● 「…………ふむ」 寒さも和らぎ、春の兆しをそこかしこに見かける事の出来る様になった麗らかな昼下がり、けれども『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)は不機嫌そうに眉根を寄せて一つ、唸る。 彼の眼前には、少年とも少女とも判別のし辛い格好をした一人の13~15くらいの年頃の子供。 「なんだよおじさん。ボクが気に食わないなら、無理に引き取ろうとなんてしなくて良いんだよ。どうせ何処でも同じなんだからさ」 ふん、と鼻を鳴らす其の子の様子に、逆貫は毛を逆立てて警戒する猫を思い出す。 無理も無い。この子、陰座・外が生まれた家は双子を禁忌とし、先に生まれ出でた外を遠縁の親戚に棄てる様に預け……、まあ持て余した親戚にも外は盥回しにされて育ったと言うのだから。 先日、外を最も長い期間引き取っていた、逆貫にとっては叔父にあたる男が病に倒れて入院し、この子を育てる事が出来なくなった為に、叔父は逆貫に外の世話を頼まれた。 逆貫は一つ、溜息を吐く。 「いや、構わん。此処に住むと良い。君の世話を頼んで来た叔父には以前世話になったからな。その頼みは断れん。それに……ああ」 逆貫は僅かに言葉を濁す。 まさか遠縁とは言え自分の親戚にそんな馬鹿げた風習に従う愚者共がいた事もショックだったが……、預かる子供が、よもや革醒して居ようとは夢にも思わなかった。 革醒者である逆貫には、外もまた革醒者である事は一目で知れる。 其れにフォーチュナとして多くのリベリスタを見て来た逆貫は、外が独自にそれなりの修練は重ねているであろう事もまた見抜いていた。 遥かな祖先は陰陽の術者だったとか眉唾の話を聞いた事があるが、……まさかアレは事実だったのだろうか? 「あぁ、いや、気にするな。だが3つの約束は守って欲しい。1つ、夕食までには帰って来る事。不可能な事情がある場合は連絡するように」 まあ運命の寵愛を得ているのは救いだったが、此処で放り出してフィクサードにでもなられては叔父に対して顔向けが出来ない。 「2つ、保護者である私に対して、当然必要であろう配慮をする事。親だと思えとは言わんが、外への対面や共同生活を行なう上で必要な事は理解出来るだろう?」 とは言え、説明の仕方にも少々迷う。 「最後に3つ、働かざる者食うべからず。……別段君を養う余裕が無い訳ではないのだが、君には学業に差し支えの無い範囲で仕事をして貰う」 …………まあ、仕方ない。こう言う時はリベリスタだ。彼等に任せれば大抵何とかするだろう。 何せ彼等と出会う前の自分なら、この子を引き取ろうなんて思いもしなかった筈だから。 「いや、おじさん。ボクの年齢で雇ってくれる所なんて無いんだけど? そもそも預かり子を働かせて金を巻き上げるってどう言う大人なわけ」 外の当然と言えば当然の抗議に逆貫はにやりと唇を歪め、笑う。 「ハハハ、大人気ないとは良く言われるな。まあ心配するな。君には其の身体で稼いで貰おう」 ● 「言い方に多少の問題があったような気もするが、と言う訳で諸君にはこの子にリベリスタの仕事を見せてやって欲しい」 集まったリベリスタ達に事情を説明しながら、逆貫は苦く笑う。 何でも身の危険と誤解した外から呪印封縛を受けそうになり、大慌てで言い訳をする羽目になったらしい。 そのお陰で外にも自分以外に能力者が居る事の説明は一応済んではいるのだけれど。 「『paradox』陰座・外(nBNE000253)だよ。宜しくね、先輩」 外は頭のパンダが落ちない様に支え、一つ会釈する。 「まあ諸君等は普通に何時も通り任務をこなしてくれれば良い。其れを見て何を感じるかはこの子次第だ。……無論必要と在れば力を借りてくれても良いだろう」 リベリスタとは在り方なのだから、誘導や強制に意味は無いと逆貫は考える。 故に逆貫は資料の入った封筒をリベリスタ達に手渡した。其れが最善であると信じて。 案件:ないたあかおに 炎の中、その侍は戦い続けた。 槍で突き、刀で斬り伏せ、そして数え切れぬ矢玉を喰らい、体を朱に染め抜いて。 その侍が何故其処まで戦うのか、理由を問う術は無い。 殿への忠義か、姫への明かせぬ想いか、父祖から続く家への誇りか。 だが如何に侍が戦い続けようとも、鬼ならぬ人の身では負け戦を覆す事は叶わない。 殿は自害し、姫は捕まり、そして侍は燃え落ちる城と運命を共にした。 無念の啼泣すらも炎に飲まれて。 後年に焼け跡から見つかり、博物館の倉庫に眠る事となった具足がどんな戦いを潜り抜けたか。 今となっては知る者も居ない……筈だった。 侍の具足が見込まれたのか、それとも未だに眠れぬ侍の魂が呼んだのか。 世界に開く虫食いの穴。穴の先は永劫に血で血を洗う戦いが続く修羅の世界。 偶然なのか必然なのか、判る事は一つもない。 けれど唯一つだけ確実なのは、朱に染まった侍が、一匹の戦鬼が、この世に蘇りし事。 其れは、啼いた赤鬼の物語。 資料 任務内容:博物館に出現するエリューションの殲滅。深夜の博物館への潜入が必要。 E・フォース:名も知れぬ侍 E・ゴーレム:戦鬼の甲冑 この2匹は其々別々のエリューションだが、E・フォースがE・ゴーレムを纏う事で一個の強力なエリューションとして機能するので纏めて記述する。 武器は左右の手に握る2本の刀。此れで2匹のエリューションが2度ずつ、合計4回の攻撃(流血付き)を行う。更にE・フォースが放つ2回は連付きなので要注意。 また換装用の武器として両手持ちの大槍を背に担いでおり、E・フォースかE・ゴーレム、どちらかの手番を1度放棄する事で換装が可能。 大槍での攻撃は2匹のエリューションが1度ずつ、合計2回の攻撃と刀に比べると攻撃回数は減少するが一撃の威力は上昇し、尚且つ近範となる。更にE・フォースは大槍装備時には遠貫流血の槍技を使用する事もあるので注意が必要。 E・フォースがE・ゴーレムを纏っている為、凡その攻撃はE・ゴーレムに命中する事となる。ただしE・ゴーレムの防御能力は桁外れに高い。 E・フォースに命中させるには甲冑の合間を縫う部位狙いか、貫通等の纏めて複数を狙う方法が必要となる。 だが全等の攻撃に必要な個別の敵認識が、エリューション同士が非常に密接している為に判別困難となる為、敵認識や射線が必要な攻撃はE・ゴーレムのみに命中するだろう。 E・ゴーレムはE・フォースが消滅すると其の力を失い崩れ去る。 E・フォースはE・ゴーレムが消滅すると其の力を失い崩れ去る。 「あぁ、……うむ。そうなんだ。すまん。実は丁度良いのが無くてな。割と厳しい戦いになるとは思うが、諸君なら大丈夫だろう。大丈夫な筈だ。……多分な。よし、諸君等の健闘を祈る。任せたぞ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年03月19日(火)00:03 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 新人さんと御一緒にお仕事なのです。 さおりんの専属秘書で未来の妻(*´ω`*)としては新人の面倒もしっかり見ないといけないのです。 手をぎゅっと握り、気合を一つ入れる『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)さん。 パタパタと尻尾を振る、実に可愛らしいワンコである。格好はすこぶるえろいけど。 ところで彼女の言うさおりんとはアークの指令代行にして『戦略司令室長』時村 沙織(nBNE000500)の事である。 ちなみに沙織の競争率は今の所物凄く高いし、其のプレイボーイぶりに、いつか気を抜いてうっかり夜道で刺されそうな確率も同じく高いような気がする。……頑張れそあらさん。 バスガイドよろしく、今から向かう先、敵に関して等、細々とした解説、或いは案内を道中行う彼女の活躍は……まあさておいて、そあらさんの言う通り、今日は『paradox』陰座・外(nBNE000253)の初任務の日であった。 とは言え既に日はとうに沈み、人々の寝静まった深夜である。外はそあらの案内に曖昧に頷きながら、生欠伸を噛み殺す。 えっちなワンコ先輩は長い。だがえっちな先輩は流石に拙い気がする。でも何であの格好なんだろう。尻尾引っ張りたいなあ。お手って言ったら怒るかな。 ……そあらの呼び方をどうするか考える事で眠気と戦う外。 「初めまして、貴方が陰座さんですね。今回が初依頼との事ですが……、なぁに、こういった物は案外にあっさりと済んでしまう物でございます」 益体も無い思考に無言となった外の様子を、初任務の緊張と思ったか、気遣う様に声を掛けるのは『闇夜の老魔導師』レオポルト・フォン・ミュンヒハウゼン(BNE004096)。 「適度な緊張は集中力を高めますが、緊張しすぎては普段の半分の力も出せません。気負わず、リラックスが一番、ですよ」 穏やかな笑みを浮かべ、けれども老翁が孫に接する風ではなく、あくまで対等に、レオポルトは外の緊張を解そうとする。 其の意図は十二分に外にも伝わった。だが外は僅かに唇の端を吊り上げて笑う。挑発的に、眠気覚ましの良い相手を見つけたと言わんばかりに。 「陰座さん……、ね。随分と慇懃だね、先輩。貴方の方がずっと目上なのにさ。其の皺と笑みの下に何を隠してるんだろう。怖いね、怖いよ、先輩? だってボクは貴方の名前すら知らないんだ」 陰座・外、苗字で呼ばれようと名前で呼ばれようと混ぜっ返す面倒な子供。 苗字だけでも、名前だけでも、自分の事だと認識出来ない。二つ揃えば意味が通るが、けれども揃った呼び方は嫌いだ。反吐が出る。 矛盾した子供、外が吐いた先の言葉に篭められた真実は二つだけ。レオポルトの名前を未だ聞いて居ない事と、優しさへの恐怖。 老人と子供の面倒臭い遣り取りを横目に、『鏡文字』日逆・エクリ(BNE003769)は任務資料に目を落とす。 施設への侵入、ゴリ押しの効き難い知恵を必要とする敵、敵の強さはさて置いても……、エクリの見る限りこの任務はリベリスタ任務に必要な要素を多く含む、社会見学には適した物の様に写る。 「さては親馬鹿予備軍ね、あの人」 いや、多分違うと思います。随分と好意的に解釈したエクリの呟きの『親馬鹿予備軍』との単語に反応した『ただ【家族】の為に』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)がサッと振り返るが、三高平の通報したいリベリスタランキング上位に君臨するこの男が少女に目をやるとか犯罪の臭いしかしないのでスルーします。 エクリは外の頭のパンダを見詰め、 「優しいのね、パン太くんのおじさん」 小さく呟く。 博物館への潜入は実にスムーズに行なわれた。『肉混じりのメタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)が電子の妖精を使い、手を触れる事も無く警備システムを掌握すれば、其れに応じる様にエクリがフラッシュバンでの目晦ましを、そして虎鐵が警備員に有無も言わせずリベリスタの身体能力を活かしてスタンガンを押し当てる。 何よりも驚くべきは手際の良さだ。個々の能力の高さ、面妖さは言うまでも無いが、余りに潜入作業に慣れ過ぎた其の様は、 「何だか窃盗団も真っ青の手際なんだけど、……何時もこんな事してるの?」 思わず外が引く程で……、けれど其のお陰で目的の具足が展示される部屋まであと少し。 其処で辺りの空気は変わった。寒気すら感じる異様な雰囲気。 「それでは、いこう」 だが『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)は怯える風も無く、宣言する。 「合体エリューションって拙者始めてかもしれないでござる。それはそうと雷音にいい所を見せなければでござる!!」 頷き、先頭に立つは虎鐵。人数に乏しい今作戦の陣形は、彼とステイシーの二人が前衛に立つ。 無論少ない数での前衛をこなす事は非常に危険な役割だが、けれども虎鐵にとっては頼もしい父の背中を愛しい娘である雷音に見せるチャンスでもあるのだ。 レオポルトの笑みが深くなる。夜の空気の冷たさが、この闇夜の老魔導師にとっては心地良いのだろう。 「若輩モノだが戦闘の経験はあるほうだ。良ければ指示にしたがっていただけるだろうか」 仲間達を見渡し、最後に外で視線を止めた雷音が問う。 外にも特に異論は無い。保護者であった逆貫からも、スジの通った申し出ならば応じる様にと言い含められている。 最後にと、そあらが外に向かって、……或いは思わず暴れ過ぎてしまうかも知れない他の仲間に向かって、雷音が陣地作成を発動するまでは出来る限り戦闘時に周囲の破壊を避ける様にと注意を促す。 「神秘の秘匿も大事なのです」 人差し指を立てて諭す其の様は、秘書やガイドと言うよりは教師の様で、……ではそろそろ始めよう。 最下層の世界が強いられる、終わり無き防衛戦を。 ● 近寄るリベリスタの戦意に呼応する様に、面頬の奥に光が宿る。まるで輝く瞳の如く。 「―――ォォォオオオ」 強い風がビルの谷間を征く時のような唸りを上げ、具足が立ち上がる。草摺と佩楯がぶつかり、ガシャリと音を立てた。 無念と共に散った魂が、力を得て蘇る。侍の魂はE・フォースと化し、E・ゴーレムとなった己の具足を身に纏う。 そして現れ出でるは強力な力を持った一匹の戦鬼。 されど今更鬼になったとて、一体何を守ると言うのだろうか。 あの時、あの場所でこの力があったなら……、けれども結果は同じだろう。城を、仲間を、殿を、姫を、殺すのが敵でなく自分になっただけで、鬼と化した其の先に救いなどあろう筈が無い。 朱色の具足を纏いし鬼は宙を飛来する二本の大刀と大槍を掴み取り、……しかしその所作の暇にリベリスタ達は付け込んだ。 獲物を狩らんとする野生の虎の如く鬼の懐に飛び込んだ虎鐵の突き、更には、 「我紡ぎしは秘匿の粋、エーテルの魔弾……喰らえい、Zauberkugel!!」 詠唱に応じ、魔方陣から放たれたレオポルトのマジックミサイルが狙い違わず朱色の具足に炸裂する。 ……しかしだ。完全に敵の虚を突いたであろう其の連携攻撃を放った二人の表情に、逆に驚きの色が挿す。 虎鐵の腕を走る強い痺れ。通報したいリベリスタランキング上位に君臨するこの男は、けれど其れよりも遥かにその強力な物理攻撃で知られている。物理的な攻撃力に限って言うならば、虎鐵は正にアークのトップクラスである。 だがこの具足はその虎鐵の攻撃をまともに受けた上で、ほぼ防いで見せたのだ。その桁外れの防御力は神秘攻撃に対しても同様で、……レオポルトのマジックミサイルは具足の表面に焼け焦げさえ作らない。 「まずは守護結界を!」 指示を一つ飛ばし、己は陣地作成への集中に入った雷音に一つ頷いた外の手の中で符が燃え上がる。符と呪力を消費して結ばれた印が、守護結界を展開してリベリスタ達の防御力を上昇させた。 けれど鬼の手で抜き放たれた左右の大刀は其の程度の防御力の上昇は誤差にもならぬとばかりに振るわれ、虎鐵の身体を都合4度切り裂く。 真紅に染まる虎の身体。返り血を浴びた具足もまた、其の朱色を深め行く。 ほんの刹那の攻防で、行き成り追い詰められた虎鐵を、けれどもすかさず敵のスキャニングを終了したそあらが癒す。 今回集まったメンバーの中では雷音に次いで早いそあらの喉が震え、詠唱を紡ぐ。彼女が呼び掛けるはこの地に縁ありし高位存在、其の力よ、癒しよ、在れと訴え掛けるそあらの言葉に、聖神が癒しの息吹を吹き掛けた。 とは言え、強い回復力を誇るそあらの聖神の息吹を持ってしても虎鐵の傷は塞がり切らない。 それなのに、虎鐵が次なる一手に選ぶはリミットオフ。己の肉体の限界を自らの意思で取り払い、生命力を攻撃力へと変換した。 人は其の体が持つパフォーマンスの全てを発揮せぬ様、脳がリミッターをかけている。其れは自らの筋力で己の体を痛めぬ様にと、自分を守る為の機能なのだ。 其れを無理矢理取り払う事は自傷行為に他ならない。だが虎鐵は先の一撃で悟っていた。この具足に僅かで在れダメージを入れる事が出来るのは自分だけだと。 そして其の直感はそあらのエネミースキャンに拠って根拠を得ている。故に男は自らの危険を顧みずに己の肉体を酷使した。 無論具足を割け、中のE・フォースを狙えるなら其れに越した事は無いが、全身を覆う当世具足の隙間は余りに狭く、この高速戦闘中に其処を狙うのは虎鐵には些か難しい。 しかし其れは余りに危険な賭けである。鬼の注意を自分に向けんとするステイシーのジャスティスキャノンも当たりはすれど満足な効果を発揮しない。 戦鬼が狙わんとするは、やはり虎鐵。命を狩らんと振るわれ様とする左右の大刀は、……けれどもタクティクスアイ広い視界を得ていた一人の少女、日逆・エクリが投擲したフラッシュバンに食い止められた。 閃光が視界を真っ白に染め上げる。 ● 空間が歪み、切り離された。 展開されるは特殊な異空間。『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)によってアークに齎されし技術、陣地作成を雷音が展開したのだ。 此れで周囲の破壊を、或いはこの戦場に迷い込んでしまうかも知れない一般人を気にせず戦う事が出来る。 とは言え、この空間が何らかの形で戦闘の助けに成る事は無く、未だにリベリスタ達はエリューションに対して有効打を放てて居ない。戦況はリベリスタ達に大きく不利なままである。 「我に従い、急々に律令の如くを為せ。――悪鬼封縛」 少しでも敵の手数を減らすべきとの指示に、外の手の符が宙を走り、戦鬼の周囲に幾重にも呪印を展開させた。 ……しかし、 「怨怨怨怨怨ォッ!」 咆哮と共に余りにあっさりと鬼は呪印を打ち砕く。 外よりも遥かに高位のインヤンマスターである雷音が見る限り、外の呪印封縛に問題があった訳では無い。術式、呪力の使い方、共に充分な粋にあった。 けれど外に足りなかった物。それは動く敵を捉えるだけの動体視力と術の精度、……有体に言えば命中力である。 呪印封縛は唯当てるだけでは駄目なのだ。術を直撃させて、始めて其の意味を成す。 続く戦いに、真っ先に落ちたのは矢張り虎鐵。咄嗟の防御も、そあらの癒しをも切り裂いて、閃く戦鬼の連撃に、虎鐵の運命は微笑まず、彼は血反吐を撒き散らして地に倒れ伏す。 フォーチュナから忠告はされていた。けれども矢張り心の何処かに油断があった事は否めない。外の初任務の敵は、リベリスタ達が思う以上に強大だったのだ。 リベリスタ達とて雷音やレオポルトがローテーションを組んで集中を重ねる事で、鎧の隙間を何とか貫きE・フォースにダメージを与えてはいるが、鎧の隙間が狭すぎ、雷音の陰陽・星儀もレオポルトの魔曲・四重奏も直撃効果を発揮しない。 敵を滅するよりももう一枚の壁、ステイシーの体力が先に尽きる公算の方が……、具体的に言えばリベリスタ達の敗北が決定付けられてしまう方が、恐らく早いだろう。 徐々に焦りがリベリスタ達を支配していく。 「ねぇ、その立派なエモノをコッチにぶち込んでよぉん♪」 ステイシーが何時もの調子で、ぶれず揺るがぬ彼女らしい挑発を放つが……、其れすらが強がりに聞こえてしまう。 「危ないのです!」 不意にそあらの忠告が飛ぶ。戦鬼の動きが変わった事を、彼女は敏感に察したのだ。 けれど、其れでも其れは避け難かった。その時、戦鬼が次に選んだ戦術は、ステイシー諸共鬱陶しく後ろからチクチクと削って来る蝿を叩き潰す事。E・ゴーレムが地に二本の大刀を突き刺し、背の大槍に持ち替えて……、Eフォースが放つはステイシーの腹をぶち抜いての、迂闊にも其の一直線上に並んでいた外をも巻き込む遠距離貫通の衝撃波を繰り出す大技の槍術。 ステイシーが外やエクリから戦鬼の気を逸らさんと視線を己で遮ろうとしていたが故にの、避け様の無い事故。 ● 通路が異空間の地面が朱色に染まる。 しかし其れは外の物ではなく、咄嗟に割って入って突き飛ばした雷音の腹部の穴から噴き出た血。 外ならばひとたまりも無かったであろう其の一撃も、雷音の豊富な体力ならば耐え切れる。 けれど外は庇われながらも、雷音の腹に開いた穴を見詰めてこう思う『ああ、此れは負けたな』と。 此処までの流れで、具足に包まれたE・フォースに最もダメージを与えたのは間違いなく雷音だ。其れに次ぐのがレオポルトだが、雷音が攻撃を放棄して外を庇うならば火力不足は明白だ。 如何にそあらが、外から見れば圧倒的に高位の癒し手であろうとも、戦鬼の攻撃力を上回る事は出来ないだろう。崩壊は遠からず訪れる。 実力の足りない外は、リベリスタ達のアキレス腱となっていた。外が足を引っ張り、この戦いは負けるのだ。 まあ、仕方が無い。元より実力の足りない外に任務を振ったフォーチュナが悪いのだ。 外は特にリベリスタの任務に思い入れは無い。保護者である彼に行けと言われたから来ただけで、興味があった訳でもないのだから。 以前化物と戦ったのだって、小動物が食われそうになっているのに出くわしたから手を出しただけなのだ。倒した訳でもなく、逃げる相手を追おうとはしなかった。 世界の運命なんて眉唾だし、もし本当だとしても別に滅んでしまえば良いではないかとさえ思える。 …………なのに、 「後輩を守るのは先達の仕事だろう」 心配をさせまいとばかりに雷音は笑み、そして戦鬼に向き直る。 御人好しだなと思う。嗚呼、そう言えばレオポルトも、そあらも、エクリも虎鐵もステイシーも、誰一人残らず彼等は優しかった。 この優しい人達は自分が足を引っ張り負けるのだ。……其れは少し嫌だと思う。 これだから優しさは怖い。優しくされると、それを失うのが怖くなる。其れならいっそ、最初から優しさ等与えられない方がずっと楽なのに。 リベリスタ達の戦いに、一つだけ気付いていた事がある。指示に従えば良いと言われていたが、其れだけは試そう。 「ミュンヒハウゼン先輩、日逆先輩を見て」 思えば彼女、エクリだけは打ち合わせの段階から気付いていた節があった。其の主張は余りに小さくか細かったけど。 最初の虎鐵の危機の時、彼女は確かにフラッシュバンで戦鬼の動きを止めて見せた。E・ゴーレムの具足だけでなく、其の中に包まれたE・フォースの侍までをも。 レオポルトとて其処まで言われれば気付かぬ筈が無い。彼は元より魔術師、闇より昏き魔道の深淵を目指す探求者なのだから。 「成る程ッ! 我紡ぎしは秘匿の粋、エーテルの怪炎……喰らえい、Irrwisch!!」 レオポルトの力ある言葉に解き放たれるは、無差別に範囲内を喰らう範囲攻撃、フレアバースト。 炎は具足と、そして其の中の侍に確かに届いた。 確かなダメージ源を持つならば……、カッと瞳を開いたステイシーが己の腹に突き刺さった槍の柄を掴む。 「折角挿入ったものをそう簡単に抜かせはしないわぁん!」 そあらの詠唱が響き、ステイシーと雷音のダメージを癒す。再び戦う活力を彼等に与える。 其の特性が判明したところで、敵は容易い相手に成り下がった訳では決して無い。けれど其処に一筋でも希望の光が差すのなら、其れを掴み取るのがリベリスタだ。 ● 「そのパンダ売ってるとこ、今度教えてよ。方舟での初陣祝いに贈るよ」 戦いの後に、外に向けられたエクリの言葉。今日は如何だった? と聞く彼女の頭に外は懐から取り出した其の一体を乗せ、 「敢闘賞。……凄いね」 この日始めての穏やかな笑みを浮かべる。 手に取って見れば、其のパンダが既製品では無く外の手作りの物であると知れた。 「そういえばパンダ可愛いですねぇ。らいよんちゃんが欲しがっていたのです」 其の遣り取りに、そあらがふと思い出したように付け加える。 悪戯っぽく優しげなそあらは、嗚呼、雷音と彼女は確かに親友同士だ。 「…………朱鷺島先輩も欲しいの?」 問う外に、頷いた雷音が更に求めた物は、 「それと、君と友達になれたら、もっと嬉しい」 様々な課題と教訓を与え、古の戦鬼は黄泉路に帰る。謝った力を、無念をもを打ち砕かれて、……今度こそ安らかな眠りを。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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