● 「きんろうかんしゃのひ?」 「はい。日本では毎年十一月二十三日は国民的休日なのですよ、マリアさん」 「知らなかったわよ」 「ええ……そ、それは失礼しました……。見てきてはどうですか? 普通の日ですけど」 「そうする!!」 本日は十一月二十三日です。 多くのリベリスタや、その関係者が同時進行で休日を過ごしています。 貴方は一体、何処で何をしているのでしょう。 午前中に恋人と会って、依頼に出かけるのでしょうか。 一日中、友達同士で剣を交えるのでしょうか。 リベリスタらしい、普通を逸脱したひと時を。 貴方らしい、普通の休日のひと時を。 心休まる、ひと時を。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年12月04日(火)23:01 |
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● 「立て万国の労働者! いや、今日ばかりは休め!!」 手を高くあげ、仁王立ち。だが、此処は自室。 いつも通りなベルガは、段々と香ってくる臭いを感じて唾液を飲む。 「この日の為にちょっと無理していいコメを買っておいたのだ……ふっふっふ」 そんなベルガの休日は新米を食べる休日。 「はじめちょろちょろなかぱっぱ、あかごがないても(ぐー)ふたとるなっ!」 赤子が泣く前に、腹が鳴くとは、なんて健康の証か。しかし空腹は最高の調味料と言えよう。 おかずさえ作らず、ベルガは白く染まった誘惑達が熟すのをひたすら待った。そういう、平和な休日。 最近は色々ありすぎた。冷たい風に当たりながら、レイラインは空を見上げていた。 バイデンもそう、そして好きだと言ってくれる殿方。そして。 「ラッキースケベ」 いや、違う。これは違う。 そこで突如、後ろから手が回された。 「レイライン、スケベなん? あ、そうそう最近俺の家に住みついた猫がなかなか懐いてくれなくてさー」 俊介がもふもふの可愛いあの猫に思いを馳せながら。 「にゃぐあっ、もう触ってるのじゃ!!」 その手クセの悪い腕は、レイラインの腰から下をすすっと、すすっと。 「だからさ、レイラインもふもふしにきちゃったんだぜ、有無は言わせないんだぜ」 「離すのじゃにゃぎゃああああ!!!」 尻尾は駄目だと言えば、尻尾に指が絡み。付け根は特に駄目だと言えば、付け根をなぞられ。BNEは全年齢だから健全だよ。大丈夫だよ。 「ふふー、仲が良いのですね」 「違うのじゃ! って、おお、杏里でないかえ、助けてほしいのじゃ」 「杏里ちゃんじゃん! 杏里ちゃん犬猫どっち好き? 俺杏里好き」 「リベリスタ好きですかね……」 次は俊介の腕は杏里を捕らえた。そのままくんくんくんくん。 俊介はさておき、レイラインは杏里の手を握り、いつもお疲れ様と労う。 「怖い物を見てしまったりもしてるはずなのに気丈に振舞ってて……ほんとに偉いのう」 「いえ、これでお役に立てれるのでしたら嬉しいですし」 「そうだ、お茶でも飲まないかえ?」 「ええ、ありがとうございます。いただきます」 「俺も行く行く」 「ちゅけちゅんは帰れなのじゃ」 「この色はちょっと顔色悪く見えますね……、じゃあこっちでしょうか?」 「顔色が悪いのは、元々です」 そうでしたっけと、嶺は目をぱちくり。 嶺は義衛郎と今年の冬を一緒に乗り越える服探しに、ショッピングモールに来ていた。 しばらく義衛郎の買う服をとっかえひっかえ、嶺は大忙し。 あれよ、これよ、と選んでみるものの、いつの間にかに立場逆転で嶺が今度は自分の服を着ては、彼に反応を求める。 「これとか、どうですか? クリスマスらしい赤色カラーで」 「ああ、似合うよ」 彼はいつも、反応が一緒だ。 それは彼が嶺は何着ても似合うと思っているからで。だが、嶺はそれを知らず。正直な反応が欲しいと思ってすれ違っていた。 「まあ……クリスマスの後を考えるとこれは駄目ですね」 「似合うと思いますけどね」 服を戻しに行く嶺の、寂しげな背中を見て義衛郎は大きく息を吐く。 自分の服のセンスはおそらく皆無に等しいだろう。それでも精一杯の感想を彼女のために。 戻ってきた嶺に、義衛郎は言う。 「さっき試着してたブラウンのコートの方が似合ってたと思う」 きょとんとした嶺は、先ほど来ていたコートを見て、柔らかい笑みが零れた。 「ふむ、ブラウンですか。髪の色と被らないですね」 嶺の背中が、足早にブラウンのコートへと向かっていく。 ● 「一旦休憩にしようか」 悠里の声に、カルナはこくんと頷き、タオルを差し出した。今日は公園にて、悠里はトレーニングであり、カルナはその見学をしに来ていた。 「どうぞ、悠里。お口に合うと良いのですけど……」 「……っ」 ろんり的には、疲れた体には補給が必要だ。 ぼんやりベンチに座り、汗を拭う中で、カルナから差し出されたのは蜂蜜レモン。 大変遠慮気味に笑う彼女の笑顔に対し、悠里の頬から汗が絶えず流れていく。 好きで、可愛く、愛おしく、何より大切に思う彼女だが、悠里はひとつの欠点を知っている。 (き、今日は……調味料、何いれたんだろう) EXスキル『余計な一手間』。良かれと思い、カルナは多種多彩なる調味料を少々入れ過ぎてしまう能力の持ち主なのだ! 迫る、彼女の手に持たれた楊枝の先の作品名:蜂蜜レモン。 「い、頂きます……!」 「? はい」 勿論、食べない訳にはいかなかった。覚悟せよ、きっと三秒後には。 『ぐうううっ!? お、おい、しっい、おいし、い……ふぇいとしよう』 という事態にはならなかった。 「…………美味しい」 本当に美味しかった。 拍子抜けしたものの、思い返せば貰ったお弁当とか美味しかった気がする。 そんな悠里の心を読んでか、カルナは頬を膨らませてそっぽを向いた。 「悠里は私の事を一体何だと思っているのか一度話し合わないといけないかもしれませんね……?」 「すいません……」 それにしても。 「スポーツドリンクを作っていたのですが、黒ゴスさんに止められてしまいました。 アレをいれれば、もっと美味しく、もっと元気になったのだと思ったのですが……」 (ありがとう、黒ゴスさん! 僕の命を救ってくれて……!!) 公園のベンチで一人。蒼司郎。 秋を感じさせずに、冬に来たような感覚を感じながら、日常ってなんだったか思いだそうと。 去年までは――いや、今年はその必要が無い。大切なものが……無いのだから。 もし、あの時もう少し早く運命が微笑んでくれれば、死ななくて済んだ命が沢山あった。 そうすれば、今のこの現状も、もう少し意味が出てきたかもしれな……。 これは少し感傷的過ぎたか。 ふっと笑った蒼司郎は、目の前に人の群れを見やる。こうして見ていれば、戦う理由とかが芽生える事を信じて。 ● 前世は兎。 ヘキサがビルの壁を器用に蹴り上げながら、上へ、上へと登っていく。 おっと、先で何かが飛んでいる。それなら袖振り合うも他生の縁というもの。 「よっす! いい空だな!」 「ひっ!? だ、誰よ」 いきなり地上から跳ねて来られたら、それはもう驚く。 マリアの横まで跳ねた所で、ビルの屋上にヘキサの足が着いた。一通り自己紹介した所で、靴を見せ。 「今日は気分がいいし一緒に走らねーか? へへっ、実は注文してたオーダーメイドシューズが届いたんだ!」 「そう。それは……良かったわね? 残念だけれど、マリアは飛ぶことしかできないわよ」 「いいよいいよ! 一緒に走ったらダチだぜ!」 乗っけからペースを取られ、マリアは困り顔。だが、友達という言葉にはなんだかとても響くものがあった。 「喉乾いたなら、これやるよ!」 ヘキサから渡されたのは、スポーツ飲料。けれど、どうみても蓋は開いている。 「飲みかけじゃない」 「あ、そうだった、まあ気にスンな!」 「……そう」 俯き気味、顔を真っ赤にしながらマリアは受け取った。 「はぁーここがさんこーぺー」 そう、これがこれから暮らす街。適当に歩いてでも、街のいろはを知っておくべきと、いりすは道を歩む。 そういえばアレのお気に入りが居ると聞いていた。アレとは、アレ。 ああ居た居た。頭上を飛ぶ、彼女。下から唐突に言葉を投げる。 「こんにちは。マリア御嬢さん。むしゃむしゃしていい?」 気づいたのか、マリアはヘキサと別れ、低空飛行でやってきてくれた。そのいりすの顔をじーっと見やり。 「……ああ、あなたもしかして。いや、むしゃむしゃは駄目よ!?」 「つい」 「つい、でもダメよ」 似てるなあと、マリアはアレを思い出す。さよならってまだ言われてないのに、先に往っちゃって。 はぁとため息ついたマリアに、いりすは一つのプレゼント。 「それは、また今度にするとして。ツナ缶あげるね。好きって聞いてたけど。お食べお食べ」 「……ぶっ、ふふ、あははは、それどこ情報よ」 「まあ、何はともあれこれからよろしくね」 「いいわよ、宜しくしてあげるわよ」 「マリア、ツナ缶と一緒にタルトはどうかな?」 「最悪の組み合わせね」 今度は雷音の下へと飛んでいく。 無邪気にタルトを口に運ぶマリアを見て、雷音の顔から笑みが零れるのは彼女が妹の様に愛らしいからなのだろう。 公園のベンチにて、マリアと一緒。甘い誘惑をお供に、他愛の無い話は続く。 「マリアにとって剣林はただの寝床に過ぎないわ。だってマリアの居場所はシンヤ様だったもの」 「うむ」 「でもアークは違うわ。マリアは安心して生きられる場所が欲しかったの」 それは何より堕天落しが証明している。このスキルは殺すためにできていない――死線直下を逃げ延びるためのもの。 生きるためならセイギノミカタだってやってやる。 所詮自分のため。そういう意味ではマリアはまだ、フィクサードと呼べるのかもしれない。 「世界のために自分を犠牲にできる。そんな奴らを敬意を込めてリベリスタと呼ぶわ。 貴女はどうかしら、ね? お姉ちゃん」 「……ありがとう、参考になったのだ」 「馬鹿ね、なる訳無いでしょう……ふぁ」 こてん。 今日も追われ、追いかけ、体力の無いマリアは昼寝の時間。膝の上に置かれた頭に、雷音は手をのせ撫でた。 「っくしゅん。む、風邪かな?」 「雷音……」 その頃、虎鐵は何処かへ出かけた娘を思って、寂しさを募らせていた。 (タルトを大事に持って出かけて行ったでござる。ま、まさ、まさか男に渡すのでござるか!? いや雷音に限ってそれはないでござぁ) そう考えながら、適当なご飯を済ませ、掃除に入り、息子と娘の部屋の前をスルー。 息子の部屋に入って、ベットの下とかゴミ箱の中身とかは見たくない。 娘の部屋はまだ虎鐵のレベルが足りなくて入れない。 そうこうしている内に、家計簿や常備薬の確認からお店の仕入までに手をつけ、そこで気づく。 「……ん? 待つでござる。拙者もしかして休んでないでござる?」 もはや主夫と化した男は後戻りできない。せめてここまでやるでござると手をつけて、結局最後までやること全て終わらせてしまうのだった。 ● 「さて! 色々一段落した中、皆無事に戻ってこれたことを祝して! 今日はパーッとやろう!」 風斗の声が、お店の中に響き渡る。 ケーキバイキングの店であり、周囲には甘い臭いと、その誘惑が漂う。 気を使われているのだろうかと、アンナは俯く。だが、こういう行動が気を使われる原因なのでは無いかと思い、自身の頬を両手で叩いて気合を入れ。 「ほ、本当にあるんだ……ケーキ食べ放題って……初体験」 「因みに、白石のセンスだ」 「イエーッス!! なかなか女子力、高いだろう!?」 誉めてくれても良いんだぞと、席を立った明奈。だが、すぐに横のうさぎの耳元に近づき。 「ねえねえ、千葉から戻ってきてからアンナと楠神の距離って近くない? アンナが妙にしおらしくてね……うさぎもそう思わん?」 できる限りの小さな声で耳打ち。 「では、皆の無事と、今後の明るい展望を願って……乾杯!」 そんな最中に、先導きって楠神のグラスは腕高く上がった。 因みにその間も無表情でショートケーキを頬張るうさぎ。そのまま平行に顔だけが楠神の方向へと動いた。 「ぎょうはんへはにははったっていうはへふへ、むひろほのもほほひひはいはへ」 口から破片がばらばらばら。 「ええい! 口の中のものを閉まってから喋ろ、うさぎぃ!!」 ダンっと、机にを叩きながら楠神はうさぎに言う。それでもうさぎは動じず、マイペースにごっくん。 「風斗さんはこんな風に先導切って催しの音頭を取る人でしたっけ? 違いますよね」 「待て、うさぎ、今日は頼むから際どいツッコミは遠慮してくれ」 明らかに普段とは違う行動とは、怪しいもので。ばればれの気遣いに、ばればれの元気の無さ。 「そんで、クロストンさんは風斗さんのそう言う優しさに気付かない訳がないわけで……そりゃしおらしくもなるでしょーよ」 でしょーよ、の、よを言い終わった瞬間にうさぎは今度はチョコレートのケーキを頬張る。なんというトリガーを引いたか、うさぎ。 そんなうさぎにフォークの先を突き立て、楠神はうさぎとアンナを交互に見やる。 「うさぎ! アホなこと言うな!!? 断じて元気になってほしいとか思ってないぞ!! いや! 違う!!」 その横で、明奈は両手を耳元にあてながら、頭をテーブルに叩きつけた。 「うわああああ真実なんか知りたくない!! うさぎはやるとは思ったけど、冷静に分析されたァー!!」 そのまた横で、アンナは挙動不審になりながら、楠神の方向をなるべく見ないように努力していた。 「……はぇっ!? 私!? しおらしいっていうかなんていうか。借り作ったしそんなに強く出れないのはそうだけど……」 すぐに体勢を立て直す明奈は、自身のフォークにささったタルトをアンナの顔前に迫らせた。寂しいような、妬ましいような、複雑な感情をかかながら、それでも友達だから。さあ、喰え。 「アンナオラー! 食えよケーキ腹いっぱい詰め込めよ! どうせ栄養は全部その胸に付くんだろうが! クソッこれが格差か!」 「や、やかましい! どこにつくったって体重は増えるのよ!」 アンナも負けじと、喰ってやるとそのフォークを奪い取り、明奈の皿の上のケーキを全て食べつくす。 ダンッと置かれた、ケーキバイキングの総額の書かれた恐ろしい紙。それは明奈の手によって、楠神の前に置かれた。 その意味は勿論。 「いや待て! なんで勘定、俺持ちなんだ!? ここは割り勘だろ!? な!?」 「大丈夫だ、楠神ならなんとかしてくれる! じゃ! ばいばーい☆」 足早に、明奈はケーキを頬張りながら去っていく。 「ふむう」 もぐもぐもぐもぐ。まるで何かのコントなのかと。いつもの三人を見ながらうさぎは、モンブランを飲み込んだ。 嵐の様な、四人である。 「た、食べ過ぎ……た」 後々、椅子から動けない状態のアンナと、けろりとしたうさぎと、勘定とにらめっこする楠神が残る。 楠神はアンナをちらりと一目。元気になっただろうかと、最後まで優しさを向けていた――。 「ふむ」 それをうさぎは見逃していなかった。 ● 美月は一人で街を散策していた。 お手製のマップ作成のために、やはり自分の足で歩くのが一番といったところか。 見つけたのは可愛いお店。 「駄目ですね……こういうお店を見つけたら衝動的に買ってしまいますもの」 ぐっと、理性で欲を抑えながら、マップに危険地帯と書き込む。 次にはカフェを見つけた。雰囲気良好、きっと美味しいのだろうと思って。 「いつか、友達と一緒にまた来たいな……」 そんな日が来るように、願って。 その横を車が通っていく。 「えーと、なになにまず初めは4丁目の阿部さん家んいプロテインと(ばきゅーん)」 危ないフレーズが出た所で、烏頭森は引かない。 今日は久々にコーポのお手伝いをしている最中なのだ。 「次は丘の上の怪しい黒服に白い粉を渡せ、そしてアタッシュケースを受け取り、中華街の来々軒で麻婆くってる男に渡せ、ね」 先ほどから依頼が怪しいのはツッコむべきなのだろうか、試されているのか。 「ラストはちくたくちくたく音がするトランクを駅のホームへと置け。まぁ色々と妖しいけどいいか、面白そうだしねー」 烏頭森自体気づいているというのに、散策しない辺り運び屋としてのルールを守っている……ということなのだろう。そういうことにしておこう。 「まさにアークの鏡ですね、私って。おや? テレビで何かニュースが……」 ザザッ……駅にて爆発物がザザッ…… うふふふふふふ。 怖い人である。 彼女を彼氏が部屋に呼ぶのは、少々如何わしい香り。 けれども、この二人からはそれは全くと言って良いほど感じられなかった。 「たまにゃこうして、のんびりするのもいいもんだな」 「こうやって、コタツに入ってのんびり遊ぶの夢だったの……!」 炬燵に足を入れ、向かい合って蜜柑の香りに包まれる二人――フツとあひる。 「蜜柑の白いのは剥くかい? 因みに俺は剥かない派だ!」 「そのままで大丈夫……!」 白い所にも栄養があるとか無いとか。 フツの手から、あひるの口へと蜜柑がひとつ運ばれた。 こうしていると、夫婦に成ったかのような錯覚に陥って、とっても幸せな気分。 あひるは両手を頬にあて、夢見心地で雰囲気に酔う。そんな彼女を見て、フツもつられてニコニコ顔。 ひとつ、ふたつ、と蜜柑が無くなる。みっつと、あひるが手を伸ばした瞬間――ちょこん。 「ぐわあ!!」 「ウヒヒ、今のビックリしたあひるの顔、すげえおもしろかったぜ」 フツの足が、あひるの足へ小さな攻撃。驚いた彼女は、半身を斜め四十五度に傾けながら、羽を千切れんばかりに伸ばした。 「いじわる、よくないっ!」 心臓が、胸から飛び出るかと思った。あひるはかっこ悪い声を出した自分に頭を抱える。 ただ――高鳴る鼓動は驚いたせいか、それとも愛しい彼の前だからか。それはあひるの紅潮した頬だけが知っている。 「クリスマスのプレゼント、何がいい?」 「プレゼントは……ペアカップ、とか……この部屋に、置いてくれる?」 フツは勿論と、よっつめの蜜柑を剥きながら、次は何個目の蜜柑で攻撃しようか考えていた。 「いじわる、めっ」 「ウヒヒ、読まれていたか」 ● 「マリアさん、良ければ一緒にケーキでもどうですか?」 「ケーキ! いいわよ、し、仕方なく、なんだからねっ」 飛びついてきたマリアに苦笑しながら、茉莉は喫茶店で午後を過ごす。 お代は茉莉持ち。マリアはきっと払わない確信がある気がして。 それでも目の前でマリアは美味しいとケーキを頬張っていた。それはふつうの子供の様。 「もし良かったら今度一緒に買い物に行きませんか?」 「ん……ええ、まぁ、いいけど」 きょとん。マリアは驚いていた。まさかそんなお誘いが来るだなんて。 一年前には、戦場で殺し合っていたというのに――。 「もちろん、他にご一緒したい方、お誘いしたい方がいればその方も。気が向きましたら是非」 「気なら向いたわ。いいわよ」 約束が、ひとつ。出来上がった。 いく所があると、マリアは茉莉の下を去る。 炬燵にまるまる付喪。 「寒いねぇ、寒い」 ついこの前まで暑くて大変だったが、冬は冬で寒いと言う。適温が一番だ。 こう極端に温度が変わると風邪を引いてしまいそうだ。 「まあ、風邪流行っているみたいだしね」 「おやマリアかい? よく来たねえ、まあ上がっていきな」 「ええ、ありがと」 同じく、向かい合わせでマリアは座る。炬燵の上の蜜柑に手を伸ばし、でも届かないので付喪に取ってもらう。 「あったかいねえ」 「そうねえ」 「ぬくもりっていうのは一番手軽に幸せを感じられるからね。手と手をつなぐだけでも体温って伝わるだろう?」 「……そうね」 蜜柑を頬張っていたが、マリアはすくっと立ち上がる。そこから回って、付喪の横にマリアは座った。 「これでいいの?」 「ふふ、そうだねぇ。人と人との触れ合いは、大切にすると良いよ」 何処か遠い目をした付喪に、マリアはそうね、と。また蜜柑を剥き始めるのだった。 ● ふと何気なく見つめた頭上は、今日も背中の蒼の如く。 そこに一点、違う色があるとすれば、それは金色に輝く髪を持った少女。 「ハローハッピーホリデーですマリアさん。ご機嫌いかがですか?」 「ぼちぼち、かしら。貴方はどうなのよ、亘」 にこり。笑った亘に、マリアはまた一人なの?といつもの一言。 「今日はマリアさんと過ごそうと思って、あえて一人なんです」 「……もうっ」 亘とマリアは地上に足を着ける。見に行ったのはあまり人気の感じられない、隠れスポット。 和菓子や小物、衣類に雑貨。 マリアの反応を見逃さなかった亘は、彼女が足を止めた先のものを見た。 「テディ」 「……ふんふん」 見つめていたのは、少し大きめのテディベア。亘は何も言わずに店内に入り、すぐに出てきた。 「はい、コレどうぞ。一緒に遊んだ、思い出という事で」 「……」 マリアの上半身を覆う程のテディは、いつかの彼女の呪われたアーティファクトを連想させる。 それでも、そのアーティファクトは宝物だった。だから、こそ。 「ありがとう、亘。宝物が増えたわ」 「いえいえ、どういたしまして」 今日は何処もお休み。 終の、親も今日はお休み。 「たまにはご馳走でも作らないとね~☆」 という事なので、食材の買い出し中である。今日もメニューは何にしようか考えながら、少し似合わない買い物カゴを引っ下げて。 寒くなってきたので汁物系か、それとも奮発してビーフシチューか。 「あっ、ビーフシチューならワインが良いよね☆ パパンとママンよろこ……」 ここで重要な事に。終は未だ未成年であった。 それはまずい。折角のパパンとママンへのワインが買えない。 「新田酒造に行けば、今グリューワインが飲めるわよ」 「あ、ほんと!? 新田酒造店に行かないと! 事情さえ言えば、あそこなら売ってくれるよね~! ん、あれ?」 後方に居たのは、大きなテディベアを抱えたマリアだった。 「それ堕天のテディ~?★」 「違うわよ、もらったの」 「だよねー☆ 寒いから風邪ひかないようにねー☆」 「はーい」 直後。 「ごきげんよう、マリア。今日はお空のお散歩かしら?」 空はいつも同じ色。 氷璃にとって、休日でさえいつもと変わらぬ平日のようなもの、つまり変わらないのだ。 けれど、今日だけは何時もと違う様。 「あ、こお……じゃなかったわね、お姉様」 それは青い空に、一点の金色の星を見つけたからか。 氷璃にとって、マリアとこうやって空で会える事、平和な日常こそが喜び。 「何処か行くの?」 「私? これから沙織の所へ行こうと思っていたけれど」 氷璃のその真理を、どれだけのリベリスタが知っているのだろうか――片手の指で足りるか。 「そう。じゃあ残念ねぇ、マリアは暇なのに」 ぷいっと違う方向を向き、飛んで行こうとするマリアの薄い服を、氷璃は掴む。 「折角だからマリアの新しいお洋服を見に行きましょう。今年は冷え込むらしいから毛皮のコートが良いかしら?」 ぱちくり。マリアはまんまるい目を見開いた。 「へえ、そんなに――なんだ」 「あら、何か言った?」 なんでも無いと、マリアは氷璃の背中を追う。 ねえ、マリア。 貴女が生きていてくれて本当に良かった。 ● レイチェル(スノウフィールド)と、レイ(チェル・ガーネット)は今日はお買い物。 「じー」 「ぶっ、何見てるのですか!?」 レイチェルに選んでもらった洋服を着ようと、レイは試着室の中。 だが、レイチェルは待ちきれずに、その試着室の中を覗き込む。勿論レイは驚いた、突然の覗きに驚き、毛が逆立つ。 仕方ない人だと思いつつ、上を見れば覗く穴には隙間ができる。これはまずい。 「隙間隙間!! 見えますって!」 「へぇ~可愛い下着はっけーん……わわっ」 レイはレイチェルの体を中に引きずり込む。覗き穴の隙間から、異性に下着を見られるよりかはマシと言うもの。 狭い部屋で二人。一畳も無いその部屋で、二人の人口密度は高い。 すると、唐突にレイチェルは服を脱ぎだした。 「折角だから、一緒に着替えよっか!」 「もう……仕方ないですnひゃ!!?」 レイチェルの、冷たい指がレイの背中で線を引く。そのまま大人しくその感覚に耐えていたものの、止まる気配無し。 成程。そういうことならこっちも黙ってはいられない。 「えへへ、いたずらしたくなっちゃってう、ゎひゃん!!? つめたっっ!!」 「宣戦布告と見なしましたからね!」 レイはレイチェルの首筋に、同じく冷たくなっている手を当てる。びくりと震えるレイチェルの体は、更に闘争心に火を点けた。 「やったなー!」 「そっちが先ですからねっ!」 しばらく狭い、閉じた試着室のカーテンの奥から、喘ぎ声が聞こえるという結果になった。が、気にしてはいけない。 何はともあれ、三着の服と、コートを勝ち取った二人は満足気と、少しの羞恥に彩られながら手を繋ぎ、抱きつくように寄り添う。 「さ、次はどこにいこっかー!」 「貴女が悪戯しない所がいいですね。そういえば……レイチェルって呼び捨てにしていいかな?」 「もちろんだよ! レイ!!」 ッバーン!! まるで襲撃でも来たのかと、火車がいつも通りになんだァ?と振り返った瞬間に、血相が変わった。 「みーやべのみやさん! お暇ですよね。私も暇なので遊びに行きましょうよー」 「えっ!? なっ! ちょ……と? 待てぇっ! なんだぁ!?」 突然の黎子の訪問。不意をつかれたか、火車の思考回路は回っているようで回っていない。 「説明を、説明をしろ!」 「専業がリベリスタなので、依頼が無い日って暇なんですよー。 だから、映画でもどうですか! なんと此処に男女ペア券がひとつ! あは!」 「俺だってリベリスタが専業だけど、毎日暇じゃねえ!! ……って今日は暇だったか」 「なら、行きましょうよー、むー」 おかしい、こんな説明を求められるはずでは無いと黎子は頭を掻く。 というのは昨日、火車にこうならないためのメールを送っておいたのだが。 例え火車がそれを確認していなくとも、無言は承諾したものと見なすという、用意周到な一文を添えて。 「そんなモン一切来てねぇんだが……?」 「そんな訳無いはずですよ、だって送信画面まで見たんですか……ら?」 黎子が動かぬ証拠を見せようと、自分の携帯を見たものの。見えた文字は『送信に失敗しました。』の文字。 おっと、なんたる不運。どうしてこうなった。 けれども、此処まで来たからには後には引けぬ。あと五分で映画は始まるというのに……。 「もー仕方ないですねー。じゃあお昼の上映にしましょう。買い物とかお昼付き合ってくださいね!」 「勝手に話進めてんじゃ……! ていうかメール送ってから今まで一度も携帯確認しなかったのか!?」 「しませんでした!」 「ああ、そうか!!」 勢いよく開いたままの玄関に向かって、黎子は火車の体を引きずる。 終始黎子のペースに乗せられていたが、これ以上決定権を握られているのも癪だ。 黎子の誘いを断る理由も無い今、火車は黎子の前に立ち、歩き出す。 「あ~ハイハイ解った解った! とりあえずオレは腹減った! 飯食うぞ!」 「奇遇ですね! 私もお腹が減りました! 朝から何も……」 「飯食わずに映画行くつもりだったのかよ!!」 「相席お邪魔しまーっす。混んでますねぇ」 「あ、ど、どーぞ! そうですね……」 美潮の前に、旭が席に腰をかけた。今日はやはり休日という事もあって、和喫茶はほぼ満席状態。 旭は店員に抹茶白玉パフェを頼んだ瞬間、くるりと顔を美潮へ向ける。 「今日はお買い物? 何買ったの?? わたしは勤労感謝のプレゼントなんだ! 家族みんな働いているからね! でもさ、男の人へのプレゼントって難しいね、何買ったら良いかわからないよ、女の子だもの! まあ? ネクタイとかハンカチとかにするけど、毎年同じはなんだか嫌だけど、ネタがなくなるのはさ……」 旭の弾丸トークに、美潮は固まった笑顔で聞いていた。付け入る隙さえ見せてくれないとは。 その間に髪の毛の色が雀の様だと違う所を見てみたり、美潮は美潮で旭を観察していた。 だが美潮は反撃に移る。少し会話が止まった所で、すぐさま言葉を挟んだ。 「ん、同じく、ネタ尽きちゃって……。結局今年は……あは、虎柄の、ハンカチ……?」 「虎柄かぁ! かっこいいよね!」 話題は続く。聞けば、学校は同じ学校であった。もしかしたら、何気ない時にすれ違っていた可能性もあるのだろう。 ここであったのも運命か。 「ねね、アドレス交換しよーよう。せっかく相席んなったんだもん、良かったらまた今度遊んでください」 みーちゃんセンパイ!と笑顔を向ける旭は、携帯の赤外線のボタンを押した。 「わ、わわ、みーちゃんセンパイって凄く嬉しいかも……」 「ほんと!? じゃあ今度はわたしにもあだ名つけてくださいね! そっちの方が仲良しに見えますし!」 「たちゅ……」 一緒に来れなかった彼の事を思いながら、木蓮はひとりぶらり旅。 一人で落ち込まずとも、また一緒にいられる機会なら明日でも作れると、自分で自分を励ましながら進む。 「とりあえず……衣服だな」 戦ったり、攻撃されたりで、服なんてすぐに破り切れる。数が無いと、すぐに無くなってしまうのだ。 ――しばらく一人で商品の品定め。とは言うものの、自分のはなんでもかんでもカゴに入れるが、恋人のものは選ぶ。 良い商品を見つけた、だがあちらのもと、結局は彼のために二つ買ってしまうのだ。 そこで、木蓮は面白いものを見つける。 「な……、モル柄の下着! これは買い……あ!? あっちはど、どりん柄!!?」 買うか、買うまいか。 大きく息を吸い、大きく息を吐いた。 「よし、買う」 結局、買うのだった。後々恋人の反応を気がかりにしながら、それでも反応が楽しみで。 司朗を深雪はお買い物の真っ最中。 男だからと司郎は張り切って深雪の荷物を持つ。そんな姿に苦笑しながら、深雪は司郎の後を着いて行く。 ふと、服屋に入っていった。 深雪は代わる代わるに服を着替え、それを司郎に見せては。 「おおー! 可愛いしかっこよくて、うん、どれも深雪ちゃんに似合っているよ! 写真に収めて保存したいくらいだよ!」 「な、なんだか反応が適当な気がしますが……っ!?」 とは言いつつも、本当に似合っているのは嘘では無い。 深雪一人で服を見に来ても、こういう反応はもらえないので良い機会と言った所なのだろう。 しばらくして深雪は司郎のためにネックレスをお揃いで買ってみる。 「これ、良かったら……」 「え、いいの?」 別に今日はデートというものでは無いのだが、こういう記念のグッズもあれば思い出となるだろう。 本当にデートでは無いのか、第三者視点からは気になるものである。 「うん。今日はありがとう、一応、楽しかった」 それからは一緒にご飯を食べに行く。けれど、やはりデートでは無いようで、あーんとか、そういうラブコメ要素は見当たらない。 「はい! こっちのお魚美味しいからあげる!」 「ありがとう。じゃあお肉あげるね」 おかずの交換くらいは、よくあること。 ● ガーと、タイヤがコンクリートを走る音だけが聞こえる。 話をせずとも、見ているだけで、一緒に居るだけで幸せ。今日はモノマがスケボーの練習に公園に行くと聞いたので、壱也はそれを見に来ていた。 「あれ、とまんねぇ」 「大丈夫ですか、先輩」 「んー問題無い、問題無い」 テレビの中でスケボーをやっていた男は、簡単そうに滑っているものの、いざやってみるとこれが難しい。 まず、片足を乗せた時点で変に体重をかけるとそれだけで進んでしまう所から始まり、止まり方が難しい。 「奥深いのですねぇ」 「壱也もやってみるか? ボードを貸すから乗ってみるといいぜ」 「え!? わたしがですか……じゃ、じゃあちょっとだけ」 渡されたモノマのスケボー。今度は壱也が乗ってみる。 足を乗せて、滑ってみる。蹴った足に力が篭ったからか、少々スピードが出過ぎた。 「止まる時は片足地面に着けて減速すると止まりやすいぞ」 「片足? え、えっ、とまっ、うわわっ……ひゃっ!」 公園に鈍い音が響いたのだった。 「大丈夫か、壱也?」 「いてて……尻餅ついちゃった」 腰から着地したものの、モノマの差し出した手に捕まってコンクリートから腰を離す壱也。 転んだはずみに、先輩のスケボーは何処へ行ったか。壱也は辺りを見回し、車輪が上になっている状態で転がっているそれを見つけた。 「スケボーは大丈夫ですかね、壊れてないですか?」 「それよりも、壱也だ」 「え、あっ、はい! 大丈夫ですよこれくらいならすぐに治りますからね!」 「ん。それなら良かったー」 壱也はありがとうございましたの言葉と一緒に、スケボーを拾ってモノマに返す。 それからは、ずっとモノマのスケボーのターン。ジャンプをしてみたり、ジャンプをしてみたり、ジャンプry。 ひゃっほう!とコツを掴んだのか、楽しそうにスケボーを操るモノマを見ながら、壱也はカメラでその姿をパシャリ。また一つ、思い出ができたそうな。 「今度鳥取にでも行くか、暇があれば」 しばらく暇は無いかもしれない。それでも。 ランディはひたすら単車のタイヤを回し続ける。何処か目的の場所がある訳でも無く、ただ道を行く。 一人で走らせていると、自分と向かい合えると言うもの。 「案外囚われてるもんだな、似合わねぇ」 自分へ滑稽だと、苦笑い一つ。 矢の様に吹き飛んでいく景色に目も暮れず、彼の脳内を過るのは数々の断片的記憶。 最近はジェノサイドされた種族。愛しい彼女とのハロウィン。目の前で往った――赤と黒。酸いも甘いも、混ざりに混ざってランディに積もる。 しばらく飛ばした所で、夕日の綺麗な峠で煙草を咥えた。はぁ、と吐いた息は少量のため息混じり。 「俺はどこかで諦めていたのかも知れんな」 今ほど、夕日が綺麗だと思えた時は無かったかもしれない。同じように赤い髪を撫でる風が、到来する冬を告げる。 そうだ、そのうち届けに行こう。桜の咲く、少し前に。 その頃には、何かが変わっているだろうか――。 ● 「あ、あの……竜一さん」 竜一に撫でられるマリアと、杏里。 「ちょっと、竜一」 自称お兄ちゃんの竜一は、二人を半ば強制的に引っ張ってきては服のコーディネートの最中である。 「なんでも買ってあげるからね! これは俺からの勤労感謝!」 「そ、そうですか……あの、ち、近い……」 「ちょっと!!もふんじゃないわよ!!抱きつくんじゃないわよぉお!」 ショッピングとはいえ、竜一は二人の傍を離れず、むしろくっついている。油断をすれば、もふもふ、ぎゅっぎゅ。竜一の愛が重い程だ。 「あっ、でもありがとうございます、素敵な服。嬉しいです」 「竜一にしては気が利くわね」 「でしょでしょ! お兄ちゃんになんでも任せなさいもふもふ」 そして相変わらずのもふもふと言う名の愛情表現は続く。 (だが……二人に近づく男は) 「潰す!! 二人に男はまだ早い! お兄さん許しませんよ!!」 「うるさいのよ」 突如黒いオーラを身に纏った竜一だが、マリアの堕天落しから沈黙を余儀なくされた。 「あ、杏里さん、マリアさん。ん? 竜一は石になったのか」 「こんにちは、新田さん。新しいお店ですか?」 たまたま通りかかった快が二人を呼び止め、手招きをする。 「やあ、こんにちは。新商品を考えてるんだけど、ちょっと試飲していってくれないかな?」 「はい、良いですけれど……?」 「竜一も来るかい?」 「……その前にブレイクフィアーが欲しいかな」 かくかくしかじか、新田酒店。 「グリューワインを作ろうと思ってね? 二人には是非感想をもらいたいんだ」 「グリューワインって、温めたワインでしょうか……? アルコールは……」 杏里はもしかしてお酒の試飲をするのかと半ばどきどきしながら着いて来たが、そんなことは無かった。 「あはは、これは本物に限りなく近づけたノンアルコールグリューワインなんだ」 つまり新田オリジナルの一品である。 ワイン用の葡萄をジュースとし、スパイスとオレンジを入れて鍋で温めたもの。 「ささ、飲んでみて。良かったら感想聞かせてよ。店に出すか決めるから」 杏里とマリアは手の中のカップを見つめてから、口にワインを運ぶ。 「えと……素人が言うので参考にならないでしょうが、葡萄の甘さと柑橘系の酸味って凄く合うなって思います」 「つまり、もう一杯頂戴ってことよ!!」 しまった……今日は休日やったわ。 と、気づいたものの、既に体は研究所。そこから有り余った午前の時間を使って、自らの組の事務所を掃除した組長――椿。 「なら、朝から呼んでくれちゃっても良かったのに」 「そうなんやけど……事務所の荒れ様を見たら掃除せんと……!って気になって仕方なかったんや」 マリアが、オムライスが食べたいと言うので来たのは近くの軽くお洒落なお店。 テーブル席で向かい合い、素足をぶらつかせるマリアと、失態に頭を抱えた椿。 「そういやマリアさん。午後は暇なん?」 「マリアはいつでも暇なのよ。午前は色々やってたわ。ぐりゅーわいんとか飲んだのよ」 「グリュ!? それ、アルコール違うん!?」 心配性ねえと、マリアはオムライスにフォークを突き立てる。 「因みに、研究所で食べる用だったお手製のお弁当もあるんやけど」 「それをなんで早く言わないのよぅ」 そっちの方が食べたかったと、フォークを齧るマリアに、椿は小さく笑った。 「お代は持つから心配せんでな」 「十一歳に支払わせる保護者は失格よ」 森の中。 「マリアさん、こんな所まで来るのですか」 「何よ九十九。来たら駄目なの? それでも来るわよ」 にしても似合わないと、マリアは呆れ顔。 「仮面に、フードで、キノコ狩りなの?」 「カレーの屋台はやっていますがね!」 見てみれば、屋台の看板は休業中の三文字。聞く所によれば、気分で閉める事もあるのだとか。 話は変わり、こんな場所までわざわざ来たのだから、良ければとカレーの一つでもご馳走しようと九十九は言う。 「……と思いましたが、食べ過ぎですねマリアさん」 「そうね、さっきからオムライスにお弁当にリンゴのタルト食べたわね」 得意気に話していても、苦しいと膨れたお腹は嘘をつけないようだ。 九十九が渡したのは、胃薬にコーヒーゼリー。 「有効活用してくださいね」 「今度はカレー食べに来るわね」 「マリア! ――こんにちわ、お散歩ですか?」 「悠月」 またふらふら飛んでいれば、悠月の声に止まったマリア。 飛んでいたマリアを見上げていた悠月だが、いざマリアが地上に降りるとその視点はかなり下がる。 「そういえば……普段は単独で活動しているのですか?」 アークに所属するなら、依頼で見かけても良いはずだろう。だが、それが無い。 「そうねぇ、悠月にだけ教えてあげようかしら。 依頼なら、沙織が駄目っていうのよ。まあ元シンヤ様精鋭なら仕方無いのかしらね?」 未だに残る様の文字が、裏切りの予兆を過らせるか?大丈夫よと、笑うマリアの真意はいざ知れず。 それでも――。 「何時か、今度は味方として共に立ってみたい所ですが」 ……何はともあれ。 「元気そうで良かった。無理はしないでくださいね」 「ふん、嬉しくなんか無いわよっ」 顔を真っ赤にしたマリアが、足早に悠月の横を駆けて行った。 「よー、マリアのジョーちゃん。久しぶりだな」 「ええ、お久しぶり」 少々警戒されているか。だが瀬恋は両手に買い物しましたと言わんばかりの丸丸太ったビニール袋装備。 瀬恋が歩き出せば、自ずとマリアは着いて来た。 「そういや、ジョーちゃん。アンタアークにきてもうちょいで一年だけどさ。歳とったの? 誕生日っていつなのさ」 「多分十一歳。誕生日は知らないのよ」 知らないのに十一歳なのかと、瀬恋は疑問に思いつつ道を歩む。投げた問には、同じ問いがオウム返しされ。 「アタシ…? アタシは」 とても小さな声で。 「3月3日だよ……」 「へえ」 瀬恋は笑われると思ったが、マリアはそうでもない。おそらくマリアは三月三日がなんの日か知らないのだろう。 そうこうしている内に、瀬恋は自分の家の前で立ち止まる。 「まー、暇だったら適当に遊びに来るといいよ。メシぐらいは食わしてやる。金払うなら」 「年下なんだから、奢りなさいよね! まあ、解ったわ」 扉の向こうに消える前に、瀬恋はひとつ、林檎をマリアに投げた。 「それはサービスしてやるよ」 「ふふ、そう。それは……ありがと」 少しは心を許してくれたのだろう。 ● 「最近はすっかりと寒くなってきたな」 「風邪も流行っていらっしゃいます。ウラジミールさんもお気をつけて」 クラシカルなカフェで、ケーキとコーヒーを挟んでウラジミールと杏里はゆったりとした時間を過ごす。 「視たくないモノも多いだろうに、牧野嬢は頑張っているな」 「ありがとうございます。リベリスタさんにお仕えするのが、杏里のお仕事なので……」 会話は途切れる事無く、かと言って弾丸的な会話では無く、ゆったり、ゆったり。 「あ、あの……ウラジミールさんって自炊とか……しますか?」 「寒くなってきたので日本の鍋料理を作っているよ」 「あっ! お部屋とかも温まりますし、良いですよね。杏里は料理は苦手で……」 「野菜を切って、鍋に入れるだけで簡単だ。苦手と言わず、やってみると良い」 「……はい」 にこり、杏里が笑った所でウラジミールがカフェの大きな窓の外を見やる。 「どうやら、牧野嬢をお呼び出そうだ。お茶代は気にせず、行くと良い」 「あっ、いえ、お支払しますよ!」 「若い者は遠慮することはない」 「まきのーん! ゲーセン行くんだけど一緒にどうだー?」 「私なんかで良ければ……!」 「む、先客が居たか?」 「あっ、いえ、ウラジミールさんは行ってこいとのことです」 杏里を加え、ツァインと優希はゲームセンターへと向かった。 カジノ等は行った事があるが、身近なゲームセンターには二人で行ったことが無いのはなんとも意外だ。 「と、言う訳でまずはガンシューティングだ!!」 ツァインが銃型のリモコンを片手で握る。最大二人で遊ぶものなので、杏里は横から画面を見つめる。 スターサジタリー顔負けの銃撃戦。比較的ツァインが得意な様だ。 「出てくるんだろ!! 上から出てく、ぎゃああ優希そっちだあああ!!」 「上と思わせて横から来るとは、卑怯な。ん? 杏里、目なんか瞑って大丈夫か?」 「は、はい、予知してゾンビさんがどこから出てくるかお伝えできればと……」 「「すげえな」」 次には音ゲーをしてみたものの、此方は優希の方がセンスがあるようだ。 落ちてくるカラフルな丸が下にある棒線に接した所で同じ色のボタンを押すが、ツァインの方は棒から落ちる落ちる。 最終的には、クレーンキャッチャーだ。 「ツァイン頑張れ。クレーンゲームで何か釣るがいい」 「おう! 何回でもやってやる! 我が手には『無限の再製』があるのだからッ!」 「言っておくが、俺の財布から出したお金は利子付で貸しだ」 「馬鹿なッ!?」 そんな二人を見ながら、杏里はくすくす笑っていた。 杏里に人形でも取ってやろうと奮闘するツァインだが、なかなか釣れず。 優希がジュースを買って帰ってくれば、気の利いた店員さんが取りやすい位置に人形を動かしてくれていた。 しばらくして、杏里は行く所があるとゲーセンを後にした。そんな彼女を送り出しながら、まだあと一勝負。 勝つか、負けるか、格闘ゲームである。 「俺が勝つまで付き合ってもらうぞツァイン。我が手には『無限の再製』があるからな!」 「あ、こらっ! ずりーぞ、優希!!」 三高平駅、駅前には人だかりができていた。 「なんの人の群れはだろ?」 「ああ、あの黄昏サイネさんの握手会だってよ!!」 「本当!?」 「あ、名前聞いたことある! いかないと!!」 「写真撮っていいですか!」 「ああ、ポーズはこれでいいかい?」 「あの! もう握手した右手洗いません!!」 「それは駄目だね。きちんと洗った方が良い」 黄昏サイネ――こと、逢坂 彩音の握手会が行われていた。 某アニメの主役に抜擢されてから、うなぎ登りの様な人気ぶりで、一躍時の人状態。 今日も今日とて、休みであってもファンのために笑顔を作る。 裏の顔は世界のために戦う、一人のリベリスタ。そんな彼女は集まった人々を一人一人見やりながら、人間観察に勤しむ。 「あの……握手」 「杏里君も来たのかい?」 「ファンですから……」 ● 普通の休日。具体的には何をすればいいのだろう。 コーディはひたすら一人で考える。それで時は地味に過ぎていく。 まず、趣味が無い、ぼーっとするくらいしかできない。休めと言われても、もう休んでいる。 以前まで、何をしていたのだろうか。 そもそも、ふつうの休日のふつうってなんなのだろうか。普通じゃない休日ってなんなのか逆に聞きたい。 「土日がふつうだとすると、祝日はふつうじゃないのか!?」 そこまで思考が達したものの、今行うのは三高平ウォッチング。 目の前は人の群れである、大通り。これさえ眺めていれば、何か見つけられるのでは無いかと信じて、あんぱん片手に。 一時間、三時間、六時間、十二時間……。 そこまでしてコーディの達した結論は、『判らない』。 だが、石化された男や、ゲーセンに向かう男子。買い物しながら少女を連れる女子。 さまざまな人が居た。 こうやって時間は流れていくのだろう。きっとこの感情は――。 「楽しかった」 だから、これで良かったのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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