●不公平な関係 それは、意思を得る以前から存在していた感情なのか。 それとも、革醒と共に始めて芽生えたものなのか。 ただ強く、強く彼の心を支配していた。 何故、都合の良いように操られなければならないのか……。 何故、見世物とされ、笑い物とされなければならないのか……。 彼のその鬱積は、生まれたての意思を瞬く間に染め上げていく。 そして――。 同じ気持ちを、この人間というイキモノにも味合わせてやりたい……。 そうでなければ……そう、不公平ではないか……。 抑えられない激情の矛先が、自身の頭部へと無遠慮に突っ込まれた手の持ち主へ向け、解き放たれた。 ●ブリーフィング 「新たなエリューションの存在を確認しました」 定例通りの簡単な挨拶を済ませると、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は、集まったリベリスタ達へと真剣な表情を向けた。 「まずは、この映像を見て下さい」 彼女が機材を操作すると、それまでなにも映っていなかった巨大モニターに映像が映し出される。 映し出されたのは、どこかの劇場のようだ……。 引き気味のアングルではあるが、くたびれた雰囲気を漂わせた劇場のステージの中央に、スーツ姿の男が立っているのが確認出来る。 男が右手に着けているのは……腹話術師が使用する人形だろうか。なにかぼそぼそとしゃべっているようだが、この映像を見る限り観客席に人の姿は確認出来ない。 この男は、一体なにをしているんだ……? と困惑した表情を浮かべるリベリスタ達。 そこで画面のアングルが切り替わり、今度はステージ側から見た観客席の様子が映し出された。 観客席は、無人ではなかった。いや、正確には無人ではあったのだが……人ではないものが、最前列に腰掛けている。 「……人形?」 リベリスタのうちの一人が、怪訝そうな声を上げた。 観客席の最前列には複数の人形が座っていて……そして、人形達は人の手を借りることなく動いていた。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチ…………。 ステージの男がなにかを呟くたびに、映像内に不気味な音が響き渡る。 良く観察してみると、観客席の人形は男が右手に着けているものと同じく全て腹話術人形で、その口を上下に動かしている。 そして口の中には、まるで獲物を咬みちぎる目的で宿らせたかのごとく、鋭い歯がずらりと並んでいた。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチ…………。 拍手喝采のように、それとも笑い声を上げるかのように……? 男がなにかを呟くたびにあごを震わせ、人形達は不気味な音を奏でている。 ゴクリと、モニターを注視する誰かの喉が鳴る音が響く。 次いで、再びアングルが切り替わった。今度は、ステージ上のアップのようだ。 中央に立つ男の様子を見ると、肌はどこか青白く瞳も濁っており、まるで生気が感じられない。 それに、首周りの肉が……食い千切られたようにそげ落ちていた。 喉を多う肉の一部が存在しないため、呟く言葉は聞き取れるような音にはならない。 それでも男は棒立ちのまま、途切れることなくぶつぶつと口を動かし続ける。 そんな男の様相とは対照的に、右手にはめられた人形だけが、活き活きと楽しそうに動き回っていた。 「……この男性は、すでに亡くなっています」 背後に映像を映したまま、和泉は状況の説明を始めた。 「男性の名は米山久志(よねやま・ひさし)、職業は腹話術師です。彼の命を奪ったのは商売道具であり、今も右手にはめられたままとなっている腹話術人形のE・ゴーレム。今回便宜上『リバースパペッター・チャック』と名付けました」 チャックはフェーズ2のE・ゴーレムで、革醒時に人から『操られる側』ではなく人を『操る側』に回りたいという願望に染まった。 そして、その願望に従い米山久志の喉笛を咬みちぎり殺害。いまではE・アンデッドとなった彼を使役しているらしい。 つまりこの映像は、チャックの望みを反映し『操る側』と『操られる側』の配役が入れ替わった、グロテスクな腹話術ショーというわけだ。 米山久志の進行度はフェーズ1。また、観客席にいた他の腹話術人形達も、フェーズ1のE・ゴーレムとのことだった。 「現場は老朽化のためすでに使われていない劇場で、中にさえ入ってしまえば目撃者を出す心配はなさそうです。それに、痛んでいるとはいえ劇場ですから、防音設備に抜かりはないはずです」 つまり、現場への潜入時に気を付けてさえいれば、あとは全力で暴れてもオーケーということだろう。 「いずれ、リバースパペッター・チャックは新しい『操る対象』を求めて殺人を繰り返すようになります。そうなる前に、皆さんの力で阻止して下さい」 よろしくお願いしますという言葉で締めくくり、頭を下げる和泉。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチ…………。 その背後のモニターでは、未だ腹話術人形達の上げる不気味な音が鳴り響いていた――。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:外河家々 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月06日(木)22:11 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●闇夜に紛れて その電灯は、遠からず寿命を終えようとしているのだろうか――劇場前に立てられた街灯が、チカチカと点滅を繰り返す。 深夜という時間のせいだろう、商店街はすっかり静まりかえっていて、劇場の周辺にも彼等以外の人影は見あたらない。 一行がこの場所に到着して十分余り……。しかし彼等は、未だ劇場の外に在った。 「駄目ですね……。レオンハートさんの予想通り裏口はありましたが、そちらも鍵が掛かっている様子です」 暗視を用い、劇場の裏手を確認に行っていた『闘争アップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が、そう言って溜息をついた。 「やはりか……。さて、どうしたものか」 その言葉を予想はしていたものの、ただでさえ強面であるアーサー・レオンハート(BNE004077)の眉間にしわが寄り、一層迫力のある面構えとなる。 そう、劇場の入り口には鍵が掛かっていたのだ。 もちろん鍵を壊すこと自体は造作もないことなのだが、アーサーが張った強結界の中とはいえ、音を出さずにそれを壊すというのは、リベリスタ達であってもなかなかに難しい。 それで、他に入り口はないものかと周囲を探索していたわけなのだが……。 「どうする? 正面は目立つだろうし、裏口の鍵をぶっ壊して突入するか?」 『住所不定』斎藤・和人(BNE004070)が緩い声色で、仲間達へとそう尋ねる。 そこで、腕を組み真剣な表情で思案していた『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が顔を上げ、仲間達へと自らの考えを説明し始めた。 「裏口は、直接ステージ横の舞台袖に繋がっている可能性が高そうです。鍵を壊した途端、中のエリューション達に気づかれてしまうかも知れません。それなら――」 そして、それから更に一五分くらいが経過しただろうか……。 リベリスタ達は、結局表の入り口の鍵を破壊することに決めた。 パキンッ。 劇場と同じく扉の鍵も年代物だったのか……、幸い小さな破壊音だけで、あっさりと開閉が可能となった。 「うん、大丈夫そうだね」 集音装置を使い周囲の音に注意を向けていた『続・人間失格』紅涙・いりす(BNE004136)が、破壊音に気づいた住民はいないようだと頷いてみせる。 リベリスタ達は互いに頷き合うと、扉を慎重に開き、劇場の中へと侵入していった。 ――入った先は、ロビーだろうか……。 明かりは点っていないが、視界の先の客席に続くと思われる扉の下から、かすかに光が漏れ出していた。 「おぉう、雰囲気出てんなこの劇場。殺人人形だなんて陳腐なB級ホラーの定番みてぇな感じだが……実にそれっぽいじゃねぇの」 辺りを見渡し、『ヤクザの用心棒』藤倉 隆明(BNE003933)が小声で楽しそうに軽口を叩いた。 結構な年月放置されているのだろう、埃の臭いが充満しており、それはこの劇場が何年も使われていないことを伺わせるものだ。 義衛郎が、愛用の刀剣達と共に腰に結えておいた懐中電灯を手に取り、明かりを灯す。ロビーに、エリューション達の影はないようだ。 『境界性自我変性体』コーディ・N・アンドヴァラモフ(BNE004107)といりすも、それぞれ持参していた懐中電灯とタクティカルライトにスイッチを入れた。 ここからが、本番だ。 リベリスタ達は、手分けして劇場の構造の把握へと移った。 この世界の安定のためには、エリューションを取り逃がすわけにはいかない。 人が通れず人形だけが通れるような抜け道がないかなど、万一に備え丹念に調べ上げる。 もちろん、その間の警戒も怠ることはしない。 いりすが集音装置を発揮し、なにか動きがあれば即座に対応出来るようにと注意を払っていた。 ステージとロビーとを隔てる扉は防音仕様とのことだったが、リベリスタ達は音を立てないよう慎重に内部の確認を終わらせた。 客席背後に繋がる扉が一つに、客席の右側と、ロビーから伸びる通路とを繋ぐ扉が一つ。 そして、恐らく舞台袖から直接外へと繋がっているであろう裏口が一つ。抜け道の類については心配なさそうだ。 探索を終え再び集まったリベリスタ達は、ロビーに集合し、作戦の最終確認を済ませた。 「コーディ、それは?」 コーディが手元へと視線を落としたままでいることに気づき、アーサーが声を掛けた。 「……どうやら、この劇場がまだ使用されていた頃のもののようだ」 コーディが手にしていたそれは、薄汚れ、色褪せてはいるが……パンフレットだろうか。 その表紙に、惹きつけられているかのような……、それでいて悲しげな色を滲ませた視線を向けている。 そこには、今回のターゲットである腹話術人形チャック、そしてそのチャックに使役される、E・アンデッドと化してしまった米山久志――二人の口演の様子が、大きく印刷されていた。 ●開幕の号笛 カチカチカチカチカチカチカチカチカチ…………。 鳴り響く音が、突然の乱入者達により一方的に遮られる。 バァン! と大きな音を立てて、客席の最後列にある扉が勢い良く蹴り開けられたのだ。 カチカチと音を立て、腹話術ショーを楽しんでいたエリューション達の動きが静止する。 「朽ちた劇場で開かれる、操られるモノと操る者が入れ替わった腹話術ってか……? 出し物としてなら興味深いが、生憎エリューションの出し物に長々と付き合っている暇はないんだ。このふざけた人形劇は、此処できっちり幕引きさせてもらうぜ!」 『chalybs』神城・涼(BNE001343)はエリューション達を見下ろしながら一方的にそう宣告すると、透き通った刀身を持つ短刀『泡影』、そして艶のない漆黒の自動拳銃『ブラックロア』をそれぞれの手に構えた。 「操られる者の反逆、か……。古来から人型の物には情念が宿り易いと聞くが、最初の自己主張が殺傷、そして支配とはいただけない。我が名とその存在にかけて、お前を止めさせてもらう」 射貫くような視線をエリューション達へと巡らせ、アラストールは『祈りの鞘』から静かにブロードソードを引き抜く。 「随分とまた人間臭ぇ感情を持ちやがって……全く、運命も酷な事しやがるぜ。だがこうなったら仕方ねー、さあ、始めようぜ」 普段から緩い雰囲気を持った彼らしくない、苛立ったような表情で髪を掻き上げそう言うと、和人はまるで鉄の塊のように無骨な大型『改造銃』へと弾丸を込めた。 (不公平な関係……な) 彼女は、先程のパンフレットを思い浮かべる。 「先に謝っておく。すまない、これからお前と、そしてお前の大事な相棒を破壊する。お前がチャックを庇っているのは、単に操られているからだけではないと思いたい」 コーディもそう告げると、ガードロッドに神秘の力を籠めた。 隆明、アーサーもそれぞれの武器を構え、戦闘態勢に入る。 義衛郎も腰から二本と刀剣『鮪斬』『柳刃』を引き抜き、優雅に構えを取った。 「それじゃあそろそろ、お前達の最後の舞台――幕を開くとしようか」 その言葉が、開幕を告げる号笛となる。 まるで打ち出された弾丸が如く凶暴なまでの疾さでいりすが飛び出すと、一気に腹話術人形達に接敵した。 全身に纏わせた闇のオーラの中、眼鏡の奥の虚ろな瞳で人形達を観察する。 「んー人形ね。あんまり美味しそうじゃないけど。ま、イイや。生きようとする意志は、何よりも強いものだし。小生の夜食くらいにはなるかしら」 自分が捕食者で、人形達はその獲物である――それが自然の摂理であり、真理であるかのように、いりすは平然と呟きを吐いた。 ●生存本能 「……っ!」 チャックの鋭い歯が、アラストールの肩口へと突き刺さり、血が流れ出た。 アラストールが剣でそれを振り払うと、チャックはそのまま数メートル後ろまで後退した。 チャックをマークするため、再度距離を詰めようとするが……、間に立つ腹話術人形がそれを阻止する形で立ちはだかる。 「くそ……!」 接敵することが出来ずに、アラストールはチャックを庇い続ける米山久志へと怒りの感情を付与する十字の閃光を浴びせかけるか、米山はちらりとこちらへと視線をやるだけで、挑発に乗ってくる様子はない。 腹話術人形達は、その陣形を維持したままでリベリスタ達へと攻撃を仕掛ける。 「……面倒な感情に、面倒な展開か。こりゃ、雲行きが怪しくなって来やがったな」 愚痴りながらも、和人は邪気を打ち払う光で仲間達の異常を除去する。 「人形なら人形らしく、おとなしく操られてろや!」 隆明は言葉と共に腹話術人形達へと弾丸を浴びせかけ、コーディも続くように荒れ狂う雷光で相手を貫いていった。 更に、己の生命力が削られることなど微塵にも顧みず、いりすが漆黒の瘴気で腹話術人形達を包み込む。 ――戦闘はリベリスタ達は優勢で進んでいた、それは疑いようもない。 実際、取り巻きの腹話術人形はすでに二体が倒され、残りは四体となっている。 しかし、彼等にも誤算はあった。 その生存本能の高さ故なのか、チャックは自らにマークが付いていることを理解すると、最前列を取り巻きの腹話術人形達に任せ、自身は攻撃した後にその後方へ下がるという行動に出たのだ。 フォローの役目を担った義衛郎も、分身を伴う神速の斬撃を打ち込みながら、懸命にチャックへと近づこうとするものの、やはり取り巻き達に阻まれてしまう。 アラストールの超直観は、取り巻きを倒すたびにチャックの動きが不穏になっていくのを感じ取っていた。 あと一体、もしくは二体……、腹話術人形が倒れれば、劣勢を確信したチャックは逃走を試みるだろう……。 仲間達もアラストールのその表情からそれを感じ取ってはいるものの、肝心のチャックへと張り付くための道か開かない。 アーサーが天使の息を詠唱し、癒しの微風で和人の受けた傷を癒す。 そして同時に、作戦通り客席後方の扉へと、チャックからの直線上を防ぐように位置取った。 和人も、劇場右側の扉へ逃走する際に妨げになるような位置で、腹話術人形と対峙している。 そして――。 「一発じゃ駄目なら二発、二発で駄目なら倒れるまでってな。狙い撃たせてもらうぜ……!」 ブラックロアから放たれた二発の弾丸が、一体の腹話術人形を破壊に追い込んだ。しかし、それでも彼の発砲は止まらない。 勢いに乗った涼は更に、撃つ、撃つ、撃つ――合計三発の弾丸を、別の腹話術人形へと叩き込み、その意識を刈り取った。 一気に二体を排除したことで残りの取り巻きが二体となり、チャックへ接近するための道が開かれた。 これで動きを抑制することが出来る……。しかし、先に動いたのはリベリスタ達ではなかった。 米山久志と取り巻き二体をその場に残し、チャックはリベリスタ達に背を向けると、舞台袖の非常口目掛けて全速力で逃げ出した――。 ●逃走の行方 ゴゥンッ! 劇場内部に、衝撃音が鳴り響く。 チャックは舞台袖へと逃走し、そのまま非常口をぶち破ろうと体当たりをぶちかまし――そして跳ね返された。 「!?」 言葉を発せず、その表情が変わることもないが、チャックの動きからは明らかな焦りがにじみ出ていた。 再度体当たりを試みるも、やはり扉は開かない。 「残念だが、その扉はすでに我々が封鎖済みだ」 チャックが振り返ると、アラストールが背後に立っていた。 そう、この扉はすでに封鎖されていた。もちろん、リベリスタ達によって。 アラストールの提案の元、正面玄関からの突入前に、予め扉の外に重りになるようなものを積み上げておいたのだ。 「急造ではあるからな、あと数回体当たりをされれば突破されていただろうが……」 手下の腹話術人形達のブロックを突破した仲間達も、次々と追いついてくる。 「万一の際に追いつくための、ほんの数秒を稼げれば……十分だ」 アラストールの掲げたブロードソードが、鮮烈に輝きだす。 「不満もあろうが、既にお前は世に仇なす敵。我等はただただ、その存在を打倒するのみ!」 アラストールは今度こそチャックに張り付くように接敵すると、破邪の力を帯びたそれを全力で振り下ろした。 ――勝敗は、すでに決した。 「どちらかと言えば前で戦うのが本業なんでな。ほら、ブチ壊れちまえよ!」 ロングコートをたなびかせ、涼の放った問答無用の強烈な拳が最後の腹話術人形を粉砕した。 リベリスタ達に包囲され、チャックにはもはや逃走することも叶わない。 今の彼に出来るのは、味方を巻き込むことなど関係ないかのように歯を打ち鳴らし、周囲に怪音波をまき散らすことくらいだ。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチ…………。 その様相は、まるで泣き叫ぶ子供のよう……。 そんなチャックを、合流した米山久志は庇い続けた。 リベリスタ達からの攻撃に耐え、チャックからの怪音波にも耐え、最後の瞬間を迎えるまで、彼はチャックを庇い続けた。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチ…………。 そして、そんな米山久志が倒れたあとも、チャックの行動は変わらない。 「もう操られるだけの人形にはなりたくない……その気持ちは、俺達にはきっとわからないものなのだろう。不憫に思わないわけではないが、世界に害を為す存在になってしまったのならば俺がするべきことは唯一つ……」 アーサーは着流しの懐からトランプを模した投擲用のダガー『Last Eclipse』を取り出し、心中で「許せ……」と一言だけ呟くと、チャックへと投げつけた。 和人も、チャック目掛けて改造銃を大上段に振り上げる。 ――一瞬、目の前の現実を変えるために行動し、家を飛び出した自分とチャックとの境遇が重なる。しかし、見逃すという選択肢はない。 「次は、お前の望む様に生きられれば良いな……」 小さく呟くと、和人はそのまま鉄槌のようにそれを撃ち下ろした。 「腹話術とは、人と人形が一体となって表現する技芸ではないのか? お前が米山久志と行ってきたそれに、常に不満しかなかったのか! 米山久志と共に感じた悔しさや喜びも、全く無かったというのか!」 コーディの召喚した漆黒の魔力を帯びた大鎌が、チャックの胴を切り裂く。 ……パンフレットに写っていた二人は、眩しいくらいに輝いて見えた。 それなのに、なぜなのだという想いがこみ上げてくる。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチ…………。 しかし、チャックはひたすらに歯を打ち鳴らすだけ……返事を返すことも、なんらかの意志を示すこともない。 そして、もはやボロボロのチャックに、いりす、義衛郎からの引導を渡す連撃が襲いかかった。 「生きたいならば。不相応な望みなど抱かぬ事さ。如何した処で、弱者は強者の糧になるだけなのだから」 「米山さんから見れば、より良い舞台を共に創る、対等な相棒だったと思うんだがな。この自動人形にとっては、そうじゃなかったんだろうな」 いりすの暗黒の魔力を宿した一撃が、その精神ごとチャックを深く切り裂く。 カチカチカチカチカチカチカチカチカチ…………。 そこに間髪入れずに義衛郎が実体の在る幻影と共に手にした鮪斬を振るい、人ではないその無機質な体を――真っ二つに両断した。 任務を終えたリベリスタ達は、アークに後始末の要請をしこの場を後にする。 (チャック、お前は本当に、不満しかその心に持っていなかったのか……?) コーディは、両断されたチャックの残骸へとサイレントメモリーを使用した。 大人、子供、男性、女性……。 老若男女の楽しそうな笑い声と、大きな拍手の音……。 芽生えた意志を失ったチャックだったものには、ただそれだけが残されていた――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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