● 2月14日。 様々な説――製菓会社の陰謀以下略――があるこの日は『バレンタインデー』と呼ばれ世界的にも男女の愛の誓いの日とされているのだが…… 「お姉さま!! チョコレート作れるようになったかしら?」 「え?」 「私、お姉さまの手作りチョコ、とってもとっても楽しみなんだから!」 まるで幼児の様に瞳を輝かせ姉貴分のチョコレートを強請る『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)は2月14日が楽しみで仕方がない様子。 「とっても、とっても素敵なチョコ、作りましょうね?」 私、いっぱいお手伝いするわ、と張り切った世恋(24)……(笑)。 女性陣が胸を高鳴らせ、バレンタインですって!と騒ぎ立てる当日間近。 コンビニもスーパーもチョコレート大特価!(むしろ包んだ物も売っている!) 世恋が幼女っぽかろうが、女の子である訳で。 料理も生活すら不安定な姉貴分がチョコレートを用意する様に夢見がちが発動しない訳がない。 ――あれ? そういえば、皆はどうするのかしら? こてん、と首を傾げては、外見年齢14歳はカレンダーを見つめていた。 「……当日までに、皆も用意するわよね?」 ぺたん、と廊下に貼られた張り紙には、『チョコレート準備しませんか!』と丸い文字で書いてあった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月13日(水)23:09 |
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● 来る2月14日。何の陰謀であるかは分からないが少女達が胸を高鳴らせチョコレイトをあげると言う『愛の誓いの日』が此処、三高平でも楽しみにされている様であった。 カレンダーが指し示すのは2月13日だ。明日のドキドキ☆バレンタインの為に準備を進める女性陣の中に、赤いシスター服を着たビッ……失礼、聖職者が謎のオーラを纏っていた。 「まったく! 聖ヴァレンチヌスの殉教の日に何がチョコレイトですか!」 \リア充は爆発すればいいんです!/ 一見可愛い聖職者、海依音が発する第一声に周辺の客も逃げてしまう。リア充以外をはねのける結界が張られてる様にも見えるヴァレンタイン☆コーナーに海依音は涙を堪えながら自分チョコを探しに特攻。 潔いその姿には或る意味涙を誘う物があるのだが―― 「月鍵君、貴女もリア充ですか! 眩しいです! 手作りチョコとか女子力高いことするんでしょう?」 「リ、リア充かと言われれば、あ、相手はお姉さまだわ……!」 おろおろする予見者(1988年生まれ)に突っかかる海依音(198以下検閲)。 頭を抱えてチョコレイトを抱きしめるアラサー女子は涙を堪えて年下の予見者を見つめた。 「それは兎も角、お金持ちのオスどこかに落ちてませんか? ついでにイケメンだったらOKです! 婚活が苦しんです! わかりますか? あああああ、アラサーの焦り!!!」 予見者は瞬いて、言いかけた言葉を呑みこんだ。 (――け、結婚願望あったんだ……) 「世恋……? 待たせたかしら?」 こてん、と首を傾げた羽衣が見たのはアラサーに詰め寄られている24歳の姿だった。羽衣さん、と微笑んだ予見者の首にマフラーを巻き、手を引いた。ちらり、とアラサーに向けられた視線は直ぐに逸らされる。 「バレンタインはしあわせの日なの。羽衣、すっごく楽しみなのよ」 その手を引いて、向かう先はラッピング用品。色とりどりのリボンが並んだ其処は何処か宝石箱の様にも思えた。 「世恋は、どんなリボンが好き? レースも可愛いし、サテンもいいなあ……誰かにあげるなら……」 うんうん、と悩んで、手を引いて。幸せそうな羽衣の目当てはリボンと可愛い袋。きっと誰かのプレゼントだ、と笑みを浮かべて世恋が選ぶのは羽衣の髪飾りの様な薄い青。 「そう言えばあっちに美味しいドーナツ屋があるそうなの……」 「あ、こんにちは」 ドーナツ屋を探す羽衣の目の前では出張『新田酒店』が展開されている。バレンタインでも勿論販売中! 成人の皆さん、おひとつ如何ですか? (未成年はお酒は駄目だぞ!) ――名門チョコレートメーカーが選んだカカオに、スピリッツ、バニラ、ヘーゼルナッツ、クリーム等を融合させたチョコレートリキュール。アルコール度数と甘さを控えめに仕上げた、上質なチョコレートリキュールです。大人のバレンタインにお勧めの逸品ですよ! 以上、新田酒店の快さんからの宣伝文句だ。チョコレートリキュールを見つめて、外見は少女の羽衣と世恋が視線を合わす。 「えっと、コレって」 「そのまま飲んでも勿論美味しいけど、お勧めはミルクで割ってカクテルかな? ホットミルクで割って温かいカクテルっていうのもいいよね」 酒娯神の誘い文句にそわそわとする世恋と羽衣。この宣伝は中々に上手いぞ――! 「ってなわけで、世恋さんも一本どう? 買って行かない? というか、買っていってくれると嬉しいと言うか……」 「え、どうか、したの?」 「ちょっと発注ミス、しちゃってね……在庫が、たくさん、あってね……」 何処か遠い目をする快にお姉さま達と飲むわ、とお買い上げする月鍵世恋(合法ロリ)であった。 さて、あちらこちらと回りながら、ドーナツを世恋へと羽衣は与える。慌てて財布を出そうとするその手を制してゆっくりと微笑んで、「ちょっと早いけれど」と付け加えた。 「羽衣からのバレンタイン……イヴみたいなの。当日も、ちゃんと世恋にあげるから。楽しみにしていて頂戴ね?」 また、遊びましょう、と白い指先はひらひらと降られた。 ざわめきの中で手を引かれて走る少年――少女だろうか?――がいた。 「ちょ、ぼ、僕は普通の服でいいのですよ!? 荻原先輩には似合うですけどっ!」 手を引かれ、黒いゴシックロリィタのドレスで包まれた葉月の背中を見つめながら慌てて掛けて行く玲は葉月の趣味の『ふわふわで可愛いお洋服』の並んだショーウィンドウに目を奪われる。 「え、えっと……す、素敵ではあるんですけ、ど」 「これとかどうだ? 似合いそうだな、玲!」 棚を物色していた葉月がひょこりと顔を出し、玲の背をぐいぐいと押しながら試着室に押し込んでいく。あ、あれ、玲君って男――いや、何も言わないでおこう。 「……う、うぅ……着せ替え人形さんになった気分なのです」 「うん、やっぱ似合ってる」 バレンタインのプレゼントだ、と胸を張る葉月にぺこぺこと玲は頭を下げて微笑んだ。 それじゃ、今度とっても美味しいチョコケーキを作ってきますね、玲からのバレンタインのとっておきのプレゼントなのだから! 「雪待、妾に付き合え」 意を決したシェリーの辜月の腕を引っ張って強引にショッピングにGO。辜月とて、バレンタインの材料も必要であるし、丁度いいタイミングだと其の侭引きづられているのだが―― シェリーも辜月も相手の好みのチョコレートを知りたいとそわそわしている。シェリーは気まぐれでチョコレートを送ると決めたは良いけれど、何を渡せばいいのかと困惑を隠しきれない。 (い、いかん、雪待の好みのチョコを知る為に連れだしたのだから、しっかり、探りを入れなければ――!) 苦いチョコレートをスルーするシェリーを見つめながら、辜月は彼女の好みをしっかりとリサーチしている。 「雪待、チョコはどんな形が良いと思う? ま、まあ、食べれば皆一緒なのじゃが……」 「個人的には可愛い形のとか好きですよ? 見てると和みますし……、食べるのがちょっと勿体なくなっちゃいますけど」 「おお、見ろ、最近は抹茶味などもあるのだな。雪待は変わった味が好きか?」 「え? あ、はい。変わった味のも美味しいですよね」 へらりと笑う辜月にシェリーはそれで、それでと質問攻めにしている。一緒に回りながら、気になる物があれば買いましょうねと辜月にちらり、と視線を送る。 「……やはり、手作り、市販品とかでは無く、想いがこもって居れば、どんな物でも良いと言う事か」 「食べて美味しいって言って貰えるのは嬉しいですね。想いをこめるのに、どちらでも変わりありませんけどね?」 それが、好きな人なら尚更嬉しい、と小さく微笑んで。 「本屋の場所が知りたいんですよね? 幾つか教えますよ」 佐里に手を引かれ、周囲を見回していた華奈はチョコの買い出しのついでだと周囲を見て回る。料理は普段からするもののお菓子作りはした事がない華奈にとっては買い出しからも一苦労。何が必要なのかも分からない。其処で佐里にご教授を強請った訳だ。 「チョコ、湯煎して形変えた位しか、したことないのですよ」 「私は三高平に来てからお菓子作りする余裕無かったんですけどね。……前、住んでた街から何も持ってきてませんし」 え、と声を漏らし首を傾げた華奈に佐里は苦笑いを含みながら昔話を語る。繋いで手に込められた力が少し、強くなった気がした。 (――街が焼けて、何も残って無い……私はまだ、幸せなのかもしれませんね) 普通の家庭で育って、リベリスタの先輩に救われて、其の侭リベリスタとなった。有り触れた幸せが、何故だか尊いものだと感じた。 「折角のイベントですし、何か作って見ましょう? お菓子作りの道具を買うにしても何を作りましょうか」 「ええと……お菓子は全く経験がないんですよ。教えて、いただけますか?」 チョコレートケーキ、初心者ならブラウニーはどうだろうと首を傾げて聞く佐里に頷いて、二人揃って材料を買いに行く。ラッピングはお任せ下さいね、と胸を張った華奈の笑顔は輝いていた。 ふと、彼女らの後ろを横切るのは夕飯の買い出しをしているメイドだった。こてん、と首を傾げたリコルは周囲の騒がしさに何処か圧倒されている。 (日本のバレンタインが海外に逆輸入されていると言う話しは聞いた事がございますが、本場は思った以上に華やかでございますね!) はしゃぐ二人の少女の背中を見つめて、誰もがそわそわウキウキしてるだなんてまるでお祭りの様――! 「お嬢様も意中の殿方にチョコレートを渡される日が来るのでございましょうね。……楽しみな様な、寂しい様な……」 成長が嬉しい。まるで母の様な気持ちに至る16歳。胸に手を当て、複雑なその想いを呑みこんで、折角だ、と大好きな『お嬢様』の為にとチョコレート作りに張り切るのであった。 郷に入っては郷に従え! 敬愛するお嬢様の為にとびっきりのチョコレートを! ――さてさて、盛りあがる三高平のショッピングモール。越してきたばかりの暁生は日用品の買い出しに現れた訳だが。 かつん、とタイルに靴の踵がぶつかり鳴る。颯爽と歩くわたくし、かっこいい! 自分の世界には行っていた暁生も気になってしまう程のオーラがあるのだ。不穏とは言い難い、だが突き刺さるアウェイ感が凄まじいのだ。 「な、何ですかねこれはっ! はっ、まさか敵性エリューションでも居るのですか! 新手の精神攻撃ですね! 嗚呼……なんて卑劣な罠でしょう!」 がびんっ! 暁生のかっこいいイメージが崩れ去ろうとする、卑劣な罠に食指が動いて―― そう気付いてしまったのだ。乙女たちがきゃっきゃうふふするバレンタイン前日だと言う事に。 「此れは拙いです! そこはかとなくどころか完全アウェイです! 撤退戦を開始するです! 来年はおぼえてろですよーっ!!?」 ――あ、暁生さーん! まだ、前日です、撤退には早いのです! ● 卸したての高校制服。スカートのフリルをひらり、と揺らして緊張した様にリリは想い人の元へと向かう。高校の門の前で待つ腕鍛も逸る気持ちを抑えられない。 「は、犯罪違うでござるよ!」 ――本人もちょっと気になる模様。 「わ、腕鍛様、お待たせしました。それでは、いざ、ショッピングモール!」 「リリ殿。鞄持つで御座るよ?」 さ、と差し伸べた手に慌ててリリは胸元へと鞄を抱き寄せる。中には手作りチョコの本。何かの拍子でチョコレートの送り先である腕鍛にばれてしまったら! ドキドキソワソワ。それでも、デートは抜かりなく。手持無沙汰だと開いた指先を見つめる腕鍛と緊張したリリの横顔。 「そういえば、今日は何を買いに?」 「えっ、ちょ、調理実習の材料です! クッキーを作るんですよ! クッキーの材料って、ど、どれでしょう」 辿りついたショッピングモールで慌ただしく食品コーナーを見つめるリリの目線はバレンタインの特設コーナー。実際は恋人の為の『チョコレート』を作る為の材料探しをしているのだけれど―― 「ほ、ほら、デコレーションもしますし、その材料も必要ですから!」 「そうでござるな。ええと、小麦粉とかでござろうか? デコレーションなら、あの辺りに……」 じ、とバレンタインの特設コーナーに目を配り、後でこっそりと買おうと意気込むリリの横顔に、腕鍛は、あ、と呟く。慌てて口元を押さえてにやける表情を無理やり正す。 「……あぁ、なるほど。にははは……」 ――バレンタインチョコ、か。ここは知らない振りをしておくのが『礼儀』であろうか。 果たしてリリは当日にチョコを無事に渡せるのだろうか……? 広いショッピングモールできょろきょろとする寿々貴。メイド喫茶でバレンタインイベントをする時彼女は飾りの買い出しなどに現れた――のだけど。 「案内板どこ……めんどくさい……もう帰ろうかなあ」 諦めそうになる文殊四郎寿々貴さんの目に留まったのは執事だった。そう――メイド喫茶経営者からみるとアレは同業者で、執事喫茶の人にしか思えない……! 「は……聞きたい事、ですか」 ぱた、と動きを止めたアルバートは知識と経験をもとに案を出す、と様々な事を寿々貴さんから聞きだされている――が、ふとそのしぐさなどに寿々貴さんが止まる。本業だと知った途端、質問攻めが再び始まった。 「心構えとか、心得とか聞かせて貰える?」 「我々は主を至上とし、主の為に全てを尽くす存在。常に主の事を想い、考え、如何に満足して頂くか。望みを叶えて差し上げるか――それが、主に仕える者の心得と、私めは考えています」 さらり、と言ってのけるアルバート。文殊四郎寿々貴さん。勤労意欲は低くても、知的好奇心は高いのであった。 「あ、はい、今日のお礼。お店に来れば手作りもサービスしちゃうよ」 くす、と笑った寿々貴に礼をしながらチョコレートを受け取って、アルバートは「またお伺いいたしましょう」とその背中を見送るのであった。 宜しければご一緒にバレンタインのお買い物をしませんか? さて、紳士天風君は15分前に到着し、温かい飲み物を手に世恋を待つ。彼の目的は『愛情たっぷり手作りチョコ』の材料を買いに行く事だ。 「御機嫌よう、世恋さん。ふふ、バレンタインはうきうきドキドキしますね。一緒に素敵なチョコを作りましょう!」 「ええ、頑張りましょうね! 大切な人に愛情たっぷり手作りチョコ!」 その想いに共感してお買い物ができればきっと素敵なチョコレートを作れる筈! 二人揃って店舗を回りながらお姉さまやお嬢様の話に花を咲かせる。あれだ、これだ、と選ぶのも一苦労。なんたって愛情をたっぷり込めなくてはいけないのだから。 「世恋さん、どんなチョコ作る予定です? 自分はレーリュッケンというお菓子にチャレンジしようかと」 「バナナブラウニーとか。ラッピングに拘ろうかしら」 凝りたいですね、と亘の青い瞳が輝いた――だが、其処に刺客が現れる! 「現れたッスね! 月鍵世恋(自称24)! 今日こそは引導を渡してやるッス!!」 何故だかショッピングモールで『遭遇戦』をしかけに来たイーシェであった。感情欄のライバルは伊達じゃない! 「今日は月鍵世恋と遊んでやるッス! あ、違うッス。やけに可愛らしい自称24歳と正々堂々勝負ッス!」 ――褒めてるんだか、貶してるんだか。 でーん、と胸を張ったイーシェは何故か世恋へとお面を手渡した。嫌な予感で引き攣った口元を押さえながらお面を被る世恋にイーシェは『超』がつく程の笑顔を浮かべる。 「何のお面かは内緒ッスよ? でも、赤くて角があるけど世恋さんは可憐ッスから」 「世恋さん、鬼ですよ」 さらりと答えを教えた亘に嫌な予感がますますアップする月鍵世恋(24)……(笑)。 まさか、と世恋が後ずさる。そう、2月と言えば節分。節分と言えば豆。バレンタインデー前だなんて勝負の前には関係ないのだ。 「ふふふ、あたしが用意したアイテムはコレだー!!」 \豆チョコ!/ 驚くべきドヤ顔を浮かべながら世恋へ向かって豆チョコを撒き始めるイーシェ。 「喰らうがいいッスよ! 鬼は外! 福は内!!!」 ――その後、店員さんに二人揃って怒られて、イーシェからは恥ずかしそうに『友チョコ』が渡される姿が見られただとか。 「……何でしょう、あれ」 目標の動きを捕捉するレイチェルが捉えたのは豆チョコを撒いてる鎧娘と赤鬼仮面の予見者であったが――見ないふりをした。 足が向かうのはチョコレイトが揃ったバレンタインの特設コーナーだ。レイチェルの目が行くのはどれも既製品ばかり。ふと、兄であるエルヴィンが首を傾げる。 「レイ、今さらだけど手作りにはしなかったんだな。いろいろ調べてたから、てっきり」 「んー……手作りも考えたんだけどね。美味しく作る自信あんまりないし、既製品の方が安心じゃない。 それに、あんまり重たくならない方が良いかなぁと。……結構プレッシャーかけてる自覚あるし」 ぽそり、と零された妹の言葉に気持ちはわからなくねーな、とぽん、と頭を撫でる様に手を遣った。 赤い瞳を丸くして、兄の手に握られているチョコレートに首を傾げる。兄が、チョコレートを贈る――? 「贈る側なのはこの際良いとして。誰にあげる予定なのさ?」 「夏奈に連絡したら時間取れそうって事だから、その時に渡そうと思ってさ。折角だから春樹とか秋人、冬子の三人にもな?」 流石というか、なんというか、と友人用、片思いの相手用と買い込んだレイチェルが小さく漏らす。 「レイ、こんなもんか?」 「これで予定した分はOK。付き合ってくれてありがとね、兄さん。それじゃ、帰りにケーキでも食べてこっか」 早めだけど私からのバレンタインプレゼントと笑う妹にごちそうになるかな、と兄も優しく笑う。 二人のバレンタインが其々、幸在ります様、お祈りして。 かさかさ。 。非。)<チョコが一杯です。 まおのセレクトは麻袋詰めのコインチョコ。友人たちに沢山あげたいまおらしいセレクトだ。 「お、大人が集まる高いチョコ売り場は人がぎゅうぎゅう詰めですね」 じ、と見つめる彼女の目に留まるのは、器用に片足にトカゲの尻尾を巻きつけた滸の背中だ。 当の滸は眼玉のチョコがあると聞いてそわそわと周囲を見回しているのだが、人の多さに辟易してる。 流石はイベント、日本人の『イベント!』という習性を忘れてたなあ、とぼんやりしてる所に、誰かの肘が滸へとぶつかる。 (――あ、こけます。俺。人込みはこれだから嫌いなんですよ……) 何と悠長な事だろうか。ふら、と足許が浮き上がる感覚――ついで、何故か尻尾をぎゅ、と掴まれる感覚がする。 「痛い痛い痛いっ」 「!! え、えっと、突然ごめんなさいで、おけがとか尻尾さんは大丈夫でしょうかごめんなさいそしてごめんなさい」 あわあわと尻尾を引っ張った主――まおは普段のバランス感覚をフル活用で人ごみから避けさせる事に成功していた。天晴れというか、何と言うか……。 「あ、俺は黒縄です。お嬢さん、助けてくれて有難う。……あ、これをどうぞ」 「め、目玉ッ……! あ、ま、まおです。これ、どうぞ」 さ、と渡された目玉チョコレートに驚きながらまおもコインチョコレートを渡す。 ――チョコレート貰っちゃった。嬉し。 そんな二人の前でお値打ちチョコレートと目を光らすベルカが求めるのは高級チョコレートだ。そう、バレンタインデーが終われば、何時もは手が出にくい高級チョコもちょこっとお求め安くなる。 「ちょこっと、だ! 上手い事言った私!」 ドヤ顔だった。 「そう……来たるXデーが過ぎ去った直後! 一気に値下がり在庫処分が始まった所を頂くっ!」 そういいながら、試食品をもぐもぐ。もぐもぐ。 (※なお、購入したチョコは全部自分で食べてるのであった) 時をさかのぼり、バレンタイン数日前―― 「ソイラテとチョコパフェお願いします。ロアンさんはどーする?」 「あ、僕はブラックコーヒーで。……苦いのってちょっと苦手なの?」 旭の注文はロアンのイメージ通りであるのだけど付き合い立て、まだまだ知らない彼女の事を少しでも知りたくて発した言葉に旭はくす、っと笑う。 「あまいのすきー、苦いのもきらいじゃないけどね、ロアンさんは甘いものへーき? 一口どーお?」 「僕も甘いもの好きだよ。コーヒーに合うのが特に好きかな。じゃあ、お言葉に甘えて……」 あーん、と口を開いて、含んだチョコレイトクリィムに小さく微笑むロアンに旭は内心ガッツポーズ。 さりげなく『あーん』が成功して、幸せを噛み締める彼女から発されるしあわせオーラにロアンも優しく微笑んだ。 「あ、そういえば、好きな果物ある?」 「果物? 何でも好きだよ。嫌いな食べ物も特にないし、食べるの自体が好きだからね……」 めもめも、と一生懸命に聞きとる旭に優しく微笑むロアンは、ちらり、と見上げる旭の視線に気付く。 「あ、あとね、14日って空いてる、かなあ……?」 「14日……大丈夫だよ」 さりげなく聞いたけれど、あからさまかな、ばれてないかな、とちらりと伺った視線にロアンは気付いてない振りで微笑んだ。 だいじょうぶ、そ……、とほっとする旭に「そういうことか」と一人、納得するロアン。 ――バレンタイン、頑張るからいっぱいいちゃいちゃしよーね。 ――僕もプレゼントがあるけど、それは当日まで秘密、かな……。 二人揃って、当日が楽しみなようで……のんびりと時が過ぎて行く。 ● 三高平学園の家庭課室からは甘い香りが漂っている。 「学校でチョコレート作るって何だか新鮮ね……。摘み食いもOKなのかしら?」 瞬いた焔は高鳴る胸を押さえて、夏栖斗は勿論OKだよとへらりと笑う。家が喫茶店経営である夏栖斗はお菓子作りは結構得意なのだ。此処は先生役としてしっかりと後輩を指導してほしい所である。 「これぞ、青春だわ……愛が熱く燃えるチョコを作らないとね!」 燃え上る蜜帆が抱きしめた図書館の『楽しいチョコ作り』。本当に『燃えるチョコ』を作るつもりの彼女に苦笑を浮かべながらも遥紀はザッハトルテの準備を進めている。 ――事前に携帯電話で世恋へとメールを送り、お呼び出しをした遥紀は張り切っている。 「皆、やってるなあ」 「青春ね……」 20を越えると、青春って尊くなりますよねっ! 青春――夏栖斗や那雪の作業を見つめながら遠い目をする遥紀パパと世恋。その横で燃えがある蜜帆がふるふるとしている。 「う、うーん、難しい……」 「そうそう、ゆっくりとかき混ぜて丁寧に溶かすといいんだよ?」 「あ、私の食べる? ちょっと変なことしてるけど」 差し出した焔が持っていたのは一見普通のチョコレイトだ。ちょっと変な事、という言葉に首を傾げた夏栖斗と遥紀に焔は胸を張る。 「ロシアンチョコレートよ! 当たり外れもあるわっ!」 一口、蜜帆が含んだものはどうやらあたりの様で。流石に人の物を全部食べるなんて野暮な事はしない、と摘み食い――味見を楽しんでいる。 「那雪さんは何を作るの?」 「……紅茶入りの、作ろうかしら……」 慣れた手つきでセミスイートチョコを刻んで、お鍋で煮立つ生クリームとアールグレイ、牛乳と水あめを見つめる。 ぼんやりとした視線の先で、約束したあの人を想って、優しく目を細める。 (――あの人、らしい……) 「あ、そろそろ良いんじゃないかな?」 「……残った分は、折角だから、みんなで……どう?」 刻んだチョコを入れたボールに茶漉しを介して注いだ紅茶。バターを入れて溶かして冷やしたソレに掛けられるココアパウダー。一人分は綺麗なラッピング。あとは試食に、と置いた其れに瞳を輝かせた蜜帆と焔が口に含む。 「あれ、何ソレ、凄いわね。ちょ、ちょっと自信無くすわよ……本当に」 焔の目線の先に在るのは夏栖斗のチョコレート。三高平男子の方が女子力高いと言われる所以が其処にはある。 「アラザンとか上にトッピングしたらちょっと豪華になるから待ってね」 用意する夏栖斗の口元に浮かんだのは笑顔だ。当日好きな子に思いを込める女子って応援したくなる。だからこそ定番のハートチョコやマシュマロをマーブルチョココーティング、トリュフや一口サイズチョコを準備して周囲に集まる学生たちと楽しむに限る! 「世恋は月隠以外に誰にあげるんだい? 嗚呼、其れとよければ今友チョコ交換しない?」 「私は数史さんや、メルちゃん……んー、沢山? ふふ、私でよければ」 遥紀が用意したのは日輪の花を添えた優しいラッピングのチョコレート。季節外れだけど一番好きな花なんだ、と微笑む彼に、そっと差し出したのは少し不格好なラッピングのチョコレート。 「この先も、来年も一緒に遊ぼうね」 こちらこそ、と予見者は小さく微笑んだ。 学園の近く。ランニングを行うカルラの目の前にはチョコレイトを抱えた世恋の姿がある。 「よぉ、何だか忙しそう……か? なんか、元気そうだな」 抱えたチョコレイト。幼い頃、日本に居た事のあるカルラだが、『何かチョコが飛び交ってる』という認識でしかない為にバレンタイン――製作会社の何とやら――についてはあまり馴染みない様で。 にんまりとしながらバレンタインの説明を行う世恋に首を傾げながら、任務と仕事と勉強とトレーニングに夢中だったカルラはふむ、と呟く。 「えーと……チョコを送る日? 好きな人へ? 新愛や感謝もあり、か」 「ええ、そうよ」 楽しげな世恋に対し、へぇ、と目線をポーチに向けたカルラはぽい、と世恋の掌へとチョコレート味の休憩用の健康食品を手渡す。目を丸くする世恋にひらひらと手を振って。 「……半分やるわ。当日会うかわからんし」 普段世話になってるしな、これからも宜しく、と走る背中を見つめて世恋は慌てたように「私も、渡す」と追いかける事になったのだった。 ● 「さあ、愛しの雷音とカズトにチョコを作るでござる!」 はりきった虎鐡はエプロンをつけ、レシピを置いた机の上を眺める。お題目はクランチチョコシュー。 張り切って頑張って、袖を捲くる虎鐡は愛しい子供達の為にチョコレートから手作りと、やる気は十分だ。 「折角でござるからな……カカオパウダーでチョコ生地のシューにするでござる」 ぎこちない手付きでチョコレートを刻む。刻んだチョコをシューの上に乗せる事でチョコの風味もたっぷりと味わえるだろう。 勿論、中はチョコカスタードクリーム。たっぷりと流し込めば、一気にチョコの風味が味わえる。 頭の中でのシュミレーション。上手くいくだろうかとそわそわとしながら、焼き上がるシュー生地を見つめる虎鐡。カオスシードなんて握りしめてないよ! そっと絞り入れるチョコカスタードクリーム。準備した包装は丁寧に、綺麗に真心込めて。 「これで雷音のハートも一気に鷲掴みでござる!」 ――さあ、後は渡すだけだ。 バレンタインと言えば学生時代特有のお祭りの様に思っていた。無論、社会人になってからの義弘にはあまり縁が無かったものであるから、妙な気分になるのも仕方ないだろう。 「チョコケーキを作るわ」 準備を整えた祥子の家で材料を指示通りに混ぜながら義弘は初めての経験に戸惑いを隠せない。ケーキは大好きであっても、流石に作った事が無い為に手付きは少し覚束ない。 用意した材料を混ぜ合わせる手つきを見つめながら、そうそう、と祥子が棚から取り出したのはパウンドケーキ用の型だ。 「パウンドケーキにしようとしたんだけど……この日の為に用意したの。見て、これ! かわいいでしょ?」 「その形、はーと、か? ……まあ、その、うん。いいんじゃないか? たまには」 じゃーん、と明るくテンション高めにハート型を見せた祥子にやや苦笑を浮かべた義弘。イヤと言わなかったから、まあいいかなと呟きながら二人のチョコケーキ作りが進んでいく。 ケーキが焼き上がるまでの時間、二人寄り添って、ぼんやりと過ごすのだって、特権だ。 折角二人っきりなのだから、義弘に寄り添って、その大きな手に触れて祥子は微笑んだ。 「柄じゃないのはお互い様だな……」 お互い学生じゃないけれど、こんなにはしゃぐ様子が今はとても愛しくて。手が暖かくて気持ちが良い、と微笑む彼女の頭をそっと撫でた。 「出来あがったら、今日はのんびり過ごそうか」 「そうね、のんびりしましょう? きっと、素敵な一日になるもの」 自宅に必要な材料は既に用意済みとはエレオノーラの女子力は凄まじいものだ。 「ミカサちゃん、貴方も作る?ラッピング手伝ってくれるなら二人分位の材料はあるわよ」 「……俺の作るチョコレートなんて、喜ぶでしょうか」 気まずそうに零される言葉に瞬いて、昨今は女子からだけでは無いのよ、とエレオノーラは優しく笑う。感謝の気持ちを伝えると言うのも悪くはないと思う、と付け足す彼j……彼の前でミカサの脳裏に過ぎるのは赤銅色の瞳の彼女だろう。 ――あの子は照れてそっぽを向いてしまうだろうか。嗚呼、けれど、そんな顔を見るのだって悪くない。 「それじゃ、チョコを刻んでもらってもいいかしら?」 力仕事とラッピングは任せて下さいと添えたミカサに嬉しそうに頷いたエレオノーラ。二人でなら作業も捗るだろう。指示をてきぱきと与えるエレオノーラに従いながら最高の一粒を作るべく奮闘するミカサ。 「胡椒入りのトリュフを作りましょうね。黒、白、ピンク、緑と揃えたんだけど、其々に合わせて色を変えるのって楽しそうね」 「……赤い粒を使おうかな」 彼女の眼の色だ。どうせなら想いをこめて最高の一粒を、と用意するその手元に目を遣って、くすくすと笑みを漏らすエレオノーラは窓の外を見遣る。 「紅茶でも飲んで待ちましょうか。……ミカサちゃん? 外に居る犬猫と遊ぶなら、ちゃんと手を洗ってから戻ってきてね」 「……少し、行ってきます」 行ってらっしゃい、と紅茶を啜りながら送り出すエレオノーラの目の前から消えたミカサは全力で『お外のもふもふ』と遊んでいる。心奪われたりなんかしないと思っていたけれど、遊んでいいなら全力でもふもふするに限る。 「ラッピング、任せて良いかしら? 期待してるわ」 ね、と笑うエレオノーラからチョコレートを受け取って、自身の店で選んだのは丁度良い大きさの黒い箱と緑のリボン。銀色の詰め物をして、男から渡しても可笑しくない物を、と飾り付ける。 気恥ずかしさが無い訳ではないけれど、それでも、喜んでくれるなら―― ――辛いもの好き。甘いもの大好き。でもユーヌたんがもーっと好きです! 「……邪魔しないなら気にしないが」 そわそわする竜一は長いユーヌの髪を結い上げる。長い髪は大変だろう、とリボンで結ぶその手に若干のくすぐったさと動き辛さを感じながらもテキパキと作業を進めるユーヌは影人も使って手際が良い。 カスタードクリームにチョコを混ぜ、生地もきちんと作ったチョコレートパイ。 「ふむ、このくらいか?」 あーん、とチョコクリームを竜一に与えれば美味しいと幸せそうな声が返る。傍にいるからこそ、この際本人の好みに合わせると言うユーヌの女子力が高すぎる……! (リボンが余ってる――わざと大量に持ってきたんだけど!) にま、と笑った竜一は作業の邪魔にならない様に、と何故かユーヌを飾り付ける。邪魔はする訳がない、なんたって自分の為のチョコレートだ。 ユーヌをファンシーなフリフリな感じに、と全身飾り付けるその手に気に為らないながらも足元をリボンで結う竜一を軽く突く。 「あんまり足元に居ると間違えて踏んでしまいそうだぞ? ふりふりは似合わない気がするが……」 「リボンちゃんなのも可愛いなあ」 オーブンにパイを突っ込み一段落した所で振り向いたユーヌをむぎゅーと抱きしめた竜一に表情を変えずに小さく首を傾げるユーヌ。 (これで当日、私を食べて、的な事が! ぐふふっ!) 「……ふむ、プレゼントは私、とやって欲しいか?」 ――どうやらお見通しの様で。ちゅ、と合わさった唇に竜一は嬉しそうに微笑んだ。 「――お邪魔だったかしら?」 手作りチョコレートを作ると決めた糾華とリンシード。招かれた氷璃の言葉はどうやら何気なく発された糾華の『本命』という言葉に向けられている。 「氷璃さんは勿論、沙織さんで……なんだか、本人の前で作るのも変な感じよね」 くす、と笑みを浮かべる糾華の目線の先はリンシードだ。互いに互いへ向けた物を作っている二人へと視線を向ける氷の口元へと浮かんだのは密かな笑みだ。 「一緒に作りましょうね。氷璃さんだけの為じゃなくて私達の為でもあるのよ」 「はい、素敵なものをつくりましょうね?」 何処か張り切った雰囲気のリンシードに微笑んで、三人が作る生チョコは其々が其々のスペシャルブレンドだ。手軽に美味しく少し豪華にをコンセプトにした其れにそっと入れられる『何か』。 「……なんですか?」 「ふふ、何を入れたかは、内緒よ?」 くすり、と笑みを浮かべる糾華に首を傾げたままのリンシード。そっと、自身の手元へと氷璃は視線を移して瞬いた。溜め息を共に吐かれるのはちょっとした不安。 ――この気持ちも真っ直ぐにあの人の下へ届くかしら。臆病になりそうな私の心に力を貸して頂戴。 呟く様に、混ぜ込んだシャンパン。揃って冷蔵庫に仕舞われる頃には糾華はメッセージカードを準備した。 「何を書いたんですか?」 「ふふ、私のカードは、明日のお楽しみに、ね?」 余ったシャンパンを傾ける氷璃に糾華は瞬いて、「アルコールだなんて」と呟いた。 「……私達の前でそういう。いえ、分別あるのは知ってるけれど」 「貴女達にはまだ早いわ」 指で救ったチョコレイト。ぺろり、と舐めれば、大人の特権よと氷璃は微笑んだ。 過去を想ってはシエルは小さくため息をつく。 死ぬ事に畏れは無かった。只管に癒して何時の間にか土塊に還れるなら、後は彼岸にて然るべき場所へ送られるのみ。 『癒し手として尊敬しています』 その言葉を掛けられた事にシエルは瞬くのみだった。其れ以来、出来る事をと教える様に話す事が増えて、彼の陽だまりの様な温もりに触れる事になったのだろう。 「……心の支えに、なっていたのですね」 いつの間にか、そう、何時の間にか気付けば心の支えになっていて。亡き姉を想うたびに、どうしようもなく問いたくなる。 「私はようやく『私』になれたのでしょうか……?」 出会えてよかった、とそう思う。思いながら作るのは冬の庭に仲良く並ぶ雪うさぎを二羽。それを模したチョコレートはきっと光介に感謝を届けてくれるだろうから。 櫻子は用意した可愛らしいエプロンと三角巾を付けて、世恋と共にチョコレート作りに勤しんでいる。 「月鍵さんと一緒にチョコを作りたかったのですぅ♪」 るんるん気分で、作る櫻子が作るチョコレートローズに目を奪われながら世恋は素敵ね、と微笑んだ。 丁寧に作った花弁を一つ一つくっつけて、ホワイトチョコ、ラズベリー、抹茶の三つの味を作り上げる。 「ふふっ、月鍵さん。一つ味見しませんか?」 「え、いいの? それじゃあ」 頂きますと瞳を輝かせる世恋に微笑む櫻子はどうでしょうか、と首を傾げた。花弁型のチョコレートが舌先で蕩ける感覚に美味しい、と嬉しそうにはしゃぐ予見者にほっと胸を撫で下ろす。 「バレンタインは大事なイベントですものね。そういえば……月鍵さんは何方かに差し上げますの?」 ことん、首を傾げて聞く櫻子の色違いの瞳に見つめられ、世恋は小さく微笑んだ。 櫻子さんみたいに何時か本命に渡せる日が来ます様に、なんて、悪戯っ子の様に笑って。 ● 所変わって三高平市役所。今日も頑張る義衛郎はお仕事中だ。 バレンタイン前日に彼が窓口でやっているのはお姉さんからのチョコレート受付では無く書類との格闘だ。 「前日どころか当日もこんななのだろうか……!」 インフルエンザにノロウイルス。猛威を振るうソレに役所もてんてこ舞いだ。各部署で人員も確保できていない! 病欠だって続出中だ。相談窓口担当の義衛郎だって普段の三倍は頑張らないといけなくなっている。 「うおおお! 次は! 次は何処の手伝いをしたら良いんだ!! バレンタイン当日は何があろうが定時で上がらせてもらうからなー!?」 ――そんな叫び声の裏で自宅でこっそりとチョコレートを作る嶺の姿がある。 オペレーター業務をする彼女は日勤夜勤のシフト制で本日は夜勤明けだ。 「えーと……テンパリング、して、クッキングシートの上にオレンジピールを……」 ビターチョコを掛けたオレンジピールを作るためにレシピとにらめっこ。恋人さんは三倍頑張ってる最中ですね! 「マグノリアの花のメッセージカードも良し。ふう、出来ましたね、名付けて【Lady Marmalade】!」 さて、準備が出来たら直ぐに冷蔵庫に仕舞って、お部屋に消臭スプレーを。お掃除をして、換気をして全然チョコなんて作ってないですよ、と言った雰囲気を作り上げる。 チョコレートの渡し方? そっと鞄に忍ばせて出勤して、退勤までにロッカーに。 定時で上がった彼が見れば、きっと喜んでくれる筈。――頑張って、定時で上がってね須賀さん! 「ふー、明日か。早いもんだな……」 ぽそり、と呟いて、時間の都合でチョコレートは買えないから学校の帰りに買おうと決めた木蓮。 恋愛事情に明るくない龍治だって、『明日』が何の日か分からない筈がない。別に、貰わないと気が済まない訳ではないのだが、貰えるならば嬉しいわけで。 「……どうかしたのか?」 そわそわする龍治に、落ち着かない木蓮。尻尾に寝癖でもついてたか、と自身を見回すがもしかするとチョコを気にしてる?と少し笑みが浮かぶ。 「い、いや……」 当の龍治はと言えば如何切り出したものかと迷いが生じていた。あからさまでは強請っているようで、けれど言い回しが浮かばない。 『――明日はバレンタインですね!」 「……明日は、そういう日だったか」 テレビで流れた言葉に合わせ、絞り出した声に、ほっこりしながら見守っていた木蓮は微笑む。 「だなぁ、色んなチョコが並んでて面白いぜ。うちの店にも新作のモルチョコを置いたんだ。売れると嬉しいなぁ」 そわ、とする木蓮に、同じくそわっとする龍治。くす、と小さく笑みを浮かべて、ねえ、と木蓮は紡ぐ。 「龍治は、貰えたら嬉しい?」 「甘いものは、そう得意ではないが。貰えるなら、……嬉しい、と思う」 ぼそり、呟かれた言葉に、そっか、と満足そうに微笑んだ。 恋人も住んでいるから鉢合わせしない様に、と念には念を入れて。 『故障中、使用禁止』 ぺたりと張り紙を出したプレインフェザーは小さく息を吐く。 「あいつ、甘党なんだよな……」 飽きる程、チョコレートを使ったケーキにしてやろう、とココアスポンジでチョコレイトクリィムをたっぷり挟んで、ガナッシュでまんべんなくコーティング。 これでもかと言う位、チョコレートを使って出来あがったチョコレートケーキは3つだ。 一つ、勿論恋人用。二つ、お変わりされても大丈夫な様に。三つ、大好きな人と共有するために。 「……不味かったら、どうしよう」 甘いものはあまり好きじゃないけれど、それでも、大好きな人と共有する甘い時間なら、嫌いじゃない。 ――その為だったら、同じものだって味わいたいから。 用意したチョコレートケーキをみて、プレインフェザーは小さく微笑む。 子供達とチョコづくりだと張り切るカイは凝ったものは作れないと手元を見つめる。 「ナッツやフルーツで飾ったり、チョコペンでカラフルカラフルにお絵かきすれバ美味しくて楽しいおやつになるのダ♪」 子供達と一緒だから、楽しめると並んで作るチョコレート。くい、とカイの袖を引く子供がぱぱ、ぱぱ、と呼ぶ。 「『ま』ってどうかくの?」 「こうなのダ~」 ま、と教えれば、メッセージカードに向かう子供。微笑ましいと覗きこめば「ままへ」と歪んだ字で書いてある。 ――あれ? 「我輩の分ハ~?」 きゃっきゃ、と笑う子供に哀しげな表情を向ける事しかできないのであった。 ひょこり、と世恋がチョコレートを作っている所に顔を出したミリィがこんにちは、と笑った。 「突然押し掛けてしまいましたけど、迷惑じゃなかったでしょうか?」 「よければ一緒に作りましょう?」 作り方は教わってきたけれど一人で作るのは不安だから。送るならやっぱり出来の良いものにしたいから。 「今日は一日宜しくお願いしますね、世恋先生!」 ぺこりと頭を下げるミリィにこちらこそ、と慌てて頭を下げた世恋。手際良くチョコレートを作る様子を見つめながら、ミリィは小さく首を傾げる。 「……それにしても、世恋さんってお料理が得意だったんですね」 「意外、かしら?」 「今まで色々とおでかけしたりしていましたけど、初めて知ったのですよ」 お外だとお料理、しないから、と小さく笑みを漏らす予見者に、そうですね、とミリィも微笑む。言い淀んで、あの、と小さく漏らす声に首を傾げて。 「その……、世恋さんさえ宜しければ、これからもお料理の事教えて貰ってもいいでしょうか? 一杯勉強して、今度は世恋さんに御馳走したいのです」 瞬いて、私で良いならば、と世恋は微笑む。御馳走、楽しみにしてるわ、と未来を思って。 「団地の人にハモを貰ったんで、ハモ鍋にしよう!」 ――何故貰った!? そう言いたくなるようなタイミングでハモを貰った設楽悠里滅びろ。 具の買い出しに出た時に出逢った世恋をつれて、悠里の部屋に集まった火車とレンはハモ鍋という提案に中々いい誘いだと乗った。 「ところで、ハモって何だ?」 「魚類……」 青ざめる世恋を横目に人の家は久しぶりだな、と火車は悠里の部屋を見回した。勿論、皆で食べるのだから用意は一緒にだ。接待しろよ、と告げる火車に与えられるのは野菜を切るお仕事だ。 「別に料理とか好きじゃねぇし、見ててやるつもりだったんだけどな、接待しろよクソ眼鏡」 「レンが野菜を洗って、火車はレンが洗った野菜を切ってね!」 任せろと声を上げながらもキッチンでお皿を用意するレンを見つめながら、立ち竦む世恋に渡される包丁。 「確か世恋ちゃんって料理うまかったよね? じゃあハモを捌くのはお任せするね!」 ニーハオ> Σ<●> ←イメージ映像 何故ハモは中国語を喋ったのであろうか。引き攣る世恋の表情に、ハモってこういうのか、とまじまじと見つめる火車。 「そうか、すごいな。料理ができるのか!」 鋭い歯には気をつけてとわくわくするレンの視線を受けてしまっては世恋はもう後には引けなかった。 「流石にハモを捌いた事はないから料理上手の世恋ちゃんがいてくれて助かったよ!」 「こんな長い魚を捌けるとは相当な腕だな! 魚はユーリでも難しいと言っていた!」 輝く瞳が世恋の生きる心地を奪っていくようだった。え、ええと、とそっと手を伸ばせば ビチビチ> Σ<●> ←生きている。 「ひ、非常に……お元気そうで」 「世恋はなんだ、懐石料理とかやんのか?女子ってのはこーいうん出来て普通なんかね……」 火車さん、隣の予見者は白目剥いてますよ。意を決したように――お元気なハモの顔が怖いけど――包丁を入れた世恋にきらきらとした瞳を向けるレン。 鍋の用意や出汁を作る悠里が様子を見るまでも無くレンの輝く瞳は耐えずハモ(と世恋)に向けられているのであった。 「さて、出来た! というわけで、皆で食べよう。世恋ちゃん、飲む?」 「ユーリはあまり飲み過ぎないようにな」 「……あと半年すりゃ飲むけどな。お楽しみってことで……」 ハモの余韻に浸り、お茶で良いわ、と座った世恋と三人は両手を合わせて、頂きます。 Σ<●> <美味しく食べてね? 「チョコは! 大量に! 購入済みでございまする! さあ世恋殿! 素敵なチョコを作り上げるのでございます! LOVE!」 愛の伝道師はスペード&ハートハウスで瞳を輝かせていた。 テンションは高い。なんたって愛を伝える日なのだから! 「楽しまなければ損でございますよ! さあ一気に行くでガンス!」 「ま、任せろゴンス!」 ――良く分からないノリの侭鼻歌交じりに楽しいチョコレート作りが始まった。 その手付きや『恐ろしさ』を感じるほどだ。 大量のチョコレートをがしがし刻み、火にかけた生クリームに流し込む。 「滑らか! クリーム! LOVE!」 愛音は上機嫌だ。たっぷり卵にハチミツ砂糖、焦がしバター。こねこね、と薄力粉で捏ねては土台が完成。その辺りで世恋は気付いた。 (――大きいなあ) 大量の生クリームはチョコと混ぜ合わされココアの色。層を重ねて高く高く積み上げられていく其れに世恋は瞬くしかしない。 「表面をパテで綺麗に仕上げて――っ! 完成、でございまする」 「……愛音さん」 「世恋殿。……チョコウエディングケーキが完成してしまったのでございます」 ドウスルヨ?と掛けられた声に、「結婚式でもする?」としか返す言葉が浮かばないのだった。 \ばばーん/ 「光りあるところにはまた影あり――一つの成功の陰には幾多の失敗が横たわっているのだわ」 E・M・P(エナーシア・マジ・プリティ)! 『はも怖い』のです。 「バレンタインのチョコレート作りと言うのは恋の瞬間最大風速で勢いだけで突撃する事が多い―― よって! 死屍累々と横たわるカカオであったモノ達が流しに流され……詰まってしまうのだわ!」 キリッ。水道管工事のエナーシアさんはこの時期は忙しいのだわ、とせっせと水回り問題を解決している。 「でも恋とは端的に言えば勘違いだわ。それが現実とぶつかって削れながらそれでも進んで愛となるのだから失敗は敷石の一つに過ぎないのよ。だから、だからね……止まらずにぶつけて来なさい!」 送り出す様なエナーシアさんの言葉。 ――実は恋の経験とか一度もないのです><。 そうぼそりと、呟くけれど、何時か見た『止まらない恋情』は羨ましかったりして。 言葉を向ける先が何処かのPrinceさん宛だなんて。全然関係ないのですよ?と彼女は何処かを見て呟いた。 2月13日が終わりを告げようとしている。 ――14日が、幸せであります様に。 アンバランス→リンクス。ふわふわと揺れる気持ちが何時か、幸せに繋がります様に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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