● 真っ赤で真っ黒なセカイは、今でも心のずっと奥に居て、離れてはくれないの。 一人で居るとき、とても辛いことが有ったとき、すごく怖いものと出会ったとき。 あの寂しいセカイは、いつでもわたしの心を飲み込んでしまおうとして、わたしは、それがずっとずっと怖かった。 だから、わたしに家族が出来た日、友達が出来た日に、それがふっと消えてくれた時は、本当に嬉しかったんだよ。 一緒に居たいって、生きたいって、もっと、素敵なことを見つけたいって、いつも思うようになったんだ。 ――なのに、何でだろうね。 何で、いま、わたしの目の前には、あのセカイがあるんだろう。 何で、わたしを助けてくれたみんなは、あんなに楽しそうな顔で、誰かを傷つけたり、殺したりしてるんだろう。 何で、わたしは、それを、助けてあげられないんだろう。 ――ごめんなさい、なんて、もう遅いのに。 地面にすわりこんで、行き場所の無い手が、とん、と、何かに触れた。 みんなと一緒に、傷つけ合って、死んでしまった、小さな小さな、わたしのいもうと。 普段なら浮かべないような、怖い笑顔のまま、目を見開いて。 わずかな皮だけで、首を繋げてる、あなた。 ――ねえ、それなら。 ――みんなといっしょになれば、わたしも、ゆるしてもらえるのかな。 いもうとの首元に浮かぶ、血だまり。 両手で、それをそっとすくって、わたしはそれに、口をつけた。 まだ、あたたかいスープのような血は、へんに甘くて、苦くて、あんまり好きにはなれない。 でも、そんなのかまわないんだ。 いつかのセカイのように、ひとりぼっちで、みんな居なくなってしまうくらいなら。 わたしも、みんなと同じように、こわれてしまいたかったから。 ● 「……革醒者の討伐」 何かを諦めたように。 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、訥と、一同へ言葉を送る。 「場所は、時村財閥が管理する孤児院の一つ。 現在、其処はあるアーティファクトによって自我を完全に喪失した革醒者五名が破壊活動を行っている。このまま放置し続ければ、付近の住民にも被害が及ぶ可能性が高いと判断し、皆に作戦を担当して貰うことになった」 「敵は?」 「孤児院で育てられていた子供が四名と、経営者の男性が一人。 元の能力は高くなかったんだけど……此処で、先にも言ったアーティファクトが厄介になってくる」 ほう、と吐いた歎息が、妙に痛々しい。 若干の沈黙を越えて後、イヴは手元のテキストに視線を送りながら、淡々と言葉を紡いでいく。 「『堕ち腐す灰の血』。服用した者は破壊衝動を除く一切の自我、思考を失い、対して肉体はその活動に最も適した状態へと変革されていく。 運命の加護が潤沢であればあるほど、その効果は現れにくいという変わった特性もあるため、使う対象を選ぶアーティファクトね」 「……で、実際の能力は?」 「基礎値はほぼ全てが強化状態」 返された言葉は、凡そ想定通りと言っても良いそれ。 早くも脳内で作戦を組み立てるリベリスタに対して、イヴは「更に」と言葉を続けた。 「フィジカル面をカバーして尚余りある独自スキルを、これと同時に手に入れた。彼らはそれを以て自身の戦闘能力を強化している。 EX……とは言えないかな。これはあくまでアーティファクトによって付加された能力だから」 偉くピーキーな、と零すリベリスタ。が、今はそれよりも気にすべき部分があった。 「確認だが……そいつらはフェイトを未だ有してるんだな?」 「……そう。けれど、助けることは出来ないよ」 「何故」 当然の問いだ。 当然の問い、だのに、イヴは歪んだ表情を隠せない。 「……件のアーティファクトは、その名の通り、服用した者の『血液』となる。要は、服用者の血液全てがアーティファクトになるの。 もし仮にアーティファクトを抽出するのだったら、対象の血液全てを、そっくり別のものと一瞬で入れ替える必要がある。そんなことは、相当な神秘の力でも難しい」 「――――――」 沈黙。 或いは、言葉を継げる能を、その時だけ失した。 悔悟か、憐憫か、浮かべる表情は様々で有ろうとも、其処に喜色が無いのは誰であろうと同じ事。 「フェイトを持っている」 イヴが言う。抱きしめるように。 「救われる理由が存在する」 イヴが言う。投げ捨てるように。 「それでも――私たちは、その手を離さなきゃいけない」 イヴが言う。 何かを、信じたように。 「忘れないで」 か細い矮躯を振るわせながら、吃と、リベリスタ達を見据えて。 「私は、見ることしかできないけど」 幾百、幾千の地獄を超えた、それでも『ヒトらしい』面持ちで。 「貴方達と一緒に、背負うことだけは、出来るよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田辺正彦 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年05月08日(水)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● セカイはじりじりとその様相を変じつつある。 紡ぐ言々、鳴る槍の柄。『てるてる坊主』 焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)は、何処か諦観を以て、遠く視線の先に在る狂乱の子らを眺めている。 「こんな子供を討たねばいけないとは……世は無情ですのう」 其の心境を代弁するように語るのは、『怪人Q』 百舌鳥 九十九(BNE001407)だ。 誰かがやらねばならぬ事と、私情は挟むほど身を縛ると、思うて念じて、それでも異界に囲いつつある空間の彼方で聞こえる叫声は、その事情を知ってしまったが故に、恐ろしさよりも憐憫を抱かざるを得なくて。 「運命の所有量で~、効果の出易さが変わるアーティファクトですか~。 能力も含めて~、ピーキーな代物ですね~」 ユーフォリア・エアリテーゼ(BNE002672)の瞳は、その口調ほどのびやかな緩さを湛えてはいない。 ――『堕ち腐す灰の血』。保有する運命の寵愛が少なければ少ないほど、対象に戦闘能力と狂気を注ぎ込むアーティファクト。 その経緯が如何なるものかは解らずとも、彼らはその犠牲者となり、今となっては戻れぬ狂気の徒として終わらぬ暴虐を振るい続けている。 「フェイトを持てども助けることが出来ぬ存在……やるせない物が御座いますな。 運命に愛されただけでは足りぬと申すか……」 「………………ッ」 無念そうな表情で頭を振る『闇夜の老魔導師』 レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)の言に、『リコール』 ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)は、己が激情を抑えんと拳を握る。 フェイトを有せなかった者は殺して、運良く得られたものは、常に、常に、その双手を以て救わんとしてきた男の、その苦悩は、正しくレオポルドが告げた其れと全く同じものであったから。 ――どうしたらいいんだろう。 紳士然とするその外見には及ばず、生憎と彼の心はそれほど『大人』にはなれていない。 希望を持っていた。夢を見ていた。其れを幾度なく叩き潰され擦り切らされようとも、物語には必ずハッピーエンドが有ると祈り、願っていた。 「……優しさで救えるなら良かった」 故に、『金雀枝』 ヘンリエッタ・マリア(BNE004330)の言葉は、彼にとってまるで諦めを諭すようにも聞こえて。 言葉が届くなら、こころがこわれていなければ、そうすれば、説き伏せる余地はあっただろうか。 「……いや、それも残酷だね」 心に湧いた戯れ言を、かぶりを振ってかき消した。 慰めるように寄り添うフィアキィを、緩めた瞳で返礼する。 それがリベリスタとなった者の務めであるなら、この程度の地獄を乗り越えずして何とすると。 「なンで……なンで、こンなガキ共が殺し合わなくちゃならねェンだよ!」 嗚呼、だから。 『デンジャラス・ラビット』 ヘキサ・ティリテス(BNE003891)が吐く想いも、或いは悪虐な物語が為した答え。 旱天慈雨は振る時を失した。此処にあるのは救いなき無辜の子ら。 自らと同じ境遇を持つ『兄妹』達に、振るえるものは暴力だけなどと、ヘキサにとっては身を刺す棘にも未だ足らぬ。 「……こンな結末、オレは認めねェ」 零す言葉を嘲笑うように、異界の技が此処に成った。 空気が変わったことを知ってか、或いはリベリスタの存在に感づいてか。人知構築の完成に仲間達が頷いたのと、狂った子供達が建物の外に飛び出したのは、ほぼ時を同じくする。 光を亡くした瞳と、 叫声を垂れ流す口と、 満身を自他の血に濡らした身体と、 およそ常人には似つかわしくない姿を目の当たりにして、終ぞ、ヘキサの慟哭が、戦いの合図を知らしめた。 「認められるワケ、無ェだろォがァ!!」 ● 「同情はするが、こうなっては下手なフィクサードよりも厄介ね」 眇めた瞳に熱はない。 『虚実之車輪(おっぱいてんし)』 シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が宝石型の幻想纏いを握り込むと同時、出でた装備と、切り替わる人格が、今この場に於いて為すべき『最良』のため、自身の活動を其れへと最適化させる。 「……個人的には、さっさと処分するのが吉か」 それが難いことは、仲間達の心情の齟齬のみが理由ではない。 戦闘が開幕してより十秒と経たず。既に自身の強化に努めていたリベリスタ達に対して、それでも敵で在る子供達の速度に追いつける者は、精々がヘキサ程度しか存在していない。 「ちッ、コイツでも喰らってろ!」 「あ、――――――ァ」 言の葉を垂れ流すように、インヤンマスターが『陣地』の中に『隔世』を生み出だして。 ヘキサが虚空より為した閃光弾を発破させたのは、ほぼ同時。 眩むセカイの向こう側で覗く異象。見る者全てに堅牢の畏怖を抱かせるハリボテの城は、唯其の存在を以てリベリスタ達の攻手を著しく減少せしめる。 されど。 「我紡ぎしは秘匿の粋、黒き血流に因る葬送曲!!」 「いやさ、中々芸達者で居りますが、のう……?」 血と長尺の呪言を紡ぐレオポルド、並びに、常人には神技とすら映る九十九の精撃は、隔世の束縛すら生ぬるい。 戦場を覆う黒鎖の蹂躙は子供達に並々ならぬ被害を与え、金貨撃ちの一射は動きを縛られたクロスイージスの庇護を受けるホーリーメイガスを的確に穿ち抜いた。 戦闘は――少なくとも、開始当初の現在、互角の様相を見せている。 敵方の力量は、数の差も鑑みて同等か、リベリスタらの僅か下。 しかし基礎能力からアーティファクトによって強化されている彼らの精度、威力、更に耐久性は当初の予想を幾らか上回っており、其れが故にブロックを介した彼らの実質一対一の相対は、その体力を無為に削り取っていくことと同義。 「シシィ、頼む!」 間断なく降り注がせるブレイクフィアーに動きを取られていたヘンリエッタが、此処にいたって終ぞその本領を発揮する。 エル・ハイバリア。強靱たる物理障壁は遅々としても前衛陣に確実に付与されていき、それと共に高威力の攻撃を主体とするソードミラージュがうなり声を上げた。 「……こんな風に悲しいのは、もう終わりにしよう」 臨むソードミラージュ……少女の表情は、醜悪をして余りある。 険を抜き、笑顔を浮かべればさぞかし暖かろうその面持ちを、最早望めぬものと自らに断じたヘンリエッタに、退く卑屈さは僅かにも覗かない。 「さあて、一丁頼むぜ――!」 同様に、前に立つフツが獅子吼と共に前へ踏み出す。 穂先を返し、石突を使っての薙ぎ払い。威力よりも庇い手足るクロスイージスを吹き飛ばすことに重点を置いた一撃は確かに奏功し、故に唯一人残されたホーリーメイガスへと、リベリスタは攻手を一極化させた。 「正面衝突は~、私の戦い方じゃないですからね~」 告げると共に、一瞬の隙を逃さじと、ユーフォリアが自身の姿をかき消した。 高速移動による多角戦闘。双つの繊手に担う戦輪がしゃらんと擦れ合えば、次の刹那にホーリーメイガスの満身は瞬く間に朱色に染まり往く。 「――――――、う、ああ」 「……あなた、たちは」 痛みが故にか、濁々と垂れ流す声音に、ヘルマンが小さく問うた。 戦闘は未だ苛烈。負傷の度合いに於いては中盤に至るか否かの場面に於いて、彼の蹴撃は容赦なく其の生命を裂き削るけれど。 「なにが、あなたたちの救いに、なるんですか」 自らの技巧を以て、対面の矮躯より噴き出す血液の量は夥しい。 その血液は、全てが狂乱の属性を宿し、感染するアーティファクト。前衛に在りて自らの傷口に其れが触れる危険性すら恐れず、唯、祈るように声を為した。 どうしたらいいのかわかんない。 ごめんなさいわたくしばかだから、 わかんないから、おしえてくれませんか。 なにがあなたたちの救いになるんですか。 滴る返り血が、涙のように思えた。 諦める覚悟、諦めない覚悟。そうした中で唯一人、己の立ち位置も定められない青年は、ただただ、彼らの答えを待ちわびている。 ひたすらに矮躯を裂いた。血液となるアーティファクトを、可能な限り多く、多く、無くしてやろうと必死だった。 そうすれば、或いは自我を、なんて、祈りを抱いて。 「――く、ぅ、ぅあああぁぁぁぁ――!」 けれど、セカイは残酷だ。 むずがるように彼の脚を振り払う少年は、その身が頽れる一手前、福音無き謳を言祝ぐ。 「っ、厄介な……!」 グリモアを媒介に魔曲を織り成すシルフィアが、小さく舌を打つ。 何故などと問うまでもない。レオポルドや自身の攻撃による状態異常は、その謳を以て強化された子供達に次々と破られていく。 戦闘は佳境に近しい。 それでも、並々ならぬ負傷をして、未だ殺意を損なわぬ子供達に、リベリスタ達の頬を汗が伝った。 ● リベリスタの戦術は、オーソドックスな分隙が無い戦法と呼べる。 初手にフツやヘルマンによるノックバック効果を介して、敵方の回復手を庇うクロスイージスを引き剥がし、他の庇い手が来るより前に各人を仲間達でのブロック、その後に火線の集中で強引にホーリーメイガスを撃破。 支援、回復能力を欠いた残りの敵に対しての各個撃破を以て、戦闘を終了させるというプロセスは、成る程、確かに理に適っている。 実質、本パーティはリベリスタ達の回復を担当する存在が居ない。手数を減らすことで此方の損耗を可能な限り無くしていく方法は、凡そ彼らが取りうる最適解とも言えるのだ。 ……だからこそ、と言うのも奇矯であろうが。 「ちっくしょォ、が……!」 この戦法に於ける勝利への道程には、幾らかの犠牲もまた必定となる。 元より単純な破壊衝動で動き、連携や能を使った戦術を取りもしない彼らと言えど、個体毎の戦力はリベリスタ達の其れを大きく上回る。 何より、繰り返し言うことになるが、本パーティには回復役が居ない以上、『考え得る限り最速での勝利』が為されない限り、余分な一手、二手を相手に打たせるだけで、その負傷の度合いは極端に跳ね上がるのだ。 傾いだ身体を持ち直して、運命の加護と、逆境が故の獣の本能で底上げした能力が、ヘキサの動きを極限まで高めていく。 「こンなモンじゃ、オレは諦めきれねェ……ッ!!」 紅眼が、残像を残した。 音速を超える兎の瞬断。倒れたインヤンマスターにトドメを刺すことなく振り返るその双眸には、 「――――――ヒ」 短剣のような何かを持った、少女のソードミラージュが。 一花繚乱・チグリジア。 指揮能力と、元来の命中精度。拮抗した技量を薄皮一枚だけ上回った少女の斬撃は、今度こそ少年の身体を地に貶めた。 「全く、容赦が無えなァ……」 深化して尚、その身を拉がせる威力に、フツが寂しげな苦笑を浮かべて――返す刀で、緋槍を振るった。 攻撃ではない。術技の補助動作……陰陽・極縛陣と呼ばれる、インヤンマスターに於ける拘束技の上位系統である。 残る対象は丁度三名。クロスイージス、ソードミラージュ、覇界闘士の一同は、予期せぬ異術に恐怖し、或いは怒り、或いは唯惑っている。 「子供は暴れ盛りが一番とも思えますが――」 其処に、一撃。 構えた魔力銃より、幾度目の精撃を放った九十九が、歎息と共に、構えを解く。 「ま、人に迷惑を掛けるのは頂けませんな」 必殺の属性を介した銃弾は、三名の内一名を地に横たえる。 リロードは行わなかった。その必要が無いことを理解して。 「私は~、皆さんほど優しくはないですよ~」 「悲しかったね。辛かったね。――おやすみ」 影より這いだし、子らの虚を突いたユーフォリアと、最後の最後を以て攻手へと転じたヘンリエッタ。 縛を破らんとする身体の脱力が二つ目になり、そして。 「……おやすみ、なさい」 残る一人、少女を前に、ヘルマンが満身の想いを叩き込む。 肋骨を砕く、臓腑を潰す。そうしなければ彼らはその動きを止めはしないだろうと理解しようと、これだけ想いを移した相手から得るその感覚に、痛痒を覚えるなという方が無理な話。 フツが掛けた縛が崩れる。力なく萎れた朱い矮躯を、そっと抱き留める最中。 「――――――」 まるで、夢を見る少女のように。 小さく呟いたその一言に、ヘルマンは、確かに首肯を返した。 ● 或る意味、この依頼の最も難所と言えるのが、その後である。 戦闘の結果、生き残った革醒者は五名中三名。その処遇に対して、フツ、九十九、ヘキサの三名は生かすことを望み、対してシルフィア、マリアは死なせることへ意見した。 単純な多数決で済ませるならば安易に終わったであろうそれも、けれど双方には譲れぬ理屈が確かに存在する以上、その話はどうあっても複雑になってしまう。 「何時辿り着くか分からん答えなど、意味は無い。世界は椅子取りゲームと同じだ。救われる『席』は『救いを求める者』より遥かに少なく、残酷だ。 そして、アレ等は『椅子に座れない者』だ。ならば早急に切り捨てるが良かろう。『椅子に座れる者』を守るためにも」 「オレも、そう思う。ボトムの技術には明るくないけど、望みがあるというのなら繋ぎ止めるのも良いだろう。でも……」 呵責無き意見と、相手を思うが故の意見。 死亡側を唱える両者の確たる見解に対して、唯『殺したくない』ことを望む生存側は、それに明確な答えを返すことが出来ないで居る。 「……イヴさん」 それを、遠目に見やりながら、レオポルドが小さく呟く。 幻想纏いの向こうに在る少女は、嗄れた声に対して、何、とだけ声を返した。 「彼らがこの先ただ拘束されたまま、死を迎えるまで生き永らえるのみであるのならば……引導を渡す事も慈悲であると、私めは考えております」 「………………」 「宜しければ、後はこの爺一人が、咎を負いましょう。 心優しい若きリベリスタ達のため、革醒者たちは何処か遠くの研究機関にて治療を受けている等にして下されば……」 「――それは、駄目」 断固たる拒絶の言葉。 端末越しの少女の声は、その年に似合わぬ鋼の意志を持って、彼の意見に答えを返す。 「私たちはリベリスタ。唯自他の生き死にだけじゃなく、それに付随する責任も余さず背負ってこそ、総ゆる脅威に対しての覚悟と決意を育む存在として成長していける。 貴方の優しさは嬉しい。それでも、今此処で彼らの重さを奪えば、彼らは『この先』に耐える強さを損なってしまう」 「……左様で御座いますか」 至らぬ真似をした非礼を詫びる彼に、近づく二つの影があった。 ユーフォリアと、ヘルマン。何処か醒めたような、或いは吹っ切れたようなその面持ちを、僅かばかり見た後、レオポルドは声を掛ける。 「お二人のご意見は、宜しいのですかな?」 平時と変わらぬ笑顔のままで、小さく頭を振るユーフォリア。 もう一人……ヘルマンの側は、微かな瞑目をした後。 「答えは、聞けましたから」 少しだけ、歪んだ笑顔で、言葉を返した。 その後、アークとの協議も含めた後、彼らの処遇は『限定的な生存』に確定した。 保護を始めてより一定期間内に有効な治療法が見つからなかった場合、希望者立ち会いの下処分するという形式である。 ささやかな希望と、確たる絶望は、果たして誰にとっての幸福だったのか。 答える者は誰一人無く、故にこの終幕もまた、きっと望まれざるハッピー・エンドであったのだろう。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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