●メシマズとは ――料理では無い。兵器である。 ――お願いだからレシピを見てよ。 ――洗剤を入れるなぁああああ! ――すみません、味見は……あ、そうですかしたんですか。 ――「これ今度作るね!」やめろぉおおお! 以上、被害者からのインタビュー結果でした。 ●メシ・マーズ 「と言う訳で皆さんお仕事です」 「嫌な予感全開なんだが――帰っていいか?」 駄目です。と強い口調で言い放つのは『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)。 「とりあえず簡潔に説明しますね。今回行っていただく任務はアーティファクトの回収です。所有者は一般人の篠原・静香さんと言う方で、所持アーティファクト能力は“転びやすくなる”と言う物です」 続けて、 「この人は小さなレストランを経営しているのですが、とあるお客様から渡されたプレゼントがどうもアーティファクトだったようで……まぁ、能力は可愛い物ですよね。とにかく皆様にはどうにかしてこれを回収していただきます」 「……なぁ、なんか嫌な予感がするんだけど……主に章タイトル的な意味で」 「さて、まぁ皆様ある程度予測出来ているとは思うんですが、この静香という人は――」 メタ発言、和泉は無視。 そして一息。 「メシマズ料理を出してきます」 「……ぱーどぅん?」 「メシマズ料理を出してきます。喋ります――料理が」 「料理が?!」 ちょっと待て、今のどういう意味だ!? という声があちこちから聞こえてくるが、喋るんだから仕方ない。料理が。 咳払いを一つして、会話を再開。 「まぁ、とりあえずお客としてレストランに潜入。その後、静香さんと会話するなりなんなりしてアーティファクトを回収してください」 「おいおい! メシマズ料理なんて喰ってられるか! 俺は帰るぞ!」 思わずブリーフィングルームから立ち去ろうとするリベリスタ数名―― 「ちなみにこの人、相当な美人さんらしいですよ?」 ――の、足が止まる。出入り口の扉の前で、石の様に固まった男連中数名。 やがて、一人の男が中に戻ろうと。 「おい馬鹿やめろ! 何を血迷っている!」 戻ろうとする男の肩が掴まれる。しかし、止まらない。むしろ意気揚々と、 「離せ……! 俺は美人に会いに行くんだ……!」 と、のたまった。いや、のたまったと言うのもアレだが。 「正気か!? メシマズ喰いに行くんだぞ!? お前――死ぬぞ?!」 「そんな事、百も承知じゃいっ!!」 猛者だ。猛者が居る……! さぁ、とにかく皆さん頑張ってください。胃的な意味で。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:茶零四 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年07月08日(金)22:26 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●さぁ飯の時間だ…… 「ご注文はお決まりでしょうか?」 昼前の時刻、一つの料理店で店長が注文を取ろうとしていた。 カウンター席に座るのは八人。皆が皆、覚悟を持ってここに来た者達である。そう、 メシマズを喰らう為に――! 「ふむ、ではこの店のお勧めを頂きたい。ついでに大盛りでな」 「俺もだ。貴女の作るお勧めを是非頂きたいね」 最初に注文したのは『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)だった。店主の静香を見据え、ハッキリと“大盛り”を注文した。 それに次ぐ形を取ったのは『正義のジャーナリスト(自称)』リスキー・ブラウン(BNE000746)。両者ともに、食べる気満々である。……死ぬ気か!? 「では私はゴーヤチャンプルでお願いします」 「ミートパイがあるな。俺はこれにする」 『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)に『まめつぶヴァンプ』レン・カークランド(BNE002194)がメニューを眺めながら言葉を紡いだ。 「じゃあ僕はオムライスが食べたいな」 そして、恰好だけ見れば最年少にも見える『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)も注文を果たした。 「承りました。では少々お待ち下さいませ」 「……とうとう始まりましたか……」 厨房へと向かう静香の背中を横目に見つつ、同じカウンター席――と言っても、他のメンバーからは少し離れた所に座っているのは『スイートチョコの女子ジェイソン』番町・J・ゑる夢(BNE001923)。 離れた場所に座っているは“敵”の解析をいち早く行うためだ。いや、まぁメシマズが敵なのかはともかく、弱点を探ってみるのは悪い事ではないだろう。 「しかし……勿体ないなぁ。折角美味しそうなお嬢さんなのに」 「まぁ誰しも欠点はあるさ。それに美人にトラブルは付き物――」 りりすの呟きを『ノイジーイーグル』有木 ダンテ(BNE002480)が笑いながら拾うが、同時に変な音が厨房から聞こえてきた。 ヌチャッ、というか。グチャァ、というか。メメタァ! というか。なんだ最後。 「…………う、うん。トラブルは付き物だよな! は、ははは!」 「大丈夫だろ。美人さんの作る物だぜ? どんなものだって旨い筈だ!」 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)が懸念を払拭するように笑顔で声を張り上げるが、その直後に厨房から、キシャアァッァ! というあり得ない音が響き渡る。 一瞬皆の視線がそちらに向き、そしてまた直ぐに戻す。 何と言うか、見たらいけない気がした。 「……旨い、筈だよな?」 まだ食べる前だが、既に嫌な予感フルスロットルである! ●食事タイム(処刑タイム) それから少し時間が経った頃だろうか、厨房の怪奇音が成り止むと、 「お待たせしました。こちら当店のお勧めとなります♪」 静香が料理……料理ェ……を運んで来た。 右手に大きな皿を持ち、リベリスタ達の元へと運んでくる――が、 「っ、危ない!」 不自然な形で静香が“転んだ”。 段差も何も無い場所でだ。足が絡まった訳でも無く、不意にバランスを崩している。まるで何かの“干渉”があったかのように。 咄嗟に反応出来たのは、警戒していた竜一とダンテ。 竜一が身を乗り出し静香を支え、ダンテが空を舞う皿をキャッチする。 「お怪我はありませんかお嬢さん?」 キリッ、という効果音が付きそうな爽やか笑みを竜一は見せる。彼の視線の先にあるのは静香が身につけている――ネックレス。 目的の品にして、先程の不自然な現象の原因だ。さて一体これをどう回収した物か…… 「す、すみませんお客様方にご迷惑を……」 「いや貴方に怪我が無くて良かった。……それはそうと、その料理は――」 あ、はい。と静香が言葉を紡ぐ。心配そうに声を掛けたリスキーが向けている視線の先は、ダンテの持つ皿で。 「先程お勧めをご注文された方への料理――『生魚とチョコドリアンの酢の物和えのハバネロカレー+ウナギゼリー乗せ』です」 「いきなりハイレベル来たぁ――?!」 思わずツッコミを入れるゑる夢。一応他のメンバーとは無関係を装っているのだが、そんなことよりも驚くべき事項がある。 なんとこの料理……弱点が、無いのだ……どれだけ情報を探ろうとしても“危険”の文字しか見えてこない。え、何これ。 「ふむ……新城・拓真だ、お相手願おう――行くぞぉ!」 しかし全く怯える様子すら見せず、目の前に置かれた料理ェ……に対し箸を進める拓真。 彼は自信があった。これまで幾度も戦闘を経験した彼にとって、この程度がなんだというのだ。 そう、この程度。ちょっと昔、銃弾が頭にぶち当たった記憶が蘇っているだけだ。やたら鮮明に蘇っている気がして、まるで走馬灯の様だがきっと気のせいだろう。 「た、拓真さん! 鼻血、鼻血が出てますよ大丈夫ですか……!? というか、ダメージに気付いてますか?!」 「……ん、大丈夫だ。ドリアンとウナギゼリーの完全に分離した味を少し楽しんでいただけで――ところで喉が本能レベルで呑みこむのを拒否してるんだがどうすれば良い?」 ……分かりません。と自信無く答えるシエルの前に、彼女の注文した料理が運ばれてきた。 彼女が頼んだのはゴーヤチャンプルで…… 「お待たせしました『ゴーヤチャンプルのスライム炒め』です」 『キシャアアアッ!』 「おい敵意丸出しだぞこの料理っ!?」 え、ゴーヤチャンプル……? という表情のシエルの代わりにツッコミ入れたのはレン。 切り刻まれたゴーヤが皿に乗っており、そのゴーヤをなにやら青色の液体が包んでいる。しかもその液体は奇声を発していた。 「……まぁ食は冒険とも申します。れっつちゃれんじ♪ ですね――ぐッ?!」 抵抗するゴーヤスライムに箸で攻撃。そのまま口に運ぶが、凄まじい刺激が口内を駆け巡った。苦みと辛みと痛みだ。 ……と、豆板醤のボディーブローにジョロキアのヘビースマッシュ!? と、シエルは口に表したかったが、あまりの衝撃に口を押さえ続けるので一杯だ。 「ハハハ皆どうしたんだ。こんなに美味しいじゃないか、涙が出る程に!」 「そうだよ、美味しいです! えっーと……店長さん!」 ペルソナのスキルを全力全開で行使中の二名、リスキーとダンテが店長に視線を向ける。 「まぁ! 有難うございますお客様! サービスでお代わりもありますが、如何なさいますか?」 「頂きましょう――望む所です」 「料理に“望む所です”ですってのも凄い返答だよね……ところで僕のオムライスは……」 りりすが言った傍から料理が届いた。 オムライス。それは卵焼きとチキンライスを組み合わせた日本料理だ。ソースはお好みだが、ケチャップが多いだろうか? ともかく、オムライスとはそういう料理だった……筈だが、 「お待たせしました。『Ω(オーム)ライス』です」 出てきた料理、外見は普通だが何故か“帯電”している。 手を近付けると、電気が弾けるような音が炸裂。もはやどうやって作ってるのか不明である! 電池でも入れてるんだろうか。 「うん、これは……ごふっ……中々、ぐっ……ちょっと、ごめん。むせた。ケチャップこぼして御免ね」 それは本当にケチャップなのか。 甚だ疑問だがとりあえず言える事は唯一つ。ケチャップは万能である! ……が、 「お待たせしました――『ミートパイEX』です!」 ケチャップは万能だけど、ちょっと休憩させてぇええ!! ●え、奇襲? 俺はメシマズじゃない――そう思う。 同居人からは「台所立たなくていいよ」とか言われ、久々にキッチンに立てば死屍累々の山が出来るが、俺はメシマズでは無い――そう思う。 それを証明する為に俺は今日ここに来た。だが、 「――あ、あぶねぇ! 祖母の味どころか祖母が見えたぁ――!」 ちょっとメシマズ以前の問題だった。 レンの頼んだミートパイ。一口目、二口目と食べても大丈夫だったので少しずつ時間を掛けて食べていのだが、どうも時間差で来るタイプだった様で。しかも味云々ではなくダメージが胃にダイレクトで来るという恐ろしい料理。 今は亡き祖母の味に似ている、と涙ながらにコメントしていたら祖母に会いかけた気がするのは気のせいだったと信じたい。 「なぁ、鼻血と記憶の逆流が止まらないだが」 「俺も自己再生速度越えそうなんだけどどうしよう!」 真面目な顔で『生魚と(略)ウナギゼリー乗せ』の大盛りに挑み続ける拓真は鼻血が止まらない。ガチでヤバイ状態だ。 竜一はまだ少し余裕がありそうだが、顔色が少し悪い。果たして持つだろうか。 「私、戦闘でやってる事とあまり変わらない気が……」 一方でシエルはゴーヤスライムの抵抗を箸で退けながら、味方に対しさりげなく傷を癒す微風を発生させ続けている。ついでに胃腸薬も摂取済みだ。 「くっ、攻略法が見つからないとは言え……水で流しこめばぐぁぁっ!?」 ブルーサファイアの色をしたサンドイッチを水と共に胃に流し込むゑる夢。 彼女は直感でこの方法を選んだが、その判断は正しかった。水は流石にメシマズとは関係ないため、少しばかりダメージを軽減できるのだ。 もっとも、軽減できるだけでしっかりダメージは訪れたが。 「……僕達無事に帰れるのかなぁ……」 りりすの疑問はごもっとも。 「ハハハ。皆どうしたんだ箸が進んでいないじゃないか」 しかし、一人だけ食事のペースが全く変わらない男がいた――リスキーだ。 「命が削れるレベルで美味しいと言うのに、どうしたんだ本当に!」 「リ、リスキー様! 口から血が出て、」 「これはケ チ ャ ッ プだよ!」 口からケチャップ……ケチャップ? を流しつつも決して“不味い”等とは言わない。 シエルの心配そうな声が掛るが、ケッチャプなら仕方ない。彼は、不退転の覚悟だ。片っ端から料理に手を出しており、果ては他人の料理にもその手を伸ばす。 「待て、それは俺の料理だ……! 美人の料理は渡さん!」 が、竜一も負けじと自身が頼んだ料理の食事スピードを上げる。 彼らがこれだけ必死なのには理由がある。立てたいのだ、彼らはそう―― 「二人とも早まるなぁ――! そんな事しても立つのは死亡フラグだけだぞ!」 「そんな事、百も承知じゃい!」 ――フラグを立てたいのだ。しかしダンテの言う様に、どう見ても立っているのは死亡フラグである……! 「で、ですがこれは……」 「ああ、凄まじい速度でメシマ……料理が減っている……!」 ゑる夢とレンが同時に驚嘆の表情を見せる。 若干口を滑らせかけたが、寸での所で言葉を呑みこめば、 「……敵ながら、見事な戦いぶりだった。だが……!」 拓真が告げる。 「俺の、いや俺達の勝ちだ……!」 ――食べきった。 食べきったのだ。彼らは、見事にメシマ……料理を食べきったのだ……! 「お客様完食、有難うございます! 最近“何故か”残す方が多くて困ってたんです……」 「いや、貴方の料理は最高でした。天に昇ってしまうくらいに」 「俺は本気で昇りかけたけどな……」 ミートパイの残骸を見据えながらレンが言葉を紡ぐ。 リスキーは平気な顔をして静香を口説いているが、実はかなり限界に近い事は秘密だ。そもそも他人の料理にまで手を出した時点で運命がゴリゴリ削れているのだが……まぁ努力した甲斐はあったというものだろう。 さて、 「……あの、静香様? 少し宜しいでしょうか。この雑誌を見て貰いたいのですが」 激闘を制した後だが、忘れてはいけない。 今回の依頼の目的はアーティファクトの回収である! ようやく本題に入れたシエルは、ダウンした竜一の頭を膝元に乗せながら言葉を紡ぐ。 「あら、これは……アンラッキーアイテムが“ネックレス”ですか?」 「そうみたいだね。ついでに言うと“交換”が開運のおまじないらしいよ」 「と言う訳もあるし、お料理、美味しかったお礼にこれを……」 りりすが繋ぎ、ダンテがポケットからネックレスを取りだし――静香に手渡す。 「これは……良いんですか?」 「良いんじゃないですか? 贈り物は素直に貰っておくべきだと思いますよ店長さんー」 少し離れた場所からゑる夢の声が飛ぶ。 ところで彼女はずっとマスク付けっ放しだったがどうやって食べたのだろうか。 中々不思議であるが、恐らくマスクメンには分かる食べ方があるのだろう。その証拠に、きちんと全て食べきっている……! 「……そうですね。それでは有難く頂戴いたします。あ、では私の身につけているコレと交換と言う事で」 そう言って、静香は自身が身に着けていたネックレス――アーティファクトであるソレをリベリスタ達に渡す。 ミッションコンプリートだ! 長い道のりだった。本当に。 「わーい……ヒザ……うへへー……」 シエルの膝で絶賛ダウン中の竜一はうなされながらも膝の感触にご満悦の様子。 「これで元気になるとの事ですから……殿方って不思議です」 「まぁ男にも色々あるさ……さて、それじゃあ帰ると――」 拓真が口を押さえながら、フラフラと立ち上がる。 もはや立つことすら難しいとは……メシマズ。恐ろしい敵であった―― 「お待たせしました。デザートの『シュールストレミング・石油シャベート』です」 ――ら、その敵が再びリベリスタ達の前に立ち塞がった。 「…………えっ?」 いきなり出てきた敵の存在に、レンが思わず声を洩らす。 え、何、どういう事? という感情が一同に伝播するのにそう時間はかからない。一方で店長の静香は微笑みの表情で、 「あ、お代は結構です。完食して下さった皆様へ私なりの、感謝の気持ちですので!」 「ほ、ほほう。これは凄まじい刺激臭が鼻を刺激し、食欲を減退させ――あ、臭い嗅いだだけでまた鼻血出てきた。これ普通にやヴぁいぞ」 「拓真さぁ――ん?! 気をしっかりぃ――!」 ゑる夢が今にも倒れそうな拓真を支える。もう化学兵器じゃないだろうかコレ。 「俺……このお仕事終わったら普通の飯食べるんだ……」 「まさかの奇襲……どうしましょう」 ダンテが、シエルが、目の前のドス黒い色をしたデザートに難色の色を見せる。 当たり前だ。折角ボスを倒してエンディングを迎えると思っていたらさらなる敵襲があるなど誰に予想が出来るだろうか。いや出来ない! 反語です。 しかし一人だけ――ふつふつとやる気を満たしながらスプーンを手に取った猛者が居た。 「……なんのまだまだ。望む所です――頂こうか! そのデザートォ!」 ――リスキーであるっ! 「口から血……ケチャップ出てるけど大丈夫なの?」 「ケチャップだから 問 題 な い !」 りりすの視線はリスキーの口元、赤い液体。 血じゃない。ケチャップである。本人が言うんだから間違いない! 「誰が作ったかで料理の味もまた変わる……ならば――」 シエルは呟く。デザートに奮闘する彼らの姿を見ながら、せめて綺麗に纏めようと。 「愛や恋は最高の調味料かもしれませんね」 完食。ごちそうさまでした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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