●亡霊のロマン 埼玉県某所、大田重工埼玉工場。 親衛隊の本拠となっているその一角に、再生部隊に割り当てられた兵器工廠がある。 「完成まで、後どのくらいだ?」 再生部隊長、カール・ベーレンドルフは開発最終段階の新兵器を見上げていた。 彼の視線の先には、何かを建造している部隊の配下達。 「防衛システムの組込みは完了しました。飛行と攻撃システムは部品待ちですが、今夜には上げさせます」 「よろしい。次の出動には間に合いそうだな」 答えたマルセルの言葉に、満足げに頷く。 「先の一戦には出遅れたが、次こそは、我ら再生部隊こそが、大きな成果を挙げるのだ!」 「Ja! 我らの技術、科学は世界一。それを知らしめてやりましょうぞ」 「これを見た時の劣等共の顔は、さぞ見ものであろうな。 私の前に立った箱舟の男、ロマンはロマンのままにしておいて欲しいとか言っていた事だしな」 カールとマルセルがほくそ笑んだその時。 工廠内に一斉に赤い光が灯り、非常警報が鳴り響いた。 ●目には目を、歯には歯を 三ツ池公園を親衛隊に制圧されてから半月。 彼等は例の『穴』を利用して革醒新兵器を強化すると共に、新たな動きを見せ続けている。 機を伺うにせよ、これ以上時間を与えては被害が増すばかり。 そして先日、一方的に訪問して言いたい事を言うだけ言って去って行ったかの『魔神王』の件もある。 現状を切り抜ける為には、親衛隊の早期撃破しかない。 反撃にして、決戦の時である。 「意趣返しと行きましょう」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が集まったリベリスタ達に告げる。 前回やられた事をやり返す、それが今回のアークの方針。 三ツ池公園を奪われたと言う事は、敵にとって防衛拠点が増えたと言う事だ。 ならば、敵の本拠地と三ツ池公園、双方を同時に叩く。 また戦力を2分する事になるとは言え、今回はこちらが向ける戦力を選べる立場である。 「皆さんに向かって頂くのは、大田重工埼玉工場の一角です。そこに再生部隊の兵器工廠があります」 再生部隊。 親衛隊の1部隊である彼らは、かつての『祖国』の兵器をアーティファクト化し再運用を研究するグループだ。 先日の三ツ池公園の折には姿を見せなかった部隊だが、なりを潜めていたのには理由がある。 「兵器作りに没頭していたみたいですよ。まずは、此方」 和泉が手元のコンソールを操作すると、工場を映していたモニターが切り替わる。 「銃……か?」 「はい、銃ですね。分類としてはライフルになるのでしょうか」 タウゼントフュスラーライフル、とでも呼ぼうか。 「以前の拳銃型に比べるとかなり重量が増していますが、以前あった欠点は改修されています」 以前の様な短い突起が無数についたムカデを思わせるデザインではなく、SFアニメの人型ロボットが持っていそうなデザインになっている。 砲身の厚みを持たせ多薬室を砲身の内側に仕込んでしまうことで、照準器も付けられるようになった。 「この兵器の所持者は部隊長のカールです。また、前回彼が使っていた拳銃型は量産されたようで、配下の何人かが所持しています」 量産された正確な数は不明だが、特徴的な外見を持つ兵器だ。 見ればすぐに判るであろう。 「実はこれら以上に問題の兵器があります。今回の最優先破壊対象です」 和泉の言葉に続いてモニターに映し出されたもの、それは。 「……UFO?」 「はい、UFOです」 誰かが呆然と呟いた言葉を、さらりと肯定する和泉。 再生部隊を謳う彼らがこれを作ったと言う事は、大戦期の親衛隊が円盤型航空機を開発していたと言う噂も、実は噂ではないのかもしれない。 「申し訳ありませんが、万華鏡を使ってもこの機体について見通せた情報はほとんどありません。 ですが……いえ、だからこそ、これを完成させる訳にはいきません。私達が勝つ為にも、世界の為にも」 ムカデ砲を再現した再生部隊が作った、と言う点から、長距離射程砲を搭載している可能性は高い。 性能がどうあれ、親衛隊とはこの戦いで決着を付けるのがアークの心算。 残せば将来の禍根になり得るものを見逃す手はない。 「こちらが攻め込むと、再生部隊は工廠内に篭城、この円盤機の防衛に当たります。 繰り返しますが、皆さんに最優先目標として頂きたいのは、円盤機の破壊、です。 敵の防衛線を突破し目標を破壊出来れば、必ずしも敵全員を撃破する必要はありません」 とは言え、今回は敵も兵器の実験気分ではない。 閉じない穴よりも開発を選んだ兵器、文字通り死守してくる事だろう。 「なお、当作戦実行前に、沙織さんが逆凪黒覇と直接やりとりをしました。――キースの事も含めて。 よって、今回は主流七派の介入はないと思われてます。現場レベルでの警戒は不要です」 先日の敗戦の一因となった主流七派の介入。そうはさせない為の『楔』は既に穿たれた。 また、公園奪還に向かうメンバーには、エース級以外のリベリスタも多数参加している。 仲間の為にも世界の為にも未来の為にも。 今宵、亡霊を眠らせるのだ。 ●亡霊の妄執 「カール様! ここで戦えばハウニブも巻き込まれます! 外で迎え撃ちましょう」 「……いや、箱舟の劣等共をここで待ち伏せ、仕留める」 工廠内での戦いに反対するマルセルの言葉に、しかしカールは首を振る。 「まだ飛行システムも攻撃システムも完成していないのですぞ、カール様!」 「狼狽えるな! 防衛システムは使えるのだろう! 我ら再生部隊の科学の結晶たるこのハウニブ、劣等如きに易々と壊せるものか!」 カールは己の率いる部隊の技術を集めて作り上げた兵器に、絶対の自信を持っていた。 それは、亡霊の妄執と言える程に。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:諏月 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月08日(木)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 遂に開かれた親衛隊との決戦。 兵器工廠に侵入したリベリスタ達が目にしたものは、待ち受ける親衛隊の姿と、後ろの巨大な円盤。 「久しぶりだの。随分と壊し甲斐のあるモノを作ったではないか」 「ああ、貴女ですか。他にも見覚えのある方が」 『大魔道』シェリー・D・モーガン(BNE003862) の言葉に、マルセルがぴくりと眉を動かす。 「8人か。総員、戦闘開始せよ。奴らを生かして帰すな!」 「Ja!」 カールの号令が響き、親衛隊が動き出す。 「いいや、今度こそ誰も殺させない。さあ、リベンジと行かせて貰おう!」 『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)も再生部隊とは2度目だ。 かつての戦い。一応の勝ちは収めたが、生かして帰せなかった仲間がいた。 それは『生かしたがり』である彼にとって勝ちとは言えない。 今夜は、一人も欠ける事無く、皆で生きて帰るのだ。 ● 「私が直線しか撃てないとでも思ったか?」 直線に並ばぬよう散開したリベリスタ達に、カールはかつて見せなかった技を振るう。 ライフルが連続で銃声を響かせ、蜂の襲撃のような連続射撃をリベリスタに叩き込む。 「ぐっ……斜堂流、見敵術!」 撃たれながらも、飛び出した『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955) が叫ぶ。 敵の繰り出す刃を受け流しつつ、使うは敵の能力を見透かす力。 「こいつがデュランダルで……ロアン、そっちはお前と同じ奴だ!」 「了解だよ。あいつは僕が抑えよう」 『ピジョンブラッド』ロアン・シュヴァイヤー(BNE003963) が答えて、影継とは別の親衛隊へと駆ける。 親衛隊が全身から放つ気糸を避けて、ロアンの操る極細の刃が神速で閃き逆に切り刻む。 「エルヴィン、そっちは――」 「覇界闘士、だろ! 前に見た奴だ。行かせないぜ!」 間を抜けようとした3人目の前にはエルヴィンが立ち塞がる。 先人より託された盾で、敵の繰り出す氷の拳を阻む。 「回復役は真ん中の1人! タウゼントを持ってんのは、カールを含めて4人! 1人だけプロアデプトが混じってる。向こうもスキャン持ちってことは、こっちを探ってるか」 後方の敵の射撃を受けながらも、影継は詳細の判らなかった親衛隊の構成を次々と見抜いて行く。 「さて、ハウニブは……んん?」 だが、カールの後ろに鎮座する円盤を見抜く事は叶わず、内心で首を傾げる事になった。 「ふむ。その様子ですと、斜堂さんの方でも詳細は判らなかったようですな」 後ろから『ヴリルの魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096) が声をかける。 かの魔術結社に属する者として、親衛隊の作りしUFOは見過ごせるものではない。レオポルトもまた、魔術的な方面から敵の兵器を探ったのだが。 「あれ全体に何らかの力が行き渡っているように見受けられますが、それ以上は私めでも……」 「おぬしもそこまでか。妾も判らんかった」 同じく探っていたシェリーも、レオポルトの言葉に頷く。 「オモシロというかトンデモというか。ほんとにあるんだねぇこんなもの」 ともに深い魔術の知識を持つ2人でも看破に至らなかった円盤を見ながら、『息抜きの合間に人生を』文珠四郎 寿々貴(BNE003936)が癒しの息吹を工廠に吹き渡らせ仲間達を癒す。 「まぁ良い。そのくだらぬ玩具、おぬしらごと打ち砕いてやろう!」 詳細が判らないからといって、攻め手を緩める理由などない。 シェリーが斧の様な刃を備えた巨大な杖を向ける。展開された魔法陣が作るは銀の弾丸。 真っ向から放たれた弾丸は親衛隊の癒し手を貫いて、銀の円盤を捉えた。 その直後。 その装甲表面、攻撃の当たった場所が輝き、放たれた光が工廠の天井スレスレを通って急降下。 「むっ……何じゃ、今のは」 光は避ける暇を与えずに、シェリーの肩を直撃していた。 「はっはははっ! そうだ、貴様らの驚くその顔が見たかった! これこそがハウニブの防衛システム『Ruckstrahler』!」 「Ruckstrahler……成程。反射鏡、ですか」 高笑いをあげるカールの言葉にあった単語を、同じ国の出自であるレオポルトが訳す。同時に、彼にはそのシステムの大凡の見当が付いていた。 「受けた攻撃に反応して撃ち返すのですな。鏡の様なその装甲と、全体に行き渡っている力に秘密がありそうですな」 「ほう……もう気づいたか。存外鋭いな」 レオポルトの言葉を僅かに賞賛するカールに、見破られた危機感はない。 「此処で戦う限り、君達は我らの放つ弾丸とハウニブの返す閃光に晒される事になる。果たして破れるかな?」 その大きさ故に遮られる事はなく、リベリスタ達が広い範囲を攻撃しようとすればハウニブからの反撃は免れない。 それこそが、カールがハウニブに抱く自信の根拠。 だが。 「撃ち返すのは攻撃の一部じゃな。装甲で止めた分か? もし妾の魔弾、そっくり返されていたのならこの程度の傷では済まぬわ」 光に撃たれた肩を気にした風もなく、シェリーの顔に浮かぶ笑み。 「要するに、反撃喰らうってだけか。だったら問題ないだろ」 『アッシュトゥアッシュ』グレイ・アリア・ディアルト(BNE004441) が十字架状の銀のボウガンを手に、悠然と足を進める。 「今日はオレ達が攻める番だ。纏めて倒して壊して、堂々と制圧させて貰う事にしよう」 そう言って、ボウガンの引き鉄を引く。圧縮した漆黒の光が矢となり、またしても親衛隊を貫いてハウニブへと突き刺さった。 「そうね。自ら亡霊となった彼らにふさわしい様に、あのアブロカーめいた円盤も再殺してあげませう」 『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)がPDWの銃口を敵に向ける。 見せるは神速の早撃ち。ほんの一瞬で狙いを定めて撃つ。その繰り返しで、次々と敵を撃ち抜いていく。 グレイもエナーシアも、ハウニブからの光を気にせず撃ち込んだ。 生半可な攻撃よりも強力な反撃である事に違いはないが、攻撃が効かない訳ではないのだ。 「我が血を触媒と以って成さん」 さらに、レオポルトが広げた手をハウニブの方へと向ける。怪異より作り上げた黒い手袋に魔力が満ちる。 「我紡ぎしは秘匿の粋、黒き血流に因る葬送曲!」 彼の血を以て作り上げた黒鎖の濁流が、親衛隊ごとハウニヴを飲み込んだ。 「まさか撃ち合う気か? 愚かな」 「どうかな? こっちの火力は凄いよ」 反射に構わずハウニブを撃つリベリスタ達を愚かと論じたマルセルに、本当に楽しげにロアンが言う。 「大体、思想といい発明品といい、君達の何もかもが気持ち悪い。まとめて皆殺しだよ」 妹のいないこの場で、彼が敵に対する好戦性を隠す理由はない。 「俺達の反撃は少々痛いぜ! さあ哭き喚け亡霊ども!」 賢者の石すらも灰燼に帰せ、そう祈念した真紅の刃を影継が振り上げる。 裂帛の気合と共に、全身を使って放つ爆発的な一撃を目の前の親衛隊に叩き込んだ。 ● 工廠の壁とハウニブ。 互いに『下がれない物理的な理由』を背後に抱えた戦場に、射程外の安全圏などない。 そうなると、癒し手は明確な生命線であり、敵味方共に狙い所だ。 「撃たれて死にたくはないけどさ、ひとりで残ってもねー」 せめて被弾を減らそうと短く動き続けながら、寿々貴が高位の癒しの力を仲間に施す。 射程外に逃れる事は既に諦めた。 「こりゃ楽していたい、なんて言ってられないねー」 撃たれても軽い口調は崩さない寿々貴だが、或いは、キリっと時間の自己ベストを更新する事になるかもしれない。 「妙だな……何で撃ち合いが続いてんだ?」 寿々貴よりも前で、敵を抑えながら仲間を癒し続けるエルヴィンは、違和感を感じていた。 「確かにのう。以前のあやつら、早々に味方も巻き込んで来た」 その言葉にシェリーも頷いた。 2人が感じる違和感は、かつての再生部隊と戦った際、早々に使われたボルテクスボムで戦線が乱された事に因る。 ボルテクスボムはマルセルが持っている筈だが、敵の中衛にて攻防の指示を飛ばすくらいで使ってこない。 時折振り向いてカールと目配せしているので、彼らに何か策があるのは確かなのだが。 「よぉ、負け犬野郎! 何企んでやがる!」 「さて、何の事でしょうな?」 「俺がいる限り、お前の閃光弾でも皆の自由は奪わせない。爆弾は下手に使えば前線が崩壊だ。 ご自慢の手札も使い物になんねぇってとこだろ。ざまぁねぇぜ!」 表面上は、前回の雪辱に燃える様に熱く、その実は冷静で慎重に、敵の狙いを探る。 そんなエルヴィンの挑発にも、マルセルは軽く肩をすくめてみせただけ。 彼の懸念は間違っていない。この時、敵は狙っていた。 もし、彼が全ての敵を警戒していたなら、後方で一人、しばらく動いていない敵に気づけたかもしれない。 「我紡ぎしは秘匿の粋、ヴリルの怪炎ッ!」 「遅えよ!」 レオポルトの喚んだ魔炎に包まれ、グレイの放つ漆黒の光に貫かれ、敵の癒し手が倒れる。 影継とロアンの前の敵も膝をつきそうになるのを、運命を燃やし堪えている。 情勢がリベリスタに傾き始めたその時、敵も動きを見せた。 「潮時だな。やれ」 カールの短いその指示を合図に響いた銃声。 気糸に撃ち抜かれたロアンの片眼鏡が宙に舞った。視線が敵のプロアデプトを向く。 精密さに欠ける銃器とて、集中を重ねれば、回避に長けた相手に直撃させる事も可能だ。 更にその直後。 バチンッ。 「闇雲に駒を一気に進めても意味がない。手札は使い時があるのですよ」 銃声、続いて何か弾けるような小さな音と、マルセルの声が聞こえる。 直後、灯りが全て消えて工廠内に暗闇が降りる。 戦場の中央では、轟と風が渦巻いて、猛烈な風圧がリベリスタも親衛隊の区別なく前線の6人を吹き飛ばした。 「やはり落としてきたか」 「想定内ね」 夜間の戦い故、灯りを落とされれば暗くなる。 それを想定し最初から暗視ウェアを着けていたシェリーや、銃にライトをマウントしていたエナーシアに影響はない。 「先に死にたいの? 中まで綺麗に切り刻んであげようじゃないか!」 そしてロアンは、自分を撃った相手を暗闇でも見失っていなかった。怒りに任せ、一人敵陣深くへと駆け込んでいく。 「ロアン、どっちだ? ――ぐっ!?」 「くくっ。見えんのだろう? 仲間を見失った貴様の姿、こちらからは良く見えるぞ!」 仲間を探すエルヴィンを襲う死神の魔弾。彼は、暗闇を見通す力も照らす道具も持ち合わせていなかった。 その上、風に飛ばされ親衛隊に阻まれ、この一時、暗闇の中で敵味方の一部を見失ってしまった。 そうでなければ、もっと早く邪気を払う光を放てたろうし、カールに隙を見せる事もなかったろう。 「ちっ。どきやがれ!」 暗視ゴーグル越しの視界に塞がる親衛隊を影継が斬り伏せるが、ロアンを止めるには間に合わない。 「嫌なタイミングで灯り落としてくるねー」 ぼやきながら、寿々貴が暗視ゴーグルを装着。仲間の位置を把握し、癒しの息吹を吹かせる。 その時、レオポルトの背後に親衛隊が一人迫っていた。 ロアンが抑えていた相手だ。暗闇に乗じて、物陰を移動したのだろう。 暗闇で視界が効かない相手を狙う事など、造作もない。彼はそう思っていた。 「甘ぇんだよ」 その声は後ろから聞こえた。暗視装置を装着したグレイが気づいていた。 「オレの痛みも食らわせてやる。死んどけ」 自身のダメージも乗せた呪いの一撃に貫かれ、声もなく倒れる親衛隊。 「まァ、痛みはないんだけれどもな」 止めを刺した親衛隊にも流れる血も気に求めず、グレイはハウニブへと向き直る。 ハウニブの少し前では、ロアンが親衛隊に挟まれていた。 既に怒りは収まっているが、それでもこの状況はよろしくない。 (ま、どうせ敵の懐に潜り込むつもりだったしね――) 「纏めて中まで綺麗に切り刻んであげよう」 倒れるまで一人でも多く殺そう。そう決めた彼の背後で、神秘の閃光弾が放たれた。 ● 「全くもって見事だよ、アンタ達」 カールの前に立ち、影継が告げる。 「勝利のために躊躇わない姿勢! 勝利のための犠牲になることを厭わない部下達! どれも本当に見事だ! だから、アンタ達再生部隊への敬意に替えて──全力で殴り倒す!」 「それは結構。だが、こちらは君に付き合う必要は無い!」 影継の剣斧から放たれる生命力を変えた黒い瘴気を受けながらも、カールは銃口を横に向けた。狙うはレオポルト。 例え目が慣れたとしても、暗闇から飛来する弾丸を裸眼で見極めるのは難しい。それを見逃すカールではない。 死神の魔弾に撃ち抜かれ、レオポルトが膝を付く。しかし、運命を燃やしてまだ倒れない。 「私めを狙っている場合ですかな?」 「何?」 「あの円盤に全幅の信頼を置いておるようでございますが、大分食らっておりますぞ。 果たして、私めが編み上げるヴリルの奔流の前に、他の皆様の攻撃の前に、何処まで耐えることが出来ますかな?」 「何かと思えば。まだ壊せると思っているのか」 「思っている、じゃねえ。ぶっ壊すんだ」 グレイの放つ漆黒の光が、ハウニブを穿つ。 「だから、オレも倒れているワケにはいかん!」 避ける間もなく光に撃たれるが、グレイも運命を燃やし堪える。 「無駄な事を。先に壊れるのは其方だ!」 「そうでもないわよ」 無駄と嘲るカールの言葉を遮って、エナーシアの声が響く。 彼女も何度もハウニブからの光に撃たれた。運命の加護も使い、敵全体を狙う気力も既にない。 言わば、最後の一発。 エナーシアが放ったその弾は、音もなく消えた。ハウニブの装甲も、光らない。 外れたか? いいや。 ボンッと装甲の内側で小さな爆発が1つ。バチバチを火花が上がれば内側から次々と爆ぜて行く。 「なっ……なにが起きた!」 「まさか……中枢部を撃ち抜かれたのですか」 茫然とするカールとマルセル。 防衛システムを司るものは、外から幾ら見ても判らなかった。なら、あるのは機体の内部だ。 エナーシアはハウニブの装甲に付いた傷の隙間に撃ち込んだのだ。 他人よりも不運も幸運も強く引き寄せるエナーシアだが、この瞬間は幸運が勝った。 まさに、銃火器の祝福。 とは言え、そこを見逃さずに狙い撃てたのは間違いなく彼女の技量だ。 更に、ハウニブの装甲に穴を開けたのも一発の弾が決め手になったのも、反射を恐れずに全員が攻め続け掴んだ成果だ。 「壊れる時は案外とあっさりだねぇ」 火花の陰に見える内部機構を記憶に叩き込みながら、どこかのほほんと寿々貴が言う。 覚えた所で何の役に立つかは判らないが、夢は未来あるものにこそ。 「馬鹿な……。1ヶ月! 1ヶ月を費やしたハウニブだぞ!」 「技術は人と一緒にしか活きられない生物なのよ」 茫然とするカールに、エナーシアは小さく笑みを浮かべて言い放つ。 「人的資源を軽視しているから、こうなるのよ。再生部隊と言っても、所詮はあだ花でしかなかったわね」 「許さん……許さんぞ、貴様らァ! 何の足しにもならぬが、死んで償え!」 ついぞない程に激昂するカールと、火花を上げ続ける円盤。 「くっ……ははっ」 それらを視界の端で捉えながらロアンが倒れる。既に運命を燃やした後、此処が限界だ。 とは言え、少し離れた所には、ロアンによって首を深く斬り裂かれた親衛隊の骸が倒れている。 「仲間をやらせはせぬよ!」 倒れたロアンに銃口を向ける親衛隊を、シェリーの放った銀の弾丸が撃ち抜く。 「やれやれ。また貴方ですか」 「言った筈だ。もうお前らには誰も殺させねえ」 マルセルの前には再びエルヴィンが。もう彼が敵を見失う事は無い。 残る親衛隊は4人。だが、怒りに燃えるカールの攻撃は寧ろ苛烈さを増し、マルセルもボルテクスボムを惜しげも無く使ってくる。 誰もが消耗したここに来て、突入した混戦状態。 「まだ終わりじゃねぇぜ、ここからだ!」 「まだ終わらないかー」 エルヴィンも寿々貴も、運命を燃やし倒れる事を拒む。此処で回復役が倒れるわけにはいかない。 それでも、レオポルトが倒れ、グレイが倒れ、エナーシアが倒れる。 「これで、終わりだ! 再生部隊!」 影継が全身に闘気を漲らせ放つ一撃が、振るう赤い刃がカールを深く斬り裂く。 「散っていった多くの英霊達の仇、討たせて貰う」 叩き付けられたカールを、シェリーの放った魔弾が貫く。 ずるずるとカールの体が崩れ落ち、円盤だったものに赤い跡がべったりと残った。 「後はお前だけだ」 残る親衛隊は、マルセルを入れて2人。ジリジリとハウニブを背に4人に追い詰められていく。 「最早我らに勝ち目はない……ですが!」 そう言うと、マルセルは懐からリモコンの様なものを取り出し、1つだけついたボタンを押す。 突如、工廠内のあちこちで赤い非常灯が点滅しだす。 「おぬし、何を」 「あ、もしかして自爆スイッチ的な?」 寿々貴がまず気づいた。大抵の親衛隊の兵器には自爆装置が組み込まれている。 それをこの場にも仕掛けていたとしたら。 マルセルは薄ら笑いを浮かべるだけで答えない。 「逃げるぞ!」 4人が1人ずつ、倒れた仲間を担いで慌てて外へと飛び出す。 その直後。彼らの前で、再生を夢見た亡霊達は爆炎の中へ消えていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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