● 何処を見たって青、青、青。 一面を埋め尽くすキャンバスに胸が躍る。 夏の気配を感じたならば、何度だって足を踏み入れたいと思う筈だ。 大きく落ちる影にも、小さく揺れるその色にも心躍るのだから。 ザザ―― 波が揺れるそこで『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は立っていた。 嫌な予感しかしない。彼女は何故瞳を輝かせているのだろうか。 嫌な、予感しかしない。 「……今年の夏は、魚類よね?」 \突然の魚類!/ 最早、お前は何が言いたいと言いたくなる様な勢いで言ってのける月鍵(24)にビーチボールを抱えて砂浜で遊びたい系男子『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) が一歩後ずさる。 「ってなわけで、魚類よ。あーちゃん! 魚類と遊びましょう! 此処に、『無害』なアーティファクトがあります。とっても無害なのだけど、これを使うとですね。 じゃじゃーーん! なんと、なんとなんと! 深海にご招待!」 「え、ええっと?」 「これで、深海に向かいましょう。さあ、レッツ水族館よ。 魚達を直で見れるのだから、こんなに良い機会はないでしょ? うふふ、とっても楽しくなってきた!」 テンションの高い世恋を放置して、状況をまとめた蒐が言うにはこうだ。 アーティファクトを借りて来たらしい。それは無害なものであり、1日間ならば、深海に道を作れるそうだ。 それを利用して海中水族館なるものを楽しみたいと言うのが月鍵談。 360度海というロケーション。魚類が好きなように思える月鍵女子のテンションも急上昇。 海中水族館の他にも海底散歩を楽しむことだって出来る。 海の『中』で遊びましょうと心が踊りまくって大変だ! ……という事らしい。 「ところで、」 ぴた、と足をとめた世恋が振り返り、きょろきょろと周囲を見回した。 「魚類、別に食べても良いわ! 調理出来る人、とっ捕まえてきたし! ふふ、楽しくなってきたわ!」 取り敢えず、落ちつこうか24歳。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年09月06日(金)23:28 |
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● 塗りつぶそう。青に、青に、青に。 一面を塗りつぶすキャンバスは今は深い色をしている。紺に、蒼に沈んでいく中で、振り仰げば光りが射しこんでいる。 \とつぜんの、ふぃ~~~~っしゅ!!/ きらきらと瞳を輝かせたミーノは両手を上げて、共に歩んできたリュミエールへと視線を送る。丸い瞳が楽しげに周囲を見詰めるが、海の中――青一面の景色――に何処かふるりと身体を震わせた。 「す、すいぞっかんたんさくだけど、うみのなか~……だいじぶかなぁ……か、かいすいがきゅうにざばーって」 「大丈夫ダロ、泳げネェからコエーかもしれネーケド、ナントカナル」 だろ、と視線を送るリュミエールにこくこくと頷けば、ミーノは深呼吸をひとつし様々な景色を見詰める。普段は硝子を挟んで見詰めることになる魚たちの姿にきらきらと輝く瞳。 「ほわ~~~たくさんおさかながいるの~っ♪」 「変な魚介類に触るのはアレダ、生臭いダロ。何に遭遇スルカは運を天に任せろってか?」 きょろきょろと見回すリュミエールの声に、海の中に慣れてきたミーノは走っていく。楽しいかと伺う様に覗きこめば、大きな緑の瞳は楽しげに細められている。 「あのおさかなちょうからふるっ! あっちのおさかなはちっちゃくてたくさんっ」 「……アー、花より団子ってヤツダナ。たまにハドーヨ、コレ。綺麗ダトオモワナイカ?」 美味しそう、と小さく呟くミーノに笑いながらゆっくりと歩く彼女たちの背後、水着を纏ったシュスタイナが壱和と談笑しながらそっと『上』を見上げる。 「見て? ここは水深が浅いから、陽の光がここまで届いて、キラキラして綺麗ね?」 「水の中に道……不思議な感じですね」 手を伸ばすシュスタイナの指先が水に触れる。水の感触に指先が触れることに何処か高揚した気持ちを抑えた。 トンネルはまるでゼリーの様で、年相応にはしゃぐシュスカは小さく咳払い。少しはしゃいでしまった事に照れを浮かべる。 「あ、そういえば……壱和さんの水着姿って新鮮。白の水着が爽やかで似合うわね」 「有難うございます。シュスカさんの水着も素敵です。日光に映えて、綺麗」 ふる、と犬の耳を揺らす壱和にシュスタイナも楽しげに微笑んだ。伸ばす指先につん、と触れる魚。シュスタイナの手が壱和の掌に触れてぎゅ、と握られる。 「ずっと気が張り詰める毎日だったしね。……だから、今日は思う存分羽を伸ばしましょう?」 「うんっ」 二人して伸ばした指先。魚に触れて、目を細め、浮かぶ『アクアリング』にも二人は楽しげに目を細めて笑う。 折角の『福利厚生』こうして楽しまない訳にはいかないだろう。大きな緑色の瞳は何かに期待する様にきらきらと輝いている。 「う~~み~~! 雷慈慟様っ! せっかくですし、深いところまで行くのですぅ!」 「ああ、ロッテ嬢が迷子にならぬ様にしっかり付いていかねばな」 小さく笑みを浮かべる雷慈慟にはい、と頷くロッテ。足取りは軽やかに、ロッテは「ロッテガイドですぅ!」と楽しげに微笑んだ。 サンゴの間から顔を出すクマノミ。水族館で見るよりももっと素敵に見えるのは何故だろうか。硝子越しではないという感動がそこにはあった。 「ふむ……可愛らしいな。本で見るのと違いやはり現物は違った感動があるな」 生々しいと魚を見詰める雷慈慟にクマノミを見詰めて微笑むロッテは素敵ですぅともっと深い場所へと走っていく。 雷慈慟の指先に寄る魚達。可愛いと瞳を輝かすロッテに指先を見詰めた雷慈慟は首を傾げる。 「ハッ、見て~! マンボウ、マンボウですぅ! 深海にもいるって本当だったんだ!」 「何故生まれてきたのか判らない生物……マンボウか」 ロッテと雷慈慟は水族館でガラス越しに見詰めたマンボウをじ、と見詰めている。ロッテガイドによれば害のない魚であった筈だ。そっと手を伸ばす雷慈慟の手をぴょんと跳ねて握りしめ、ロッテはふるふると首を振った。 「あっ、触るのはやめておきましょお……寄生虫いっぱい! 見てるだけなのです!」 「寄生虫……気になるな」 何処か残念そうに見える雷慈慟ではあるが、彼の言葉に反応する様にひらひらとひれを振るマンボウにロッテが微笑み、他もみるですぅ、と走っていく。 彼等の隣をふわ、と大きな体をしならせ擦れ違う黒い影、顔を上げた優希は傍らで魚達を見詰めている瑞樹へと視線をちらりと送った。 「瑞樹、イルカは好きか?」 「イルカ? 好きだよ――って!? ふぁっ!?」 ぐ、と引っ張られる腕に慌てて水着は走り出す。前を走る優希の頬を撫でる魚が楽しげに行く先を示した。 優希の紅潮する頬は幼い頃から試したかった事を今試せると言う期待に満ち溢れているのだろう。瞬きをしながら瑞樹が連れて来られた先には小さく鳴くイルカが居た。 「イルカの背に乗って泳いでみたかった。……駄目だろうか」 おいで、と尾びれを揺らすイルカに小さく頷いた。そっと手をのばせばイルカは優希と瑞樹の体を掬いあげた。慣れない姿勢に瑞樹はぎゅ、とイルカにしがみつきながら持ち前のバランス感覚を発揮する。 「特別な装備も何もなくとも、イルカと楽しめる。海中生物の目線や速度で他の魚達を眺める事が出来る。 まるで――物語の世界のようだろう?」 「凄い、これが魚達の視界なんだね? 水中なのにこんなに速くて、何だか人魚になったみたい!」 凄い、とぐんぐんと速くなるイルカの速度。手にしたイルカの背は不思議な感触がする。優希にしがみついた瑞樹が瞬くたびに蒼は色を変えていく。 「わっ――!」 水飛沫を上げて、飛びあがるイルカ。瑞樹をぐ、と引き寄せて水飛沫と反射する海の色を見詰めて優希は小さく微笑んだ。 「素敵だね」 「ああ、綺麗だな」 ちらり、と抱きよせる優希の顔を見詰めれば、笑顔を浮かべた彼が居た。とくん、と鼓動が一つ跳ねる様に音を立てる。子供の様な笑顔がとても、可愛らしくて。 (むむ、なんか、今回は終始ペースを握られっ放しだね) それも、嫌いじゃないけれど。イルカは二人を背に乗せたまま、ぐん、と海を泳いでいく。きらきらと輝く陽はゆっくりと照らして居た。 「おお……深い青を下から見るのはそうそうあることではないのだ」 「光りが射しこんで綺麗だな?」 ぎゅ、と手を握りしめ。深い海の中を歩く雷音は兄の顔を見詰める。彼の背中に見える青も、見上げた『宙』だって、全部綺麗だ。 まるで深海魚の様だと雷音が告げれば、夏栖斗は「見て、あの魚」と楽しげに微笑んでいる。もっと深く、沢山の魚に出会おうと手を振れば魚は雷音に挨拶する様にくるりと回って見せる。 「雷音、あの魚、顔が面白いし、あ、カニもいる――!」 「む、イルカだぞ。……話せるだろうか?」 とくん、と胸が高鳴った。夏栖斗は雷音に話してみようと促せば、イルカは伸ばした雷音の指先に小さくすり寄る。 「こんにちは、僕は雷音。君は?」 『――』 すり寄る指先が頭を撫でる。イルカと会話が出来ると、少女は何処か嬉しそうに微笑んだ。イルカに従って歩く先はサンゴの森。足元に気を付けて、と夏栖斗が声をかければ、ふわり、と海の中で浮き上がる。 「君は何処の海からきたの?」 『――』 「……ずっと、遠くか。遠い海のお話し、聞かせてくれるか?」 喜んで、と言う様に夏栖斗の背を鼻先でつん、と押したイルカに楽しげに微笑んだ。魚達の中を掻い潜り、サンゴのアーチは迷いの森の様に奥へと繋がっていく。案内イルカは楽しげにこっち、こっちと手招いた。 「貝とか踏まない様にな。怪我したらお姫様だっこで連行するよ!」 「なっ、何を言ってる。君は馬鹿か! 恥ずかしい事をするな!」 ぷぅ、と頬を膨らませる雷音に夏栖斗はくすくすと笑って雷音の髪を撫でる。折角の兄弟だから、膨らむ頬が妹が年相応である事を気付かせて、愛らしい。 「え、僕は前線恥ずかしくないけど、兄妹じゃん、なんで?」 「な、なんでもだ!」 彼女に小さく笑いを浮かべた夏栖斗が仰ぐ空、魚が緩やかに通り過ぎていく。 にこにこと笑みを浮かべた小町はグレイにこっちこっちと手招いた。 「えへへ、この愛だ誘ってくれたお礼です。こうやってお礼のお礼をしていけば、次も次もその次もっ! ずーっと約束続くのです。こまち天才! ねっ、そう思いませんですか?」 「……お前に誘われると知らなかったモノが見れて興味深くはあるな」 そうでしょうと胸を張って微笑んだ小町は普段は水中呼吸を用いて海中を散歩してるのだとグレイに告げる。 楽しい事ばかり、そんな『素敵なこと』を一人占めするなんて勿体ない。だからこそお友達に真っ先に教えたいと誘いを掛けたのだ。 「こんなに素敵なんですもん、分け合った方がいいですよね、こんなに楽しかったのですよう?」 くるくると、『海の道』を踏みながら小町が微笑んだ。そんな彼女を見詰めながら、神秘的な海の世界に驚いたグレイは凄いなと『未知』に感嘆の息を漏らした。 「グレイさんもたのしいですか?」 「……ありがとう。お前のお陰で今、楽しんでるよ」 嬉しいと跳ねる小町がグレイにこっちこっちと手招きを繰り返す。素直な礼はやはり何であっても嬉しい。 小町はグレイにお魚を紹介するのだと意気込んで一つ一つを指差した。『博士』の様に詳しい訳じゃないけれど。 「あれ、びゅーんってはやいのです。あと、あれはちょっとこわいのです。判ってくれるかしらっ」 「……いや、まあ、フィーリングでな。わからんでもないけれどもな」 『びゅーんっと速い』『怖い』等と言われても、判らないと云えば判らない。けれどそれも小町らしい。なら、彼女に従って更に教えて貰おう。 「じゃあ、あの魚は何だ?」 あれはあれは、と楽しげに微笑む小町にグレイは頷いて、ゆっくりと足を進めていく。 ● きょろきょろと周囲を見回す紫月は水着を着用し、『友人』からの誘いに小さく微笑んだ。交友関係が余り広くないと言う彼女の隣ではぼんやりとした目で落ち着かないと視線を揺れ動かしたリンシードが居る。 「水着でね! 水着! だって、海の中だし濡れるかもしれないからね! 世恋たんだって水着だしね! 見習わないとね! うひょー! リンシーたんも紫月たんも水着ってことでね!」 つつきたい――なんていう本音はさて置いて、アークの仕事でばかり関わるリンシードにとっては竜一が普段何をしているか知らず、紫月だって黒蝶館(いえ)で少しばかり話すだけの仲だ。 「……水着、着ましたけれど……そんなに推されると気になります……」 ちらり、と視線を揺れ動かした先には紫月。リンシードは何時かこんな大人に、と野望を抱いていた。 海の中をゆっくり歩く紫月はリンシードの野望など知らずに、周辺を見回して居た。竜一がこっちこっちと紫月とリンシードを誘うのは深海だ。チョウチンアンコウ、リュウグウノツカイが見たいとはしゃぐ竜一にゆっくりと付いていく紫月は静かに目を細めて笑う。 「竜一さんは満喫してますねえ……見ていて、とても楽しそうです。私達も程々に楽しみましょうか」 ロマンチックな『海の中』というシチュエーションに紫月が素敵、と笑えばリンシードも小さく頷いて見せる。海底を歩く事にとても落ち着くとリンシードは小さく息を吐く。彼女の髪の色よりももっと深い『青』は好きな色だから。だからこそ、こうして歩くのは落ち着くのだろうか。 「……深海になると、流石に暗くなってきますね……」 「ヒトガタとか、ニンゲンとか見れるかな! ……うわっ、きもっ、なんだ、これ!」 びし、と竜一が指す先には深海魚。潰れた様な顔をした魚にリンシードがひっ、と声を漏らす。何処か不気味に見える顔だが「きもっ」の言葉に失礼しちゃうと言わんばかりに魚が尾びれをぴくぴくと揺らして居る。 「……良く見ると愛嬌がありますね」 深海の神秘に怖いわ、と告げる竜一に色々居ますねと紫月が小さく笑みを零す。知識としては知って居ても至近距離で――触れ合える距離で見れるなんて、とても面白い。 見上げた先、鮪が居る事に気付いて、紫月が凄いですねと告げれば一気に竜一のテンションが上がった。 「よし、鮪の群れと遊ぼう! そんでもって、鮪捕まえてトロ食べよう!」 「鮪って……どっこいしょーって、取れるもの……なんでしょうか。でも、私もトロが食べたいので……応援します。頑張って下さい、結城さん」 ――無理でした。 鮪騒ぎの声を聞きながら、浅瀬で祥子の手を引いて義弘は進んでいく。水着の上に羽織った薄いパーカーが水で少し揺れた。 「あたし、ダイビングとか出来ないから、海の中見るのって初めて。すごい海の色って透明で綺麗ね」 「ああ、流石だな。物凄い鮮やかだ……」 ゆっくりと浅瀬のサンゴやイソギンチャク、熱帯魚達を見詰めながら、一緒に歩いていく義弘の手をぎゅ、と握りしめた祥子が楽しげに目を細める。 北の日本海ではこんな色鮮やかな魚は見る事が出来ない。故郷には居なかったわ、と微笑んで指先はそっと組んだ腕をなぞり指を絡めていく。 「普段じゃ見れない、な。これは。海の底だし、日が無くて少し冷えるかもしれないな」 大丈夫か、とぐ、と引き寄せれば祥子は瞬いて小さく笑う。水の中は暖かではあるけれど、それでも青い知面の世界は何処か寒くも感じてしまう。 引き寄せればくす、と笑い、ぎゅ、と腕に抱きついた祥子は小さくすり寄った。日の光が当たらないと寒く感じてしまうから、だから偶にならぎゅ、と抱きつくのだって良いだろう。 「しかし、本当に綺麗だ。二人で、鮮やかな時間を楽しもう」 「また、来年も一緒にこようね?」 海中の道を歩いている仁は不思議な物だなと周囲を見回して居る。目の前で鰯と遊んでいる世恋に気付き「月鍵」と声を掛けた。 「海中とはいえ、日焼けには注意だぞ」 「え、あ、うん。気を付けるわね」 こんにちは、と笑う世恋へと水着が似合っていて可憐だと告げる仁。照れたようにへにゃ、と微笑んだ世恋が仁の様子を探れば、海底水族館を見て回らないかと言う誘いであった。 「少し住処を探してみないか? どんな魚がいるのか俺も興味がある」 「ええ、色々見て回りましょう?」 南の島であるのだからサンゴ礁もあるだろうか。魚の住処になり易いサンゴ礁。カクレクマノミの様な熱帯魚も存在している事だろう。 「海藻の森や岩陰は格好の住処だな。ウツボや、小魚の隠れ場所にもなる」 「……ウツボって、顔が怖いわよね」 小さく告げる世恋に頷いて、あちらは如何だろうか、と指差す仁。世恋の歩調に合わせてゆっくりと歩きながら見回す彼は沢山の物を見るたびに年甲斐もなくついはしゃいでしまう。世恋も同じなのだろう、あれは、あれはと楽しげに告げる中、一帯を回り終えた後に小さく息を吐く。 「有難う、月鍵。久々に楽しい時間だった」 こちらこそ、と礼をする世恋の背中、普段ならば鎧を纏ってるであろうイーシェが顔を出す。 ある意味『月鍵チャレンジ』(むちゃぶり)を行う事を得意とするイーシェの姿に世恋の肩がびくりと揺れる。 「どうしたんスか? 月鍵世恋(24)! 微妙なテンションでは可憐で可愛らしい顔が台無しッスよ?」 水着を着用したイーシェの無茶ぶりに身構える世恋。だが、今日はしないとひらひらと手を振ったイーシェが「難儀ッスねー」と小さく笑う。 「海の家で買ってきた焼きそばでも食べればいいッスよ。今回は奢りッス」 「あ、ありがとう……」 ほら、と袋に入った焼きそばを手にして世恋は小さく頷く、今日は無茶ぶりのテンションじゃないとイーシェとい二人で歩む先にはタカアシガニが緩やかに動いている。まるで歴戦の勇者の如きタカアシガニに世恋が「おお」と声を漏らせばイーシェもうんうんと頷いた。 「相変わらず強面ッスね。鎧にしたら強そうッス」 鎧にしない方が、と世恋が告げる声にイーシェが小さく笑う。タカアシガニは確かに歴戦の勇者の様な風貌であるが、蟹アーマーはあまり格好良くない。 「イーシェさん、これ以上強くなっちゃうの?」 「強くッスか……アタシが遊んでる間に皆強くなっちまって……ちょっと寂しいッスね」 小さく息を吐いたイーシェの声に世恋が首を傾げ、彼女を見詰める。確かに月鍵世恋も無茶ぶり(チャレンジ)で心身ともに強くなったかもしれなかった。 「もうちっとアタシも頑張るッス。だから、月鍵世恋も予知で変なモン見てもヘコたれず頑張って欲しいッスね」 それだけッスよと笑ったイーシェが蟹に近寄っていくのを世恋はじっと見つめて目を伏せていた。 そんな彼女たちを見詰めて小さく息を吐いたフェルテンは様々な海を見てきた物の、海の中と言う不思議な光景に何処か感動を覚えた様に目を細めている。 (……海底水族館、ですか) 機械化した左手ではなく、生身の右手で魚に触れようとそっと手をのばせば、魚は身体をすり寄せる。フェルテンさんと手を振る蒐に気付き此方へと手招けば、蒐は共に居たエルヴィンにこっちこっちと笑みを浮かべて見せる。 「折角です、もっと下まで潜ってみませんか」 「エルヴィンさん、折角だしな! 行こうぜ!」 間近で見ると、表情の違いも判る気がするから、と魚たちと触れ合いながらフェルテンが小さく笑えば、蒐もこくこくと頷いた。 「僕(やつがれ)も珍しい魚を見てみたいんです。探してみるのも楽しいと思いますよ」 普段は寡黙であるフェルテンではあるが、友人たちと一緒に居ることで饒舌になったのか優しく笑った。 そんなフェルテン達の隣、眼鏡を掛けたユーヌは慧架の隣で「ふむ」と小さく呟いた。海底水族館。深海は中々目にする機会が少なかった。深くまで楽しもうと言う彼女に慧架はどこまで進むのですかと小さく首を傾げた。 「うーん、遠くで見ると綺麗だけど近くでみたらグロテスクな光る魚が増えてきた……」 「浅いところは色とりどりで綺麗だったが……ふむ、潜るほど奇っ怪なのが増えるな」 暗くなっていく海の中、こぽり、と水泡が音を立てる。目が大きくて戯画の様にも見える深海魚達にユーヌは目を輝かせる。下手なSFよりも面白い魚達へと指を伸ばし、つん、と触れる。 そうだな、と頷くユーヌが手を離せば深海魚は恥ずかしそうに海藻の隙間へと逃げていく。 「しかし食べるとどんな味かちょっと気になるな? 美味しく食べるのは難しそうだが」 「味ですか? 深海魚って日本じゃ食べられている魚がいたような……」 ううん、と首を傾げる慧架にユーヌはぼんやりとした瞳で『宙』を見上げる。こぽ、と水泡が音を立てるたびに、時間の経過をすっかりと忘れてしまう。 「折角だから何処までも潜りたくなるが多種多少過ぎて飽きが来ないし、時間制限が残念だ」 「あはは……このままアトランティスとかが見つかるのも良いですけどねえ」 ● キャミソールドレスの尾ひれを揺らして、マリンブルーの世界を堪能しながらミュゼーヌはちらり、と後ろを向く。じ、と見詰める三千の瞳に頬を染め目線を緩く逸らしていく。 「人魚のお姫様が人間の姿になって、陸に上がってくるとしたら、きっとこういう姿なんだろうなって思うのです」 「ふふ、三千さんってばお上手なんだから。私が人魚姫なら、三千さんは我儘な姫を結ばれる王子様って所ね」 照れくさそうに笑うミュゼーヌに三千は『人魚姫みたい』だと優しく微笑んだ。 海の風景は、それだけで素敵ではあるけれど、それ以上にミュゼーヌがその風景にある事がとても幸せだった。 「それより、見て見て、海面があんな遠いのよ」 「あ、わ、本当だ……。あそこで光っているところが地面だとしたら、ずいぶん深いところを僕達は歩いてるんですね……」 海面に揺らめく太陽を指差してはしゃぐミュゼーヌがきらきらとした光りに目を輝かせる。 「ね、もっともっと深くまで行ってみましょう」 優しく笑って、こっちこっちと手招くミュゼーヌを改めてじ、と見詰め、はしゃぐ姿に楽しげに笑い出す。 はしゃいでいる姿はとても可愛らしい。そんな目に見つめられると、擽ったいと身体をよじる。そのまま手を引いて、行ける所まで行こう。 二人なら、光の届かない深海だって、怖くないから。 海を割らずに底を歩くなんて、モーセも吃驚する。海水浴とはちょっと違った趣だと未明が小さく笑えば、オーウェンは海面を見上げて、ふむ、と小さく呟いた。 「あんなに強い日差しも、ここならちょっと眩しい位ね」 「……確かに、光が水の動きと共に曲がっているな。……っと、すまんな、味気の無い話で」 理屈っぽく告げるオーウェンが自嘲気味に笑えば未明は小さく首振る。波の動きに合わせて編み模様のようにゆらゆらしているのを見ているだけで時間が立ってしまいそうだ。 手を繋いで海底を歩くもっと深いところまで行ってみたいと小さく笑った未明は「またの機会ね」と小さく笑う。 深くに行けば『面倒な生物』だって沢山いる。それを捕縛して料理をするのは一興ではあるが海より山の幸の方が未明は好みだっただろうかとオーウェンは隣の未明へと小さく笑った。 程良い処で座って休憩でもしましょうかとゆっくりと手を引けばオーウェンもゆっくりと腰かけた。 そっと未明の肩を抱き寄せて、小さく笑ったオーウェンは未明、と名前を呼んだ。 「……ていうか、半ば無理矢理連れ出した気もしてるんだけど、こういうの好きじゃない? 割と押し通した感があったのよね。水の中で心地いし、あたしは好きなんだけど」 「いつもは俺が我儘を言う側だからな? お前さんの意見を押し潰しているのではないかと心配ではある。 故に、こうやって自分の意見で誘ってくれるのは、寧ろうれしいさ」 肩を抱き寄せてそっと唇を寄せれば未明は小さく微笑んでオーウェンを見上げた。「来年も誘って良いかしら」と小さく呟けばオーウェンが唇の端で小さく、笑った。 羽織ったシャツはふわり、と揺れていた。膝丈のサーフパンツを着た雪佳の隣、楽しげに目を輝かせたひよりはねえねえ、と手招きを繰り返す。 「わたしたちが普段見ているものに囚われない閉じた空間で人知れず揺蕩うの」 「ああ、本当に凄い……お伽噺の世界に迷い込んだみたいだ」 見上げた景色がとても綺麗な場所がそこにある。ころん、と寝転んだひよりが見上げる海面はきらきらと静かに輝いていた。その隣に寝転がった雪佳はひよりの言葉に頷いて、そっと上空を見上げる。 「すてきなの。ゆきよしさんといっしょに来れてうれしいの」 告げられる言葉に、そっと視線を遣れば、普段はふわふわとした可愛らしいワンピースやドレス姿しか見た事が無かったひよりの水着姿に何処か照れが浮かんだ。 「さ、寒くないか、ひより」 「ありがとうなの。でも、ゆきよしさんが冷えちゃわない?」 慌ててシャツを脱ぎ、ひよりに羽織らせればひよりは嬉しそうに小さく笑う。目のやり場に困ったから等と刃言えなくて、照れを浮かべて視線をあちらこちらと動かす。 「ぎゅってくっついて温め……るのはだめそうなの」 「そ、そそ、その格好でくっつくのは流石に……!」 慌てる雪佳に小さく笑い代わりにと握りしめる手。自分が男であって、肌を見せるのは気にならないけれど、照れ臭いことなのか、と視線を揺れ動かせる雪佳にひよりは小さく笑って横顔を見詰める。 (……どきどき落ち着かないの移ってきた感じ) 目を合わせるのが恥ずかしい、と見上げた青は『心静か』では居られない心を撫でる様に優しく揺れていた。 離れた位置でケイティーは「魚っす」と小さく頷いた。その言葉に同じく頷くコヨーテも何処かはしゃぐような笑みを浮かべている。 「海の深いとこに行けて、そんでサカナに触れられるならサカナを捕れるっつーことっすよね」 成程、と頷きながら深いところまで訪れた彼等は瞳を輝かせる。コヨーテは「うおッ」と普段のドヤ顔から少年の笑顔を浮かべて魚を指差した。 「こんな魚見たコトねェッ! スゲェッ!」 「コレ食えたらきっとボトムのモン何でも食えるっす」 魚怖ェの? と問うコヨーテに「顔が怖ェッス」と呟き、魚に向かい集中に集中を重ねていく。真っ直ぐに撃ち出す攻撃――攻撃? 「狩るっす」 「へへッ、大丈夫だって! オレらにかかりゃ魚くれェ……痛ェ! 何こいつ強ェ!」 魚の攻撃に慌てるコヨーテにケイティーが攻撃を続けていく。仲の良いカップル達から離れた場所で突如行われる魚類との攻防。 気を取り直して、刺さる魚をスルーしてコヨーテは拳に力を込める。強ェのいねェかなと周囲を確認するコヨーテの前に大きな魚が登場する。 「強ェのいねェかなッ! どうせ食うなら、強ェのがイイよな、強くなれそォじゃんッ! 攻撃ついでに焼けねェかなッ? 生で食うとかもあるらしいぜ……勇気いンな……」 小さく呟くコヨーテの前に虫取り網がぐわりと揺れる。炎を纏った拳で魚は黒焦げである。 ケイティーがこうっすねと掬い上げていけばコヨーテは瞳を輝かせ「おお」と笑みを浮かべた。 「なるほどッ、すげェ! 頭イイなッ!」 ケイティーが網を手に魚をとる様子をコヨーテは目を輝かせて手を合わせる。魚を掬いあげたケイティーはくる、と振りむいて小さく首を傾げた。 「で、これどうやって食うんっすか? 焼きゃいいんっすか?」 くしゅん、と小さくくしゃみが一つ。 「如何した? 新田君」 「大将、あついっすねー。いらっしゃっせー!」 何故か水族館に寿司屋があって、そこに居た大将が何故か此処に来てしまったという不思議な出来事に快は笑みを浮かべて浜辺に作られた特設寿司屋のテーブルへと歩いていく。 「おっすおっす。オジャマシマス」 ひらひらと手を振るフツに何にしましょうと快は聞く。快は嫌いな物は何もない、美味しく食べるからとオススメコースで、と告げれば快はちらりと大将へと視線を送る。 秋が近付けば魚だって脂がのってくる時期。日本酒ならしっかりと旨味を受け止められる冷やおろし。ノンアルコールなら冷茶がいい。 「いやァ、遊んだ遊んだ。遊んでる時は腹が減ってるって気が付かないもんだよな」 告げるフツの声に頷きながらカジキマグロを抱えた悠里がにへと笑う。「お?」とフツが興味を持つのも仕方ないだろう。その近く、白目を向いた月鍵(注・一応美少女)が存在しているからだろう。 「おーい、それ、何処から持ってきたんだ?」 「実は何故か居た団地の人が魚をくれてね、また貰っちゃったんだ」 \カジキマグロ!!/ びっちびっちと動くカジキマグロ。火車と悠里が一生懸命に引き摺りまな板の上に置けばカジキマグロさんは慌てたようにびちびちと動いた。 「正直、僕達にはお手上げなんだけど世恋ちゃんならって思ってね。それと世恋ちゃんにプレゼントがあるんだ」 ほら、レン、と背を押せばレンが抱き締めていたのは『相州伝魚切之太刀』だった。 「あの忘れられない世恋の包丁さばきを見たくて持ってきた。世恋の手に馴染めばいいんだが……」 おずおずと出される包丁に世恋は小さく瞬きを繰り返す。私は包丁師なの、とか何それ強そうとかぐるぐると世恋の思考は混ざっていく。 「じゃ! よろしくね!」 悠里の言葉に月鍵は白目を向いた。魚の捌き方は色々教わったけれど、これはどうすればいいのだろう。 そっと大将が動きだす、共にやろうと肩をぽん、と叩けば月鍵チャレンジは始まった。 す、すごい! 全長3m、体重100kgを超えるカジキを軽々と! あの小さな体のどこにそんな力が! 以前よりも増したと見える包丁捌きの速度! それだけの作業をしながら微動だにしない表情! これが後に伝説の包丁師と呼ばれる事になる月鍵・世恋の本当の誕生であった! ――などと告げる悠里に「伝説の包丁師世恋を前に正しくまな板の上のカジキ!」と告げる火車。 きらきらと瞳を輝かせるレンは「あのカジキの大きさは?」と隣の火車へと問いかける。 「全長5m級! 体重900kg超え超弩級セイルフィッシュ! 噂では何隻もの漁船をその槍の餌食にしてきたと言うこの海の主!」 「ぜ、全長5mの魚……!? いや、900キロならもっと大きいかもしれない。 食べられる魚でそんな大きなものがいるのか……すごい……」 きっとレンなど口の中で暮らせる程に大きいのだろうと目を輝かせる。海の主とも崇められたりした――らしいカジキマグロを捌く大将と世恋。彼女は白目を向いているが、レンは楽しそうだ。 「……うん、やはり素晴らしいな」 「包丁だけじゃない技術の体現者! リービングレジェンド……」 状況はもうこれだけで判って貰える事だろう。捌かれた鮪達は大将が握り、美味しくなりましたとさ。 「あ、伝説、ガリとってくれるか?」 呼び名が、伝説になっていた……。 ――そんな中、ぼんやりとした翔太の視線はアルパカに注がれていた。 「……これ、本物か? またアザーバイドとかじゃないだろうな」 南の島でじっと見たアルパカ。大量にいる『魚類』は焼き魚にして食べてしまおう。 アルパカの前にしゃがみこむ翔太は魚を差し出し食うかと聞いた。 (・´ェ`・)<焼こうぜ? 取った魚で良く分からん物を食べさせてやればいいかとアルパカを撫で続ける翔太。 状況はかなりギャグだが、アルパカと寄りそう翔太へとフツは手招き笑う。 「なあ、お前さん達も一緒に釣ってみね? 今、良い釣り場を聞いたんだ」 「あ、じゃあ釣ったら包丁師に捌いてもらおう」 一緒に行こう、とレンが頷けば、また世恋は遠い目をしていた。 ●(・´ェ`・)パ→カァ↓…… きらきらと輝く笑顔。ミリィは大きな瞳を細めて緩やかに微笑んだ。 ぱんぱかぱーーん! \突然の斬風チャレンジ/ 「……って、斬風チャレンジ? え? うん、アルパカ……南国なのに、アルパカ……」 瞬いた糾華にミリィのテンションはとても高くなっている。糾華さん糾華さんと手を引いて「アルパカですよ」と手を引いた。 「そう、遊びたいの……ミリィ、好きなのねぇ……アルパカ……」 「ええっ、アルパカと戯れましょう! 世恋お姉様にはアルパカを吸引する力でもあるのでしょうか?」 その言葉にラクダっぽいアルパカの体をもふもふとしている糾華は小さく息を吐く。 アルパカ吸引力――パカ有引力は、世恋かミリィかどちらであるのか。少なくとも糾華ではない。 浜辺でどや顔をする世恋をチラ見して溜め息をつけばミリィが糾華の袖をつんつんと引っ張った。微妙な表情が何処か困った様な笑みを浮かべている。 「アルパカさんへ乗りましょうよ。偉い人も言ってました。――そう、何事も経験だと」 「え? え……? これに、乗るの? そう、その偉い人ね、頭膿んでるのよ……」 美少女が遠い目をしている。とても辛い笑顔をそこで浮かべている。 時刻が過ぎゆく中で、アルパカは「任せてくれ」と鳴いている。糾華さん、とぐいぐいと背を押せばアルパカがドヤッと笑みを浮かべた……気がした。 「似合いますよ、糾華さん。ハイ、チーズ☆」 かしゃっと音を立て、フラッシュがたかれたアルパカ。乗ったミリィは共に駆けていく。 海辺を散歩する糾華は小さく溜め息を吐いた。 「嗚呼……私、遠い所に来たんだなぁ……」 駆けていくアルパカを見詰めながら、狩生はじっと見つめていた。アルパカと、狩生が其処には居る。 海、ですか、と波の音を聞く狩生の後ろで那雪は隠れて息をひそめている。 「日中に来るのは随分久しぶりな気がしますが……やはり美しいものですね」 爽やかな夏の良さを感じられると目を伏せる狩生はそっとしゃがみ込みアルパカと目を合わせる。本日一番の興味をそそられるのは彼――否、彼女だ。 「柔らかな毛並み、つぶらな瞳、暑さにも表情1つ変えぬその精神……実に興味深い」 頷く狩生はアルパカを撫でる。日陰で戯れるアルパカに「触らせて頂いても?」と告げるじいじの姿はイケメンである。イケメンは容易して置いた水と食べ物をアルパカに差し出した。 (・´ェ`・)<あ、有難う。 「君も休暇を楽しめると良いですね」 その言葉に頷くアルパカ。何故言葉が通じるのか等は聞いてはいけない。きっとアルパカだからだ。 そんなアルパカを見て「もふもふなのね……」とどきどきと鼓動を知り合いのお兄さんを追いかけてきた那雪はアルパカを見詰めている。 今出て言ったら狩生に見つかるだろうか。もしくはアルパカをもふってはいけないだろうか。 乗りたいけれどそれは我慢でそっともふもふ。ときめきを隠せずにもふ、もふと触ればアルパカがニヒルな笑みを浮かべた。 (・´ェ`・)<お嬢さん、俺に興味があるのかい? 喋ったと那雪は瞬きながら首を傾げた。背後、アルパカがちらりと振り仰ぐ。 終が手に持ったのはアルパカ☆アイスキャンディだ。 「アイスキヤンディーいかがですか~?? アルパカ印のおいしいアイスキャンディーだよ~☆」 にこーと笑った終はぼんやりとアルパカを見詰める世恋と近くに居る狩生の元へと近寄っていく。 味はオレンジ・パイン・ストロベリー等のフルーツ類各種とソーダ味があるという終はにっこりと微笑んだ。 (・´ェ`・)<うまいぞ。 ほら、アルパカも目で訴えてるよ、と微笑んでる終は銀のアルパカに跨ってアイスキャンディーを販売している。 三高平のアルパカ布教コーポ――何だろうそれは――としてはこの場に来なければいけない気がしたのだ。 「いやぁ、皆がアルパカと戯れている光景は良いねえ☆」 にこーっと笑った終は広がるアルパカの輪。アルパカに対する言葉は終のアフレコだった。 だが、心なしか背中で語ってる気がするアルパカは格好いい。兎に角格好いい。 真実はきっと皆の胸の中に―― 水着を着用し、リリは何故か意気込んでいる。手にした十字架。神からご神託でもあったのだろうか。 「夏と言えば……アルパカ、ですよね?」 (え、ええと……?) アリステアが思わず首を傾げる中、誰が吹き込んだのか『夏と言えばアルパカ』であるらしいリリがアルパカの元へと歩いていく。 アリステアはそんなリリとアルパカを交互に見詰めて首を傾げていた。 「パカ? パ→カァ↓」 (あ、アルパカさんって……お話しできるの……?) リリの良く分からないアルパカダンス――意志疎通言語――は言葉が通じなくともきっと伝わる筈だと言う意思が込められている。パカパカと告げれば小さく頷くアルパカがアリステアを見詰めた。 「え、の、乗っても良いの?」 「乗って良いそうですよ!」 乗りましょう、とそっと手を伸ばしてアルパカに跨るリリリステア。アルパカに乗りつつ海の浅いところをざぶざぶと歩けば傾きかけた夕陽が美しい。 隣に歩くリリも一緒に乗りたいとアルパカへと視線を送れば気付いたのかアルパカの頭をなでながらアリステアがアルパカさん、と小さく呼んだ。 「アルパカさん、乗せてくれてありがとう。あの……二人って大丈夫?」 (・´ェ`・)<お嬢さん二人ぐらい大丈夫だ。 そ、そっか、と小さく息をついたアリステアが緩く笑みを浮かべる。ゆっくりと歩くアルパカに二人乗りだとわくわくと心を弾ませて、二人で乗れば、アルパカはゆっくりと気障ったらしく歩いていく。 何時もは戦場でしか見ないリリのはしゃぐ姿に「おねぇちゃん」と小さく読んで、アリステアは小さく笑う。凛としたリリもいいけれど、こうした柔らかい笑顔を浮かべる綺麗な『おねぇちゃん』だって素敵だ。 「え、あ、あの……」 「あっ……」 口に出てたと小さく聞けば、嬉しいけれど恥ずかしいとリリは目をあちらこちらに動かした。そんな二人が可愛らしくてアルパカは小さく「パカァ」と鳴いていた。 浜辺に佇む真っ白いアルパカに気付いたシエルは茶色の瞳を見開いて、地面を蹴る。 「お師匠様っ! こんな処でお会い出来るなんて……」 もふ、とアルパカをもふもふするシエル。アルパカは何も言わず夕陽の下に佇んでいる。 沈む夕陽を見据えながら、シエルは「お師匠様」と小さく告げる。 「私が心配だからやってきた……ですか? 流石は師匠、私はまだまだ未熟です」 師匠――アルパカの口がキモ可愛く動くのを観察し、言葉を何となく理解するシエル。残念ながら、私には全く分からない。理解も出来ないが、シエルにはきっと理解できるんだろう。 「葱様は食べられるのが運命故……『焼いちゃった★』はgood endです」 (・´ェ`・)<そうか……。 「されど……私は……案山子様、『心友』をこの手に掛けてしまいました……。 お師匠様……あれで本当に良かったのでしょうか?」 (・´ェ`・)<良かったな。 パカァと鳴きながら唾を飛ばすアルパカは口を開く。だが私には何を言っているか判らないがシエルには判るのだろう。 「人は手を汚さずして生きてはいけない……だからせめて忘れるな……と。お、お師匠様……」 もふもふとし続けるシエルにアルパカは小さく鳴き声を上げている。アルパカの唾は酷い臭いを発している、だがシエル破気にしない。 「もう弱音は吐きません……徹底的に癒し――Airふぇざるも含め――尽くしてみせましょう」 目を伏せてシエルはアルパカの鳴き声を小さく上げる。二人を優しく夕陽が照らしていた―― ● 手を握りしめて桐はアルテミスへと視線を送る。普段は水槽越しに見れるぐらいの魚達がこんなに近くに居るのは凄い事だと桐は小さく息を吐く。 「自然の姿ですし……斜陽の赤に薄く照らされて煌めく姿も綺麗ですね」 「泳いでるのを間近で見る、というのは中々に不思議な体験ですね……」 海で泳いだり潜ったりは何回かして居るもののこうして触れる距離に魚がいると言うのは新鮮だ。 少し触ってみたい気もするとアルテミスが手を伸ばすものの、魚を驚かしてしまう気がして、少し躊躇するアルテミスに桐は可笑しくなって小さく笑った。 「触ってみたかったら手を伸ばしてみてはどうです?」 「好奇心旺盛でこちらに近づいてくる魚なら大丈夫でしょうか?」 そっと伸ばす指先に近場の魚が小さくキスを一つ。きらきらと輝くアルテミスの瞳に桐が優しく笑った。 繋いだ手はアルテミスの行きたい方へと歩いていく。深海から見る空はどんな感じだろうか。桐が見ましょうかとアルテミスを促せば、彼女は丸い瞳を輝かせる。 「空というか、水面でしょうか……? 夕焼けの空が水面に移ってどんなふうにみえるんでしょう……」 「オレンジ一色になれば凄いですね。でも、深いと青が閉ざしてしまいそうです」 ね、と笑えば、深海魚が小さく泳いでいる。浅瀬であれば差し込む光が段々と無くなっていく。見上げる空も段々と暗くなっていく。 小さく笑いながら差し出した貝殻のペンダントは彼女の為に買って置いた代物だった。 「今日の想い出に、ですよ?」 「何だか、素敵です……こういうの」 ね、と笑い合えば、魚達は楽しげに泳ぎ出す。 尻尾にぶら下げたカンテラを揺らしてリルは凛子と共にゆっくりと深海を歩いている。握りしめた指先に力を込めて、小さく笑えば、くすくすと凛子は小さく笑って海底の景色を見回している。 「アンコウ7とか面白いッスけど、ダイオウイカとかいないッスかね」 「深海魚は変わった物が多いですし、こうして散歩するだけでも楽しいですね」 小さく笑う凛子にリルもそうっすねとぎゅ、と手を握りしめる。隣のリルとこうしてゆっくりできることが何よりも幸せだから。 ふにふにと耳を弄り頬を撫でれば擽ったそうにリルは小さく笑う。 「……今回の戦いも無事に戻ってこれて良かったです」 「リルは少し物足りないッスけどね。力不足だったし……」 小さく囁けばヒゲがぴくりと揺れる。こうして生きているのは良いですね、と屈んだ所にリルと合わされる唇。 「こうして、凛子さんに会えるのは嬉しいッス」 「また、来年も来ましょうね」 好きこのんで死線をわたる事はとても多い。また来年も、きっと。ぎゅっと抱き締めて甘えれば凛子は小さく笑う。指先にぎゅ、と力を込めて、約束しましょうねと小さく微笑み合った。 ふわ、と地面を蹴って浮き上がるシィンは魚達を見詰めて目を細める。はしゃいでる人が多いこんな日だから、とても楽しくて堪らない。 魚を見るだけではなく、はしゃいでる人を見るのだってまた一興だ。日差しに寄って変わる水面の色に楽しそうにシィンは小さく笑った。 「海中からの太陽って素敵ですね」 美しい環境の変化に触れる。仰向けになって見据える空に手を伸ばせば、魚達がすり寄る様に泳ぎゆく。 そう言う時間をゆっくりと楽しむのはなかなかできない贅沢だと思うとシィンはその目に景色を焼き付けた。 そんな中、綺沙羅はゆっくりと海の中の道を歩いている。面白いと周辺を見詰めるが、これには準備が必要なのだろうかと小さく思案。 「……このアーティファクトはどういう仕組みなんだろうね」 悩ましげに呟いて綺沙羅は網で魚を掬い上げようと懸命に努力する。魚がする、と網には居れば綺沙羅は満足そうに小さく頷く。 水の重さも空気も問題にならない以上、遊ぶに適した環境だ。涼しいし、風景も悪くない。考察に考察を重ねながら綺沙羅は地面を蹴った。 「あの魚、見た事ない。捕獲だ」 地面を蹴り網を握りしめて追いかける綺沙羅だが、魚は簡単にすり抜ける。影人を生み出して、魚を追い求める綺沙羅は水族館で求めた竜宮の使いの姿が何処かにないかと周辺を見回した。 帰ればアーティファクトの考察レポートを作って、CGでこの風景を再現してみよう、とそう思う。 「酒の肴、という言葉はあるけども……魚を見ながら酒を飲む、というのも悪くないわよね」 くすと笑みを浮かべたセレアはキンキンに冷やしたジンを水筒に入れ周囲を見回してセレアは楽しげに笑う。 酔った事はあまりなしい、酔ったところで溺れる事もないだろう。魚だって、捕まえたいとは思っても捌いたりは得意じゃない。肉料理がメインだったなぁ、と小さく笑みを浮かべて、髪を揺らしてゆっくりと歩いていく。 ふらふらと魚たちの動きを見学しよう、そうすれば、少しは酒も美味しく感じるだろうから。 ――そんな中、浜辺では沈みかけた夕陽を背に徹は釣りに勤しんでいた。 彼の釣りに顔を出した翔太達へと徹は酒を飲みながらぼんやりと糸を垂らして居る。餌を変えたり、試行錯誤するのはこの際なしだ。 「お前ら、連れてるか? 俺か? 見ての通りの坊主だぜ!」 頭を叩いて笑えば、ソレにリベリスタ達も小さく笑う。翔太や悠里、そしてもう一人の坊主フツが釣りを行いながらぼんやりと空を見詰めている。 「お前らとケンカしたのが遠い昔の様だぜ。鬼にゾンビに軍隊に……次はなんだ? 悪魔か? 全くケンカの種は尽きないもんだね」 小さく笑えば、徹は酒を煽る。今は楽しめばいい。夕陽だって綺麗で酒も美味い。後は魚さえ釣れれば云う事無し――なのだが。 「わははははは!!! 海フュリエがおさかなゲットだ!」 ――何か、いた。 水族館と言えばお腹が空く。不思議な気持ちに海フュリエ(舞姫)の心も踊っているのだろう。 もし徹が釣竿を振るえば舞姫一本釣り出来ただろう。いっそ海フュリエ釣っておくのは如何だろうか。 「夏の海はサバイバルよ! 0円生活でお腹一杯になれちゃう♪ いやっふぅ! 水を得たフュリエになって、晩御飯をげっちゅーだわ!」 もう何を言っているか判らない、スーパー等で流れそうな魚ソングを口ずさみずんどこずんどこと魚をゲットしようとしているが、魚とて意味のわからぬ殺気と食欲を溢れさせた海フュリエに捕まりたくないのだろう。 「だ、だれかー! 魚をこっちに追い込んでーって……わたしぼっちだったー」 くっはーわすれてた、舞姫ったらお茶目とてへぺろと舌を出すものの悲しみが溢れだす。 ――海藻でももしょもしょ齧ってるよ。あ、美味しい……。 とっぷりと沈んだ夜は、静けさを感じさせている。 夜の海底散歩に赴いたテュルクはアルバイト先の面々と共にのんびりと歩いている。エナーシアの店であるJaneDoeOfAllTradesで話すだけの面々だが、こうして出かけるのだってたまにはいいだろう。 「何でもや屋はあんまり皆で動く事ってないわねえ。福利厚生としましょうか」 「ああ、偶には良い物だ」 そうよね、とエナーシアは笑ってゆっくりと深い青を見詰めている。アークの福利厚生にアークっぽい顔をして紛れこむ何でも屋――エナーシアは小さく笑って「凄いわね」と囁いた。 「世の中には、知られていないだけで凄まじい技術があるものですね」 こうして、海底散歩が出来ると言うのは何とも凄い事だろう。風情があると提灯を握りしめたウラジミールにエナーシアが素敵なのですと小さく笑う。 テュルクとウラジミールの間では捕まった宇宙人状態なのです><。と小さく呟くエナーシアにくすくすとテュルクは笑う。 暗視ゴーグルで見ては風情もなにもないだろうと笑えばエナーシアも小さく笑った。雑談を繰り返してウラジミールは最近はどうだと聞けばエナーシアもその話しにちょこりと乗る。 日本の暑さが厳しい事を告げれば、此処は涼しいですよ、とテュルクが楽しそうに微笑んだ。 「あ、これ、お土産にどうですか? ちょっとした記念品ですけど」 小瓶に入れた砂に小さく笑い、何でも屋の面々が空を仰げば、そろそろ陸ではリベリスタ達はお腹を減らすところだろう。 寿司屋の大将の前で、アルパカを眺めながら料理を続けるロアン。此処からは『料理男子』の腕の見せ所だ。 「ワインやお酒もきっとあうと思うよ」 生のままの魚のカルパッチョ。お酒の席には欲しいフィッシュ&チップスに魚の味を生かしてアクアパッツァ、ガッツリメインには白身魚の揚げ焼きバルサミコソース。 様々な料理を並べれば寿司屋の大将がほう、と小さく呟く。誘われた世恋もきらきらと瞳を輝かせているではないか。 静かな星空、海、そして――アルパカ。 「……アルパカ?」 「え、ええ」 いったい何故、あんな所にどうして、その問いは皆が通った道だ。世恋さん、とロアンが指差せば世恋はふるふると首を振る。 あの少し切なげな表情をした珍獣の云う事は世恋には分からない。 ロアンは「世恋さんなら判るかなぁって……何となく……」と小さく呟いて、世恋が困った様に笑えば、快が小さく手招きした。 「あ、世恋さん、丁度良かった。賄い丼食べるけど、どう?」 「あ、じゃあ……」 快は大将と呼び寄せて、酢飯の上に切り落としの刺し身を山盛りに乗せわさび醤油を掛けた丼を掲げる。 「お疲れさまでした! いただきます!」 またお会いしましょう、とカチンと合わせた日本酒。未だ騒がしい浜辺に楽しげな声が響いていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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