●ふざけるな。と、互いに言った ブリーフィングルームに集合したリベリスタに、『黄昏識る咎人』瀬良 闇璃(nBNE000242)は硬い顔でUSBメモリをかざしてみせる。 「アークに犯行予告がきた。いや、宣戦布告がきた」 リベリスタがどよめく。送り主を誰かが尋ね、闇璃は苦い顔で答える。 「ユウザイヲトメ団だ」 この一団については過去3件の関連報告書があるから読んでくれ、と闇璃は、ユウザイヲトメ団についての説明を省く。 「ウイルススキャン済みで、サブリミナルなどの小細工もないことを事前に確認してある映像だ。今から再生するから見てくれ」 と、メモリをPCに接続し、闇璃は前方の大きなスクリーンで犯行声明動画を再生し始めた。 スクリーンには、白い会議用テーブルについたダークスーツ姿の女がバストアップで映っている。背景は白い壁だ。 「アークの諸君、先日は我々のラボを滅茶苦茶にしてくれてどうもありがとう。おかげで触手プレイはお預けになった。残念至極である。……おっと名乗り遅れて申し訳ない。ユウザイヲトメ団、団長の黒井涙香だ」 女の声はどこか嘲笑交じりだった。 「さて、我々の目的はもうご存知だと思うが、世界をボーイズラブの世界にすることだ。別に大量殺人やら世界征服なんて大それた願いは持っていない。とはいえ、我々とて馬鹿ではない。世界の広さは知っている。故に、堅実にジワジワ気長に進めることにした」 黒井は計画を話し出す。 男子学校を乗っ取り、オカマ爆弾にて全校生徒をホモにする。そしてボーイズラブを常識とするような考えに染めて、オカマ爆弾や腐女子化プログラムプラグを持たせて外界に出し、行く先々で人々をホモにしていく、という壮大な計画だった。 標的として定めた『楠陰学園』は、現在全校生徒が海外研修に出かけていて無人だそうである。無人の間に時限式オカマ爆弾を設置し、次の登校時に一斉起爆、生徒をホモにせしめるというもの。教職員には腐女子化プログラムプラグを刺し、全員がユウザイヲトメ団の信者になるように洗脳する予定だという。 「もちろんこれはテロ行為。秘匿して進めるべき内容だ。しかし乍ら、アークの万華鏡に我々が捕捉されていることは、過去三回の我々の作戦行動を邪魔してくれたことで、よーく知っている。ならば、君達には隠すことはない。どうせ分かることだから、こちらから懇切丁寧に教えて差し上げよう。既に爆弾は設置した。我々は結果を見るため、そして教職員を洗脳するために現場に駐留する。人が死ぬことはない平和な革命への第一歩だが、血染めにしてでも我々を止めたいなら来るがいい。一般人の被害を抑えたいなら、学生が戻るまでに決着をつけることだ。だが、詰めの甘い君たちにどこまでのことが出来るかね」 黒井はカメラの首を回転させ、右隣を映す。十一人の妙齢の女性が並んでいる。 「紹介しよう、彼女達が我々ユウザイヲトメ団の構成員の全てであり、作戦行動を行う同志だ。顔も名前も種族もジョブも嘘偽りなく教えてやろう。我々を壊滅させたいなら、過半数は殺してみたまえ。……もちろん、団長を含め、だが」 一人ずつにカメラがパンし、彼女達は順番に名前と種族、ジョブを淡々と述べていく。 十一人目が名乗り終えた時、画面はまた黒井一人に戻った。 「そして、ご存知だろうが、黒井涙香。ジーニアスのレイザータクトだ。そして、これがターゲット。奈良県吉野郡にある楠陰学園の写真だよ」 と、黒井はフリップを出して、おそらく衛星から取得したであろう学校の航空写真を見せる。 写真には、各々団員の名前を書いた押しピンを十一個、刺してあった。メンバーの配置図ということか。 「一人ずつの初期配置も教えておいてやる。だが、我々は自殺志願者ではない。当然、状況に応じて移動もするし、逃げも隠れもする。生きるために卑怯なマネもしてみせる。我々はまさしく『女の腐ったようなサイテーな奴』だからな。もちろん、場合によっては自死を選ぶこともあるだろうが……。とはいえ、こちらから布告しているのだ、劣勢になるまで校外への逃亡はしないと誓おうじゃないか」 フリップを投げ捨て、黒井は歯をむき出して凶悪に笑った。 「我々は全力で君たちにあたる。フィクサードとして全力で戦い、腐女子として全力で妄想しよう! ふざけた連中? バカみたいな武器? アホみたいな計画? 大いに結構。なんとでも言え。そんな罵声は痛くも痒くもない。ふざけていれば悪事をしていても、君たちに大目に見てもらえるなら、いくらでも巫山戯倒してやる! ネタ組織? 上等だ! 君たちは、そのネタ組織一つマトモに叩けていないじゃないか」 あからさまな挑発を言い、黒井はせせら笑う。 「我々の腐った妄想の餌食となるのが怖いような臆病者はお呼びではない! 来なくて結構!! チキンな男どもは、布団に包まりガタガタ震えながら、仲間の健闘をせいぜい祈っているがいい! 我々は貴重なアーティファクトを破壊された挙句、敬愛する同志、横溝正美、江戸川ラン、夢野ひさ、坂口安子、そして小松京と闇落ちクン1号を君たちに殺されたことを忘れない。特に小松ッ!」 バンと机をたたき、黒井は続けた。どんどん彼女の表情は怒りに満ちていく。 「彼女の死に様は哀れの限りだった。何が正義のリベリスタだ、外道どもめ。我々は平和主義者だ。今までの計画、人っ子一人、犬一匹とて死ぬ計画は立てていないぞ。だが君たちには、我々は正直殺意すら抱いている。彼女達の墓前に、R-18G指定のアーク陵辱本を献本できることを、楽しみにしている。Over」 暗転。動画が終了した。 「……フォーチュナの仕事が殆どないくらいに、情報は開示された。万華鏡から入手できた情報と照らし合わせたが、齟齬はない。つまり偽りなく教えてもらえたということだ。僕達を完全にコケにしているな」 メモリを取り外しながら発せられた闇璃の声は、静かではあったが、あからさまに怒気をはらんでいた。 「気づいたと思うが、黒井本人だけ初期の位置を知らせていない。こちらも調査をしたが、校内にいることまでは分かったが詳細な地点が把握できなかった。しかし彼らは僕達と実力は大差ない。特別な技なども持っていないということは確認済みだ」 ここまで言われて放置が出来るか? と闇璃は言う。 「完全にこちらを挑発している。が、怒りは判断力を鈍らせる。相手は全力だ。冷静になれなければ、任務の成功はないだろう」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:あき缶 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年06月26日(水)23:09 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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●突入って俺様攻のイメージ 奈良県吉野山山中にひっそりとある男子の園、楠陰学園正門に続く長い長い石段を、テロリスト制圧の任を得たアークの面々はひた走りに走っていた。 「神社仏閣か、なんかか、くそっ。金毘羅さんじゃねーんだぞ!」 息を切らす様な軟弱者はアークの精鋭には居ないが、『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)は、男坂もかくやといわんばかりの長い長い石段に、愚痴をこぼす。これを毎日登校させられる生徒には哀れすら覚えるエルヴィン。 車両通用口に通じる国道と、正門に続く道は山を迂回するようなルートでしか繋がっておらず、突入前に本体と合流できるような状況ではなかった。国道にトラックを置いておこうと考えた『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)だが、目論見は断念せざるを得なかった。しかし、周囲は吉野にありがちな杉の森林なので、車で逃げるよりは木々に紛れて遠ざかるほうがありうる話であろう。 木は生物だから、千里眼でも見通せない。車で逃走するより、森林を走るほうが断然行方をくらますにはいい逃げ道だ。 伊吹は自分の作戦を実行するよりも、本隊と合流することを選択し、今、仲間とともに石段を駆け上がっている。 「見えたのだわ! あれが学園ね」 『SegnFeuerwaffe』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が上がっていく視界に伴い、どんどん姿を現していく建物を視認し、声を上げる。 見えている建物は、正門の真ん前にある大学棟。その屋上に、黒い革コートを翻す人影が見える。 荒俣宏美、ビーストハーフのスターサジタリーだと名乗っていた。荒俣はイーグルアイで、望遠鏡以上の視力を誇っている。此方に気づいていないわけがないだろう。 まだ、学園とリベリスタの間には距離がある。互いに、射程距離内ではない。 だが、距離が30メートルを切れば――向こうの射程だ。 それでも、止まるわけにはいかない。進まなければ、始まらないのだから。『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は、そのまま進み続けることを選ぶ。他の面々も。 スターサジタリーの射程に入る。 屋上で、荒俣らしき人物が構えた。チカッと何かが光る。 キュンッとかすかな音と共に、弾丸が走った。小さな硬貨すら射抜く魔弾が飛び、『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)の眉間を貫きかけ、ぎりぎりで眉の上をかすった。額を切ると傷の割に出血が多い。恵梨香は煩わしげに、額を拭い、手にベットリついた己の血を見て、小さくため息をついた。 「……撃ち続けてくるわね、これ」 しかし、30メートルなど一瞬。 リベリスタは正門を乗り越え、学園への突入を果たした。 彼らが視界にまず入れたのは、闇を纏う艶やかな紫の小紋姿だった。 大学棟の正門側入り口に、しゃなりと立つ小紋の女が会釈と同時に手から黒を喚ぶ。 「おこしやす!」 不意な常闇が、数人のリベリスタを射抜く。 だが、それよりも早く女、ダークナイト夢枕白音に飛びかかる蜥蜴。 誰よりも速さを極めた男が己に最も合うようカスタムした短剣で、弾けんばかりの刺突を夢枕に注がせた。 刺突の主が、『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)であることを確認した夢枕は、パアッと表情を明るくする。 「え?」 「いややわぁ! ノンケのおにいはん、来はったわぁあ! 来るって信じてましたんえ」 「え? え??」 ノンケ。『神速』鷲祐の特徴、ノンケ×6。自他共に誰の文句もなくノンケ。 ノンケがわからない人は、わからないままでいい。 「その話はするなぁああ!」 ギャーッと鷲祐は眼鏡の奥の青い目を見開いて苦悶した。 「夢枕的にどうだ? 受けか?」 屋上から、荒俣の声が聞こえる。振り向いた夢枕が朗らかに答えた。 「せやねぇ、受けやわぁ。うち、このおにいはんの尻尾がいじられまくって、とろっとろになってる所見たいわぁー」 「やーめーろー! やめろ、うあああ。俺で妄想するな!」 「誰が攻め?」 荒俣がまた聞いてくる。 ちょっと黙っとけ、このエージェント女。とばかりに、『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が屋上めがけて魔曲を飛ばすが、うまく避けられたようだ。 「うちはぁ、モブレがええわぁ。いっぱいの知らん人にいぢめられて滅茶苦茶になりつつも、嬉しくなってくるおにいはんが……」 モブレがわからない人は、わからないままでいい。良い子は綺麗なまま生きていくべきだ。 「いい加減にせよ!」 ドスッと非常に重い一撃が、ぺらぺら喋りまくる夢枕の脳天に炸裂する。 「王、助かった……」 鷲祐は、『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)に心から礼を言った。 「司馬さん、いちいち反応すると向こうの思う壺だ」 神の加護を味方全員に与えつつ、快がたしなめるものの、鷲祐とて反応したくてしているわけではない。でも人間には無視できる範囲ってものがある、と言い返したくなるものの、快の言い分は至極ごもっともなので、震えながら黙るしか無い。 「やっぱりこうやって狼狽えてくれる殿方がよろしなぁ。王様みたいに泰然自若でバッチコーイな人はうち、萌えへんわぁ。ほら、なんてゆーんかな、公式が狙ってくると冷めるみたいな……」 エルヴィンが魔法の矢を放ち、ふらふら立ってまだ喋る夢枕を撃つ。 「人心を弄ぶ所業は見過ごせんな」 ユウザイヲトメ団の恐ろしさを見た伊吹は、夢枕の喉元に食らいつき、血をすすった。 「いややわ、おじさまは吸血鬼なんやね」 血を吸われたにもかかわらず夢枕はニタァと笑う。 「うっ、な、なんだ」 伊吹は顔が引きつったものの、サングラスで表情がわからないのが幸いした。 「ハードボイルドなストイックおじさまで、吸血鬼……王道やわ!! 孤独の苦痛を人と関わらないことで回避しながら生きる吸血鬼を、運命の出会いをした闇色美少年が癒すとかアリやわ! 俺に触れるな……! という包帯巻いた右手にあやかしを封じ込め、世間と交われぬ孤独に苦しむ美少年を、同じ孤独を知る吸血鬼のナイスミドルが、癒し、打ち解け、でも友情はいつしか愛情に、そして……!」 喉から血を流しながら、ウヘヘヘと笑う着物少女はホラーである。なお、ジャパニーズホラーでなく、サイコホラーだ。 ヒッと声を上げかけ、さきほどの快の言葉を思い出し、必死に飲み込む伊吹。実際自分が妄想の標的になると、鷲祐の気持ちが痛いほど分かる。 なお、『合縁奇縁』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)も、地味に震えていた。 さっきの、美少年発言時、確実にあの夢枕は、竜一を見つめていた。 確かに、竜一は十九歳で中二病だが美形。ギリッギリ美少年と言えなくもない。というよりも妄想の美少年が右手に包帯を巻いている時点で、確実に竜一をロックオンしていた。なんせ、竜一は右手に『幾星霜ノ星辰ヲ越エシ輝キヲ以ッシテ原初ノ混沌ヲ内に封ジ留メシ骸布』なる布を巻いているので。 『え、熾竜サンと俺が……!?』 想像しかけたが、ブンブン頭を振って竜一は嫌な考えをふっ飛ばした。竜一は年下の無表情系の彼女がいる。まかり間違っても、五十路のグラサンオッサンとあはんうふんな関係には成り得ない。成り得ないったら成り得ない。 なりえたらいいのにな。 「未来明るき少年達をホモにするなんて許せません!」 浄化の炎を夢枕に植え付け、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)はプリプリ怒ってみせる。 「この中にワタシの旦那様になる運命の方がいらっしゃるかもしれないのに!」 竜一は、怖い女子に近づくより、戦闘狂やら気味悪いエリューションに近づくほうがよっぽど怖くないと、竜一は思う。恐怖の種類が違う。 嫌だったが、他人を巻き込むわけにも行かないので夢枕に近づいて、激しい烈風を浴びせる。それを夢枕は、掌に収まる何かを盾にして自分を守る。烈風にあえなく砕け散る何か。地面に散らばるパーツで、それが携帯電話だと分かった。 「はいはい、いい加減にするのだわ」 エナーシアのPDWが火を吹いて、ようやく夢枕は完全に沈黙した。 「まずは一人目ね」 シルフィアは仕込杖で死体と化した夢枕の頭を三度貫く。 マシンガントークで、黒井の居場所を聞く間もなかった。 ふと見上げるも、もう屋上に荒俣の姿はない。 いくら狙撃可能な場所に陣取っているとはいえど、互いに打ち合える状況にある中での、一対多はあまりに不利だと分かったのだろう。 「行こう」 快の一言で、リベリスタ達は大学棟へと進んだ。 学長室は二階の真ん中にあると、構内案内図ですぐに知れた。 「まだ筒井がいるはずだ。荒俣もどこに潜んでいるやわからぬ。心して進めよ」 尊大な口調で刃紅郎は同志達に告げた。恵梨香が千里眼で構内を見回す。 「……荒俣は中学棟の方へ移動したわ。筒井は二階の天井に張り付いてるよ」 「意外な場所からの奇襲のつもりですね。ま、こっちは千里眼があるんで、奇襲なんて無理ですけどね」 と海依音は余裕の笑みを浮かべた。 まだ人間が多すぎる。一応恵梨香は、全ての無機物を透過して学内全体を見回しているが、周囲が森ということもあり、木々に人間が紛れてうまく見えないのだ。まるでとある人物を探すゲーム絵本のように、ややこしい。また、暗室もいくつかあり、現在十一人いるはずのテロリストを全員確認はできなかった。 その旨を正直に恵梨香は、仲間に話すと、 「まずは学長室の制圧だ。そこから二手にわかれた時に、暗室を調査し、移動した荒俣もまとめてやっつけよう」 ということになったので、リベリスタは二階へと進む。 「テロで後付できる嗜好なんてその嗜好をその程度のものだと貶めているだけなのだわ、と思っていたのだけれど……。あの様子、骨まで明らかに腐女子だったわね」 テロリストなのだから、暴力を信奉し、その理由としてやおい趣味を掲げていたのだとエナーシアは考えていたのだが、いざ彼女たちを目の当たりにすると、その考えは誤っていたと認めざるをえない。あんなにホモ妄想ばかり喋り散らす者が、なんちゃって腐女子だとは言えない。 「奴は本物だからな。…………ヒッ。よ、よく見たらそこら中にオカマ爆弾が仕掛けてある……」 格好つけてエナーシアにユウザイヲトメ団の恐ろしさを語ろうとした鷲祐は、人をホモに変える爆弾(この威力は彼が先日目の当たりにした)を見て青ざめる。 さきほど、ユウザイヲトメ団の精神的陵辱にあった竜一と伊吹も同様に顔を青くした。 この爆弾の煙を吸うと、さきほどの夢枕の妄想が現実のものになりかねないのだ。 一瞬、鷲祐はいっそ壊してやろうかと考えたが、壊して自爆し、思い切り煙を吸う羽目になっては最悪だという考えに至る。 触らぬ神に祟りなし。 「辛いんだ。頭のなかに、前回のハイライトが走馬灯になるのが……」 「分かるぞ」 伊吹が、うなだれる鷲祐の肩を叩いた時。 「おお! オジサマ×ノンケ眼鏡! 素晴らしい。ウケケケケ」 ぶらんっと階段室の天井から女がぶら下がってきた。 「ギャー!?」 ホラーにありがちな展開。逆さ女! 学校であった怖い話! 「励まし合いも許されないってか!」 鷲祐、驚きと怒りのアル・シャンパーニュを逆さ女こと筒井康子におみまいしたが、天井でとんぼをきって、筒井は床にスタンと立つ。いることは千里眼で分かっていたし、知っていた。でもビックリはする。 ホラーゲームで何度コンティニューしても、同じ場所に突如出現する敵にビックリするようなもの。むしろ、出るぞ出るぞと思っている方が恐怖が増す。 海依音が筒井の着地に合わせるように業火を吹き上がらせた。 炎に包まれた筒井はニヨニヨ笑いつつも、大剣を担いで、一目散に恵梨香へと走った。 「っらぁ!」 生か死か、二者択一を迫る強撃を、すかさず間に入って代わりに受ける快。 「俺の可愛い後輩に、手出しはさせないよ」 「あ、さすがに小生も知っているぞ。守護神だな」 「そう呼ぶ人もいるね」 「こいつをかばうか、新田。なら、こいつ、やっぱり千里眼持ちか」 「っ」 息を呑む快に、かぶせるようにシルフィアが詰問する。 「黒井はどこよ?!」 その時、シルフィアが筒井から読み取った思考。 『これは潜伏する敵と戦う任務。アークが千里眼持ちを用意するかもしれないことは、予想済み。しかし千里眼は生物を通して見ることは出来ない。故に、はるか遠方からイーグルアイにてアーク接近を察知したら、素早く黒井は移動し、屋上配置されているメンバーの後ろに張り付いて、見える場所までやってきた一同を、千里眼をよけつつエネミースキャン。千里眼など厄介な敵が居る場合、テレパスで通達を回し、一階の迎撃班が時間を稼ぐ間に逃げる。さすが賢い黒井……とはいえ、そこから奴がどこに行ったかは、小生が知る由もなし』 シルフィアも筒井と同じ感想を抱く。 『さて、接敵したから携帯電話は壊さねばな。中の嫁のメル画フォルダが非常に惜しいが致し方ない』 「え、メル画?」 メル画がわからない人は、わからないままでいい。知らない人が調べると、非常に精神力が削られて危険である。 筒井は、ハッとした顔になり、次に真顔になった。 シルフィアの脳内に雪崩れ込んでくるガチムチマッチョと毛むくじゃら熊体型のオッサン同士の絡み絵。しかもなんだかキラキラしている。ついでにオッサン二人の目は昭和の少女漫画レベルでキラキラして、ポーズもなんだか乙女ティック。 「くっ、な、慣れた……とはいえ、精神的にいいもんじゃないわね……!!」 刃紅郎の骨を断つを通り越して破砕する勢いの攻撃を受け、筒井は携帯電話を左手ごと失った。 「……なんという」 刃紅郎は尊大な表情のまま、鼻で笑う。 「ふん。我はもう寛容は捨てた。貴様らはその寛容を甘さと捉え、我の慈悲を嘲笑うからな。一人残らず死ぬがいい。今回の我のスタンスは、相対者は皆殺し、だ」 ●奇襲って襲い受けのイメージ 予想以上の負傷に絶句した筒井は、一室に駆け込んだ。 駆け込んだ部屋の扉は他のドアと違って重厚な木製で、部屋の表示は『学長室』とある。 「待て!」 竜一が追う。当然、他のリベリスタも続く。そもそも目的地はこの学長室だ。願ったりかなったりの状況といえた。誰も疑うこと無く走っていく。 竜一の気迫の乗った一撃で、筒井は瀕死になりながらも、まだ立っていた。 「ビッグサイトの代りに地獄の門に並んで頂きませうか」 エナーシアが銃口を向けた。無慈悲な弾丸が筒井のとどめを刺す。 「……さて、腐女子化プラグなるものをさっさと探して破壊するのだわ」 全員がプラグを探す。あちらこちらからポロポロ出てくるプラグ。 「全部でいくつあるんでしょう?」 海依音は首を傾げた。時間が無駄に過ぎていっている気がしてならない。 ずっと千里眼で索敵を続けている恵梨香は、ユウザイヲトメ団が複数で、此方に向かってジリジリ移動していることを告げたが、リベリスタは願ってもないと返す。 一網打尽にしてくれる、と言わんばかりだ。 その時、恵梨香が警戒の声を鋭くあげた。 「急に走って?! ……来る!」 バァンッと扉が割れんばかりに乱暴に開かれ、ドヤドヤと女が突入してきた。 その数、四。事前情報から内訳が、大沢アリカ、田中芳子、有栖川亜里沙、そして荒俣であることが分かる。荒俣と田中はドアにピッタリ背をつけ、大沢と有栖川はドアに隣接するそれぞれの壁へ背をつける。 そして全員、ほぼ同時に恵梨香へ斉射。 もちろん快が庇いに入るが、九十度の範囲攻撃は対象を庇いきれるものではない。 彼女達が恵梨香を潰しに来ていることが明白に分かる。 プラグ捜索をやめ、身構えていたリベリスタが、四人へ向けて攻撃しようとした時、恵梨香はまた声を上げる。 「こっちだけじゃない?! 窓!」 一人だけの監視では、360度全体に満遍なく注意を向けるというのは至難の業だ。一部に不穏な動きがあれば、そちらに集中してしまい、他への注意が疎かになるのは、無理のない話。索敵をたった一人に委ねるのはあまりにも負担が大きい。恵梨香が窓側の注意を怠ってしまったことは、責められない。 「おっそぉーいっ!」 窓が割れ、フライエンジェ二人が飛び込んでくるなり、視界を完全に奪うほどの眩しい閃光が炸裂する。ホーリーメイガスの綾辻ゆきの攻撃だろう。 不意打ちを受けぬ力を持つ者は、なんとか直撃は避けられたが、他の面々はマトモに食らってしまった。 ただし、伊吹だけは窓の様子に注意していたので、完全に回避に成功する。 続いて快の反対側から、恵梨香を狙撃する不吉の数字。光に紛れて、避けられず、まともに恵梨香は十三番を食らってしまった。貴志祐実の攻撃だ。 一人だけで庇いきれるものではない。快は歯噛みする。 「探しに行く手間が省けたな」 と若干引きつった笑みを浮かべつつ、エルヴィンが聖神の息吹をそよがせるも、恵梨香の不調は回復せず。 その閃光に乗じて、壁を伝った者が侵入してきたらしい。 「しまった!」 快の背後で、山田風加が連撃で破邪の強烈な攻撃を恵梨香に叩きこむ。 たまらず恵梨香は力尽きるが、フェイトを使って何とか立ち上がる。 恵梨香は、ふらつく体をおして、千里眼を発動させるも、部屋に人間が多すぎる。 人間の壁で目隠しされているような状況で、黒井を探すのは困難だった。 しかも、フィクサードとリベリスタの交戦は弛まず、フィクサードは自分を執拗に集中攻撃してくる。 落ち着いて索敵することがどうしても敵わない。 「覚醒してるって、こーゆーときメンドイ☆」 シルフィアの魔曲に巻き込まれつつ、田中が呟いた。 「黒井、赤川、京極がいないですね」 海依音が翼の加護を発動させつつ、ユウザイヲトメ団のメンバーを確認して呟いた。 「えー、皆でここ襲うって決めたのにですか。裏切り者ですね」 竜一の斬撃で血を流しながら、のんびり貴志がぼやく。 「なんだか知らんが、あんた達チームワークいいのか悪いのか分からんな」 鷲祐が呆れたようにつぶやく――と、ユウザイヲトメ団は鷲祐を見て。 「キャア、ノンケ眼鏡だ!」 目を輝かせて、やんやの大喝采。 「え、え」 「黒井ちゃんから聞いてるよ! 黒井ちゃん、嫁認定してたよ! 嫁が来てくれてハスハスってゆってたよ!」 「えええ!?」 「黒井ちゃん的には、その時居たキンパツのお兄ちゃんとのカプ推しだって! あのお兄ちゃんは今日は居ないから、僕の超幻影でスーパー攻め様作るしか……」 「やめろ、超やめろ」 「軍服とかお召しになる予定ないですか、眼鏡さん。お似合いになると思います。カッチリ着ている軍服が乱れるって私ツボなんです!」 「着ない!」 「軍服ダメなら、花魁は? 遊郭ものパロとかしたいのだが!」 「もっと着ない!」 「尻尾触ってもいいかにょ? 付け根とかサワサワしたら、変な声でたり?」 「ダメに決まってるだろう!?」 「そこは、『いいよ、ザラザラするよ』って言えやぁあ!」 大沢怒りのバウンティショット……を、きちんと恵梨香に向けるあたりは正気を保てているようだ。それはうまく快が受けたが。 「……こわい」 伊吹、竜一、エルヴィンは思わず呟いた。そして心のなかで鷲祐に合掌した。 ちなみにこのセリフの応酬の間も、リベリスタとフィクサードの間では熾烈な戦闘が繰り広げている。 「王様も萌えるでござる」 ボソッと山田がつぶやく。倒れた恵梨香を見下ろしながら。 山田の凶刃が恵梨香を倒したのだ。 四方八方からの攻撃に一人では対応しきれず、守りきれなかった快はギリギリと己の襟を握りしめ、山田を睨みつけた。 「よくも、人を倒しながらそんなふざけた事を言えるな!」 「ほう。新田、茫洋なる凡人かとおもいきや、意外と中には熱いものを持っている男だったな。守護神という呼び名も相まって、これは忠義系にもってこいでござる。王と忠義の親衛隊隊長。私は貴方の盾になります……」 ブツブツと山田は、怒りを見せる快を見つめながら、快と刃紅郎のホモ妄想を垂れ流した。内容は以下のとおり。 身分の差に苦しむ愛しあう二人だが、互いの立場のために己の思いを押し殺すしか無い切なさ。そして勃発する戦争の極限状態の中で、二人はなりふりをかまっていられなくなる激情。最後は互いをかばい合うことでしか愛を表現できなかったという悲劇。 「さすが、山ちゃんの妄想は萌えます。死ぬ前に聞けてよかったです」 エナーシアの狙撃にて、倒れこみながら田中が絶賛した。今際の際まで萌えるとは。 「……」 話が通じない。快は黙りこむしか無い。アザーバイドかと錯覚するくらい、価値観がズレている。ユウザイヲトメ団は歪んでいる。快は彼女たちの深淵を思い知る。 「敵ならここにいる。小松を殺したのは、私だ。悔しいか? 小松の仇も取れずに死んでいく気分は?」 シルフィアが口元に笑みを浮かべながら、荒俣を潰す。 「女に何を言われても、どうでもいい。お前が男だったら、鬼畜ハァハァできたのに。つまんね」 荒俣は立てた中指をシルフィアに見せつけ、意識を失う。 どうあれ、千里眼は沈んでしまった。 あと三人、ユウザイヲトメ団が倒れれば、黒井は逃亡を図るに違いない。いまだ黒井の居場所がわからない中、この状況はまずかった。 「新田、どうする!」 ユウザイヲトメ団側の聖神の息吹が発動する中、エルヴィンが鋭く尋ね、快は素早く思考を立て直す。 「事前に分けた班で、追ってくれ!」 「どっちがいく?!」 捜索班は二班ある。刃紅郎、伊吹、鷲祐、エルヴィンの班。そしてエナーシア、シルフィア、海依音、竜一の班。 「そうだな……」 山田の刃を受けつつも、冷静に快は考え、返した。 「エルヴィンさんの班、行ってくれ。さっき黒井の嫁は司馬さんだと言ってた。釣られて出てくるかもしれない。一縷の望みだけど……」 エルヴィンは班の面々を見回すが、異議を申し立てる者は居ない。 「願ってもない」 刃紅郎が頷く。 「あ、ああ。引導を渡してやる。この胸の痛みごとなァッ!!」 鷲祐も頷いた。図らずも自分が囮になるのだが、それで今までの屈辱が洗い流せるなら安いものだ……と自分に言い聞かせる。 「使うといいのだわ」 田中と荒俣から奪った携帯電話を、伊吹とエルヴィンに投げ、エナーシアは道を作るように大沢へ牽制射撃を行う。 シルフィアと海依音は有栖川を抑えにかかる。せっかく田中と荒俣を倒して開けたドアだ。この道を再び塞がれては面倒だ。 「無事でなー! こっちは任せろー」 烈風陣を巻き起こし、窓側のフィクサードを押さえつけながら竜一は、男たちに親指を立ててみせた。 「これは燃えつつ萌えるね! バトル系アニメ最終回とかによくあるパティーン! 後日談の薄い本が捗るぅうう。どっちでもいいよね、死んじゃった切ないパティーンも、どっちも無事で甘々パティーンも! ねえねえ、誰とくっつきたい? 僕はねぇ~、うーんと、エルヴィンだっけ? 白いあごひげのおにーちゃんとがいいな! エル竜!」 と麻痺はしたが口だけは動く貴志に、怒涛の勢いで言われて固まりつつも。 夢枕には伊吹とくっつけられ、貴志にはエルヴィンとくっつけられ、どっちの場合も受け。竜一は己は、腐女子の目からは受けなのか、と複雑な気持ちに陥る。 なんとなく、攻めのほうが勝ち組な気がするのは、何故だろう……。 「ちっ、ここでみすみす行かせるわけねぇだ……」 大沢が刃紅郎に迫ろうとするも、王は王らしい威風堂々たる覇気を見せ、どこまでも偉そうに命じた。 「どけ」 思わず一歩下がってしまう大沢の横を悠々と刃紅郎が行く。 「気をつけて。まだ赤川と京極が残ってる。逃げたのかもしれないが、奇襲の可能性もある。十分注意してくれ!」 快の指示を背中に受け、鷲祐達は学長室を出た。 ●探索って策士攻めのイメージ 刃紅郎を先頭に、エルヴィンが左翼、鷲祐が右翼、そして伊吹が殿を務める十字隊形で彼らは走っていた。 恵梨香がもう動けない以上、千里眼に頼った探索は出来ない。 虱潰しに探していくしか無い。 「逆にアクセスファンタズムが鳴らないことを祈るばかりだ。次に来る連絡は、おそらく奴らが倒れた連絡。過半数が倒れれば、黒井が逃げ出すのだからな」 伊吹が己のアクセスファンタズムを見つめ、つぶやいた。 なお、この中には設置用トラックという、冒頭で彼が設置を諦めた、エンジンもタイヤもないトラックが沈黙を守りつつ出番を待っている。 常識的に考えるとチートもいい所であるが、そこがアークの凄いところなのだからしょうがない。 「鳴らしてみるか」 エルヴィンは、エナーシアから貰った荒俣の携帯電話を開く。 待ち受け画像が、全裸の美少年が恍惚とした表情をしている画像だったので一瞬怯むも、電話帳を開いて、黒井を探す……ものの。 「どれが誰か分からねえ……」 電話帳が、『軍服萌え』『忠義萌え』など各人の嗜好の名前になっていて、どれが誰やらさっぱりである。 「奪われることを見越して、事前に手を打たれていたか」 伊吹は、困惑するエルヴィンに、田中の携帯電話も同じようなものだ、と画面を見せる。 「こっちは、漫画やゲームのタイトルだ。おそらく各人の好きな作品なのだろうな。まだ、嗜好の方が分かる。そっちで考えよう」 「黒井はどれだ。獣人萌えか。それともノンケ萌えか」 刃紅郎が顎を撫で撫で、リストを見て、言う。 「トカゲ萌えはないのか。では速度萌えは」 と伊吹も。 「待て待て待て! なんだ速度萌えって。新ジャンルか!?」 鷲祐が、割って入るも、エルヴィンも刃紅郎も伊吹も真面目な顔で、 「司馬が嫁だと公言してるんだから、司馬っぽい属性で調べるのが普通だろ」 と言ってのけるので、反論できずに、鷲祐はうずくまって小さく震えかけ、近所にオカマ爆弾が設置されていたので、ヒィとばかりに飛び上がる。 「素直にメガネ萌えかもしれねーな。かけてみよう」 エルヴィンが、携帯電話の発話ボタンを押した。 すると、大学棟一階の女子トイレから、 「おい、姫様電話。ほら、さっさとでろよ。おい、姫様電話。ほら、さっさとでろよ。おい、姫様電話。ほら、さっさとでろよ」 イケメン声が聞こえてきた。 「ちゃ、着ボイス……」 マナーモードにしておけ! と鷲祐が心のなかで叫ぶのも無理は無い。 「ぎゃー!」 と慌てふためいた絶叫が聞こえ、ブツッと呼び出し音ならぬ呼び出し声も切れた。 「そこか」 刃紅郎が何のためらいもなく女子トイレに直行。 「ぎええ、何するにゃぁあ! セクハラ! 変態!」 とトイレから廊下へ逃げ出してきたのは、黒井……ではなく、赤川次子だった。 「外れか」 エルヴィンが落胆する。 「腐女子だってポンポン痛い時もあるにゃ! レディに何言わすんじゃコルァー」 真っ赤な顔で赤川は叫ぶ。 つまり、逃げたのではなく、諸事情で学長室急襲に間に合わなかったらしい。 赤川はそのまま中学棟の方角へ校庭を通って逃げようとした。 「黒井はどこだ」 それを鷲祐が神速で捕まえ、校庭の隅で校舎に手を突いて、逃げられないようにしながら詰め寄る。 「うひょう、壁ドン! あ、え? 黒井チャン? なんか森から逃げるってゆってたよ。集中攻撃しとけば、追うに追えないだろって」 赤川はめちゃくちゃ口が軽かった。 とはいえ、森は学園をぐるりと囲っていて、どの方角から逃げるのか全く分からない。 「どの方角から逃げるって?」 「えー? 学長室から一番遠いところじゃね? 知らないけど」 「お前たちを捨てゴマにして逃げるのか。計画はどうする」 赤川はそっくり返って笑った。 「アッハハハハ、おにーさんたちアホだにゃー。こんな学園ホモ化計画なんてまだるっこしいのマジでやるとまーだ思ってんにょ? こんなもんアークを呼び寄せる口実じゃぁん。いや、モチ、うまくやったら実行するけどさぁ。本気でやるならわっざわっざビデオレターとか送らないにょろーん」 「ならば貴様等の計画の真相は」 刃紅郎の問いに、赤川はニタァアアアアと歯をむき出して凶悪な表情で笑ってみせた。 「アァアアアクをコケにしたおすことじゃん? ってゆうかさ、なんかスゴイフィクサードもぶっ潰すスゴイ人たちなんでしょ? そんな人等がちょっと覚醒してるだけの腐女子に翻弄されてるのって、スカーッとすんじゃん!! とくにさぁアークの人たちってなんかスカしてる人多いしさぁ。まるで自分サイキョーみたいなツラしてさ、エラッソーなんだよね。アークでございって感じでチョーむかつく。何様って感じぃ。んでんで、そんなカッケーことゆってんのにさぁ、無っ様ぁに腐った女なんかに負けてたらゾクゾクとメシウマじょない。ほら、男性向けだと、高貴な女騎士がブヒブヒ言わされるような薄い本の感覚ぅ?」 「わかんねえよ!」 エルヴィンがたまらず叫ぶ。 「えー。せっかく男性向けで例えたのにぃ。ね、京極ちゃん」 中学棟の屋上から、巫女コスプレの女がゆっくり落下してきた。 伊吹が放つ眉間を狙った白い乾坤圏を受け止めつつ、空中で京極秋菜はゲヘナの炎を校庭に満たす。 「左様。みどもらが皆死のうが、黒井さえ生きておれば、みどもらの勝ち。あぁくが頭目一人まともにつぶせぬろくでなし共であることを証明したも同然」 ふんわりと校庭に降り立った巫女コス女は、つかんだ腕輪を伊吹へ投げ返し、ほげほげと変な声で笑った。 四対二の乱戦が始まる。 相手もそれなりのフィクサードだ。簡単に黒井探索に戻らせてはくれない。 「時間がねえのに……っ!」 焦燥をにじませ、エルヴィンは一同を癒す。 と、中学棟の二階から、真紅の修道女が羽を生やして降下してきた。 「わしすけくん、助太刀します!」 翼の加護を得た海依音が灰塵に帰する神の裁きを赤川へ放つ。 「学長室は!」 「過半数を殺し、残りはまだ交戦中です。こっちも、結城君と新田君はフェイト使ってます」 「ハッ。あぁくなんざに降るものか。死体を辱める外道の巣だ。今日も夢枕の頭蓋を砕いた奴がおる」 京極が吐き捨てた。 「それは、私だ」 京極を背後から魔曲で襲う女、シルフィア。 「ぐっ、きさまか、外道!」 「世界の崩壊を防ぐためならどんな手だって使う、限りなくフィクサードに近いリベリスタもいるのだよ」 冷たい表情でシルフィアは、怒りに顔をゆがめる京極を見据える。 京極は震えながら絶叫する。 「ほぉ、死体蹴りすることで崩壊が止むというか。みどもはそうとは思えんな! ただ自分の気にいらん奴には尊厳を認めず、虫けらのごとく何をしてもいいと考えているだけの下衆の所業にしか見えぬッ!」 シルフィアは京極の言葉を受け流す。なんとでもいえばいい、と無視をする。 「さて……テロリスト狩りの続きだ。前回の失態はここで取り戻す。過半数を超えたとはいえ、容赦はせん」 とはいえ、シルフィアの体力は、先刻の戦闘で残り僅かにまで削られている。口ぶりに反して、足元はおぼつかない。 「シルフィアさん、大丈夫ですよ。ワタシ、『癒さない』系ホリメですけど、有料で神の愛を使うくらいには仲間思いです! ここはこっちに任せて、わしすけ君達は早く行ってください」 海依音は鷲祐達に告げる。 そうだ、時間がない。黒井は確実に逃亡に転じている。早くしなければ、任務をまた失敗してしまう! 「結局は思想の違いを許容できないだけ。どうにも厄介なもんだな」 エルヴィンは悲しげに呟き、しかし仲間の配慮に従って、黒井探索に戻る。 「わしすけ君、終わったら新田君の奢りで呑みましょう」 海依音が背中にかけた声に、鷲祐は片手をあげて答える。 「……ああ。死亡フラグにならんようにしよう。お互いな」 森から逃げるというのだから、おそらく校舎のフェンスを乗り越えるのだろう。男達はフェンス沿いへと走った。 ●誘因って魔性受けのイメージ 学園はこじんまりしていると言えども、そこそこ広い。どの森へ逃げるのか、皆目検討もつかない。 「世界がホモに満たされれば、人の時代は潰える。この危機に、あの時の俺の甘さに、決着をつけなくてはいけないのに……!」 鷲祐が焦りをあらわにして、イライラとそこここへ視線をおくる。 「では、我に一案ある。司馬、貴様の覚悟さえあれば、勝算はあるぞ」 「……え? か、覚悟……あ、あるぞ、……うん、ある……」 刃紅郎は、じゃらりとストラップだらけの携帯電話をぶら下げ、ニヤリと口角を上げた。 「では皆、耳を貸せ」 と刃紅郎が告げた作戦に、一同は一様に拒絶を示したが、 「四の五の言っている場合か。無理ならば爆弾を爆破させるまで」 と刃紅郎が校舎に貼り付けられたオカマ爆弾に、真打・獅子王「煌」を突きつけるので、一同は涙を飲みながら頷くしか無かった。 伊吹の超直感で、『ノンケ萌え』にコールした携帯電話を地面に置いたエルヴィンが、物陰に隠れつつ周囲を見回す。 「ちょ、ま、待てっ、いま、そんな場合じゃない、だ……ひっ」 「か、勘違いするな。いや、これは純粋な愛情で……」 若干棒読みくさい声が、携帯電話のマイクに拾われていく。 「伊吹、やめろ、俺には嫁がっ。あっ、そんなとこ触るなっ、いやっ」 「許せ、司馬……」 「やめっ、やだっ、ぁっ」 がさり。 「そこっ!」 刃紅郎が叫び、音のした方角へ戦鬼烈風陣を放った。 「がふっ」 フェンスの向こうでもんどり打つダークスーツの女を認め、鷲祐に覆いかぶさっていた伊吹が立ち上がって、サングラスの奥の目を見開く。 「黒井! 既に外に居たとは!」 エルヴィンが、フェンスを飛び越え、黒井涙香の背後をとる。 「ギリギリだったぜ……」 「くっ、逃げたかったが。まさかの嫁がコートの男に押し倒されるステキシチュエーションに、身動きが取れなかった! 不覚っ」 若干説明口調だが、そういうことである。 「ふん。やはりな。我の仕掛けた撒き餌に食いついたか」 と、仁王立ちの刃紅郎を見上げ、黒井はため息をつく。 「我々はテロリストであり、腐女子だ。いや、テロリストの前に腐女子だ。嫁ハァハァは命よりも大事。よくぞ見破ったね」 「……うまく行ったんだろうが、なんか納得出来ないのは俺だけか」 「司馬、俺もだ」 伊吹は鷲祐のボヤキに同意を示すも、すぐに黒井へ向き直り、冷徹な言葉を投げた。 「……見つかったからにはもう逃げられん。俺はどこまでも追い、殺す。仲間の命を無碍にする奴に上に立つ資格はない。俺は貴様のような奴が一番許せないのだ」 伊吹が黒井の血を吸い上げる。黒井はヘラリと笑った。 「我々は、命を無碍にしたことはないがね。ただ己の信じる世界を実現するために、己の命を捧げられる素晴らしい仲間に恵まれただけさ。だから、我々はその意志を尊重し、彼女を救うよりも世界を変えるために己の命を賭すだけのこと」 「腐女子である事は悪い事じゃねーし、妄想も結構だ。ただ、多くの人々の心を捻じ曲げる事さえなければ、何もいう事は無いんだ」 エルヴィンは言ってみる。とはいえ、頭目たる彼女を殺さなければ、任務は終わらない。それでも、エルヴィンは言う。 「君達が妄想していた世界は、今描いてる目的と本当に同じなのか? ソレに命をかけて、本当に良いのか?」 「愚問だな。……何を言っても、男には分かってもらえない。これは同志でなければ分からない」 「人が人を想う心を我欲で望まぬ形に歪めんとする思想。それは『魂の殺人』に他ならぬ……何が平和主義者だ。狂信者どもめ。我は民と国の平和を守る王の『大義』を以って貴様らを断罪する」 「世界中の人々が愛し合えるようになれば世界は平和になるじゃないか。だから我々は、世界が愛で包まれる世界にするというのに。……ふふ、だが、王様には我々の理屈がわからないだろ。つまり我々と君達はチガウ。決定的に違うが故に、認め合えない。それが闘争の、殺し合いの、根源なれば」 黒井は己の周辺に無数の透明の刃を形成する。 「黙って互いに断罪しあうしか……なかろうな。さあ、おいで嫁! 断罪してやろう!」 鷲祐もミラージュエッジを構えた。 「嫁じゃない。人の性癖は、自由なんだ……! 一撃で決めるッ!!」 激闘が始まった――。 「終わったみたいだね」 快の声で、返り血で真っ赤になった伊吹が振り向いた。伊吹の足元には黒井の無残な躯が横たわっている。 快は、背中に竜一を背負っていた。エナーシアは、恵梨香に肩を貸すように引きずっている。 「結局、全員死亡という結果になりましたね」 海依音はシルフィアを支えていた。ユウザイヲトメ団……特に京極のシルフィアへの怒りは相当だったらしい。シルフィアの体はボロボロになっていた。 立っている者も重傷とまでは行かないが、無傷ともいえない状態だ。 「……成功したんだな。よかった」 エルヴィンがまだ動ける者に回復をかけてやる。 「反省点もあるけれど、アークの抑止力を示すことは出来た。良しとしようじゃないか。皆お疲れ様。……さあ、迎えを呼ぼう」 快は己の胸に輝く白銀のアクセスファンタズムへと手を伸ばす。 山の天気は移ろいやすい。空気が白く濃くなり、霧雨が彼らの肩をしとどに濡らしていく。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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