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<混沌組曲・破>Sequentia. -Recordare-<東北>

●Faded photo
 時間と年月が過ぎれば過ぎるほど、時間はより速く。一年の価値もまた、重くなる。
 昔は、『10年一昔』と言って、10年後以降を『昔』と言った。
 しかし、今の時代を振り返れば、時間の価値は圧倒的に重い。
 今は、もう一年を以て『昔』と言う。故に。もうこの事実は記憶の波に消し去られて久しい。
 そんな何も終わらないこの地に付した名もなき魂は、無縁の仏として今もこの地を彷徨う。

 今や、夥しいヒトだったモノも火葬に付され、時間の波に記憶として揺蕩うだけ。
 そんな、今だ何も終わらない中でのふとした安息。それすらも、ヒトの業は容易に踏みにじる。
 科学の進歩、そして魔術の格段なる進歩は神の御業すら人の手に与えた。

 物質の変化による創造、破壊。 生命の創造、操作。 そして――黄泉還り。

 神は、最早単なるヒトと変わらない。我々は、神の奇跡を逆打つ術を手に入れたから。
 神の威光など、所詮はヒトの戯言。 真に、神は不在であることを証明するために。
 死せる後の安寧すら、此度の異端は平然と弄び、そしてあざ笑うだろう。

 此度の古き異端。それは、安息を奪われし亡者の嘆き。そして、救済を巡る一連の歌劇。
 お付き合い願おう。 ヒトは、如何なる領域へと、歩みを進めるのだろうか――。

 ★ ★ ★ ★

 日常。それは、至って当然の事。 唯、ヒトは同心円に似たサイクルを繰り返す。
 そのサイクルの最中、黒い影が降り立ったのは、何処であろう、その災厄の中心地だった。
 空路より一途、仙台空港のタラップを叩く編上靴の音が木霊する。
 その身なりを問えば、楽団の演者と言うよりも軍人に近い身なりのそれだ。
 編上靴を始めとし、上に羽織るフィールドジャケット。
 実用性を限りなく重視した機能美的な服装を纏うその男は、近くを通る者が訝しむのも無理は無い。

 アクアマリンがキョロキョロと周辺の様子を窺うように動いたと思えば、
 男は足早にその場を離れ、鉄道線に乗って目的の地へと動き出す。――目指すは、杜の都。
 多数を抱える、あの地方都市。 破滅の宴には、彼の地は好立地に過ぎた。
 走りだす文明の脚に思いを馳せるその男に名を問うたとしても、唇からは答えまい。
 男は、元より無口であったから。――オルガン奏者、『魂奏者』ソルデレンヌイ・イヴァコフ。
 此度の異端の鍵盤を託された、この男は。ただ、淡々と持ち場へと向かう。
 全ての恐怖をもう一度。あの嘆きの壁に刻まれた、あの悪夢を見せる、そのためだけに。
 持ち場に付けば、全ての指に付けられたその指輪はオルガンとして空間を震わせるだろう。
 ノアの箱舟は、あの時には出来てさえ、居なかったから。悪夢は、再び再生される。

●Lacrimosa
 普段、異端を最小の被害に抑えるべく躍動するこの組織は、いつも忙殺の様相を呈している。
 少し気を抜けば異端はあっという間に安息と平穏を食い破る。
 故に、システムの更新と維持管理は欠かせない。この日はサーバー機器の交換作業に、
 システムエンジニアをはじめとする業者たちは追われていた。
 未来を扱うということは高度な情報を扱うということである。情報は守られねばならない。

 その最中、突然に動き出す緊急の放送網。運命の輪は唐突に、そして激流の様相を呈して回り出す。
 情報の処理と説明のためのレジュメの用意が行われ、務める職員も緊急体制に入る。
 当然ながら、主戦力たるリベリスタ達に掛かったのは、緊急招集だ。
 集められた反逆者達に、巫女はタッチパネルデバイスを操作しながら、告げる。

「……緊急招集は正直面倒。けど、かける。

 聞いて。かねてより、ケイオスと彼が率いる『楽団』が日本で暗躍しているのは知っての通り。
 その攻勢は徐々に強くなることは予想通りなのだけれど……。今回、恐れていた事態が起きたの。

 往々の襲撃事件を通じ、彼らは自分が『演奏』するための戦力を徐々に蓄積してきていた。
 一般人は既に言うに及ばず、国内のリベリスタからフィクサードまで含めて、ね。
 正直、襲撃の全ては当然防ぎきれるものじゃない。原資がゼロのゲリラ戦なんて、防ぎようがない。
 ここまでの流れは、実は前例がある。『混沌事件』で壊滅したポーランドの『白い鎧盾』。
 彼らが辿った状況と全く同じ。結果として、一般人や叛逆者の死体を得た『楽団』は戦力を増強中。
 この、蔓延り始めた恐怖と社会不安を下地にして、彼らは事態を大きく動かそうとしているの。
 隠密能力でも隠し切れない程の大きな動き。これを今回、万華鏡が捉えた。」

 説明を行うのは何度目だろうか。 乾く喉にスタッフに持ってこさせた、
 ペットボトルに入った黄緑色の液体を流しこみ、一息つくと巫女はまた話を続ける。
 全てを説明することは現場の者としての勤めであることを、重々承知するが故に。

「……ふぅ。

 ――結論から言えば。彼らは、全国の中規模都市に致命的打撃を加えようと考えている。
 それも、一斉に。勿論、これで更に大量の死人が出れば、彼らの楽団は手を付けられなくなる。
 何としても、これは止め無くてはならない。けど、今回は孤立無援というわけでもない。

 リベリスタは言うに及ばず、フィクサード達も楽団に対しては敵対の姿勢を見せている。
 そのフィクサード側の代表として、『バランス感覚の男』からのコンタクトが有ったの。
 内容としては、

『主流七派の内『裏野部』と『黄泉ヶ辻』以外についてはアークと遭遇した場合でも、
 これを当座の敵としないという統制を纏めた。
 従って、同盟では無いがアークにも同様の統制を取って頂きたい。』

 とのこと。この件については、リーダーである沙織が了承したから、同様の統制が取られる。
 つまり、事実上の友軍。だから、完全に孤立無援と言うことではないの。

 ハッキリ言って、ケイオス自体これまでで最悪の相手。だけど、最悪『だからこそ』見逃せない。
 大げさなことは何もない、とは言い難いけれど……。日本の秩序と平和がこの先も続くかは、
 この戦いに掛かってる。みんなには、頑張って欲しい。

 それで、なんだけど……。 皆には、宮城県に向かってほしい。
 作戦目標、『魂奏者』ソルデレンヌイ・イヴァコフ。並び、指揮下にある亡霊。

 楽団のオルガン奏者、『魂奏者』ソルデレンヌイ・イヴァコフ。
 ジーニアスで、特殊なアンデッドをメインに使用する死霊使い(ネクロマンサー)。
 彼自身がオルガンを所有するということはないのだけれど、破界機がその機能を有していて、
 並びに死者を扱える範囲が極めて広いのが特徴。

 そして、彼のメインとして扱う駒は、休まらざる霊魂(レストレス・ソウル)。
 霊魂といっても、現実世界への影響力を持たせてある種で、武器を扱うこともできる。
 その他、中堅として『凶眼のクロイツァー』が確認されているわ。
 人格は既に殆ど残っていない。ただ、面影と能力のみの存在になってる。
 今はもう、強い相手ではないけれど。それでも警戒はしてないと悪夢を見ることになる。

 あと、一つ注意。もう古い話だけど、災害の有った地域だから、死霊には有利に働く。
 地形的には問題はないの。けど、地理的な不利は否めない。絶対に、油断しないで。」

 巫女の瞳は何時に無く重く、奈落の如き恐怖を湛えている。
 普段にも増して、状況は重く。そして、激戦の様相を呈した暗黒の戦場。
 それは、死の予感を指し示すには十分に過ぎる。恐ろしき死の幻影が瞳に写っては消えていく。
 そんな悪夢の如き戦場に挑む勇士を、そっと見送る瞳には、悲しみさえ何処か写って、見えた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:Draconian  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年02月13日(水)23:36
■STコメント
覚めぬ悪夢に終止符を。この舞台だからこそ、できる事があります。
ドラコニアンです。Heaven or Hell! Let's Rock!

●重要な備考
『<混沌組曲・破>』は同日同時刻ではなく逃げ場なき恐怖演出の為に次々と発生している事件群です。
『<混沌組曲・破>』は結果次第で崩界度に大きな影響が出る可能性があります。
 状況次第で日本の何処かが『楽団』の勢力圏に変わる可能性があります。
 又、時村家とアークの活動にダメージが発生する可能性があります。
 予め御了承の上、御参加下さるようにお願いします。

■作戦目標
現状況よりの生存、並びに襲撃被害の抑止
『魂奏者』ソルデレンヌイ・イヴァコフの撃退/撃破

■戦地
宮城県仙台市。沿岸部側から内陸部へと侵攻中。
足場等の不利はありません。

†報われぬ死者の呻き
特殊な環境下故に霊魂に影響を与えています。
亡霊・アンデッドの敵に能力のボーナスと微弱な再生能力が付加されます。

■『魂奏者』ソルデレンヌイ・イヴァコフ
ロシア方面の楽団メンバー。ジーニアス・ネクロマンサー。
オルガン奏者。パイプオルガンの演奏を特に好む。

◆所有アーティファクト
・オルガン・リング
手の全ての指に付けられた指輪。これを一式として発動する。
何もない空間に大型パイプオルガン同様の演奏設備を出現させ、パイプオルガンの演奏を可能とする。

・逆十字のアミュレット
神の秘跡を逆打つ者の証。奇数ターン毎に発動し、敵の発動した回復スキルの効果を反転する。

★所持能力
魂等を扱うスキルを有するという点のみしか判明していない。
入念な秘匿が行われている。

■『凶眼のクロイツァー』
中堅のフィクサードだったモノ。拙作、<相模の蝮>Orchestral Exploded を参考に。
シナリオ自体を知らなくても構いません。人格はほぼ既に無く、面影がただ残るのみとなっています。

★所持能力
・冥王の寵愛II:P:HP=無限。高攻撃力、無防御力。特殊絶対者(出血系無効、崩し系除く)
・幽体の宿痾:P:主である契約者の死亡と同時に送還され、死亡する。
・計略者:プロアデプト中級までのスキル全てを習得しており、幾つかを活性化しています。
・チェインライトニング:同名のプレイヤースキルに準じます。
・ハニーコムガトリング:同上。
・EX:『爆懺』:遠物全:溜3・必中・高CT・必殺。

■休まらざる霊魂(レストレス・ソウル)
死者の魂の安息を奪い、物質世界への影響力を与えた物。
初期で20体配置。各々が何かしらの武器を有し、死者を飲んで徐々に増え、
リベリスタをベースとしたものは生前のスキルを有する。

★基本所持能力
・冥王の寵愛I:P:HP=無限。低攻撃力、無防御力。特殊絶対者(出血系無効、崩し系除く)
・幽体の宿痾:P:主である契約者の死亡と同時に送還され、死亡する。
・生前の記憶:生前持っていた技能の記憶を有する。

■スリーポイントアドバイス
・壁を全うすることを目指すべし。されど、引き際を誤るな。
・己の信念を貫き、全てを賭けて何処までも無情なる現実の壁へ挑め。
・パンドラの箱は開いた。最後に残る物を忘れるな。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 又、このシナリオで死亡した場合『死体が楽団一派に強奪される可能性』があります。
 該当する判定を受けた場合、『その後のシナリオで敵として利用される可能性』がございますので、
 予め御了承下さい。

それでは、無情なる戦場の向こうで、お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
クリミナルスタア
エナーシア・ガトリング(BNE000422)
ナイトクリーク
源 カイ(BNE000446)
デュランダル
遠野 御龍(BNE000865)
レイザータクト
富永・喜平(BNE000939)
インヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
クリミナルスタア
神城・涼(BNE001343)
ホーリーメイガス
レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)
ホーリーメイガス
氷河・凛子(BNE003330)
スターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)

●overture
 杜の都、仙台。駅の側からすれば、内陸部にあるように見えるその都市は、
 少し郊外へと足を運べば潮騒の香りが吹き込む沿岸都市の様相を見せてくれる。
 春には桜が咲き誇り、夏には緑色に色付く銀杏並木が生命力を感じさせ、
 秋ともなれば黄色の雨が訪れる者を喜んで離さず、長き冬は葉を落とした木々を染め上げる。
 このどことない自然への近さが、仇となるとは誰が想像しただろう。
 楽団の意図を我々が汲む事は万華の鏡をもってしても出来ることではない。
 何処かテロリズムにも似る悲劇の前奏、悲劇の舞台にするにはちょうど良かったのやもしれない。
 そんな、諦念にも似た投げ打ちの最中に、此度の戦いの前奏は響く。
 ふと紛れ込んでは儚く消える、その香りに感付く者は常人の中にいたのだろうか。
 流れ行く沿岸部独特の潮風に乗る、腐りかけた肉の芳醇さにも似るその香りに。
 ネクロマンシーと呼ばれた美しくも甘き神々への冒涜。
 退廃と混沌、平和への限りなき挑戦を意味する混沌組曲と呼ばれたその音色は、奏でられ始める。

 S e q u e n t i a .   - R e c o r d a r e -

 ★ ★ ★

 信仰の美名を奏で響く筈のその音色は、対極たるその楽譜(スコア)を奏でるにもふさわしい。
 その音色が響く時、冥府の鎖し(とざし)は開かれ、死者の安息は奪われる。
 パイプオルガンの重厚なるバロックの音色に載せ、奏でられる一つのタペストリ。
 タペストリに織り込まれし文様の全ては芸術か、それとも狂気のすり替えか。
 ヒトは、常に『過ち』(げいじゅつ)の名の下に己を美化する。
 死者の魂が音色に呼び覚まされるが如く、影と影より滲み出るように其処に現れれば。
 その男の意を汲むように。足音もなく全ての駒は歩み始めたのである。
 それは、まさに足音なき死、そのものだった――。

『災害警報発令! 津波の危険性があります。直ちに避難しなさい!』

 緊急災害警報のサイレンが街に鳴り響く。
 戦場を無人に近づけるべく、いち早い偽の避難指示が飛んだ。
 時間を置いて動き出す重なる警報と人の波。アスファルトを靴が叩く音、
 タイヤの走行音が町中に響いては消えていく。
 緊急を示すその音に急かされたクラクションの前奏に、人々の混乱が臨界点に達していく中。
 死に満ちた空気から逃れるかのような人の波は、まるで柵の中で逃げ惑う子羊のようだ。
 その流れ行く人の波に逆らうように。 十の勇者たちは己が獲物を構え、緩やかに戦場へと赴く。
 己が向かうは冥府の底であることを、すべての戦士たちは知っていた。

 ――吸って吐く空気は、重く。満ちる死は、何処までも昏く。己が実存を揺るがせる。
 少しでも気を許せば、奈落の底へと引きずり込まれるかのような、重さの中に癒しの双璧は依って立つ。
 全ては、死を遠ざけるという一点のために。

「……全てが絶望。 まさに、パンドラの匣……。 でも、一番奥底に希望は、あるんだ」

 紡いで語るは、『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)。
 接近戦向けの己の武装を再度確認し、魔術の構成式を確認する。
 そんな癒し手である彼女が唇に乗せる現状と、添える言葉は己に言い聞かす言の葉。
 それは全ての叛逆者の代弁だった。そして、それは癒し手としての矜持の現れでもある。
 響く言葉に呼応するように。選別する者の言葉は重なる。

「――ええ。 その希望を紡ぐのが、私たちの努めであり、存在意義(レゾン・デートル)。
 行きましょう。 死の中に生を見出すために」

 唇に紡いだのは『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003820)。
 身に纏う白衣は死を遠ざける癒しを可能とする者であることを意味する聖衣だ。
 希望を捨てることは生きる者として許されえぬ定めであることを、癒し手たちは知っていた。
 故に、戦場で乙女たちは依って立つ。その勤めをただ果たすため。
 しかし、その勤めすらも掻き消すような強い死臭は。潮風に乗り、来たり来る。

「……しっかし、甘いことは言えそうにねぇな。
 死の匂いで咽そうになるぜ。 吐き気を催すような甘ったるい匂いしやがって」

 紡がれた『ダブルエッジマスター』神城・涼(BNE001343)の言葉。
 それは、直死嗅ぎを持つが故に感じる、あまりに濃い死臭の強さを明白に表していた。
 ヒトが残すどこか甘く、そして線香の香りに似る匂い。最後に残す灯火にも似る。
 そしてそれは、これから立つ戦場の意味を明白かつ、的確に示していた。
 しかし、明白に示された結論と言えども、得物を手に、ただ己が努めを果たすのみ。
 戦場へ進む足は、確実に進み。その歩みに重ねるようにまた、唇は震えていく。

「でも、此処で抑えねば。何としてでも」

 唇を震わせたのは源 カイ(BNE000446)だ。
 ふと脳裏に、楽団との対峙を経験した記憶が蘇る。悔しいかな、敵の合理性は己がよく理解している。
 だからこそ、止めねばならない。一度死が増え始めたならば、それは雪崩を打つ。
 それをよく理解するが故の、準備であった。己の義手に仕込まれた装備品は、もう既に体の一部。
 幾度と無く戦列を共にした武装は、よく手入れが済んでいて、なめらかに動く。
 己の勤めを果たすには、十分過ぎるほどの装備。例え、『運命が己を見放した』としても。
 その覚悟は既に、決めていた。背中が、ふと寂寞を滲ませる。

「ま、やるこた変わりゃしないさ。 『外道討つべし』ってな。
 カイ。あまり気負うと運命にすら裏切られるぜ」

 そして、その寂寞をかき消すように。声に滲むのはあまりの頭数へのゲンナリ感だ。
 大型のショットガンシェルを鋼の獣に飲ませながら、男は狩人として其処にいる。
 己が信念に従い、刃を捨て、銃を捨て、指揮者と変わったその男は。
 声の主は『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939 )。此度の目的を、男もまた共にしている。
 外法を止め、被害を減らし、人々の安寧を守るということ。
 その目的のためにやれるだけ、『やれるから、やる』のだ。
 言葉を重ねるもうひとつの影も、それは、同じ事で。

「我もそりゃ同感じゃな。 どんな相手とて狩るこたぁ変わりない」

 己の肩に戦友たる刃を乗せれば、巫女服の袖から左腕に刻んだ龍鱗の刺繍がふと覗く。
 気楽に笑うその表情も、戦場に入ればたちまちのうちに掻き消えるのだろう。
 それが、『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)。戦場で笑う鬼神たる姿だった。
 己の刃にかけて、ただひたすらに暴れ狂うのみ。 己が刃と滾りし血にかけて。
 それは、もう一人の鬼神とても変わることもまた、無いのだから。

「ええ。 ま、今一度懐かしい顔に刃を突き立てるだけですけど」

 感情に何ら表を出さず。声のみでその鬼神は嗤っていた。
 背を託した相棒も、宿敵だったもう一人のライバルも。今や、もうこの世には居ない。
 そんなどこか寂寞すらに似た思いを想起する、一人の鬼神は。
 声の主の名を問えば、雪白 桐(BNE000185)。心には、どこか空洞が開いていた。
 空洞に滑りこむ甘き死を殺すために戦場へと向かう。そして、もう一人の銃士も其処に、立つ。

「同感。 ま、サラリとドライに行きましょ。深淵を覗き過ぎれば引きずり込まれるもの」

 どこかその声は深淵を嘲笑うかのような軽妙洒脱さを備えて聞こえる。
 否、その気質こそが射手たる乙女を死地より救ってきたのやもしれない。
 それが、『BlessOfFireArms』エナーシア・ガトリング(BNE000422)。
 銃火器の祝福を受けたる者は、時として嘆きを笑いに変えてきた。
 故に、戦地に立つときもその気質は変わらない。それに合わせるように。

「SOSO! それに、暗くしてたって仕方がないじゃん? ラフィングからのー、ヴィクトリー!」

 そんな軽い言葉も重なった。外見からも軽く見えるが、声の主もまた軽い。
 しかし、そんな死地ではこの軽さが時として救いに変わる。
 それを、戦士たちは知っている。天幕としてかかる絶望を晴らすには、明かりは欠かせない。
 皆には笑ってて欲しいから。『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)は、
 内心、そう思っていた。軽さは時に笑いに変わり、そして死地への勇気を奮い立たせる。
 如何なる戦地でも、兵士たちは時として歌声を響かせて気を紛らした。
 それは、己が日常を忘れれば滅びへと向かうことを知るが故だ。

「笑顔が勝利を呼び込むか。 それも一つの真理なのだろうな」

 そして。その事実を感情を表に出さぬもう一人の術師も知っている。
 護符を持ちて四神を使役し、術を極めて尚足りる事無き術者の顔を持つ者は。
 無表情とは言えど、乙女はただ、心のなかに晴れやかな感情をどこか抱いていた。
 それが、何であるのかをただ観察するかのような。そんな冷めた目線を向けながら、
 己の感情を観察する者。『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。
 己が其処にいる理由は、ただひとつ。結果を、其処に示すために。
 進む歩みは、いよいよ音の根源の方へ。翼の加護が英雄たちに広がれば、
 英雄たちは力天使として天を舞うだろう。眼前に広がっていたもの。それは――。

●Avalanche of Death
 古の建築がそこにはあった。天高くそびえ立つ古の薔薇窓は信仰の輝きにして、
 壁に備えられしパイプオルガンは偉大なる信仰を告げる音色である。
 それは神への賛美と唱歌を唱うるべきそれであり、また紡がれる楽譜は偉大なる神の所業を称う。
 本来は神に捧げられるべき素晴らしきこの総合芸術と呼ぶべきモノ達。
 もし。この2つを逆打ち、神への冒涜と冥府への恭順を示すそれとしたならば。
 それは、神の奇跡を逆打つ魔術と変じ、神そのものを抹殺せんという者たちへの讃歌となるだろう。

「エアパイプオルガンか。仙台はジャズの街じゃなかったっけ?」

 翔吾の口より思わず溢れるその指摘は得てして間違いではない。我々が目撃せし御業。
 それは何処か神々しき、この世における神への反旗と冒涜の煮凝りであった。
 薔薇窓に描かれるは血塗られた生者、腹を割られし妊婦。
 天には投げ落とされし竜が舞い踊り、祈られるべき聖者は冥府へと落とされている。
 死者の安息は破られ、罪人は地上に踊り、死神の鎌は快活に笑いながら葬列の死者を導く。
 神々の血を浴びるため、冥府の御旗を翻す兵士達とそれを指揮する指揮者の姿。
 それは、甘き死と奥底のない絶望だ。それを破るため、英雄たちは己が身を戦地へと向かい、
 刃を絶望へと突き立てる。生と死の戦いの幕は今、高らかなる喇叭とともに、開かれた。

 始まりは天高く舞い上がる英雄たちの姿から始まった。
 白き光を纏いし翼が蒼き空に翻り、風をきる音が耳に残響として残っては消えていく。
 戦略上、死者の抑止は最優先である。しかし、目標を完全に抑えこむにはあまりに数が多すぎた。
 故に、英雄たちは指揮者たるその男を攻撃し、撤退に追い込むことを最優先としたのである。
 それは、正しい選択肢と言えた。しかし。それが運命の悪戯を招こうとは、誰が想像するだろう。
 否。それは例え、万華の鏡を以ってしたとしても、予測し得ぬ運命の悪戯だ――。

『System of Support Defencing Doctrine Marking. Standby Ready.
 ――All Grean. Conductor. Prease An Orchestra.』

 喜平による戦術指揮が発動する。此度の戦いは防衛戦であるが故の、防衛指揮が。
 相手は如何なる攻撃を加えようとも死ぬことはない不死者の群れだ。
 長きを戦うことになることは容易に予想がついた。相手の耐久力はほぼ無限に等しい。
 抑えつつ、相手を押しきれるか。 それが一つの問題点と言える。
 戦術指揮を確認し、次に動くのは射撃を己の術とする者だ。

 敵の数は時間を追うごとに死者を飲んで増える。それはあらかじめわかりきった出来事だった。
 なら、その事実に対応すべく、戦い方を変えるのは正しい理といえる。
 エナーシアは一度敵より離れればビルとビルの合間に入り、遮蔽ある状態より射撃を開始した。
 その一の矢となる初撃として狙う、Bounty Shot Special。
 腰だめに構えた魔力銃から連射された弾丸が亡霊の歩みを押し下げる。
 飛び散る薬莢が地面に当たり、軽い金属音を響かせるのが耳に入った。
 それは、敵が倒れないという状況下において正答となる射撃の一撃であった。
 ここからさらに気を引き、遮蔽を次々に変えながら、相手の注意を引きつけられれば目的は成る。

 さらに。其処に重ねるように、カイの小手の射撃が加わる。
 右手が中指から二分され、機械的な音とともに変形すれば、大口径の自動拳銃の発射機構が覗く。
 リロードから射撃までを全自動で行う己の主力兵装。そこから生み出されるは鋼の咆哮だ。
 一発の弾丸は、魔術の光とともに何連にも重なり、別れ、鋼の雨を作り出す。
 すべての射手ならば知るあの技(ハニーコムガトリング)だ。何度、それを目にしただろう。
 答えをパンの枚数に変えて、回る戦輪に従いながら。光の道を引けばいい。
 それが、己の仕事だったから。まだ、終わるには早すぎる。

 そこにさらに重ねるのは、星落としの力を重ねた同じ技。
 手に握る己の銃器に刻まれし刻印は断罪を意味するそれの綴り違いだ。
 手垢の着いた馴染みのグリップを握り、足で刻む8ビートとともに放つ2枚目のイゾルデ。
 乙女の悲鳴は不気味なそれではあるが、同時に主の無事を祈るそれであることは違いない。
 防御とともに銃口から放つ翔護によるその技は、空高く舞い上がり星屑の軌道を描き落ちる。
 顔に咲く星辰と天空の星辰は二度はためき、それは希望を告げる星時計となることを、
 彼はまだ知らない。

 肉体も無き亡霊の群れが神秘の力によって吹き飛ばされていく。
 完全に活動をとめる事は叶わない。しかし、銃撃による衝撃により相手を吹き飛ばすのは有効だ。
 銃撃の雨が降り注げば、通常の存在ならば生きる事は能わない。
 しかし、此度の存在は既死者(Undead)。死は二度微笑むこともない。
 それを繰るこの男もまた妙手だった。 20の手駒を演奏の中で糸として繰り、
 2手に分けることで己の守護と攻撃を兼ね備えた布陣としたのだ。
 15もいれば如何なる攻撃とても浸透は容易。
 そして。少しでも被害が増えればそれは瞬く間に雪崩を打つのだ。
 街の中に断末魔が木霊する。紅が黒のアスファルトを染め上げたと思えば、
 その肉と血。そして魂も灰燼と消え、断末魔と紅は瞬く間に嘲りを含む笑いと変わり。
 貧弱なる一般人とても、一度冥王の手中に収まればそれは一つの駒として機能する。
 それを、男は知っていた。10、20、30……。 初め20と思われたそれは恐るべき速度で増殖し、
 蘇る悪夢としてそこにあった。そして、その死の中に。 あの男もまた共にあるのだ。

「……殺せ。 殺せ。 殺せ……」

 凶眼と呼ばれた過去の男。今は、もうリベリスタに敵うこともないのだろう。
 しかし。その殺戮へと向けられた情熱は冥王にとっての宝であった。
 飽くなき渇望と殺戮への飢えが。己の技として発動する。
 街を、爆音と血で染め上げんがために。そして、それは知る者にとっては悪夢の再現だ――。
 止め無くてはならない。再度。その目的のためにもう一人の鬼神は、相対していた。

「記憶はほぼないという事ですが、その体に走る傷を与えたのは私です。
 ええ、その醜いなりにしたのは私ですよ。
 恨みすら忘れるほど……あの世は居心地良かったですか?」

 紡がれる嘲りに乗せて振り抜かれる鉄塊は、傷を与えることを目的としない必殺の一撃。
 左側から腰のスナップと脚力を生かし、刃の自重と加速度を生かして全力で振り抜く鈍い刃。
 桐も完全に殺すことが叶わぬ事は知っている。手足を切り飛ばそうとも、それは最早幻霊だ。
 瞬く間の再生によって生まれ変わり、そして戦列を踏んでいく。
 不死者の戦列。その言葉が正しく相応しき戦況下の中。その戦士はデコイに務めた。
 惹きつけ、誘導し、そして全体の被害を抑止する努めに。

 そして、もうひとつの目的を果たす乙女もそこにいた。
 ユーヌの口の中で魔導が転がり、陰陽の術と現代の技術がそこに融合する。
 戦場に響く魔導の術は、より長き戦いを生きるための術として、そこにある。
 軽く式符に息を吹き込み、己の魔導で影を生む。幾重にも生まれるその影は、
 己の意思を移す鏡。前の者を、そして後ろを守る盾と成る。
 固まって動き、分断を防ぎながらの囮戦術。 全ては、この後の戦略のために。

 前衛の戦士たちが動き出せば、戦略の針は回り始める。
 亡霊を極力惹きつけ、己の前に道を開く。そして、狙うは魂奏者の首一つ。
 限られた手管の中で、戦士たちは己の勝利を疑うことは決して無い。
 しかし。その中である一つのやり取りが有ったことは、戦場の中に掻き消えた。

 涼がカイへ投げた、その言葉は。幻想纏いの通信記録の中に、未だ残っていて。
 非公開の通信記録。それは、あるひとつの事実を端的に示していた。

「――カイ、お前は逃げろ。 9名だけで抑える。お前はあまりに死臭が強すぎる。
 どう考えても、出るべきじゃない」
「……覚悟はできてます。 それに……。 無理ですよ、9名だけでなんて……。
 この状況下で、自分たちが引けば、町の人が……」
「悲しむヒトも居るんだぞ! 分かっているのか! お前は!」
「……悪いとは、思っています。 しかし、後悔は……しません。」
「……。 誰も欠けずに帰るのが成功条件だ! 逃げろ! 良いな!」

 それは、一つの覚悟を示していた。己の死を厭わぬ献身であり、
 そしてそれは鏡にすら映らぬ酷薄なる現実に挑むという絶対的献身を。

 飛び上がる翼と、そして同時に道を開くための一つの結論としての戦闘参加。
 遠野と共に飛び上がる神城の瞼の裏で、未だにそれは焼き付いていて。
 飛び上がり、魂奏者の首を狙うための自由落下(フリーフォール)の風の中で。
 ふと、想起しては消える。走馬灯のような日々が。それをごまかすように、口に紡ぐ。

「御龍、行くぞッ!」
「応よ! 任せろォッ!」

 連携確保のための声出し。風に紛れてしまわぬように。強く、そして、濃く。
 それと同時に重なる、翔護のひとつの言葉と共に。
 突入の合図と鳴る号砲のような火力援助が、始まった。

「さぁ、こっちのセッションも見せてやろうぜ……!
 さん、はい! キャッシュからの――パニッシュ☆」

 現実は酷薄なるものだと思う。しかし、その中で我々は如何に足掻くかを試されている。
 その事実は変わらない。変わり様が無いその現実を、我々は超えねばならないのだ。
 現場の火力不足は目に見えていた。完全に抑えこもうとすれば、どうやっても足りない。
 道を切り開くにも、足りないだろう。それを、カイは知っていた。
 喜平の握る獣と、エナーシアの同じ技が戦場で道を開く。そして、それに重ねるように、
 間断なく凛子とレイチェルの大天使の吐息が吹き込まれる。すべてを此処に賭けるために。
 戦場は、無情なる決断の時を今やと迫っている。此処を逃せば、もう先はない。
 例え、先が有ったとしても。希望がつなげるかも怪しい。
 そのことは、カイ自身がよく理解していた。 だからこそ。
 一つの無情なる決断は、今。カイに託された。その答えを、技に変えて。

 カイは、己の技を雨と降らせた。 『此処を逃せば引き時は決して無い』と知りながら。

 運命に、仮に見放されたとしても。後の仲間がそれを引き継ぐと信じていたから。
      ――そして、命の系譜は、繋がることを知っていたから――。

 突撃班である涼も半ば必死だった。相手を引かせ、コチラも撤退を行う。
 通信の内容は己がよく知っている。カイは絶対に引かない。それは十分に予見された事実だ。
 ならば。カイが倒れる前に、相手を引かせればいい。その一点に、涼は賭けた。
 己の技のすべてを掛けて。そして、自由落下の加速度と己の自重。仲間の信念とその怒り。
 すべてを掛けて全力で拳を奏者へと撃ち貫く。分の悪い賭けだと知りながら。
 漏れる言葉は、その必死さの現れだ。中二病めいて居ようと。それは必死の攻撃だった。

「釣りはいらねぇ! 取って行けェェェェッ!」

 頭蓋が折れる音さえ響きそうな全力の一撃。大地が揺れる音が響く。
 アスファルトがきしみ、メキメキとヒビが入るほどの一撃が。
 そして、その一撃に重ねるように。遠野の刃が重ねられる。

「我は駒だ。貴様を殺すためにここに居るッ! 日本の巫女もどきをなめるなよ!」

 それは、暴竜の如き一撃。鉄塊と呼ぶにはあまりにも繊細な刃と、
 その体から生まれるとは決して思えぬ程の重打強撃。
 それは、元から殺戮を好む決闘者故の血筋が生んだ必殺の一撃だった。
 殲鬼と呼ぶにはあまりに凶暴で。あまりに粗暴で。そして、あまりに暴虐に過ぎる一撃。
 相手に生か、死かを問う重き一撃だった。そして、その問いは己に課される重き問い。
 ――DEAD OR ALIVE。 重き博打を、乙女は打ち込んでいく。

 しかし。戦士たちは一つの事象を忘れていた。それは、男が死を弄ぶ者の一人であるという事実。
 そして。男の代わりは幾らでも居るという、無情なる事実を――。

 涼の拳が3度目を打ち込み、御龍の刃も4度を重ねた時。その事実は牙を剥いた。
 明白なる肉体の滅びが感じられるかと思った、その時のことだ――。
 霊魂の一体が唐突に消えた。死する筈もないその存在が消えている。
 その事実が示す事。それは、主たるその男が『死を欺いた』事の証左に他ならない。
 そして、その欺かれた死の怒りの矛先が向くその先は。 呪われし現実の世であったのだ。
 濃厚なる死の匂いが喉を通り感じられれば、神城の生存本能は一時離脱を叫べと喉を叩く。

「一時離脱するぞ! ヤバイのが来る!」

 響く空気は通信を通じて全てに通じるだろう。 しかし。それは一拍遅すぎた。
 魂奏の男が初めて口を開き、鍵盤を叩きて唱える時。
 それは冥府より来たりて生きとし生けるすべての者に死を告げる。

『陰府に置かれし羊の群れ 死が彼らを飼い殺し給う。
 夜になれば正しからざる人はその上を踏み抜き、誇り高かりしその姿を陰府が蝕む。
 しかし、神は汝の魂を贖う事無く 陰府の手から取り上げる事無し。』

 紡ぐ言の葉は呪われし悪夢の存在そのものだ。全ての影は門となり、滲み出る闇は冥府に繋がる。
 ――冥府が、具現する。 それは、全ての亡霊に力を与え、全ての叛逆せし者への滅びを歌う。
 死神は冥府より来たりて死者を先導し、黄泉より来る死者が生気を求めてリベリスタを襲った。
 大地より生え出る手は骨と皮のみのそれでありながら、強い力でリベリスタを引きずり込む。
 行き先を知ってしまえば帰れない。 そのことは、肌感覚で理解ができた。

「あ、ああぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 眼前の光景が視界に入ると、己の脳はその異常性に悲鳴を上げた。
 レイチェルの目に写っていたそれは、己が己を刺し殺すという狂気じみた喜劇だった。
 引き裂かれる自分は内蔵をぶちまけながら笑っている。それが幻想であることを精神が訴えようと、
 脳がその訴えを取り下げる。甘き死は時として芸術で、そして時として残酷だ。
 そして、戦場に響くいくつかの声は。知る者の脳裏を揺さぶっていく。

「寂しいよ……。 ねぇ……。 此方に……きてよぉ……」
「なぁ……戦うんだろ……? アタイと……。 此方に……来いよ……」

 呼ぶ声は己の脳裏に強くやきついている。耳に馴染んでいるはずの、もう聞くこともないはずの声。
 背を合わせた相棒が、己を引きずり込まんとしがみ付く。
 相手の目には既に光がない。それは、その存在が既に死んでいる事をハッキリと表している。
 友もない現世に、何の価値が有るだろうと言う逡巡。それは、断ち切られるべき問いなのに。
 凛子と桐が見たモノは、己の精神を問うている。

 術者の主を見れば眼球も落ち、生存に足る臓器すらも腐り落ちて液と化す。
 しかし、その男はただ笑っていた。苦痛は其処には存在しない。
 そこに立つのは死者の王。リッチと呼ばれし存在の具現たる威容。
 もし。カイがあと少し踏み込んでいなければ。もし、避難勧告があと一拍早かったなら。
 それは、正しく運命の悪戯。しかし、それは如何様にも逃れ得ぬ定め――。

「………ッッ!」

 肉を削ぐ、その痛みを脳で拒否するために。噛み千切らんとする程に歯を食いしばる。
 技のダメージは異常なまでに己を蝕む。肉体は既に起き上がれない程にボロボロになっていた。
 本来ならば、戦闘の続行自体が不可能だ。しかし、今の己の体は、動く。
 痛みの中で、己の中に湧き上がる力にカイ自身が気がついていた。
 それは、間違いなく己の中に生み出された希望の光。
 そして、それこそ正しく無情なる運命(フェイト)の残り香だった。
 今ならば、己の技を以って全ての亡霊を打ち払い、死の波を押し返すことも可能だ。
 それは己の能力の限界を知れば自然と導き出せる範囲の結論だった。
 己に残る時間は少ない点と、劣勢であるという今の状況を考えれば、これは分の悪い賭けではない。
 仲間の被害も甚大だ。回復が任意の状況で行えないことは、仲間の負担を増している。
 負担も減らせるならば、それが一番の策だ。己に残された時間は、もう少ない。

 ――ならば。答えは、決まる。

「……!」

 眦を決し、己の意思を以って放つのはハニーコムガトリングだ。
 己の全力を以って相手に相対し、そしてこれ以上の惨劇を止めるということ。
 これを行う資格こそが、運命に対する叛逆者として有する権利にして、義務。
 希望は自分たちの手でつかむ物だ。あがいて、足掻いて。ボロボロになりながらでも。
 もう、自分はヒトには戻れない。それは、自分がよく分かっていた。しかし。
 残せるモノは己の中に残っている。明るい希望と、夢。そして、遺志。
 それさえ残せれば自分にとっては十分だった。生きていた証はそこにあったから。
 残すエネルギーも惜しむように。全てを眼前の絶望へと打ち込んでいく。
 そして、それはほかの仲間も同様だった。

 一時離脱で最前線を離脱した突撃班が、レイチェルと凛子の回復を受けて再突入をかける。
 吹き込まれた吐息は流れ出る血をぴたりと止め、戦いに向かう為の意思を掻き立てる。
 幾度相手が死を欺こうと。幾度霊魂によって攻撃が阻まれようと。心は折れない。
 心が折れさえしなければ、敗北の二文字は存在しないのだ。それを、叛逆者たちは知っている。
 だからこそ、目の前のどこまでも深き絶望に、正面から立ち向かうことができるのだ。

 涼の拳が、より重い力で魂を演ずる男に突き刺さる。全身全霊の力と、もうひとつの思いが篭る、
 その一撃は相手の意思を、そして実存を確実に揺るがした。
 対する御龍もそれに更なる刃を重ねる。己をただ暴虐なる刃に変えて。
 例え体が引き裂かれようとも。その首を取るのは己だというすさまじいまでの執念がそこにある。
 その執念を継ぐように。 そして、他の仲間の無事な帰還を心より祈る。
 
 それは一番分かっていた。カイが一番。ただ、そこに己の姿がないであろうことは分かっている。
 ならば、黄泉への道連れに少しでも多くの敵を。己の全てを燃やし尽くし、そして冥府へと消えよう。
 ――永遠に。 その覚悟は青白き炎と変わり、己の瞳に信念を芯として燃える。
 完全に殺すことは叶わない。それは知っている。もう痛いほどに。
 ならば、相手を操るその男、その身に絶対に消えぬ己の生きた証を――!

 己の持てる技を一つ一つ確認する。めまぐるしい戦場の中でも心を落ち着ける、
 強者の余裕が己の中には生まれていた。そして、相手に確実な一撃を加える事が叶う技、
 それは何であるかを問えば、答えは一つに定まる。

 己の持てる最大の解。そして、その答えとなる一つの技。1$シュート。
 それは、正確無比の射撃の重なりであり、そして、鮮やかなまでの相剋だった。
 強装弾の軌道の赤と、魂魄の青が絡み合う。カイの放った一発の弾丸が、奏者たるその男をうち貫き、
 深々と技を重ねたとほぼ同時。奏者の男の一撃が、カイの魂を撃ち貫いた。
 それは、男に死を再び欺かせるには過ぎるほどの必殺の一撃。
 男にとっての撤退線を超えさせる、最大の一撃で――。亡霊たちが、消散する。
 英雄たちは、守り切った。甚大な被害を出しながら、其処にある安寧を。

 重き一撃の衝撃は、体を宙に浮かせ、後背へと吹き飛ばす。
 その時。剥がれゆく己の目に写った最後の画像は。底抜けに明るい、雲ひとつ無い青空だった。
 暗転する視界の中で。己の魂は、満たされた喜びとともに消えゆく。
 例え、再び無念とともに揺り起こされようとも。其処には最早何もない。
 ただ、遺す仲間への別れを告げられぬという、その一つのみが無念なだけだ。

       ――みんな、ありがとう。 そして、また。――

 優しい風が頬を撫ぜる感覚があるのがわかった。
 そして、既に向こう側に居る友人達、そして、戦友たちが。そっと手を引いてくれている。
 ああ。これが、死か。 甘く、そして、何処までも切ないような。そんな感覚とともに。
 男は、どこか笑うかのような表情の中で。運命の糸を辿り。涅槃へと眠る。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
■STコメント
遅れて大変申し訳ございません。

初EXですが、ご覧の結果と相成りました。
正直、私としてもこのような結末となりましたこと、無念さすら感じてなりません。
作戦上は成功。生存という点では完全に成らなかったことだけが無念の極みです。

ご参加ありがとうございました。また、よろしくお願い致します。

Result:
※敬称略、重症、戦闘不能含む。
R.I.P:カイ
重傷者:雪白、遠野、富永、神城、レイチェル、ユーヌ、靖国
戦闘不能者:エナーシア、氷河