●或る男の視点 秋も深まり紅葉の季節ともなれば何処か胸が騒ぐものでございます。 日々、気温も下がり街も人も風景も冬篭りの準備を始めると共に、やはり際立つのは生命力に溢れた子供達の元気に駆け回るその声ではございませんか。 大人が大人になる過程で忘れてしまった秋を彼等はきっと知っている。 野生の動物程、冬を恐れない彼等はこの過ごし易く少し寂しい短い時間をきっと誰よりも謳歌しているのでございます。 小さい秋。 小さい秋。 ならば、身共も探しましょう。 なれば、身共も見つけましょう。 ――小さい秋、見ぃつけた! ●討伐依頼 「いやぁ、言うなら此の世は『ロクデナシの見本市』ってトコですかねぇ?」 ブリーフィングに現われたリベリスタを『塔の魔女』アシュレイ・ヘーゼル・ブラックモア(nBNE001000)は言葉とは裏腹な明るく朗らかな笑顔を浮かべて出迎えた。 「故に皆さんの商売も、私の商売も安泰……という訳でして。 あはは、すっかり私もリベリスタ家業が板についてきましたね!」 「無駄口はいいから状況を説明しろよ」 軽口を叩くアシュレイを軽く制したリベリスタは苦笑い交じりに彼女の先を促した。 「……つれないですねぇ。事件は簡単ですよ、良くあるフィクサード事件ですから」 「『良くあっちゃ』いけないモンだとも思うがな。 ついでに言うなら、お前の伝える『良くある事件』は大抵の場合、芳しくないし」 「……ま、オードソックスはオーソドックスです。 でも、事件を多少血生臭くする脚色は否めませんね。 今回、皆さんに対応して貰うのは『紅葉狩り』に精を出す風流な変態さんです」 「……風流な変態って……」 思わず絶句するリベリスタの一方で魔女は鈴の転がるような声で笑っている。 「主犯の久留米貴一様は皆さんが大好きな『黄泉ヶ辻』の所属。 リーダーの彼を含めてグループは七人程。とある公園を強襲します。 この国では良く子供の小さな掌を『紅葉のような』何て称しますよね。 ……そろそろ、想像とかついてきません?」 苦虫を噛み潰したような顔をしたリベリスタにアシュレイは頷いた。 「貴一様一派は『小さな秋』を愛好しているので、主なターゲットは『低学年の児童』になります。タイミング的には先行するのはあちらなので、皆さんには追いかけて突入して――これを阻止して貰う形になるかと。 被害がどうなるかは……カミサマの思し召し次第でしょうかねぇ」 魔女は「私、信じてませんけど」と付け足した。 「何れにせよ、黄泉ヶ辻だ」 「ええ、皆さんの見過ごすような事件じゃありません。 子供は国の宝ですからね。悪趣味な『児童愛好者』はやっつけちゃって下さいな!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:YAMIDEITEI | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年11月17日(土)23:13 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●秋を求めた男I 「此処は極めて危険です、すぐに逃げなさい、公園の外、貴方達の両親の所まで」 転んだ子供に手を差し伸べ、美しい少女のような騎士が言った。 「小さい秋を探して血塗れ猟奇か。フィクサードの思考は極端だ――いえ、極端な者が目立つだけなのでしょうが」 午後の公園を駆けるのはこの『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)を始めとしたリベリスタ達の一団であった。 「第一、黄泉ヶ辻のフィクサード何て理解出来る筈が無いんだよ」 「黄泉ヶ辻のフィクサードは本当に趣味が悪いのです…… 美学主義、完璧主義を活性するならさおりんのようになってから語ってほしいのです。とても気に入らないのです」 「ああ、まあ、黄泉ヶ辻ですね。ならばやることは一つだ。迷う理由さえ無い」 「……違いないわ」 『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)、『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)、ユーキ・R・ブランド(BNE003416)の言葉に短く相槌を打ったのは『ネメシスの熾火』高原 恵梨香(BNE000234)だった。彼女の大きな赤い瞳は神秘の揺らめきを帯びている。千里を見渡す魔眼は広い公園のそこかしこに散らばった『悲劇の種』を見落とすまいと自身等の敵を懸命に捜索していた。 「……公園東口のポイントに一人。北口のと合わせて、二人。残りは――」 「――もう一人、見つけました!」 「奇遇ね。私の式神も今一人見つけた所だわ」 アクセスファンタズムに声を送る彼女に応えるのは通信の先で同じく目を皿にする『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)であり、恵梨香の傍らで低空を滑るように飛ぶ『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)であった。 「紅葉狩りは四季の移ろいを見て楽しむものだけれど。黄泉ヶ辻(ヘンタイ)に常識を求めるのは狂気の沙汰ね」 「子供が好きなだけやったら別にええんやけどねぇ。 しかし、一方的に傷つけるんはあかんなぁ。お互いに傷つけあってこそ愛やろう?」 薄く可憐な唇にまるで『凍りつきそうな』程の冷笑を浮かべる氷璃の一方で呆れたように言うのは『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)だ。 (わし自身も一般的に認められん恋をすることもあるしな。 だが、今日は子供たちの代わりにわしがお前を傷つけてあげるぜよ。 ……子供達はこれ以上――こんな世界、知らんほうがええしな) 『子供が好きだからその小さな手を紅葉に見立てて狩ろう』等という連中を見過ごせる筈も無い。何れにせよ変わらないと言ってしまえばそれまでだが、彼等の場合『殺したい程好き』――で止まらない。間違いなく『好きだからこそ殺す』のだ。 下劣な欲望を最悪の形で満たそうという連中に怒りを感じぬ正義の味方も中々居まい。 「全く、とんでもないヤツも居たもんだよっ!」 大きな体をゆさゆさと揺すりながら走る『三高平の肝っ玉母さん』丸田 富子(BNE001946)はその穏やかで福々しい面立ちに珍しくハッキリとした非難の色を浮かべ、力強く声を張っていた。 広い公園に散った黄泉ヶ辻のフィクサード達――久留米貴一と彼の一派六人の『同好の士』はリベリスタの急行に僅か先んじてこの場に辿り着いたのだ。辺りに煙る血の臭いと、粟立った混乱の空気はまさに事態の状況を告げていた。リベリスタ達は逃げ惑う人の姿を逆行するように『その根源』を目指している。 「……おや」 ――果たして。 駆けるリベリスタ達はやがて一人の男をその視界に捕らえていた。 彼の目の前には最早動かなくなった小さな人影が一つ。その手に『持つ』のは小さな掌。 「お楽しみ中悪いけど、リベリスタの合いの手は如何?」 嘯いた俊介に視線が這う。穏やかで紳士的にも見える久留米貴一のその外見は強烈なまでの違和感でその第一印象を覆している。 「生憎、子供の手から入日色なんぞ見たくないんだよ。そんな色は俺の瞳の色と紅葉だけで十分だ」 日頃は『軽い』俊介の口調に敵意が篭る。 「――下衆。虫唾が走るわ」 幼な気な自分に向いた視線に吐き捨てる。『私を熱っぽく見ていい』のは誰かさんだけ、そう言わんばかりの氷璃が吐き捨てるかのように呟いた。 「何処までも純粋で一途だからこそ狂人は狂人足り得る。 虫に食われた果実が新たな実りに害を及ぼすその前に。一人残らず刈り取って、残らず間引いてしまいましょう」 鋭敏な彼女は彼が告げるよりも先に『察して』しまったのだ。 「些か『とう』が立っているのは否めませんが、これも『小さい秋』には違いありますまい。 成る程、リベリスタを狩るのも又――一興という事でございましょう」 「余裕じゃない……」 まるで瘧にでも襲われたかのように寒気に背筋を震わせて恵梨香が低く唸りを上げた。 (いつもと同じ。これは任務。任務なのよ。 任務に犠牲はやむを得ない。ただ冷静に確実に任務を遂行する……それが一番大事。分かっている) でも。 赤い瞳の中に揺れる復讐の炎は目の前に転がる『少女の残骸』を見てしまったその時から『何時も以上に燃え上がっていた』。 戦いを前に平静を欠く事の愚かさを理解しながら、意識しながらも。漣に乱れる少女の湖面は歪んだ像を映し出す。 『目の前で家族を失った遠い日に、彼女は泣く他の術を持たぬ無力な少女に過ぎなかったのだから』。 「とんでもございません」 しかし、貴一の答えは恵梨香の言葉を否定するものになった。 「アークの御高名なリベリスタ皆々様、向こうに回して無事に済むという事も無いかと存じます。 さりとて、私はこの機会を暗澹と見てはいないという、それだけなのでございます――」 俊介、そあら、富子といった厚い回復支援に十分な抑え役、そしてアタッカー。 確かに黄泉ヶ辻の準幹部とされる貴一を前にリベリスタの陣容は完全である。 さりとて、狂人には狂人の世界があるという事なのだろう。 この久留米貴一という男は――八人の敵を集めたこの戦いの圧倒的不利を承知の上で微笑(わら)っているのだ。 「言っておきますが、逃がす心算はありませんよ。 貴方は黄泉ヶ辻だ。それで殺す理由は十分ですのでね。 黄泉ヶ辻に属した事を後悔する位、心底呪う位に徹底的に殲滅します。 ああ、ところで。京介さんへの土産に持って行くなら、貴方の指と耳、どちらが良いと思いますか?」 ユーキの言葉はいよいよ穏やかなものではなくなった。自身の後ろに恐怖の象徴たる首領を見る敵を貴一はどう見たのか――それは全く知れないが。 「尽きぬ興味は秋を愛でる事で語りましょう」 「是非も無い。フィクサード、私は断固として貴公の愛を否定する」 アラストールの祈りの剣が涼やかに抜き放たれた。 その一方で貴一が両手に備えた刃はぎらりと野蛮に輝く。晩秋の陽を跳ね返したそれは生々しい血の赤に濡れていた―― ●秋を求めた彼等 ――元来、英雄と狂人は紙一重。 例えばあの『串刺し公』ヴラド・ツェペシュのように。 例えば『鮮血の伯爵夫人』エリーザベト・バートリのように。 其の在り様は物語の都合と語り部により常に姿を変え続ける。 何が正常で何が異常か等、私は語る術を持たない。 宜しい。ならば私は私の在り様を夜闇の帳に潜み、鮮血の湖に佇もう。 この咎人の世界に罪無き者が迷い込まぬように―― ――『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497) ……昼の公園を『狩場』に定めたのは貴一だけでは無い。 十四人の内――貴一に対応する事を決めた八人を除いた残る六人のリベリスタ達も自身の活動を開始していた。 血の臭いは特に鼻につく。 「悪いんだけどさ。僕の場合、君等に余り興味がある訳じゃないんだよな」 闘争を求め、喰らい咀嚼する事を夢見る――『人間失格』紅涙・りりす(BNE001018)には実に鋭敏なる嗅覚が備わっている。 りりすは指示されるまでも無く敵を見つけた。 怒涛の如きスピードと、正確無比な技量と、間違いない一級品と呼べる身のこなし。 リッパーズエッジと無銘の太刀が描き出す獰猛な軌跡はまさに格別と称して相応しい。 その技の冴えは冷め切った心とは裏腹に『興味が無い』相手を簡単に圧倒する。 「君んトコの親分のさ。妹さん居るじゃん? 糾未君だっけ。紹介してよ。 彼女は、僕にとっての『例外』だ。喰いたいな。喰いたいね。喰いたいよ。 あぁ、つい、お仕事忘れる所だった。如何にも面倒だけど。でーと資金は、かせがにゃな――」 向かってきたフィクサードの一撃を軽くいなして、返す刀で吹き飛ばす。 暴力めいたりりすは後退するフィクサードを更に追いすがり一撃を見舞った。 「其処のあなた、申し訳すらありませんが止めさせて貰いますね」 別の場所では『大雪崩霧姫』鈴宮・慧架(BNE000666)が首尾良く一人の敵を捕まえていた。 「ええい、育ち過ぎたお前に用は無い!」 「……聞こえない、聞こえない、と」 反応を幾らか予測していたのか何なのか――敵の声に構わない慧架である。 自身が思い描いた通り――幸運にも彼女の相手は覇界闘士であった。「何となく相手をするのは気楽です」とは彼女の言だが、理由の方は必ずしもフィーリングばかりには留まるまい。彼女程の使い手ならばその辺りのフィクサードに早々引けを取る事は無いのである。実力で上回っているならば同じ手札は『完封』に到る道筋になろう。 「くそ――!」 悪態と共に繰り出された武技を流水か柳の如く慧架の細い腕が受け流した。 しなやかな足は軽やかにステップを踏み込み、懐に肉薄した彼女は瞬時に敵の天地を引っ繰り返す。 「天地無用、何ちゃって」 「児童愛好者で更に掌を、て最悪の変態だな。 ――ったく、ま、子どもをやらせるわけにはいかないじゃん?」 同じ頃、言語道断な欲望を隠しもしないその男に敢えて軽く言って挑みかかったのは『chalybs』神城・涼(BNE001343)その人である。フィクサードが視線をやった少年を庇うように間合いに飛び込んだ彼は仁義を知らぬ敵だからこそ仁義の拳で叩きのめす。 アクセスファンタズムによる通信を利用し情報を共有し、リベリスタ達に指示を送る舞姫等の動きは奏功し、リベリスタ達はめいめいに自身の相手を求め、戦いと阻止を開始している。 「子供の手を紅葉に見立てて斬ってしまうなんて、酷い事をする人達ですね。 子供には、色々な未来の可能性が詰まっているのに……それを奪うような真似は、許せませんね!」 何処まで本気か糸のように細めた目は何時ものままである。 或る意味で喜怒哀楽が抜け落ちてでもいるかのように張り付けたような笑顔を崩さないままで山田 茅根(BNE002977)が言った。 「子供がどんな将来を送るのかを見届けるのは、私みたいな老人の数少ない楽しみの一つなんですから」 引き付けた敵デュランダルの一撃を何とか受け止め、言葉を付け足した茅根は実に鮮やかな『予想外』とも呼べる一撃を深く敵に見舞っていた。 戦闘は激しさを増しながら続いていた。 「『風流』を理解しない連中め!」 「貴方達は、綺麗な花を見たら摘んでしまう人達なんですね。 花瓶に入れて飾ったり、押し花にして保存してみたり……集めた秋は置いて行って貰いましょうか。 繋げば、まだ間に合うかも知れませんしね」 応酬する言葉もやり取りも徐々に剣呑の色を強めていく。 黄泉ヶ辻なる狂人とまともにやり合える彼が――実の娘に命を狙われる『罪』を抱いた彼が常識の内の人物かはさて置いて。 「帰りなさい。この先は善悪の彼岸です。貴方は“此方”に来てはなりませんよ」 魔人めいたアーデルハイトも又、転んで泣きじゃくる子供を守るように戦いを続ける一人であった。 理想的なペースで逃れさせる事が出来るならば事態も早々好転しよう。されど、恐怖恐慌に染まる子供にそれを期待する事は難しく、これは広い公園に点在する禍の種をそれぞれ枯らさねばならぬ局面である。例えばこの場を逃れても、逃れた先にフィクサードが居るという事も容易に有り得る事実である。 「――――!」 敵クリミナルスタアの姿がアーデルハイトの視界より掻き消えた。 瞬時に後背を奪った気配を見やる事も無く、咄嗟に彼女は首を捻るが――赤い線は宙にその軌跡を描く。 蒼白な程に白いその肌に鮮やかな赤のコントラストが噴き出るその様はまるでモノクロの世界に花が咲いたが如くであった。 (面倒な……! 自身の強味を理解しているという訳か) アーデルハイトとフィクサード、純実力的な比較をすれば或いは彼女が優位なのやも知れない。 しかし、前衛である敵と後衛である彼女を直接的に戦闘させた時、状況は微妙な所である。増してや彼女に『守らねばならぬ相手』が居て、『注意をそちらにも奪われる』なら尚更の事であろう。 (こんな事、許されない――) フリーの敵に斬りかかるこの舞姫も含めて状況を楽観する者は居なかった。 例えアークの精強なるリベリスタと言えども、一対一は一対一でしかないのだから。 ●秋を求めた男II 「カミサマなんて居ない。だけどアークのリベリスタは確かにここに居る。 自分をセイギノミカタだなんて言えたものではないけれど――」 恵梨香のハイ・グリモアールが魔力の奔流を破滅を帯びた奇跡に変える。 「――こんな不快な集団をのさばらせる事だけは許せない」 地獄の炎が空気を焦がす。 「覚悟せえや! わしのパンツァーはちぃと痛いで!?」 一声吠えた仁太の火砲が苛烈な一撃を叩き込む。 「おお、命中やな。さあ、次いくで――!」 回り込んで死角より一撃を突き刺した彼の『小憎い』細工に貴一の表情が大きく歪んだ。 「完璧と美学主義者のその愛情(げんざい)、私に見せて頂戴な!」 氷璃の周囲の空気が冷える。生み出された氷柱の如き矢が次々と地面に突き刺さる。 呪いを帯びたその氷柱を横に飛び込み、回転する事で避けた貴一だったが既に彼は傷付き消耗を隠せなくなっていた。 戦いは一方的なものになっていたのだ。黄泉ヶ辻の準幹部とされる貴一は確かに戦闘的にリベリスタ達より優れていたが、その貴一と言えど、精鋭をこれでもかと束ねてぶつけられた状況は多勢に無勢だったという事である。 超人的とも言える直感と身のこなしでリベリスタに対抗しても如何せん手数ばかりはどうしようもない。 「アンタ達っ! さぁ思いっきり攻撃してやんなっ!」 富子の一声にリベリスタ達の士気が上がる。 「成る程、確かにこれば厳しい日なのでございましょう」 だが、不利にも戦意を萎えさせない貴一はバネのように膂力を爆発させて幾度目かリベリスタ達を強襲しかかった。 俊介、そあら、富子等の支援の前に弾幕では倒し切れないと悟ったか、貴一が頼んだのは一撃必殺である。 大小二枚の刃が織り成す『カッティングエッジ』は個を破壊するに適した彼の切り札だ。 間合いに乱舞する邪道なる刃の軌道は見切ろうと思って見切れるものではない。 「――だが、止める――!」 さりとて、これに対応する形で前に出たアラストールは祈りの鞘を従えて痛みの斬劇をその身で受け止める事で食い止めた。 クロスイージスの重装甲もそれを縫うように繰り出される必殺性を帯びた一撃の前には無力そのものだ。続け様に繰り出された刃は見事なまでに連なり、次々と彼女を切り裂いた。だが、膝を崩しかけた彼女はそれでもその場に立ち続ける。 「止める――!」 再び吐き出された強い気は蒼く運命を燃やした彼女の矜持それそのもの。 「なんのためのアーク最高神秘力の回復師か! 舐めんなや!」 同様に、ここが自分の見せ場と力を振るう俊介の存在があれば、いよいよ貴一は追い詰められる結果になる。 「逃がさないと言ったでしょう?」 「……全く失敗にございましょう。まさかこれだけの戦力が『ここに』集まるとは……」 狂人とて、自身の最期には思う所もあるのだろう。ユーキのスケフィントンの娘(ごうもんぐ)に囚われればくぐもった声を上げた貴一とて覚悟を決めたのか流石に痛恨の声を漏らす。傷付いた彼は集中攻撃より逃れる術を持たない。当初より彼を逃す心算も無いリベリスタ達なのだから――『それだけの数を集中させたのだから』それが叶う訳は無い。 されど…… 「これは私への過大評価。そして御身、状況への過小評価でございましょうな。 耳を澄ませば聞こえましょう。鼻を動かせば匂うではございませんか。 小さい秋、小さい秋、小さい秋見つけた……」 今日の任務は被害を食い止める事を求めていた。 ならば貴一を圧倒するにこの戦力編成は確かでも、『同様の行動を起こそうとする多数の戦力をたかが一枚の抑えに任せたのは』リベリスタ達の軽挙である。例えば敵が攻撃をばら撒いたならば被害は外にも漏れるのだ。その場から逃げ出した誰かが次の災厄に遭わないとも限らないのだ。可能性への対処が余りに甘すぎたのは明白だ。敵に気を取られ、編成を誤った事は間違いない。 「小さい秋、小さい秋……」 「――黙りなさい」 ユーキのナイフが貴一の額に突き立った。 ――小さい秋、見ぃつけた―― 最後に零れた調べは平穏を失った公園の呪い歌。 フィクサードの大半は死に、幾らかは逃れた。リベリスタの仕事が万全を示さなかった事は確かであった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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