● ここは壇示に設置されたアークの簡易陣地。 幾度と無く現れたエリューション――識別名「空飛ぶ海産物」――の迎撃のために設置された場所だ。 エリューション達の正体は「大山童」と呼ばれる神秘存在に呼ばれた「餌」だった。「大山童」は倒さなくてはいけない訳だが、真っ向から戦って勝てる相手とも言えない。 「餌」である全てのエリューションを倒して、エネルギー源を断つ必要がある。 ここにいるリベリスタは、兵站を絶つのが任務だ。 天狗の鼻岩で開戦の報が入ってから十数分。 迎撃ポイントを識別名・ポイズンウミウシと呼ばれている個体が、前進してこず、その場で陣を組みし始めた。 各チームに警戒のほうが入るかはいらないかのタイミングでウミウシが眼前に迫る。 当たり前かどうかもわからないが、磯くさい。 そして、硝煙の臭いがする。 天狗の鼻岩の健闘の残り香に違いない。 紫色の不定形。突き出る威嚇色。リベリスタの目の前で縛散する。 辺りに異臭。そもそも酸素はどこに行った。 掠めていく生臭い肉。 『きぼち悪い……猛毒撒かれてる……」 どこかのチームの誰かの叫びが聞えた。 前が見えない。 紫色の霧の向こうが見通せなくなった。 『イカがっ、イカが突っ込んでく……うわあ、そこにっ、そこにっ――』 爆発音。 どこかで閃光が上がった。 ● フォーチュナからの通信は、リベリスタを落ち着かせるものだ。普通は。 『あー、あー、聞えてる? みんなの担当は小館・シモン・四門です。よろしくねー!?』 変態とかグロでなければ比較的まっとうに予報ができるようになった『擬音電波ローデント』小館・シモン・四門(nBNE000248)が、するすると予報し始めた。 BGMのぽりぽりという咀嚼音が聞こえないのは、ノイズ避けのためらしい。 『心配しないで。現在、天狗の鼻岩で狙撃班が超健闘中。この調子だと生体盾のクラゲはそっちには行かない。ただ、残念なお知らせがあります。ぼちぼち毒霧も薄れてきてるから、第一弾が視認できると思うんだけど、遠近感狂ってるの混じってね?』 そういえば。 『撃たれた状況からか巨大化、硬質化。ブロック無理。F1カーの前に立ちふさがるようなもんだから。みんなには地上に向けて吹っ飛んでいくイカタコに追いすがりながらなんとか3ターン戦闘状況を維持してほしいんだけど、みんなのとこに飛んで行くのがイカ交じりのタコっぽいんだ。で、タコがでかい。硬い。強い。可能な限りの最大火力突っ込み続けて3ターンでいけるかなってのが、二匹。もちろん、細かいのも飛んでく』 ガトリングタコ。 飛んでくるのが精一杯のイカと比べて、天狗の鼻が赤くなるほどリベリスタに流血させたタコ。の、強化版だと? 『ぶっちゃけ穴だらけにされると思うんだけど、意識を失うのは地面についてからにしてな』 比較的受け入れやすい予報だった成果、今日の四門はなんか頼りがいがあるっぽい感じがする。 『下は針葉樹林だから、落下したら直接地面に激突はしないだろうけど無傷って訳にはいかないだろうし――』 雲行きが怪しくなってきた。 『ごめん! もっと早く俺がタコがでっかくなるって予知できてれば! 控えの人に癒し系頼んどいたのに! ごめん!』 やっぱり通信の向こうで泣き出した。 『待ってるから! 気をつけて!』 ● あちらこちらで戦いが始まっている。 ここからは点のようにしか見えない天狗の鼻岩の周囲で縛散する赤、白、紫。 あの全てがE・ビーストなのだ。 その爆炎の中から、他のイカやタコとは明らかに大きさが違うものが混じっている。 千切れた仲間の肉をはんでいる。 そして、物理的に大きくなっている。 連絡を受けてある程度覚悟はしていたが、実際に見ると気分が悪くなる。 そして、次第にエリューションの群体が大きく見えた時、飛行スキルを担当するリベリスタが叫んだ。 「翼の加護、発動しました。よろしくお願いします!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:田奈アガサ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年04月24日(水)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「『空』とはこういう場所なのか」 『無銘』熾竜 伊吹(BNE004197)は、四方に何もない空間に放り出される感覚を体感する。 「お前に少し近づいたような気がするな、相棒」 とはいえ、フライトレコーダーのように再生される『記憶』は、歩くより前に飛行を覚えた奴の記録的記憶と感覚的記憶が入り乱れる。特に後者は違和感ありすぎて伊吹には理解不能な領域だ。 僅かな時間飛ぶという神秘現象の象徴としての小さな仮初の翼と、実際に生えている翼の差は余りにも大きい。実在しない器官の記憶。 (まあ精々参考にさせてもらおう) そんな独白にも、どこか逝った黒羽根のアルバムをのぞく後ろめたさと懐かしさがにじんで来る。 離れたところでも、爆散、火花、剣戟。 そして圧倒的に塩臭い。 山の中だというのに、強烈な深海の臭いがする。 星空を、マリンスノー降りしきる深海と錯覚してしまいそうだ。 「おお、タコやらイカがまるで流星の様に……まるで火星から宇宙人が攻めて来たかの様ですね」 『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)も、それなりに世情にまみれてきたようだ。少なくとも、火星人のデフォルト想像図がタコなのは知っている。 先に逝きし古強者の魂がアラストールを包む盾となる。 アーク以前の記憶がないアラストールにはそれが誰だか定かではない。 しかし、それが最大の加護だということは肌でわかる。 「空飛ぶ海産物か……話には聞いていたが、なんともシュールな光景だな」 『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)の背中に赤と黒が入り混じった小さな翼がピコピコしているのはなかなか視覚の暴力だ。 翼の加護をかけた補助要員は、詠唱が終わったとたんにえらい勢いで自分の口をふさぎにかかっていた。 「いざ実物と対面するとなるとなんとも言えない気持ちになるね」 『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)は、暗視ゴーグルをのバンドをしめなおす。 実戦経験が片手に満たないにも拘らず、精鋭の中にまぎれても物怖じしないのは頭のどこかに居座る記憶のせいかもしれない。 身につけた道化師の服に顔の半分だけを覆った道化師の仮面。 これが、宗二郎が自分に定めた戦闘装束だ。 人を傷つけるのが嫌いで、人の笑顔を見るのが好きな青年が、見知らぬ記憶を受け入れて戦うと決めたとき、本来の自分と戦闘に身を投じる自分とを区別するため、そのときだけは自分の心を偽るための重要な装置だ。 だから、闘気を爆発させても、道化師はどこまでも冷静。戦うためだけの存在だから。 「此処に来るのも久方ぶりだけどボス戦とかもあったのねぇ。 "Watch out, watch out!"と聞こえてきた頃かしら?」 『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)は辺りを見回す。 「予知どおり、イカ改とタコ改がくるわよ。普通のイカも。位置関係は――」 超直観も駆使して、予報では補足しきれない海産物の飛行ルートを読み取るエナーシア。 「敵の進行と垂直方向にフォローが効く程度に空中で散開して待つわ」 指示された位置に散って行くリベリスタ。 「あー懐かしいですねコレ。このイカだかタコだか随分昔に関わった覚えがあります」 真っ白いエプロンからは石鹸ではなく硝煙の臭いがする『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が、相槌を打つ。 とはいえ、風にかき消されて途切れ途切れだが。 海産物の通過で乱された気流の中、強化された三半規管を駆使して巨大な銃器を担いでなおその姿勢に乱れはない。 「……私が参加した時が確か初めての出現だったので登場から丁度2周年ですか」 ふむと、メイドは思いつく。 「無駄にロングセラーですね。記念に『IKATAKO The Second Anniversary』でも作ります?」 大御堂重工で作るイカタコグッズとは如何なるものか。巡航ミサイルではないことを祈りたい。 「ちなみにアークはもうじき3周年です。イカタコは残念ながらそれと並ぶ事はありませんがね」 そう。これが最後だ。 有終の美で飾らなくてはいけない。 足元の木立の中、打ち漏らしを水際で叩き落す任を得て待機する者、更には地面の下で眠る飢えた水棲神秘存在を屠る者達のために。 目印になるものがないので距離感がつかみづらくなるだろうと危惧していた『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)は、先ほど地上で目星をつけた木の間を空中で飛んで距離感のつかみ直しをしている。 普段なら、それは回復のためだが今夏に限っては攻撃のためだ。 残念ながら癒している暇はない。各々の地力を信じるしかない。 とはいえ、腹の底からこみ上げて来る嘔吐感は、間違いなく猛毒だ。 回復役の的確な動きが鍵といえた。 「3ターンを耐え切って、3ターンで倒しきらなきゃいけない……短いね」 『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)は、仲間を自分の炎から護る為に距離をとって前を見据える。 (でも、他のチームだってがんばってるんだもん。此処で負けたりなんて出来ないよ) 「いっぴきも逃したりしない。みんなぜったい、無事でかえろーね。がんばろ!」 道化師が応じた。 「──アンコールは存在しない。ここがラストシーンだ」 ● コウイカの甲――が硬質化しているのは見て取れた。 巨大なタコ改が二匹と、イカが一匹。 三匹の巨大な海産物はそれぞれ進路を変える。 どれか一匹でも、腹を減らした「呼びし方」の元に届けばいい。 旭にとっては、赤は好きな色、そして、嫌いな色。 頭からこちらに突っ込んできたタコが器用に体の向きを変える。なぜ足がもつれないんだろうという疑問が不意に浮かんですぐ消えた。 ガトリングタコ改の巨大且つ長大な八本の足が宙に広がる。 向けられる吸盤は白い。 バトルドレスのすそが翻る。髪に飾られた白い花は無事の帰還を待つ人の存在を。首に巻かれた夕日のドックタグが死しての帰還の可能性の存在を示す。 大事な者のために身を捧げようとする巡礼者に殲滅の炎を。 握り締めた拳から吹き上がる火柱が、前後左右更には上下。赤い火球となってタコに迫る。 紅蓮の火球から頭を出したタコの表面は炎を宿してなお巨大化したように見える。 「最後、地上に立つのは奴らではなく我々だ」 伊吹はタコの軌跡を追って降下する。 構えた白い腕輪。キマイラからの戦利品。伝説の宝貝の銘を持つ。 「肉片一ツたりともこの地に触れさせてなるものか」 頭部を打ち砕いては手元に戻るアーティファクトが、夜空に白い軌道をいくつも描く。 「イカタコの目は大きくて狙い易く撃ち抜けば急所で撃ち返しも防げる。狙わない手は無いわね」 狙撃の美学に耽溺するエナーシアの小さな銃の見た目に騙されてはいけない。 針は細い方が急所を抉って痛い。 「バキュラすら撃ち落す連射。黄泉時の土産とするが良いのだわ」 256発もエナーシアならいけるかもしれない。 すれ違うように叩き込まれる大量の吸盤。 生体弾丸が交差するように突き刺さる。 天狗の鼻岩で、狙撃手たちが何より警戒したものより更に口径が大きい。 アラストールの身体中に無数の弾痕。 かざされた祈りの鞘がへこまないのが不思議なくらいの一斉放火。 「むぅ、流石は、西洋名デビルフィッシュ、日本ではたこ焼き。手強い」 アラストールは、秀麗な頬から流れる血を手の甲でぬぐいながら一人ごちる。 たこ焼きとは、海の悪魔を倒して初めて食べられる聖餐だ。悪魔が暴れないよう灼熱の内に飲み込まねばならない。 「騎士を容易く抜けると思うな、海産物」 幅広の刃が白光を放つ。 破邪の刃は悪魔の名を冠すものを叩き切る為にある。 ● 「……ってぇな!」 タコに追い縋りつつ、イカにも直ぐに攻撃出来る位置を意識して位置どっていた赤い男・ランディは身体中に走る痛みに悪態をついていた。 目の前に飛んできたもう一匹のタコの吸盤は、悪態をつかせるほどにまともに入った。 持てる全力が手にした巨大な斧に集約していく、夜目に赤色巨星と見まごう光球。事前の打ち合わせで単体攻撃と知れていなければ周囲が恐慌状態に陥りそうな大きさだ。間違っても巻き添えになりたくない。 「――これで沈んじまえ!」 背後から追いすがるようにして叩きつけられる光球が急速に熱し、タコの足をぶちぶちと内部から爆発させる。 怒りにとらわれているようでも、ランディの頭のキンと冷えた部分がを複数射撃組が巻き込みやすい方向目掛けて吹き飛ばす。 「1匹たりとも通すわけには行かないんでね」 宗二郎の指先にトランプ。身の内からあふれ出る暗黒と化した闘気を纏わせて虚空へと撃ち出される。 「黒よりなお暗い闇を。クラブのJ・Q・Kだ」 三枚のトランプが、タコ改の赤い頭部にめりこみ、反対側に突き抜けていく。 周りにいたイカは爆散したが、タコは軌道を変えて地上に降下し続ける。 しかし、宗二郎がもたらした不運と不吉は確実に効果を発動していた。 「――パンチラの危険性が無くて助かりましたね」 射程に飛び込んでくる不運なタコに照準を合わせながらモニカはそう言うが、見える訳がない。備えは万全であるからして。 「ぱんつじゃなくてドロワーズだから恥ずかしくないもん!」 言った後、微妙な無表情になる。 「……ネタが微妙に古いですね」 自分の中で消化不良になった空気を打破するかのように引かれる引き金、放たれる死神の魔弾。 ぞっとする程の命中精度で放たれる、本来なら戦闘機や戦車から打ち出される砲弾。 「タコと言えばスミなので口を部位狙い――」 そんなモニカの呟きを拾ってか、AFに「攻撃手段は吸盤のみ!」の部分がふと文字で点滅する。 「――あんなもん梱包のプチプチみたいに全部潰せとか嫌ですよ、私」 エナーシアが全ての吸盤を叩き落す精密連射なら、モニカは全てを一撃で終えさせる圧倒的火力だ。 幸い、タコの口は一つしかない。 ありえない大きさの砲弾をねじりこまれたガトリングタコ改の頭部は後ろに向けて爆散する。 後に残るのは、反射で吸盤を打ち出す踊り狂う蛸足八本。 まだ手を休めることは出来ない。 足だけでも充分、地下の大山童の口を湿らせることは出来るのだから。 海産物は、ばらばらにされても問題ない。 踊り食いという選択もある。 ● 「纏めて造りにしてやるから覚悟しな。短期決戦だ、出し惜しみは無しで行くぜ!」 言葉通りの大盤振る舞い。 夜空にひときわ大きな花が咲く。 攻撃行動は順調なくらいだった。 ただし、爆散したイカの破片と爆風が容赦なくリベリスタを襲った。 空中でシェイクされて、どちらが空でどちらが地面かわからなくなる。 潮のにおいがする。それが、海産物のにおいなのか自分が流している血のにおいなのか、冷え切った空気の中、凍りつきそうな花の感覚は半ばおかしくなっているのかもしれない。 3ターンの電撃戦の間、普段なら鼻血が出るほど癒してくれるアンナも断罪の光を海産物に叩き付けるのに専念している。 「前のも後ろのも巻き込むわよ!」 ぐるりと周囲を見回し、全員の配置を確認する。 ぎりぎりの射程で最大限の効果。 事前の距離感覚の確認が効を奏したか、前方を行くイカ改に続き、第二陣のイカが巻き込まれた。 しかし、イカの報復は容赦なくアンナを襲う。 アンナの体を跳ね飛ばす飛行物体。 腕でかろうじて顔と急所だけはかばうが、意識が飛びかける。飛行し続けようとする意志が途切れる。落下。下は針葉樹林。墜ちたら、リベリスタといえどもただではすまない。 『ごめん! もっと早く俺がタコがでっかくなるって予知できてれば! 控えの人に癒し系頼んどいたのに! ごめん!』 と泣くフォーチュナに、 『ああもう落ちた後は私が自前で治すから泣くな!』 と通信越しに叱咤したのはつい数分前なのだが。 (年上とは思えないなホント……!) これで落ちたら、更に泣くに決まっているので。 「落ちてられないのよ! 治してる時間も惜しいんだから!」 運命は、勤めに励む人間を愛している。 アンナは無理矢理方向を捻じ曲げると、海産物の落下予想ルートに回りこんだ。 「中々しぶとい。次のオーダーはこれだ!」 スペードのロイヤルストレートフラッシュがイカを爆散させる。 宗二郎は、自分目掛けて飛んでくる断末魔の肉片をどうにかぎりぎりで耐え切った。 腹の底にわだかまる毒の気配がようやく去ったかと思うと、体を削る断末魔の弾丸が体の深部を抉る。 (身を穿つ吸盤や炎の触手にひるむことはない。常闇を3発打つ体力さえあれば十分だ) 仮面の内側が、喀血で汚れた。 遠のく意識を無理矢理恩寵で繋ぐ。 時間もそうだが、リベリスタの方も限界だ。 「撃たれるの気にするよりも、海産物を先に撃ち抜いて通さぬ気概で参りませう」 そう言うエナーシアはイカの断末魔の特攻を食らい、すでに恩寵を磨り潰している。 その銃身は、極寒の空中だと言うのに冷える暇もない。 もしもイカタコにもう少し自己推進機能と脳みそがあって、こちらを片付けてから改めて目的地へ。としたら、リベリスタが負けていた。 「ふむ、これだけ生きが良いなら……美味かもしれませんね」 しれっとして呟くアラストールは、眼前で剣を構えなおす。 「もう後がねぇ、一気に押し込め!」 刻々と変わる戦況を読み、最も効果的に敵にダメージを与えられる者こそが「千の棋譜」の業を背負うに相応しい。 ランディの声に、タコとイカは閃光の向こうに沈むほどの飛び道具を叩き込まれる。 頭部を吹き飛ばされ、すでに足は射出する吸盤部分を八本全て欠損し、残るは足の付け根がかろうじて動いている。 その空隙をついて、アラストールは力いっぱい加速して深々と剣を突き立て止めをさす。 「そんな美味しいものを食べさせる訳には行きませんのでね。おいしいが故に、ここで最後です」 食われるために飛んできた海産物にとっては、最高の賛辞だろうか。 アラストールは大きく抉る。破邪顕正。爆散。 「もうあのタコは沈む、もう一方に重点的に叩き込むぞ!」 リベリスタ達はきびすを返す。 「私、これでニ発目なんですよね」 超遠距離から打ち込まれる超大口径。反作用で逆の方向に飛んでいかないのが不思議なくらいの衝撃をモニカは難なく逃がす。 まずは、と、旭が飛び込んでいく。 「近寄らないでね!?」 楽団戦で仲間を巻き込まざるを得ない局面もあったので、つい神経質に叫んでしまう。 「…っ、タコさんかたい…!」 じゅうじゅうと音を立てて蒸発する水蒸気。やがてたんぱく質が焦げて炭に変わるのがにおいでわかる。 「はやく、はやくおちて」 旭は火力を上げる。早く焦げろ。ボロボロの炭になれ。 「イカが――」 それまでタコに手数をかけていたため、全体攻撃に僅かに巻き込まれるだけだったイカ改が加速する。 コウイカの触手は短い。それが大王イカと見まごう程長く炎を引いて、空間を引っ掻き回す。 何人も傍によることあたわじと、加速する。 イカが星のように流れる。射程から僅かで外れる。モニカの再装填まで間に合うか微妙だ。 こういう事態もあるかもしれないと動いていた男がいた。 役に立つかどうかわからない「戦闘記憶」に引っかかったので。 「――まだ、焼きが足りていないんじゃないか!?」 伊吹が投げた白い腕輪がぎりぎりでコウイカにめり込む。 「もう少し焼かれていけ。中の中まで炭になるほどなぁ!」 腕輪に仕込まれた神秘が、「呼びし者」の腹に収まることを切望したコウイカの夢をくじく。 今飛んできた軌跡を逆戻り。リベリスタのど真ん中へ。 イカ改が再び炎の触手を出すまでの数瞬の猶予。 待ち構えていたリベリスタには、それで充分だった。 ● 「……やきいかたべたい」 落下制御の恩恵で、ふんわりと地面に着地した旭はぼそりと言う。 海産物を相手にしたリベリスタはしばしばそんなことを口にする。 特に旭は炎を使っていたので余計そう感じるのだろう。 食われるために飛んできたイカタコは確かに焼けると美味しそうな匂いがした。 その肩をアラストールが優しく叩く。 見交わす二人。その瞬間通じ合った。 寄り道が決定した。 伊吹は夜空を見上げる。 足元に、踏みしめた草の青い匂い。 (地面の感触とは頼もしいものだな) さっきまでの浮遊感はしばらく味わいたくはない。 (俺は大地を守れただろうか) まだ戦闘は続いている。これから本番の連中が動き出す。彼らの邪魔にならないよう、急いでこの地を離脱しなくてはならない。 (空を守っていたあいつは、もういないのだな) あいつは、もういない。残滓だけが自分の中に。 人が完全に死を迎えるのは、全ての生きている存在から忘れ去られたときだと言う。 ならば、「あいつ」はまだ当分死ねそうもなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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