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ハーメルンの魔

●輪唱
 わんわんぎゃあぎゃあと老人ホームに泣き声が響く。
 わんわんぎゃあぎゃあとオフィス街とは思えないような声が大きくなった。
 わんわんぎゃあぎゃあと舌っ足らずな声が繁華街に輪唱していた。
 大凡有り得ない風景には有り得ない数の『子供』が居る。
 くたびれたカーキのセーターを着た『子供』が居る。
 だぶだぶの背広を引きずる『子供』が居る。
 呼び込みの看板を上手く扱えない『子供』がバランスを崩している。
 子供は宝と言うけれど、子供で溢れた街の光景は異常そのものだ。いでたちから何から何まで場違いな彼等は困惑しながらも自身が本来為すべき事を為さんと足掻いている。しかして、それが上手くいかないのは誰もが『子供』だからに違いない。

 ――溢れた子供達の中心に極彩色を纏ったピエロが立っていた。

 白い石造りのような仮面に覆われた素顔は分からない。異常に長く細い手足を緑のタイツ地のような服に包み、三又に分かれたトンガリ帽子を被っている。人間的でありながら何処か人間的ではないフォルムは『彼』がどんな存在だかを『分かる人間には分からせる』。
 わんわんぎゃあぎゃあの輪唱の真ん中で迷惑な道化が真昼に踊る。
 目的は不明。委細不明。あるかどうかも『分からない』。
 但し、この未来を見てしまった以上は――捨て置けまい。
 知ってしまった以上は――リベリスタ達には彼等にしか出来ない仕事があるのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月18日(火)23:21
 YAMIDEITEIっす。
 五月ラスト。コメディ純戦とでも言いましょうか。
 以下詳細。

●任務達成条件
・アザーバイド『ジェスター・ハーメルン』の撃退

●戦闘現場
 オープニングのシーンは万華鏡の感知した未来視です。
 つまり、現実にはまだ『被害』は出ていないという事です。
 強力なアザーバイドがリンク・チャンネルを通じてボトムに出現する事を感知したアークはこれを水際で食い止めるべく戦力を派遣する……という具合。
 戦闘現場は夜の野原なのでロケーション的な問題は全くありません。

●アザーバイド『ジェスター・ハーメルン』
 アザーバイド。一メートル近くある奇妙な魔笛を備えた怪しいピエロ。
 フォルムもサイズも人間とほぼ同じですが、異常に長細い手足は余り人間めいてはいません。
 リンク・チャンネルを自身で作り出す事が可能です。
 コミュニケーションを取る事が出来るかどうかは不明。
 彼の持つ最大の能力は『対象の生物を子供に変える事』です。
 この能力は発動した場合、彼の存在する空間一帯に働く為、阻む事はかなり困難です。リベリスタがこれを受けた場合は暫くすれば戻りますが、一般人の場合は不明。子供(四歳程)に変えられた対象は『出来るだけ従来の自分を保とうとしますが、所詮子供なので子供なり』になります。又、戦闘能力も大きく低下します。これは元々子供であっても同じです。(頑張れば頑張ったなりになりますが、諸々天才児的(通常通り)には動けないという事です)
 以下、攻撃能力等詳細。

・チャイルド・プレイ(発動時、周辺一帯の対象を子供に変える)
・ダークシール(戦場一帯に自動影響。WP以外でのBS回復が効かなくなる)
・イリュージョン(神自・回避大向上)
・スマイル(神遠複・崩壊・無力・虚脱)
・パレイド(神遠複・魅了・呪い)
・EX デモン・フルート

●桃子・エインズワース
 役に立たない助っ人。好き勝手動きます。
 指示すると機嫌がいいと聞いてくれるかも知れません。
 尚、クラリスを助っ人にしようかと思ったのですが余りにチョロ過ぎたので辞めました。

●備考
 プレイングには自分が子供になったらこんな風になる、を書いておく事を推奨します。
 書かれていない場合、プレイングやキャラクターに応じて子供にされます。又、プレイングを無視したり生かさなかったりはしませんが、『チャイルド・プレイ』の影響下にある状況では適宜『それらしく』判定されますのでご注意下さい。

 
 是非、積極的に遊んで下さい。
 でも、『ストーリー』を思えば結構怖い相手かも知れませんよ。
 以上、宜しければ御参加下さいませませ。
参加NPC
桃子・エインズワース (nBNE000014)
 


■メイン参加者 10人■

悠木 そあら(BNE000020)
クリミナルスタア
★MVP
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
マグメイガス
アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
ナイトクリーク
五十嵐 真独楽(BNE000967)
マグメイガス
綿雪・スピカ(BNE001104)
インヤンマスター
九曜 計都(BNE003026)
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
ダークナイト
街多米 生佐目(BNE004013)
ホーリーメイガス
キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)

●緞帳が上がる前に
 吹き抜けた風が丈の長い草をざあざあと揺らす。
 漣のように辺りを走った違和感は全て――目前に居る『何か』が生み出したものに違いない。

 ♪笛吹き男の音色に誘われ 続くよ続くよこどもの行列
 ♪さぁさ皆よっといで 今日は楽しいパレードよ

 ――何気無く『運び屋わたこ』綿雪・スピカ(BNE001104)の唇を突いて出た楽しくも――何処か恐怖的なメロディは成る程、今日彼女を含むリベリスタ達が遭遇した『運命』を良く表しているものと言えた。
 ハーメルンの笛吹き男の逸話を知らないものは少ないだろう。それはかのグリム兄弟を含む複数の作者によって記述された民間伝承である。かの物語は1284年6月6日に生じたと『される』ドイツの街ハーメルンの災厄を伝えるものであった。
「ハーメルンの笛吹き男ね……約束を破った方もどうかとは思うけど」
「……ま、因果応報とは言えやり過ぎと言えばやり過ぎではある」
『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)が呟き、 『痛みを分かち合う者』街多米 生佐目(BNE004013)が応える。研究者然とした綺沙羅は相変わらず年齢不相応の雰囲気で、生佐目はと言えば口調さえ定まらないのも何時もの事であった。リベリスタ達はその実、目の前に存在する手足の異常に細長く人間らしくはない『ピエロのようなもの』が八百年程前の神秘史に名を刻んだ『本物』なのかどうかを知らない。否、より厳密に言うならば現代まで伝わる『ハーメルンの悲劇』それそのものが実話なのかどうかを知らなかった。
 しかして……
「子供に退化されるとはやっかいなのです!」
『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が口にした一言はほぼ全ての状況を伝えていた。
 この日、この夜、この野原(ばしょ)に――現れたアザーバイドは確かに『生物を子供に変える能力を持った笛吹き男』だったのである。実に単純な連想だが本部がこれに『ハーメルン』のコードを与えたのは全く納得のいく命名だったと言えるだろうか――
「困ったのです。困ったのです。
 そあらさんの大人の魅力が損なわれたらさおりんもしょんぼりするにちがいないのです。
 でもさおりんの子供姿はちょっと見てみたいかもです。きっと可愛いに違いないのです。さおりん(*´ω`*)」
「コドモになっちゃうのかぁ……でも、一般の人が死んじゃうワケじゃないんだよね?
 それじゃもし万一被害が出ても……ハッ!
 パパまで子供にされちゃったら、いつもみたいに甘えられなくなっちゃう!
 ヤダッ、そんなの絶対ダメーっ! 絶対、絶対にダメだから!」
 ……その身をくねくねとくねらせるそあら、青くなったり赤くなったり忙しい『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)を見てか。見てなのかどうかは定かでは無いが――極彩色を纏うピエロは人間には発せられない音と共に笑うような仕草をした。何とも不気味な、何とも奇妙な。尤も――彼に、ジェスター・ハーメルンに張り付く仮面は元より笑顔のままなのだが。
「なーんか気持ち悪い相手ッスね……こう、生理的に『来る』って言うか」
 敵を見てなのか、子供時代を思い出してなのか。眉を顰めた『レッツゴー!インヤンマスター』九曜 計都(BNE003026)の口調は緩く朗らかでいい加減な彼女にしては何処か忌避感が強かった。
 直接的な恐怖が強い相手ではない。血の臭いはそこには無い。
 しかし、そこには肌を自然の内に汗ばませる、この六月の空気のような不快感ばかりが蟠っていた。
 目の前に居るのは掛け値なしに強力なアザーバイドなのだ。
 その能力のベクトルが単純な破壊に向かわなかったのが幸か不幸かは知れないが――
「桃子さん、桃子さん」
「何ですか!」
 ――ピエロがゆらゆらと揺れている。
 緊迫感を増し始めた光景で『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)が傍らの『清廉漆黒』桃子・エインズワース (nBNE000014)に声を掛けた。
「真面目にやってさっさと終わらせて美味しい物でも食べに行きませう。だから真面目にやるのだわ!」
「! 真面目にやって美味しいえなちゃんを食べるのです!」
「それは美味しくないのだわ……」
 如何にもトリックスターめいた桃子に釘を刺す意図で言ったエナーシアが早速><。となっている。
 果たして彼女の危惧(?)は賢明で――ニコニコと笑う御機嫌な桃子に「はいはい!」と元気良く挙手をしたキンバレイ・ハルゼー(BNE004455)が駆け寄り、持参した父の手紙を開けばそれはより明らかになった。
「えーっと……淫乱ピンク宛? ファッキンBBAの全部ゆるゆるクソ女……引き締まったバストと豊満なウエストを誇る身体にピンクの服とか痛すぎwwww……なんでしょう、こ――」

 スパァァァァァン、とかいい音がする。

 カチ上げた見事なアッパーに少女の体が宙を舞う。
「は、背景に宇宙とか般若とか見えたのです……」
 フェイト復活を果たしたキンバレイは『意味も分からないまま』涙目でのそのそと起き上がり、意味も無い内にパーティは損耗を確定させた。
「おのれ、許すまじ。ピエロ!」
「恐ろしい敵ですね。戦う前に既に被害を撒いているなんて」
 桃子の言葉に視線を『ツイッ』と逸らした『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が自社・大御堂重工で懇意にしている二人の暴挙を無かった事にして綺麗に纏めた。大凡幼少時より帝王学を叩き込まれ、その王道を行く彼女ではあるのだが――野生動物的直感と言おうか、桃子はヤバイ。
「色々面倒なので腹黒ピンクはエナーシアさんに任せたのです。
 むしろピエロの腹に一発入れて追い返してほしいのです……」
「ね。腹黒ピンク姉貴はすぐボコボコにしにくるからね、危ないし……大いに、ね?」
 呆れたようなそあらにこの後の対策で首から何枚もの厚紙をぶら下げる生佐目が答えた。
 彼女が幼い自分に向けるメッセージは「おさめ は Bはん で まえにいる」、「とりあえず ぶっぱなせ」、「しゅうちゅうしてから すけふぃんとん ぶっぱなせ」、「なんでもいいから ぶっぱなせ」、「こうえい を まもれ」、「といれにいきたくなったら いけ」。ここまではいいのかどうなのかそして最後に「ももこには てをだすな」。賢明である。
「うんうん、忘れないようにちゃんとしないと!」
「すごいいろのピエロはわるいやつだから、やっつける!」、「キスこうげき(メルティーキス)、いとでぐるぐるこうげき(デッドリー・ギャロップ)でやっつける!」。真剣な顔で頷いた真独楽も似た工夫で『子供になった後』の対策を考えていた。
 ともあれ、お遊びはこの辺りまでである。
 漫才に手を叩いてたピエロも――これ以上の猶予をリベリスタ達に与える心算は無いらしい。

 ケケケケケケケケケケ……!

 リベリスタ達の言葉を機械的に真似たかのように今度は少し――人間に似た声で笑う。
 手にした魔笛が怪しい音色を奏でれば、緩い空気も異界へと変わり果ててしまうのだろう。
 それでも笑みを浮かべた『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)はあくまで涼やかに余裕めいている。
「ハーメルンの笛吹きさん。生憎と貴方の出番はありません。
 この私をかどわかそうと仰るのなら――そうですね。
 ツヴァイヘンダーの似合う筋骨隆々の偉丈夫(夫! らぶ!)になってから出直してきなさいな――」

●ひらがな
 Before

 チャイルド・プレイの効果範囲は不明ですけれど。
 大人の魅力溢れるそあらさんに効果あるかしら? ゜+.(*'ω')゜+.゜←フラグ

 After

 おなかすいたですぅ! ねむたいですぅ! つかれたですぅ! めんどくさいですぅ!


 そあらさんが何時にもまして駄目になった戦場に笛の音が響いている。
 そあらさんが何時にもまして駄目になった戦場に魔性を秘めた音が木霊している。
 そあらさんが何時にもまして駄目なのは郷愁を誘う音の所為である。
「いちごがたべたくなってきたのですぅ! さおりん!」←どうぶつ
 それはそあらさんを破滅の淵(いちごどろぼう)に引き込まんとするかのような魅惑の音であった。
 ……子供とは酷く不安定で、酷く調子に乗り易く、酷くgdgdなものである。
 人は大人になるまでの過程で本能めいた感情をやがて制御する術を身につけるものだから――
「うー、こどもみたいなすがたに……めんどくさいあいてですわね。
 かまいませんわ。わたくしあいてならこのくらいのはんではさしあげませんと!
 でもざんねん。せいとうなるおおみどうのちをつぐこのわたくしはようしょうのころよりえらばれたそんざいでしたの。なのであなたのはいぼくはどっちにしてもきまってるようなもんですわ!」
 ――専属のメイドに『今よりもっとクソガキだった』と言わしめる彩花(幼女)が、始まった異常状況にまずしょうもない高笑いを上げているのはある意味で何の不思議も無い事だったのかも知れない。
「おおみどーのしゃっちょーさんこわい、こわい……」
「おあにくさま! どっこいこれがげんじつですわ! あーっはっはっはっはっはっは!」
 ……冷静に考えるとコレをあそこまで矯正したなら何気にメイド教育出来てたのかも知んない。
 十歳時でも彩花に萎縮する事もあるキンバレイである。四歳モードなら泣くしかない。
「あ、でもからだがかるいですー」
 軽いのは胸だ。キンバレイ。十歳で肩こりもどうなんだ、キンバレイ。
「くらいし! ぴえろこわいし! もうやだ、やだよぅ」
「……ほわ? ほわわ?」
「ふえ~ん! ぱぱどこぉ? かえりたいよぉ……」
 表情を良く変わる夏の天気のように曇らせた真独楽にスピカが小首を傾げた。
「でも、きれいなおと」
 良く言えばのんびりほんわか、悪く言えば綿毛のように何処に飛んでいくか分からない。
 ぶかぶかの服を引きずり、小さな体にやや見合わないドルチェ・ファンタズマを携えるスピカはと言えば『綺麗な音色』を奏でるピエロに何ら屈託無く新雪のような笑顔を向けて告げる。
「――ぴえろさんのおふえ、きれいなおと。わたこもおうたひけるの、いっしょにやろ?」
 小題は――まさに沈痛な状況を物語っていると言えるだろう。
 ジェスター・ハーメルンの魔力が満ちれば戦場はまるで幼稚園にその姿を変えていた。
 鋼の意志を持って三千世界の鴉を殺すリベリスタと言えど、遥かな――或いは暫く前の時間においては他と変わらない子供だった時期もあるのだから。それは当然と言えば当然の結論だったのである。
「――――」
 綺沙羅は次にどうなるのか。
 その問いに返った答えは『ガチ無表情』であった。
(おおきいの こわい てき たおす。
 おなかへってない。くらくらしてない。だいじょうぶ……)
 言葉を発する事も無く、より幼い格好に姿を変えた少女は猫のようにしきりに周囲に視線を投げていた。
「もとのこどものころはあたまおかしかったですから。
 こどもっぽいふるまいをするのはけいけんがないのです」
 丁度現在から縮尺を縮めたかのようなエナーシアが不思議そうに自分と周囲を眺めていた。
「これがこどものきぶんなのです。じっさい、はじめてのかんかくかもしれないのだわ」
 成る程、さもありなん。『銃火器の祝福』は幼い頃から『子供らしい生活』からは逸脱していた。自己のパーソナリティーとして『一般人』を強調する彼女ではあるが、それは間違いない。逆を言えばそれが故に『一般』に憧れる節もあるのか、無いのか。少なくとも『天使のようなビジュアルで死神のような凶手であった』彼女にとってみれば――チャイルド・プレイ、即ちピエロの能力の作り出した泡沫の夢は何処か違和感のあるものだったのかも知れなかった。
「うふふ、いつもとかわらないのです。えなちゃんがかわいい!」
「うぎぎ、さんざんあれこれかかれたあげく……
 たぶん、これはけっきょくももこさんがそれをいいたいためだけのまえふりだったのだわ……」
「われらは、きばなきひとのやいばなり。
 ひとのよにあだなすばけもの。わがなすべきは、きさまをきることだ!」
 ……中には幼い頃の環境、教育方針と幼い頃の本人が今より余程リベリスタ風味に蘇ってしまった計都のような例外も居るが。苦虫を噛み潰したような顔をする可愛気の無い幼女が実はたった今、難しい台詞に舌を噛み、微妙に涙目になっている事を知っているのは俺だけでいい。きっといい。
 大体、これだけ並べれば状況が如何に惨憺たる有様になったかはきっとご理解頂けた事と思う。
 パーティは厄介なピエロに対する為に戦力を二つに分け、挟撃するという作戦を立てていた。ピエロを中心とした片側にエナーシア、アーデルハイト、彩花、キンバレイ、そして桃子。反対側にそあら、真独楽、スピカ、計都、綺沙羅、生佐目を配したのは開始以前の出来事であった。さりとて、その作戦も『ほぼ今何処に立っているか』程度にしか機能していないのは言うまでも無い。子供達がそれぞれのサイドでそれぞれの自己主張をしているだけなのだから、それは当然と言うべきかそうなるのもむべなるかな。
「とにかくすけふぃんとん、すけすけぇ!
 わからなくなったら、もうとにかくしようできるものをばかすか!
 だいじょうぶだいじょうぶ、みんなじょうぶだししなないしなない!」
 ――多大なる問題は敢えて見ない事にしよう。
 何故ならば、そこに横たわる他の諸問題は何時までたっても話が進まない迷宮だからである。
「へいきへいき、はい、よろしくぅ!」
 酷ぇ状況にまず鏑矢を打ち込んだのは大概の人の予想を外したダークホース、予想外の生佐目であった。
 それはメモのお陰か。俺の都合か!
 縮んだ身長と短くなった手足が(幸いな事に)ピエロを拷問の箱に閉じ込めんと異能を発揮した。
 ピョン、と跳ねて見せたピエロはこれを嘲り笑うかのように軽く避けて見せたが――生佐目の踏み出した一歩は彼女にとっては唯の小さな一歩でも、お話の収拾をつける為にはまさに大いなる一歩であると言えた。
「このろりこんめ。じゃがいもばたけのこやしにしてやろうか」
 服がずり落ちたから、つけてないしはいてない。
 人形のようなお嬢様が――月に映える銀色の少女からお父様直伝の強烈な悪態が滑り落ちた。元ドイツ国防軍陸軍軍人、質実剛健にして威厳ある父親は娘に『対変質者』の対応を伝授すると共にその妻に酷く叱られていた事実がある。
 考えてみれば幼女ばかりの依頼であった。
「えへへ、おんなのこだもん」
 真独楽もさ。もう女の子でもいいじゃないか? な?
 言われてみれば幼女ばかりのこれは楽園か何かのようで居て、でもエリートロリコンじゃないやみは少女の方がこうストライクなんだけど、幼女は幼女で微笑ましくて、ひらがなフェチだからひらがな一杯かけて楽しいなあ!
「そあらさんはさおりんにふさわしいおとなのれでぃなのです」←幼稚園児によくある主張
 いぇあ! 幼女ばかりだ!
 遅ればせながら悪性神秘を撃滅する事に使命感を帯びる幼女達は碌に戦闘をする気がないように見えるピエロを攻め始めていた。本来の彼女等の力からは遠く及ばず、しかし元よりそれは分かっている事だ。
 何が何でも、体が子供でも、こんなものとても野放しにする訳にはいかない。間違いない。
「さあ、おどりましょう」
 幾度と無く繰り返した決め台詞は月の下。アーデルハイトは魔術を紡ぐ。
「つちとなるまで、はいとなるまで、ちりとなるま――あっ」
 ……紡ぎかけてファンブルして(コケて)涙目になる。
「ふええ……ごめんなさい、おかあさま。せっかくおしえてくださったのに……」
 あ、あああ……
「ふえ、ふぇぇ……ふぇ、うわああああああああん! おかあさまぁ……!」
 ……………リベリスタの苦戦は約束された未来であった。

●ハーメルン
「いぇーあい! ちょっとといれいってくる!」←メモ通り
 奇声を上げる生佐目のテンションに構う者は無い。
「はやくもとにもどせです! もどさないとまぢっくあろーでこうげきしてやるです!」
 犬歯を剥き出したそあらが低い唸り声を上げていた。
「わたしは、きぞくできゅうけつきでおよめさんでおかあさんなのです。くじけるわけにはまいりません!」
 舌足らずながら凛然と声を張ったアーデルハイトは子供に身をやつしてもやはり彼女のままだった。
「さぁ、もにかぶっころしてやりなさい。もにか!
 ちょっとなんでもにかいないのよー! こんどこそくびだくびだくびだ! くびですわー!」
 公私に頼り切るモニカが居ない彩花はと言えばそんな風に悪態を吐きながらも、ぶちぶちと文句を言いながら取り敢えず(腹いせとかも含めて)ピエロをぽかぽかと叩いていた。
「なんだかきれい……あ、ぴえろはわるいからやっつけなきゃだった!」
 闇夜に踊る技の煌きに目を奪われかけながらも――真独楽も用意したメモに気を入れ直す。
「きゃー、まえのみんながばたばたしてる! えーとね、えーとね、たしか、おうた!
 みんなとてをとって、ぱれーどのおうたをうたいましょ。きょうはたのしいぱれーどだから♪」
 スピカの愛らしい声は戦場(?)に活力の歌を奏で、
「かいふくーかいふくー」
 キンバレイは日曜の朝の魔法少女のノリでポーズを決めながら仲間を支援している。支援だ、多分。
(ちかい こわい。こおにきて……いっしょに、いて)
 不安そうにした綺沙羅が恐怖の眼差しを送るのは言わずと知れたピエロであり、背後で「わたしをまもるのです」と偉そうにふんぞり返る桃色の悪魔だった。
「こうしてるとあんしんする……」
 召還した鬼人を小さな胸に抱きしめ少女は小さな溜息を吐き出した。

 ――計都よ。戦いに決して油断をする事勿れ。唯、宿曜師が一族『九曜』の勤めを果たすべし。

「ち、ちちうえ!? しょうちいたしました!
 ぐぬぬ、はずれ……も、もうしわけございませぬ! おしおきは、かんべんくだされ!」
 戦いを前に自身の『怪盗』でアクセスファンタズムに厳格な父の声を吹き込んだ計都は予めそれが再生されるように仕掛けを組んでいた。少女はあくまで子供らしからず自虐的に自分を追い込んでいる。
 そうか、こういう少女時代の反動が今になっているんだなぁ……
 それは短いようで長く、長いようで短い時間だった。
 歴戦のリベリスタ達は何れも自分の本当の実力を発揮出来ていない。
 磨き上げられた連携も、勝利の為の戦闘論理もそこには無い。
「こどもなったからってわたくしはばかじゃありませんの。
 からだもあたまもこどもれべるになることはわかっていましたから。
 けれどもかわらないことはありますわ。うまれながらにしてそなえたこのそんざいかん、そしてかりすませいは! こどもといえどそこなわれない。かくせるものではないのです。
 ……え? なんのいみがあるかって? つ、つよそうにみえるでしょう!」
 のたまう彩花の小さな手がピエロの身体を掴めない。
(おおきいの つよいのに てじな……ずるい)
 イリュージョンで分身したピエロに綺沙羅が口をへの字に曲げて呟いた。
 だだっこのように「ずるい、ずるい」とポカポカやる彼女の『ブレイク』にピエロの姿が一つに戻る。
 のらりくらりと子供達をからかい、時に痛めつける――『彼』は何処までも余裕めいていた。
 子供達は何時でも必死である。
 子供達は子供にしか見えない世界を、子供の背の高さで見つめている。
「なにしに きたの?」
 勇気を振り絞って綺沙羅は言った。しかしそれは応えない。
 奇妙なるピエロは単純に子供が好きなのか。それとも邪悪な意志が存在するのか。それをアザーバイドらしい視点で見ているだけのか。意思の疎通の無い今夜の状況にそれを確認する事は出来ないが――

 ――ケケケケケケケケケケケカ!

 頭をカクカクと揺らし、妙な声を上げたピエロが笛で宙をなぞると世界がそれだけで引き歪む。
 外界とこの世界を繋ぐ穴は不安定に揺れながら尚もポカポカとピエロを叩くリベリスタ達を覗き込んでいた。
 ――ハーメルンの笛吹き男、その逸話が最後に示すのは子供達の消失である。
 パレイドの笛の音は子供達を夢幻の甘美に誘い掛ける。
「いけない!」
 スピカが咄嗟に耳を塞ぎかかるが、それで防げる程にハーメルンの呪いは甘くない。
 踊るようにステップを踏んだピエロはそあら、真独楽、スピカ、計都、綺沙羅、生佐目を唯の一吹きで魅了して――『遥かな物語(はっぴゃくねんまえのひげき)』なぞろうとしたかに見えた。
 しかし。
「じゅうのこわさはとおくのふくすうのあいてをうてることじゃあないのです」
 悪趣味な冗句に塗れた夜に、悲劇を繰り返させない――『子供(エナーシア)』の言葉は静かに響く。
「ようじでもだいのおとなをころしうる、さつがいのよういさこそがほんしつなのですよ。
 おゆうぎしませう、ふえふきさん。わたしはこどもでしかないけれど、あなたのやくはまとのひと」
 PDWが火を噴けば――エナーシアの体は面白い位に反動でブレた。
「ぶれすゆー。このせかいのこどもは、わりとこわいものなのですよ?」
 それでも彼女の一撃は、彼女が口にした通りの意味を持っていた。銃(クリティカル)は悪夢(ファンブル)を孕み、さりとて時に格上(おとな)に手痛い傷を刻む。それも酷く容易に、だ。
 銃弾は有無を言わせない。『銃火器の祝福』は敵の能力を選ばない。(選ばないからたまにJAMる)
 硬質の音が響き、ピエロの仮面がはぜ割れた。仮面に見えるそれはその実アザーバイドの一部なのかも知れなかった。顔を抑えるようにしたそれは穴の中へと飛び込んで、空間の歪みはそのまま――魅了されたリベリスタ達を飲み込むより先に口を閉じた。
「みなさま、ごぶじですか!」
 子供の時分の方が余程真面目な計都が我に返り状況を確認する。
「……きらい……」
 鬼人を抱いたままの綺沙羅が拗ねたように唇を尖らせ、
「ばかあ! あたしをつれさっていいのはさおりんだけなのですぅ!」
 そあらはぷりぷりと怒った顔で地団駄を踏んでいた。
 アザーバイドの去った辺りに残るのは嘘のような静けさだけ――
「え、えっと、やっつけ……た? やったぁ!」
 真独楽が不安そうに言ってから――歓声を上げた。
 紙一重危険を回避したリベリスタ達に人心地が戻ってくる。今の――子供の心のままでは或いは状況を正しく把握するのは難しいかも知れないが、本当に危ない所だったのは明白であった。
「それにしても……えなーしあさんはあまりおかわりありませんでしたわね!」
 普段より高飛車に仰られる彩花おぜうさま(ロリ)が殊勲打を加えたエナーシアに言葉を投げた。
 確かに彼女の言う通り。個人差こそあれ、今夜は誰もが『子供』なのだがエナーシアは比較的エナーシアのままである。
 彩花のふとした疑問に胸を張ったのは桃子であった。
「とうぜんなのです」
「しっているのですか、らい……ももこさん!」
 アーデルハイトが妙に乗り、桃子は当然とばかりに言い切った。
「えなちゃんはいつもふだんからにじゅうよんさいじなのです」
「うぎぎぎぎ……」
 六月の夜にエナーシアの><。が浮かんで消えた……

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 YAMIDEITEIっす。

 何気に洒落にならない誘拐未遂。
 MVPはシナリオに合致した台詞が非常に映えた為。
 後、能力が敵にあっていた為。

 シナリオ、お疲れ様でした。