● どーはどーつーくーのーどー。 れーはれんだのれー。 みーはみなごろしー。 ふぁーは……ふぁんぶるだからつかわないのふぁー。 そーはくらいそらー。 らーもくらいそらー。 しーはしんじゃえよー。 さあうーたーいーまーしょ、らんらんらん♪ はい、せえの、みんなもうたお、おどろ、ほらおきて、おきて、おきて。 即興で、調子が外れる事も気にせず、少年は適当に歌う。 だって日本語難しいもの。 闇夜の暗い空の下、血塗れのパイプオルガンを奏でながら、陽気に笑う。 拙い日本語であれ、演奏は楽しい。 聴衆は、共演者は、彼が殴り殺した、或いは死人に食い殺された犠牲者達。 潰れた頭で起き上がり、パイプオルガンの音に合わせて歌い、ステップを踏む。 挽肉の足を引き摺り、くるりと回って一礼。呻き声すらオルガンの音に合わせて。 語彙はとっくに尽きたけど、Danse macabre、死者達は踊る。 泣く子はより泣き叫ぶ深夜の病院で、動く事等かなわなかった筈の病人達が、皮肉にも生前よりも元気に舞う様に、少年は満足げに、まるで天使の様に微笑んだ。 けれど何時までも遊んでばかりはいられない。 此れは序曲なのだから、先はまだまだ長いのだ。 それに折角日本に来たのだから、早く仕事を終らせて秋葉原とか行ってみたいし。 ● 「……さて、諸君はsymphony orchestra、交響楽団は好きかね?」 集まったリベリスタ達を前に、『老兵』陽立・逆貫(nBNE000208)が口を開く。 「無論私は大嫌いだ」 問い掛けの返事を待つ事も無く、実に大人気なく次の句を吐く逆貫。 ばさりと、前の机に放り投げられたのは今回の事件の資料だろう。 「堅苦しい、楽器の種類は多くて覚えられん、後は指揮者が偉そうで業腹だ。……が、其れを差し引いてもアレが芸術である事を私は否定しない」 しかし、言葉とは裏腹に逆貫の目は剣呑に光る。 「けれど、先日日本に上陸した、今回の事件の裏に居る楽団。『福音の指揮者』ケイオスが率いる連中は其の芸術を冒涜し、陵辱する存在だ。諸君、奴等の出鼻をくじいて欲しい」 資料 フィクサード:『オルガニスト』エンツォ 天使の様に可愛らしい容姿をした、フライエンジェの少年。 ケイオス率いる楽団メンバーの一人。 日本は割と好き。特にゲームとかアニメーションとか漫画とかが好き。 死者を操り、不可思議な力を使う死霊術師。所持武器は持ち手のついたパイプオルガン『嘆きの聖者』。 アンノウン:操られる死者達×多数 元病院の患者達。非常にしぶとく、例え手足を失おうとも、這いずり動き回る。 「今回現れるフィクサードが如何かは知らんが、楽団メンバーは魂を操る、或いは不死身だとの噂も在る」 資料に書かれた事柄は、驚くほどに少ない。 フォーチュナの予知の力を持ってしても、謎の多い敵なのだろう。 「奴等が今後如何動くかは予測もつかんが、今は恐らく手っ取り早い戦力の拡充が狙いだろう。此処で食い止めねば被害は鼠算式に増えていくと思われる。頼んだぞ諸君」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:らると | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月02日(日)22:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 月は寒々しく輝き地上を見下ろす。 冷たく吹く風に紛れ、呻き声を上げるは無数の骸達。 今や死者の館と化した病院の屋上で、月の光を反射して輝くパイプオルガンを見詰め、『オルガニスト』エンツォは深刻な顔で呟いた。 「拙い、……飽きた。僕飽きたよ?」 乱暴にパイプオルガンの鍵盤を掻き鳴らし、ふてくされた様に頬を膨らませるエンツォ。 最早曲も何もあった物では無いが、特に死人達の動きに変化は起きない。 「そもそも僕って序曲向きの性格じゃないよね。うん、飽きても仕方ないね!」 鍵盤から指を離し、取り出したのは携帯電話。 スッ、と指を滑らせフリックし、エンツォは其れを耳に当てる。 完全に演奏は止まったが、それでも死者達は止まらない。だって音色とか別に関係ないもの。 「Ciao、バレット様。あのね、あのね、ねぇねぇねぇ、今暇なの。構って?」 妙に甘える様に、けどその実面倒くさく絡みながら、エンツォは屋上の淵へと歩く。 カシャリと金網に指を絡ませ、見下ろすは地上の光景。 「ん、仕事はちゃんとしてるよう。でも判るでしょ? だからこそ暇なんじゃん。……だって見てるだけって性に合わないんだもの」 地上で繰り広げられるのは、病院から溢れ出んとする死者と、食い止めるリベリスタ達の、死闘。 Alcatrazz、Rising Force、高速でトリガーを引き絞られて唸る2丁の拳銃が物理、質量の常識を超えて無数の弾丸を弾き出す。 ハニーコムガトリング、『猟奇的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)が繰り出す其の技は、死者の頭を砕き、腹を撃ち抜き、胸に空洞を開け、腕を引き千切り、脚を砕く。 硝煙の匂いが周囲に満ちる。けれども虎美は、僅かに顔を顰めるとRising Forceのマガジンを入れ替え、Alcatrazzのシリンダーに新しい弾を籠めて次の射撃に備えて行く。 脚を砕かれて倒れ、其れでも這いずる死者を踏み潰し、新たに奥から、先程よりも多くの死者が迫り来ている。 だが虎美が顔を顰めた真の理由は、千切れた指の一本すらが未だに蠢き、彼女を目指して這いずってくるおぞましさにだ。 圧倒的な数の差だけが問題なのでは無い。 死者達は頭砕かれようと、腕がもげようと、体が蜂の巣の様に穴だらけになろうとも、何ら動じる事無く彼女を、Danse macabre、死者達の踊りに加えようとにじり寄る。 「宛ら人形なのでしょう、意思も無く、操られるままのモノ」 けれど這いずる指を、向かい来る死者を、気糸が、『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)のピンポイント・スペシャリティが、関節を貫き、肉を地に縫い止める。 例え操り人形と化した死者達、生命活動や神経伝達とは無関係に動く肉の塊であろうとも、筋肉と言う紐が骨と言う棒を引っ張り動かす仕組みだけは変えようが無い。 紐が切れた人形は、骨組みの壊れた人形は、如何に足掻こうと動けはしないのだ。 「わたくしめの務めは死者を弔う事。土の下に死者が居ない墓を作る位、虚しいものはありませんわ」 今更嘆きはしない。嘆こうと、目の前の現実が変わりはしないのだから。 でも、それでも、フォーチュナに事件のあらましを聞いた時よりずっとこの身を支配する感情、其れは静かで、暗く、冷たい怒りだ。 糸を、銃弾を、其れでも数の力で押し通して潜り抜け、這いずり近寄る死体の背に、『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の足が乗せられる。 バスバスバス、引き金が引き絞られ、神秘的な力を帯びたロングバレルのピストル、マクスウェルから吐き出された弾丸が足元の死者の頭を、腕を、脚を吹き飛ばし、残る胴体を鳩目は蹴り飛ばして骸の群れへと叩き返した。 脳を破壊しても止まらない。脳、脊髄神経からの伝達によって筋肉が収縮すると言う仕組みで動いていないから。 心臓を破壊しても止まらない。筋肉が血液の循環により齎されるもの、つまりは酸素やグルコース等を必要としておらず、細胞内でのATP産生なども恐らく行われていないのだろう。 嫌だ嫌だ、気持ちが悪い。死者が動く事よりも、『神秘だから訳もなく動く』と言うその曖昧でなんとも釈然としない其の様が、 「そういうの大っきらいなんだよ」 鳩目の心をささくれ立たせる。 咄嗟に放った一撃、狙い誤まらずに壁を乗り越えようとした死者の頭部を撃ち抜き、壁の向こう側へと叩き落すは1$シュート。 「どいつもこいつもこのわたしも! 物理法則に従えやアホが!」 ● 「うーわー、容赦ないなぁ。あ、ううん。こっちの話、うん。え、兄さん達はどうしたって?」 正門を守るリベリスタ達の弾幕の厚さに、溜息を洩らすエンツォ。 大規模な範囲攻撃に、合間を埋める単体攻撃が相俟って実に突破のし難い防御網が構成されている。 「えっとね、居場所は知らないけど神経質なモーゼスのおじさんに胡麻摺りに行くって言ってたよ。何なの如何したの? 兄さん達何かしたの?」 金網を離し、くるりとステップを踏みながら、向かうは反対側の淵、裏口が見える場所へと。 眼下では、正門に比べれば狭いその裏口では、夥しい数の死者に対して肉弾戦を挑む男と、其の仲間達の姿が。 エンツォは、無謀とも言える其の行為、まるで映画のワンシーンの様な屍肉の群れに相対する男のアクションに、唇を綻ばせる。 「ところでバレット様何処に居るの? ねぇねぇ、こっちに遊びに来ない?」 そんなエンツォをじっと見詰める視線の主は、屋上に潜む、ファミリアーで主人と繋がる一匹の雌猫Sleepy。 「任務を開始する」 其の一言を発してより、『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は、其の手のコンバットナイフを一体幾度振るっただろうか。 切れど、突けど、殴れど蹴れど、尽きぬ死者の群れ。恐怖を、躊躇いを知らぬ圧倒的な質量に対し、力で抗するは無謀の極みだ。 其の男、ウラジミールを支えるのは練り上げられた技量と、鋼の心。 伸びる死者の手を払い、体勢崩した其の胴体に、渾身のヘビースマッシュを叩き込む。吹き飛ばす敵の身体を使い、正面の群れの歩みをほんの数瞬遅滞する。 けれど、動きを止める余裕は無い。左右から伸ばされる手を体裁きのみで流して崩す。驚くべきは、己が防衛線と決めた場所より一歩たりとも下がっていない其の事実。 通信機で、Sleepyが掴んだエンツォの居場所を仲間に知らせ、向き直る『白雪姫』ロッテ・バックハウス(BNE002454)。 彼女の役割は、ウラジミール一人では届かぬ、彼の手からこぼれた死者を縫い止める事。 「その先へ行っちゃダメですぅ! 戻ってくるのです! プリンセス☆ピンポイントォ!」 放たれた気糸が、横を抜けて町に向かう死者の膝関節を的確に貫き破壊する。 其の二人を、支え、タクト振るうは『STYLE ZERO』伊吹 マコト(BNE003900)。 ピコピコと、くわえた煙草を揺らしながら、其の指は紡ぐ。 オフェンサードクトリン、動作の効率化に、振るうナイフは速度を上げ、気糸は更に正確性を増して突き刺さる。 ディフェンサードクトリン、体裁きのキレが増し、鉄壁の男に更なる一歩を踏み込ませていく。 前衛たる鉄壁のウラジミール、花咲く後衛ロッテ、そして二人を支えるマコトの三人は、正門ほどの火力も派手さも無いが、堅実に裏口を守り通す。 ウラジミールの負傷が、マコトの大天使の息吹によって塞がれた。 ● 「来ないって何でなの! そもそも何で海なんかに居るの。此の季節に海水浴なの? ピッツァ食べすぎで頭チーズなの?」 酷い暴言を吐きつつも、其の実上機嫌にエンツォは屋上で踊る。 既に戦いの行く末は見えた。日本のリベリスタは思った以上に優秀だ。 正門か裏口かのどちらかに戦力を集中させて、尚且つ自立を止めて精密操作に切り替えて隙を突いたならば、或いは突破も狙える程度の防衛人数ではあるのだけれど……、何と言うか其れは非常に面倒くさい。 そもそも主であるケイオス・“コンダクター”・カントーリオとて、そんな強引なやり口を序曲の今は望むまい。 優秀な彼等の目を欺くには……、恐らく五分の一が限度だろう。 「バレット様なんて喫茶店でナポリタン頼めば良いんだ! あ、でも僕も一回食べてみたいなナポリタン。でもでも一人で頼むの恥ずかしいや。日本って面白いよね。ナポリタンとかお馬鹿すぎ」 パイプオルガンに腰掛け、エンツォは思考する。 移送作業はもうすぐ終るし、リベリスタの観察も大体終った。バレット様も此れだけ気をそらしておけば、よもや万が一にも興がのって本気で暴れたりはしないだろう。きっと、多分? 序曲は密やかに、次に来る盛り上がりを予感させながら徐々に、徐々に、うねりを増す。 目的は概ね果たしたと言えよう。もう引き上げてしまっても良いのだけど、出来れば直接挨拶をしたい。 だた一つの問題は、彼等が此処に辿り着くまで、自分が飽きずに待って居られるかどうかだ。 「ねぇ、猫ちゃん」 バリケードの向こうから聞こえてくる音の質が変わる。 死者達が、自分達を仲間に引き入れんと、ドアを引っ掻き、叩き破り、ベッドを、戸棚をひっくり返して創ったバリケードを殴り付けていた音が、金属が肉を切断する重たい音、そして人の声へと変化した。 バリケードの内へと篭るのは、此の病院に勤めていた職員達。 彼等の心は、恐怖と絶望と後悔に満ちていた。 意味の判らない、死者に襲われると言う事態に対する恐怖。 バリケードを作ろうとも、力の強い死者達の前には単なる時間稼ぎにしかならず、寧ろ閉所へと追い込まれて喰われるのを待つばかりである現状への絶望。 そして襲い来る死者達が、逃げる為に見捨ててしまった、身動きの鈍い患者達である事による後悔。 混乱した頭では、既に事の時系列すら滅茶苦茶で、見捨ててしまった罰で、自分達は襲われて居るんだとの強迫観念に囚われてすらいる。 彼等が患者を見捨てた事は、決して褒められた事では無い。けれど間違っている訳でもないのだ。 正義感を発揮し、患者を救おうと残った職員達は皆残らず死者の群れに加わった。 恐怖とは、自らを守る防衛本能である。彼等はその本能に従ったからこそ、未だ其の命を手放していない。 もしこの先に救い無くば、悩まず死ねたほうが幸せであったのかも知れないけれど……、だが彼等は駆け付けた。 ジョキリと、二枚の大刃が噛み合わさり、死者の上半身と下半身を二つに分断する。 気だるげに、淡々と死者を処理するは『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)。殺人鬼たる彼にしてみれば、既に一度死んでいる死者には何ら興味が無いのだろう。 それでも葬識が此の場に居る理由は唯一つ。 病院の天井に上る赤い月。『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)の放ったバッドムーンフォークロアの赤光が、死者達を貫き滅する。 救える人だけでも、せめて自分の手が届く範囲だけでも、救おうとしたとらを葬識は『可愛い』と思ったからだ。 千里眼により生き残りの確認をした葬識を、地上の死者が届かぬ空を行く羽を持つとらが抱え、窓から侵入を果たした二人は、真っ直ぐに最後の生き残りが居る此の部屋を目指した。 助からない筈の命だった。職員達が助かる事を諦めていれば、とらが助ける事を諦めていれば、簡単に掻き消えた命なのだから。 助かった彼等は長い時を苦悩するだろう。恐怖は根深く、患者を見捨てた罪悪感は、寧ろ助かってからの方が彼等を苛むだろう。 だが其れでも、彼等の命は助かったのだ。とらと葬識、二人の力で助けられたのだ。 どうしようもない多くの犠牲の上に、救われたほんの一欠けら。其れはまさに奇跡の生還。 ● 「んーん、こっちの話しー。じゃあまた掛け直すね。バレット様もお仕事頑張って。Ciao!」 逃げる猫を見送り、通話を切る。 伸ばした手の先は、パイプオルガンのあちらこちらにまるではしごの様につけられた持ち手だ。 ずん、と宙に浮くパイプオルガン。楽器と言うよりは、設備に分類されてしまいそうな其れを、少年は遥かに小さい体で持ち上げた。 物理法則を疑いたくなる異常な光景。そして其の異常の中心であるエンツォは、逃げた猫が飛び込んだ先、Sleepyの主であるロッテと、仲間のリベリスタ達に視線を向ける。 「よいしょー、だっけ? ……何はともあれ、ようこそ『混沌組曲』の一小節へ。思ったよりずっと早かったね。箱舟のお兄さんお姉さん達、僕の日本語通じるかな?」 とは言え、語りかけられたリベリスタも其の長い口上に律儀に付き合う者ばかりでは無い。 アークはさて置き、日本人を『甘い』と認識しているエンツォだったが、彼はそもそも日本人ですらなかった。 慣れぬ日本語を確認しながらの挨拶に気を取られて出来た間隙を突かれ、エンツォが其れに気づいた時、既にウラジミールは自身の間合いにエンツォを捕らえている。 「極東の地へようこそ」 КАРАТЕЛЬ、ウラジミールの手の中のコンバットナイフが輝きを放つと同時に、パイプオルガンが咄嗟に振り下ろされた。 異常な質量の衝突に、轟音と共に屋上の半分近くが崩壊する。 風に、もうもうと立ち上る土埃が吹き散らされ、エンツォと、ギリギリでパイプオルガンを回避して挽肉を免れたウラジミール、二人の姿が現れる。 「うわ、最悪。何で野蛮な露助が居るのさ。ほんと行き成りはやめてよね。此れだからロシアとか嫌いなん――っ」 ぬるりとした感触に違和感を覚え、己の首を触るエンツォ。 血に濡れた手が赤い。ウラジミールのリーガルブレードは、皮一枚ではあるが確実にエンツォの首を薙いでいたのだ。 「まだ続けるかね?」 埃を払って立ち上がって構えるウラジミール。 だが対するエンツォからははっきりとした殺気が放たれている。 「vaffanculo!」 日本語での会話すら放棄し、パイプオルガンを振り上げるエンツォ。 獲物の怒りは、狩人にとっては仕留めるチャンスだ。けれど此の場での、此の状況での激情は非常に拙い。 エンツォの振るうパイプオルガンは、恐らく彼を仕留め切る前に此の病院を更地にするだろう。説明の手間を省く為にバリケードの中に残してきた生き残り達も一緒くたに。 「一寸待って! 退いてくれるならこれをあげるって言ったら……どうかな」 懐から取り出した最新型の携帯ゲームを取り出しながら歩み出たのは、マコト。 そんな都合の良い話が通じるなんて思って居ない。 でもそれでも、此の場所は拙すぎる。折角救われた命が、とらの想いが、全て無駄になってしまう。 巨大な質量の前に其の身を晒すマコト。眼前に在るのは支援型である彼では到底耐え切れないであろう暴力だ。 其れでも、不退転の覚悟を瞳に湛えて。 「あ、うん。良いよ。じゃあ僕帰るね」 「……だよね。でもせめて場所は変え、……えっ?」 豹変したエンツォの態度に拍子抜けするマコトの前に、パイプオルガン、聖者の嘆きはゆっくりと下される。 「あ、わーい。此れ欲しかった奴だ。ありがとう! フレコ交換する? あ、でも本当に行き成りはやめてよね。僕等が不死身だって言っても、切られたら結構痛いんだからさ」 …………。 表門に残った虎美の銃は休む事無く弾を吐き続け、蠢く死者、最後の一体の動きを止める。 ふと見上げれば、パイプオルガンが空を飛んで行く。非常識な光景に眉を顰め、一瞬銃口を向けかけるが、けれど其の無意味を悟り諦めた。 どうやって撃とうとも、パイプオルガンにしか当たらない。 エンツォは葬識の不意の質問にも答えたし、ロマネのエネミースキャンにも嫌がらなかった。 死者を動かすパイプオルガンは、エンツォ以上の死霊術師で、エンツォ以上のオルガン奏者でなければ使いこなせない。 エンツォが言う不死身の根拠は、霊の憑依と言う強力な自付により高められた能力故だ。 「Ciao」 彼は自分の行いの意味を果たして理解しているのだろうか。 後ろめたさを感じさせぬ親しげな笑みを残し、天使は飛び去る。 残されたのは、患者の名簿には三十ほど足りぬ死体の山と、マンホールから下水道へと続く、死者達が移動した痕跡のみ。 ケイオス・“コンダクター”・カントーリオが指揮する『混沌組曲』は此れからが本番なのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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