安楽椅子？ いえ、悦楽リス。――ぬくぬく改！――』
|
● とろけそうに柔らかく、どこまでも緻密な手触りが肌の上を滑っていく。 「ああああ――」 包み込むように暖かく、肌に吸い付くとも跳ね返るともつかない絶妙の弾力が、今までの経験はなんだったのかと煮えたぎる脳みその一部が驚愕に陥る。 神様ありがとう、この子に会わせてくれて。 「さ、最高だぁ――」 もう、君を放さない。 ずっと、ずっと、このまま君に包まれて朽ち果ててしまいたい。 ● 「――という、危険な――」 『リンク・カレイド』真白イヴ（nBNE000001）の無表情。 「ぬいぐるみ」 はい？ 小首を傾げるリベリスタの疑問を置き去りに、モニターに映し出されたのは、巨大キャラクターショップ。 デフォルメされた動物だの、想像上の動物だののキッチングッズやら文房具やらジュエリーやらが、ごちゃまんと売られている。 人目を引くブース。 巨大なリスのぬいぐるみがずらりと並んでいる。 バイデンサイズのでっかいリス。 なかなか愛嬌のある顔つき。 毛並みが長い訳ではない。 顔が写りこみそうなほど光沢がある素材。 むっちりした安定感のあるフォルム。 大きなお目目。ちょこんとした前歯もさることながら。 大きなお尻尾。 くるんとしたお尻尾。 もっきゅんもっきゅんしたくなる体より、あからさまにでっかいもぉっきゅんもっきゅんのお尻尾。 見れば分かる。あれは、よいものだ。 前から抱っこもかわいいが、あのお尻尾はいっそ官能的と言って過言ではない！ 言い値で買おう。いくらかね。 「これはディスプレイ用。ぎゅっと抱きしめて体感して下さいっていう……」 企画者をほめてあげたい。 「しかし、行過ぎた技術は時として悲劇を撒き散らす」 え、なに。そのＳＦ的台詞。 「このぬいぐるみ、出来がよすぎた。というか、あまりに気持ちいいを追求しすぎた。りすで、ぬいぐるみで、この大きさで、おしっぽで、この詰め物で、デザイン。あまりにも構成要素が偏ってしまった。世界にゆがみを生じさせたほど」 はいぃ？ ぬいぐるみで揺らぐのか、この世界？ 「Ｅ・ゴーレム。識別名「悦楽リス」。すでに、このリスのぬいぐるみが見本市に出されたとき、一度討伐されている」 訂正、揺らいだのか。そして、リベリスタが人知れず崩界の危機から守っていたんだね。 「効果。一度ぎゅっとすると、もう離れたくなくなる。離れられなくなる。一般人には抵抗できないね。リベリスタも危ないね。エリューションにそんなことされたら、惨劇必須」 これが、立って、歩くの？ 連れて帰ってきちゃだめ？ 「エリューションは、拡散し、増殖する」 存じ上げてます。 「問題の『悦楽リス』。むっちりもっちりぬくぬく捕縛タイプ。この冬じっくりもきゅもきゅされて、革醒しちゃった。大人の事情で手を回して、「触らないで下さい」にしてもらったんだけど、皆改良版新素材の誘惑には勝てなかった」 まさか、おたくの会社のぬいぐるみ気持ちよすぎて、化け物になるんで販売しないで下さい。とか、言えない。 「速やかに、急行。せめて清らかな存在の内に、討伐。前歯が罪もない人の血で染まることのないように」 はぁい。 「そんな心痛む依頼を受けてくれる皆をねぎらう気持ちがない訳じゃない。このぬいぐるみ、常識的なサイズで発売中だから、優先的に取り寄せる。希望者には頒布予定」 だから、がんばってと、僕らのモチベーション維持に勤める高一少女、マジエンジェル。 |
| ■シナリオの詳細■ | ||||
| ■ストーリーテラー：田奈アガサ | ||||
| ■難易度：NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
| ■参加人数制限： 8人 | ■サポーター参加人数制限： 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月21日(木)10:33 |
||
|
||||
|
||||
| ■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
● 深夜のおもちゃ屋さんというかファンシーショップというかキャラクターショップ。 一度は特攻してみたい楽しい場所である。 かぽーんかぽーんといっちょもんだるわ～いな悦楽リスさんが四体もハグする相手を求めてうろうろしていなければ。 革醒したぬいぐるみの欲望は、誰かがぎゅっとして、あられもなく出す声を聞いちゃいたいもちもちって感じなのであるからしてして。 「どーも、毎度おなじみ野次馬リベリスタの葉月です。今日は悦楽イスさんをリポートしに来ました。ついでに討伐もしますよ！」 テンション高めの軽いノリで、仕事は真面目にきっちりと。な、葉月・綾乃（BNE003850）さん。 （多少バカっぽく見えるほうが色々気楽なんです） フリー女子アナの悲哀が滲み出てますよ？ （……前回リスに懲りた気はするんですが、心情の変化といいますか何といいますか） そうだね。見本市会場で、もう当分リスはいいですとか言ってたね。 （ぶっちゃけ恋人すら居ない寂しいアラサーなのでリスの一匹も欲しいんです――っ） 切実。春一番さむーい。 （もちろんいい男が居れば一番なんですが――） 「悦楽すら感じさせてしまうほどの触り心地のリスなんて、もふリスタである俺がもふもふしないわけがない！」 本日参戦、しぶい50歳のおじ様、アーサー・レオンハート（BNE004077）はモフリストで、心はリスに一直線。妙齢な女子には目もくれないフェティッシュ振りだし。 「いやなに、別件のイベントのネタの仕込みの最中だったから着替える時間がなかったんだよね。カッコは兎も角、仕事はキッチリと済ませるから気にしなーいきにしないっ」 鷲峰 クロト（BNE004319）は、すっげ安っぽいビニール製大銀杏風帽子で来てますよ？ あの端っこすぐびよびよになる奴。 問題です。この二人は寂しいアラサー女の心の隙間を埋めることが出来るでしょうか。――うん、無理。 『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ（BNE000151）は、目を見開いていた。 （つぶらな瞳、ぷにぷにおなか、しっぽまであんこもっちり……そして全てを受け止めてくれそうなこの巨体……） 暗視と超直観がティセに悦楽リスを一足お先に全貌公開してしまったのだ。 （――あぶないあぶない、いきなり特攻するところでした。バッチリ見えてるのも考え物だね） 高鳴るふくよかな胸をどうしたらいいの。 「もふもふ……もちもち……ぬくぬく……ふふっ」 『緋剣姫』衣通姫・霧音（BNE004298）は、もふもふもいけるんですよ？ （……私だって人の子なのよ？ 温もりは恋しいし、可愛いものだって……嫌いじゃないわ） 守備範囲が広いのはいいことです。 （だから、ね。独占したって良いわよね……ふふふ） もふもふはみんなで分かち合おうという三高平のモフリストの共通概念に刺客が来たぞぉ！ 「これは私が某動物王国特番（※現在ＢＳで後継番組放送中）好きの道産子、一条永と知っての狼藉ですか！？」 『永御前』一条・永（BNE000821）の熱い叫び。 いえ、そう訳じゃないんじゃないかなぁ。リスの形態、エゾリスじゃないし。ほら、お耳丸い丸い。 『ソリッドガール』アンナ・クロストン（BNE001816）は、日常のありがたみを噛み締めていた。 （や、やっとゾンビから開放されていつものアークが戻ってきた……！） 暗闇にぼんやり浮かぶ悦楽リスのシルエットに涙がにじむ。 自ら発光すると、ぽわわんと浮かぶ懐かしいむっちむち。 （意地悪な上位世界に振り回されつつ、たまにもふもふぶさかわでリフレッシュする私たちの日常が！） ほら、視線が通らないと治せるものも治せないから、早く涙をお拭きなさい。 （万歳！ 万歳！ もう来んなバロックナイツ！ ――また来そうだから今のうちに気分を上向きにしておこう、うん） さすがに、状況をわかっていらっしゃる。 『本屋』六・七（BNE003009）は、ニコニコしていた。 （あのときのリスをまたもふもふ出来る……なんて幸せなんだ……） おっと本音が脳裏を走るぜ。 （……じゃなくて、覚醒しちゃったものはきっちり退治しておかないとね。動く極上ぬいぐるみを倒すのは勿体無いけど……） 革醒しちゃったものを放置することは出来ないね。ビルよりおっきく巨大化とかしたら、ちっちゃい子がプチっとかなりそうだし。 ● 「あの大きさ、いいですねぇ、抱き枕にしたらちょっと大きすぎるかもしれないけど、家に置いといたら少しにぎやかそうで」 アラサーがまじで三十路に突入するまで後半年余り。 綾乃さん、ちょっとナーバス？ 本日の防御の傾向と対策を一席ぶちながら、考えているのは悦楽リスのいる生活。おお、ドルチェ・ヴィータ。生活に潤いを。温感ジェル。 リベリスタの鼻息が荒い。赤いひらひら振り回されてる闘牛程度に荒い。 こういうとき、モフリストでないと、割りと疎外感を感じやすい。 「この一番を負ける訳にはいかないッス、勝負は非情ッス、どんな相手でも白星飾って勝ち越すッス！」 意志力アップの為に、がぶる気十分のクロトの滑りっぷりは切なさがこみ上げて来る。 つうか、クロト、長身細身、相撲取りキャラじゃないからねぇ。アンコ付けてから出直してもらおうか。 「ま、まずは職務を全うするよ」 ティセがぼそっと呟く。一同、神妙に頷く。そーだ。まず、仕事しよう。 前衛は敵の1匹をブロックしつつ、数を減らすことを優先してみんなと同じ敵を攻撃する。 後衛は、そのフォロー。 ティセのクローがバリバリ音を立て始め、小さな金色の稲妻が間合いにいる悦楽リスの腹を撃つ。 ぽんよよよよよ～ん！ ばべちばべち。ぷるるん感アップ。 波打つ腹がティセの鼻っ柱にヒットする。 「はにゃ～ん」 びしっと斬新まで決めた雷の闘舞の直後、またたびなめたニャンコみたいな声を出して、ティセ、くたくたとへたり込む。 「あ、あたしは、そんなのには惑わされないんだよ～！」 とか言いつつ、一瞬お顔をむっちり包んだリスの腹の感触に背筋ゾクゾクだ。 （ちょ、ちょっと天にも昇る気持ちだったのです。落ち着いてあたし、まだチャンスはいっぱいあるよね？ 出来るだけ長い間、この感触を楽しみたい……っ！） 七の振りまくカードの嵐で、一番焦げが大きい悦楽リス一体の姿が見えなくなる。 （まずは集中攻撃して確実に倒していかないとね。やっぱり勿体無いけど……） 目の奥がじんわり熱くなっちゃうけど、チカタナイネ。 赤と黒。赤は血の色、黒は罪の色。 投げたカードがはじき返されるのと同時に、ぷくぷくおててが奈々のほっぺをなぁでなで。 （相変わらずとろけるような肌触り、そしてこの弾力……つぶらなひとみも可愛いし……） うっきゅるぅん。 （ゆ、誘惑に積極的に負けるのは良くない。だって……敗走するわけにもいかないし……でも……！） さあ、何も考えずにこのむっきゅむきゅで更にぷりぷり感アップのお胸の中に飛び込んでこいやぁ。 （大きなおしっぽ……とってももちもち……むぎゅむぎゅ……あぁ……、だめ、抗い難い……） ダーイブ！ 奈々に待っていたのは、ぎゅっと抱かれてぱんっぱんに張った頬袋でほっぺをもぎゅもぎゅされるほっぺもちもち。 身長2メートル50のバイデンサイズのリスにこんなことされたら、足が宙に浮いちゃいますよ。 その浮いた足が徐々にだら～んとなる様子をお楽しみ下さい。崩壊。 勢いに任せて首の筋がうっかり変わっちゃうとこが玉に瑕です。不吉。 誘惑に負けたら、あなたもああなるのです。 「……フッ、生憎だったな、シリアスで硬派な俺には見た目の愛らしさとかじゃー心を乱されないんだぜっ？」 やったぜ、クロト！ ぬいぐるみの愛らしさにやられない、普通の男子枠！ 軽やかにきりもみを決めて、奈々をもきゅもきゅして悦に入っているリスに斬撃を決める君は、今、大気の妖精。 頭にかぶっている大銀杏ハットが全てを台無しにしているが。 「はいはい、正気に戻ろうね」 綾乃、愛におぼれる他人を見るのがなんとなく許せないアラサー女子。 「はぁ……はぁ……」 凶事払いされた七は息をつく。 「前に出れる戦闘スタイルで良かった……」 ダイブしてもなんとかもつからか。能動的むきゅむきゅ機会が倍率どんだからか！？ 薙刀・桜に闘気が宿る。 永が突進、袈裟に切り下げると反作用でぱっぷるぅんとおなかが永の手を打つ。 「んふあああああぁ……」 大奥様ったら、旦那様しか聞いたことないようなお声出して。 （この吸い付くようでありながらさらさらとした肌触り……まるで赤ちゃんのほっぺたのよう――） 「はっ、いけない、戦わないと！」 我に返る。 ずも～んとかわいいポーズの悦楽リス。 （そう、栗鼠はその可愛らしい外見とは裏腹に警戒心が強く繁殖期は凶暴なのです） それ、オキニイリの番組知識ですか。 その頃、アンナは涙ぐんでいた。 いや、涙で前が見えないとまずいので、振り払う。 （回復役は倒れるわけにいかないから、もふ相手でも後衛です……ああデジャ・ヴ） 自分が光っているから、リスのぽゆんぽゆんのおなかやら控えめなおててやら、これがもうよく見えるんだな、これが。 「うおおおおおおっ」 地を這うような唸り声。 アーサーは後衛です。 ばかでっかいオートマ持ったクリスタ？ 残念。癒し系ナイトクリークなので、後衛です。 「最初からもふれる前衛の者達が羨ましい……だがしかし、耐えろ、耐えるんだ、俺！ もし万が一倒れてしまえばもふもふが楽しめなくなってしまうのだから！」 もふ依頼の後衛の嘆きを共有する50歳と17歳、熱い握手。 ● 「あぁ……このほっぺも、ぽんぽんも、尻尾もたまらない……♪」 ずっとひたすらに全力防御でリスをブロックし続けてきた霧音の語尾が弾んでいる。 （いつまでも抱き締めていたい。抱き締められていたい。この温もりに抱かれて居られるなら、ずっとこのままでもいいわ……） いい具合に悦楽リスの罠にはまっている！ 正気に戻れと後衛たちのやっかみと愛が入り混じった福音が、霧音を現世に引き戻す。 背中に感じる、エンビィアイズ。 「わ、判ってるわ。任務は忘れてない」 ついに順番が回ってきたのだ。霧音のリスがぽえんぷーされる番なのだ。 無銘の大業物をずらりと鞘から抜き出し、今の今までいとしかわいと抱きしめた悦楽リスのぱっつんぱっつんの柔肌に、破れかぶれのときを背負って、息もつかせぬ圧倒的斬撃斬撃さらに斬撃。 いきなりぼっこぼこにぶたれたので、おててもお尻尾もしおしおとしてしまったリスの目に涙――じゃなかった、溢れた温感ジェルがにじんでいる。 心の痛みが、霧音の立っている力を削る。 「残り一匹になったらもふる、残り一匹になったらもふる、残り一匹になったら……」 アンナのうわごとのボリュームが上がっていく。 段々もふれるリスが減るのと、リスが減らないともふれない、そんなアンビバレンツ。 （別にもふれないわけじゃないわけで。我慢だ。最後の一匹になったら存分に……！） アンナは、心の平安の為に鉄心とるといいんじゃないかな。 ● 「そのもっちりはあたしのだよ！ 取っちゃヤだよ～」 「この子は私のよ、あげないわ！」 残り、ニ体。ティセがブロックしていた悦楽リスは、業炎撃を食らって温熱ジェルがぷっくら膨らんで、更にはちきれんばかりにパンパンになった後、魔氷拳で冷やされて温かいんだか冷たいんだか訳のわからない状況になっている。 すっかり悦楽リスのトリコになってしまっているティセと霧音の、リスの尻尾の占有権を巡る言い合いは、微笑ましい。 悦楽リスにがぶがぶされていなければ。 そんな楽しげな前衛を見る、胡乱げな後衛の目。 温熱ジェルがばぷんと破裂し、三体目がくたくたと地面にわだかまったのを見たとたんに、後衛人の我慢は限界に達した。 全力移動からのダイブ。 ばびたんばびたんと地味に体感に蓄積されるダメージもものともせず、ほんわかぷーな感触に瞳を閉じる後衛陣。 「ふぁぁ……もうだめ……離したくない……」 （いーやーさーれーるー） がばちょーっと、リスの腹の中に沈んでいく金髪セーラー服。 幸い正気を失うことはない精神無効なので、純粋に悦楽リスの触感を楽しんでおります真のモフリスト。 ベッタリ張り付いたまま、詠唱を続行していますが、ちょうどいいところに頭があるので、こりこりとくるみのように齧られている。うん、痛い。 「うぬぬぬぬぬぬううううぅぅ！？」 アーサーの背後に透過線効果、ピッシャーンと感動の雷が落ち、黒目が消失。 「とろけるように柔らかいのに、それでいてしっかりとした繊細で緻密な触り心地。張りのある弾力を持ちながら俺の指や体を優しく包み込む……こんな夢のような感触がこの世に実在するとは……！」 開発者を呼べい！ と、叫びだしそうな気配。 「理性がどんどん剥がれていくのが自分でもわかる。この悦楽から抜け出すなんて出来る訳がない！！」 うわあ、おっさんリスの感触に完全敗北宣言！ 戦わなくちゃ、現実と！ 「あひゃん！ いいですこれ！ もう離れたくない！」 綾乃のなりふり構わぬ叫びが真っ暗な店内にこだまする。 「何もかも忘れて、このままふにゃ～っとしていたいっ！」 戦わなくちゃ。現実と。 後衛が我に返るのを待っていた。 「ごめんなさいね。私はあなた達を斬らなきゃいけないの」 前衛諸君は、ああ、自分たちはこういう風に見えてたんだな～と客観的視点を取り戻す。 我に戻りたくなんかなかったぜ。 束の間クールダウンは、早くこの存在を葬って自分の痴態をないことにしたい方に天秤を傾ける。 「でも、いつか。そういつかこの温もりを私だけのものにしてみせるから、ね……」 霧音は小さく誰のものにもなれないで廃棄される運命にあったディスプレイ用特大ぬいぐるみに誓った。 （真のもふもふを極めた者は知っている） 永は、自分の八十年余の記憶の中から最もすべすべ出心を柔らかくさせてくれた存在を思い出す。 （柔らかさと張りだけではなく、適度な硬さ、そして何より命の温もりが必要なのだと） 「――ふふっ、私が一体何人の赤ちゃんを抱いたと思っているのです。確かにそのもふもふぬくぬくの技術は賞賛に値します。ですが、あの温もりに比べればまだ甘い！」 勘弁して上げて下さい。それに勝る存在を人工的に作るのは無理なんじゃないかと思われます。 という訳で、今回もたっぷりといい感触を味わいつつもリベリスタは任務を完了したのだ。 ● リベリスタは、猛烈な勢いできびすを返すと、現場を離脱しつつ、それぞれのAFに向かって話し出した。 「ぬいぐるみ取り寄せ要求するわ」 「ぬいぐるみ希望」 「ぬくぬくタイプを勿論希望で。言い値で買おう、いくらだ」 「真白さん、仕事はほら、終わりましたから！ ぬくぬくの普通サイズ、取り寄せお願いしますっ！ 代金は払いますから！」 「常識的な範囲で出来る限り大きいの！」 「優先的に取り寄せて貰えるのは嬉しいよね。普通サイズのリスぐるみ、今度も楽しみだなあ……わくわく」 その背を見送るクロトはぽかんと口を開ける。 「永さんは、取り寄せ、いいのか？」 「一体だけだと、孫と曾孫の間で取り合いが勃発しますから」 永のの売りに取り合いのはて、首だの足だの腕がもげた人形だのぬいぐるみだのロボットだのと一緒に、泣き喚く息子に孫に曾孫の顔が思い浮かぶ。 更に、気まずげなその母親たちも思い浮かぶ。 おもちゃは、オールオアナッシングだ。 おばば様も楽ではない。 ちなみに、普通サイズはあかんぼくらい。 抱き枕にするなら、特注の特大サイズをお勧めするよ。 殺伐とした日々を生きる、潤い欠けるリベリスタに、せめて温感ジェル入りの潤いあれ。 |
| ■シナリオ結果■ | |||
|
|||
| ■あとがき■ | |||
|
|||
