスカ生きてる?」 無言で顔を上げるシュスタイナの顔色はエチケット袋を握らせなくてはいけない領域に達している。 「……ごめんなさい、ちょっと。気持ち悪くなってきたかも」 「ごめん壱和ちゃん、よかったら、妹お任せしてもいいかな。私は聖神で皆の船酔い回復できるか試してみるっ」 壱和は、頷くとシュスタイナの背中をさすってあげる。 「横になります? 膝を貸しましょうか? 口を動かしていれば多少は楽になりますし、吐き気があれば塩水で出した方が楽ですよ」 「壱和の進み具合も気になるから、倒れてたのあるし、影人に扇がせておこうか?」 甲斐甲斐しい。天使や。 ちなみに、神の奇跡は、船酔いを退けられるのか。審議中。 「だからその。宿題どころじゃなくなると思うから、ユーヌちゃんあとで教えて? いや、ほら。決してズルじゃないよ? ほんとだよ?」 アリステアの申し込みに、ふ。と、ユーヌは微笑んだ。 「ああ、ブレイクフィアーと傷癒術は用意してるから、アリステアは宿題に専念して問題ないぞ? 宵止めと胃腸薬も抜かりはない」 燃費もよければ効果も高いぜ、ユーヌ印の救急箱。 「……って、宿題に専念できるそのお心遣いに感謝なのです……ぅぅ」 「宿題はあとは英語の課題が少しなので、大丈夫です……よ?」 (最後の一枚が、果てしなく遠いです) お尻尾くるんってなってるけど、がんばれ壱和! 「DIMITIってつまりちゃんと計画立てて数日に分けてやるってことなのよね……うっぷ」 福利厚生中遊びほうけるのを許してたんだから、仕方ないね。 「自業自得な気もするんだけど終わらせねば帰れない……くそうこんなところでフェイト削ってられるか。最後までやる……わよ……」 意地の黒石。 「終わんないと思ってたよ……もう諦めていいよね? え? まだあんの? 部長いい加減にしろよーもーでも見捨てらんねーしなー! もー!」 仁義の白石。 (……ウプッ……酔ってきた……え?酔い止めは飲んできたのかって? ……あ゛) 無言で式神の差し出すエチケット袋に顔を突っ込む美月。 「この前確かに書き上げたんだよ? それがいつの間にか無くなってて。うっかり窓を開け放してて、飛んで行っちゃったっぽいんだ……本当なんだって!」 きっと、来年の夏の初めにご近所にプリントアウトしてくれるよ、カタツムリが。 「思い出せ。思い出すんだ。ティーチボランティアの振りをしつつ聞き耳を立てて書いたとはいえ、一度はやったんだ。聞いた事を思い出せ……っ」 盆前の記憶。耳に残っているのは――。 『ヴオオッ! タケシ!』 「違うッ!」 (そういえば……元カノから貰ったフリーペーパーの隅に、『私、大学で軍学を専攻してます。智夫君も頑張ってね♪』ってあったなぁ。僕も頑張らないとね) 智夫君、気がついて。リベリスタ軍学なんてニッチな学問、三高平学園大学部以外に講座はないことを! 新田快を筆頭とする監査という微妙な立場の会計バイトが福利厚生の会計処理に立ち向かおうとしていた。 守護神は、アークのお財布の紐も守護しているのだ。 「我々は昨年、『現物先、伝票処理後』で会計処理を乗り切った。その経験を活かし、今年度もその方式を踏襲する。我々の任務は電子化されていない発注伝票の入力、および領収書の監査だ。いくぞ!」 とにかく金を遣ったあと、アークの経費にするか、御曹司のポケットマネーで処理するか振り分けるだけの簡単なお仕事です。 「これは……『但、エフィカたんのスク水代として』……?」 「監査」 「可決」 「監査」 「多数により、監査」 (今年でバイト最後だし、ちょっとくらい張り切ってもいいよね……就職先見つからず、来年もここにいるかもしれないけど) 湊はそんな一部始終をみんな見ていた。 というか、撮っていた。 (宿題に追われるリベリスタの観察日記をつけて自由研究第二段とするためなのだった!) ビデオ撮影して、帰ってから書き起こすつもりでいるのだ。 (観察日記なので帰りにひぃひぃ言っている人のもつけないと……ね? 大丈夫、観察日記はちゃんと個人名は伏せるから) ニコニコと小学生に勉強教えながら、カメラを回している湊に今の所誰も気がついていない。というか、それ所ではなかった。 「あ、掃除も手伝うよ?」 「ふふふ……毒食わば皿まで.清掃も宿題も纏めて相手になってやるのだわ」 エナちゃんによる筆跡鑑定、始まるお。 運がいいと、担任に直接届けられてさらし者にされるお。 どっかのナイチンゲールが、前回名無しで忘れていったのと今回書いたのと、同一テーマで結論が違うレポート二つ提出することになっちゃったのは、また別のお話である。 そして。 「かばんの底から見つかる数学ドリル」という事案があまりにも多かったので、来年から数学ドリルが学校指定のかばんの底にぴったりはまらない幅にサイズ変更されることになったのだが、それもまた別のお話である。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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