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<鉄十字猟犬>Minen falle

●鉄錆雷光
 その日、彼らの潜伏する雑居ビルに一本の電話が鳴り響いた。
「はい、はい……了解しました。ではその様な段取りで」
「何だどうした。俺にも分かる様に説明せよカァァァル!タイムリミットは10秒だ」
「Jowohl 襲撃の準備が整った様です」
 古びたソファーに腰掛けていた巨漢が、副官のその報告に目を耀かせる。
 凡そ70年と言う月日は決して短い物ではなかった。
 心折れ離れて行った同志も決して少なくは無い。
 けれど遂に来たのだ。過ちを取り返す時が。敗北と言う歴史を塗り替える瞬間が。
「ハ、ハッハハハハハハ! そうか! いよいよか!
 劣等同士の諍いに干渉する等趣味ではないが、これも戦の業。結構! 至って結構!」
 呵呵大笑する巨漢に対し、副官は沈黙を保つ。一日千秋の思い等彼にはない。
 彼は放っておくと何所へ噛み付くか分からない狂犬の鎖だ。
 その忠誠は恩義ある猟犬の長へと向けられているが、戦いその物は作業でしかない。
「ならば始めよう。復讐を! 逆撃を! 美しくも華々しい正しき血と鉄色の結末を!」
「Jowohl」
 故に、その問答は轟々と、淡々と。遠来の如く鳴り響く。
 
 血に飢えた犬と血に飽いた犬、果たしてそのどちらが狂っているのか。
 錆付いた時代の遺物。かつて熱砂の戦場を電撃の如く駆け抜けた狂信者達。
 鉄十字の猟犬が動き出す。

●猟犬を噛む窮鼠
「あるフィクサードチームを討伐に向かわせた班が『親衛隊』に挟撃されてる」
 何所か焦りの色を瞳に滲ませ、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が告げる。
 しかしさにあらん。モニターに表示された“近い将来訪れる未来”は鮮血色に染められていた。
 はられた罠に掛かったと気付き、救出チームを召集するまでの数十分。
 刻一刻と状況の悪化を示していたカレイドシステムの演算は、既に生存者0を示している。
 このままであれば、1つのリベリスタチームが全滅する事は免れない。
「大至急現場に向かって欲しい」
 それでも、今であれば未だ間に合う。最短で現場に到着したならばその時点の生存者は4名。
 既にチームが半減していると言う状況は凄惨以外の何物でもない。
 けれど救える。まだ最悪の事態には至っていない。
「相手は……正真正銘の軍人。油断していた心算は無いんだけど……」
 主流七派の情報網。日本に於いて根付いたそれは額面以上の脅威で有ったと言う事。
 『楽団』と『親衛隊』が同列に並ぶ物であるならば、その精細を分けているのは地の利に他ならない。
「油断しないで。皆、どうか無事で」
 そう言って、きっと送り出したのだろう。彼らも、彼女らも。
 其処に確かに帰れない人間が数えられる事から目を逸らさす事無く、
 イヴはけれど敢えてその言葉と共にリベリスタを送り出す。
 
 運命を従える道を選んだ以上は――例えその道程が、血塗られた物であるのだとしても。

●狂犬の盤上
「――な、なんだ!?」
 簡単な、仕事の筈だった。
 イヴの言葉に、心配性だと笑いあったのはほんの数時間前の話。
 主流七派『六道』に属している可能性が高いと聞いては居たものの、相手は末端も末端だ。
 8人ものリベリスタを動員して失敗する事があるとは、到底考えられない。
 少なくとも――襲撃を受けた瞬間の彼は、そう考えていた。
 視界を焼き尽くす光と音がその身を包み込む、その瞬間までは。
「ギャッハハハハハ、御機嫌よう東方の劣等共! 疾く潔く死ねリミットタイムは1分だっ!」
「アイゼンベルク准尉、その割に日本語お上手ですね」
 突然飛び出した金髪の巨漢とその影に立つ黒髪の目立たない男は、
 まるで雑談の延長線の様にそんな言葉を交わし合う。
 けれど、彼らと共に一気に浸透して来た4人の軍服の男達の動きは無駄無く迅速だ。
 浮き足立ったリベリスタ達は完全に機先を制されていた。
 一方で、追い詰めていた筈の『恐山』達はこれを計っていたかの様に息を吹き返す。
「はっ、猿が使える言語を選ばれしアーリア人が取得出来ない理由があるまいカァァァル!
 御託は良いからその辺の糞蟲共をさっさと除菌洗浄せよっ! 復唱オオオォっ!」
「Jowohl Herr Stabsfeldwebel! 黄色い猿共を地球上から速やかに除去します!」
 銃声が響く度に爆ぜる様に散る赤い赤い命の水。

「さ、散開っ! 傷ついた奴は回復を!」
「わ、わかった! ……えっ」
 それでも、足掻いたのだ。彼らとて。彼女らとて必死に。
 けれど、癒しの旋律は。十字の加護は、勝利の女神は、まるでそんな姿を嘲笑うかの様に。
「駄目! 治らない、何で!?」
「く、来るな! 来るなぁっ!」
「――――ク、クフフフフ。ガハハハハハハハハ! 流石は劣等ォ! 無様ッ! 何たる無様ァッ!!
 見ろカァァァル! 血の優劣も解さぬ猿共が実に滑稽に踊って居るぞ! ギャハハハハハハハ!!!」 
 それは戦いではなく、ただの蹂躙だ。一方的だった。一人倒れ、二人倒れ。三人倒れ。

 けれど――死に物狂いで稼いだ十数分。その時間が運命を歪める。
 ここで終わる程にはアークも――リベリスタ達もまた、甘くは無かったのだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:弓月 蒼  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月17日(月)23:42
 84度目まして、シリアス&ダーク系STを目指してます弓月 蒼です。
 戦況は初っ端から非常に不利です。御健闘下さい。以下詳細

●作戦成功条件
 敵過半数(6名)の撃破or『親衛隊』の撤収

●作戦失敗条件
 救出対象の全滅or救出隊1名以上の死亡
(※上記が満たされた場合でも成功条件を満たせば成功と判定されます)

●『親衛隊』
・『鉄錆雷光』ヴェンツェル・アイゼンベルク
 階級は准尉。WW2からの残留組。短金髪の巨漢。
 優良人種たるアーリア人が世界を管理運営する事が世界平和の為。 
 と、真っ向切って信じこんでいる典型的第三帝国軍人。口が悪く脳筋。
 物神両用の火力特化デュランダル+スターサジタリー。
 活性スキルはハニーコムガトリング。
 及びアルティメットキャノンまで判明している。
 彼が健在の場合、『親衛隊』は半数が戦闘不能になった時点で撤収する。

・破界器『轟雷火砲』
 ブリッツェンカノーネ。『鉄錆雷光』の所有する大型のアームキャノン。
 全てのスキルに状態異常[雷陣]を追加する。
 また、大型の自爆装置が設置されており、これを起爆する事で
 領域範囲に物理属性の大ダメージを与える。装置の起動には手番を消費する。

・『狂犬番』カール・ブロックマイアー
 階級は上級曹長。WW2からの残留組。黒髪黒目の目立たない男。
 リヒャルトに拾われた恩を返す為に従軍している変わり者。
 指揮官の肌の後衛型レイザータクト。
 活性スキルはオフェンサードクトリン
 及びシャイニングウィザードのみ判明している。
 彼が健在の場合、『親衛隊』はヴェンツェルが戦闘不能になった時点で撤収する。

・破界器『ビスバルトの砂時計』
 『狂犬番』の所有する砂時計の埋め込まれたペンダント。
 所有者の視界内で回復スキル、状態異常回復スキルが使用された場合、
 該当スキルと同量のEPを消費する事でスキルの効果の発揮を遅延させることが出来る。
 遅延するターンは1~3ターンの間でランダムで選ばれる。
 この効果はビスバルトの砂時計の所有者が戦闘可能である限り永続する。

・親衛隊員×4
 『親衛隊』の正規メンバー。クロスイージス×2、マグメイガス×2。
 ランク2までのスキルとLv30スキルを1つ活性化しており、錬度は高い。

●『六道』
・麻薬販売人×4
 六道の末端の末端に属しているらしい白い粉の販売人達。
 クラスは全員クリミナルスタア。Lv10程のメンバーで構成されている。

●救出対象
・アークのリベリスタ×4
 六道の麻薬販売人を捕縛する為に派遣されたリベリスタ達。
 半数が死亡しており、残り半数もHP、EPは半分程。
 Lv10程のメンバーで構成されており、
 クラスはソードミラージュ×2、ホーリーメイガス、ミステラン。

●戦闘予定地点
 小都市の裏路地。閑散としており人通りは皆無に等しい。
 光源は電灯のみ有。余り明るいとは言い難く20mも離れると顔が見えない。
 足場は良好。障害物などは特に無い。路地の幅は4人がすれ違える程度。
 救援対象のリベリスタ達は前方を『六道』とヴェンツェル。
 後方を『親衛隊』の隊員とカールに囲まれており、
 前方からでも後方からでも救出に向かう事は可能です。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
スターサジタリー
桐月院・七海(BNE001250)
クロスイージス
ツァイン・ウォーレス(BNE001520)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
ソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)
ミステラン
ルナ・グランツ(BNE004339)

●狂犬のやり方
「こ、のッ! しぶといしか能の無い蛆蟲共がァァァァァ――ッ!!」
 金髪の巨漢に蹴り上げられた戦友が血反吐を吐いて転がる。瞳には既に光が無い。
 誰もがそうだ。もうだめだ。もう無理だ。諦観が胸を満たす。やるだけは、やった。仕方ない。
 倒れたまま目蓋を、意識を閉じようと――そう考えた男の視界の中、まるで脈絡は無く彼は居た。
「如何にも。こうにも――――喰いたりぬ」
 赤と黒とで塗り分けられた仮面。両の手には赤い短剣と鋼の太刀。肌に張り付いた暗色のボディスーツ。
 その光景が、理解出来ない。まるで道化だ。或いは奇抜極まる死神か。
「む、何だ貴様何所から紛れ込んだァッ!」
「きーきーわめくな豚。小生は畜生の言葉など解らん。耳障りだ」
 巨漢の男、ヴェンツェルの声に一瞥すら投げず駆け込んで来たその人影――
 『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)の姿が残像と共に掻き消える。
「なんだこ――ぃっ!?」
「がっ、ひっ!」
 『六道』の末端達が切り裂かれて行く。引き裂かれて行く。
 それは冗談の様な光景だ。数秒前まで自分達を一方的に蹂躙していた者が瞬く間に血に塗れて行く。
 流れる様な剣戟は一つ大きな音を奏で、止まる。
「ハッ、ハハハハハハハハハァ――! 雑魚ばかりかと思えば漸く掛かったか『箱舟』とやらよォッ!」
 業物を受け止める冗談の様に重厚な砲身。黒鉄色に光るそれが途方も無く頑丈である事に疑いは無い。
 傷付き呻く『六道』らを余所に、ヴェンツェルは犬歯を剥き出しに嘲う。
 がしゃんと、重苦しい何かが装填される音に、けれど反応したのはその場の誰でも無い。
「遅くなって御免。よく頑張ったね……」
 駆け込んだ2つ目の影は、傷付き倒れる寸前の仲間達を庇う様に。
 それを見て安心したかの様に、男は意識を手放した。

 改めて、周囲を見遣れば屍。失われた命は戻らない。それは仲間だった人達の筈で。
 慣れてしまった鉄の香りに唇を引き絞る。どうしようも無い犠牲。目を逸らす事は出来ない。
 けれどそれでも。それでも――だからこそ。
「もう誰も奪わせないから。お姉ちゃんたちが、守るからっ!」
 『月奏』ルナ・グランツ(BNE004339)の放った光り輝く火炎弾は、既に砲撃だ。
 全力で防御を硬めた『六道』のフィクサード達が面白いほどに吹き飛んで行く。
 命を落とす者こそ居なかった物の、彼らは既に満身創痍。
 唯一人。その攻撃対象から外された巨漢を残して。
「救出、は任せた……」
 たん、と3つ目の影は壁を足場に舞い降りる。その姿形は可憐と形容されても相違無い。
 けれど爛と輝き鋭く細められたその眼は、風貌や印象を裏切って余りある。
「細かい事、はいい……踊って、くれる?」
 『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ)』星川・天乃(BNE000016)。
 アークでも生粋の武闘派である彼女の言葉に。至近距離から繰り出された無数の気糸に。
 けれど直撃を受けて尚、巨漢は牙を剥いて声を殺す。手応えが妙だ。護りを固めている。
 天乃の眉が怪訝と寄せられる――何かボタンを掛け違えた様な、違和感。
「全力防御して耐えろ、もう少しの辛抱だ!」
 神を頼らず、望まず、厭う吸血鬼の祈りはまるで計ったかの様に霧散する。
「カァァァァアル! 精神力対決いっくぜー!!」
 『殴りホリメ』霧島 俊介(BNE000082)はその奇妙極まる感触に顔を顰める。
 普段ならば、彼の力は今にも倒れそうな戦友達を癒した筈だ。救った筈だ。救えた、筈だ。
 その結末が遅延している。そう、この戦場はそう言う物。
 視線の先。そっと佇む黒尽くめの男。無個性としか表現の出来ない男へと、彼は不敵を演じて笑む。

「勤勉であること自体は否定しませんが、方向性によっては迷惑でしかない、の典型ですね……!」
「ごきげん麗しゅう、アークの追加オーダーおまたせ!」
 『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)、そして『童貞ネバーギブアップ!』御厨・夏栖斗(BNE000004)
 好対照な2人が続けて戦場に駆け込むと、いよいよ以って場は混沌さを増す。 
 中央にヴェンツェルを、各所に六道を、そして救助すべきリベリスタとその屍を配す以上、
 6人も踏み込めば場は狭過ぎると言って良い。
「ですがこれ以上、邪魔はさせません!」
 回転と共に風を逆巻く白鳥の刃。
 爆ぜる様に空間を引き裂く烈風の刃は虫の息の六道を、ヴェンツェルを。
 そして当然の様にいりすと天乃をも巻き込む。
 元より余力の無い相手だ。動き出す前に封殺する。間違いではないだろう。
 だが狭い戦場、乱戦に於いて烈風陣に味方を巻き込まないと言う選択肢は凡そ存在しない。
 物言わぬ屍となった六道に一瞥を繰れる事も無く、庇う様に巨漢へ夏栖斗が立ち塞がる。
「生きててよかった、あの4人を助けれなかった悔しさは僕も分かる。でも――」
 だからこそ。彼らには生きて欲しかった。
「ヴェンツェル! てめぇが言ったタイムリミットはとっくに過ぎてンだよ! 此処からは」
 俺達が、守るのだと。
 そう続く筈の俊介の言葉を、遮ったのは割れる様な笑い。 
「く、クク、クハハ、ハハハハハハ、ギャハハハハハハハハハ!!
 いかん! 溜まらん!! 笑わせ殺す気か貴様らァ――ッ!!」
 けれど。
 けれどここまで到っても尚。彼らは“周到に仕立てられた猟犬の狙い”を外す事が出来なかった。
 
●狩猟の論理
 おかしくは無かったか。例え死に物狂いで抵抗し、全身全霊を尽くしたとして。
 力に遥かに開きの有る彼ら(リベリスタ)が、数分ならばともかくも――“十数分”もの時間を稼げる事は。
 救出する側の彼らとて同程度の力量の『六道』を狩る際こう考えたろう。鎧袖一触に出来得ると。
 それは、猟犬もまた同じ事。

「良いぞカァァァル! 殺れ!」
 彼らは撒き餌だ。
 救援を、精鋭を、誘い込む地獄の釜。
 何故これ程戦場が狭いのか。何故包囲戦で両翼の戦力が均一でないのか。
 何故指揮官が単独行動を取っているのか。何故――猟犬達はこんな戦場を仕立て上げたのか。
 不可解は、其処らに転がっていた。
 ライトニングドラグーン――猟犬の魔術師より放たれた2匹の雷龍が、
 六道も、リベリスタ達も、ヴェンツェル諸共に呑み下し、非情なまでに荒れ狂う。
 幸か不幸か。眼前で閃光が迸った瞬間、2人ははほんの僅かに出遅れていた。
 元より速度に劣るツァイン・ウォーレス(BNE001520)はともかくとして、
 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)の場合は正に偶然の産物だ。
 一瞬の遅れが全てを救った。一瞬の躊躇いが全てを奪った。
「どう、して」
 あともう少しです。掛けようと思っていたそんな言葉は意味を無くす。
 相手が初手で、一切諸共に巻き込んで来ると分かっていれば動きを変える事も出来たろう。
 少なくとも誰かは救えた筈だ。誰かは――生きて帰せた筈だ。
 過剰な火力で焼かれて果てた仲間達を前に、七海は無自覚に矢を番える。
 そうだ。戦うって言うのはこういう事だった筈だ。
 手を伸ばしても、求めても、一つ間違えればあっさりすり抜けて行く。
「――ふざけるなよ、戦争狂い共」
 歩み進める。雷龍の境界を踏み越える。射線は通る。位置も分かる。
 なら、この矢は必ず届く。
「焼却してやる」
「ッ、諦めんなぁーッ! 耐え抜いてみせろぉ!」
 其は帝釈天。神罰を司る雷神(インドラ)の矢。
 迸った轟音と共に、ツァインが駆ける。例え叶わぬ望みだと分かっていても。
 その声を届けたかった相手は、もう居ないのだと分かっていても。

「強い奴が弱い奴を、囲んで、嬲って、殺して、こんな卑怯なやり方が合理的!? ふざけんなっ!」
「合理の意味も知らぬ猿が、残念だったなァ劣等オオオォ――!」」
 引き付ける為の挑発の言葉、けれどそれも状況が異なれば意味も異なる。
 巨漢に向かって拳を握る。それはそう――夏栖斗だけでは、決して無く。
「群れねば何もできない狗かと思えば、とんだ買い被りだ」
 言葉を置き去りに親衛隊の側へ大きく踏み込む。光を帯びた残像と共に放たれたのは刺突の連撃。
 壁と言わんばかりのクロスイージスがこれを防ぐも、それはそれで好都合だ。
「虚栄心と劣等感が凝り固まっただけの、群れても何もできん、豚め」
 守っているだけで勝てはしない。豚でなく、狗でなく、餓竜に退路など有りはしない。
「後、宜しく」
 続け様に天乃が進路を変える。壁面を足場に駆け抜ける。
 雷龍の顎に蝕まれた影響は大きい。癒しが期待出来ない以上尚更に。
 この状態が続けば、或いはヴェンツェルは戦闘不能に出来るかもしれない。
 だがその頃にはリベリスタ達も間違いなく壊滅している事だろう。
 修羅場に慣れた彼女の直感は的確だ。同時に天乃は気付いていた。
 この状況を打破し得る突破口。問題の砂時計は、決して完璧では、無い。
「ね……こっち、を向いて?」
 見るからに。上から下まで黒い男だった。ひょろりと長い体躯は頑丈には到底見えない。
 背後に降り立った少女の声に、カールが表情も無く視線を向ける。
「勇気と蛮勇の違いをご存知ですか? お嬢さん」
 視界が外れれば砂時計は効果を失う。シンプルな、けれど一つの適解。
 流石に背を向けたまま対する程に愚かではなかったか。対峙した天乃が僅か頬を緩める。
「……どうだろう、ね」
 けれど立て直しの早い3人に比べ、ルナは未だ動けないでいた。
 呆然と、仲間達を背に負いながら愛用の杖を握り直す。胸が痛い。苦しい。
 目の前で誰かを失うのが嫌だった。その為にここまで来た。来た筈なのに。
 守るって、約束したのに。

「――許せない」
 彼女らフュリエの長がかつて胸に抱いた想い。それを映した様な感情が胸を満たす。
「もう誰も奪わせない」
 目の前で仲間を奪われると言う事がどういう事だったか。彼女は誰より良く知っていた。
「いつまでもやられっ放しじゃないって事を、魅せてあげるよ」
 放たれた炎の弾幕は『親衛隊』の魔術師を庇っていた護衛兵を吹き散らす。
 それは会心の精度を以って放たれた一撃。魔術の加護をも引き裂いて視界を赤く赤く染め上げる。
「いっちゃいますかツァインさん」
「ああ、行くぜ水無瀬、七さん! ガードこじ開けて攻撃ねじ込む!」
「分かりました、お供します」
 ツァインが右から、佳恋が左から、交差する様に揮われる洋剣と倭刀がマグメイガスを切り裂く。
 吹き出した鮮血をも灰燼に帰す様に雷の矢が雨よと降り注ぐ。
 喪われた物は戻らない。亡くした者は還らない。けれど、だったら尚更に。
 その命が無為でなかった事を証明する事無く、退く事など出来る筈も無い。
「畜生、ちくしょう、こそこそしやがって……」
 負けるものか。今更こんな理不尽に。好きにさせてたまるか。何とも知れない亡霊なんかの。
「アークに手を出して、タダで済むと思うなよ――!」
 祈りは此処に。砂塵に阻まれた祈りが降り注ぐ。傾いた戦況を撒き戻す。
「生、温いわァッ!」
「させねえよっ!!」
 轟音。究極の弾丸の銘は伊達ではないか。砲塔から放たれた巨大なエネルギー弾が夏栖斗を撃ち抜く。
 だが、彼のしぶとさもまた“尋常”では無かった。
 吹き飛ばされても舞い戻る。続け様に放たれた雷の龍に巻き込まれても膝を折る気配も無い。
 瞠目すべき耐久力。それこそは彼が望み続けた、守る為の力であればこそ。
「皆、避けろよ――!」
 ならば尚更に。手から毀れ落ちる物を想うその心中は鉄であれ、鋼には未だ遠く。
 虚空を切り裂く襲撃は親衛隊の魔術師に鮮血の花を刻み込む。
 
●鉄と血と砂と
「そんな……倒れて、なんか……いられない、のに……」
 永遠の様な1分を超え。体力的に最も劣るフュリエの少女が倒れ伏す。
 戦況は泥仕合の体を擁していた。その理由の最たる部分が過度の火力分散だ。
 危惧の通り、『親衛隊』は攻撃を魔術師に任せ回復をラグナロクに頼って来た。
 これを解除すべくルナが単騎で奮戦するも、魔術師が庇われて居る為に折角の火力が生かし切れない。
 一方で天乃がカールの側に回った為、動きの速いいりすはクロスイージスを叩かざるを得ず、
 これを引き剥がした後にツァイン、佳恋がマグメイガスに畳み掛けるも余りに時間を喰い過ぎた。
 3度目の雷龍とヴェンツェルの蜂の巣の散弾に食い散らかされルナが倒れ、
 カール諸共回復圏外に位置していた天乃がシャイニングウィザードで動きを鈍らされると、
 『親衛隊』もリベリスタも決定打を欠いたまま時間だけが経過していく。
 汚泥でのたうつ様な戦い。けれど、終わりは必ずやって来る。
「お前達は小生に破界器を供給するだけの家畜なのだから。黙って消えろ」
 光芒一閃。いりすの揮った刃が続けざまに鎧を貫くと、1人のクロスイージスが膝を付く。
 他方、振り下ろされたツァインの刃が庇う者を喪った親衛隊の聖戦の守護を掻き消すと、
 其処に叩き込まれた佳恋の極大の一撃がやはり1人の命脈を絶つ。崩れた一角が『狂犬番』を露出させる。
「これで、どうです!」
「カズト、攻撃にまわれ!お前の火力で――」
 押し切り、押し通す。半ば強行突破にも等しい最大火力の連発。後一押しと言う好機。
 しかし、その代価は決して小さい物ではなかった。
「見ろよ――劣等は、劣等なりに牙があるんだぜ」
 突き刺さった拳は深く。巨漢の軍服に大きな傷跡を残す。
 最前線で戦っていたツァインらの死角で行われていた戦い。
 一人の少年と一匹の猟犬の一騎打ちは、火力と頑丈さ、その極点のぶつかり合いと言えた。
 打ち込まれた拳、放たれた砲撃の数を数える事すら無意味だろう。
 そのどれもが並の覚醒者であれば2手もあれば倒れ伏す代物であれば――
「だが、所詮劣等は劣等よォ――ッ!」
 もう1度を受けきることは叶わない。余力の全てを削り取られ拳は地に落ちる。

 それでも、彼は倒れなかった。
 それでも、彼は負けを認めはしなかった。
 運命を削り、命を削り、尚膝を付き、それでも。それでも――屍の大地から睨み上げる。
「ご立派な正義、振りかざして……やることは、戦争、戦争」
 昂然と見下ろす巨漢に、少年は牙を剥く。命を燃やす様に。鉄を、鋼を、火種に換えて。
「そんなやり方で、誰が救えるんだよ」
 されど。届かない物はある。
「戦を忘れ。 大望を忘れェ! 悲願を忘れッ! 敵国に与えられた平和等に耽溺しィッ!!
 肥え太った豚共に応える言葉などォ――! 無いッッッ!!」 
 それは対話の断絶に等しい。鉄十字は過去に縛られ、箱舟は未来を見据える。
 両者は決して相容れない。
「は……イイご身分だよ」
「夏栖斗っ!」
 意識を失い後ろに倒れかけた夏栖斗を俊介が支えると、ヴェンツェルの瞳が戦場を見回す。
 親衛隊側の死者は2名。そして倒れたリベリスタは雑魚を省けば2人。
 惨状、と言うべきだろう。アーリア人にはあるまじき失態だ。
「チィッ! チィッッッ!! カァァァル!!」
「Jowohl」
 ヴェンツェルの名指しに、嘆息を混ぜた様な声が返る。
 だが、それは戦いの場に於いて隙以外の何物でもあるまい。
「つれない、ね……もっと、楽しませて?」
「貴女も大概にしつこいですね」
 気糸の結界が黒い男を追い詰めるも最後衛で常に動き回る『狂犬番』を捉えるのは、
 天乃でも中々に容易ではない。捌かれた手応えに、けれど浮かぶのは凍えた笑み。
 感じる基本的な力量差、地力の――即ち歴史の、違い。
 それでも喰らい付く。黒い男の自由を封殺する。それを見て取ってか、指揮官たる巨漢が呻く。

「日本語うまいけどメリケンみたいな喋り方ですね」
「何だと!」
 後方より上がった声に振り返れば、打ち込まれるのは遠々距離よりの呪詛の魔弾。
 『弓を引く者』の銘の通りに。七海はこの場で最も危険な対象を正確に見切る。
「優良人種ってなら特殊兵装じゃなくてもっと地力が見える武器使えよ」
 それは見え見えの挑発に他ならない。そして相手は軍人だ。まさか乗ってくるとは思えない。
 それでも言わずにいられなかったのは、良い加減頭に来ていたからか。
 ままならない戦い。救えなかった命。それら全てに――けれど。
「良いだろう糞蟲共、元よりこんな玩具に頼る心算など毛頭無いッ! 劣等は劣等の造った鉄屑を抱えて――」
 皮肉にもそれが、最後の一押しとなる。
「死ね」
 即ち、脳筋は軍人であっても脳筋だという事か。カチリと言う音に攻めに転じていたいりすが動きを止める。
「冗談じゃない、小生は『敵』でも無い相手と無理心中なんてのは御免だ」
「全員、全力防御だ! カズトは俺が!」
「では、グランツさんには私が回ります!」
 ツァインと佳恋が盾となり身を守る事も出来ない2人を庇う。
 七海と天乃が大きく退き、遅延を覚悟で俊介が聖神の加護を願う。
 突発的に訪れた混乱の中、出来たのはここまで。
 癒しの力が遅れる事無く成就された直後、爆音が轟き金属片が撒き散らされる。熱と風と衝撃が体躯を焼き尽くす。
 視界を白に染められ、音すら失った世界。俊介の視界の端、大きな影が戦線を退いていくのが見えた。
「く……そっ!」
 焼け焦げた遺体、どれが誰とも分からない。
 彼らに与えられた役割は果たされた。煙と光と音が止んだ路地裏には、鉄十字の猟犬は既に居ない。
 だが、彼らが救いたかった物も、また。
 勝利の筈の結末は、鉄と血と、砂の味。
 

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
参加者の皆様、お待たせ致しました。
ハードシナリオ『<鉄十字猟犬>Minen falle』をお届け致します。
この様な結末に到りましたが、如何でしたでしょうか。

『六道』含め敵6名を討伐した為、任務は成功です。
それ以上を求めた場合、主に攻撃対象選択の時点で難が有りました。
行動順は大切です。仔細は作中に含めさせて頂いております。

『親衛隊』との戦いはまだまだ続きます。
この度は御参加ありがとうございました、またの機会にお逢い致しましょう。