● 「もう、まったなし」 『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)は、さっさかと資料を配り始める。 「三ツ池公園の穴、やっぱりすごいんだ。連中、革醒新兵器を強化するのと一緒に、色々新規に始めてるし」 ベキバキと噛み砕かれるペッキの破片が机に飛ぶ。 「連中に時間をやるのは百害あって一利なし。キース・ソロモンからの宿題リミットも近づいてくるし。夏休みは宿題終わらせてからエンジョイしよう」 すこぶる真面目なフォーチュナが、今までの傾向と対策。と、リベリスタの注意を喚起する。 「『親衛隊』は前回の戦いでアークという組織の脆弱性、即ち『エース』に頼りがちな戦力構成という弱点を突いてきた。即ちそれは『守るべきものを多く持つ』アーク側の泣き所を狙ってきたってこと。日本中この人数でフォローしてるんだから、穴は出来る――皆、ハムラビ法典は知ってる?」 中学一年生も習ったはず。と、フォーチュナが悪い笑みを浮かべた。 「目には目を。歯には歯を。やられたことと等倍を。敗戦の意趣返し。やられていやだったことをやり返すよ」 モニターに、違う風景が二つ映し出される。 片方は、三ツ池公園。もう片方は、工場に見える。 「こっちは、大田重工の大規模軍事工場――敵本拠と公園の同時攻撃を行います。厳密に言えば公園奪還の大作戦を陽動に、手薄になった本拠を制圧使用って訳。少なくとも本拠と三ツ池公園の二拠点を防備しなければならない『親衛隊』は以前よりも荷物を増やしていると言えるね。いやあ、守るものが多いってたぁいへん」 このフォーチュナも腹に据えかねるものがあるらしい。いつになく舌鋒がきつい。 「大田重工と主流七派との兼ね合いについても、大田重工相手はノープロブレム。七派についても本攻撃作戦において沙織さんが逆凪黒覇に大博打ぶったから」 『呼んでもいない大物来訪、二ヵ月後の再来のお知らせ』をしたのだ。 「『そんなの知らん』とか言われたら万事休すだったけど、頭いい人は、そうなったらどうなる。ってずんずん考えてくれるからね。大企業のお偉いさんもたぁいへん」 『この場でアークが倒れた場合、キース・ソロモンの相手になるのは『勝利した』日本の神秘勢力である』というハッタリが効いたと見える。 あくまで可能性のはなしではあるが、『計算の立たない最強の腹ぺこ』であるキースは、損得計算を重視する合理主義者の黒覇にとって最悪のジョーカーだ。 黒覇が『親衛隊』を介してバロックナイツの――キースの情報を収集出来るならば、却ってそれはその裏打ちになるとも言えるだろう。 「わかってるとおもうけど、アークが崖っぷちなだけじゃなくて、神秘界隈では治まらない世界平和に影響を及ぼすものにすらなりかねない。第三次世界大戦とかありえない。――資料の最後のページをご覧下さい」 『万全・完全なるアークの力を示せば敵が『親衛隊』であろうとも恐れるに足りるものか。リベリスタの健闘と勝利を司令本部は確信している!』 「――確信されちゃったので、がんばりましょう。フォーチュナも脳味噌フル回転でがんばります」 では、詳細なブリーフィングを始めます。と、四門は、ぺこりと頭を下げた。 ● 「――という訳で、皆には本丸の太田重工に攻め込んでもらいます。肝心要をみんなに託して三ツ池公園に攻め込んでる人がたくさんいることを忘れないで。お互い笑ってお疲れ様がいえるようにがんばってきてね」 四門は、にこっと笑った。 「大田重工は守りが堅い。ピンポイントで攻め落としていくからね。さて、これをご覧下さい」 バイクとレディス向けスクーターのCMだ。 どちらも街中でも良く見る。新機種、まもなく公開と来た。 「大田重工バイク・スクーター部門主戦力です。で、みんなの相手はこれ」 はい? 「これ、見た目こそ普通のバイクとかスクーターだけど革醒兵器なの。すれ違いざまソニックエッジかましてくスクーター。分身攻撃してくるバイク。こっちの攻撃範囲外から無挙動で間合いに入ってくるスクーター――作られちまったよ。量産して来やがったよ」 うつろな笑いが四門の口から転げ出る。 「こないだの三ツ池公園戦で、このバイクの試作機が結構な戦果を挙げたの。で、量産されました」 どこからどう見ても、普通のバイクにしか見えないバイクがずらりと生産ラインの上に乗っている。 「そう。そういうの見破る心得がなければ、革醒者でもアーティファクトと分からない。ステルス仕様。簡易飛行も出来る。キャッチフレーズは、『一般人でもソードミラージュ!』 そんなのが普通のバイクにまぎれてあっちこっちで一斉蜂起したらどうなると思う?」 地獄絵図だ。 「今まで、なんの役に立つのか分からないと思われていたステルス機能、これのためにあったという訳だ。どう見ても普通のバイクだから、兵器ではなく一般車両としての輸出も可能」 死の商人にとっては、またとない資金源。 「とりあえず、すでにくみ上げられているのが20台。これをぶっ壊してもらいます。おっかないバイクだよ。乗ってるのは、覚醒したばかりの新兵、だけど熟練の革醒者みたいに戦える。数も多いよ。気をつけてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年08月08日(木)23:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「分隊長より通達! 至急、先行機を例の場所に移送! 急げ!」 つい最近までは後は死ぬだけの老人だった。 少年兵の時分に南米に渡り、革醒できぬ身を嘆きながらも親衛隊のために一生を費やし、それでも真の祖国を取り戻すことに生涯を捧げる喜びをかみ締めながら死ぬだけの老人だった。 しかし、神は見捨ててはいなかった。 六十年前にさかのぼった肉体。ああ、それも僥倖なのだ。覚醒しても年寄りのままということもよくある。 『戦う術を手に入れた君に贈り物だよ。新兵がこれを使ったときどれだけの性能を引き出せるかが見たいんだ。ゆくゆくは、覚醒していないたくさんの同胞にも使ってもらう予定だからね。革醒者だけでは世界と戦えない。そうだろう? 君も悔しい思いをしたろう? もうそんなことはなくなる。私たちは肩を並べて戦場に立てるのだ。私はそのために日々を捧げているのだよ』 曹長はそう言った。 『どうか有意義に使って欲しい。私と私の部下たちが手塩にかけて育てた機体だ』 腹に響く咆哮。私の鉄の愛馬。 『君達に、総統閣下の加護があらんことを』 ● 「さて、此処が件の兵器を作っていると言う工場」 『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)が、戦場に降り立つ。 『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)の呼んだ加護で、リベリスタの背に仮初の羽根が生えている。 夜闇にまぎれ、構内に侵入したリベリスタ達は、巨大な工場と工場の間に挟まれた搬出用道路でそれと鉢合わせた。 「ヴィント」は、俗に言うセコハン。250ccのバイクだ。 まったく目を引かない。ごく普通の大衆モデル。完全に街乗り仕様だ。 「ヴェレ」にいたっては、50ccスクーターにしか見えない。 「前回は見事にしてやられましたが…今回ばかりはそうはいきません。……勝たせて頂きますよ、親衛隊の方々」 黄泉の女神の祝福を受けた御神弓を手に紫月は矢を番える。 「見た目が普通のバイクって、ねぇ……」 智夫は、それの原型を知っている。先日轢かれたのは記憶に新しい。 あれがこうなるのか、どう考えても分からない。 三ツ池公園からもたらされた『神秘』 の強力さに怖気が走る。 「また物騒なものを作ってくれたわね」 『尽きせぬ祈り』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は、大人びた、というか大人ぶった表情で前を見据える。 「一般人にも使える革醒兵器とか、正気じゃないよね」 素の智夫だ。 わずかによった眉と、いつになく低い声にに怒りがにじんでいる。 「うちの室長もこれぐらいできそうだけども……さすがに一般人巻き込んでってのは普通じゃないよね」 『魔法少女マジカル☆ふたば』羽柴 双葉(BNE003837)は、智夫に同意した。 「ちょっと許せないかな」 脱走王の出番はさらさらなく、清廉なナイチンゲールで戦場に立つことは智夫が良しとしない。 このふざけた兵器は、智夫が阻止しそこなった結果だ。 なす術なく池を渡るバイクを見送らざるを得なかった夜をまざまざと思い出せる。 軍服にヘルメットで普通のバイクにまたがっているのは、『ルーンジェイド』言乃葉・遠子(BNE001069)に激しい違和感と、目の前の存在の覚悟を感じ取らせた。 「あの人達は本当に世界大戦なんて起こそうとしてるんだね……。戦争なんて辛いだけなのに……」 そうやって表情を曇らせる遠子の横顔を『男一匹』貴志 正太郎(BNE004285)は眼に刻み付けた。 (遠子にゃ、指一本触れさせはしねえぜ!) 遠子は、幼馴染の大事なねえちゃんなのだ。 自分がいる限り、なんとしても無傷で返す。 「こんなのが量産されたら迷惑以外の何物でもないわ。キッチリ叩き壊しましょ」 シュスタイナがヒスイの腕輪をはめた手でワンドを振りかざす。 「皆さん、玉音放送と言うのをご存知ですか」 セーラー服姿の『永御前』一条・永(BNE000821)が、ひ孫より若いリベリスタに問うた。 「日本は戦争に負けましたと当時の天皇陛下がラジオで仰せになられたのです。私の父は12の私に焼け野原を見せてこう言いました。『永、これが戦争だ。我が一族が何度も見てきた地獄だ』 」 その頃、永は今のシュスタイナとほぼ同じくらいだった。 「護国などという言葉、今どきの子たちには馴染みが薄いのかもしれないけれど、私は、故郷が蹂躙される様など二度と見たくはない」 だから、永は武器を取る。 「アークがリベリスタ、奥州一条家永時流三十代目、一条永! 往くは阿修羅道、武をもって罷り通る!」 名乗りに、鉄の咆哮が答えた。 『野蛮で卑劣な近代戦争の場では、互いの姿を認めたが最後、一瞬でも早く相手の脳味噌地面にぶちまけさせてやるのが礼儀だ」』 彼らの上官が、かつてそういった通りに。 ● 建物の壁を背に半円を書くようにしてリベリスタ達は陣を敷く。 一網打尽の攻撃対象になるのを避けるため、前衛のリベリスタ達は互いの間隔を二、三メートルとした。 あまり広くすれば、間を抜かれる。 結果、半径四メートルの半円。片側二車線の搬出道路の半分弱を占めている。 バイク二列が十分正対することが出来る勢力範囲。 それがリベリスタの舞台となった。 「皆、こっちによって!」 魔力を練り上げて作った閃光弾を放つ智夫。次の瞬間、白光が辺りを覆い、オートバイ兵の目を焼いた。 光の向こうからあふれ出してくる、橙色の炎の塊。 『灯色』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)の褐色の肌からあふれ出す炎が視界の全てを埋めているのだ。 そこから迂回すれば、永の旋回する薙刀が待っている。 「皆、まとめて焼いたげるよぅ!」 「神風にて切り裂かん!」 銃弾を撒き散らしながら、突破を図るバイクに向けて、次なる障害が待っている。 「木漏れ日浴びて育つ清らかな新緑――魔法少女マジカル☆ふたば!」 「魔陣展開する余裕もないって訳っ!?」 シュスタイナは、聞き取れない速さで呪文を詠唱する。 指の間からにじみ出る鮮血が黒い鎖になってバイクを襲う。 「その『動くおもちゃ』壊させて貰うわよ?申し訳ないけど、乗り手さんもね」 「我が血よ、黒き流れとなり疾く走れ……いけっ、戒めの鎖!」 互いの死角を補い合うように道路にあふれた鎖は、猛毒を撒き散らし、オートバイ兵の血肉を抉り取る。 「手前らのタマなんざ、全部叩き落してやらあ。後ろにゃ何が何でもとおさねえ!」 正太郎のフィンガーバレットから放たれる銃弾が、バイクのフロントガラスを割る。 乗っているのは、一般人ではない。 一般人でも使える兵器と聞いたときから胸にわだかまるものがあったのだ。 「バウアー」――親衛隊の電波中継車によって洗脳・発狂して親衛隊の指示通りに動くノーフェイス。 それがフェイトを得た者ではないかと。 (クソ電波にやられた連中かと思ってたけど――) バイクやスクーターに乗っているのは日本人ではない。正太郎には『白人』としか区別がつかない。 (洗脳にかけられてるなら、絶対生かして連れ帰ろうと思ってた) やつらは、親衛隊だ。だったら、手加減の必要はない。 心に広がっていた黒雲は晴れた。 だが、ほっと息をつく暇はない。守らなくてはならない人が正太郎の背後にいた。 いや、前線に出てきている。 「遠子! 下がれ!」 「この方が斜線を確保できるから……。ずっと前にいる訳じゃないのよ……」 遠子は、迫ってくるオートバイをまじまじと観察していた。 街中で見たとしても、まったくアーティファクトと気がつかないだろう。 (あんなバイクが一般に出回ったら……ううん……そんな事はさせない……) 開いた魔道書のしおりを挟んだ箇所には、戦闘計算の公式がびっしりだ。 遠子の体から湧き上がる気糸は、生命のあるなし関わらず全てを貫く有線ミサイルとなる。 「どうやら、多少は早い様ですが……お生憎様、その速度では私の矢から逃げる事は叶いませんよ」 たっぷりと時間をかけて、紫月は弓の弦を引く。 指先に炎の矢羽音の感触。燃え上がる鏃。具現化する炎の意志。 「加減はしません、生き残りたければ……この矢から逃げ延びる事です……!」 放たれた矢は、烈火の雨。 辺り一円を火の海に叩き落す。 横転するバイクに、アナスタシアの挑発が浴びせかけられた。 「あなた達新米でしょ、そのバイクで一体何回戦ったの? 転ばなかった? はふふ、あたしが転ばせたげよっか!」 銃弾が、アナスタシアに集中した。 その攻撃の隙を突いてアナスタシアの反撃がバイク兵を襲った。 「不用意にあたしに攻撃すると、怪我するよぅ」 全身これ武器。それゆえの針鼠の号だった。 ● リベリスタ達は、まずバイク兵を標的にした。 新兵の体力などたかが知れ、乗り手のいないバイクなど、ただの機械でしかない。 それでも小回りの効くバイクは、走行する数が減るたびに、狙いを付けるのが難しくなる。 一度陣を引いてしまったリベリスタは大胆な動きは出来ず、それぞれがその場に釘付けの状態になっている。 留まり続ける敵に攻撃するのはそれほど難しいことではない。 ましてや、相手は「ソードミラージュ」なのだ。 「来るぞ! 後衛は下がれっ!」 スピンターンを決めた三台の『ヴィント」が何十台にも見える。 多方向から全身を切り裂かれる衝撃がリベリスタの感覚を狂わせ、同士討ちを誘発する戦術。 しかし、それもまともに当たってこそ。 紛争起爆剤としてのテロ行為あるいは「一般人の軍隊」を蹂躙する目的で作られた「革醒兵器」と新兵では、皆中とはいき難い。 それでも、体力は確実に失われていく。 「20台ものバイク兵って聞いた時は驚いたケド、戦い方は普段と変わらないんだねぃ。バイクを活かせてないんじゃない? 期待したのに拍子抜けだよぅ!」 挑発するアナスタシアのオレンジ色の髪の目元に流れた血がこびりついている。 独特の呼吸法で体力を賦活する。万全には程遠いが、まだ戦える。 できるだけ、面倒は自分にと挑発を続けるアナスタシアのやり様は、彼女の婚約者にも似てきていた。 「永殿、おんなじ奴を狙ったほうがよさそうだよぅ!」 「心得ました。合わせましょう。存分になさい」 永はなぎなたを構えて、アナスタシアの炎の動きを見届ける。 最も傷ついた者が永の攻撃の中心点になる。 まとわりつく炎に喉の置くまで焼き尽くされながらも、雄たけびを上げながら引き金を引き続けるオートバイ兵が最期に見たものは、冴え冴えと光を跳ね返す月にも似た刃だった。 それが巻き起こす風がすっぱりと彼の首を切り飛ばす。 「カミカゼ――」 飛んだ首の今わの言葉に、永はつぶやいた。 「吹かせましょう。護国のためなら何度でも」 神威の光をほとばしらせていた智夫と、血の鎖を編み続けていたシュスタイナが、回復請願詠唱を挟み込む頻度が次第に上がってきていた。 「一人倒れるだけで、こちらは相当な戦力ダウンだもの」 どこか言い訳っぽい前置きを忘れないシュスタイナに、智夫は頷いた。 「うん、それでいいと思うよ」 彼女の姉とは、智夫は何度も視線をくぐっている。 皆を癒したいのだ。と、公言する姉とはずいぶん違うようだ。 「戦力は保持しないとね」 その分、攻撃の手はどうしても弱まる。 それを支えていたのは紫月だった。 紫月の炎の矢は当たり損ないでも新兵の体力を容赦なく削っていく。 (この場での勝利は、必ず掴ませて頂きます。それが親衛隊との戦いの中で散って行った方々への私なりの答えです!) 歯を食いしばる。 二分と撃ち続けることは出来ない大技だ。 だが、途切れさせれば前衛を轢いてでもなだれ込んでくるだろう。 新兵しかいないからこそ、倍以上の敵と戦い続けていられるのだ。 「同調します。気を楽にしてください……」 遠子の柔らかな気配がそっと紫月の心に寄り添い、その魔力の器を満たしていく。 「助かります」 短く礼を言うと、紫月は再び矢を放つ。 それが、紫月の応えであり、答えだった。 リベリスタの腕と見た目は一致しないのが定石だが、それでも子供を狙いたくなるのが初陣の人情。 前衛の一角を崩さんと、紫月の視界とは逆側に立つ正太郎に攻撃が集中し始める。 恩寵を磨り潰し、すかさず飛んできた回復に後押しされながら、正太郎は一歩前に踏み出した。 「――こんなところで倒れてらんねえんだよっ!」 振り回される拳が、振りぬかれる脚が暴れまわるオロチと化して、オートバイ系の鼻梁をへし折り、あごを割り砕き、引っつかんだ腕ごと地面にたたきつける。 わずかの間、正太郎を中心に出来る空白地帯。 その隙を縫って、入り込むサドン・デス。 遠子の白い頬から血の気は引き、薄い胸が苦しげに上下する。 猛攻の中、よく踏みとどまっていた。 チームの癒し手に専門職はいない。常に、どこかしらに傷を負いながらの戦闘。 恩寵は、とっくに使い果たしていた。 「バイクはたった1台でも残せば後の災いになる……。1台残らず壊さなきゃ……」 銃弾から急所をずらしきれない遠子の肩口に叩き込まれた一連射はその目から光を奪うには十分で。 「――遠子ぉっ!!」 「大丈夫よ、正太ちゃん。バイク、皆壊して……お願い……」 命に別状はなさそうだが、戦闘するのは無理そうだ。 「このぉぉぉぉ!!」 悲しみは、憤りは、少年の拳を一時強くした。 「加速、するよっ!」 双葉は、人が二度動くところを三度動く。 すばやく遠子の前に立ちはだかり、止めを刺されないようにして、呪文の詠唱に入る。 「魔を以って法と成し、描く陣にて敵を打ち倒さん……本気でいくよっ!」 三ツ池公園では、双葉の姉が戦っていた。 大事な人が傷ついていても、すぐに駆け寄れないのは皆同じだ。 ほんの数歩のところにいる正太郎さえも、今は遠子のそばに来られない。 一度戦場に出たら、自分の役目を果たさなくてはならない。 大事な誰かの無事を誰かに託す。だから、自分も誰かの大事な誰かを守る。 「この炎を以って浄化せん。紅蓮の華よ、咲き誇れ!」 湧き上がる魔炎がはじけて、大輪の炎の花を咲かせる。 爆発する横倒しになった『ヴィント』 「部位狙いとかややこしい事は考えてられない。ただ地面に落とされた乗り手は優先的に狙っていきたいね」 魔法少女は、そう言って、仲間の分まで次々に攻撃呪文を詠唱し出した。 それぞれがそれぞれの場所で踏みとどまった。 なけなしの魔力を叩いて伸ばしてお互いに分け与えあい、二十台のバイクの動きが止まったとき、リベリスタ達も戦闘するのがやっとの状態になっていた。 ● 智夫は、まだ息のある兵士に投降を呼びかけた。 兵士は、それを唾棄した。 「劣等風情が――」 智夫はそれ以上口を利けないようにした。神威の光はダメージは負わせないが、凄まじい痛みを対象にもたらす。 「誇りあるアーリア人だかなんだか知らないけど、誇りがあるなら無関係な一般人を巻き込まないで欲しいな。ルールの無い戦いはただの殺戮でしかないよ」 智夫は淡々と告げながら、加護を断ち切る縁切りの槍でバイクと兵士を突いて回る。 実験分隊の曹長がいたら、甘えたたわごと。と、せせら笑われるだろうか。 それでも、失敗を糧にして、艱難辛苦をなめながら、逃げたい気持ちを道化た茶番でごまかしながら戦場にいるのは、神秘と切り離された「普通の世界」があるからだ。 革醒者が何人、何百人、何千人死のうが、圧倒的多数の世界に愛されたままの森羅万象の営みが確かにそこにあるからだ。 それを破壊するなんて。戦争なんてあり得ない。一般人を巻き込んで? 許せない。許さない。 それはリベリスタ共通の思いでもあった。 皆、大事な「誰か」 を守りたい。 フィクサードに悩まされるのは、リベリスタだけで十分だ。 「脱走する場所がなくなっちゃうじゃないか」 今日ばかりは、ミラクルナイチンゲールではいられない。 敵が逃げるなら、撤退を度外視してどこまでも追撃して全てを破壊しつくす。そう決めて戦場に来たのだ。 今日の智夫の勝利の翼は、血と炎の色に染め上げられていた。 「遠子姉ちゃん、皆ぶっ壊したからな。ちゃんと二十台俺がぼこぼこにしてきたから心配すんな」 「ありがと、正太ちゃん……あんなのが外に出たらと思うと、もう気が気じゃなくて……」 撤収のため遠子をおぶる正太郎を見て、智夫はようやく笑うことを思い出した。 仮初の翼は、務めを終えて霧散する。 「誰か一人欠けても、嫌でしょ? こういうのは」 シュスタイナが、智夫にそんなことを言う。 「私が死んだら自分も死ぬ……とか言いかねない馬鹿がいるから、私も絶対に死ねないの」 すすで汚れた頬をハンカチでぬぐうシュスタイナに、智夫は笑った。 「何よ、おかしい?」 「ううん。やっぱり、怒るのって性に合わないなぁって――」 でも、もうちょっと怒ってなくちゃ。 まだ、すべてが終わった訳じゃない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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