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<曲撃のアーク>Wer nicht wagt, der nicht gewinnt.



「――今回は、全体としてかなり大規模な動きになる。皆、どうか俺の話をよく聞いてくれ」
 全員が揃ったブリーフィングルームで、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)は張り詰めた表情で口を開いた。
 この場の誰もが、戦うべき“敵”が何であるかを知っている。先日、三ツ池公園を制圧し、今もなお活発に動き続けている『親衛隊』だ。
 彼らは『閉じない穴』を利用して革醒新兵器を強化している。時間が経てば経つ程、状況はより厳しくなるということだ。突然に三高平市を訪れた『魔人王』キース・ソロモンの宣戦布告により、九月には彼と一戦を交えなくてはいけないという事情もある。
 つまり、アークは早期に『親衛隊』との決着をつけなければいけないということだ。
「前回の戦いで、『親衛隊』はアークの弱点――“エース”に頼りがちな戦力構成を突いてきた。
 守るものが多い程に、そこに対する負担が大きくなるという、な」
 アークが今回執る作戦は、その意趣返しと言える。
「現状、『親衛隊』の戦力は本拠地と三ツ池公園の二箇所に分散している。
 連中にとって、これらはどちらも『守らなければいけない』拠点だ。言い換えると、公園を落とす前よりも“荷物”が増えたということだな。
 そこで、今回は三ツ池公園の奪還作戦を陽動として、その間に本拠地を制圧するという流れになった」
 フィクサード主流七派の動きも気がかりだが、それについては戦略司令室長・時村沙織が『楔』を打ち込んだ。アークが敗北した場合、絶好の喧嘩相手を失った『魔人王』が主流七派を標的とする可能性を示唆し、この戦いにおける介入を防ごうというのだ。
 無論、これは多大なリスクを孕む交渉ではあるが――効果は充分に期待できるだろう。

「皆にお願いしたいのは、三ツ池公園の奪還作戦だ。
 陽動とはいえ、『親衛隊』勢力を引き付けて叩くと同時に、あわよくば連中の追い出しをはかるという重要な任務になる。そのつもりで、事にあたってくれ」
 北門近くにある『多目的広場』が、このチームの担当エリアである。
「ここを守る指揮官は『イェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長』。
 詳しくは資料に纏めたが、過去にも二度ほどアークと交戦経験がある。
 他、『親衛隊』フィクサードが七名に自律式ロボット『Ameise』が十五体。
 そして、固定型戦闘兵器『Zwangsmaßnahme』一基という構成だな」
 固定型戦闘兵器『Zwangsmaßnahme』とは、巨大なパラボラアンテナの形をした光照射装置だ。
 天に輝く太陽や月の“光”エネルギーを蓄えて動力とし、広範囲の敵を焼き尽くす厄介極まりない代物である。これに関しては、最優先で破壊する必要があるだろう。
「迎撃システムとやらで、攻撃を仕掛けた相手に自動的に反撃してくるらしいから、壊すのも骨が折れるだろうが……そこを逆手に取れば、攻撃の回数を減らすことも可能かもしれない」
 なお、今回はここに居るメンバーの他に十五名のリベリスタが同行する。
 いずれも“エース”には程遠いが、陽動という作戦の都合上、ある程度の数を揃えねば逆に敵の警戒を煽ってしまうだろう。彼らにも命を懸けさせなければいけないのが、アークにとって辛いところであった。
「どっちにしても、これ以上『親衛隊』に好きにさせておくわけにはいかないし、
 決着を急ぐとしたら他に方法は無い。いつにも増して、厳しい戦いになってしまうが――」
 万一アークが敗れた場合、この日本ばかりか、世界の平和が脅かされかねない。
 今回の一戦、どうしても負けるわけにはいかないのだ。
「……どうか、無事に帰ってきてくれ。俺から言えるのは、それだけだ」
 幸運を祈る――そう告げて、黒髪黒翼のフォーチュナは話を締め括った。


 双子の兄を奪われた“あの日”から、彼の心中には常に怒りの炎が燃えていた。
 アーリア人として誇りにしていた金髪と碧眼を失い、時に仲間からも蔑まれ。
 憤怒と憎悪で己の臓腑を焼き焦がしながら、復讐を果たさんというその一心で戦い抜いてきたのだ。

 この戦いに間に合った新しい銃を手に、イェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長は後方を振り返る。
 巨大なパラボラアンテナの形をした、どこか滑稽な機械。『Zwangsmaßnahme(制裁)』の名を冠したこの兵器は、文字通り劣等人種どもを焼き尽くしてくれるだろうか。
 部下に向き直り、イェンスは重々しく口を開いた。
「諸君、分かっているな。我々の任務は、ここに押し寄せる劣等どもを食い止める事だ。
 奴らのために、アルトマイヤー少尉の負担を増やすことがあってはならない」
「Ja!」

 本拠地の守りについている筈の僚友のふてぶてしい顔が、脳裏に浮かぶ。
 そう。奴が言うように、『要は勝てばいい』のだ。我々には、それしかないのだから。

「諸君らの奮闘に期待する!」
「Jawohl! ――Sieg Heil Viktoria!!」

 各々の胸に炎を抱いて、鉄十字の猟犬は敵を睨む――。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 2人 ■シナリオ終了日時
 2013年08月07日(水)22:45
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 ・『Zwangsmaßnahme』の破壊
 ・『親衛隊』フィクサード4名以上の撃破

 双方を満たして成功です。

●敵
『親衛隊』フィクサードを中心とした三ツ池公園防衛戦力。

 ※参考シナリオ(特に読む必要はありません)
  『<鉄十字猟犬>Aller Anfang ist schwer.』
  『<Donnergott>Eine Schwalbe macht noch keinen Sommer.』

■イェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長
 鉄の色にも似た黒髪と、炎の如き赤い瞳を持つ男。
 メタルフレーム×スターサジタリーで、Rank3スキルが使用可能です。戦闘指揮Lv3を活性。
 下記アーティファクトを所持しています。

 ・アーティファクト『鉄の双子・改(Zwillinge des Eisens-U)』
   大型拳銃型アーティファクト。銃身、弾倉、トリガーがそれぞれ2つずつ存在します。
   由来スキルとして【遠貫/呪縛、ブレイク】【遠範/業炎、ノックバック】が使用可能。
    ※いずれも以前より性能強化。

■ウルリヒ・ツィーゲ軍曹
 ビーストハーフ(種別不明)×レイザータクト。スキルはRank3まで使用可。
 複数の銃身を有する長銃型アーティファクトを所持しており、
 由来スキルとして【遠複:弱体、隙】が使用可能。

■『親衛隊』フィクサード×6
 ジョブ構成は下記の通り。Rank2までのジョブスキルを使用。

 ・ホーリーメイガス×1
 ・クロスイージス×1
 ・プロアデプト×2
 ・クリミナルスタア×2

 ※親衛隊は全員がアーティファクト『最適化システム』を装備。
 (バッドステータスやブレイク、ノックバックが効果を発揮するには150%HIT以上が必要)

■自律型戦闘兵器『Ameise』×15
 予め組まれたプログラム通りに動く自律式ロボット。高さは1m程度。5体ずつ3タイプに分類。
 三ツ池公園で解析した神秘データに基づき性能は向上、外見に変化はありません。
 それぞれに通常の戦闘ユニットと同じ戦闘ルールを適用します。
『精神無効』『電撃系BS(感電、ショック、雷陣)を持つスキル及び攻撃のダメージ1.5倍』。

 黒:毎ターン前方でショットガンを放つ。近複。ブロックも可能。この個体達は他に比べ耐久に優れる。
 黄:毎ターン神秘エネルギーを傷付いた味方へと放出する(遠範/HP・EP回復/WP上昇)。
   回復不要であれば外部チャンネルの病原体を詰めたアンプルを敵へ投擲。
   (遠複/ダメ0/BS死毒、麻痺)
 赤:毎ターン対神秘炸裂弾(遠範/BS業炎)を敵へと投擲する。

●固定型戦闘兵器『Zwangsmaßnahme』
 巨大なパラボラアンテナの形をした光照射装置。
 高い耐久力を有し、日光や月光等で蓄えたエネルギーを動力として下記スキルを使用。

 【制裁の光:遠2全/火炎、ブレイク、溜3】
 【迎撃システム:P/ダメージを受けた時、攻撃した相手に100点の防御無視ダメージ】

 総エネルギー量は不明。少なくとも【制裁の光】を3回以上撃てる程度は蓄えているようですが、前述の【迎撃システム】を作動させるごとにエネルギーを消費します。

 移動不可、ノックバック無効。『麻痺・精神無効』に加え『魅了耐性』あり。
『電撃系BS(感電、ショック、雷陣)を持つスキル及び攻撃のダメージ1.5倍』。

●同行リベリスタ×15
 エース(PC達)を支援すべく集められたアーク所属リベリスタ。
 種族やジョブは雑多。基本的にPCの指示に従います。
 決死の覚悟で戦いに臨んでいるため士気は旺盛ですが、実力は高くありません。

●戦場
 三ツ池公園、北門側に位置する多目的広場。
 夜ですが、暗さによる支障はないものと扱います。

『Zwangsmaßnahme』から約30メートル地点到達で戦闘開始。
 (『親衛隊』と『Ameise』はそのすぐ手前)
 事前の付与スキル使用や集中等は不可です。

●重要な備考
1、『<亡霊の哭く夜に>』には『<曲撃のアーク>』の冠を持つシナリオに参加しているキャラクターは参加出来ません。参加が行われた場合は、参加を抹消します。この場合、LPの返還は行われませんのでご注意下さい。(同様の冠内部であれば複数参加は自由です。また冠は決戦シナリオも含みます)

2、『<亡霊の哭く夜に>』、『<曲撃のアーク>』はそれぞれのシナリオの成否(や状況)が総合的な戦況に影響を与えます。
 各シナリオによる『戦略点』が一定以上となった場合、大田重工埼玉工場の陥落に成功します。『戦略点』は『シナリオの難易度』、『シナリオの成否』、『発生状況』、『苦戦度合い』等によって各STの採点とCWの承認で判定されます。(増減共にあります)

3、『<曲撃のアーク>』のシナリオ状況によって三ツ池公園の『親衛隊』が撤退する可能性があります。又、『<曲撃のアーク>』の戦略点は半分の値(端数切捨て・マイナスの場合も同様)が最終的に『<亡霊の哭く夜に>』に加算されます。
 以上三点を予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
東雲 未明(BNE000340)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
スターサジタリー
ユウ・バスタード(BNE003137)
クロスイージス
シビリズ・ジークベルト(BNE003364)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)
ソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)
スターサジタリー
衣通姫・霧音(BNE004298)
■サポート参加者 2人■
ホーリーメイガス
シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)
プロアデプト
ジョン・ドー(BNE002836)


 視界に飛び込んで来たのは、天を仰ぐ巨大なパラボラアンテナだった。
 太陽や月の光エネルギーで敵を灼き尽くす、“Zwangsmaßnahme(制裁)”の名を冠した破壊兵器。その前に立つのは、今は三ツ池公園の主となった『親衛隊』の面々である。
「親衛隊へのリベンジ……か」
 独りごちた衣通姫・霧音(BNE004298)の腰で、愛刀の鞘に結んだ桜色の飾り紐が揺れる。
 狙撃手の誉れ高い男に矜持を叩き折られたのは、つい先日のこと。アイデンティティの根底を否定され、千々に乱れた心は未だ平静を取り戻せては居ない。
「一度は勝った。一度は負けた――宜しい」
 金の双眸に危険な輝きを閃かせて、『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が笑む。この場を守る指揮官、イェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長と相対するのもこれで三度目。一勝一敗で先送りになった決着をつけるには良い夜だ。
「まぁ別に。私は四度目五度目と続いても構わんがね?」
 不敵に笑う彼の傍らで、『薄明』東雲 未明(BNE000340)が真っ直ぐ前方を見据える。
 怪電波を発する鉄塔と、大仰な光照射装置。砕く対象こそ違えど、敵の顔ぶれや布陣は先の戦いとほぼ同じ。こないだは任務を果たせず悔しい思いをしたものの、今回はそうはさせない。口に出すのは流石に憚られたが、こんなにも早く雪辱の機会が得られたことに未明は感謝の念すら覚えていた。
 すう、と一つ深呼吸をして。霧音は、目の前の戦いに気持ちを切り替える。
 戦えるのなら。刀を握れるのなら。ここで立ち止まることは許されない。今は、人斬りとしての自分に立ち戻ってでも道を拓かなくては。
 彼我の距離は、約30メートル。大振りの太刀を抜き放ち、『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が口元を歪める。
「ハロー、劣等民族が御礼参りに来てやったぞ☆」
 その宣戦布告を聞き、イェンスは僅かに片眉を動かした。
「――迎え撃て」
 と、号令をかける。しかし、『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)の反応速度は彼らを遥かに上回っていた。
 瞬く間に敵と『Zwangsmaßnahme』の双方を自らの射程に捉え、暗黒の瘴気を解き放つ。
「捧げろ。その血を。その肉を。お前達は家畜なのだから」
 生命力を触媒に生み出された不吉の槍が、アンテナを模った兵器と鉄の猟犬たちを次々に射抜いた。
 先手を打たれた『親衛隊』は、指揮官の命に従い防御陣を敷く。効率動作の共有で守りを固めるウルリヒ・ツィーゲ軍曹に続き、クロスイージスが自軍に十字の加護をもたらした。
 いりすの隣に滑り込んだ『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が、勢い良く地を蹴る。
「ごきげん麗しゅう、アーネンエルベの亡霊。
 “閉じない穴”を手に入れてハッピーなとこ悪いけど、返してくんない?」
 華麗なる飛翔から繰り出されるは、目にも留まらぬ神速の武技。間合いを超えた一撃が、忌まわしきアンテナと彼を結ぶ直線上に紅き花を咲かせた。
 仲間の後について慎重に歩を進めつつ、『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が口を開く。
「私はそこまで根に持つタイプでもないのだけど――
 やられた分はやりかえすし、取られたら取り返す、至極当然の発想よね」
 自己評価に些か客観性を欠いていると言えなくもない彼女だが、己の台詞が前大戦の亡霊たる『親衛隊』と共通の思想に基いている点については認めざるを得ない。まったく、皮肉が利いていることだ。
 両手を覆う「オルガノン」の論理演算機構を単体狙撃に特化した「Mode-S」にて起動し、『Zwangsmaßnahme』に照準を合わせる。指先から伸びたオーラの糸が、“Ameise(蟻)”と呼ばれる自律兵器もろとも目標を貫いた。
「さーてと。褐色金髪の混ぜ混ぜミックスがお相手致しますよう」
 愛用の改造小銃を携え、『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が仲間達に続く。
「もう飽き飽きかもですけど、貴方がたの案内人としては気が効いてるでしょ」
 悪戯っぽく囁くと、彼女は銃口を頭上に向けてトリガーを絞った。
 空から落ちるインドラの矢が、地に据えられた破壊兵器を、働き者の蟻たちを、『親衛隊』の面々を、纏めて炎の色に染め上げる。
 ――今宵、敵に“制裁”を下すのは果たしていずれの“火”か。


 低い駆動音とともに、白いパラボラアンテナの中央に光が灯る。
 攻撃態勢に入った『Zwangsmaßnahme』が、エネルギーの充填を開始したのだ。
 まずは、あれから潰さねばなるまい。軽やかに跳んだ未明が、空中から巨大な破壊兵器を強襲する。
 攻撃の瞬間、作動した迎撃システムによって左肩を傷つけられたが、それで怯むほど柔ではない。
「分かりやすい目標があるのはやっぱりいいわね、叩き甲斐があるわ」
 平然と言う未明に続いて、霧音が“妖刀・櫻嵐”を抜く。
 空間を超え、斬撃を浴びせる居合の奥義。一撃必殺の威力とは言い難くとも、この技は敵の硬度を問わない。標的が堅牢を誇る兵器であっても、常に一定のダメージを与えることが出来る。
 魅零が、無明の瘴気を太刀に纏った。
「……アークに喧嘩売って勝ったとしても、それで終わりとか思わないで頂戴。
 此処から万倍返しだっつーの」
 鰐の骨にも似た機械の尾を揺らし、横薙ぎに得物を振るう。無限の悪意を孕んだ絶望の闇が、射線上の目標に喰らいついた。
 時を同じくして、三色十五体の『Ameise』が一斉に動く。
 癒しのエネルギーを放出する黄蟻と、リベリスタの後背に炸裂弾を投擲する赤蟻の援護を受け、黒蟻が距離を詰めにかかった。
 近接戦用の黒蟻を前に出しつつ、残りで『Zwangsmaßnahme』から10メートルの地点に防衛ラインを形成する。リベリスタの接近を防ぐ傍ら、全員を射程内に収めて攻撃を加える狙いだろう。
「Feuer eröffnen(撃ち方始め)!」
 イェンスの号令に従い、『親衛隊』が攻勢に出る。弾丸と気糸の嵐が襲い来る中、シビリズは肩を揺すって笑った。
「……フ、フフ、いいぞ同郷諸君!」
 昂然と天を仰ぎ、“神々の黄昏(ラグナロク)”を発動させる。 
 運命を告げるその声に応え、同行するリベリスタが各々の役割を全うせんと走った。
 前衛は二人一組となって黒蟻のブロックに加わり、防御に優れる者は『紫苑』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)やユウの守りにつく。
 彼らは、いわゆる“決死隊”だ。ただ一人の例外もなく、身命を投げ打つ覚悟でこの作戦に志願している。実力的に考えても、全員の生還は叶わないだろう。
 そうと知っているからこそ、夏栖斗は力の限り彼らを鼓舞する。
「絶対に勝って、三ツ池公園を取り戻すぜ!」
 決して無駄にしてはならない。彼らの命を、意志を。

 いりすの瘴気が宙を翔け抜け、巨大なアンテナと黄蟻たちを一度に穿つ。「オルガノン」の制御機構を「Mode-A」に切り替えた彩歌が、全身から煌く気糸を奔らせた。
「可能な限り対象は揃えたいけど、アンテナを確実に破壊する方が優先ね」
 いずれも射線に依存する攻撃だけに、敵味方が入り乱れる戦場において完璧に目標を合わせることは難しいが、意識して巻き込んでいくだけでもそれなりの効果は上がるだろう。
「皆様のお怪我、只管癒してみせましょう――」
 御神木の枝で作られた術杖を捧げ持ち、シエルが聖句を口ずさむ。
 たゆまぬ研鑽で磨き抜かれた癒しの技をもって、彼女はリベリスタ全員の傷を瞬く間に塞いでいった。
 自らの頭脳を超集中状態へと導いた『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)が、モノクル越しに敵を見据える。刹那、彼の操る神気の閃光が一帯を白く染めた。
「ここは連射あるのみです!」
 間髪をいれず、ユウが“Missionary&Doggy”の一射で夜空を貫く。
 絶え間なく降り注ぐ火矢の群れを眺め、イェンスが忌々しげに舌打ちした。
「相変わらず面倒な連中だ」
 クロスイージスに状態異常の解除を任せ、ホーリーメイガスをその後方につかせて射線の一部を遮る。
 丘の上の広場を守る上官に現況を報告した後、彼は『親衛隊』のアタッカーに待機を命じた。
 標的として狙いを定めたのは、『Ameise』と相性が悪い攻撃スキルを有し、かつ守りが薄いジョン。
「Feuer(撃て)!」
 集中砲火に晒され、ジョンの痩身が崩れ落ちる。一度は運命の加護で踏み止まったものの、直後に追撃を食らってはどうしようもない。シビリズが庇いに入る暇すら無かった。

 気糸の斉射で黄蟻の数機を撃ち倒した彩歌が、硝子の瞳に戦況を映す。
 後のことを考えれば『親衛隊』のホーリーメイガスやプロアデプトを削っておきたいが、前者はウルリヒやクロスイージスが壁になって思うようにダメージを与えられない。ジョンが倒れた今、全体攻撃はユウが頼みの綱だ。
「皆さんも無理はしないで!」
 インドラの火を落としつつ、ユウが“決死隊”の面々に叫ぶ。
 その間にも、『Zwangsmaßnahme』は着々と発射準備を整えつつあった。
「――撃ってくるよ!」
 飛翔する武技で攻撃を続けていた夏栖斗が、仲間達に注意を促す。
 数瞬後、眩い光が溢れた。


 視界を漂白する輝きは、間もなく灼熱の衝撃と化した。
 それは、猟犬たちの一方的な正義を体現した“制裁の光”。
 神々の加護を失ったリベリスタ達に、『親衛隊』と働き蟻はここぞとばかり砲撃を浴びせていく。
 為す術なく倒れていく“決死隊”の面々を横目に見て、夏栖斗が唇を噛み締めた。
「こんなんで怯んでたまるかよ……!」
 折られるものか。勝利を渇望するのは、こちらとて同じだ。
「“制裁”……なんて、大層な名前を付けたものね」
 数多の傷を穿たれてなお健在な破壊兵器を睨みつつ、霧音が体勢を立て直す。
 直前にガードを固めてダメージを最小限に抑えた未明が、呆れ顔で口を開いた。
「優良だとか劣等だとか、太陽や月から見たらどうでも良い事でしょうにね」
 成る程、面倒なアンテナだ――と頷いて。シビリズは戦場を睥睨する。
「……しかし、“面倒”の域は超えんな」
 爛々と輝く金の瞳が、イェンスの姿を映した。
「私の“奥の手(ラグナロク)”はまだ残っている。ほうら、さっさと次を発動させたまえ」
 一度くらい掻き消されたところで、再び“神々の黄昏”の到来を告げることなどいつでも出来る。あくまでも主導権は自分にあるのだと、シビリズは揶揄するが如く言った。
 神の光で状態異常を払いながら高笑いを上げる彼の不遜な態度に、イェンスが舌打ちする。
「チッ、あの馬鹿といい勝負だ」
 工場を守る僚友を思い出して悪態をついた後、彼は部下に命令を下した。
 次なる標的は、回復の要たるシエル。彼女を守り続ける“決死隊”に、イェンスは迷わず銃口を向けた。
『鉄の双子・改』から吐き出された弾丸が炸裂し、紫苑の癒し手から盾を引き剥がす。待ち構えていた猟犬たちが、一斉に牙を剥いた。
「……っ」
 運命を代償に差し出し、シエルが己を支える。今、自分が倒れる訳にはいかない――。
“盤上最強の駒”と化したウルリヒが、すかさず追い撃ちを浴びせた。
「これ程の使い手に続けて出くわすとは厄介ですな」
「まったくだ」
 シエルを沈めたウルリヒに、イェンスが頷きを返す。
 以後は、壮絶な射撃戦となった。先の一撃でラグナロクがほぼ効果を失っているのをいいことに、『親衛隊』も遠慮なく複数攻撃を叩き込んでくる。
「狙った獲物は逃がさないって感じですねー。怖い怖い」
 集中攻撃で運命を削られたユウが、軽く肩を竦めて愛銃を構え直す。彼女を守っていた“決死隊”も、既に斃れていた。
「少しばかり、意地を見せましょうか」
 不意に表情を引き締め、五感を研ぎ澄ませて天を射抜く。
 降り注ぐ業火の雨が猟犬たちを炎に包み、働き蟻の半数を灰燼に帰した。
 幾本もの気糸を操る彩歌が、巨大なパラボラアンテナと『親衛隊』のプロアデプトを立て続けに貫く。ダメージが蓄積しつつあるのは、敵も同じ。
 状態異常の解除に追われるシビリズに代わり、未明がユウを庇う。
 無駄だ――と短く告げ、イェンスが炸裂弾を撃ち込んだ。
「くっ!」
 爆風に煽られた未明の手は、守るべき者に届かない。
 彼女の眼前で、ユウがクリミナルスタアの凶弾に倒れる。
 気付けば、“制裁の光”の二射目が目前に迫っていた。
 迎撃システムでエネルギーを消費してはいるものの、まだ一発分は残っているらしい。
「撃たれる前に倒すぜ!」
“炎顎”と“炎牙”、二本の棍を構えた夏栖斗が声を張り上げる。
 既に三人が倒されていることを考えると、ここで破壊せねば厳しいだろう。
 傷ついた『Zwangsmaßnahme』に引導を渡すべく、リベリスタは一斉に畳み掛けた。
 いりすの暗黒瘴気と、虚空を貫く夏栖斗の武技が、白き破壊兵器を立て続けに穿つ。
「神の裁きを人の手で起こすつもり? まったく、身の程を知らないとはこういう事を言うのね」
 愛刀の柄に手をかけた霧音が、冷ややかに声を投げかけた。
「そんな玩具は壊してあげる」
 桜の花弁散らす刃の一閃で、アンテナの基部に亀裂を生じさせる。
 空高く跳んだ未明が、“鶏鳴”を握る両手に力を込めた。
「ここはいずれ、元に戻して一般社会に返さないといけない場所なの。
 ……だから、変なもの建てないで頂戴」
 落下の勢いを乗せ、忌まわしき破壊兵器を叩き斬る。
 真っ白な火花が未明の視界を彩った直後、『Zwangsmaßnahme』は根元から砕けて倒れた。
「さあ、さあ――神々の黄昏を知れッ!」
 高らかに運命を告げるシビリズの援護を受けて、魅零が『親衛隊』に仕掛ける。
 その身内から湧き上がるのは、底無しの悪意(いかり)。

 ――よくも仲間を殺したな。
 ――よくも三ツ池公園を奪ったな。
 ――よくも、よくも。“箱舟”を怒らせたな……!!

「兵器がなんだ、戦争がなんだ、今此処でお前等の妄想は終わるわ!!」
 激情を孕んだ無明の闇が、鉄十字の猟犬を薙いだ。


『Zwangsmaßnahme』を破壊したリベリスタは、手筈通り『親衛隊』の数を減らしにかかった。
 貪欲なる漆黒の瘴気を操るいりすが、イェンスを一瞥する。
 はて、以前に会ったことはあっただろうか。些か、自信は無い。
 そもそも、“屠殺場の家畜”の顔を覚えるような残酷な趣味は持ち合わせていないが。
「まぁ、やることは変わらん。――殺して奪う。何時もの様に。何時もの通りに」
 事もなげに言って、灰色の目を細める。後に続いた夏栖斗が、まず一人目を沈めた。
 負けられない。ここで散っていった、命のためにも。

『親衛隊』の熾烈な反撃を受けて、霧音がよろめく。
 仲間のさらに後方に位置する彼女も、敵の射程内に立っていることに変わりはない。
 遠ざかる意識を運命で繋ぎ、少女は再び刀を取った。
「貴方達も、死ぬ覚悟は出来ているのよね?」
 返答を待つことなく、居合の秘技で猟犬の首を刎ねる。一瞬遅れて、鮮血が紅い尾を引いた。
 そこに、シビリズの哄笑が響き渡る。
「さぁどうした、諸君らはまだ生きているのだろう!?」
 気糸に貫かれた仲間の呪いを払いつつ、彼は一段と高く声を上げた。
「武器を持て! 前を見据えろ! 死ぬまで闘え!
 謳いたまえよ! 高らかに! 諸君らは呟き続けたのだろう、六十年間!!」

 勝利万歳・勝利万歳・Sieg Heil Viktoria――!

 イェンスの奥歯が、ぎり、と音を立てる。
 涼しい顔で、未明が宙に舞った。
「そろそろ、余計な事を考えず切り結べるんじゃない?」
 くるりと身を翻し、鋭い斬撃を『親衛隊』に浴びせる。
 憤怒の炎を瞳に宿して、イェンスが吼えた。
「調子に乗るなよ、大義を知らぬ劣等どもがッ!!」
 反射ダメージも厭わずに撃ち出された弾丸の嵐が、リベリスタに襲い掛かる。
 この攻撃で霧音が倒れ、彩歌と魅零が運命を削った。
「人がいて、国があって、世界がある。
 一つだけ大事にしたとしても、バランスを失って倒れるだけよ」
 射程ギリギリまで後退した彩歌が、極細の気糸を放って『親衛隊』を狙撃する。
「劣等劣等ってうるさいわね、同じ言葉しか吐けないのかしら、優等様たち?」
 苛立たしげに眉根を寄せつつ、魅零が怒鳴った。
「時代遅れの亡霊共が!! 六十年前の思想なんて理解できねーから死んでおけ!!」
 窮地に追い込まれてなお研ぎ澄まされた暗黒の槍が、同時に二人を葬り去る。――これで、四人。
 すかさず跳んだいりすが、二刀を閃かせてイェンスを強襲した。
「悔しいか。家畜。
 その『怒り』が本物ならば。己を『人間』だと言うならば、小生を殺して証明しろ」
 貪欲なる牙をもって喰らいつき、爪をもって引き裂く。『竜』を殺すのは、いつだって『人間』だ。
「尤も。それすらも蹂躙して。破壊して。暴食しよう。
 ――這い蹲って死ね。お前がそうしてきたように」
 息もつかせぬ追撃。必殺のダブルアクション。
 運命の花弁散らす鮮血の花を咲かせ、イェンスが銃を構えた。
「負ける(しぬ)のは、御免だ」
 燃える双眸で戦場を睨み、最奥に立つ彩歌を死神の魔弾で撃ち倒す。
 この極限においてなお、敵の戦力を削ることに注力する――それが、猟犬の矜持か。

 深手を負った指揮官を庇いつつ、『親衛隊』が退却を始める。
 時を同じくして、リベリスタ達も撤退に移った。先に進むため、まず体勢を立て直さねばなるまい。
 負傷者を仲間に任せ、未明が殿につく。
「……ありがとね、此処の戦場は勝ったわ」
 去り際、魅零は“決死隊”の亡骸にそっと囁いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 まずはお疲れ様でした。
 一貫して撃ち合いに終始し、かつ最後まで双方の距離が保たれていたため、『親衛隊』の撤退を阻むことは叶いませんでしたが、それでも充分な戦果だったと思います。

 反撃の夜は、まだまだ終わりません。
 他の戦場に向かわれる方々も多くいらっしゃるかと存じますが、皆様のご武運をお祈りしております。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。