下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






【七業】暗愚たる文の闇


「E・ビーストを手懐けて連れ帰ろうとしている、不届きなフィクサードが居る。
 現場に急行してE・ビーストを倒し、連中の目論見を阻止するのが今回の任務だ」
 ブリーフィングルームに響くのは、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)の声。
 彼は右手に握ったボールペンの頭をこめかみに当てつつ、資料に視線を落とした。
「最近になって、力をつけてきたフィクサード組織があるんだが……。
 どうにも、連中に関してはまだ底が知れない。
 とりあえず“視えた”限りの情報で話を進めるが、所々虫食いがあるのは堪忍してくれ」
 そう前置きした後、数史は詳しい説明に移る。
「まず、現場のリーダー格は『文曲』と呼ばれる男だ。
 ジーニアスのダークナイトで、能力の詳細は分からないが相応の実力者であることに疑いはない」
『文曲』が所持しているアーティファクトは、高い知能を持たないエリューションを1体のみ従えることができる『呼び声の符』。そして――
「2つ目のアーティファクトは『五里闇中』。
 体内に埋め込むタイプのアーティファクトであることと、闇に干渉する力を持つということは判明しているが、こちらも詳しくは分かっていない」
 現場は、人が立ち入らない森の中だ。時間は夜になるので、視界の対策はいずれにせよ必要だろう。
「で、撃破対象のE・ビーストだが。識別名称を『霊亀』という。
 体長5メートルほどもあるデカい亀で、陸でも水中でも活動できるらしい。
 スピードは遅いし、攻撃の威力もさほど高くはないが、やたらタフなんで倒すには時間がかかる。
 加えて、先に言った『文曲』含む7人のフィクサードが奴を守ろうとするから、一筋縄ではいかない」
『霊亀』が『呼び声の符』の力で『文曲』に使役されているという点も、見逃せないポイントである。
 だが――フィクサード達は何故、『霊亀』を連れ帰ろうとしているのか?
 疑問を口にしたリベリスタに、数史が答えた。
「この『霊亀』、戦闘能力については先に言った通り、突き抜けて強力という程じゃない。
 だが、こいつはアザーバイドに対して強力な共感能力を持っているらしいんだ。
 そのあたりで、連中にとっては何らかの利用価値があるのかもしれないが……」
 そこまで言い終えた後、数史は資料から顔を上げてリベリスタを見た。
「目的が何であれ、崩界を促すE・ビーストをアークとして放っておくわけにはいかない。
 厄介な任務ではあるが、頼まれてくれるか」


 男は、薄闇の中に居た。
 陽光の下で見れば、目元を覆い隠した黒髪にうっすらと白いものが混ざっていることや、その下から覗く顔立ちが意外に若いことが窺えるだろう。しかし、身に纏った陰鬱さだけは拭いようがない。
 目的のものは、すぐに見つけることが出来た。ひやりとした大亀の甲羅に触れ、男はこれを意のままにする。喉から、くぐもった笑いが漏れた。
「……く、くけけっ」
 取るに足りぬ星、闇を這いずる虫――そんな己に従わねばならぬ配下やこの大亀が、些か滑稽に思えたのだ。
 肩を揺すって笑う己を、配下たちが見る。畏敬と蔑みが入り混じった視線には、もう慣れっこだ。
 ふと笑うの止め、闇に目を凝らす。どうやら、邪魔が入ったようだ。
 配下たちに合図を送り、体勢を整える。

 ――風が、木々を揺らした。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月24日(月)23:02
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 E・ビースト『霊亀』の撃破。
 (フィクサードの生死は問いません)

●敵
 所属不明のフィクサード7名+E・ビースト1体。
 (いずれも『暗視』、またはそれと同等の能力を所持)
 フィクサードの目的はE・ビーストの保護であるため、これが倒された場合は撤退します。

■『文曲』
 ジーニアス×ダークナイト。長く伸びた前髪で目元を隠した、小柄で痩せぎすな男。
 外見年齢は10代後半~20歳前後ですが、実年齢や本名は不明です。
 首筋に黒い銃弾痕があり、それを文曲星に見立てた北斗七星の刺青を入れています。
 スキルはRank3まで使用可。陰気で卑屈な言動が目立ちますが、相応の実力者と予想されます。
 アーティファクト『呼び声の符』『五里闇中』を所持。その他、詳細は不明。

 ExP:無明長夜
 Ex:闇を這う蜈蚣

 ※下記【七業】タグのシナリオに登場したフィクサードとは知己にあたりますが、ご存じなくても支障はありません。

 『貪狼』:【七業】北天巡る貪りの獣(風見鶏ST)
 『武曲』:【七業】智たる武の奏(風見鶏ST)
 『廉貞』:【七業】縹渺たる水音(椿しいなST)
 『禄存』:【七業】黎明たる牙(そうすけST)

■フィクサード×6
『文曲』の配下。ジョブ構成は下記の通りで、Rank2までのスキルを使用します。

 ・ホーリーメイガス×1
 ・マグメイガス×1
 ・クロスイージス×2
 ・クリミナルスタア×2

■E・ビースト『霊亀』
 体長5メートルほどの巨大な亀で、フェーズは2。水中でも活動可能。
 強力な『異界共感』能力を有しているとされ、アーティファクト『呼び声の符』の効果で、『文曲』に従っています。
 速度は遅く、攻撃力もさほど脅威にはなりませんが、耐久力はかなり高めです。
 ブロックには3人が必要。

 【衝撃波】→物近複[ショック][ノックバック]

●アーティファクト『呼び声の符』
 小さな護符型のアーティファクト。
 フェーズ2以下の『高い知能を持たない』エリューションを1体だけ従えることができます。
 (既に使役状態にあるエリューションがフェーズ上昇した場合に限り、フェーズ3まで使役可能)

●アーティファクト『五里闇中』
 体内埋め込み型のアーティファクト。代償不明。
 闇に干渉する能力を持つと推測されていますが、詳細は不明です。

●戦場
 人が立ち入らない森の中。一般人の対策は考えずとも構いません。
 時刻は夜で、視界対策は必須です。
 E・ビースト(フィクサードもその近くにいます)から約20メートル地点に到達した時点で戦闘開始。
 事前の付与スキル、集中などは不可とします。
 なお、戦闘開始地点から約40メートル進んだ場所に大きな池があります。

 情報は以上となります。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
クリミナルスタア
関 狄龍(BNE002760)
マグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
クリミナルスタア
藤倉 隆明(BNE003933)
マグメイガス
コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)
デュランダル
双樹 沙羅(BNE004205)
スターサジタリー
鴻上 聖(BNE004512)


 風が、暗い森を吹き抜ける。
 ――迫る敵は、8人。『霊亀』の足の遅さを考えれば、前もって逃がすのは間に合うまい。
 口元から笑みを消し、『文曲』は配下に合図を送る。闇の武具が彼の身を覆った時、十字の加護が自陣にもたらされた。
 クリミナルスタア達の撃ち出した弾丸が、夜の森に幾つもの火線を描く。その一発が、先頭を走るツァイン・ウォーレス(BNE001520)の鎧を掠り、表面を僅かに削った。
「コイツ等か、最近コソコソ動き出したっていうフィクサード集団は……」
「武曲も面倒な奴だったけど、今度の奴もめんどくさそう」
 無骨な暗視ゴーグルをかけた『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が、先に相対した幹部の一人を思い浮かべて答える。
「全く、猟犬やら七派やらで忙しいときに……リベリスタが何人いても足りやしねぇ」
 軽く舌打ちして、ツァインは勢い良く地を蹴った。彼が文曲に接近したのを見届け、『デストロイヤー』双樹 沙羅(BNE004205)は他の前衛とともに霊亀の足止めに向かう。
「アークでーっす、何をする気か知らないけど掃除されろし」
 名乗りを受け、文曲がぎこちなく唇の形を歪めた。笑ったつもりなのかもしれない。
 沙羅に続いたのは、綺沙羅と『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)、『関帝錆君』関 狄龍(BNE002760)の3人。
「霊亀ねェ。そんなモンをどうするんだか知らねェが、まあ放置は出来んわな」
 図体の割に小さな亀の瞳を覗き込みながら、狄龍が呟く。
「いやまぁ、従えてみたいエリューションとかたまに出てくるけど!」
 池の方角に回り込もうと走る『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)の視界に、霊亀からブロッカーを引き剥がさんと動く敵の姿が映った。
 沙羅に肉迫したクロスイージスの一人が、隆明を目掛けて十字の光を撃つ。続いて、四色に煌く魔曲の旋律が宙を踊った。
 辛うじて霊亀のブロックが維持されていることを確かめ、『境界のイミテーション』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)がセレアの後に続く。
 謎のフィクサードを統率する文曲に視線を向ければ、その首筋に北斗七星の刺青が見えた。
「文曲星……メグレズか」
 彼の称号と同じ星の位置には、黒々とした銃弾痕。コーディがかつて出会った『廉貞』と『禄存』、そして過去の報告書に名が連ねられた『貪狼』と『武曲』――合わせて5人が、アークの前に姿を現したことになる。
「何を狙っている……?」
 未だ判明していない彼らの目的を思い、文曲を鋭く見据えるコーディ。同様の疑問を抱いていた『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)は、思索を打ち切って眼前の敵に意識を戻した。
「まぁ、今回の任務は霊亀の討伐だ。
 主の作りたる世界を侵させない為にも、しっかりと任務を遂行しないとな?」
 独りごち、極限の集中で自らの動体視力を高める。薄く色がついたサングラスの奥で、金色の義眼が鈍い輝きを放った。


 文曲の意に従い、霊亀が全身から衝撃波を放つ。
 速度でリベリスタに勝る文曲は、続いて悪意の闇を呼び起こした。底無しの絶望と凶運を孕んだ黒き奔流が、彼をブロックするツァインを始めとして射線上のリベリスタ数人を薙ぎ払う。
 それを見たツァインは、すかさず神の光で仲間達を包み込んだ。絶対者たる沙羅は例外としても、この手の状態異常がチームにもたらす影響は決して無視できない。あまり長期戦に向いた構成とは呼べない以上、行動の失敗確率を大幅に高められるのは避けたいところだった。
 衝撃波の直撃を受けて吹き飛ばされた狄龍が、再び霊亀のブロックに戻る。
「――重要なのは、亀を逃がさねェ事だ」
 童謡を口ずさみつつ、彼は指先からオーラの糸を放った。急所を貫かれた霊亀が怒りに染まった瞬間、綺沙羅がその側面に向かって神秘の閃光弾を投じる。光と轟音に巻き込まれたクリミナルスタアの一人が、霊亀ともども動きを封じられた。
 リベリスタの任務は、フィクサードが連れ去ろうとしている霊亀を撃破すること。
 そのためには、霊亀の逃走を阻みつつ、敵の手数を減らさなければならない。あちらに回復手(ホーリーメイガス)や守り手(クロスイージス)が存在する以上、最初から霊亀を狙っても妨害を受ける可能性が高いからだ。
 霊亀のブロッカーを排除せんとする敵を見て、セレアが動く。敵側の術士(メイガス)2人を射線上に捉えた瞬間、彼女は素早く詠唱を響かせた。
 携えた“Schwarze Schleife”から、幾本もの黒き軌跡が奔る。真っ直ぐに伸びた血の鎖は、矢の如き速度でセレアの敵へと襲い掛かった。
「答えねぇとは思うが一応聞いておく、目的はなんだ?」
 歪な形状の二丁拳銃を両手に構えた隆明が、文曲を睨む。
「僕らの、目的……? ……く、く。見ての通り……その亀、だよ」
 軽く肩を揺すり、陰鬱に笑う文曲。やはり、まともな返答は期待できないか。
「まぁ、答えないってんならそれでもいいぜ、答えたくしてやっからよぉ!」
 即座に気持ちを切り替え、愛銃のトリガーを絞る。右手の黒(Warrior)、左手の銀(Hustler)――二丁で一対をなす“禁酒法時代の遺物(GANGSTER)”が一度に火を噴き、敵陣に弾丸の嵐を見舞った。
 直後、体格に見合わぬ大鎌を横薙ぎに振るった沙羅が、眼前に立ちはだかるクロスイージスを後方に吹き飛ばす。現段階で優先すべきは回復手たるホーリーメイガスの撃破だが、遠距離まで届く攻撃スキルを持っていない以上、邪魔な敵から対処せざるを得ない。ツァインが抑えに回っている文曲を数に含めなくても、敵には前衛向きのクロスイージスとクリミナルスタアが合計で4人もいる。この全員がフリーになれば、最悪、こちらのブロッカーが残らず押さえ込まれて霊亀の足止めが困難になる危険があった。
 それに――敵は十字の加護で意志の力を高めている上、回復スキルを多く有している。状態異常による拘束を、過信するわけにはいかない。
「やっぱり、こっちの方が堅実かな」
 閃光弾の投擲に見切りをつけた綺沙羅が、白い指で“綺沙羅ボードⅡ”を軽快に叩く。
 スピーディかつ音楽的なタイプ音を響かせる彼女の傍らに式神『影人』が現れ、霊亀のブロックに加わった。
「――そこから動くなよ!」
 無骨な手甲に覆われた両手を開いた狄龍が、その指先から鉛弾を乱射する。
 片っ端から横一直線にばら撒かれた弾丸が敵のホーリーメイガスとマグメイガス、そして霊亀の前足を立て続けに射抜いた。
 コーディやセレアらと同様に池の方角に回った聖が、神の光で状態異常を消し去る敵クロスイージスを一瞥して不愉快げに眉を寄せる。
「己が欲に忠実な輩が、神の威光で回復なんてしてんじゃねーよ。
 ……それともあれか? あんたらの神は俺の信じる神とは違うってか?」
 白と黒の手投剣を手にした敬虔なる信仰者は、この瞬間、彼の敵を“異端”と断じた。
「邪教徒ってんなら遠慮はいらねー、全力でぶっ潰す」
 星の輝きを帯びた刃が、聖の両手から一斉に投じられる。脇腹を深く切り裂かれた敵ホーリーメイガスにぴたり狙いを定め、コーディが魔方陣を構築した。
 解き放たれた魔力の槍が、間に立ち塞がる者もろとも標的を貫いてゆく。
 直撃を受けたホーリーメイガスが倒れるのと、コーディが次の目標に視線を移したのはほぼ同時だった。


 勢いに乗ったリベリスタ達は、続いてマグメイガスを落としにかかった。
 この暗い森の中でも、夜目が利くメンバーが大半を占める彼らの動きにはまったく淀みがない。その戦いぶりを見て、文曲がくぐもった呟きを漏らす。
「……噂の『箱舟』は優秀、だね」
 長い前髪の隙間から覗く双眸は、彼の眼前に立つツァインではなく、その向こうに位置する後衛たちを捉えていた。
「! 後ろ、狙われてるぞ!」
 文曲の意図を察知したツァインが警告を飛ばすも、僅かに遅い。湧き上がった絶望の闇が、黒鎖でフィクサードを縛り続けるセレアを一息に呑み込んだ。
 底無しの悪意が、彼女の体力を瞬く間に喰らい尽くしていく。閉ざされかけた意識を己の運命で繋いだセレアのもとに、ツァインが英霊の魂と力を届けた。
「ありがとう!」
 その癒しで体勢を立て直したセレアが、彼に礼を述べる。彼女は近くの木を盾にして文曲からの射線を遮ると、再び血の鎖を生み出した。
 それにしても。北斗七星の称号を持つフィクサードは、いずれも相応の実力を有しているらしい。
 以前に遭遇した別の男を頭に思い浮かべて、沙羅の表情が鋭さを増した。
「あんときは油断して負けちゃったけど、今回はそうもいかない」
 たとえ、ここで倒すことが叶わずとも。せめて、任務くらいは完遂してみせる――。
 霊亀の足止めを仲間と『影人』らに任せ、沙羅はマグメイガスに向かって駆ける。彼が死神の大鎌を振り下ろした瞬間、その身から激しく散った紫電が森を照らした。
 すかさず、聖が星明かりを宿した刃で止めの一撃を浴びせる。マグメイガスに“神罰”を下した後、彼は未だ力の底が見えぬ文曲を睨んだ。
「『五里闇中』がどんなものか知らねーけど、俺の目を欺けると思うなよ」
 闇を見通す瞳と、あらゆる幻を看破してのける眼力。この双方を併せ持つ聖に、神秘のまやかしは一切通用しない。
 続いて、コーディがエネミースキャンで文曲の解析を試みた。力の全容を読み切ることは流石に不可能だったが、その一端を掴むことには成功する。
「……おそらく、パッシブスキルは能力強化系だ。詳しいところは分からないが」
 コーディが解析結果を仲間に伝えるのを聞き、文曲がくつくつと笑った。
「仕方ないね……僕の無能で、これ以上……手間取るわけには、いかないもの……」
 刹那、文曲の体内から黒い光が溢れる。彼を中心にした一帯が、まるで黒い帳を下ろしたかの如く真の闇に閉ざされた。
 これが、アーティファクト『五里闇中』の効果なのか。しかし――
「今さら暗くしたところで、何か意味があるわけ?」
 綺沙羅の発した疑問は、状況を考えれば当然といえた。元より、この戦いで暗視ゴーグルに頼っていたのは彼女一人。感情探査のスキルを活性し忘れたのは痛いが、霊亀のブロックを主な役割と考えればそこまで大きな問題はない。
 加えて、彼女は完全に視界を奪われたわけではなかった。暗視装置の機能は大幅に低下してはいるものの、それでも敵味方の輪郭ぐらいは辛うじて認識できる。
 その程度のことを、使い手たる文曲が理解していない筈がないのだが――。
「……意味は、あるよ。ちゃあんと、ね」
 含み笑いを漏らした文曲が、続けて次の行動に移る。地面に注意を払っていた隆明とツァインが、口を揃えて叫んだ。
「来るぞ!!」
「――皆、足元気ぃ付けろよ!」
 ほぼ同時、沙羅の背後で膨れ上がる殺気。身構える間もなく、蜈蚣(むかで)を模った巨大な影が彼を襲った。首筋に食い込む鋭い顎肢が、少年の体内を死毒で満たす。
 運命を燃やしてその一撃に耐えた後、沙羅は傷口から流れ落ちる血もそのままに文曲を見据えた。
 絶対者たる自分が、単純な毒や、絶対命中(クリティカル)でここまで追い込まれるとは考え難い。防御力を無視してのける、強力な遠距離攻撃スキル――それが、文曲が隠し持つ技の一つか。そのものの性能を差し引いたとしても、命中精度が段違いという気がするが。
 ツァインの聖骸凱歌を受け、直死の大鎌を両腕で構え直す。文曲が狄龍や隆明の銃撃を容易く掻い潜るのを見て、沙羅は確信した。
 やはり、先程よりも速い。動作の正確さも、かなり増している。
 それで文曲の能力を理解したコーディが、得心したように呟いた。
「……成る程。これが強化の鍵というわけか」
 文曲が『闇の深さに比例して自らの力を高める』のだとしたら、彼がここで『五里闇中』を発動した理由も納得できる。
「暗くしてもあたし達の邪魔にはならないけど、自分は強くなるってことね」
 黒鎖を伸ばして敵を狙い撃つセレアが、コーディの言葉に頷きを返した。
「例の傷痕が気になるけど、あまり構ってる暇はなさそうかな」
 敵の攻撃で掻き消された『影人』を即座に補充しつつ、綺沙羅が「ほんと、めんどくさい奴」と零す。
 彼女は『五里闇中』が埋まっている場所を北斗七星に見立てた銃弾痕と推測していたし、仲間達も隙あらばそこを抉ってやろうと攻撃を仕掛けてはいたのだが、文曲の実力的な問題もあって目的は未だ果たされていなかった。
 首筋を庇おうとする動きも見られないではなかったものの、単純に急所を守るための回避行動とも解釈できるため、確証としては弱い。とりあえず、アーティファクトの破壊は諦めて霊亀の対処に専念すべきだろう。これは、霊亀を使役する『呼び声の符』についても同じことが言えた。聖の幻想殺しに引っかからないということは、神秘的な隠蔽を施してはいないという事実を意味する。懐に隠し持っているとしたら、文曲を倒さぬ限り手出し出来ないも同義だ。
「君たち強いからむかつく」
 文曲を横目に見て、沙羅が再び霊亀の抑えに戻る。
 自分はまだ、星の名を持つ彼らには遠く及ばないのだろう。
 だが、そうだとしても失敗は二度と御免だ。霊亀だけは、何としてもここで殺す。
『デストロイヤー』――死を運ぶ者として。
「さ、楽しく殺されてボクを楽しませてね亀さーん★」
 大鎌の巨大な刃を霊亀に突き立て、血と活力を容赦なく啜る。傷の痛みなど、最初から感じてなどいない。
「祭で買ったミドリガメじゃねェんだ! お持ち帰りはご遠慮願うぜ!」
 霊亀の真正面に陣取った狄龍が、己の身をも削る強力な一撃を叩き込む。巨体の隅々まで行き渡った呪いが、黒鎖の呪縛に捕われた霊亀の動きを完全に止めた。
 その隙を逃すことなく、聖が魔力を付与した二振りの手投剣を投じる。
 それぞれ“Heaven”“vengeance”と銘打たれた白と黒の刃が、霊亀の前足を深々と抉った。


 リベリスタは残る敵を状態異常で封じつつ、霊亀に集中攻撃を仕掛けていた。
 しかし、彼らもここまでの戦いでダメージを蓄積させつつある。高威力の複数攻撃を駆使する文曲が健在であり、癒しの技がツァインの単体回復のみである以上、いずれ回復が追いつかなくなるのは自明の理だ。
 悪意の闇に呑まれたコーディと狄龍が、相次いで運命を削る。
 あとは、こちらが倒れるのが先か、霊亀が息絶えるのが先か――
「にしても、どうも嫌われてるみたいだな文曲さんよぉ」
 愛銃をナックルダスター代わりに霊亀を殴りつけた隆明が、文曲に挑発的な言葉を投げかける。
 先程からフィクサード達の態度を観察していたのだが、彼らは文曲に服従してはいてもあまり敬意を払われていないように見えた。
「武曲や廉貞はそれなりに部下に慕われてたみてぇだが、あんたはなんなんだ?」
「……僕は、虫だよ。闇を這いずる、汚らしい、むし」
 その返答を聞き、ツァインが「小せぇなオイ」と悪態をつく。
「小さいから文曲なのか? 文曲だから性根も腐ったのか? どっちだ?」
「さぁ、どっちだろうね……? 僕は、この通り……取るに足りない星、だから」
「それが小せぇって言うんだよぉッ!!」
 声を張り上げ、ツァインは英霊の魂を降ろして傷ついた仲間を支える。少しでも文曲の注意を惹き、時間を稼げれば僥倖だ。
 霊亀と自分達の間にしつこく身を割り込ませようとする敵の一人を、コーディが魔曲の四重奏で縛る。綺沙羅がすかさず鴉の式神を召喚し、もう一人の意識を自分に引き付けた。
 闇を見通して霊亀の顔を眺めていたセレアが、「んー」と首を傾げる。
 改めて観察すると、意外と愛嬌がある顔立ちではあるのだが。
「ウミガメじゃないし、竜宮城に連れて行ってはくれなさそうね。ボコるの確定」
 展開した魔方陣から魔力の弾丸を撃ち出し、霊亀の甲羅に亀裂を生む。
 会心の笑みを浮かべた狄龍が、【明天】と【昨天】の銃口をそこに向けた。
「いいぞベイベー! 全部持ってけ!!」
 後先を考えない、捨て身の連続射撃――愚かなる敵に絶対的有罪を下す魔弾の嵐が、霊亀にとうとう止めを刺す。
 巨体が崩れ落ちた瞬間、コーディは文曲に向き直った。
「廉貞はアザーバイドを召喚しようとしていた。
 禄存はバグホールを開くアーティファクトを回収していった。
 そして、今回は霊亀だ」
「アザーバイドに対して、強力な共感能力を持つE・ビーストか。
 『呼び声の符』を利用して、アザーバイドを間接的に操るつもりだったか?」
 聖が言葉を引き継ぐと、コーディは語気を強めて続ける。
「……お前たちは何を企んでいる。何を喚ぼうとしている!」
 2人の詰問に、文曲は薄笑いを浮かべて「さァ、ね」と応じた。
 身を翻して撤退に移るフィクサード達の背に、隆明が追撃を浴びせる。
 倒された配下と霊亀の死体残して走り去る文曲に向けて、沙羅が声をかけた。
「いつかお前、殺す、待ってろ」
 くく、と低い笑い声を残し、文曲は生き残った配下を連れて闇に消える。
 それを見届けた後、ツァインは仲間達を振り返った。
「皆無事かー? 全く、何企んでやがんだか……」
「これで5人目……なら、あと2人いるってことか」
 銃を降ろした隆明が、ぽつりと呟く。
 コーディや聖が言う通り、連中のこれまでの動きを考えれば目的は見えてくる気がするが――
「……ま、今考えることじゃねぇな」
 そう言って、彼は息を吐いた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
数史「お疲れさん。無事に終わって良かった。
    気になることは多いが、どうか今日はゆっくり体を休めてくれ」

 暗視持ちは多いだろうと予想していましたが、ここまで固めて来られるとは。
 回復手の不足が響いたこともあってフェイトを削られたメンバーは多めになっていますが、全体として大きな隙のない作戦だったと思います。
 正直、今回だけで文曲のEXスキル等がほぼ丸裸にされようとは予想していませんでした……。

 まだ彼らについて謎は多く残っていますが、今後の展開をお待ち下さいませ。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。