● 三高平に雪が降った! 見てよ、この一面の白!白!白!! かまくら作りに、雪だるま、それに……あれを忘れてはいけない。 という訳で、ふと漏れた一言から全ての歯車は動き出した。 「雪合戦、したいなぁ……」 ――全力の。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年02月05日(火)16:10 |
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● 雷音を始めとした総勢118人のリベリスタは、此処、三高平公園に集結した。 その名も、『三高平公園内雪合戦大会』。 ちゃちな名前? 侮るな。 これは遊びでは無い――戦だ、合戦だ、戦争だ。 武器は絶対零度の結晶達。それをどう使うかは各々次第。 投げろ、固めろ、ぶつけろ、粉砕せよ。自軍の色の旗を賭けて。 どちらの色に軍配が上がるかは、運命のみぞ知り、未だ見えぬ先の物語(ドラマ)。 今こそ、職も立場も因縁も忘れて、無礼講。 「なにやってるのかな?」 とよは公園前で人だかりを見つけ、興味本位で足を運んだ。 「はぁ、すごい人です」 その人数、見渡す限りの異種族達の群れ。呆気にとられ、とよは口を開けていた。 その中にはかまくらを作る者もいて、観戦者も居る。その中に混ざろうと、とよは足を更に動かした。 それにしても――木の上におうち? 大丈夫かなーと。 旗と、『その中央にあるその家』の行方を見守る事にした。 「皆さん、やる気というか……殺る気というか」 「まあ、楽しそうじゃん! 頑張ろうぜ、リセリア!」 猛は笑顔で、リセリアはため息交じりに苦笑しながら、一緒の色のハチマキを頭に回した。 「百人単位での雪合戦ですか、楽しそうですね」 「やるからには勝つぜ、気合い入れていかねえとな」 そう言って猛は拳と拳を打ち付ける。そんな彼の楽しそうな姿をみてリセリアは、今度はにこりと笑った。 ふと、リセリアは猛がつけたハチマキが早速取れかかっているのを見て、彼に手を伸ばす。 「ん? あ、ありがとうな。後ろの目は無いから着け辛いな!」 「いえ……これくらい」 そういうリセリアは、どうか怪我をしないようにと祈りを込めて結びなおしてやった。 「旗の位置、此処で良いんですよね……」 「うん。大丈夫だよ」 杏里は伸びきったメジャーを元に戻しつつ、その手前で結衣は赤色の布が着いた旗を雪に刺す。 旗は目印(笑)を中心にきっちり20mの直線。これなら某バランサーも素晴らしいと言うに違いない。 その直線状、40m先では。 「あら、あらあらあら? こんな所に旗を立てるの? 随分近いのね」 「うん、皆で決めた事だからね……」 マリアは首を傾げた。悠里は、彼女が手荒に刺したために斜めに刺さった旗をきちんと縦に戻しながら、苦笑していた。 皆雪合戦しながら、あるものを壊してみたいっぽい。いや、何とは言いませんが、何とは。 「皆で、決めたの?」 「そうだね、ちょっとだけ気の毒だけど」 「なら仕方ないわよ」 マリアと悠里、杏里と結衣は同じ物を見ていた。あれって―― 司馬邸内。 外が騒がしい。アナスタシアが何かと思って窓を覗けば雪合戦だと言う。でも何故旗の中心に我が家なのかは理解には苦しむけれど。 (アークのリベリスタなら仕方無いねぃ!) そうアナスタシアは納得した所で窓の奥から元気な声が聞こえた。 「よっしゃああ! 気合で赤組負けさせてやるぜ!!」 額に白色のハチマキを強く結んだ夏栖斗が咆哮していた。今度はアナスタシアが窓から逆側の玄関を覗けば。 「白組がなんぼのもんじゃい!!!」 壱也が白色のハチマキを額に撒いて、咆哮していた。 ただこの二人、狙うは彼――ギラリ、光る眼からは殺気が二つ。 ((逆貫(さん)何処だ!!?)) ぶるりと、震えた逆貫。 なんだろうか、武者震いか。 そうか、この身体もまだ捨てたものでは無かった。奢り高ぶるリベリスタを負かさんと、全身の血が滾る。 さあ行くぞ。戦場へ。 ……とその前に。横でマリアに手を振っているギロチンに耳を貸せ、と逆貫は言う。 「ギロチン、つまりアレだ、おんぶしてくれ」 「まあ、そうなりますよね」 この雪の中、車椅子という重装備は不適格過ぎる。という事で、半ば強制的に逆貫はギロチンを装備した。逆貫とギロチンが合わさって最強に見えるぞ! 「はい、マリアたん、杏里たん。ちゃんと温かい恰好しないと風邪引くから!」 「は、はい、ありがとうございます……?」 「いつも気が利くわね、誉めてあげてもいいわよ」 竜一は今日も二人に服を用意した。なんだかありがとうございます。 今日は紅白に分かれると言う事なので、マリアは一人でも大丈夫だろうと杏里の居る赤組についた竜一。 「ごめんねマリアたん! でもあんまり寂しがらないでな!!」 「きゃああああ解った!! 摩擦熱ーー!!? 近いわよおお!!」 小さいマリアの身体に竜一はぎゅぎゅすりすり、頬ずり頬ずり。半泣きのマリアは杏里に助けてと目線を送っていたとか。 ピピ……ガガガ。 『あーあー! マイテスマイテス!! おっけー!?』 文音の声がいつの間にか設置された公園内の全スピーカーに響く。 『皆元気ー!? 超寒いですね! 今日は唐突に開催された血沸き肉躍る雪合戦!! 君達のために静岡県三高平上空の本日のお天気は、晴天!! 晴天でーす!! 決戦日和ですね! 実況はこの私、風歌院文音が慎ましくやらせていっただきまーっす!! 雪合戦のルールは簡単です。相手チームの色の旗を奪取すればそっちの勝ちだよ、簡単です!! 全スキルの使用は許可されていますが、フェイト使用の重傷に至るのはアウトですから、なるべく抑えて下さいね! じゃ、そういうことで!!』 光る太陽。それをバックに置きながら、てらすがコートを脱ぎ捨て、木から飛び降り華麗に着地を決める――。 そんな中、雪佳はつい先日雪合戦をしてきたばかりの事を思い出した。だからこそ、予行演習は完璧だ。そう、何も恐れる事は無い。 『――雪合戦、開始です!!』 「よっしゃ! 恨みっこなしの正々堂々真っ向勝負! おっぱっじめるとしようじゃないか!」 てらすは赤組の先頭から手を前に出す、その時一斉にリベリスタが駆けだした。 「わあああ!」とか「うおおおお!」とか、開始一秒で雪が弾丸如く飛び交う。もはや戦場は大混乱状態だ。やはり旗の感覚40mは近すぎでは無かろうか!! 三ツ池の大戦でも、もう少し秩序はあったかもしれない。雪佳は頭を抑えた。おかしい、自分の知っている雪合戦とはちょっと違う気がする。 これが超過激派アークの暴走だ、フィクサード諸君にも見せてやりたい!! 白組、後方――戦闘を指揮するのは彼女。 「全軍私の指示に従うならば最高のパフォーマンスを保障しよう」 「「「おおおお!!!!」」」 ――深春・クェーサーだ!! 赤組、後方――戦闘を奏でるのは彼女。 「一切の手抜きはしません。私の覚悟、全てを全軍に託します」 「「「おおおお!!!」」」 ――ミリィ・トムソンだ!! 二人の目線は大混乱に挟まれて交る事は無いけれど、それでも負けられない戦いがそこにはある。 一人は、クェーサーの名にかけて。 一人は、クェーサーは越えなければいけない存在として。 レイザータクトが本気を出す。 だが……この大混乱だ。どれだけ自分の声が前線に届くかは不得要領というもの。両者、眉間を抑えてため息を吐いた。 「やれ、マリア」 「なぁに、ちょっと、命令しないで頂戴。言われなくてもけどぉー」 先に動くは、白組深春。すぐ横で待機していたマリアは言われるがままに、黒き陣を構成し始めた。そう、これはまさか。 「まさか、堕天落し!!?」 ――堕天落し(神遠全BS石化ダメ0)。おっと、これは容赦ない一撃。 ミリィは言う。すぐに全軍、防御の姿勢と取れと。 「マリアのジョーチャン、そのEXスキル見た事ない奴等も居る中で容赦ねぇなぁ」 瀬恋は裏拳で飛んできた雪を撃ち落としながら、呆れた声で言った。そして適当な木陰の背後に入り、術が終わるのを待つ。 「キャハハハハハハハハハハ!! この、リベリスタ共ォ!! 石になりて地に伏すか、伏して石になるか選ぶと良いわ!!」 「俺ァ、雪合戦をしに来たんだが……なんかフィクサードの依頼と間違えたか?」 吹雪は木を足場に飛び移りながら、戦況を見守った。せめて堕天が終わるまで、混乱の中に身は投じたくない。 誰だ、リベ堕ちしたフィクサードに全力を出していいと許可した奴。吹雪はふと目線を移す。それは―― 「ふふふ、マリア楽しそうですね」 「なっ、ま、魔王……いや、悠月さんか」 マリアの横で笑う、神探の裏ボス!? ――悠月。 「折角の機会です。――存分に遊びなさい、マリア」 その一言が、マリアにとってどれほどの価値がある一言だったか。もはやこの悠月、マリアの扱いを此処得ていると見た。 繋がる魔法陣に快は苦い顔をした。 「初っ端から石化されたら不利だ……、間に合え、俺のラグナロク!!」 しかしやはり快よりもマリアの方が圧倒的速さを誇った。その快の横を風が駆け抜けていく―― ――赤組、一番槍。天風亘……参ります! ブルーウィンドは、一直線に彼女の下へ。止めてくれ、彼女を!! 「前に遊んだ時は負けてしまいましたからね」 今こそ、リベンジの時。速度的には亘の方がいくらか有利だ。手に持った雪を握りしめ、彼は彼女に雪玉を投げ……れない。 「甘いわね」 夜空を模した傘が亘の雪の行く手を阻む。氷璃だ。 「亘。私のマリアに雪を当てようなんていい度胸ね?」 「く、くそう……っ」 夜の帳が閉じられた瞬間、亘はマリアの作った『真っ黒』を眼にした。 「終わりよぉ!! これで何もかもぉぉおお!!!!」 「マリアさんちょっと本気出し過ぎいいい!!?」 ――瞬時、堕天の光が赤組を飲み込んだ。 「展開急げ! 死角は無い、狙え!」 雷慈慟の声に一斉に白組のリベリスタが攻勢に出た。 雷慈慟も一気に石達をノックBしていくが、中央の障害物の影に重なった者等、その奥にはまだ健在のリベリスタも居る。まだまだ赤組の壁は厚い。 特にアラストールは攻撃に耐えて見せた。持てる限りの力を振り絞って、組の進行を受け止める。 先頭に出たのは、白組、リュミエールとセラフィーナだ。 「やっぱり、狙うならフラグ回収ダヨナ」 「その旗、貰います!」 眼には赤色の旗の位置しか見えていない。雪を蹴り、司馬邸を通り過ぎ――だが赤組のリベリスタの壁を越えられるのか!? その音狐と翼人の行脚を防がんとして――いつもの困った顔の紅葉の目が若干光った。 「ふふふ……さあ、今こそ戦いの時! これで白組の人達を蹂躙して差し上げますよ!」 体勢を低くし、雪玉を作成していた紅葉は堕天の石化に当たっていないからこそ動けている。 突っ込んでくる白組をまず、止めなくては。風呂敷いっぱいに集めた雪玉を持ち上げ……持ちあげ……持ち、上がらない! 「お先にダゼ」 リュミエールがにやり。彼女は軽々と突っ込んでくる。 そうだった紅葉はフィジカルあんまり無かった。だが持ち上げようと踏ん張る紅葉。それが幸だったか、なんだったか、風呂敷がびりりと音を上げて弾けた途端――中の雪玉達が突っ込んできたリュミエールにカウンターの如く襲っていく。 「あ、あれ? ふ、ふふ、このわたくしの罠に引っかかりましたわね!」 そんな事故である。 諸君。勝利とはなんだ。それは勝つことである。 諸君。敗北とはなんだ。汚泥にまみれ這い蹲る虫けらの様である。 ライサ達は虫けらではない。ならば勝て。不甲斐なき者は即ネクスト送りである。 ちなみにこれ、天使の歌だそうです。 ライサは白組後方から回復支援する。そのおかげもあって怪我人は減ったようにも思われる。 それ以前にその天使の歌は一体どういうことなんだ。落ち着こう、こんな戦気にあふれた回復手は初めてだ。 マリアの堕天落しは期待以上に敵チームへ被害を負わせた。こうも簡単に終わってしまうと楽しくない。 「む?」 深春は気づく。石化をかわし、マリアの脅威となろう存在が一人――いりすだ。 「マリアお嬢さんのお顔、なめなめする。激しくなめなめするから覚悟するとイイよ」 訳せばハチマキ取るから覚悟してね、という事だが、いりすの発言は非常に刺激的だ。十年とちょっとしか生きていないマリアには危険なフレーズだ。 雪を潰して、前へと進む。一直線にマリアの眼前へと迫るのだ。 可愛いは正義、その可愛いに目が眩むのは当たり前の事で仕方のない事。だからいりすは悪くない、悪くないよ! 接近戦に弱いマリアにいりすを近づけさせるのは脅威だ。こんな早くから良い駒を失くしたくは無い。 「そこの貴方。マリアが窮地だ。このままでいいのか?」 「なんやてええええ!!!!!!」 深春は、すぐ近くで鬼人に雪玉を作らせていた紅椿組組長に耳打ちした。それが組長を動かすフレーズと解っていて、だ。 ついでにマリアというワードを氷璃の耳も捕らえた。見れば―― 「ふうえるぞはーと、もえるきるほどふぇいと」 「ちょっと、いりす……マリアが怖がっているわ」 傘を広げ、いりすが投げた雪は氷璃が止めたものの、その横をいりすは駆けて行った。 「きゃぁぁあああー!?」 「マリアさーーーーん!!!!?」 彼女の悲鳴を聞きつけて、椿は全速力で走ってきた。期待以上の走りだと、深春は頷く。 「マリアさん、うちの後ろにおってな!」 「な、なによいきなり!? どこから走ってきたのよ!?」 椿は背にマリアを隠す。マリアは椿の服を掴んで、横から顔を出して見ていた。 「あれ? 隠れちゃった、かわいこちゃん」 迫る、いりす――椿は鬼人に作らせた雪玉を両手に持てるだけ持った。その中に仕掛けを入れておき。 集中し、いりすの速度を捉え、その動きに合わせて雪玉を放つ――!! 「マリアさんには雪片たりとも触れさせへんからな!!」 「愛だねぇ」 この保護者、本気である。 雪玉の中に隠された封の縛にいりすを捕らえる事に成功した。 「アクティブだなぁ……」 白組、ミサはぼそっと横の和泉にそう言った。 「あらあらまあまあ、皆さん楽しんでいる様でなによりですよ」 和泉がにこり。彼女の額に見えたのは白の色だ。 「へ、へえ、そうなんだ……」 ミサの頬から汗が流れた。その和泉の横にあるものが気になって仕方ない。 深春も、和泉も白組。この時、赤組守護神新田快は、絶望を知った。 だって、天使の様な笑顔の和泉の横には、目を疑う悪魔の――否、魔王の様に容赦無い物体が見えたもので。 「雪玉専用バズーカ(連射機能付)。投入口に雪を詰込むだけで弾丸となって発射される優れものなんです」 使ってみましょうかと早速投入口に雪を入れれば、轟音を立てて弾丸が繰り出された。なんという弾幕兵器。 「うああああん!! アレ、反則じゃー!? 怪我しますよ!?」 「和泉さん!? サバゲー女王と言えどもそれは!?」 ラヴィアンが涙目で語り、快が盛大にツッコミをいれる。ぶつかったら若干だが痛いのだ。これでは怪我す―― 「――怪我、しない程度に調整しましたので大丈夫ですよ」 だそうなので、大丈夫です。エンジェルのようでデビルな彼女が言うから大丈夫です。異論は認めない。 「あはは、凄いね。……赤組じゃなくて良かった……」 心底そう思ったリベリスタは多いだろう。ミサの言葉に頷いたリベリスタはさほど少なくは無い。 だが赤組には快のラグナロクがある。これで今や、堕天落しも打てない状況を作り出していた。 だが快のラグナロクも連続で三回までだ。つまり秒数にして三百三十秒が限界。逆に言えば三百三十秒後には再び堕天が襲う。あとは無限機関次第だ。それまでに決着がつけられれば!! リベリスタの中にインスタントチャージャーさんはいらっしゃいませんかー!! 頑張れよ、プロアデプト!! 「俺の力は、皆の夢を守る力なんだ!!」 快は諦めない。嗚呼、できる事なら相棒と――一戦交えたかった。彼は今何処で何をしているのだろう。 「――守護神を狙え」 「深春さんが言うなら仕方ないですね……反射で壊れてもラグナロクが潰せればいいですものね」 このレイザータクト、フォーチュナ、容赦ない。バルバルバルと音を立てながら、快のハチマキが宙に舞った。 ――その頃の相棒(夏栖斗)。 「逆貫!! 覚悟ぉおおお!」 「さっきから彼、血眼で追ってきますけど何かしたんですか!」 「彼には触れてはいけない虚空の彼方があるんだ、ギロチン。今はただ、馬車馬の様に走れ」 夏栖斗が雪玉を投げつつ迫ってくるのだ。なんていうか殺気が見える。 「ここが年貢の納め時だ!!」 「おっと、危険だな……」 「ぶっ!?」 夏栖斗が投げた雪玉はくるりと振り向かされたギロチンの方にぶつかり、弾ける。 「ギロチンがいなければ即リタイアだった、感謝している」 「ぼくは直撃しているのですが。置いていきますよ? 置いて行きませんけど!」 はぁとため息をついたギロチンであった。 「可愛いね」 だが見た目、年下というのは可愛いものだ。沙羅はマリアの頭に手を置いて撫でる。 ただ、その眼は見ていないけど、恥ずかしくて。それが気になったマリアは沙羅の眼前に移動した。 「ちょっと、まわりこまないで!!?」 若干顔が赤く染まった沙羅に、マリアはニヤーっと笑う。 「面白いのね、貴方」 「面白いのは君だよ」 一緒に遊ばない? 意気投合した二人は一緒に駆けだした。 そんな二人の背後で拓真は石化の溶けた手足を軽く動かしながら、あわあわしていた杏里を呼び止めた。 「そういえば、牧野。少し質問があるんだが、良いだろうか」 「はいっ、いいですよ!」 雪に埋まっていた杏里を救出しながら、拓真は言う。 「……物質透過は、ありなのだろうか。その、雪玉が当たらんのでな……」 「あ、はあ……んー、有りですよ!」 その返答を聞いた瞬間、拓真は透過して投げ込まれる雪を身体から通過させた。そのまま杏里に被弾したものの。 「あっ、でも攻撃行動した瞬間透過できませんからお気をつけてー!?」 白蛇は縁起が良いと言う。故に白組に来た。 赤い蛇なんてこの世にはいないと認識してい―― 「睦蔵!! 赤い蛇さんもいるz「聞こえんなぁ」 たまたま隣に居たフツが言ってみたものの、八雲はスタイリッシュに弾き返す。 そんな感じで八雲は白組に居る。初っ端から赤組が膠着を起こしたり、やはり白組には運が来ているのかもしれない。 「フフフ、紅組滅すべし」 紅のチームが崩壊する姿はさぞ見物だろう。勝利のために何か礎を探さなければ。思いついたのは『弾幕』だ。 和泉の弾幕は反射にやられて今は使い物にならない状態になってしまった。 「弾幕が必要だ」 刹那、どこからともなく雪玉の乱舞が矢の様に飛んできた。それは容赦なく八雲の身体を真っ白に染め上げていく。 「そうこんな感じの弾幕が……うわ集中砲火ががががが」 拓真だ。彼は雪玉ハニーコムガトリングで白組を追い込んでいる――その標的に八雲が入った! 「八雲、悪いな!! 紅チームのためだ、そのハチマキ、いただく!!」 「誰がための正義か!! お、おのれ認めん、認めんぞ。この程度の攻勢如きで私が屈するものかッ」 今こそ秘められしホーリーメイガスの力を解き放つとき――覚悟しろ、とその時。 「見つけたぞ!! 八雲ァ!!」 翔太が八雲を視界に居れた瞬間、此方へすっ飛んできた――更に。 「八雲さんみーっけたー!! はい、これあげるドーン!!!」 壱也が雪だるま大の雪玉を八雲に落してきたのだった。これぞ絶対絶命か、デッドオアアライブ。 「これで終わりと思うな。この先には第二・第三の白組が……うわ追撃は止め」 「なんでてめー、敵なんだよ! よっしゃぁ、OKェェエ!」 大玉の雪に埋もれたまま、八雲は翔太の犠牲になったとか――これにはもう拓真は手を出すのは野暮だと思い移動する。 ――あれ、ちょっとやりすぎたかも?! 『犯人は翔太』と雪にメッセージを残して、動かない八雲(ハチマキ無し)。 「メディック、メディーーーーーック!!!」 壱也が叫べばちりんちりん。 「はいさーい 羽柴ちゃーん★ ここ張り切らないと とんでもない幸運降りかかるよー?」 「ひぁぁあ、降りかからないでぇぇえ、じゃなくて!」 甚内が何処からともなくやってきた。車輪に荒縄巻いた荷車を引きながら、治療かまくらまで送迎する簡易救急車実施中。 マスドラもあるし、難なく彼なら運べるだろう。 「という訳で、瀕死の八雲さんを………ってあれー!!?」 「僕ちゃん抱き心地最悪な 野郎ーとかどーでもいーの♪」 本日限りの救急車ですが、女性限定の代物だとか。 じゃ、そういう事でぇー☆とか言いながら、救急車は救急車の役目をしなかった。 「まあ、いっか! 置いておこう!」 壱也も彼の傍をナチュラルに離れていった。 その上空をマリアが飛ぶ――背後には瀬恋が雪玉を持ちながら追っていた。 「ちょっと!! 着いて来るんじゃないわよぉ!!」 「可愛がってやってんだ、感謝しなよ」 瞬時、飛んできたのは堕天の光だ――その直後近づいてくるマリアの影。 「これで、終わりよ!! ちょろい!!!」 マリアの出したマジックミサイルは綺麗に二の腕のハチマキの結び目を壊し――はらりとそれが外れ、る所で石化をぎりぎりで避けた瀬恋がハチマキを掴んで結びなおす。 「せこいわよぅぅう!!?」 「違うね、これはアレだ」 ――ドラマ復活だよ。 なんというドラマ復活の無駄使い。再び何事も無かったように瀬恋はマリアを追いだした。マリアは涙目で逃げて行った。 ● 「いやね、おじさんはさ、はっちゃけれるほど若くはないしな」 烏は観戦していた。観戦していた……だが、べっしゃりと雪玉に当たっている。 「……なぜだ」 その少し遠くでなずなが雪玉を投げていたのだ。ただ、烏にあたってしまっているのはこれ。 「事故だ!!」 なずながとてもいい笑顔をしていた。 つい烏がトラップネストを仕掛けようとしたが、落ち着け。幼女に手を出すのはいけない。幼女じゃなかった。 「雪合戦とは雪をぶつけるだけにあらず、雪にぶつかる技もあると知るが良い」 フ、と烏はあえて見ていないふりをする。更になずなは大きな雪玉を烏に当てにかかった。 「そあら、頑張るぞ!」 「頑張るのです!!」 開始の合図を聞いて、同時に足を折って雪玉を作り出す程気の合う二人。そあらと雷音である。 二人で一緒に同じ作業。協力すれば、二倍の早さで雪玉は溜まっていく。そんな平和な一コマを見守っている―― (今日の雷音は楽しそうでござる) 正確には雷音を見守っている虎鐵。 腕に巻いている赤色のハチマキが冷たい風に揺られている。そう、彼も一参加者。 「この戦いが終わったら……恋人とデートするんだ」 そこへ危険なフラグを立ててしまった疾風が雪玉片手にそあらと雷音を捕らえた。目線は此方に向いていない、ならば今がチャンス――!! 大人げないにも全力の金剛陣を発動させ、疾風は不意打ちを狙う。だが、寸前で虎鐵が堂々走り込んできてはその雪玉を身体で止めた。 「虎鐵!? どうしたのだ!?」 「く、バレたか!?」 「雷音を狙った事、後悔するでござる!!」 「なんだいつもの虎鐵さんなのです」 今度は反撃だ。レッドベルセルク――その強力を舐めてはいけない。今こそ力、極めし者の弾丸が放たれる――!! が、疾風はその弾丸を綺麗に避ける。その弾丸は―― ガッシャーン 「誤射でござる」 「誤射なのだ」 「誤射ですね」 「誤射だな」 四人は何も見なかった事にした。 そんなこんなで一人、『暗黙的だけど故意的な、表向きは事故』に立ち向かう者がいた。 「くそ……あいつらめ、俺の家の周りでこんな……」 頑張れ。ガイアは囁いているぞ、この家を護れと! つまり、戦場の中心にある家の主、鷲祐だ。 なんか今、窓が割れたような音がしたが。 家の暖房器具という器具を全て全開に着けて、外と中の気温差は激しい。雪対策か。今入ってきた雪が溶けて消えたもんね。 その中で天乃はマイペースだった。 「司馬、おつまみ」 「あ、ああ、何もお構いできなくてすまんな、台所にあるぞ」 「司馬、ごはん」 「なんだお前、お腹減っているのか、仕方ないな……」 ……。 ………。 …………両者、見つめ合って三分後。 「なんでお前、さり気無く家にあがってるんだよ!?」 「……温かそうだったから?」 ギャーギャー言い合っている二人を背に、エナーシアはカメラを構えていた。 温かいし、雪が積もってないし、戦場の真ん中だし、これ程撮影に適した場所は無いと言うもの。 「此処からなら何方の陣営も一望でき……」 だが――ガシャン!と窓を突き破って雪がエナーシナの顔面に直撃した。因みにこれは虎鐵が疾風に放った二度目の誤射である。誤射である。誤射だよ。 「何故この家が襲撃を受けているのです!! 説明してください!!」 「俺が知りたい!!! そして勝手に入っているんじゃない!!」 ><。という顔をしたエナーシアに、司馬はツッコミをかかさない。いや、できれば117人の参加者に俺の家を何故狙うとツッコミたい。 こんな場所では落ち着いて撮影なんてできない。そう、此処こそ安全に見えて伏魔殿なのだ。 カメラを抱え、エナーシアは扉の奥へと消えた。 「……何、天乃もいんじゃん」 入れ替わりでユーニアがやってきた。 「あ、ああ、ユーニア、なんだ今日は客人が絶えないが、やっとまともな人が来た」 鷲祐も何故か安心した表情を見せる。 「なんか今日は騒がしいんだな。 あ、茶はいいよ。コーラないのコーラ。司馬さんちょっとコンビニでピザまん買ってきてくんね?」 「すまないが……」 おそらく、今家を留守にしたら帰ってきた頃には無くなっているだろう、跡形も無く。 「ていうかなんか必死だけど、何かあったの?」 とユーニアが言った瞬間、窓硝子が割れ、雪玉が中に入ってきた。 「な、こういうことだ」 「ああ……ご愁傷様」 その雪玉を投げたのは。 「あのツリーハウスにぶつければ高得点なんじゃな!」 「うん! 特に壊したりすれば更に得点が上がるんだよ!」 「エリエリはルールに詳しいのう♪」 レイラインはエリエリの言う事を真に受けて、それでは壊さないとのうと意気込む。その横でにやりと笑う邪悪ロリ――エリエリ。 「では、とつげきー!」 走っていくレイラインとエリエリ。ゴロゴロっと家の中に侵入者が。 鷲祐はまた客人か、と思ってみたが。 「そうじゃなさそうだな!?」 「壊しにきた!!」 「何をだ!!」 「ツリーハウスをじゃー!!」 「やめろおお!!」 レイラインとエリエリが破壊活動を始める。 此処まで近接されては対応するしかない。天乃も加わり、比較的避ける事に特化しているレイラインだ。それを鷲祐は知っている。ならば、狙うのは――。 「わたしを狙うなんて、ロリを狙うなんて悪逆非道だ!!」 「エリエリ!? おばーちゃんが護ってあげ」 咄嗟に発動した、覚えたてのグラスフォッグ。切り刻むのは時。凍らすのは―― 「おばーちゃんこんなところで使っちゃだめえええ!!」 ピッキーン★ レイライン、これまたうっかりしていたか。彼女を含めてその場に居た誰もが氷像となって動けぬまま終わった。 「マリアちゃん、はいこれ」 「雪玉……いやあよ、堕天落ししてたほうが楽しいもの」 「まあまあ、これほら、雪合戦! 投げてみるのも楽しいかもよ!!?♪」 終はマリアのために、ハイスピードを使ってまでして高速雪玉作り。それをひとつひとつマリアの手に渡していった。 でも、少し待って欲しいとマリアはひとつだけ片手に持った。 「マリア……上手く投げられないのぉ」 そういいながら、ぺいっと投げたそれは数十メートルも飛ばずに落ちていった。 「そっか、じゃあオレが教えてあげる☆ それで投げられるようになるよね♪」 「え、ええ、まぁ……」 そんな終の気遣いに、マリアの頬は赤く染まっていた。 ● 「さあ! まきのん! 俺が雪玉を作るから、投げるんだ!」 「えっ、杏里が作って竜一さんが投げた方が確実じゃないですか……?」 拳大の雪玉を杏里に手渡す竜一。命中の無い杏里では何処に飛ぶか解らない、むしろ飛ぶのか解らない。 それでも竜一はいいからと雪玉を作り続けていた。 「拙い投げでもいい! 大事なのはいつだって立ち向かう意思なんだ!」 「は、はい……!?」 とりあえず投げみたものの、やはり回避されてしまう。 「はい、何度でもやるんだ!!」 「は、はひー!?」 再び竜一手製の雪玉が杏里に補充される。二人の協力作業はまだまだこれから――。 「倒せ、白の旗を! 落とせ、司馬ハウスを!」 「最後なんだか聞き捨てならないワード無かったですか!?」 気にせず、行こう。もうあれは落ちるだろう。 「やあやあ、杏里ちゃん。守備はどうかな?」 「はうう、皆さんの凄さに杏里はたじたじです、御龍さん」 そうだよねぇと御龍は杏里の頭を撫でる。必要ならば守ってあげるからいつでも言うと良い……と御龍なりに杏里を気遣った。 「ま、熱くなってもねぇ、これはゲームだしね……ぇ」 バスバスバスッ。 喋っている御龍にリベリスタは容赦なく雪玉の弾丸を当てた――それは逆鱗に触れる行為と知らず。 そこで杏里が「ひっ!?」と声を出した。そう、目の前の御龍の眼が獲物を狩る獅子のそれのように。 「赤だろうが白だろうが皆殺しだ! 我が貴様らの旗もろとも首の骨へし折ってやろう。うぉおおお!!!!」 両手で雪をかき集め、御龍はその大玉を抱えた。 「うわぁ! 外道龍が目覚めたぞ!!」 「逃げろ!! 逃げるんだー!!!」 リベリスタが笑いながら御龍から逃げていく、その後ろで御龍は潰す!!とか物騒な事を言いながら追いかけていった。 ズッドーン、ズッドーンと音を立て、御龍は大玉でリベリスタ達を粉砕しに行った。 「ここはあんまり人が来ないのだわ。あたしの事忘れてもらっちゃ困るのだわ」 「うんまあ、そうだろうね……」 原因:白旗の近く。 ステラは梅子を見ながら苦笑する。だがしばらくして雪玉が飛んできた、それも無数のだ。 「って何この雪玉の数狙い過ぎじゃない!?」 「敵!? ……じゃない!!」 白旗の近く――梅子が陣取っていた所へ暴走御龍が突っ込んでくる。 ――梅子は立ち向かう。 簡単だ、向かってくる雪を溶かせばいいのだ。だからこそ、放つフレアバースト!! 「やったね!! プラムちゃんの、才能が恐ろしいのだわ」 「助かるよ」 雪が無くなればあとは御龍をどうにかするのみ――そこでステラが張っていたトラップネストが発動したが交わされ、また違う所へ御龍は行く。 「あ……うお!? やばっ!?」 「ちょっ、何するのよ!?」 その御龍の弾丸が飛ぶ先――琥珀が咄嗟に察知して氷花を背中へと隠す。二発、三発と琥珀の胴に雪玉が命中した。 思わず「ぐうっ」と声が出る。だが、それでも背中で彼女を護れたなら……子供がやられる姿は見たくないから――。 弾丸が落ち着いた頃、大丈夫かと氷花の顔を覗いた琥珀。瞬時、飛んできたのはハイキックだった。 「な、何故……だ?」 「あ、貴方が悪いんだから!」 真っ赤になった鼻を抑えて琥珀は氷花から離れる。そんな氷花は不意に庇われたために頭の中で大パニックが発生しており。 (――だ、だって、内緒の恋心に全く気付いてくれてないのに、こんな時だけこうやって……) 真っ赤に染まっていた氷花の頬。それを見られないために、両手で顔を隠した。 再度、大丈夫かと琥珀は氷花の肩に手を置いた。それをあえて振り払った氷花は、琥珀に手を伸ばす。 「雪!!」 「え、なに……?」 「雪!! 早く、雪合戦してるんだから!」 「ああ。へいへい、お嬢様の仰せのままにっと」 琥珀はまた雪玉を作り、それを氷花へと渡す。未だ治まらない鼓動から、氷花はその雪を握りつぶした。 「おいおい、また雪玉壊すなよ!?」 「脆い方がいけないんです!!」 トランスした外道龍を見ながらあわあわしていた杏里の肩を仁が叩いた。 「寒いのか? 暖はしっかり取っておけよ。フォーチュナの子だったか?」 「あっ……はいっ! 牧野杏里と言います。最近は新人さん多いですよね! イイコトです!」 杏里は仁の方へと向いて、一礼した。それに釣られて仁も軽く一礼。 そして彼は自己紹介しつつ持っていた温かいお茶を杏里に渡し、そして彼女の頭を撫でた。 こんな所で撫でられるとは思っていなかった杏里。その手の温もりを受け、彼女は心底喜び、いつの間にか震えも止まっていた。 「落ち着いたか? せっかくだ。肩の力を抜いて、楽しくな」 「……は、はいっ。あの、とても良くして頂いて、ありがとうございます!」 第参勢力(御龍)の無差別発砲により、いまいちどちらが優勢なのかよく解らない状況になっている。 愛音は飛び出す。自信が作った参人の自分と共に。 「――量産型愛音! 肩車して肩車してその上に愛音!」 つまり、トーテムポール作戦である。その肩車×3の姿のまま敵陣に突っ込んでいく愛音は異様な光景でもあったが。 「目標は敵の旗でございまする!!」 「まずい!! なんか変なのに旗もってかれそうです!」 「変じゃないでございます!!」 ミリィは愛音の先を見て気づく。此方、赤チームはもしかして。 (もしかして、旗を護る人がいない……!?) それはまずい。ならば愛音を止めなければ。 まさかこのスキルを一番初めに使うのが雪合戦で、しかも仲間にだなんて思っていなかっただろう。 それでも仕方ない。彼女の動きを止めるために――。 組み上げる陣、急げと急かす鼓動。少女の放った神聖たる光は、愛音の身体を電撃で以てして止めた。 「うああああああ!!!!」 タイミング良く、結衣が自身の体力さえ削って、雪玉にスキルを乗せて愛音の一番下の影人にぶつかっていく。 その瞬間、ドミノ倒しのようにして愛音が崩れた。 「はあ、はあっ、ええい、やれるとこまでやるだけです!! ぜえぜえ」 結衣の気持ちは揺るがない。全力の雪合戦、いいじゃないか、絶対に勝ってやると決めて! ――だがまだ油断はできない。 なんとしてでも、この場を持たすことが最優先事項だろう。旗を護る者がいないならば、自身がそれを行うまで。 「うおおおおおお!! 見るがいい私の回避、私のしぶとさ、私の全力ッ!」 白組のジビリズが飛んでくる弾丸たちに耐え兼ね、逆境から底力まで全て発動させて突っ込んできた。 「なんかトランスしてる!?」 思わずミリィも驚いた。そして次々に向かってくる白組も抑え込むのはきつい。 どうする、どうする、そう考えて頬に汗が垂れる。 「任せるのじゃ!!」 ポニーテールに赤色ハチマキ。女の命、髪にそれを巻いたのは一つの覚悟。シェリーがスノボーで颯爽と登場。 「何処!?」 「あー、ここじゃ、ここ!」 結衣は辺りをキョロキョロ見回した。それはそのはず、真っ白の巫女服を来た彼女は目につきにくかったのだ。 「奥の手じゃ」 来た、我等がシェリー! これで勝つる!! 「逃げるぞ!!」 「いや!! それだけは駄目でしょ!!」 「雪に埋もれ、この地平の礎と成るが良い紅組よッ!」 そんな結衣、シェリーはジビリズの雪玉が轟音で飛んできているのを知らない―― ● 弾幕が激しすぎる。もはや公園の地面から土が見え始めるくらいには、皆全力で雪を投げている。 「これじゃあ、どちらのチームの雪玉かさっぱりだね」 霧香は走る。止まっていたらきっとぶつけられるだろうから。 だからといって攻勢に出ない訳では無い、何か好機さえ見つかれば――あった。咄嗟に木陰に隠れた霧香。 赤色は好きな球団の色だというルーメリアと、その横に小梢。はたまた杏里が無防備な状態で立っていた。 「ほらほら、いっぱい球作ってあるから牧野さんも遠慮せずバーン! ってぶつけるといいの!」 「バーンですか……当たりますかねぇ……」 ルーメリアが手渡したのは拳大の雪玉。それを杏里に差し出してにこりと笑った。 しかし杏里は上手い投げ方を知らないという。 するとルーメリアは雪玉を作りながら、まるでピッチャーが如く雪玉を投げて見せた。その上手さと言ったら―― ――ハッ。そのルーメリアの雪玉は霧香が居る方向に投げられた。 (もしかして見つかっちゃったかな……行くしかない!!) 飛び出し、雪玉を投げる霧香――その玉は溜めていた二つを投げた。 「あ、危ないです」 「牧野さん……ここはルメに任せて、貴女は逃げるの! ぎゃーちべちゃい!!」 「きゃー!? は、はいい!!?」 ルーメリアは雪玉に被弾し、小梢はカレーの鍋蓋シールドで防ぐ! 咄嗟に逃げていく杏里。逃がすか――と思った霧香だが小梢のブロックに阻まれてそれ以上は追えない。 「2対1!! まあ、これも修行だと思えば!!」 「仕事の後のカレーは美味しいですかね」 「ルメの雪玉舐めないでなのー!!!」 両者睨み合う。 そんな中、ジズは観戦していたはずがいつの間にか主戦場の中心に来ていたと気づく。 これは失態だ、本当はかまくらとかでぬくぬく過ごすはずだったが――人に埋もれて気づいたらやばい。 戻らなければ。飛び出す――その瞬間!! どごーん!! 「ひゃー!? なんなのー!?」 これがリベリスタの遊びか! ジズは目を開ける。見えたのは白に栄える赤と、白き翼――ランディとニニギアペアだ。 「加勢です、さーランディいけいけー!!」 「アルティメットおにぎりだ、死ねィ!」 雪玉をニニギアが作り、それをランディが投げる共同作業だ。これはとても効率よく行われている。 だが、ドゴーンと当たって揺れたのは。 「オィイイ!!! ランディ、貴様!! 俺の家壊す気か!!」 「え、ちょっと、流れた玉、司馬さんの家に当たってるー!!?」 窓から叫ぶ鷲祐と、霧香が唖然としていた。 「事故だぜ、気にすんな!!」 「気にするわ!!!」 アルティメットおにぎりは留まる事を知らない。しばらく司馬の家は衝撃に揺れる揺れる。 「ああ、これなら壊せるんじゃないですか、ルメ子」 「そうなの! だから攻撃を誘導するの!!」 もはや家破壊は故意のレベルになってきたという事につっこむのは止めておこう。 ランディが雪を投げる位置にあえてルーメリア達が居る事で、司馬ハウスの被弾するのは事故のように見える!すごいぞ! 「あそこの赤が負けそうなのだ!!」 「助太刀だね、ねえさん」 そこにリトラとテトラが参戦してきた。だがリトラは家に雪玉をぶつけるランディを見ながら、ああ!と手を叩いた。 「あの家が標的なのだ!! 本気の一斉射撃なのだ!!」 「ちがあああああう!!!」 上から司馬の声が聞こえるが、この姉妹ガンスルー。 「そうなの!! この家を壊すと……えーと、イイコトがあるの!!」 ルーメリアが追い打ちをかければリトラはこくんと頷いた。もはや標的は白組ではなく司馬ハウス。 「姉さんはほんとにこういうの好きだなぁ……」 テトラが雪玉を作り、リトラが投げる――だが、テトラはそんな終わりの見えない作業に飽きてきていた。 「ねえ、姉さん。たまには違うの投げてみようよ」 「いいぞ!!」 にくまん ←しろくてあったかい ぷくっと焼けたお餅 ←しろくてあつい 軟球 ←よく跳ねる マシュマロ ←甘くておいしい おにぎり ←しおむすび 「オォォオオイ! こらぁああ!! 家を汚す気か!!」 鷲祐も思わず外に出てきて、投げ込まれる物という物を切り刻んで進む。もし運命が願いを聞いてくれるなら、今こそ歪曲を――!!と願った鷲祐だった。 ――届け、虹のグランドスラムッ!! 俺に、愛を守る力を!! 「あ、あの武器、おいしそうなのだーッ!」 「つい二ヶ月前くらいに見かけた景品だろう、姉さん」 リトラが指を指し、テトラが見つめた。鷲祐は家に飾ってあったカボトロフィーを取る。そして扉から出てきてはランディ達を見下ろした。 嗚呼、なんて惨劇の真っただ中。もはや、傍観に徹する事は許されないのだ。 「全ての雪を!! ぶった切る!!!」 ランディがまた雪を投げ、それをルーメリアが避けた。その雪を鷲祐がカボトロフィーで叩き落とす。 「これが護るものがあるおとこの姿なのだ、テトラ!!」 「ああ、そうだね、姉さん」 だがその背後――超、大玉の雪が吹っ飛んできた。 「!!!!??? さすがにあれはあたったらまずいのだっ、きをつけるのだ!」 というリトラの眼前で、鷲祐はその大玉に当たってあっけなく落ちていったのだった。 その原因は以下。 「雪だな! 滑る季節だな!」 つまり。 「雪のせいでラブコメが起きても良いよな!!」 フツは何を言っても徳が高く聞こえるから許すよ。 解き放ったのは極縛陣――それは赤組の攻撃失敗を促すかのように行き渡る――!! これで、雪球を投げようとした人がうっかりファンブルして、ラッキーハプニングが起きる! 非常に満足した表情でフツはその場を後にした――その被害も以下に続く。 蜜帆は回りを見回した。だがやはり親米だからか、他の人たちの速度に着いて行けない。 もう既に雪玉を被って、若干寒いくらいだ。 「こ、こうなったら……」 ふるり、震える身体。負けていられるか、こうなったらどうにでもなれ!!! 「やってやるわよーこなくそー!!」 手当たり次第に雪を掴み、手当たり次第に投げ込む方法だ!!兎に角前へと進め――そして旗さえ取れば! ベシャッ。 「……ハッ、どういう事なの!?」 いつの間にか蜜帆は敵陣の中核まで来てしまっていた。 その玉の一つは敵チームの楠神 L☆S 風斗に当たって弾ける。それにしても少年、面白い名前をしているな。 風斗の足下には彼が溜めた雪玉、否、雪だるまが複数転がっている。これは『砲弾』だ。 それを軽々持ち上げる、流石はデュランダル。その一つを投げ――それが鷲祐の家と彼自身に命中していたのは知る由も無さそうだ。 「デュランダルのパワーを今ここに! どっせえええい!!」 「き、きゃぁあああ……あっ!?」 そこで蜜帆の足が縺れる。そうなったのは風斗の威圧のせいか、それともフツの思惑のせいか――。 「うわ!? 誰だ!!?」 転んだままに、蜜帆の身体が風斗にぶつかり、そのまま一緒に重なるようにして倒れた。 「いてて……あ、赤組!?」 ファンブルした蜜帆から、さり気無く風斗はハチマキを奪う。そして思う。 (この状況、どうすればいいんだ……) 「うむ、我ながらに極縛陣はすげえな!! そうだ、今度フィクサードにも使おう、ウヒヒ」 「何をやらかしてんだ」 いつの間にかに横に立っていたフツ。彼に風斗は適格なツッコミを入れた。その時だった―― 「深々と降り注ぐ雪の野を、赤く染めろと旗を振る。誓った旗に吹く風熱く、集いし者の心の如く。 止めてくれるなおっかさん。紅獅子が花咲くように、咲かして見せましょ勝利の華を。 『菊に杯』九条・徹。今日の合戦、加減なしで行くぜ!」 「九条!!」 「くじょぉお!!?」 フツと風斗がその声の方を向く。 その姿、まさしく徹――だが仁義上等を発動させながら赤旗の方へと全速力で走っていた。 「おい待て、九条さん!! 何、本気になってるんだ、大人げないにも程が――!!」 「この九条、アークのためなら粉骨砕身だ。それが例えお遊びでもな」 風斗は手を伸ばす。だが、その腕のなんと短き事よ。彼の腕は走りゆく撤には届かない――これはもはや危険か。 「油断したぜ、止めないとな!! 今から追っても駄目だ、やってやれ」 「任せろ!! この雪玉でええええ!!」 フツが徹を追い、風斗が雪だるまの一つを持ち上げた。旗はけして――取らせてはいけない、取らせられない。 撤の眼には既にゴールである旗が見えている。ニヤリと、その口角が片方に寄った。 「この勝負、もら――「させないぜ!!!」 撤の腕が旗へと伸びる寸前で、おや? 先程まで日光が背を照らしていたはずだが……影ったか? 撤は振り向き、上を見上げた。 「届けえええええええ!!!!」 「本気かい」 本気と書いて、マジと読む。 頭上を舞う、特大の雪だるま。風斗の作った自慢の一品は撤を頭からすっぽりと覆っていった――。 さり気無く、追い付いたフツが撤のハチマキを奪って一件だけは落着。 ● 一進一退の攻防が続いているが、マリアのEX堕天落しはバランスブレイクにも程があった。 「やる気ですね」 「うん!! もう一発やったら全員殺せるかしら!」 「いえ、殺してはいけませんよ」 悠月はマリアを宥めながら、その傍に立つ。 「駄目だ、マリアを倒さなければどうにもこうにも!!」 「俺らでやるんだ、それしかない」 「おうよ!! やってやろう!! 楽しくなってきたぜ!!」 翔太を始め、ツァインと優希がマリアを攻めに来た。赤組としては、彼女を攻略できれば楽になるであろう事は確実だ。 「注目、集めていますね。……あなた狙いの人達かもしれません」 「あらあら、キャハハハッ」 楽しそうだと悠月は純粋に思う。考えてみれば彼女が純粋に普通の遊びを行っているのは初めてに近いのでは無いのかと。 組まれていくマリアの魔法陣――咥えて悠月は雪玉をストックし始める。魔陣を展開しながら。 「これさ……剣林フィクサード討伐依頼に見えてきたぞ」 「落ち着こう。思い出せ、これは雪合戦だ。翔太」 「あ、ああ……」 翔太は飛び出した、続いて優希も飛び出す。近接であれば数が多めの此方の方が有利であろう。 「散らばろう! 堕天落しに当たる被害を減らすんだ!!」 ツァインが叫んだ。こくんと頷いた優希、翔太。 先手必勝と翔太が投げる雪――それは悠月がぎりぎりの所で叩き落とす。マリアには一本たりとも触れさせまいと! 続く優希。走ると共に地面の雪を片手で集め、それを連打で投げていく。送れて出たツァインは大き目の雪玉で攻勢にでた。 見事な包囲陣と連携プレーだ。やはり3対2はいくから不利か――悠月がそう思えた時、マリアの陣が完成する。 「来るぞ、逃げろ!! 優希、お前が狙いだ!!」 「いや、俺でいいんだ!! 来い!!」 「ギャハハハハハハハ!!! おっそーいのよおおおおお!!!」 「マリア、ハチマキは私に任せておきなさい」 優希が構え、そのハチマキを取らんと悠月は走る。その時、黒き閃光がその場を支配し――。 「あっ!!?」 閃光が優希を貫いた瞬間、マリアが思わず尻餅をついた。反射だ、優希には亡き、快のラグナロクがまだギリギリ十秒残っていたのだ。 「はう、いたた……あっ!?」 マリアが振り向けば、そこにはツァインと翔太は立っていた。翔太はその手にマリアのハチマキを握りしめ――。 「マリアは失格だな」 ツァインがマリアの額をつんと指で押した。 「えっ!? ええ、ふぇぇ、ぶっ、ぶぇ、うううえええええええええええええええんん!!!!」 突然泣き出したマリア。悠月の下へ駈けていき、腹部を借りて泣き始めたのだった。 「悔しいのですね……」 これもまだ、子供である証。苦笑したツァインは優希を見た。 「おーい、優希大丈夫か?」 「ブレイクイービルを……頼む」 「あ、そうだった」 ――瞬間、全ての視界が真っ暗に沈んだ。 「な、なんだ!!?」 優希は叫ぶ。だが、何も見えない。不安だけが残る。 「クスクスクス」 笑い声だけが響いた。いくらマリアを倒したからといっても、此処は戦場―― 「じっくりじっくり、そのハチマキ、全部もらうよ♪」 三高平の悪戯姫――陽菜が、漁夫の利が如く、その場の赤組のハチマキを奪っていった。 マリアはギロチン装備(におぶってもらっている)の逆貫にその後会った。 「おやおや、マリアさん負けてしまったんですか?」 「敵が反射なんかしてきたのよ、痛かったの。でもマリア頑張ったもの、でもでもでもダメたったみたい……」 「ふむ」 泣き跡のついたマリアに逆貫は思う。できれば笑顔が見たいと。白組を負けさせる訳にはいかないと決心したその時だった。 「逆貫さーーーーーん!!! これあっげるーーーー!! あっ、ギロチンさんもいる!」 元気な足跡が迫る――両腕を上に、巨大な雪玉を持った壱也が笑顔で駆けてきていた。 「逆貫さんはモテますねえ、ぼく妬けちゃいます」 「何故、デュランダルは皆、ああやって大玉を抱えたがるのだろうな」 とりあえず、逃げよう。あの大玉に当たったら何が起こるか解らない!! 機動力の低いギロチン+逆貫が大玉の餌食になるのは、しばらくもしない後だったとか。 残ったマリアの背後から声がした。 「ハイミルと言ったか、あのメイドは」 ピクリ、マリアは止まった。美散は『あの時』死んだメイドの事を思い出させる。 「なぁに、なんなの……」 美散はマリアに近寄った。その一歩ごとにマリアも後退していたが。 「あの日、あの時、取り逃していなければ、此処で俺とお前さんが出会う事も無かった」 「……」 もしあの時殺されていたら――確かに今の彼女はいなかっただろう。 「数奇なものだな。運命の気紛れと言う奴は」 「そう、ね。でも、逃がしてくれてありがとうなんて言わないわよ……」 ● 「あら、マリア。負けてしまったの?」 「え、ええ……えっと、違うわ! 負けてやったのよ! マリア、強すぎるもの!!」 そう意地を張りながら氷璃の前でマリアは胸を張った。これから杏里でも襲撃しに行こうとしていた所だが、負けてしまったなら仕方がない。 「マリア、泣いたの?」 「ちっ、違うわよぉ、これは、汗よ!!!」 そう、と言いながら氷璃は自らのハチマキを取った。その行為にマリアは「?」を頭の上に浮かべる。 「疲れたでしょう? お昼寝でもしなさいな」 「……子供扱いして」 それでもマリアは素直に氷璃のもとへと翼を広げた。 ――Bonne nuit 「これが、リベリスタの本気……」 ひよりは呆気にとられた顔で戦況の行方を見ていた。にしてもこれはひどい、怪我人、絶対出ているだろうと。 「楽しい雪合戦にしたいですからねー」 光介がせっせとかまくらを作る。此処はもしものための治療班だ。 「立派なかまくらでございますね」 そんな光介の隣でシエルはにこっと笑う。それには彼も後頭部を掻きながら「いやぁ」と恥ずかしそうに笑った。 それにしてもだ。 「やー……アークのリベリスタって息抜きも派手なんだなぁ」 治療班は必要になる雪合戦って何と鳴未は心の隅でツッコミをいれる。リベリスタの言う全力という言葉には怪我が伴うらしい。 「いくら治療するからって、あんま無茶はしちゃダメッスよー!」 鳴未は外でやんちゃしているリベリスタ達にそう叫ぶ。聞いているのか聞いていないのか解ったもんじゃないと鳴未はため息を吐いた。 そんな横ではシエルが甘酒を作っていた。その香りには温かさを感じるというもの。その香りにつられてひよりはシエルの横で甘酒を見つめる。 「甘酒のでき具合は…うん♪ 良い感じです」 上出来の甘酒を拵え、自家製の糠漬けももある万全の装備。 最後に光介が『けが人はこちら』という看板を立てれば、治療かまくらはできあがり。 怪我人が来るまで、大人しく観戦していよう。 「できることなら、このかまくらが利用されない事が一番なのですが……」 シエルは少し悲しそうにそう言った。 「でも、皆楽しそうでいいですね」 ひよりは甘酒を両手で持ち、啜る。そしてその温かさと、落ち着いた雰囲気に眠気がうとうと……ここは平和だ。外は地獄だが。 ――しばらくしてからシエルの前に大量の怪我人(笑)が運び込まれてくるのは解っていた事で。 シエルが全力の神気で全ての雪を吹き飛ばそうと考えたのは言うまでもない。 「ふぅ」 陸駆は額の汗を拭った。今の今まで他チームの眼を掻い潜りながら、大きな大きな雪玉を作っていたのだ。 できたのは自信の身長の半分以上くらいまで大きくなった雪玉。見た目は草や泥が混じって不格好だが、時折叩いて固めたため攻撃力は高い。 これを持ち上げ投げれば一人くらいはヤれる。 よいしょ、持ちあが……らない。これは無理だ、重すぎる。 天才、痛恨のミスだ。落着け、方法を探せ。 物事の見方を変えるんだ、そこに成功の糸口がある――と、そこへ。 「ゆきがっせんにまざってあたしが三高平にしんにゅうしたなどとはおしゃかさまでもきづかないのです」 何故いるんだ、というツッコミは寄しておこう。 壱k……ストロベリーは自慢の変装で公園内のリベリスタに紛れいてる! そんな中、陸駆は彼女を見かけた。猫の手も借りたい状況だ、陸駆は自信のひらめきを現実のものにするために動く。餌は、苺。 「恐山壱子。苺を譲ってやるから、貴様も手伝うのだ」 「いちご! のためならしかたないのです。あわれなりべれすた、よろこぶといいのです……って、いちこいうなです!!」 ベシャッ。 次の瞬間、ストロベリーの頭には雪玉が直撃していた。 「おのれ、りべれすた。このわたしに雪をあてるとは……!」 「面白そうだから、泣かしに」 綺沙羅の雪だ。なんという単純な理由。これにはストロベリーもびっくりだ。 だがスロトベリーはその挑戦を受けて立った。 「りべれすたごときのゆきにはあたら――」 ベシャッ 「いまのはまぐれなのです、もうぜったいにあたらな――」 ベシャッ 「ちょろいな」 「りべれすため、にげるさきになげてくるなんてひきょうなのです」 綺沙羅の命中がいいのか、それともストロベリーがファンブルしまくっているのかはさておき、ストロベリーは冷凍苺と成ったとか。 見える限りの飛んでくる雪玉を悠里は鬼業紅蓮で溶かしていく。流石の雪玉の火系攻撃には弱い。 「いだっ!?」 だが、突然悠里の顔面に雪がぶちあたったのである。 すぐに振り払い、何処から来たのだと見える限り探すために振り返ったのが幸運か。幸成が手を伸ばし、ハチマキを取る寸前であった。 「危な!? っていうか、そっか、気配遮断か」 「見つかったでござるか……まだ修行が足りないでござるか」 幸成、痛恨のミス。その雪玉は目くらましに使おうとしていたのだが……悠里には眼鏡という最強の秘密兵器があったのだ。 「危なかった、メガネが無かったら死んでいたかもしれない」 フフフ、楽しくなってきましたよ。 見つかったからには戦闘をせねばならない。すぐさま幸成は雪を拾った。忍者らしく素早く、行動を次へとシフトした。 悠里も負けてはいられない。飛んできた雪玉はこれまで通り、熱で溶かすのだ。 「鬼業紅蓮でござるか、遊びに使うとは贅沢でござるな」 「ほら、勝負っていうのは負けたくないからね……!!」 悠里は雪を片手で固めた。そしてそのまま幸成へ投げ――。 「まいったでござる!!」 「ええええ!!!?」 幸成は躊躇無く自害、もとい両手をあげて投降したのだった。あまりにあっけない終わりに悠里は勢いのままに雪に突っ込んだ。 「悠里殿は投降した者にまで雪は投げないでござろう?」 「そ、そうだけど……」 苦笑した悠里に幸成は手を差し伸べて身体を起こしてやった。 ● 世界は白く染まっていた。飛び交う雪のおかげで。七緒がすごーい、と思わず写真に収める程にだ。 そんな中、アリステアと涼はなるべくその雪弾幕から外れようと逃げる。それを七緒は気分的に追ってみたのだ。 「酷いなこれは……これじゃ死人が出ても……」 「えっ!? おにぃちゃん、物騒な事言っちゃ駄目だよっ」 アリステアと涼は二人で行動していた。少し姿を見せて歩くだけでも敵の雪玉が飛んでくる。むしろ味方の雪玉にさえ当たる始末だ。 「……帰ったら温かいココアでも飲もうぜ」 「うんっ!」 「わらわが本気を出す時が来たようじゃ!」 瑠琵は低い体勢で攻勢の機会を待っていた。両手で少しずつ雪をかき集め、かき集め。 大戦(おおいくさ)とは心が踊る。血よ、肉よ、と、胸の内が熱くなって止まらない。 見れば目の前には男女が一組、無防備な状態で居るではないか。 くくくと、喉の奥が鳴った。 そんな影に気付かず、アリステアと涼は雪玉を生成する。 「おにぃちゃんはいいな。遠くまで飛ばせて……」 「そうかな? やってみなよ、折角だからさ」 小柄なアリステアはその雪を投げても、望んだ方向へはいまいち上手く行ってくれない。力になれない事にしょんぼり顔である。 涼はにこりと笑いながら、自分が作った雪玉を差し出した――が。 「隙ありじゃて!!」 瑠琵が雪玉を両手に、それを同時に二人に向けて放った。油断していた彼等を見逃すと思うてか――!! 「あぶない!! アリステア!!」 「きゃああ!!! おにぃちゃあん!!!?」 アリステアの代わりに雪玉を被ったのは涼だ。顔面、腹部に当たった二つの雪玉。 カシャッ 「カシャ?」 アリステアは不審な音が聞こえた気がした。 雪を振り落とし、中に蜘蛛(の玩具)が入っていたのに涼は驚きつつも、前方の瑠琵の姿を確認す――いない。 「甘いのじゃ」 いつの間にか涼の背後の瑠琵は移動していた。額に撒かれた涼の赤色のハチマキを掴み、引きはがす。討ち取ったり。 カシャッ 「カシャ!?」 アリステアの心は揺れる。庇ってもらって、護ってもらって嬉しい反面、それでリタイアさせてしまったのに申し訳なく――。 手の中にあるのは涼が残した雪玉。 これなら反撃ができる――零距離で投げ込む。それは瑠琵の服の中に入って行って、瑠琵が思わず喘ぎ、背筋がぞくぞくと揺れた。 カシャッ 「そこに居ますよね七緒さーん!!?」 アリステアは思わず雪玉を木陰へと投げる。バレたかと出てきた七緒はしてやったりの顔をしていた。 「仕事中のあたしを狙うとは、いい度胸だよねぇ」 「何してるんですかっ」 「『雪合戦潜入レポート』よ。たまには運動しろってこと?」 だがアリステアが見る限り、七緒からカメラらしきものが見当たらない。 そう、超小型カメラを七緒は持っていた。じゃないと雪、投げられないからね。 「さっきの顔面被弾とか、冷たさに喘ぐ姿とか、討ち取ったりーのドヤ顔とか、ごちそうさまでした」 「おい!? 顔面被弾は消せー!?」 「喘ぎ顔はやめてほしいのじゃー!!?」 スッ、七緒は無類の拳を放とうと拳を前に出す。七緒の強さはおそらく三人は知っているだろう。 「け、怪我人を出さないルールを無視すべきか迷うのじゃ……」 「抑えろ、抑えるんだ……」 「七緒さん、鬼だなぁ」 ミカサはそんな悲劇を見ながら、お汁粉を啜っていた。 (良い場所を取れたものだね……実にスリリングだ。あ、宵咲さんくしゃみしてるけど大丈夫かな) 「これ皆に差し入れ!」 木蓮の声が響いた。ミカサがいらっしゃいと快く受け入れる。 木蓮は龍治と一緒に行動していたが……。 「たちゅがどうしてもお汁粉が食べたいって尻尾を揺らすからな」 「尻尾の事はいうな……」 という事で丁度よく汁粉を啜っていたミカサの所へ来たのだった。 刺し入れたのはホットみたらし団子。カップに入ったそれを爪楊枝で刺して食べる一品だ。 「にしても……」 ふと龍治は戦場の方を見た。 「参加していたらどうなっていた事やら」 「うん、多分、俺とかすぐに雪に転がってるかもしれない」 喜劇的惨劇は傍観するに徹する。そんな中、木蓮が口にみたらしのソースがついていると龍治の口元を拭いてやった。 横から大人びた声が響く。 「形在るものはいつか滅びる、人間は常にそれを覚悟しなくてはいけないのよ」 「いつか滅びる……そうですね、餅もう一つ食べても良いですか」 「……もうちょっとで膨らむから待って頂戴」 この餅だっていつかは壊れるのだと諸行無常の響きを感じる二人。変わらないものなんて無い、餅も、人も、あいつの家も。 餅ができるまで前回までのあらすじ。 悪逆非道のE・フォース(因みにエレオノーラはそれにバリムシャァ!されかけたりされたり)の攻撃から2ヶ月。 破壊された司馬家は仲間の助力もあり漸く元の形を取り戻し無事に年越しを果たした。 しかし、つかの間の平和は長く続かなかったのだ……。 「惨劇だね。この場所は呪われているんじゃないかな」 「そうね、引っ越すべきよね」 そう言ってエレオノーラはミカサの器に餅をひとつ入れた。 それをまた、口に運んでもっふもふ。 (この機会に、司馬さん引越せばいいのに) もう家が消える前提で考えているなどと。ミカサは顔を横に向ければ糾華とリンシードが居た。 糾華とリンシードは一騎打ちをしている最中。 周囲の木々を足場に、機動性の高い能力を活かして糾華の弾丸を回避していくリンシード。 「周囲の被害なんて知った事ではないわ!」 その幾重の弾丸はリンシードを負い続けて木に当たり、人に当たり、見境なく放たれている。 バキバキっと、何か鈍い音が一際大きな樹から聞こえた気がしなくも無いが気にしてはいけない。遠くの方で見ていたミカサが、「あ、屋根が」と呟いた。 大事な事だからもう一度。 「周囲の被害、なんか、戦場の真ん中の樹上にある家の状況なんて知った事じゃないわ!」 「鬼だ……」 そこで糾華は足を踏み出す――人の家の屋根に気を取られていたリンシードの胸元へと。 伸びた糾華の指がリンシードの顎に触れた。 「さあ、私の物におなりなさい?」 リンシードの頬が紅潮したのは、寒さのせいか。それとも目の前で妖しく笑う彼女のせいか――。 「ヤバイのダ」 カイは言った。フォーチュナの牧野杏里という少女にときめいて。 「雪のように白い肌、サラサラの黒髪、憂いを秘めた黒目がちナ目、そして何より傷だらケ!」 見てみたい、あの服の下まで。あまりの儚さに虐めたいような、護りたいような……。 そんな彼女は他のチームから被害を受けないために木の下で隠れていた。バレバレな訳だが。 今なら雪を投げれる。そう思ったカイは雪玉を丹精込めて作った。 投げる――そうして彼女を射止め―――ようとして我に返る。 (危ないのだ、我輩はそんなキャラでは無いノダ!!) 「うらああ!!! どけええええ!!!!」 戦車の如く、ロードローラーの如く――カイの横を走っていったのはジースだった。 例え敵であろうと、彼女の下へ行かねばならない。 「これしきこ事でえええ! 俺は止まらねぇえ!!!」 例え弾丸に当たろうと、例えスキルが飛んできても。 「ぉぉぉぉぉおおおおおお!!!!」 そんな咆哮が聞こえ、「ひー!?」と言ったのは、ジースのゴールでもある杏里であった。 杏里は杏里で、木の下に隠れてびくびく震えていた最中。目の前には敵のチームの色をしたジースが息を切らして此方を見つめた。 「あ、あの、……?」 「杏里……」 回されたジースの手。そうか、ついにハチマキを取られるのか。そう目を瞑った杏里だが、予想は外れて杏里は抱きしめられていた。 「はわわわ!!? あの、あのあのあの!?」 「……」 そのまま強く抱きしめられ、紅潮する杏里の頬。瞬間――。 「ひぃん!!!!?」 杏里の身体がびくりと跳ねる。そう、そのセーラー服の中にジースは雪をどっさり入れたのであった。 「も、もうっっ、意地悪、意地悪ですね!!」 怒っているのか泣いているのか笑っているのか解らない調子で杏里はジースの背中をぎゅっと両腕で締めた。 そんな彼女が愛おしくて、ジースは笑う。心臓の鼓動が伝わってしまうくらいに抱きしめながら。 (俺の人生に一変の悔い無し!!!) いいから二人とも爆発しろ。 ミサは楽しそうな雰囲気に釣られて白のハチマキを頭に撒いた。 全身がほぼ白を基調とされた彼女の恰好は、今や背景の白と一体化していて目立たないのが幸だったか、未だに雪は飛んでは来ない。 ミサの眼がキラッと光った。見えたのは――杏里だ。 ジースと別れた直後だったか、杏里はまたおろおろ歩き出す――狙うならば今。 「えいっ」 「ひゃっ」 ミサの雪は見事に杏里のハチマキを地へと落した。 何処から雪が来たのだろうと、キョロキョロする杏里だが、見つかるまいとミサは最後まで体勢低くしていた。 ● 「しかし、勝敗よりも某住宅の存亡が気になるのがまた」 未明は苦笑交じりに言った。本来の雪合戦という行事に他人の家を心配するおえないという事態が発生していることに。 「「「私が護りに言った方がいいのだろうか」」」 影人で増えたユーヌ(×3)が一斉に喋り出した。この場に四人しかいないが、実質手は八本以上ある不思議な光景。流石影人。 「まあ大丈夫じゃないだろうが……大丈夫だろう」 伊吹は曖昧な事しか言えなかったが、適格であろう言葉で返した。 かまくら作って、のんびりしたいしね。惨劇を眺めながら。 そのためにコーポの提携でもよくお世話になっているユーヌのかまくら作りのお手伝いに、伊吹は来ていた。 男手は必要だろうと、人一倍働く姿はなんと健気なものか。 「かまくら……面白い風習ですね」 ロマネは積み上がっていく雪を見ていた。いつもは土を掘る彼女のシャベル。それを持っている手は、今や雪と寒さに真っ赤に腫れている。 まだまだ増えるユーヌに雪と精神力を渡しながら、かまくらは着実にできていくのだ。 しばらくして。 完成したのは綺麗は弧を描く、かまくらひとつ。 真っ白で、太陽の光に反射してキラキラ光る様はとても見ものだ。 早速四人は持ち合わせた七輪や、食べ物を中へと運びはじめ――。 「うん、美味しいな」 一仕事終えた後のご褒美とは、何故此処まで至福か。ユーヌは口に汁粉を運びながら、その甘さに浸っていた。 「お鍋持ち込んでぜんざいでも良かったかもねぇ」 囲んだ七輪の上。お餅を焼く未明はにこっと笑いながらそう言った。 「これぞ書物やメディアで目にする日本の冬の風景ですね」 ロマネはうんうんと顔を揺らしながら、お餅を砂糖醤油につけた。 此処は本当に平和だ。 外は弾丸飛び交う公園に変貌しているが――全ては蚊帳の外。 ● ある程度、戦場から離れた場所で火車は火を焚いていた。それを囲む、四人のリベリスタ達。 「うむ 焚火は最強だな 火ぃ見てると神聖な気分になるぜ……」 「ここにシスターもおりますよ。ま、神なんて……」 火車は目を細めて火を見つめ、海依音は逆十字を見つめた。 そこで会話はしばらく停止した。火が弱くなってしまったと、薪を取りに行く輪廻。 「少し多めに持って行った方がいいかな。火の用心だけど精鋭が沢山いるし大丈夫だろう」 バッキィ!! 司馬家を構成する木片を力ずくで取った輪廻だった。「おい!!?」と鷲祐の聞こえた気がするが、そんな事は無いな。 「おお、湿ってなくてよく燃えそうだ」 それを焚火の薪にする。火車は手際よく火の管理を行っていた。火事になるなんてそんな事絶対無い、絶対無いな。 葬識は啜る珈琲をほっかいろ代わりにしながら、千里眼で遠くの惨劇を傍観していた、ら。 「うおおお! 唐突に足滑ったー!!」 炬燵を探しながら駆けまわる俊介が葬識へと抱きつこうとして吹っ飛んできた。 が、カウンターで伸びてきたのは口の開いた逸脱者ノススメ。 「ぎゃああああああっぶんなああああ!!」 ――ジャッキン☆ 寸前で俊介は頭を引込め、雪に顔面タッチダウン。 「あ、残念、惜しかった」 あとちょっとで跳ねられたのに。何処とは言わないけど。 にこっと笑う葬識の足下で俊介は、首がくっついているか確認しながら無駄に聖神の息吹が漏れていた。 うるさすぎる風が来て、この場に殺人鬼が居て、シスター服が二人居て、面白い組み合わせだなぁと火車は一同を見回した。 「時に火車君」 ほろ酔いで、ふらりと火と見つめていた海依音でも解る程に。 「ちょっと火が強すぎでございましょう?」 見れば、轟々と火が燃えている。どうした事か。 「んじゃちょいっとこう 薪除けて ……ん?」 「ちょっと!! くわしゃん、俺は薪じゃないから火着けないで!」 着けたんじゃないよ、着いちゃったんだよ。 火が強すぎると避けた薪を投げたら、うっかりそこには存在を忘れていた俊介が。そして彼のフードが燃えがある。 「あっつ!! だぁっつ!! 聖神聖神!!」 「この場居たら邪魔だオラ池行け!」 「ひどいいいいい!!! あ、リンネ何処行くん!!」 思わず飛び出してきた俊介の動くAFが四足歩行で逃げていく。それを追う俊介。 「あ、おぉい、そっちは……」 まあいいかと火車はすぐに興味を逸らした。その向かった先には司馬邸だった。 「……えーっと」 輪廻は言う。このままだと――。 「いいんでございましょう。来る運命からは逃れる術は無しでございます」 「は、はぁ……」 「ああ、リンネは偉いな。ここには水ありそうだもんな」 「あるけど!! お前馬鹿だろ!! っていうかこの家燃えやすいんだから、ってうおおおおお!!? 」 燃えてる俊介を見て、鷲祐も驚かない訳が無い。 「あ、そうだったごめんな」と言いつつ猫を捕まえて退出していく俊介。悪気は無い。無いよ、あはっ。 まおはこのツリーハウスを足場としていた。面接着で家の死角までにのぼり、機会を窺っていた……が。 「なんか、熱い気がします」 なんでだろうか。足場が燃える様……燃えてるー!! まおは咄嗟に木と木を飛んで、そこから退いた。見れば、燃え上がる司馬ハウス()。 「火事に、なっちゃったですか」 「ダッシュからのクラッシュか……と思ったらファイヤー! とは驚きだね」 翔護がキャッシュからの、パニッシュの構えで燃えるそれを見ていた。どうしたもんか。とりあえず写メでもしておこう。 という大事故が起きたので雪合戦どころでは無くなって、旗の中心で燃える巨大なツリー(ハウス)。 「……事故は怖ぇなぁ、事故は」 「はいはい、不幸な事故です。カミサマに祈ってもこの結果は変わりませんので」 狙うにしてはできすぎているからね、これは事故だよ。もう仕方ない。 「いやぁ事故とは言え良い焚火だなぁ!」 さっきまで寒かった手のひらも、嘘のように温まるくらいの燃えようだったとか。 燃やしたのは誰かとはまあ、言わずともがなだが、ユーニアがピザまんをorzの形で動かない鷲祐の前に置いた。 「いやあ……なんか、お疲れ」 「あ、ああ……」 「なんかいきなし家燃えてるけど……」 黒乃はテレキネシスで旗を奪取しようと向かっていた所で背後から熱を感じた。 そんな感じで突然燃えだした司馬邸に驚く参加者は多く居ただろう。唖然とするリベリスタ達がほとんどだ。 黒乃の横を真独楽と杏が駆け抜けていく――この騒ぎを、予想していたか。今がチャンスだ。 「あっ!?」 結衣が抑えに回ろうと走った、だが黒乃がそれを回り込んで止める。 ブロックは予想はしていた。杏が翼を広げて飛び上がる、真独楽はそのまま背に飛び乗った。 「北海道で鍛えた雪合戦スキル、見せてやるんだから!」 真独楽は走る――旗へと一直線に。 「まこにゃん!!」 「うんっ!」 止めるリベリスタの赤チームの軍勢――だが、そのブロック網を嘲笑うように杏は舞う。 その杏の背中に身体を置き、跳躍し、旗へと飛び込む真独楽――そして。 「やったぁっ! 旗とれたぁ!!!」 真独楽の右手には、確かに赤色の旗が揺らめいていた。 だが待って欲しい、この騒ぎに乗じて動いたのはこちらだけでは無い。そう、赤チームも白旗へ特攻をかましていたのだ。 「フォーチュナの分析力を舐めるなよ!」 突然の火事だろうがなんだろうが、毎回毎回夢で見る事件よりかは遥かに可愛い。 動じなかった守生はこのチャンスに乗じて自ら旗の下へと走った。 「待ってたよ」 「また誰か来たのだわさ!! ってフォーチュナだわさ!!?」 ステラと梅子が旗を護っていた。 いなくてはならない存在だっただろう。残念だけどこの先にはいかせまいと撃ったのはトラップネスト――咄嗟に守生を幸成が庇った。 「待つでござる! フォーチュナにそれは痛いでござる!!」 「え、そう? ごめん」 容赦なく、ステラは侵入者を呪縛地獄にしていた訳だが流石にフォーチュナにはスタァァァアップでござる。 「向こうの旗、とれたみたいだわ」 「そうなんだ、じゃあ防衛成功だね梅子ちゃん」 「やっぱり梅子の才能が怖いのだわー!」 赤チームの最後の抵抗はステラの防衛が救ったか。つまりだ、赤チームは旗を取れなかった。 ――この瞬間、白チームの勝利が確定した。 ● 「アークの皆様は遊びであっても一切手は抜かれないのでございますね!」 感服したと、リコルは声をかけながら、一人一人に温かい飲み物を渡していた。 その献身的な態度には杏里が凄いな、と素直に思ったほどだ。 「ささ、温かい飲み物を飲みながら互いに健闘を讃えあって下さいませ!」 「お疲れさんっさぁさぁみんな冷めないうちに食べるんだよっ!」 ゲーム中にもやっていたが、富子は自慢の腕でトン汁と作ってリベリスタ達に提供していた。 冷え切った身体に染み入るトン汁、それと巨大なキャンプファイヤー。 今日は本当に寒い日だったが、いつの間にか身も心も温まったといえよう。 「まだまだあるあからね、たーんとお食べよっ!」 富子はお汁粉もあるよ!とリベリスタに進めた。これぞ、三高平の母の姿である。 「こ、こんなの楽しんでやってないからな!! スポーツだったら、負けないようにやるのは、当然だろ!」 「はいはい、守生は楽しかったんでござるな」 「ちっ、違うからな! おい!! 違うって!!」 「ははは」 幸成は救護かまくらで突っ伏しながら意地を張る守生を見て苦笑していた。 「守生殿の指示は的確でかっこよかったでござるが、向こうのまこにゃんや杏殿にはしてやられたでござるな」 「くそうっ」 「ねっ、杏里。また来年も皆でこうやって遊べたら良いわよね、本当に」 「はいっ、本当に……そう、思います」 焔の声に杏里もにこりと笑う。来るべき決戦に日は近い。 そんな苦難を前にしたリベリスタの全力の遊びは幕を閉じた――。 どうか、また。こうやって遊べるようにと願って。 また、遊びましょう。何度でも。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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