●夢見るスラッガー 『さぁ、九回裏、二死満塁のこの場面! 満を持してバッターボックスに立つのは、笹原啓太です!』 割れるような大歓声を一身に受け、啓太がバッターボックスに入る。見れば、マウンドに立つピッチャーの顔が強張っているようにも思えた。 そりゃそうだ。啓太は思う。これまでにもチームのピンチを幾度となく救ってきた俺にかかれば、今回だって朝飯前さ、と。 キッとピッチャーを睨み、バットを構える。 意を決し、ピッチャーが大きく振りかぶり白球を放つ。さすがプロだ。その球は速く、鋭い。 しかしそのコースは、啓太の読み通りと言えた。吸い込まれるようにバットの芯に捉えられ、天高く打ち上げられる白球。 それは吸い込まれるようにスタンドに向かった。誰の目から見ても判る、ホームランだ。それも、逆転満塁の。 『打ちました! さすがは笹原と言えるでしょう! 九回裏二死満塁、この場面を制したのは、笹原の一撃でした!』 悠々と塁を回り、最後にホームベースを踏む。同時にチームメイトが彼に駆け寄ってきた。 実に良い気分だ。チームメイトからバシバシ叩かれながら、満面の笑みを浮かべる啓太。 だが次の瞬間、大歓声がピタリと止み、辺りが一瞬にして闇に包まれる。 なんだ、どうした!? 俺のチームメイトは!? 俺のホームランはどうした! 困惑する啓太を嘲笑うかのように、突如闇が晴れた。周囲に広がる、見覚えのある光景。 それは彼が通学に使っている路だ。それも、近道に使っている小さな路地。 そうだ。いつもの夢じゃないか。俺は……ここで……。 目の前では、黒く大きな獣が、醜悪な牙を覗かせている。背後にも同じ獣が居ることなんて、見るまでもなく判る。毎夜同じ夢に苛まれているのだ。 その身に爪が食い込むのを感じ、啓太の意識は……。 ●アフターケア ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達が席に着くと同時に、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が口を開く。 「今回は、ちょっと特殊な作戦となります」 これまでに、特殊じゃない仕事なんてあっただろうか。一同は首をひねるが、口には出さない。言うまでもないことだ。 「先日、あるE・ビーストの討伐作戦がありました。その際、一般人に負傷者が出てしまったのです。その件でのE・ビーストは既に討伐済みとなっていますが」 「負傷者、ということは、命は助かったのですね?」 「ええ。傷自体も浅かったので身体的には問題ありません。E・ビーストの爪にあった麻痺毒も、すぐに現場のリベリスタが解毒しました。 ですが、その被害者の少年、笹原啓太さんは今も全身が動かない状態なのです」 確かに不思議な話だ。各々、視線で続きを促す。 「調査の結果、啓太さんは無意識のうちにアーティファクトを発動させてしまっているようでした。 『現の砂』という小さなお守り袋で、周囲の人間を自らの夢の中へ引き込むという能力と、その夢の中での現実世界への干渉できるという能力を持つものです」 「……つまり、どういうこと?」 確かに言葉だけでは、まったく能力がわからない。 「簡単に言ってしまうと、夢の中で傷を負うと現実世界でもダメージを受けるということです。外傷ではなく、体力そのものを消耗させられてしまうようですが」 「随分おっかないアーティファクトですね……。しかし、それと啓太さんの麻痺とはどんな関係が?」 「協力者でもあるカウンセラーの先生が啓太さんから相談されたそうですが、毎夜E・ビーストに襲われる夢を見ているそうです。 どうやら、その悪夢とアーティファクトの能力が重なって、啓太さんに悪影響を及ぼしているようです」 「なるほど、コレは確かに、凄く特殊ですね」 難しい顔をして唸る一同。しかし、放置するわけにいかないのも事実だ。 「現在啓太さんは市内の病院に入院中です。作戦目標はアーティファクトの回収と啓太さんの救出になります。宜しくお願いしますね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:恵 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月15日(水)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●夢のスタジアム 『さぁ、九回裏、二死満塁! どうやら、代打を起用するようです!』 ふと気付けば、満席のスタジアムに『陰陽狂』宵咲 瑠琵(BNE000129)は立っていた。自らの姿を見れば、思惑通り啓太と同じユニフォームに身を包んでいる。監督役になっているようだ。 周囲を見れば、夢の中の脇役らしい顔のない選手に混じって、同行したリベリスタの顔も見えた。同じように、ユニフォームを着込んでいる。 「監督ッ! 俺に、俺に行かせてください!」 ハキハキとした声で、啓太が声をかけてくる。一瞬何の事かと思ったが、先ほどのアナウンスを思い出す。代打の起用と言っていたか。 「うむ、自信に満ち溢れた良い面構えじゃのぅ」 「笹原さん、行って下さいますかな」 同じくコーチ役としてその場にいる『闇夜の老魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)が啓太を送り出す。 「ヘッ……頼りにしてるぜェ、お前がウチの切り札なンだからなァ!」 「よーしいいぞ啓太ーっ……って、こんな感じ?」 チームメイトに扮した『デンジャラス・ラビット』ヘキサ・ティリテス(BNE003891)と鷲峰 クロト(BNE004319)が啓太に発破をかける。クロトの言葉尻は、横にいるヘキサに向けられたものだ。チームメイトという役割を上手に演じられているかが気になっているのかもしれない。 「見てろよ、カッ飛ばしてくるから!」 満面の笑顔で、啓太はバッターボックスへと向かった。 『見事なバッティングと言えるでしょう! 代打の笹原、見事にチームを逆転へと導きました!』 「おー……こりゃ見事なもんだ。っし、行くか!」 顔のないチームメイトが一斉に啓太に駆け寄る。それに遅れないよう、クロト達も立ち上がった。 「よくやったのぅ!」 「流石は我らがチームの大黒柱にございますな!」 瑠琵とレオポルトが啓太を取り囲むチームメイトを押しのけ、駆け寄る。クロト達も同じように、脇役であろうチームメイトを押しのけ、彼の傍に立った。 そう。すべてはこれから起こるはずである悪夢の為に。 ●夢の救い手 割れんばかりの歓声がぴたりと止んだ。次の瞬間には、満席のスタジアムは影も形もなくなり、狭い路地裏に一同は立っている。空に月は昇っていないが、何故だか辺りは薄ぼんやりと明るい。視界には困らなさそうだ。 「そ、そうだ、いつもの夢だ……! 俺は、ここで……!」 怯える啓太。彼を嘲笑うかのように、前後から獣の唸り声が聞こえてくる。 しかし、いつもの夢とは違う。いつもは、彼が一人、獣の爪に倒れるだけの悪夢だ。だが今は、彼を守るかのように八人の老若男女が立っていた。 「啓太様! 大丈夫、わたくし共がお護りしますゆえ落ち着いて下さいませ!」 『レディースメイド』リコル・ツァーネ(BNE004260)が啓太の手をぎゅっと握る。その優しく温かい手に、僅かながら落ち着きを取り戻す啓太。同時にバッと手を引っ込めてしまう。顔が若干赤い。 「大丈夫。啓太がピンチを救ったように、今度は私達がお前のピンチを救うから」 「僕も……啓太さんを助けたいです! 怖いけど……けど、逃げちゃいけないんだ」 背後からの声に振り返れば、そこには『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)と如月・真人(BNE003358)が立っている。杏樹は力強く、真人は啓太と、己を鼓舞するように。 いつもと違う夢。それも、頼りになりそうな……自らを救ってくれそうな力強い味方がいることに、啓太は安堵の溜息を漏らす。 「あ、あんた達は、誰なんだ? た、助けてくれるのか?」 「案ずるでない。これ以上、お主の夢は穢させぬ」 返事の主をよく見れば、先ほどまで監督としてベンチにいた少女だ。その少女が、力強く頷く。 疑問だらけの啓太が再び口を開きかけた時、この世のものとは思えないような、野太い唸り声が辺りに響き渡る。反射的に身を強張らせる啓太。 「ふむ、躾の悪い野良犬が迷い込んだようですな」 「安心しな、今日見ンのは悪夢じゃねェ。悪夢フルボッコの、最ッ高ォの吉夢だぜェ!」 不敵な笑みと共に啓太の肩をバンと叩き、ヘキサは唸り声の方へ駆け出す。 ヘキサを視線で追えば、一匹の大きな獣が涎を垂らして唸っている。狭い路地の反対側からは、同じ獣が二匹。 「ひっ! あ、あんたら、大丈夫なのか? お、俺、あいつらが……怖くて……!」 「ビビってるなよ。スラッガー。野球、好きなんだろ? だったら、何もかんも打ち返してやれよ」 震える啓太にニヤリと笑みを向け、『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)が獣の前に立ち塞がる。 いりすの放つ無数の鋭い突きが獣に襲い掛かる。目で追える事もなく、避けることも叶わずその刃を受ける獣。しかし、悪夢から生まれた獣は血を流しはしない。血の代わりに、ぐずぐずと身が解れる。 「気持ちが悪いね、全く」 「だな、っと!」 いりすに並び、ナイフを閃かせるクロト。閃いた銀光は獣の皮膚を裂くが、やはり黒いモヤが溢れるだけだ。 背後では啓太を壁に寄せ、それをリコル達が囲んでいる。これならば、そう簡単に啓太が襲われる事もなかろう。 当然ながら、啓太を庇う面々もまた、獣に向けて攻撃を放つ。瑠琵の放つ符が烏になり、獣を啄ばんだ。 ヘキサもまた、黒い獣と対峙する。獣はだらしなく涎を垂らし、ヘキサは不敵に笑う。 「来いよ獣ヤロー! テメェ自慢の爪と牙、纏めてヘシ折ってやるぜェ!」 獣がヘキサに飛び掛るが、同じように彼も宙を舞う。自慢の脚力は、悪夢に生きる獣などに劣るような生易しい代物ではない。 「走って、跳んでェ……!」 宙に浮いたまま、その身を捻り 「蹴ッ飛ばすッ!!」 思い切りよく、脚を振り回す。めったやたらに振り回しているだけかのようだが、その実獣が避けづらいように的確に攻撃を繰り出していた。しかし獣もその爪を振るう。 ごぎゃ、と鈍い音を立て、吹っ飛ぶ獣。ヘキサにも爪が食い込むが、満足そうな笑みが浮かんでいる。手応えは十分、といったところだろうか。 畳み掛けるようにレオポルトと杏樹も黒鎖と業火の矢を放ち、獣を打ち焦がす。狙いは、いりすの目の前にいる獣だ。各個撃破をする作戦を、事前に打ち合わせてある。 しかし、それで朽ちるほど獣も脆弱ではなかった。爛々とした目を一同に向けたまま、唸り、駆ける。 「ちッ!」 思いのほか鋭い踏み込みに、クロトが小さく舌打ちする。獣は既に、彼の懐の中だ。 素早く振るわれる爪を手にしたナイフで受け止める。僅かに火花が散り、辛うじてその爪は、クロトには届かなかった。 だが、もう片方の爪が無常にも振るわれた。クロトもなんとか身を引き、深手は避けられた。 「……!?」 軽口のひとつも叩こうかと口を開いたクロトだったが、何かがおかしい。身が強張って、身体が自分のものではないようだ。指一本動かす事さえままならない。 「クロトさん!」 真人の声が響き、同時にクロトを暖かな気が包む。同時に固まっていた身体はほぐれ、再び立ち上がる力を取り戻す。 クロトを裂き駆け抜けた獣は、しかしリコルの手にした扇に阻まれた。なんとしても啓太は守ろうと言う気概が見える。 「ここを通すわけには参りませんわ!」 「すまねえな、真人くん、リコルちゃん! そらワンころ、てめーの相手はこの俺だ、夢でもおいたをしてんじゃねーぞっ」 ●悪夢の果て 「くっ……」 身を翻し、いりすはそのまま吸い付くように壁に着地する。いりすが居た空間に、鋭い爪の一撃が見舞われた。 「己が血を触媒として成さん……我紡ぎしは秘匿の粋、黒き血流に因る葬送曲!!」 普段の優しい声音からは想像もできない、鋭い詠唱。いりすを襲っていた獣が鎖で絡め取られる。 「……なかなか、頑丈な野良犬ですな……!」 「あんた達、大丈夫かよ!? 血だらけじゃないか! お、俺、守ってもらってばっかりで、何も出来ないし……!」 見ず知らずの自分を、身を挺して守ってくれる面々。そんな彼らを見ながら、啓太の顔は不安げだった。 自分は何も出来ない。しかし彼らは、傷つくのを恐れずに獣へと立ち向かっている。 「啓太様、これは夢なのです。貴方様が獣を恐れれば恐れるだけ獣は存在感を増す事でございましょう。 ですが、わたくし共は必ず貴方様をお護り致します! 啓太様もわたくし共を信じて下さいませ! 恐怖に負けないで下さいませ!」 「ゆ、夢って……!」 「啓太よ。アレはお主が教われた時に感じた恐怖じゃ。 お主は毎晩、自分の恐怖心に教われていたのじゃよ」 不安げに声を荒げる啓太に、瑠琵がきっぱりと言い放つ。手には、やはり符が握られている。 「じゃが、恐れるでない。あの打席を思い出すのじゃ。 もし打てなかったらとは微塵も思わなかったじゃろう?」 「あ、当たり前だろ、夢ん中で、そんな不安感じるかよ!」 「心を強く持て。悪夢に負けて四番の夢を諦めるかぇ? お主が自分に打ち勝てば逆転満塁ホームランじゃよ」 にっこりと笑い、再び獣を睨む瑠琵。符は再び烏の大群となり、獣を嘴の餌食にする。 「夢……。これは、夢、なんだよな」 「そう、夢だよ。不安に感じる必要もない。怪我はすぐに良くなるし、すぐに元通り野球ができるようになるさ」 いりすの言葉に、啓太がびくっと肩を震わせる。 「すぐにこの獣も追っ払って、悪夢はおしまいだよ。 野球はツーアウトからなんだろう? 追い込まれてからが勝負だ。それとも。君は此処で終わるのかな。」 「そうですよ、啓太さん。待っていて下さいね、こんな夢、今終わらせます!」 啓太の傍で、彼を守りつつ味方の回復に務めていた真人も声をかける。 そうだ、同い年くらいのこいつだって、戦って、頑張ってるんだ。俺だって……! 啓太の瞳に、気迫が宿る。 「そう。悪夢は終わらせよう。 灰は灰に、塵は塵に。悪い夢は記憶の彼方に」 杏樹の手から放たれた紅蓮を纏った矢は、レオポルトが絡め取った獣に寸分違わず突き立てられる。 耳障りな断末魔を上げ、獣は闇に溶けた。 「まずは一匹、だ」 「早ェとこ頼むぜェ! こっちも時間稼ぎにゃ飽きてきたとこだ!」 言葉通り、攻撃ではなく防御に徹しているヘキサが怒鳴る。後ろに控える味方を危険に晒さないよう、自分が倒れるわけにはいかない。その為の防御だった。 「ヘキサさん、もう少し頑張ってください!」 真人の言葉と、傷を癒す光に片手を振って応えるヘキサ。 クロトはと言うと、手にしたナイフに秘められた魔力で獣を凍てつかせ、時間を稼いでいた。 各個撃破の作戦通り、次は彼が相手にしていた獣だ。 「へっ。もうこれまで通りにいくと思うなよ」 両手のナイフを閃かせ、クロトは一気に攻勢に出る。クロトの身体がブレたかと思うと、まるでクロトが分身したかのように、幾本ものナイフが獣を小間切りにせんと光る。 「ヘキサくん、もうちょっと耐えてろよ! 夢ん中でやられるって言っても、夢オチで終わる訳じゃねーだろうからな」 「けッ、言ってやがれ!」 ヘキサの憎まれ口を満足げに受け、クロトは駆けた。 ずしゃぁ! クロトの相手取っていた獣も、杏樹の放つ矢に貫かれ、闇に消えた。 「悪夢に鉄槌を。Amen」 「お見事でございますな」 残る獣は一匹だ。野生生物ではあり得ないほど鋭く尖った爪や牙で穿たれた傷も、全てではないが癒されている。 「時間稼ぎは十分だ、一気に勝負を決めるぜェ!」 飛び掛る獣を無駄のない動きで避け、そのままの勢いで蹴りを叩き込む。 ヘキサと獣の身体が交差する、僅か一瞬。その間に幾撃もの蹴りが獣にブチ当たる。獣の巨躯が、遥かに小柄なヘキサの蹴りで吹っ飛んだ。 「たかが悪夢、兎の牙で喰い千切ってやらァッ!!」 己の牙である足癖の悪さには、すこぶる自信がある。相手が如何に鋭い牙を有していようと、尖った爪を持っていようと、少しも劣るものではない。 ニヤリと不敵に笑うヘキサ。 それに今は、後ろを固めてくれる奴等も、横で戦ってくれる奴等もいるしな。 ●夢を追うスラッガー 「けッ、手こずらせやがってよォ!」 文字通り満身創痍のヘキサが、虚空へと溶ける獣の残骸に悪態をつく。 傷だらけなのはヘキサだけではない。各々程度の差こそあれ、しっかり傷を負っている。無傷で居るのはただ一人。 「あ、あの! 本当に、本当にありがとう! なんかその、俺、これが夢だなんて思えないんだけど……。あんたら、俺を助けに来てくれたんじゃないのか?」 啓太が一同を見回す。そんな彼に、リコルが穏やかな笑みを向ける。 「啓太様。啓太様のポケットに入っておりますお守り袋、そちらが悪夢と結びついて啓太様に害をなしていたのでございます。もう夢が貴方様に害をなす事はございません。 安心して下さいませ!」 「え? これ?」 ポケットから取り出されたのは、リコルの言葉通りの小さなお守り袋だった。 「これが……。俺、これを拾ったときから、どうも夢見が良かったから、お守りにしてたんだけどな」 なるほど、といりすは一人思った。 アーティファクトというモノも、本質は『道具』だ。使用者が居てこそ発動するものなのである。 何故今回のような事件になったのかが疑問だったのだが、何のことはない。啓太が無意識のうちに発動させていたようだ。夢に他者を引きずりこむという性質上、夢の内容をある程度操作できるのかもしれない。 「わらわ達は、それを回収するために来たのじゃ。渡してくれるかのぅ?」 「そうだったのか。もちろん、渡すよ。……なんだか、変な話だな。夢の中なのにさ」 照れ臭そうに、瑠琵に『現の砂』を渡す啓太。夢の中に誰かが訪ねてくるなんて、今後はあり得ないことだろう。 未だに不思議そうな顔の啓太を横目に、『現の砂』を握り締めた瑠琵がイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべ、仲間に目配せをする。なんとなく瑠琵の言いたい事を理解し、頷き返す一同。 ごほん、と小さく咳払いをするレオポルト。 「……さあ、もう貴方を苦しめる怪物共は消え去りました。貴方がここに居続ける理由はもうありません。さあ、その双眸を見開き、目覚めるのです……」 「そうだな……。ありがとう、皆さん。夢の中の話だけど、俺、皆さんのことを忘れません」 深く礼をし、啓太は瞼を閉じ……。 『さぁ、やってきました! 九回裏、二死満塁の逆転の場面です! 代打に起用され、バッターボックスに立つのは、笹原です!』 瞼を開けると同時に啓太を包んだのは、大歓声とチームメイトの激励だった。 一瞬きょとんとする啓太だったが、すぐに気迫に満ちた笑みを浮かべる。 全く、見ず知らずの俺を庇ってくれて、更にこんな夢まで見せてくれるなんて。 バットを手に、バッターボックスへと向かう。 そうだ、悪夢なんかに負けてたまるか。助けてくれた一同の言葉が脳裏に浮かぶ。 相手のピッチャーを睨み、放たれた白球を狙いバットを振りぬく。 気持ちの良い音と共に、白球は遠く高く飛んでいった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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