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「奥さん、今日はいい鮫が入ってるよ」

●何時も片手に退職願い
 そろそろ辞めてしまいたい。そんなことを考えてもうどれくらいになるだろう。
 明日こそは、明日こそは、ずっと思い続けながら、ずっと焦がれ続けながら。それでも、過酷な労働に身を費やしているのだから、自分を褒めてやりたいくらいだ。
 何時だって用意の出来ている退職願い。字の拙さと、文面のあやふやさを理由に何度も書きなおした。おかげで、奇妙な程達筆になってしまったものだ。
 辞めよう。辞めよう。何度も何度もそれを考える。何度も何度もそれを呟いている。なんだかそれが支えであるかのようで、なんだかそれが繋ぎ目であるかのようで。唱えていると、仕事に没頭できたのだ。
 もう嫌だと、口にするのは何度目か。それでも、自分の仕事に手を抜くような真似はしない。自分の仕事を投げやりにするようなことはしない。当たり前だ。当然だ。自分から辞めるのはいい。消してしまうのは構わない。だが、辞めさせられたなら話が違う。それは恥でしかない。捨てることは構わないが、失くすことは恐ろしかった。
 そういう愚痴を商売道具に零すのは病んでいる証拠だろうか。なあなあ聞いてくれよ聴いてくれよ。上司が怖いんだ仕事が辛いんだ人生が悩ましいんだ先が見えないんだなあなあなあなあ。
 返事はこない。分かっている。こいつらにそんなものなど期待していない。そもそもこれは、ここの生物は我々の言語を正しく理解できる程に知能が発達してやしないのだ。今も私に腸を引きちぎられながら、自分達のコミュニティ内ですら意思疎通不可能な謎の音を出し続けている。
 全くもって、どうしてこの程度の文明レベルで霊長類などと持て囃されているのか理解できない。たかが内蔵を捻り切られた程度で言葉を捨て、鳴き声に先祖返りする程の強度しか持たぬというのに。
 商売道具が動かなくなった。嗚呼、なんと脆い。心臓を摘出しただけだというのに、死んでしまうとは情けない。情けないぞ。
 しかし、死んだものは仕方がないか。必要な部位だけを切り取り、残りを圧し潰しておくことにする。
 これを食する輩も多いのだと聞くが、私からしてみれ恥ずべき行為だ。勤務中に食事。何を馬鹿な。休憩時間は必要最低限に受け取っている。労働すべきそれを余暇と混同するなど、賃金という対価を貰うに値しない。
 まったくもって嫌になる。嗚呼、まあそれはいい。仕事に集中しよう。脈拍を止めた心臓の表面をなぞる。筋繊維の質は上等。文化レベルこそまるで褒められたものではないが、素材としては惚れ惚れするランクである。まったく、家畜ではこうもいかないものだ。
 なにせあいつらときたら、眼球も鱗もヒレもエラもまるで使えない。使えない。嗚呼、考えていたら暗くなってきた。辞めよう。辞めよう。

●割りと久々に異界煩い
 奇妙な死体が、幾つも発見されている。
 その話題は夜間のニュースでも何度か囁かれていたが、せいぜいが怪事件程度の扱いであり、雑誌や新聞の一面を飾る程のものではなかった。いや、どうなのだろう。仮にも殺人事件。変死体である。その話題性を考えれば、日々之殺人鬼だなんだと持ち上げられても良いのではなかろうか。
 そんな、裏を覗きこんだような気になった噂が、彼らの中で呟かれ始めた頃。その思惑は運悪くも当たり、正式な依頼としてリベリスタらが集められたのが、今日の午後のことである。
「予知出来たわ。アザーバイドよ」
 資料を渡し、軽く目を通す時間を儲けた後で、少女は案件のカテゴライズから口にした。
 アザーバイド。異界人。つまりは外の某かが、こちらでこちらのこちらにとって非倫理的な行為に及んでいるのである。
 アスファルトの染みというレベルまで圧し潰され、身許の確認すら困難な遺体。何度検査しても心臓に当たる部位だけが見当たらない。抜き取られた可能性大。食された可能性ゼロ。
 その手口から、予言の内容から、アークはその犯人をアザーバイドと断定したようだ。
「多分何度かやりあった世界の相手だと思う。やり口が似ているから。絶対に倒して。あれは、こちら側に招いてはいけない相手なの」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:yakigote  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年01月16日(水)23:24
皆様如何お過ごしでしょう、yakigoteです。

アザーバイドが現れ、殺人事件を起こしています。
早急に討伐し、その脅威を日常から取り除いてください。

【エネミーデータ】
●頭蓋テレサ
 泣き黒子が特徴的な妙齢の女性、の姿をしたアザーバイド。見た目は人間そのものですが、中身はまったくの別物です。人間を遥かに超える膂力と、並外れた再生力を持つため、持久戦は困難でしょう。
 人間から心臓を抜き出してはその残りを圧し潰すという好意を繰り返しており、完全に人間を採取対称としか見ていません。
 常に右手の中に羊皮紙を握りしめています。何か大切なもののようですが。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クリミナルスタア
不動峰 杏樹(BNE000062)
ホーリーメイガス
霧島 俊介(BNE000082)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
スターサジタリー
百舌鳥 九十九(BNE001407)
デュランダル
蘭・羽音(BNE001477)
プロアデプト
レイチェル・ガーネット(BNE002439)
ダークナイト
紅涙・いりす(BNE004136)

●思い思いの仲違い
 上司を殴り飛ばした。無論、妄想の中でだ。労働なくして生きていけないのは分かっている。転職する勇気はないし、そんな先行き不安な場所に身を投じるつもりもない。こうして、膨らませる妄想の中で自分を慰めるしかないのだ。

 想像もできないもの。それは、思いもよらないものとは、少し違うものだ。かけ離れていると言ってもいい。最悪を想定する。何度も、何度も想定し、何度も、何度も掘り返す。それでも辿り着かない。埒外の悪臭。自分を疑い、世界も疑うような。
「去年出会ったアザーバイドの同郷、かな」
 やり口、振る舞い、心象風景。そこから、『玄兎』不動峰 杏樹(BNE000062)は以前に相対した敵を思い出していた。内臓の採取。あの時は、実験だと言っていたが。首を振る。やめておこう。同じものだとして、そこに猫を湧かせるのはやめておこう。深沼を、覗きこむほど物好きではない。人間ではなく、人間を圧倒するほどに力が強い。立ち向かうに、それだけわかれば十分だった。
「外界からの侵入者は早々に消えろ」
『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)がそう言っても、通じやしないのだろう。いや、通じないのではなく、聞き入れやしないのか。自分と対等でないものと、話す意義を感じない。そう思ってすらいないのだろう。勝手に感じていればいい。この世界にあだなすというのなら、殺す。全部殺す。嗚呼、全部死ね。消えてなくなれ。なくなってしまえ。その為に、その為ならば、鬼になっても構わない。
「妙齢って主に何歳ぐらいだろう」
『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)には、そちらが気になって仕方がない。でもきっと、成人以上くらい。そのくらい。素敵な感じ。でも、心臓抜き。
「出会いが違えば、俺と一緒にニャンニャンできる事もあったろうに……」
 いくら想像しても正気を失いそうな光景しか浮かばないが、どうも彼の中ではそうでもないらしい。
「好みではないし、婚期逃しそうなタイプだな」
 言いたい放題か。
「おとなって、しゃかいじん、って。大変だなぁ…。お仕事いやなんだったら、辞めちゃえばいいのにねって思うんだけどな」
『明日も素敵に笑うために』アリステア・ショーゼット(BNE000313)の呟きを、若さ故だと否定するものもあるだろう。異界であれ、この世であれ。何らかの柵は存在している。自由奔放には何らかの意志か、力か、特権が必要なのだ。そこからの脱出を、思考するかはまた別の問題であるのだが。
「またあの世界の方々来たようですな。物騒な事です」
『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が容姿にそぐわぬ物言いを置いた。
「ところで、彼等の内臓をこちらの世界の人に移植したらどうなるんでしょうな。心臓には心が宿ると言いますから。彼等の気持ちが分かるかもしれませんなー」
 物騒な発言に、思わず仲間が目を剥いた。ひょっとしたらやりかねない、とでも思われているのだろうか。どの道、適合もしまいに。
「真面目に働くのは、いいことだけど……こういう仕事は、どうかと思うな」
『Radical Heart』蘭・羽音(BNE001477)の言葉は、人間として当然のものだ。殺人する。殺人する。殺人する。そんな生業など、同族にだって認められない。まして人間でもないのだとすれば、否定のそれしか浮かびはしなかった。人間を、豚のように。想像したくはない。考えたくもない。
「兎に角、これ以上は誰も殺させないよ」
「なんだかんだで、意外と精神構造は似てる気もするんですけどね」
 自分達と同じ姿をした化け物。ひとでなし。『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)はそれらへの感想を向ける。同じであって、違うもの。交渉の余地はなく、話し合う前提は存在しない。だからこそ、なんにせよ。やることは変わらない。狩られる前に、殺すだけ。
「ひとの迷惑なので排除させてもらいます。くたばれ、バケモノ」
「如何でも良いんだけどさ。この人達って、服も体の一部みたいなんだよね。ぱんつは穿くべき。作るべき。その方がえろいし。偉そうなくせに学習しない奴らだ。けしからん」
『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)のようなやつを、どこかで見た気がする。いや、何をか言うまいが。
「まぁ、力づくとか嫌いじゃないし。燃えてしまうな。萌えてしまうね。それじゃ、体にを教えてあげよう。そうしよう」
 なに、変わらないのだ。何も。何も。
 何も変わらない。何も違わない。そうであることは、とても不幸で、とても幸せなことだ。変化が良いことばかりではないように、その逆もまた同じ。常に何事も禍福を孕んでいるのだから。
 この先はどうだろう。理解できないもの。わかりあえないもの。それとの邂逅は、変化だろうか。それとも、停滞なのだろうか。
 論じている暇はなく、諭している時間もなく。ただただ夜は進み、種族争いの泥沼へと、足を浸からせていく。

●相思相愛の倦怠期
 こんな自分でも、仕事が上手くいけば嬉しいものだ。それぞれに一喜一憂し、充実性を感じている。だからこそ、失敗した時の憂鬱さも限りなく深くはあるのだが。嗚呼、またか。呟いて、呟いて、呟いている。

 外見。容姿。見た目。容貌。姿。シルエット。背格好。それらに同義する言葉のエトセトラ、エトセトラ。
 それらをどう解釈しても、彼女の姿は自分達と変わらない。だが、それでも人間ではない。姿を視界に捉えた瞬間。目を合わせた刹那。本能が告げる。これは恐ろしいものだ。恐ろしいものなのだと。
 声をかけても、反応はない。否、あった。顔をしかめたのだ。嫌悪ではない。否定でもない。ただ不快。それは泣き喚く動物を見るかのような。「嗚呼、喧しい」とだけ感想を抱くそれに似ていた。
 似て、非なるもの。似て、非ざるもの。互いの精神性を語り合う余裕があるはずもなく。ここは、ただアスファルトとコンクリートだけのここは。死に死合う終点へとシフトする。

●集中砲火の落葉焼
 もう嫌だ。何回言っただろう。何度言っても何も変わらないものだ。嗚呼、もう嫌だ。

「理不尽な暴力はぶっ潰す」
 物憂げな化け物の横面を、杏樹は思い切り殴りつけた。肉を打つ感触。違和感。顔を顰める。確かにそう、確かにそうだ。こいつらは見た目だけが自分達にそっくりで、中身はまったくの別物なのだ。
 それは精神性、生命性の在り方を言うものではない。正しく、物理的、生物学的なものだ。その意味が理解できる。拳に伝わった異常の質感が、失陥が、疾患が。それを教えてくれる。
 一歩、数歩、退いて。銃を構えた。撃つ。撃つ。撃つ。冷気が牙を向き。貫いてなお絡めとるその弾丸を。頭に、顔に、心臓部位に、四肢に、腹に。
「労災保険は入ってるか? そんなものがあるかは知らないけど」
 そこまで毛嫌いしている仕事だというのなら、とっくのとうに支払っているのかもしれないが。詳細なんて知りたくはない。
 と。化け物が再生されていく。白いだけの内側の肉が泡立ち、膨れ上がり。再構成していく。あっというまに、もとどおり。
「なるほど、必要ないわけだ」
 吐き捨てる。

 俊介の唱えたそれにより、テレサの全身が炎に包まれる。悲鳴はあがらない。痛みを感じていないのか。痛みへの反応がそもそも異なるのか。
 それは、浄化の炎。そのはずだ。そのはずだが、それを紡ぐ俊介が纏うものは。どこか憎悪染みていた。
「こちらの世界に、お前みたいなのはいらないんだ。剥いでやる、人の皮を」
 人の形をしているのさえ、許し難いと。敵意。それは相対するだとか任務であるとか立場だとかで生まれるものではけしてなく。敵意。敵意。余すところなく。過剰すらも不足に思える程の。始めから何もかもを否定して根こそぎに回るような。
 その意定。その決定。その断定。胸中で渦巻いていただけであろうそれは、いつしか言葉になって漏れている。漏れ出している。
「お前らなんかがいるから。お前らなんかがいるから、お前らなんかがいるから!」
 それは嫌悪に似ていた。それは嘲笑に似ていた。それは駆除に似ていた。それは生業に似ていた。それはそれらをひっくるめた、何かだった。
「生きて帰れると思うなよ」

「ヒューッ! 君、きゃわうぃーねー!」
 一瞬、何を言ったのかわからなかったあなた。これ、人間側のセリフですのでご了承ください。
 冗談はさておき、テレサは竜一の言葉に顔をしかめた。言葉の内容に腹を立てたのではない。まして、単に聞き返す意味だったわけでなどありえるはずもない。
 ただ単に、喧しかったのだろう。その視線、その表情、その意図に気づいた竜一の精神が冷めていく。おちゃらけたところが消え、戦闘者としてのものにシフトしていく。
「目覚めろ、俺の右腕!」
 こじらせて云々とか他で散々言われたろうし記述もあったろうから、ここであえて言及したりしない。行間から周囲の空気をご覧じれ。
「お前たちが人間を狩るというのならば、悪いが、ここで殺す!」
 意味は伝わらない。否、伝わってもせせら笑いすらしない。だがそれでも、それは宣言だ。決意表明だ。意思決定だ。
 脳芯が身体の制限を外す。電気信号は命令を忠実に伝え、それを受けた肉は狂乱の猛りを叫んだ。
 剛剣が、化け物を斜めに斬る。

 膂力。筋密度。魔性。精神域。人間とは違う化け物。だが、人間と異なるだけがその呼称をかんむるのではない。化け物、化け物、化け物だ。人を容易く死に至らしめ、火砲斬撃をものともせず、生命への尊厳を遥か蔑ろにし。それらがそれらこそが化け物と呼ばれる所以である。
 だからこれは、そうと呼ばれてしかるべきなのだろう。こちらの攻撃が通らぬわけではない。だが、テレサの振るう暴力は。リベリスタの生命力を意図も簡単に削り飛ばしていく。
 だからこそ、アリステアのような人員が重要であるのだが。ひたすら回復にのみ役割を傾けた医療班。その存在は、戦場での大きなアドバンテージをもたらしていた。
「いくら仕事だとはいえ……人を何だと思ってるんだろう。私たちは、こんな風に理不尽な扱いを受けるために生きている訳じゃないよ?」
 答えは返ってくるまい。そもそも同格と、思ってもいまい。
「私たちだって、いろんな命を頂いて生きているけれど、感謝の気持ちは持ってる。命を頂いた分、大事に生きなきゃって思ってるよ」

 九十九の凶弾が、テレサの右眼を、その奥に人間ならあるであろう脳腑を。貫いた。
 だが、それで致命傷を負ったような気配はない。ぐじゅぐじゅと、ぼこぼこと。嫌な音。人体の再生を限りなく早めれば、こんな音がするのだろうか。否、そもそも。人体であれば再生しない部位であるはずなのだが。
「いや困った困った」
 気持ち悪くて、また当分は肉が食べられまいと。当然のような感想を言う。まるで一般であるかのような、まるで群衆であるかのような、言葉を口にする。しかし、この場で呟いた感想がそれであることが。そんな後日体験談のようなものであることが。まるで最早喉元を過ぎ去ったあとのようであることが。周囲に異常を感じ取らせていた。
「退職届けは出せそうにないですのう。仕事中の事故なら労災とか降りるんじゃないですかな?」
 普通のように、普通のことをいう。その際立ち。こちら側かと問われれば、向こう側ではないのかと。首をひねりたくもなるだろう。響く銃声すら、何かの否定詞に思えた。

「……油断大敵、だね」
 見た目は普通。そう言いもしたかったが、既に繰り返し再生するあの様を見せつけられては。羽音もその感想を封じざるを得ない。
「全力でいくよ……」
 平均的な人体よりも遥かに高基準だといわれる化け物の身体。しかしその肩から、足元まで。拍子抜けするほどすんなりと、羽音の得物は刃筋を通していた。
 振り下ろす直下のベクトルと、回転する動力のフィジカル。それは肉を肉を肉を肉をずたずたにずたずたにしながら、テレサの身体を通過していた。ありすぎるほどの手応え。
 その感触への違和感に、一瞬の硬直。見上げれば、アザーバイドは構わず拳を振り上げていた。
 武器を盾に。砲弾のようなそれを、鋸刃の腹で懸命に受け止める。
「……すっごい、馬鹿力っ」
 これを活かして、もっと違う仕事をすればいいのに。どこかずれた感想を頭の片隅で浮かべながら、どうにか刃先に滑らせて受け流した。
 切った筈のそこが、もう繋がっている。攻防の内に再生したのだろう。目に入らなくてよかったと、そう思いながら。

 レイチェルの、服の袖。ポケット。襟。髪の隙間。あらゆる場所から伸びる殺意の糸が、殺意の意図が。テレサの身体に突き刺さり、貫いた。まるで、マリオネットのような光景。等身大の、操り人形。
 抜いたそばから、穴は肉泡で埋まり、再生していく。だが、大元の体力は回復していない。回復していないはずだ。自分の攻撃は通っている。僅かな反応、肉の脈動、攻撃の当たり方。あらゆる要素が、彼女を肯定していた。
 次の攻撃は化け物が後生大事に握り締めている。その羊皮紙。の、周辺部位を貫いて見せた。少しでも意識を逸らせれば。そういう思惑によるものだったが、どうやら上手くはいかなかったようだ。貫かれた感触すら無視して、彼女は前に立つ味方へを拳を振り下ろしている。
 だから今度は、こちらへと意識を向けさせることにした。束でなく、一本の気糸。味方を向いたその横面へ、眼球を縫うように突き抜けた。
「隙あり、ですよ?」
 視線が合う。再生前の瞳。虹を珈琲にとかしたかのような。斑の色だった。

 いりすが暗闇を、押し付けた。
 自分の中で何かが失われたのがわかる。否、その表現は的確ではないか。つまるところ、その何かを暗闇として、ぶつけたのだ。憎しみで人を殺せたら。それの実現のようなもの。違うかもしれないけれど。たぶん違うけれど。
「まぁ、何だかんだで人と大差はないよ。殺せば死ぬ」
 正しく、この世の生き物でなにひとつ違わないたったひとつの平等。生きているなら、殺せば死ぬ。某か、生命は終わりを迎える時が来るのだ。
 ただそれは、自分の言葉ではないような気がする。近しくて遠いような。同じなようでまるで別のような。そんな誰かの言葉のような。地獄からの囁きのような。
 そんな気がする。気がした。気がしていた。
「同じパワーファイターなら帝子ちゃんのが可愛かったがね。らぶりーだった。まぁ、仕方ない。しょうがない。浮気はよくないし。殺しきるまで、きっちりと」
 それもたぶん、自分の言葉ではないのだけれど。乗り移ったのか。取り憑かれたのか。そんな顎の浮いた感覚のまま。

●喧々囂々の偽臓器
 それでも王が為、王が為。

 突然、どしゃりと。
 テレサが倒れた。化け物が倒れた。動かない。動かない。外見の傷はない。斬ったそばから撃ったそばからそんなものは何から何まで塞がっている。繋がっている。
 綺麗なまま。綺麗なままだ。容姿だけなら、見た目だけなら。綺麗なままだ。
 それが今や、動かない。だが、それを不思議とは思わなかった。体力の限界が来たのだろう。その全長がなかったのか、こちらでわかるようなものではなかったのか。兎にも角にも今先程で、もう終わりだったということなのだろう。
 一息つく。ついた。深呼吸を終えて、武器を宙空より彼方へと仕舞う。何かが潰れる音がした。見れば、頭蓋テレサであった肉体が消えている。一瞬、身構えはしたものの。すぐにそれを解いた。
 なに、死んだのだ。こちらとは大きく違う死に方ではあったが、それで世界常識を疑うほど神秘性に無知ではない。
 ひとつ、残っているものがあることに気がついた。彼女が後生大事に握りしめていた羊皮紙だ。
「……お仕事、お疲れ様」
 拾い上げて―――

 ―――そこから先の記憶はない。
 目覚めれば自宅の寝室で、どうやって帰ってきたのだったかはどうしても思い出せなかった。
 自室を出る際、自分以外の気配を感じた気もするが。
 きっと、気のせいだろう。
 了。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
収穫祭でした。どっちから見てだろう。