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<鉄十字猟犬>Aller Anfang ist schwer.


 男は、かつて劣等と蔑んだ者たちに多くを奪われた。
 失ったのは、アーリア人として誇りにしていた金の髪と碧の双眸。
 そして、生まれてからずっと同じ道を歩んできた双子の兄。
 底無しの憎悪は、あれから数十年が経った今もなお、彼の心中を蝕み続けている。

 一瞬、瞼を閉じて己の感情に蓋をした後、男――イェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長は、傍らのウルリヒ・ツィーゲ軍曹に声をかけた。
「軍曹、準備は良いか」
「いつでも出撃できます。曹長」
 部下の返答に、彼は一つ頷きを返して。そして、燃えるような瞳で前方を見据えた。
「では、往こうか。――何事も、最初が肝心だからな」

 鉄の猟犬たちは、研ぎ澄ませた牙を秘めて進軍を開始する――!


『――急な連絡ですまない。申し訳ないが、これからすぐに向かってもらいたい場所がある』
 幻想纏いのスピーカーから聞こえてきたのは、『どうしようもない男』奥地 数史(nBNE000224)の声。もしや、と思う間もなく、彼は本題に入った。
『バロックナイツのリヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイターの話はもう聞いてるな?
 任務を終えたばかりのチームが、『親衛隊』の襲撃を受けている』
 告げられた名を聞いて、連絡を受けたリベリスタの何人かがやはり、と思う。

 厳かな歪夜十三使徒が第八位、『鉄十字猟犬』リヒャルト・ユルゲン・アウフシュナイター。
 特殊組織『アーネンエルベ』において少佐の階級を有していた彼が率いるフィクサード集団『親衛隊』は、極めて実戦的な軍隊を構成している。

 何よりも効率を重んじる彼らは、主流七派の協力を得てアークの戦力を削ぎにかかった。
 任務に赴いたリベリスタ達を狙い撃つのは、ここ最近ですっかりお馴染みになってしまった『親衛隊』の手口である。

『現場にいるチームは8名。『親衛隊』と遭遇時点で消耗していたから、連中を相手に持ち堪えるのは厳しい筈だ。――可能な限り、彼らを救出してほしい』
 そう言って、数史は敵戦力の説明に移る。
『敵は『イェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長』と『ウルリヒ・ツィーゲ軍曹』の2名を始めとして『親衛隊』メンバーが合計8名。
 詳しい資料はこれから送るが、厄介な相手には違いない。くれぐれも気をつけてくれ』
 念を押した後、フォーチュナは張り詰めた声で続けた。
『――連中は軍人だ。決して敵を侮らないし、理性も働く。
 逆に言えば、自分達の目的を果たせないと悟れば迷わず撤退するだろう。
 敵を倒すよりも、味方を倒させないことを念頭において戦ってくれ』
 数史の言葉に続いて、『Eile mit Weile』フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264) の声がスピーカーから響く。
『任務了解。現場に急行します』
 一拍置いた後、数史は全員に向けて告げた。
『皆が無事に戻ることが、連中の狙いを挫くことにもなる。――どうか気をつけて』


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:宮橋輝  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年06月05日(水)22:43
 宮橋輝(みやはし・ひかる)と申します。

●成功条件
 ・『親衛隊』フィクサードの撃退(撤退に追い込めばOK)
 ・救出対象リベリスタ4名以上の救出

 双方を満たして成功となります。

●敵
『親衛隊』フィクサードが合計で8名。
 彼らは任務(アークリベリスタ殺害)の続行が不可能であると判断すれば撤退します。

■イェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長
 鉄の色にも似た黒髪と、炎の如き赤い瞳を持つ『親衛隊』フィクサード。外見年齢は30歳前後。
 メタルフレーム×スターサジタリーで、Rank3スキルが使用可能です。戦闘指揮Lv3を活性。
 下記のアーティファクト『鉄の双子(Zwillinge des Eisens)』を所持しています。

 ・アーティファクト『鉄の双子(Zwillinge des Eisens)』
   大型拳銃型アーティファクト。銃身、弾倉、トリガーがそれぞれ2つずつ存在します。
   アーティファクト由来スキルとして【遠単:呪縛、ブレイク】【遠範:業炎】が使用可能。

■ウルリヒ・ツィーゲ軍曹
 ビーストハーフ(種別不明)×レイザータクト。スキルはRank3まで使用可。
 複数の銃身を有する長銃型のアーティファクトを所持しており、通常射撃で複数攻撃が可能。

■『親衛隊』フィクサード×6
 ジョブ構成は下記の通り。Rank2スキルを使用。

 ・ホーリーメイガス×1
 ・クロスイージス×1
 ・プロアデプト×2
 ・クリミナルスタア×2

●戦場
 市街地の一角。時刻は深夜で、光源は確保されています。
 戦闘開始時点では一般人の姿は見えませんが、まったく人通りがない場所ではありません。

 救出対象リベリスタと『親衛隊』が交戦している地点から約20メートルに達した時点で戦闘開始。
 事前の付与スキルやアクティブの非戦スキル使用、集中などは不可とします。

●救出対象リベリスタ
 種族、ジョブは雑多。8名でそれなりにバランスの良いチームでした。
 任務直後に『親衛隊』の襲撃を受け、PCの到着時点で2名が死亡済み。
 残り6名もかなり消耗しており、戦力としてはまるで期待できません。
 回復も尽きているため、全滅は時間の問題です。

 ※希望される場合は、『救出対象リベリスタに知人がいる』設定で動いて頂いて構いません。
  (死者・生存者を問わず。どのような関係かご記載いただければ、可能な限り採用します)

●NPC
 フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264) が同行します。
 Lv15まで取得できるレイザータクトのスキルは全て使用可能です。
 彼なりの最善を尽くして戦いますが、指示がありましたら相談卓にてお知らせ下さい。

 情報は以上となります。
 皆様のご参加を心よりお待ちしております。
参加NPC
フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264)
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
斬風 糾華(BNE000390)
クロスイージス
ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)
スターサジタリー
ユウ・バスタード(BNE003137)
クロスイージス
シビリズ・ジークベルト(BNE003364)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ソードミラージュ
紅涙・いりす(BNE004136)
レイザータクト
アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)
スターサジタリー
鹿島 剛(BNE004534)


 合流地点に9人のリベリスタが揃うまで、そう時間はかからなかった。
 同行者の顔ぶれを確かめた後、『Type:Fafnir』紅涙・いりす(BNE004136)が全員を促す。
 作戦の打ち合せは、幻想纏いを通じて済ませてあった。今は、1分1秒でも惜しい。
「――さて、救助活動だ」
 現場に急行しつつ、『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)が口を開く。『親衛隊』の襲撃を受け、危機に陥っている友軍を救うのが今回の任務。救助活動とは、元自衛官の彼らしい表現だ。
「毎回ご苦労様なことね」
“勤勉”な敵を評して、『告死の蝶』斬風 糾華(BNE000390)が溜息まじりに呟く。彼らと出身を同じくする『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)が、彼女に答えた。
「親衛隊――か。よもや同郷の者らとはな」
「WW2の亡霊がいまさら起きてくるとは、神秘の世界はほんとにおもしろいね☆」
 うっすらと笑みを湛えた『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)の様子は、普段と何も変わらない。その前を往く『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)が、微かに目を細めた。
「過去の亡霊か。浅からぬ因縁がある敵だ」
 ロシア軍人たる彼の言葉は、重い響きを含んでいる。ウラジミールと、その隣で走る『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)の祖国が辿ってきた歴史を思えば、それも当然のことだろう。
「ファシストめ。悪逆無比のファシスト共め!」
 忌々しげにアンドレイが吐き捨てた直後、シビリズが含み笑いを漏らした。
「……フ、フフフ。中々に滾るではないか」
 劣勢と逆境を好む彼の双眸に、ある種の“狂気”が閃いたのは一瞬のこと。
 視界が開けた時、9人のリベリスタが目にしたのは『親衛隊』の銃火に晒される友軍の姿だった。
 倒れている者が2名、辛うじて立っている者が6名――被害状況を確認し、ウラジミールがコンバットナイフのグリップを握る。
「任務を開始する」
 彼の声を聞いた『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)が改造小銃“Missionary&Doggy”を構えると、『Eile mit Weile』フェルテン・レーヴェレンツ (nBNE000264) がガードロッドを携え足を速めた。
 燐光放つ夜光蝶を舞わせた糾華が、謡うように囁く。
「さあ、犬退治を始めましょう」
 七十余年を経て、なおも夢を見続ける愚かな犬たちを――。
「урааааа!!」
 左腕一本で“断頭将軍”を掲げたアンドレイが、鬨を上げるが如く叫んだ。
 これは、『親衛隊』と『アーク』との戦争。
 大胆不敵、痛快素敵、超常識的――かつ、超衝撃的に! 我らの手に、勝利を掴もうではないか!


 友軍までの距離は、約20メートル。
 一手で彼らを庇うのが不可能と判断した9人は、まず彼我の中間点まで歩を進めることを選んだ。
「万が一ってことがあると面倒だからな」
 一般人の侵入を防ぐべく、いりすが強力な人払いの結界を周囲に展開する。アーク側の増援を認めた『親衛隊』のイェンス・ザムエル・ヴェルトミュラー曹長は、傍らのウルリヒ・ツィーゲ軍曹に合図を送った。
「獲物が増えたな、軍曹」
 Ja、と返答したウルリヒが、防御のドクトリンで自軍の守りを固める。そこに、糾華が声を響かせた。
「ごきげんよう親衛隊。貴方達を狩りに来たわ」
 揚羽蝶を模った無数の投刃が、美しい翅を広げる。生と死の境界を鮮やかに舞う“彼岸ノ妖翅”の群れが『親衛隊』に襲い掛かった瞬間、葬識が暗黒の瘴気を奔らせた。
「首輪付きの軍人が、いったい何の用事なのかな☆ アークも嫌われたもんだよねぇ☆」
 ま。首輪をつけられてる方が楽なときはあるよね――と敵をからかいつつ、弾幕をもって牽制する。友軍に向けて、剛が声を張り上げた。
「救援に来たぞ!」
 いったん合流だ――と言いかけ、口を噤む。こちらの前進と同時に友軍を後退させ、これを庇う作戦だったが、既に死亡していると思われる2名を除いても、友軍は容易に動ける状況ではない。6名中、4名が麻痺や呪縛、混乱などの状態異常で自由を封じられ、残る2名も敵前衛に退路を塞がれている。猟犬とて、せっかく捕らえた獲物を逃がすつもりなど無いのだろう。
 リベリスタを蜂の巣にせんと、イェンスの大型拳銃『鉄の双子』が唸る。弾丸の雨を掻い潜ったウラジミールが、友軍をブロックする敵前衛を抑えにかかった。今動ける者だけでも、先に逃がさなくては。
「これ以上被害を出さぬためにも撤退だ」
 声をかけられたリベリスタが頷き、援軍の元に走る。すかさず追撃に動いた敵に、剛が狙いを定めた。
「どうも、楽をさせてくれそうにはないな」
 独りごちつつ、魔力銃のトリガーを絞る。最小限の労力で最大限の戦果――『なるべく楽をして』任務を達成するのが彼のモットー。
 後退するリベリスタに駆け寄ったアンドレイが、その巨体を盾に彼を庇った。
「構わず下がりナサイ」
「お願いだ……仲間を助けてくれ」
「我等が居るからには敗北はアリマセヌ。恐れるモノナド何も無い」
 傷ついた僚友の悲痛な訴えに、隻眼隻腕の戦闘官僚(ジェネラル)は力強く頷きを返す。金の瞳を輝かせたシビリズが、昂然と胸を張った。
「さあ、さあ、さあ――勝ちに行こうか、諸君!」
“神々の黄昏(ラグナロク)”の訪れを告げる宣誓とともに、リベリスタ達を強力な加護が包む。状態異常を払い、心身に活力を齎すそれは、窮地に陥った友軍を死から遠ざけてくれる筈だ。
「支援します」
 続き、フェルテンが防御動作の共有を行う。一度は閃光弾を手にしかけたのだが、敵味方の配置と命中力に対する不安から、自軍の守りを優先したのだ。
 どうやら、『親衛隊』は全体・複数攻撃を用いて『増援の対処』と『弱った目標の撃破』を両立させるつもりらしい。戦場を余さず視界に収めたユウが、ぼやきながら愛銃を構える。
「これが効率的な戦い方ってやつでしょうかねー。怖い怖い」
 回復スキルに乏しい構成で、長期戦は不利だ。友軍を守るのは勿論、敵の戦力を削ぐことも重要になる。
「そのためには……速攻です!」
 1発の銃弾が天を貫いた瞬間、燃え盛る炎の矢が敵の頭上目掛けて一斉に降り注いだ。間髪をいれず、いりすがイェンスに肉迫する。格上と目される指揮官を落とすのは簡単ではないが、それだけの敵を放置するのもリスクが高い。
 正面に立ち塞がり、両手に構えた得物を時間差で繰り出す。銘無き太刀と、血塗られた赤きジャックナイフ。光を散らす二刀が、猟犬の“頭”に牙を剥いた。
「――Вперед(突撃)!」
 巨大な戦斧を片腕で扱うアンドレイが、友軍に対する射線を遮るように敵陣に切り込む。
 彼は効率動作の共有化で全員の戦闘攻撃力を向上させると、
「Здрасти、сукин сын(よう、××野郎)」
 と、『親衛隊』を口汚く罵った。彼らがWW2の亡霊ならば、『ソビエト連邦』は仇敵に違いない。それで、少しでも注意を惹ければ上等だ。
「貴方達、片手間で私達を何とか出来るなんて思ってはいないでしょう?」
 運命を司るルーレットを召喚した糾華が、挑発的に言葉を紡ぐ。「当然だ」と答え、ウルリヒは指揮官の援護に動いた。いりすをブロックし、イメージを実体化して己を最強の駒と化す。
「こーゆーめんどいの嫌なんだよね」
 ごく軽い口調で、葬識が敵前に取り残されたリベリスタの1人を庇った。敵の構成上、長射程攻撃の存在を警戒せねばならない。ここで彼らを逃がしても、背中を狙い撃ちにされるのが落ちだろう。せめて、もう少し距離を稼がなくては。
 別の1人を守るウラジミールの視界に、額を撃ち抜かれたリベリスタの亡骸が映る。見覚えがあるその顔は、少し前に訓練を共にした青年のものだった。
(若いものからまた逝ってしまったか……)
 幾度となく経験した痛みを心に秘めて、ウラジミールは低く声を放つ。
「自分が防衛するからには簡単にはいかんと思うことだ」
 アーク屈指のクロスイージスである彼の構えには、まったく隙が無い。神の光で混乱から立ち直ったイェンスが、「不本意だが認めよう」と応じた。
「――だが、まだ的はある」
 いりすから距離を置き、再び銃を構えるイェンス。リベリスタを襲った弾丸の嵐が、庇い手の居ない3名のうち2名を撃ち倒す。片方は、呆気なく事切れていた。
「何人まで死んでもよかったんだっけ?」
 悪気なく呟く葬識をよそに、前線に躍り出た剛が吼える。
「リベリスタとしちゃ半人前かもしれねぇけどな!」
 元自衛官として、同胞の危機は放っておけない。まして、それが任務となれば――意地でも成功させる。救ってみせる。
 友軍と敵の間に割り込み、銃を乱射する剛。加護を砕かれぬよう細心の注意を払うシビリズが傷ついたリベリスタを庇うと、フェルテンが気絶したもう1人を抱えた。
「……というか、島国に攻め込んでるって時点で負けフラグじゃないです?」
 愛銃のトリガーに指をかけたユウが、『親衛隊』の面々を眺めて呟く。
 ここは一つ、自分が居た国の言葉を進呈してやろうか――。
「We shall never surrender!!」
 空から落ちるインドラの火と、同時に響いた台詞が、猟犬たちの顔を赤く染める。
 ジョン・ブルめ、イワンめ、と喚きたてる彼らの声に、いりすは耳を貸そうとしなかった。
「つまらん狗っころだなぁ」
 思わず、本音が零れる。流石に頭の2人は冷静さを保っているようだが、その彼らとて不快感を隠そうともしない。己は優秀であると言い聞かせなければ、プライドの一つも守れないのか。
 こんな連中、喰ったところで腹の足しにはなるまい。だが――
「まぁ、面白そうな破界器持ってるし。少しは、楽しめるかしら」
 そう嘯き、眼前のウルリヒに打ちかかる。格は落ちるが、ブロックされている以上は仕方ない。
 夜に、幾つもの光が踊った。


 友軍を庇うメンバーが、彼らの安全を確保すべく中間地点まで後退する。
 敵の只中に残ったアンドレイが、声を限りに叫んだ。
「我が名はアンドレイ・ポポフキン!
 ファシストよ、いざ尋常に残虐に徹底的に勝負でゴザイマス!」
 立ち塞がる敵を殲滅せんと、凶悪なる断頭台の刃を振り下ろす。その姿、大胆にして不敵。
 道化のカードを手にした糾華が、赤い瞳で猟犬たちを睨んだ。
「疲弊した獲物を追い詰め駆逐する……犬としては十二分な働きね。
 でも、好きになれない考え方だわ」
 鋭い舌鋒は、流れる水の如く淀みなく。少女の声は、どこまでも清冽だった。
「効率的だから? 確実に勝ちたいから? 心底、敗北的思想に染まりきっているのね」
 言葉と同時に、道化のカードを“盤上で最強の駒”ウルリヒに叩き付ける。少数で敵陣に留まった彼女らは、結果として『友軍に対する追撃阻止』という役目を完璧に果たしたが、代償もまた大きかった。
 後方に流れた弾丸を己の身で防いだ剛が、運命を燃やして意識を繋ぐ。彼は敵のクロスイージスがホーリーメイガスを庇いに動いたのを見て取ると、銃撃で守り手を押し戻した。
 業火の矢で敵を牽制するユウの支援を受けて、友軍4名が撤退に移る。重傷者を運ぶフェルテンにウラジミールが「宜しく頼む」と告げると、彼は黙して頷いた。
 幻獣種の身体能力と持ち前の執念で喰らいつくいりすが、華麗にして苛烈なる連撃をもってウルリヒをかく乱する。仲間に先んじて前線に復帰した葬識の全身から、漆黒の闇が生じた。
「どいつもこいつも猟犬気取り――」
 無形の武具を纏った彼は、愉快げに口の端を持ち上げる。
「強固な牙をもっていうのはそっちだけじゃあないよ」
 敵方のクロスイージスが状態異常の回復に動いた隙を、糾華は見逃さなかった。
「アークは獲物ではないし、貴方達は猟犬でしかない。犬達よ、獲物はどちら?」
 不条理なまでの強運を味方につけた彼女の両手から、妖蝶の群れが一度、二度と飛び立つ。絶対命中(クリティカル)の波状攻撃を浴びて、『親衛隊』のホーリーメイガスが崩れ落ちた。
 銃剣を手にしたプロアデプト達が“完全かつ最善の一撃(パーフェクトプラン)”で糾華とアンドレイの加護を砕く。
「この程度でへこたれている場合ではないぞ」
 合流を果たしたウラジミールが混乱に陥った2人を引き戻すと、ラグナロクを再発動したシビリズがいりすに代わってウルリヒのブロックに入った。
 指揮能力を活かして戦線を支え続けてきた剛が、入れ替わりに後退する。
「……やれるだけ、やってやるさ」
 シビリズほど度を越してはいないが、彼も逆境を好む性質だ。傷ついた身に鞭打ち、銃口を敵に向ける。弾丸の雨に炎の赤を添えるべく、ユウがインドラの矢を落とした。彼女は猟犬たちが誉れとする金髪と碧眼の持ち主だが、肌の色は異なる。私生児という生い立ちもあって、どこの血が混ざっているのやら見当もつかない。
「素材の味を誇るのも良いですけど、まぜまぜごはんも乙な物ですよ」
 まして、その由来が70年余も前の眉唾人種論とあれば。食欲旺盛のユウをしても『食べる』気になれないのは事実である。

 撤退したリベリスタの追撃は断念したものの、『親衛隊』は任務の遂行を諦めたわけではなかった。
 クロスイージスに自身のフォローを命じ、イェンスは脆い者から狙い撃ちにせよと号令を放つ。
 死神の魔弾がユウを貫いた直後、クリミナルスタアの銃撃が剛を捉えた。ラグナロクの加護も、運命の恩寵も、もはや2人を支えること叶わない。相次いで倒れた2人の前にフェルテンが立ち、追撃を阻む。アンドレイの瞳に、烈しい光が宿った。
「……良いデショウ。そんなにも望むのならば、『真っ赤に』染めて差し上げマス故」
 地を蹴った機械の脚が、“軍靴”の音を響かせる。断頭の刃が横薙ぎに振るわれた瞬間、鮮血が飛沫を上げた。急所を狙うオーラの糸を“サルダート・ラドーニ”で防いだウラジミールが、プロアデプトに肉迫する。
「簡単にはやらせんよ」
 攻撃の隙を突いて繰り出されたコンバットナイフが、男の喉を切り裂いた。
 ブレードの血を払い、すぐさま次の目標に向き直るウラジミール。
「――防衛を継続する」
 全身のエネルギーを守りに特化したシビリズが、不敵な面持ちで眼前のウルリヒを見据えた。
「そう。救えば良いのだ、私達は」
 敵を全て討つ必要は無い。生存者を守り抜き、『親衛隊』を撤退に追い込めば目標は果たされる。
「それが勝ちと言う事だよ、同郷諸君!」
 笑声を響かせるシビリズを、イェンスが燃えるような瞳で睨んだ。


 本能により研ぎ澄まされたいりすの剣技が、鬱陶しく纏わりつくクロスイージスを翻弄する。
 憎悪を孕んだイェンスの声が、リベリスタの耳に届いた。
「正義が何たるかを知らぬ劣等どもが……!」
 反射によるダメージの蓄積を嫌ってか、彼は消耗した者のみに的を絞って弾丸を浴びせる。アンドレイが、糾華が、ほぼ同時に運命を削った。
「ハハハハハ――! いいぞ同郷! 狂おしい!!」
 爛々と目を輝かせたシビリズが、狂喜を湛えて笑う。追い込まれるほどに滾り、鋭さを増すのがこの男のあり方だった。
 武器を頼りに、アンドレイが己の身を支える。
「如何なる戦いであろうと、勝利アルノミ……!」
 決して、倒れてなどやるものか。戦い抜こう、勝利まで。
「正義正義って面白くないんだよね。戦争屋はいっつもそればっかりだ」
 暗黒の瘴気で2人目のプロアデプトを屠った葬識が、溜息まじりに呟く。
 どうせ、この連中も自らの正しさを信じて疑いはしないのだろう。
「さあ、ここからが勝負よ。敗北の底を思い出させてあげる」
 体勢を立て直した糾華が、戦場に再び揚羽蝶を舞わせた。すかさずウラジミールがアンドレイのフォローに回り、彼の死角を補う。
「一人で戦う必要は無いからな」
 頷きを返したアンドレイが、“断頭将軍”を再び構えた。
 自身が持つ攻撃はこれだけ。故に、この一撃に全てを懸ける。
 脳も、筋肉も、五感も――余すことなく!
 血に染まったロングコートの裾が翻った瞬間、彼は雄叫びを上げて敵に躍りかかった。
「умри(死ねや)!」
 巨大な刃が、クリミナルスタアの脇腹から胸骨にかけてを粉砕する。
 自身が倒した男の首を“逸脱者ノススメ”で刈り取った葬識が、「まだ続ける?」と笑った。
 表情を歪めたイェンスが、自軍に撤退を命じる。そこに、いりすが迫った。
 帰るというなら、止めはしない。下手に追い込んで、開き直られても面倒だ。
 だが――貪欲であるがゆえに、いりすは敵に『無料(タダ)で帰る』ことを許さない。
「破界器は置いて行きたまえよ」
 イェンスの手にある『鉄の双子』を目掛けて、二刀を閃かせる。辛くもそれを防いだイェンスは、部下を纏めて整然と退却した。
 いりすも、これ以上深追いするつもりは無い。再び戦場で見えることがあれば、またチャンスはあるだろう。

 戦いが終わった後、ウラジミール達は仲間の亡骸を回収し、先に退避させたメンバーと合流した。
 救出対象8名のうち、生還を果たしたのは5名。倒れたユウと剛も、傷は深いが命に別状は無い。完璧とは言えぬまでも、充分な戦果だろう。散っていった者のことを思えば、どうしても苦いものは残るが――。
 共に依頼を請けた仲間を喪って憔悴するリベリスタを前に、剛がゆっくり起き上がる。
 彼らを連れて帰る――そこまでが、今回の任務である筈だから。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
フェルテン「……お疲れ様でした。本部に帰投しましょう」

 全てが狙い通り、というわけにはいきませんでしたが、大きな隙が無い作戦だったと思います。
 犠牲者は出てしまったものの、対する親衛隊もかなり痛手を被っているため、彼らからしたら『割に合わない』結果になったのでは、と。

 親衛隊との戦いはこの先も続きますが、ひとまず体と心を休めて下さいませ。
 当シナリオにご参加いただき、ありがとうございました。